著者
谷川 広樹 土山 和大 山田 純也 大高 洋平
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.135-142, 2021-02-18 (Released:2021-04-14)
参考文献数
19
被引用文献数
3

観察による歩行分析は全体像が捉えやすくパターン認識に優れ,簡便で低コストである.また即時性に優れ,場所や条件を選ばない評価が可能である.観察による関節角度判定や時間因子判定は正確性に欠けるが,異常歩行パターンを同定・分類し,重症度の相対評価としては有用である.定性的評価と定期的な定量的歩行分析を併用することで,臨床に役立つ歩行分析ができると考える.精度の高い定性的歩行分析をするためには,正常歩行を理解し,ビデオカメラを活用するなどの工夫をするとともに,観察による歩行分析結果と定量的な歩行分析結果を照合させる,歩行障害の典型例の動画を観察することが有効な方法である.
著者
小倉 久幸 久保 峰鳴 武内 孝太郎
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.159-165, 2021-02-18 (Released:2021-04-14)
参考文献数
7

脳卒中後片麻痺患者の歩行機能の改善はリハビリテーション治療の重要な目標の1つであり,歩行評価に基づいた治療や訓練を展開する必要がある.しかし,観察による歩行分析は評価者の経験などによる評価のばらつきがあるために客観的指標が求められる.麻痺側立脚期の矢状面における膝関節制御に影響する床反力作用線のモーメントアームを,傾きによる成分と足圧中心と膝関節軸との距離による成分に分けて考えることにより,膝関節制御の面から短下肢装具の効果を明確化し,歩行訓練の治療戦略を具体化することができる.今後,客観的な評価方法によって片麻痺歩行を類型化し,適切な治療方法を導くシステムの確立が望まれる.
著者
橋本 学
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.283-288, 2017-04-18 (Released:2017-06-16)
参考文献数
10
被引用文献数
2

改正障害者雇用促進法により2018年4月から精神障害者も法定雇用率算定式に加えられることになり,精神障害者雇用義務化が行われることになった.精神障害者の就労については従来の職業リハビリテーションの「保護的環境で職業訓練してから就労する(train-then-place)」方法では訓練内容が汎化せず,「早く就労の現場に出て仕事に慣れながら訓練する(place-then-train)」方法のほうが就労アウトカムを改善させるという考え方が有力となった.このような援助付き雇用プログラムの1つがindividual placement and support(IPS)である.IPSは多くのrandomized controlled trial(RCT)によって有効性が示されている.今日では,IPSに認知リハビリテーションを併用することでさらに効果を高めようとする試みが行われている.
著者
角田 亘
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.952-956, 2017-12-18 (Released:2018-01-10)
参考文献数
3

筋萎縮性側索硬化症(ALS)やデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)などの神経筋疾患は,呼吸筋力の低下から拘束性換気障害を呈する.このような疾患に対して,近年では,身体に侵襲を加えることなく導入可能な非侵襲的陽圧換気(NPPV)が用いられている.NPPVの導入は,特にALSの場合では自覚症状,肺活量,動脈血酸素飽和度,血中二酸化炭素分圧などに基づいて決定される.しかしながら,呼吸障害が増悪した場合には,NPPVから気管切開下陽圧換気療法への移行が必要となる.さらには,気道クリアランスを目的とした体位排痰法,徒手的咳介助,カフアシストを用いた機械的咳介助なども行うのがよい.
著者
井樋 栄二
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.182-185, 2017-03-18 (Released:2017-06-09)
参考文献数
13
被引用文献数
2

