著者
西村 勇人 橋本 桂奈 水野 舞 佐藤 充咲
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.217-224, 2022-05-31 (Released:2022-07-28)
参考文献数
16

本研究では自閉スペクトラム症・注意欠如多動症のいずれか、もしくは両方の診断を受けた子どもの親グループに対する短縮版のペアレントトレーニングの有効性について検討した。プログラムは全5回で(1)ターゲット行動の選定と観察の方法、(2)適切な強化の仕方、(3)課題分析と環境の工夫、(4)トークンエコノミー、(5)消去とまとめ、で構成された。参加した22名の親の子育てストレスと抑うつ症状の変化を測定し、目標行動がどの程度達成されたか評定してもらった。分析の結果、子育てストレスは有意に低下したが、抑うつの低下については有意傾向であった。親の報告によるターゲット行動の達成度は74.29%であり、子どもの行動にも一定程度の変化が見られたと親は評価していた。これらの結果より、対象を特定の疾患に限定せず短期間で終了するという、親がより参加しやすいペアレントトレーニングの可能性が示された。
著者
国里 愛彦 片平 健太郎 沖村 宰 山下 祐一
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.1-10, 2022-01-31 (Released:2022-04-01)
参考文献数
28

本論文では、計算論的アプローチについて紹介する。計算論的アプローチとは、刺激と反応との間にある脳の情報処理過程を明示的に数理モデルにする研究手法である。この計算論的アプローチを精神医学研究で用いると計算論的精神医学となる。認知行動療法のモデルでは、刺激と反応との間の過程を言語的にモデル化しているが、計算論的アプローチを用いることで、モデルの洗練化、シミュレーションを通した新たな現象・介入の予測なども可能になることが期待される。まず、本論文では、計算論的アプローチについて説明し、その代表的な4つの生成モデルについて解説する。さらに、計算論的アプローチを用いた認知行動療法研究として、うつ病と強迫症に対して強化学習モデルを用いた研究について紹介する。また、計算論的アプローチを研究で用いる際の推奨実践法について、4つのステップに分けて解説する。最後に、今後の計算論的アプローチの課題について議論する。
著者
岡島 純子 中村 美奈子 石川 愛海 東 美穂 大谷 良子 作田 亮一
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.47-60, 2021-01-31 (Released:2021-05-18)
参考文献数
32

本研究では、不安症状がみられる小学2~6年生の自閉スペクトラム症(ASD)児とその親に対して、認知行動療法(CBT)と親訓練(BPT)を実施し、その効果を検討した。1回120分のCBTセッションを6回、BPTセッションを6回実施した。参加者は、12組の親子であった。親と教師により、子どもの不安症状、自閉的行動特徴、情緒と行動の問題について事前、事後に評価された。自己評定の不安症状も事前と中期(CBT後)に評価された。t検定の結果、自己評定による不安症状は、「社会恐怖」において、事前よりもCBT後のほうが減少する傾向がみられた。自閉的行動特徴では、親評定の「対人的気づき」、「対人コミュニケーション」、「対人応答性尺度合計」、情緒と行動の問題では、教師評定の「仲間関係の問題」が、事前よりも事後のほうが有意に減少していた。一方で、親の精神的健康度に変化はみられなかった。
著者
永田 忍 松本 一記 関 陽一 清水 栄司
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
pp.20-017, (Released:2021-06-17)
参考文献数
14

パニック症は、再発性のパニック発作と予期不安に特徴づけられ、パニック発作への恐怖から日常生活に支障をきたす不安症である。パニック症の治療に関して、認知行動療法の有効性が確立されており、日本人を対象にした個人認知行動療法では、対面と遠隔で介入した場合の安全性と実用可能性が立証されている。本研究では、過敏性腸症候群が併存するパニック症の成人男性に対して、テレビ会議システムを用いた遠隔認知行動療法を、毎週1セッション50分連続16週間実施した治療経過を報告する。介入前後には、パニック症と過敏性腸症候群の症状が顕著に改善し、治療終結後12カ月時点でも治療効果が維持されていた。本症例の結果は、テレビ会議システムを用いた遠隔認知行動療法は、対面での実施と同様に、パニック症を治療可能で、過敏性腸症候群を併存している場合にも有効であることを示唆している。
著者
小関 俊祐 伊藤 大輔 小野 はるか 木下 奈緒子 栁井 優子 小川 祐子 鈴木 伸一
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.15-28, 2018-01-31 (Released:2018-06-18)
参考文献数
10
被引用文献数
3

