著者
安藤 悦子 山崎 千賀 石丸 愛子 島本 あゆみ 福田 奈実
雑誌
保健学研究 = Health science research (ISSN:18814441)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.79-83, 2009-03

本研究の目的は,死亡退院後の遺体トラブルと遺体トラブルに遭遇した家族の反応および死後のケアに対する葬祭業者の意見・要望を明らかにし,看護師が行う死後のケアへの示唆を得ることである.対象は葬祭業社に勤務し,葬儀に携わる社員80名に質問紙を配布し,29名から有効回答を得た(回収率36.3%).対象者が体験した遺体トラブルで最も多かったのは「出血」で,順に「開口」,「悪臭」,「体液流出」などがあった.葬祭業者の意見・要望の背景には,病院と葬祭業者間のコミュニケーション不足が考えられた.以上より,看護師は死体現象の理解を深め,葬儀が終了するまでの変化を考慮した死後のケアを実施する必要がある.また,コミュニケーション不足を是正するために,病院側からは死亡退院時に,感染症の既往や遺体トラブルのリスクに関する情報を提供し,トラブル発生時には葬祭業者から病院へ情報を提供するといった連携のシステムの構築の必要性が示唆された.
著者
加藤 克知
出版者
長崎大学
雑誌
保健学研究 (ISSN:18814441)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.1-17, 2009-03

南米古代アンデス社会におけるヒト頭部の変工または加工に関係する風習的事象,「人工頭蓋変形」,「生体頭蓋穿孔(開頭術)」および「首狩りと首級」という3つのテーマについて,筆者のデータを交え形質人類学の観点から解説した.それぞれは古代アンデス社会に深く浸透し,おおむねアンデス文明成立当初からインカ帝国滅亡の日まで,社会の中で連綿と生き続けた.ペルーの考古学の父であるJulio C. Telloは,古代アンデス社会においては,頭部は宗教的シンボル,権力のシンボルであり,最も高貴な神格をもったものであった,と述べた.つまり,これらの頭部関連風習の原点は,古代アンデス社会における頭部崇拝の宇宙観にあったと考えられる.
著者
田代 隆良 永田 奏 出田 順子 安藤 悦子
出版者
長崎大学
雑誌
保健学研究 (ISSN:18814441)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.43-48, 2006

長崎大学医学部保健学科の看護学生270人(1年生68人,2年生68人,3年生68人,4年生66人)を対象に死生観に関する自記式アンケート調査を行った.学生は,死を「永遠の眠り」「肉体と精神の眠り」「神秘・不可解なもの」と捉え,学年間に違いは認められなかった.自分の死に関してもっとも嫌なこととして,「物事を体験できなくなる」「予定していた計画や仕事ができなくなる」は1年生に,「痛み・苦しみ」は4年生に多く,有意差が認められた.死生観に影響を与えた因子は「身近な人の死」「テレビ・映画」「葬儀への参列」「読書」の順であり,学年間に違いは認められなかったが,「講義」「実習」は4年生が有意に多かった.しかし,講義や実習の影響は学生の期待よりも小さく,日々の授業において死の準備教育を行う必要があることが示唆された.
著者
花田 裕子 永江 誠治 山崎 真紀子 大石 和代
出版者
長崎大学
雑誌
保健学研究 (ISSN:18814441)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.1-6, 2007

本稿は,児童虐待の歴史的な変遷および児童虐待の定義について概観する.児童虐待は,わが国においても1990年代以降は特殊な家族環境で発生する問題ではないことが広く認識されるようになった.児童虐待問題は,歴史的な変遷を経て関連法が大きな変革期を迎えている.児童虐待は諸外国ではChild AbuseとChild Maltreatmentの両者の用語が用いられているが,Child Maltreatmentは80年代に生態学的な観点から児童虐待を捉えることが提唱された用語でChild Abuseより広く使われている.子どもの心理社会的な発達は,親だけではなく子どもの取り巻く環境からの影響は大きく,今後はChild Maltreatmentの概念の導入や生態学的な研究が児童虐待問題に必要となってくると考えられる.
著者
吉田 浩二 辻 麻由美 松尾 拓海 一ノ瀬 叶奈未 宗田 明穂 永田 明 井手 みのり
出版者
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科保健学専攻
雑誌
保健学研究 = Health Science Research (ISSN:18814441)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.21-29, 2021-07

