著者
西多 昌規
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.189-192, 2018-03-16 (Released:2018-04-20)
参考文献数
21
被引用文献数
1

うつ病は主要な精神疾患であり,抗うつ薬を中心とする薬物療法が主流である.しかし現在では,身体運動の抗うつ効果を用いた運動療法も研究が進んでいる.過去の研究では,うつ病患者や比較対照群の統制が不十分であり,結果が一貫しないものが多かった.質の高い論文に絞ったメタ解析では,運動は非介入群に比べて有意な抗うつ効果があり,薬物療法の補助療法としても効果があることが示されている.しかし,運動療法が対象・方法ともに治療法として確立されたわけではなく,有効性については慎重に見極めていく必要がある.実際においては,対象患者の精神状態だけでなく合併症など身体状態にカスタマイズした運動を勧めていく必要があるだろう.
著者
千野 直一
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.337-342, 2014 (Released:2014-07-31)
参考文献数
17
被引用文献数
1

At the end of 2012, Prof S Yamanaka received the Nobel Prize for his work on induced pluripotent stem cells. Now iPS cell therapy, his contribution to regenerative medicine, will shine a light on many disabled persons. The dream of curing patients with upper motor neuron diseases, such as spinal cord injury (SCI), Parkinson disease, strokes etc will finally come true. Dr Krusen, the father of Rehabilitation Medicine or Physical Medicine & Rehabilitation, defined this specialty as consisting of two categories : one being the Phys Med, a branch of medicine using physical agents such as heat, water, electricity, mechanical agents, therapeutic exercises and recent sophisticated physical modalities in diagnosing and treating neuro-musculo-skeletal diseases. The other being Rehab, which denotes “enabling the patient to return to his/her previous social setting.” In the past, the Department of Rehabilitation Medicine at Keio University used to collaborate with the Department of Physiology to adapt embryonic stem cell therapy for treating SCI, Parkinson diseases etc along with physical modalities. Going forward, research in “iPS cell therapy or regenerative medicine” should be the primary concern of PM&R specialists as it is the first step on our way to the next generation in the specialty of Physical Medicine and Rehabilitation or Rehabilitation Medicine.
著者
小川 秀幸 西尾 尚倫 牧野 諒平 越前谷 友樹 大塚 三和子 中野 克己
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
pp.20048, (Released:2021-06-26)
参考文献数
23

目的:回復期脳卒中患者における下肢装具による医療関連機器圧迫創傷(MDRPU)に関連する要因を検討すること.方法:研究デザインは後ろ向きコホート研究とした.対象は回復期リハビリテーション病棟入棟中に下肢装具を作製した脳卒中患者95名とした.調査項目は,基本属性,入棟時のBrunnstrom Recovery Stage,感覚障害の有無,半側空間無視の有無,入棟時と退院時のFunctional Independence Measureとした.メインアウトカムであるMDRPUの発生は,National Pressure Ulcer Advisory Panel分類ステージⅠ以上とした.統計解析では,MDRPUの発生あり群となし群に分けて群間比較を実施し,多重ロジスティック回帰分析を行った.変数の選択には,尤度比検定による変数増加法を用いた.結果:MDRPUの発生要因として抽出されたのは,年齢(オッズ比=1.05,95%信頼区間:1.01~1.10,p<0.05)と,入棟時感覚障害の有無(オッズ比=5.17,95%信頼区間:1.39~19.28,p<0.05)であった.結論:回復期入棟時に若年層で感覚障害を有する場合は,下肢装具によるMDRPU発生の危険性が高く注意が必要であることが示唆された.
著者
佐原 亘 菅本 一臣
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.53, no.10, pp.750-753, 2016-10-18 (Released:2016-11-17)
参考文献数
9
被引用文献数
1

