著者
伊藤 久志 菅野 晃子
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.193-203, 2022-05-31 (Released:2022-07-28)
参考文献数
23

本研究の目的は、行動論的アプローチに基づく自閉スペクトラム症と知的障害児者に対するトイレットトレーニングにおいて、What Works Clearinghouseが作成した「エビデンスの基準を満たすデザイン規準」に従った単一事例実験計画研究を抽出してメタ分析を行うことである。メタ分析に組み入れるために最終的に抽出された文献7本の統合された効果量は0.77[0.66—0.88]であった。標的行動に関して、3種類(排尿のみ/排便のみ/排泄関連行動を含む)に分類したところ、排尿のみを扱った文献は4本該当し効果量は0.88[0.75—1.00]であった。排尿訓練に関する実践研究が進展してきたことが明確となった。今後、エンコプレシスを伴わないケースの一般的な排便訓練をエビデンスの基準を満たすデザイン規準に従って進めていく必要がある。
著者
高山 智史 佐藤 寛
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.183-191, 2022-05-31 (Released:2022-07-28)
参考文献数
31

本研究の目的は、小堀・丹野(2002)で確認された完全主義が抑うつに至るプロセスを、不安の影響を考慮して再検討することであった。大学生346名を対象として、完全主義、抑うつ、不安をそれぞれ測定した。その結果、小堀・丹野(2002)と一致する知見として、(1)完全性欲求は高目標設置と失敗恐怖を促進する、(2)高目標設置は抑うつを抑制する可能性がわずかながらある、といった点が示唆された。一方で新たな知見として、(3)失敗恐怖は抑うつと直接的な関係は示されず、不安を媒介して間接的に抑うつを促進する関係性のみを示す、(4)高目標設置は不安を抑制する、といった点が示唆された。これらの結果から、抑うつと不安の改善を目的とした心理学的支援に完全主義を応用する意義について議論した。
著者
中西 陽 石川 信一
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.11-21, 2021-01-31 (Released:2021-05-18)
参考文献数
33

本研究の目的は、小中学生の自閉症的特性と抑うつ症状の関連およびその媒介要因としてソーシャルスキルと友人との関係性を仮定したモデルを検証することであった。対象者は、小学4年生から中学3年生までの子ども(392名)とその母親であった。自閉症的特性とソーシャルスキルは母親の評定、友人との関係性と抑うつ症状は対象児の自己評定により測定した。構造方程式モデリングによる多母集団同時分析の結果、小学生男子、中学生男子、中学生女子においては、自閉症的特性のうち社会性の問題が、ソーシャルスキル、友人との関係性を媒介して抑うつ症状と関連することが示された。小学生女子においては、ソーシャルスキルと友人との関係性に関連が見られなかった。本研究は、自閉症的特性のうち社会性の問題が強い子どもの抑うつの予防において、ソーシャルスキル介入が重要であることを示唆した。
著者
大井 瞳 中島 俊 宮崎 友里 井上 真里 堀越 勝
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.119-126, 2021-05-31 (Released:2021-11-17)
参考文献数
35
被引用文献数
1

国連サミットで掲げられた持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)の保健分野においてはあらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進することが目標に掲げられている。SDGsで重視されている「誰一人取り残さない」という点においては、遠隔での認知行動療法(Cognitive Behavior Therapy: CBT)が有効な手段となりうる。遠隔CBTは、感染症の拡大、セラピストの不足といった理由で対面のCBTを受けることが困難な場合にもCBTの提供が可能となる手段である。一方で、遠隔CBTが主流となることによって、心理療法提供の適用から外れてしまう人、すなわち、取り残される人が生じるおそれがある。本稿では、遠隔CBTの適用が難しいケースとその支援について、(1)デジタルデバイド、(2)クライエントの病態や障害、(3)緊急対応、の3点から述べた。遠隔CBTの役割と限界を認識したうえで、「誰一人取り残さない」よう心理的援助を提供することの重要性が示唆された。
著者
久保 尊洋 瀬在 泉 佐藤 洋輔 生田目 光 原井 宏明 沢宮 容子
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
pp.21-007, (Released:2022-05-20)
参考文献数
27

本研究の目的は、動機づけ面接の中核的スキルはスマートフォン使用についてのチェンジトークを引き出すかどうかを明らかにすることであった。実験参加者50名に対し、スマートフォン使用の問題を標的行動にし、OARSと呼ばれる動機づけ面接の中核的スキルを用いるOARS条件と、標的行動に関する思考、感情、そのほかの行動について共感的に聞く非OARS条件を設定し、1回の面接で交互に条件を変えて介入を行うABABデザインで実験を行った。実験参加者の発言の頻度に対するチェンジトークの頻度の百分率(以下、チェンジトーク(%)とする)を条件ごとに算出し比較した。結果、OARS条件のほうが有意にチェンジトーク(%)が高かった。同条件では、問題改善の重要度が高いとチェンジトーク(%)も高いことがわかった。動機づけ面接の中核的スキルは、スマートフォン使用についてのチェンジトークを引き出すスキルであることが示唆された。
著者
河村 麻果 入江 智也 関口 真有 坂野 雄二 本谷 亮
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.73-88, 2022-01-31 (Released:2022-04-01)
参考文献数
31