本研究の目的は、日本の認知行動療法の実践家を育成するために不可欠と考えられる教育研修内容を明らかにすることであった。まず、国内外の認知行動療法家4名によって、英国認知行動療法学会が認証した大学の35の研究科を対象に、教育内容項目が網羅的に収集された。次に、国内外の認知行動療法家7名によって、英国におけるガイドラインにおける教育カテゴリーと日本での教育制度の状況を参照しながら、収集された580項目の教育内容について、分類・整理が行われた。その結果、最終的に、3カテゴリー、62項目が得られ、日本の認知行動療法の教育内容リストが作成された。今後、本研究を基盤として、教育研修内容を構成することが求められる。
著者
今北 哲平 竹田 伸也 田治米 佳世
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.167-179, 2021-05-31 (Released:2021-11-17)
参考文献数
17

心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対する認知行動療法の有効性が明らかにされている一方で、課題として生活の質(QOL)の評価や、より対象者の状態像に合わせた介入法の検討が不十分であることが指摘されている。本研究では、PTSDに対する認知行動療法がQOLに及ぼす効果について、単一事例を通して検討した。患者は、職場でのパワーハラスメント被害によってPTSDを発症した女性であった。休職せずにぎりぎりの状態で職業生活を維持しており、働きながらの治療を希望していた。介入は心理教育、リラクセーション、加害者との関係の振り返り、価値に沿った目標設定などから構成され、隔週から月1回のペースで計21回、およそ1年半にわたり実施した。結果、価値に沿った目標設定の直後から価値に沿った行動の拡大、顕著なQOLの向上がもたらされ、改善に至った。今後は本症例のように、過去のトラウマではなく現在のQOLに焦点を当てた介入のエビデンス蓄積が期待される。
著者
野田 航 石塚 祐香 石川 菜津美 宮崎 優 山本 淳一
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.93-105, 2021-05-31 (Released:2021-11-17)
参考文献数
17
被引用文献数
1

本研究の目的は、発達障害のある児童2名の漢字の読みに対して刺激ペアリング手続きによる遠隔地学習支援を実施し、その効果と社会的妥当性について検討することであった。事例Iにおいてはタブレット端末による刺激ペアリング手続きの教材を用いた自律的な学習をビデオ通話およびメールで遠隔地学習支援を行い、事例IIにおいてはビデオ通話を用いて教材提示から評価までをすべて遠隔で実施した。両事例とも、課題間多層プローブデザインを用いて介入効果を検証した結果、漢字単語の読みの正答率が向上した。また、対象児と保護者を対象に実施した社会的妥当性のインタビューから、本研究の遠隔地学習支援は高く評価されていた。一方で、事例Iにおいては介入効果の維持に一部課題が残った。介入効果を維持させるための介入手続きの改善、介入効果の般化の検討、介入実行度の検討など、今後の課題について考察した。
著者
亀谷 知麻記 富田 望 武井 友紀 梅津 千佳 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
pp.21-022, (Released:2023-01-12)
参考文献数
30

社交不安の特徴として、他者からの否定的評価に対する恐れ(FNE)、他者からの肯定的評価に対する恐れ(FPE)、それらと関わる注意バイアスが挙げられる。注意バイアス研究の多くはFPEやポジティブ刺激を含めていないため、本研究ではFNEとFPEによって表情刺激への注意バイアスがどう異なるかを明らかにすることを目的とした。大学生と大学院生55名を対象に質問紙への回答と、否定顔、中性顔、肯定顔の表情画像を用い、否定顔への注意バイアス得点と肯定顔への注意バイアス得点を算出するドット・プローブ課題を実施した。その結果、FNEが高くなるほど否定顔に対する注意バイアスと有意に関連することが示された一方、LSASとより強い関連を示したFPEは注意バイアスと関係しないことが示された。今後はFPEの影響をさらに検討するために、実際の評価場面を使った研究の実施が望まれる。
著者
久保 尊洋 瀬在 泉 佐藤 洋輔 生田目 光 原井 宏明 沢宮 容子
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.173-182, 2022-05-31 (Released:2022-07-28)
参考文献数
27