日本にもようやく反転型人工肩関節が2014年に導入され,これまでの肩疾患に対する人工肩関節の役割が大きく変わることになった.従来の解剖学的人工肩関節は,腱板が正常な変形性肩関節症に適応があるため,全国調査でも肩関節手術全体の1%未満にすぎなかった.反転型人工肩関節は腱板断裂性関節症によい適応があり,この人工関節の導入を待ち望んでいた医師,患者は数多い.2015年には全人工肩関節のうち解剖学的人工肩関節は25%であり,反転型人工肩関節が導入2年目ですでに75%を占めるようになった.解剖学的人工肩関節および反転型人工肩関節の特徴と術後のリハビリテーションについて要点を解説した.
著者
村上 里奈 和田 郁雄 水谷 潤 植木 美乃 三井 裕人 青山 公紀 伊藤 奈緒子 佐久間 英輔 万歳 登茂子
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
リハビリテーション医学 (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.40-45, 2018

<p>小児期には,骨成熟過程の旺盛な骨代謝,モデリング(modeling)と呼ばれる骨幹端部に生ずる形態変化,骨端線の存在などと相まって,スポーツなど身体活動量や体重の増加など力学的ストレスが加わることから,特有の骨格障害がみられる.本稿では,子どもの足部に生じる有痛性疾患あるいは変形のうち,リハビリテーション医療領域で最もよくみる扁平足について述べる.扁平足のうち,幼児期~小学校低学年にみられる全身性関節弛緩を基盤とした可撓性扁平足と年長~思春期に生ずることのある非可撓性扁平足の病態について概説するとともに,リハビリテーション的治療としての運動療法やストレッチ,可動域訓練および装具療法を紹介する.</p>
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.49, no.10, pp.704-725, 2012-10-18 (Released:2012-10-25)

BMIによる障害者自立支援…神作 憲司 704BMIによる脳卒中片麻痺のリハビリテーション…牛場 潤一 710BMIと運動制御…小池 康晴,川瀬 利弘,辛 徳,神原 裕行,吉村奈津江 715皮質脳波法による視覚情報の解読…長谷川 功 720
著者
牛場 潤一
出版者
日本リハビリテーション医学会
巻号頁・発行日
pp.79-83, 2010-02-18

はじめに Brain Machine Interface(BMI)は,脳と機械を直接相互作用させる技術の総称である.脳は通常,身体を介して外部環境と関わりを持つが,その仲介となる身体を省き,脳と外部環境を直接作用させよう,という発想がBMIである.こういった考え方によって,完治が困難な身体障害を工学的に克服することがBMIの目標の1つになっている. 運動障害に対するBMIの応用事例は主に,電動義手や電動装具の制御(いわば,失った上肢機能の代替を目指すもの)と,パーソナルコンピュータやテレビなどの家電制御(いわば,環境制御装置としての機能を目指すもの)に大別される.このように,失った運動機能の代償をする「機能代償型BMI」に加えて,最近では神経系機能の再構築を目指す「機能回復型BMI」のコンセプトも示されつつある(表). BMIに用いられる脳活動計測は,その侵襲性によって3つのタイプに分けられる.すなわち,針電極を用いて脳に直接電極を差し込み,神経細胞のスパイク電位を計測する侵襲的な計測方法,硬膜下電極を利用して脳表から局所電位を記録する低侵襲的な方法,頭皮上に皿電極を貼付して脳波を計測する非侵襲的な方法,の3つである.非侵襲的な方法としてはほかに,神経細胞の電気的活動によって生じる磁場変動を計測する脳磁図,機能的磁気共鳴画像法,神経活動によって生じる血流動態の変化を吸光スペクトルとしてとらえる近赤外分光法も存在するが,前二者は計測に際してシールドルームが必須であり,後者は時間特性が悪いことから,BMIに利用した例はそれほど多くない. 当然のことながら,詳細な脳活動を記録分析できる計測手段を用いたほうが,精度の高いBMIを構築することが可能である.また,針電極を用いた脳活動計測の場合,古くから脳科学分野で培われた詳細な細胞活動特性の知見を活かせる点で,研究の具体的道筋が立てやすいように思われる.頭皮脳波は,これら侵襲性のある脳活動計測方法に比べると,空間分解能に劣るほか,体動ノイズや環境ノイズに影響を受けやすいという欠点がある.では,頭皮脳波を用いたBMIが臨床的に意義を持つためには,何が必要であろうか? 頭皮脳波を用いたBMIの利点は,身体的にも精神的にも被験者の負担をかけずにシステムの導入が行えることである.BMIの利用を中断するときにも容易であり,被験者の心理的障壁が比較的低い.計測システムは最も安価で,産業化への道筋が最もつけやすい.頭皮脳波から判別可能な運動関連脳情報は極めて限られるものの,それらを確実かつ即座に判別でき,脱着しやすい安価なシステムとして提供することができれば,重度運動障害者に対する環境制御装置あるいは意思伝達装置としての価値は十分に認められる.また頭皮脳波は,眼電図や頭部や頸部の筋電図など,さまざまな生体信号の混入が避けられないという欠点を持っているが,BMIの想定受益者である重度運動障害者のなかには眼球運動,呼吸や嚥下活動,表情筋などの随意性が残存しているケースは多く認められるので,種々の随意運動に起因するノイズも脳波同様に弁別し,機械制御に用いることで,より実用的なシステムを構築できるものと思われる.
著者
岩本 紘樹 田村 俊太郎 小林 壮太 武田 廉 宮田 一弘
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.58, no.10, pp.1169-1180, 2021-10-18 (Released:2021-11-29)
参考文献数
25