【目的】地域交流サロンに参加する高齢者の生きがい意識の実態および生きがい意識に影響を及ぼす要因を明らかにすることを目的とする.【方法】A地区の地域交流サロンに参加する高齢者40名に対し,平成30年 8 ~ 9 月に,年齢,性別,同居者・配偶者の有無,相談できる友人の有無,地域交流サロンへの参加状況,家族・他者との交流頻度,主観的健康度を含み,そして生きがい意識を表するIkigai-9を用いた質問紙調査を行った.Ikigai-9は生きがいを感じている精神状態(生きがい意識)を測定する 9 項目による質問紙であり,合計得点が高いほど生きがい意識が高い,すなわち生きがいを実感しているとされている.収集したデータから,各項目における生きがい意識得点の平均の比較を行った.【結果】 対象者の平均年齢は83.6±6.9歳で,生きがい意識得点の平均は28.6±7.1点であった.各項目における比較では,「相談できる友人」という項目で,友人がいる群がいない群より平均得点が高かった(P=0.04).その他の項目では有意差はみられなかった.【結論】本研究において,A地区の地域交流サロンに参加する高齢者の生きがい意識の実態,および生きがい意識は相談できる友人の有無と関連があることが確認された.Objective: The purpose of this study is to clarify the actual state of feeling that life is worth living among older people who participate in community-based interactions and to detail the factors related to this feeling.Methods: We conducted a questionnaire survey among older people( n=40) participating in communitybased interactions in one area of Japan. The questionnaire contained questions about age, availability of a partner and friends for consultation, subjective health, and Ikigai-9 scale. Ikigai-9 is a 9-item questionnaire that measures the mental state of feeling that life is worth living, where a higher total score indicates a higher feeling of life worth. We compared the average points of life worth in each item.Results: The average age of the subjects was 83.6 ± 6.9 years, and the average score of life worth was 28.6 ± 7.1. Comparison of each item revealed that the average score was higher for the group who had "friends available for consultation" than for the group without friends( P=0.04). No significant differences were detected for the other items.Conclusion: In this study, we were able to c clarify the actual state of feeling that life is worth living among older people who participated in the community-based interactions and to explore the relationship between their feeling that life was worth living and friends for consultation.
著者
山田 彩季 江藤 宏美
出版者
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科保健学専攻
雑誌
保健学研究 = Health Science Research (ISSN:18814441)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.1-10, 2013-03

目的 EBMの手法を用いて,妊娠期の骨盤位矯正に関するガイドラインの推奨文を作成することである.方法 システマティックレビュー.臨床上の疑問を,骨盤位を頭位にするためのケアとして,姿勢管理,鍼灸,骨盤外回転術(ECV)の有効性の 3 つを設定し,データベースからガイドラインおよびエビデンスレベルの高い研究を収集した.結果 姿勢管理では 2 文献が得られ,その効果は明らかでなかった.鍼灸では 5 文献が得られ,有効・無効の両方の結果が示されていた.ECVでは11文献が得られ,有用性が明確であった.子宮収縮抑制剤,局所麻酔の併用により成功率が上昇していた.結論 ECVの効果は明らかであり,他のケアについては更なる研究の蓄積が必要である.
著者
田代 隆良 浦田 秀子 山崎 真紀子 入山 茂美 岩永 喜久子 松本 正
出版者
長崎大学
雑誌
保健学研究 (ISSN:18814441)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.21-25, 2007
被引用文献数
1

