著者
今井 前田
出版者
学校法人 関西学院大学先端社会研究所
雑誌
関西学院大学先端社会研究所紀要 (ISSN:18837042)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.27-41, 2010

本稿は都市の空間構造の変容について、旧日本軍の軍用地を核として歴史的に跡づけ、その社会学的な意義を指摘するものである。それら「軍都の空間」が、都市の空間形成(地方都市のみならず大都市圏においても)にとって決定的であったというのが、中心的な枠組みである。本稿では、旧日本軍が占有していた「軍用地」を持つ地域として三重県と群馬県を取り上げる。そして、三重県の地方都市、群馬県の地方都市において、軍都の空間がどのように都市形成の核となってきたのかを素描する。 アメリカの都市社会学を範として発展してきた日本の都市社会学は、できるだけその理論に適合的な事例を取り上げ、理論を組み立ててきた。戦勝国のアメリカでは、軍用地の非軍用施設への転用という事態が行われなかったのであり、日本の社会学は軍施設の転用という都市形成の重大な契機を見落としてきてしまったのだろう。本稿では、軍都の空間の変容をみていくことで、日本における新しい都市空間の社会学を構想するものである。
著者
種田 博之
出版者
学校法人 関西学院大学先端社会研究所
雑誌
関西学院大学先端社会研究所紀要 (ISSN:18837042)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.1-16, 2022 (Released:2022-04-01)

子宮頸がんはHPV(ヒトパピローマウィルス)の持続感染が主要な原因とされる。そこから、HPVに対する感染予防ワクチンが作られた。2013年4月、予防接種法の改正にともない、HPVは定期予防接種のA類疾病(1類疾病)に指定された。これにより、被接種者においてはHPVワクチン接種を受けることが努力義務となり、ワクチン接種事業者側(=市町村長ないし知事)には予防接種の勧奨が課せられた。この予防接種法2013年改正に寄与したのが、厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会(審議会)である。本稿は、審議会において、HPVワクチン(ないし当該ワクチン接種)がどのように語られて、HPVが定期予防接種のA類疾病に指定されたのかを、「境界作業(boundary work)」の視点から明らかにする。境界作業とは、科学と行政といった制度とのあいだなどで、ある知識の正しさや妥当性にかんして線引き(評価)をおこなうことである。厚生労働省は、審議会にHPVのB類疾病(2類疾病)への分類を諮った。しかし、審議会において、ワクチン接種による健康被害に対する補償という点から、異論が出た。そこで、厚生労働省は1類疾病概念自体の変更をおこなって、HPVを1類疾病に該当させた。これは、審議会において望ましいHPVワクチン接種のあり方をめぐって境界作業が発生し、調整された結果である。
著者
山口 覚
出版者
学校法人 関西学院大学先端社会研究所
雑誌
関西学院大学先端社会研究所紀要 (ISSN:18837042)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.115-131, 2012 (Released:2021-05-15)

後期資本主義の時代における脱工業化の進展の中で、関西の産業界は厳しい状況に置かれている。また、資本や人のグローバルな移動によって「世界都市」としての東京の位置づけが強まっている。関西の衰退と東京一極集中という空間の再編成のもとで、もともと移動性が低かったはずの関西の私鉄系不動産資本による首都圏への進出という現象が確認される。1970年頃における近鉄不動産の先行例もあるが、2000年以降には京阪電鉄不動産、そして本稿で扱う阪急不動産が新たに首都圏への進出を開始した。鉄道沿線開発というビジネスモデルないし「阪急文化」を重視してきたはずの阪急不動産がなぜ、いかに首都圏進出を進めてきたかを明らかにする。