本研究の目的は、動機づけ面接の中核的スキルはスマートフォン使用についてのチェンジトークを引き出すかどうかを明らかにすることであった。実験参加者50名に対し、スマートフォン使用の問題を標的行動にし、OARSと呼ばれる動機づけ面接の中核的スキルを用いるOARS条件と、標的行動に関する思考、感情、そのほかの行動について共感的に聞く非OARS条件を設定し、1回の面接で交互に条件を変えて介入を行うABABデザインで実験を行った。実験参加者の発言の頻度に対するチェンジトークの頻度の百分率(以下、チェンジトーク(%)とする)を条件ごとに算出し比較した。結果、OARS条件のほうが有意にチェンジトーク(%)が高かった。同条件では、問題改善の重要度が高いとチェンジトーク(%)も高いことがわかった。動機づけ面接の中核的スキルは、スマートフォン使用についてのチェンジトークを引き出すスキルであることが示唆された。
著者
倉重 乾 田中 恒彦
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.71-81, 2021-05-31 (Released:2021-11-17)
参考文献数
22

遠隔心理支援における一つの方法として、コンピュータ課題を用いて対象者の注意バイアスを修正するABMがある。ABMのオンライン実施は治療の均質性や実施の簡便さなど多くの利点をもっている。しかし、オンラインのABMについての包括的な分析は行われておらず、その治療効果は明らかとなっていない。本研究ではメタ分析の手法を用いてオンラインで実施されたABM研究を包括的に分析し、オンラインABMの全体的な有効性について評価した。オンラインでABMを実施した10報の文献を分析した結果、オンラインABMの群間効果量はg=−0.010で統計的に有意ではなかったものの、群内効果量はg=0.489と安定した治療効果を示した。治療効果に影響を与える要因として診断の有無、ABM手法、対象疾患を考慮したが、これらの要因は治療効果と関連していなかった。
著者
宮崎 哲治
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.89-101, 2022-01-31 (Released:2022-04-01)
参考文献数
31

統合失調症患者に併存する強迫症状の有病率は高い。そして、強迫症状を併存する統合失調症患者の場合、重い抑うつ症状、多くの自殺企図、重い社会機能不全、低いクオリティ・オブ・ライフ、長い入院期間を呈する。それゆえ、統合失調症患者に併存する強迫症状の治療は重要である。今回、30歳代前半の女性統合失調症患者に併存するolanzapine誘発性強迫症に対して曝露反応妨害法(ERP)を用いた行動療法を施行した症例を経験した。背景に損害回避がある強迫症状については行動療法により改善を認め、行動療法だけでは改善しないと思われた背景にしっくりこない感覚や不完全さがある強迫症状についてはolanzapineを漸減中止しつつ行動療法を施行することにより改善を認め、強迫症状は寛解に至った。この症例について若干の考察を加え報告する。統合失調症患者に併存する強迫症状に対してERPを施行する際の注意点についても記した。
著者
小関 俊祐 小関 真実 中村 元美 大谷 哲弘 国里 愛彦
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.29-39, 2018-01-31 (Released:2018-06-18)
参考文献数
21
被引用文献数
3

本研究は、児童の行動抑制および行動賦活の傾向を把握する自己記入式尺度のBehavioral Inhibition System and Behavioral Activation System Scale(児童用BIS/BAS尺度)日本語版を作成し、信頼性と妥当性の検討を行うことを目的とした。本研究では、小学3年生から6年生1,624名を対象に調査を行った。確認的因子分析の結果、児童用BIS/BAS尺度は原版と同様の4因子構造を示した。信頼性において、児童用BIS/BAS尺度はBAS-刺激追求のα係数は低かったが、全体としては十分な内的整合性と再検査信頼性を示した。また、BISは、抑うつと正の相関を示し、外向性および情緒安定性と負の相関を示した。BASは、攻撃行動および外向性と正の相関を示し、抑うつおよび情緒安定性と負の相関を示した。以上より、児童用BIS/BAS尺度の構成概念妥当性が確認された。
著者
首藤 祐介 渡辺 綾子 嵩原 広宙 田中 秀樹
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.125-136, 2019-09-30 (Released:2020-06-25)
参考文献数
23

本研究の目的は高齢者に対する全3回2週間の短期集中型睡眠改善プログラムの実践を報告することであった。従来の研究よりも短期間で実施する睡眠改善プログラムを、離島A在住の高齢者16名と離島B在住の高齢者23名の計39名に実施した。その結果、睡眠改善行動の頻度増加、睡眠障害の重症度軽減、主観的な寝つき、熟睡感、日中のすっきり感の改善が認められた。一方で、睡眠障害の重症度においては先行研究と比べて限定される結果であった。また、離島ごとの分析では、睡眠障害の改善や主観的評価の一部において離島Aの改善が大きいことが示された。よって、従来よりも短期型であっても高齢者の睡眠を改善できる可能性が示唆された。