認知行動療法をより効果的に提供するためには、セラピストを対象とした同盟の質の向上を促す訓練が必要である。そこで本研究では、同盟の質の向上に重要だと考えられる訓練要素から構成される訓練プログラムを作成し、その効果検証と、よりよい訓練プログラムを作成するための情報を得ることを目的としたパイロットスタディを実施した。その結果、同盟の質の向上についての訓練効果はわずかであったが、同盟の質の改善のためのスキルを用いる自信を高めることができた。今後は、同盟の質を評価する方法を改善し、基礎的な治療関係スキルの訓練と困難事例を対象に治療関係スキルを用いるための2つのステップから訓練を構成する必要性があることが明らかとなった。
著者
吉良 悠吾 尾形 明子 上手 由香
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.137-146, 2018-09-30 (Released:2019-04-05)
参考文献数
37

本研究の目的は、高校生の抑うつとソーシャルスキルの行動スキルとの関連性について、相手の行動の意図を読み取る解読スキルや、対人場面において生じる感情をコントロールする感情統制スキルといった、ソーシャルスキルの認知過程スキルが調整効果を持つかどうかを検討することであった。高校1年生を対象に質問紙調査を行い、有効回答が得られた184名について階層的重回帰分析を行った結果、感情統制スキルが低ければ、主張性スキルが高いほど抑うつが高かった。また、解読スキルが低ければ、関係性を築くスキルが高いほど抑うつが低く、解読スキルが高ければ、関係性を維持するスキルが低いほど抑うつが高いことが示された。このことから、高校生の抑うつの低減のためには、主張性スキルとともに感情統制スキルを身につける必要があることや、解読スキルの高い生徒が持つ他者の反応を気にする傾向が、行動スキルの抑うつ低減効果を弱める可能性が示唆された。
著者
有園 正俊
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
pp.20-022, (Released:2021-11-22)
参考文献数
8

先行研究によると、児童期のマルトリートメント(childhood maltreatment; CM)を体験したことで、情動の調節が困難な特性をもつことや強迫症/強迫性障害(obsessive–compulsive disorder; OCD)の症状に潜在的に影響する可能性が示されている。本症例の患者は、CMを体験し、対人関係でストレスを感じても自分の意見を表現抑制する傾向があった。そして、成人になって職場でのストレスが強い出来事をきっかけに、他者への加害の強迫観念を抱くOCDを発症した。重症度が増し、自宅で一人のときは、ほとんど身動きしないでいた。自宅にいる患者に音声通話を主とした遠隔診療で認知行動療法を行った。この方法は、患者が強迫症状の現れる場所にいながら、治療者と課題をできるなどのメリットがあり、症状は改善した。本研究では、その患者のCM体験とパーソナリティ、OCDへの影響を検討した。
著者
野田 航 石塚 祐香 石川 菜津美 宮崎 優 山本 淳一
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
pp.20-019, (Released:2021-06-21)
参考文献数
17

本研究の目的は、発達障害のある児童2名の漢字の読みに対して刺激ペアリング手続きによる遠隔地学習支援を実施し、その効果と社会的妥当性について検討することであった。事例Iにおいてはタブレット端末による刺激ペアリング手続きの教材を用いた自律的な学習をビデオ通話およびメールで遠隔地学習支援を行い、事例IIにおいてはビデオ通話を用いて教材提示から評価までをすべて遠隔で実施した。両事例とも、課題間多層プローブデザインを用いて介入効果を検証した結果、漢字単語の読みの正答率が向上した。また、対象児と保護者を対象に実施した社会的妥当性のインタビューから、本研究の遠隔地学習支援は高く評価されていた。一方で、事例Iにおいては介入効果の維持に一部課題が残った。介入効果を維持させるための介入手続きの改善、介入効果の般化の検討、介入実行度の検討など、今後の課題について考察した。
著者
重松 潤 尾形 明子 伊藤 義徳
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.179-189, 2020

<p>認知行動療法の技法論に関する知見は多いが、認知行動療法で想定される治療的な認知変容のプロセスを辿っているか判別する視点に関する知見は乏しい。近年、その視点の一つとして「腑に落ちる理解」が提案されている。しかし、セラピストがどのようにクライエントの「腑に落ちる理解」を観察しているかは不明である。そこで、本研究では、認知行動療法において「腑に落ちる理解」を扱う重要性の確認も踏まえて、認知行動療法を専門とする心理士21名にインタビュー調査を行った。その結果、臨床場面で「腑に落ちる理解」を観察した報告と「腑に落ちる理解」を捉える具体的な視点が抽出された。今後は臨床場面で使用できる「腑に落ちる理解」の指標の作成が求められる。</p>
著者
谷 晋二
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.111-119, 2020-05-31 (Released:2020-10-23)
参考文献数
41

本論文は、特別支援分野における認知行動療法の概観と今後の課題についてまとめている。特別支援教育分野は、障害の特性や対象者の年齢によって、支援の目的や用いられる技法が異なってくるので、障害のある人への直接支援、家族支援、そして支援に関わる支援者支援という三つの領域から検討を行い、公認心理師が身につけておくべき技法や態度を要約した。次に、特別支援領域に共通すると考えられる求められる役割について述べ、最後に、この分野での期待される今後の研究について意見を述べた。