2002年から2006年に長崎大学に入学した看護学生348人(女性321人,男性27人,平均年齢18.5歳)のHBs抗原およびHBs抗体陽性率はそれぞれ0.00%と2.30%だった.338人に1クール3回のB型肝炎ワクチン接種を行い,HBs抗体獲得率と抗体価幾何平均は98.5%と1696.6mIU/mL,性別ではそれぞれ,女性99.0%,1743.2mIU/mL,男性92.3%,1225.8mIU/mLだった.1クールでHBs抗体を獲得しなかった3人に第2クールの追加接種を行った.2人がHBs抗体陽性となり,HBs抗体価は273.OmIU/mL,788.8mIU/mLだった.1年次のワクチン接種によりHBs抗体を獲得した学生の5.1%が3年次に陰転した.3人に2回の追加接種を行い,HBs抗体価は320.OmIU/mL,56.5mlU/mL,236.OmIU/mLと再上昇した.1クールのワクチン接種でHBs抗体価が10mIU/mL未満のものに対しては追加接種して抗体価を上げておく必要があるが,一度高い抗体価を獲得したものは,その後陰転しても追加接種により直ちに再上昇することが示された.
著者
田代 隆良 諌山 有葵奈 川原 享子
出版者
長崎大学
雑誌
保健学研究 (ISSN:18814441)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.7-14, 2011-08

2009年,新型インフルエンザA(H1N1)が全世界で大流行した.長崎大学は,発症者は医療機関を受診し,診断結果を大学に報告すること,自宅療養することなどの感染対策情報を掲示板と大学ホームページで発信した.本研究の目的は,長崎大学における新型インフルエンザ流行と学生の行動を解析することである.2009年7月から2010年2月の間に全学部学生7,489人中841人(11.2%)が感染者リストに登録された.2010年6月に3年次学生721人を対象に実施したアンケート調査では,インフルエンザ様症状のあったもの226人(31.3%),新型インフルエンザと診断されたもの164人(22.7%),診断結果を大学に報告したもの120人(16.6%)だった.新型インフルエンザ罹患率はマスク着用率の低い学部で高かった.学生は新型インフルエンザと感染防御に関する情報を主に友人から得ており,掲示板やホームページからは少なかった.大学は全学生に確実に情報を提供すべきであり,学生は適切な感染防御対策を実行すべきである.
著者
小黒 友美 平野 裕子
出版者
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科保健学専攻
雑誌
保健学研究 = Health Science Research (ISSN:18814441)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.15-21, 2014-02

本研究の目的は,月経の状況や症状,女性性受容度,自己効力感,ストレス対処能力などの要因が,女子大学生の精神的健康にどのような影響を与えているのかを明らかにすることである.九州地方の大学に通う女子学生397名を対象とし,属性,月経に関する項目,月経随伴症状,女性性受容度,ソーシャルサポートの有無,自己効力感,ストレス対処能力SOC,精神的健康等の項目を含む配票調査を行った.重回帰分析の結果,精神的健康は,SOC,月経随伴症状,自己効力感,女性性受容度,月経期間の異常の有無の順で強く規定されていた.この結果から,女子学生の精神的健康度は,月経に伴う精神的身体的現象よりも,月経のとらえ方によって左右されるところが大きいことが考えられた.
著者
田平 隆行 榊原 淳 沖 英一 田中 浩二
出版者
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科保健学専攻
雑誌
保健学研究 (ISSN:18814441)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.19-24, 2008
被引用文献数
2

本稿では,長崎市における特定高齢者施策「うつ・閉じこもり・認知症予防事業」の開始へ向けた認知症介護予防モデル事業の紹介と介入成果について報告する.対象は,軽度認知症及びその疑い者82名の内,事業参加が5/9回以上の52名を有効対象者とした.開催頻度は,2回/1月(隔週),事業回数は,評価2回,介入7回の計9回とした.プログラム内容は,学習療法,拮抗体操・記憶ゲーム等を用いたレクリエーション療法,創作活動とした.その結果,注意配分機能,短期記憶の認知機能と自己効力感が向上した.認知症の早期に障害される注意配分機能や短期記憶に視点をおいたプログラムや達成感や有能感を得るような活動を実施することが重要であることが示唆された.
著者
山本 聖子 池田 和子 大金 美和 杉野 祐子 谷口 紅 木下 真里 阿部 直美 紅粉 真衣 菊池 嘉 岡 慎一
出版者
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科保健学専攻
雑誌
保健学研究 = Health science research (ISSN:18814441)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.119-127, 2019-09