目的:潜在変数の順序性を検討できる潜在ランク理論(latent rank theory:LRT)を用いて,大腿骨近位部骨折患者のバランス能力ステージを明らかにすること.方法:対象は3施設の回復期リハビリテーション病棟へ入院した高齢の大腿骨近位部骨折患者252名から得られた延べ475データとした.バランス評価には,Berg Balance Scale(BBS)を用いた.解析は,LRTを実施し適合度指標と情報量規準の結果から潜在ランク数を決定し,各ランクと歩行自立度と歩行補助具の関連性を検討した.結果:LRTの結果,BBSは5ランク数に分類したモデルが最も良好であった.各ランクの平均値は,ランク1が17.1点,2が24.6点,3が34.8点,4が42.9点,5が47.3点であり,単調増加していたためLRTの仮定は満たされていた.各ランクと歩行自立度,歩行補助具には有意な関連が認められ,ランク3以上で歩行器などを用いて歩行自立できる者が出現し,ランク5以外では階段や不整地を自立している者はいなかった.結論:大腿骨近位部骨折患者において,BBSは5つのステージに分類でき,バランス能力ステージ別に異なる特徴を有していた.これにより,BBSの得点に応じたバランス能力の把握が容易となる可能性が示唆された.
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
リハビリテーション医学 (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.52, no.8, pp.522-541, 2015

<br> <br>リハビリを見せる・見わたす回復期&hellip;小口 和代 522<br><br>日本唯一の地方自治体直営回復期リハビリテーション病棟単独病院とレジデント教育&hellip;赤星 和人 526<br><br>当院の回復期リハビリテーション病棟のかたち-大学病院分院としての回復期リハ病棟-&hellip;緒方 敦子 529<br><br>回復期リハビリテーション病棟における医師教育のあり方-中途入職の医師を誰がリハ科医に育て上げるのか?-&hellip;菅原 英和 533<br><br>回復期リハビリテーション病棟医師のあり方:私見&hellip;福田 直,北原 功雄,手島 啓幾,森戸 知宏,田中 遼,曽田 剛史 537
著者
熊本 水頼
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.49, no.9, pp.631-639, 2012-09-18 (Released:2012-10-19)
参考文献数
9
被引用文献数
2