肩は上肢の基盤ともいえる部位であり,肩甲上腕関節と肩甲帯から構成される.肩甲上腕関節は体の中で最も広い可動域をもつ関節であり,その肩甲上腕関節が機能を十分発揮するためには肩甲帯が機能的に働くことが必要不可欠である.肩甲帯は通常の関節のように関節包や靱帯によって支えられておらず,肩甲骨に付着する筋群によって複雑にコントロールされている.そのため肩甲帯がどのように動いているのか,その仕組みを知ることは肩や上肢のリハビリテーションを考えるうえで非常に重要である.本稿では肩甲帯の解剖とその運動の仕組みについて解説する.
著者
園田 茂
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4-5, pp.265-271, 2015 (Released:2015-05-01)
参考文献数
43
被引用文献数
3 4

Understanding the societal and personal impact of immobilization or disuse syndrome is important in Japan with its large elderly population. The indication of disuse syndrome for rehabilitation was narrowed and the fee for disuse syndrome was set at a low level. Muscle strength decreases at a rate of 2.3 % per day in 40 % of the people. Also, the muscle fractional synthetic rate decreased with 10 days rest. Other functional or morphological changes also occur in the neuromuscular junction and the muscle internal structure. Additionally, we must consider the contribution of muscle to the limitation of joint angle after immobilization. Both elasticity and viscosity increase. Cardiac wall thickness and cardiorespiratory fitness decrease during immobilization. Gravitational dependent lung disease or deep vein thrombosis may occur. The brain is also affected by immobilization, leading to condition of learned non-use. The best solution for immobilization is to be active ; however, we must have a detailed knowledge of the pathophysiology of a patient's disease in order increase their activity level. In an acute hospital setting, prevention of immobilization is crucial. The system used in Japan, whereby therapists are assigned full-time in the ward was introduced in April 2014. Furthermore, even though 20.35% of maximal strength training is effective in atrophied muscles, it is ineffective in trained muscles. Another sticking point is that there is no evidence-based recommendation for range of motion exercise. However, rehabilitation intervention in respirator patients improves their ADL. Prophylaxis of deep vein thrombosis is also very important. And learned non-use of the brain may be diminished by the skillful application of vibrations that makes patients feel that their hand is moving even when it is not. Finally, the mechanism of hibernation may be the key to improving our rehabilitation against immobilization in the future.
著者
栢下 淳
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.54, no.9, pp.691-697, 2017-09-15 (Released:2017-11-01)
参考文献数
8
被引用文献数
2

わが国ではおもてなしの気持ちが強いので,咀嚼機能や嚥下機能の低下した高齢者にさまざまな嚥下調整食が提供できるように工夫されてきた.しかし,病院や施設ごとに呼称や形態が異なっていては連携がしにくいため,いくつかの嚥下調整食分類が提案された.最近では日本摂食嚥下リハビリテーション学会が作成した学会分類2013が医療現場では浸透し始めている.市販介護食の分類としては農林水産省のスマイルケア食が活用されると期待される.学会分類2013とスマイルケア食は形態が同じであれば,コード番号も同じになるように設定されているため,病院から在宅に戻った際にも,嚥下調整食の選択が容易になり,在宅療養しやすい環境が整ってきた.
著者
大森 信介
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.53, no.10, pp.762-764, 2016-10-18 (Released:2016-11-17)
参考文献数
10
被引用文献数
3

手関節は橈骨手根関節,手根中央関節,遠位橈尺関節の複合運動により,掌背屈,橈尺屈,回内外運動が可能な関節である.手関節の効果的なリハビリテーションを行うためには,手関節の機能解剖を理解することが重要である.しかし,手関節の3次元バイオメカニクスを含めた機能解剖についてはいまだ解明されていない部分も多く,議論も多い.本稿では,まず手関節の正常機能解剖について述べ,次に手関節外傷として頻度の高い橈骨遠位端骨折,DISI変形に代表される手根不安定症における3次元手関節バイオメカニクスについて述べる.
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.153-185, 2009-03-18 (Released:2009-09-04)