有効な患者教育の内容について検討することを目的とし,2016年1月~12月にHIV陽性の確定診断を受け,かつA病院のHIV専門外来受診を開始した成人患者20名を対象にアンケートおよびインタビュー調査を行った.内容は保健所等でHIVスクリーニング検査陽性の告知を受けてから外来に初診で来院し患者教育を受けるまでの間に閲覧したネット上の情報の内容,閲覧したサイトの種類,特に印象に残った情報や信憑性に不安を感じた情報は何か,信憑性の確認はどのように行ったか等であった.調査の結果,ネットで情報収集をしたと回答したのは16名であった.閲覧した内容(複数回答)については,「疾病・治療に関する情報」が最多で15名であり,次いで「他のHIV感染者の思い・体験」が14名であった.思いや体験などのようなナラティブ情報は患者の情緒的サポートに有用であるが,時に混乱を招くことがあり,患者の個別性に合わせた情報提供が必要である.またネット上の情報についての真偽を何らかの方法で確認すると回答したのは5名のみで,医療者側から意識的に,患者の持つ情報の内容や根拠の有無を確認していくことが必要であることが明らかになった.
著者
加藤 克知
雑誌
保健学研究 = Health science research (ISSN:18814441)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.1-17, 2009-03

南米古代アンデス社会におけるヒト頭部の変工または加工に関係する風習的事象,「人工頭蓋変形」,「生体頭蓋穿孔(開頭術)」および「首狩りと首級」という3つのテーマについて,筆者のデータを交え形質人類学の観点から解説した.それぞれは古代アンデス社会に深く浸透し,おおむねアンデス文明成立当初からインカ帝国滅亡の日まで,社会の中で連綿と生き続けた.ペルーの考古学の父であるJulio C. Telloは,古代アンデス社会においては,頭部は宗教的シンボル,権力のシンボルであり,最も高貴な神格をもったものであった,と述べた.つまり,これらの頭部関連風習の原点は,古代アンデス社会における頭部崇拝の宇宙観にあったと考えられる.
著者
中尾 理恵子 田原 靖昭 石井 伸子 門司 和彦
出版者
長崎大学
雑誌
保健学研究 (ISSN:18814441)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.59-65, 2007-10

A大学1年次生と2年次生の健康診断時に喫煙状況,ニコチン依存度(Fagerstrom Tolerance Questionnaire, FTQ),タバコに関連する疾患の知識,他の人の喫煙への認識を質問調査した。男子学生では「毎日喫煙する」者の割合は,1年次生15.5%(124/799),2年次生20.9%(127/607),女子学生では1年次生1.6%(10/639),2年次生2.4%(13/545)であった。18〜21歳の男子学生で「毎日喫煙する」242名のうち,94名(38.8%)は18歳未満で喫煙を開始していた。18歳未満開始群は,1日の喫煙本数が16.5(SD6.3),FTQが5.4(SD1.4)であり,18歳以降開始群の1日喫煙本数とFTQよりも有意に高かった(ともにp<0.05)。タバコ関連疾患の知識は,肺癌以外は低い認知であり,全項目で18歳未満開始群が高い認知であった。中学生や高校生の喫煙をやめるべきと考えているのは18歳開始群が高値であり,その他,将来の結婚相手や医師・看護師・教師などの喫煙をやめるべきと答えたのは18歳未満開始群が高い割合を示した。18歳未満開始群,18歳以降開始群ともに80%以上のものが将来的に禁煙を希望しており,大学としての禁煙教育と支援については,1. 18歳未満開始群をはじめとした喫煙者に対する禁煙支援対策と 2. 18歳以降開始群をはじめとした大学に入ってから喫煙を始める者への喫煙予防対策の両方が大切であることが明らかとなった。
著者
加藤 克知
雑誌
保健学研究 (ISSN:18814441)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.1-17, 2009-03

