著者
李 建志
出版者
学校法人 関西学院大学先端社会研究所
雑誌
関西学院大学先端社会研究所紀要 (ISSN:18837042)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.33-48, 2013 (Released:2021-05-15)

1930年代の日本と朝鮮は、戦争直前という時代背景のなか、さまざまな猟奇事件が流行っていた。しかし、これを受け入れる市民は、朝鮮と日本でずいぶんと大きな隔たりがあったように思う。ここに、金来成という作家がいる。彼は、戦前に江戸川乱歩の弟子として推理小説を書いていたが、戦後には推理小説を書かなくなった、いわゆる大衆作家である。彼は1930年代に朝鮮でデビューしたが、彼に続いて推理小説を書くものはいなかった。では、なぜ朝鮮文学の世界で彼だけが推理小説を背負ったのだろうか。これを、筆者は、金来成の二流性=時代の変化に飛びつくことはよくするが、その時代の変化の意味を悟ることができなかった作家としての特性によるものだと考える。本稿では、まず当時の朝鮮文壇の状況を、当時のことを描いた小説「九人会をつくる頃」を参考にうつしだし、さらに当時の日本の推理小説界と、日本の社会状況をそれと比較させることで、日本と朝鮮の「空気」の違いをうきぼりにすることを目指す。
著者
山口 覚 喜多 祐子
出版者
学校法人 関西学院大学先端社会研究所
雑誌
関西学院大学先端社会研究所紀要 (ISSN:18837042)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.11-26, 2014 (Released:2021-05-15)

専門家の系図学 (genealogy) とともに、一般の人々による先祖調査 (popular genealogy) が世界中で実施されている。欧米諸国では先祖調査ブームと言い得る状況が長期的に見受けられ、アレックス・ヘイリーの『ルーツ』(1976年)はその象徴となる。日本でも先祖調査の「静かなブーム」が確認されるが、先祖調査の展開について整理されたことはこれまでほとんどなかった。本稿の課題は日本における先祖調査の展開を整理することにある。日本では『ルーツ』とはほとんど無関係に、1970年代には先祖調査ブームが生じていた。2000年代以降でも関連する様々な動きが見出される。先祖調査はいわゆる家意識と結びつく面もあるが、実際にははるかに多様な実践となっている。たとえば、近親者を中心としたパーソナルな家族史 (family history) への志向があり、他方ではテクノロジーの進化や情報整理の進展によって巨大な家系図の作成も可能となりつつある。先祖の故地や自身の苗字と同じ地名をめぐる先祖ツーリズムも珍しくない。先祖調査は趣味としての側面を強めているのである。