Recently the unique functional characteristics of bi-articular muscles have been revealed by means of EMG kinesiological analysis and control engineering analysis. A two-joint limb link mechanism provided with one antagonistic pair of bi-articular muscles passing over two adjacent joints as well as two antagonistic pairs of mono-articular muscles at both end joints could control output forces exerted at the end point of the link mechanism in an arbitral direction with only a single input command signal informing the desired direction. The output force distribution of the limb link mechanism with three pairs of six muscles showed a hexagonal shape, whereas the link mechanism without the paired bi-articular muscles and only with the two pairs of mono-articular muscles showed a tetragonal shape. Configurational characteristics of the hexagonal output force distribution indicated that an individual functionally different effective muscular strength can be evaluated from the output force values of four designated points on the output force distribution line. Such a limb link mechanism could also dissolve contact tasks in order to maintain postural stability. Clinical applications utilizing the unique control properties of bi- articular muscles may shed light on future rehabilitation medicine therapies.
著者
岡本 隆嗣
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.482-489, 2021-05-18 (Released:2021-07-15)
参考文献数
16

2000年に介護保険と同期して制度化された回復期リハビリテーション病棟は,安静による廃用を防ぎ,ADL能力を向上させ,住み慣れた地域への在宅復帰が目的である.病棟配属されたスタッフの「生活」を重視したチーム医療が最大の特徴である.病棟では,医療・ケア・リハビリテーション・ソーシャルワークの情報やチームの目標がすぐに共有できる環境にあり,多職種合同のカンファレンスが日々開催され,毎日高密度の集中的リハビリテーション・ケアが行われる.これらの質を高めるためには,診療報酬で求められている指標以外に,情報共有,カンファレンス,リハビリテーション時間・職種間協業,退院調整,教育など,さまざまな面での病棟システムが必要である.
著者
堀川 悦夫
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese journal of rehabilitation medicine = リハビリテーション医学 (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.127-133, 2020

<p>超高齢社会における移動行動(モビリティ)維持のために自動車運転は,利便性が高い交通手段であり,交通事故の防止は社会的課題である.運転継続の可否判断を行うためのエビデンスが不足している中で,臨床実践現場では神経心理学的検査や運転シミュレータ検査,そして実車運転評価などによって総合的に行われている.事故防止のための感度・特異度がともに高い運転可否判断システムの開発が求められる.一方,年代別の交通事故の統計解析において解決すべき課題もみられるなど高齢者運転の実態に即した分析手法の開発が必要である.いわゆる自動運転技術の開発が進む中で,高齢者運転支援に先進技術の応用も求められている.</p>
著者
木村 浩彰 三上 幸夫 牛尾 会 澤 衣利子 上田 健人
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.54, no.8, pp.590-595, 2017-08-18 (Released:2017-10-03)
参考文献数
20
被引用文献数
3 1

リハビリテーション医学は物理療法(physical therapy)とともに発展してきた.電気刺激療法は物理療法の1つである.電気刺激療法は骨格筋に対して最初に臨床応用され,治療と機能回復に用いられている.治療を目的とした治療的電気刺激(therapeutic electrical stimulation:TES)と,機能回復を目的とした機能的電気刺激(functional electrical stimulation:FES)は厳密に区別される.電気刺激療法は,筋力増強や鎮痛,麻痺筋の機能制御などに使用されるが,運動障害以外にも創傷治癒促進や排尿機能改善,嚥下機能改善に用いられる.また,筋肉を刺激することで疑似的に運動した効果が得られ,糖や脂質代謝を活性化し,肥満や糖尿病,サルコペニア,寝たきり患者にも適応が拡大されている.
著者
小林 章郎
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.501-505, 2020-06-18 (Released:2020-08-12)
参考文献数
3

障害者の競技スポーツには,impairmentの内容・程度を判定し公平に競えるようクラス分けというシステムが存在する.パラリンピックに出場するために国際パラリンピック委員会公認のクラス分けを受ける必要があり,その準備としてクラス分けに精通した担当医がMedical Diagnostics Form(診断書)を書かなければならず,詳細な病歴・現症・画像資料が求められる.さらに,クラス分けが完了するまでに障害を客観的に証明する筋電図やMRIなどの追加検査を行う場合があり,医師の関与・判断がきわめて重要である.また今後,クラス分けの根拠となるevidenceを構築するため医科学的アプローチが欠かせない.