南米古代アンデス社会におけるヒト頭部の変工または加工に関係する風習的事象,「人工頭蓋変形」,「生体頭蓋穿孔(開頭術)」および「首狩りと首級」という3つのテーマについて,筆者のデータを交え形質人類学の観点から解説した.それぞれは古代アンデス社会に深く浸透し,おおむねアンデス文明成立当初からインカ帝国滅亡の日まで,社会の中で連綿と生き続けた.ペルーの考古学の父であるJulio C. Telloは,古代アンデス社会においては,頭部は宗教的シンボル,権力のシンボルであり,最も高貴な神格をもったものであった,と述べた.つまり,これらの頭部関連風習の原点は,古代アンデス社会における頭部崇拝の宇宙観にあったと考えられる.
著者
楠葉 洋子 橋爪 可織 中根 佳純
出版者
長崎大学
雑誌
保健学研究 (ISSN:18814441)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.19-25, 2012-03

Cancer-chemotherapy Concerns Rating Scale(CCRS)を用いて 外来化学療法を受けているがん患者62名の気がかりとそれをどの程度他者に話しているかについて調査した.気がかりがある人の割合は『病気の進行』に関する項目が最も高く,次いで『社会・経済の見通し』『自己存在』『日常生活の再構成』の順であった.気がかりを話す相手は家族や友人が多かった.「化学療法を継続していく中で自分の役割を案じている」「再発・転移への不安がある」などの自己価値や死を意識しやすい項目では40 〜 50%の人が他者に話していなかった.医師や看護師は患者がこれらの気がかりを克服し治療や生活を継続していけるようサポートしていく必要がある.
著者
野村 亜由美
出版者
長崎大学
雑誌
保健学研究 (ISSN:18814441)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.73-78, 2009-03

精神科医/臨床家・小澤は,数年前肺がんの告知を受け余命一年と宣告された.死を前にした小澤が「ぼけ」,「ケア」をどう捉えているのか.本書には専門用語がほとんど用いられず,平易な文章で綴られている.平易な文章で「ケア」を語る切り口は,「ケア」がおそらく万人が共通して持つであろう<やさしさに至る知>であり,そしてそれが,精神科医/臨床家として得た答えだったと考えられる.小澤は,痴呆という障害のありようを明らかにし,暮らしのなかで彼ら(認知症を患うもの)が抱えている不自由を知ること,できないことは要求せず,できるはずのことを奪わないこと,そして現在の暮らしぶりを知り,彼らが生きてきた軌跡を折にふれて語っていただけるようなかかわりをつくりたいと考えてきた.小澤は,研究者あるいは医療者が社会的に力を持つのは仕方がない.大切なのはそれを自覚することであるという.そのことばを受け筆者が感じたことは,医療に限らず,人類学者が対象を一方的に研究するのではなく,研究の対象となる人たち自身に人類学者になってもらって自らを研究し,そして自らが置かれている状況や文化を相対的な視点からながめるようになる.病気を患う人たちや医療に携わる人たち双方が,自らの状況を文化人類学的な視点でみつめるようになり,それぞれの立場や置かれた状況から解放されていく.そんな「野生の人類学者たち」が生まれることを期待しながら書評としてまとめた.
著者
Sonoda Kenji
出版者
長崎大学
雑誌
保健学研究 (ISSN:18814441)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.1-5, 2006

Today, normally the relative that is not used in nonrestrictive relative clauses. But, even today there are times when one comes across the relative that used nonrestrictively. In fact, one sees it surprisingly often, especially in BrE. Historically, in nonrestrictive clauses, not only which but also that has been used for hundreds of years, but early in the 20th century, using that nonrestrictively ceased to be popular, although writers like D. H. Lawrence continued using it. The objective of my article is to point out that, despite its limited instances, the nonrestrictive that has been used in much the same way as which. To be specific, which has been used in nonrestrictive clauses when its antecedents are definite, indefinite, and when the antecedents have general reference, and all of this seems to have been the case with that too. The antecedents of the nonrestrictive which are noun phrases, adjective phrases, verb phrases, part of the previous clause, or a whole clause, and that seems to take the same kinds of antecedents as which. My study is based upon more than sixty examples of the nonrestrictive relative that ranging from the beginning of the 20th century to the present.