髄腔内バクロフェン投与療法…根本 明宜 153神経ブロック…中馬 孝容 160装具療法…近藤 和泉 166痙縮に対する脳神経外科手術…佐々木寿之,平 孝臣,堀 智勝 171痙性に対する整形外科的アプローチ—整形外科的選択的痙性コントロール手術—…池田 啓一,川上 宏治,山口 浩司,桑原 公倫,古閑 博明,山鹿眞紀夫,田中 智香,齋藤 智子,坂本 公宣 176
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.50, no.7, pp.505-524, 2013 (Released:2013-08-29)

痙縮の病態生理…正門由久 505脳卒中上下肢痙縮に対するボツリヌス療法の手技とこつ…大田哲生 511上肢痙縮に対するボツリヌス療法の実際…中馬孝容 515上肢機能向上と社会参加…松嶋康之,蜂須賀明子,蜂須賀研二 520
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.331-342, 2007-06-18 (Released:2009-10-30)

医療経済学から見たリハビリテーション医療のあり方—効果的・効率的リハビリテーションをめざして—…二木 立 331理学療法料の変遷と理学療法士の専門性…日下 隆一 334言語聴覚障害領域の現状と展望—診療報酬および介護報酬の改定と言語聴覚療法—…長谷川賢一 338
著者
宮田 一弘 朝倉 智之 篠原 智行 臼田 滋
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.555-564, 2021-05-18 (Released:2021-07-15)
参考文献数
23
被引用文献数
1

目的:Mini-Balance Evaluation Systems Test(Mini-BESTest)とBerg Balance Scale(BBS)の臨床的に意義のある最小変化量(MCID)に関するシステマティックレビューを行った.方法:3つのデータベースとハンドサーチにて検索および収集し,Mini-BESTestとBBSのMCIDを報告している論文を特定した.受信者動作特性(ROC)曲線以外の方法でMCIDを決定している論文は除外した.結果:検索の結果,Mini-BESTestでは21編,BBSでは87編の論文が抽出され,取り込みおよび除外基準を満たしたのはMini-BESTestが4編,BBSが6編であった.ROC曲線下の面積が0.7以上であったMCIDはMini-BESTestが1.5~4.5点,BBSが3.5~6点の範囲であった.バイアスリスクの評価の結果,18点満点のうちMini-BESTestが10~16点,BBSが9~14点の範囲であった.結論:Mini-BESTestで1.5~4.5点,BBSで3.5~6点の得点変化には,複数の患者集団において臨床的な意味があり,介入効果の判断や目標設定をする際の基準となる可能性がある.臨床で用いる際には,疾患,病期,介入期間,人種などを考慮したうえで用いる必要がある.
著者
藤本 宏明 宮井 一郎
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.55, no.9, pp.724-729, 2018-09-18 (Released:2018-10-29)
参考文献数
33
被引用文献数
1

ヒトの二足歩行では,大脳皮質や基底核,脳幹,小脳,脊髄などの複数の中枢神経領域が階層的に制御している.障害物などの外部環境への応対を要する随意的な歩行運動には大脳皮質や基底核などの上位中枢の関与が大きく,繰り返すリズミカルで自動的な歩行運動の生成には,脳幹や脊髄などの下位中枢が重要と考えられている.中枢神経損傷後の歩行やバランス機能の回復に伴って神経活動の変化がみられるが,逆に標的とする神経活動を調整すること(neuromodulation)によって機能回復が促進される可能性が検証されている.双方向での検証の蓄積が,歩行や姿勢制御障害の回復と神経活動変化との因果関係の解明へとつながることが期待される.
著者
佐々木 信幸
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.277-284, 2022-03-18 (Released:2022-06-21)
参考文献数
29

新型コロナウイルス感染後に多彩な神経学的症状を中心とする後遺症が高率に続発し,long COVIDとして社会問題化している.強い疲労感やさまざまな認知機能障害,brain fogと呼ばれる脳に霧がかかったようになる症状を呈し,思うように日常生活・社会生活が送れなくなる.これらの症状は過去のパンデミックでも認められ,筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群と関連づけて研究が進められている.原因は判明していないが,感染を契機に炎症反応性・自己免疫性応答として脳神経変性が生じ,特に前頭前野・上縦束由来の症状が出現する可能性が示唆されている.治療法は確立されていないが,反復性経頭蓋磁気刺激(rTMS)による脳局所賦活が有効である可能性がある.
著者
松村 純 加賀谷 斉
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.59, no.7, pp.669-673, 2022-07-18 (Released:2022-09-05)
参考文献数
23

大腿骨近位部骨折受傷後には,できるだけ早期に手術を行うことが推奨されているが,さまざまな理由により術前待機期間が長くなってしまうことがある.術前リハビリテーション治療は周術期合併症の予防のために重要となる.術前では患部の疼痛のために行えることに限りがあるが,筋力の維持や適切なポジショニングによる総腓骨神経麻痺や肺炎,褥瘡の予防に努める必要がある.また,高齢者に多い本疾患では病前の歩行能力や日常生活活動,認知症の有無を把握することで適切なゴール設定を行い,術後リハビリテーション治療を円滑に進められるようにしたい.
著者
福村 直毅 山本 ひとみ 北原 正和 鎌倉 嘉一郎 植木 昭彦 牛山 雅夫
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.303-314, 2017-04-18 (Released:2017-06-16)
参考文献数
34
被引用文献数
5 3

【目的】機能的自立度評価表(FIM)による分類が重症(FIM総得点≦40点)患者の日常生活動作(ADL)や栄養・免疫状態低下に対する補中益気湯の有効性および安全性について検討した.【方法】片麻痺を伴う脳血管障害後遺症でリハビリテーション施行患者31例を対象に補中益気湯(TJ-41)投与群と非投与群に無作為に割付し,24週間観察した.評価はADL,炎症性合併症発症率などである.【結果】FIM総得点は両群ともに治療前後で有意に改善したが,FIM利得に群間差はなかった.炎症性合併症発症率はTJ-41投与群で有意に低かった(p=0.049).FIM運動得点が20点以下の症例において,治療前後の総リンパ球数変化比はTJ-41投与群で増加傾向が認められた.本研究において副作用はなかった.【結論】補中益気湯は脳血管疾患などのリハビリテーションにおいて炎症性合併症対策に有用である可能性が示唆された.
著者
美馬 達哉 小金丸 聡子 芝田 純也 佐藤 岳史
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.59, no.11, pp.1111-1117, 2022-11-18 (Released:2023-01-20)
参考文献数
21

2010年代以降に注目を集めているN-of-1研究について,従来の症例研究との差異,高いエビデンスレベルである理由,臨床研究としての実験計画および論文執筆の際の注意点などについて概説した.個別性の高いケアを重視するリハビリテーション医学の領域において,この研究手法は大きな可能性を有すると考えられる.さらに,近年では,複数のN-of-1研究を標準化してまとめ,集団疫学と同様に扱う手法も提案されている.Patient-centered careやprecision medicineが議論されている現状では,今後も重要性が高まると予測され得る.本稿の最後では,非侵襲的脳刺激法のリハビリテーション応用について,N-of-1研究から切り拓かれる展望についても,筆者らの経験を例として論じる.
著者
和田 直樹
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.55, no.9, pp.730-734, 2018-09-18 (Released:2018-10-29)
参考文献数
5

歩行障害は,基本動作である移動にかかわる重要な障害である.原因は必ずしも1つではなく,実際にはいくつかの障害が重複していることがある.観察による視覚的評価は重要であるが,動作解析の手法も普及し,より客観的な評価を行うことでリハビリテーション治療の効果判定にも応用できるようになっている.脳血管疾患,脊椎脊髄疾患,筋疾患,末梢神経疾患,骨・関節疾患,パーキンソン病,神経変性疾患はそれぞれ特徴的な歩行障害をきたす.リハビリテーション医療において歩行障害とその原因を運動学から理解し,治療を考えていくことは大変重要である.