著者
岡島 義 秋冨 穣 村上 紘士 谷沢 典子 梶山 征央
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
pp.20-025, (Released:2021-06-11)
参考文献数
24

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)禍では、睡眠の悪化が報告されている。しかしながら、海外と国内では感染対策が異なり(ロックダウンvs.外出自粛要請)、また、COVID-19流行後の調査しか行われておらず、流行前後の睡眠状態の比較を行った研究は報告されていない。本研究では、睡眠記録アプリ利用者6,963名のデータを用いて、2020年1~6月の睡眠状態について、2018年および2019年の同時期の睡眠データと比較し、COVID-19禍における睡眠変化について検討することを目的とした。対数線型モデルを用いて検討した結果、2020年4月、5月、6月時の睡眠時間が6時間未満の者の割合が、ほかの年と比べて少ないことが明らかとなった。そのほかの睡眠指標に関しては関連が認められなかった。以上のことから、COVID-19禍の活動自粛期間は、睡眠時間の延長をもたらすことが明らかとなった。
著者
丹野 義彦
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.49-57, 2020-05-31 (Released:2020-10-23)
参考文献数
14

国家資格である公認心理師制度が成立し、公認心理師の養成が始まった。公認心理師の養成や国家試験において、認知行動療法やエビデンスベイスト・アプローチが重視されている。日本の公認心理師に認知行動療法を普及させるための課題と方法を議論した。うつ病に対する認知行動療法のメタ分析によると、心理師が実施した認知行動療法は、待機リストや他の心理療法より有意に効果が高かった。日本で行われたうつ病への認知行動療法のメタ分析においても、中程度ないし大きな効果が認められた。公認心理師が行う認知行動療法の一刻も早い保険診療報酬化が望まれる。認知行動療法の養成について良きモデルとなるのは、英国認知行動療法学会によるセラピスト認定基準と、英国政府による心理学的治療アクセス改善政策におけるセラピスト認定基準である。
著者
井上 和哉 佐藤 健二 横光 健吾 嶋 大樹 齋藤 順一 竹林 由武 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.101-113, 2018-05-31 (Released:2019-04-05)
参考文献数
34
被引用文献数
2

本研究では、スピーチ場面に対するウィリングネスの生起には、価値の意識化のみで十分であるか、それとも、価値の意識化の前に創造的絶望を付加することが必要であるかを検討した。社交不安傾向者の学生22名を創造的絶望+価値の意識化群、価値の意識化のみ群、統制群の3群に割り当て、介入効果の比較を行った。価値の意識化のみ群、統制群には創造的絶望を実施せず、回避行動が一時的に有効であることを話し合った。介入から一週間後のスピーチ課題時に、創造的絶望+価値の意識化群、価値の意識化のみ群には価値を意識させ、統制群には価値を感じないものを意識させた。その結果、創造的絶望+価値の意識化群のスピーチ場面に対する前向き度が統制群より増加した可能性が示された。また、創造的絶望+価値の意識化群のスピーチ場面から回避したい度合いが他群より減少した可能性が示された。
著者
熊野 宏昭 富田 望 仁田 雄介 小口 真奈 南出 歩美 内田 太朗 武井 友紀 榎本 ことみ 梅津 千佳
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
pp.20-032, (Released:2021-06-25)
参考文献数
17

パンデミック下の心療内科プライマリーケア施設において、遠隔認知行動療法を導入したプロセスについて報告する。対面カウンセリングからの移行に要した期間は1カ月余と比較的短期間であったが、これには留意点をまとめた文献と使い慣れたWeb会議ツールZoomの活用が有用であった。6カ月弱で22例が導入され、延べ92回のカウンセリングが実施されたが、診断、支援技法の内訳は対面時と同様であった。中断ケースはなく、昨年度の同時期よりも継続率は高かった。患者の満足度は昨年度と変わらず、主担当・副担当から見た支援の質では、デメリットよりもメリットに関する報告が多かった。修士課程1年生の陪席実習の結果では、同席して直接体験することによる効果は非常に大きく、今後の臨床実習の新しい形としても注目すべきであると思われた。
著者
竹林 由武
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.145-154, 2022-05-31 (Released:2022-07-28)
参考文献数
24

シングルケース実験デザイン(single-case experimental design: SCED)は、個人や集団に実施した介入の有効性評価に用いられる研究デザインの一つである。本稿では、SCEDの代表的な有効性評価法である視覚分析の概要と信頼性に関する問題を述べたうえで、視覚分析を補助する代表的な方法を解説する。具体的には、視覚補助を用いて構造化された視覚分析手法と統計指標を用いた方法について述べる。個人内効果の統計指標は、重複率に基づくTau系指標、フェーズ間の平均値差や対数反応比、回帰モデルに基づく方法を紹介する。個人間効果の統計指標として、階層線形モデルに基づく個人間標準平均値差や個人内効果指標のメタ分析的な統合手法を紹介する。最後に多様な統計指標から適切なものを選択するための指針を議論し、視覚分析と統計指標を簡便に算出できるソフトウェアやウェブアプリを紹介する。
著者
渡邊 明寿香 仲座 舞姫 石原 綾子 山本 和儀 伊藤 大輔
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.137-147, 2019-09-30 (Released:2020-06-25)
参考文献数
36

本研究の目的は、職場復帰後に生じると想定される問題に焦点を当てた介入コンポーネントを付加した集団認知行動療法の効果を検証することであった。うつ症状を主訴とした休職者21名(男性11名、女性10名、平均年齢40.52±8.45歳)に対して、週1回150分、計8回のプログラムが実施された。プロセス変数として、自動思考、認知的統制、行動活性化、環境中の報酬知覚、被受容感・被拒絶感に関する各尺度と、効果変数として、抑うつ・不安、社会機能、職場復帰の困難感に関する各尺度を介入前後で実施した。分析の結果、プロセス変数の改善がみられ、本プログラムの妥当性が示唆された。また、本研究のプログラムによって、抑うつや不安症状、社会機能の改善とともに、部分的には職場復帰の困難感が改善されたことが示された。さらに本プログラムの参加者の復職率は高く、脱落率は低かったことからも、職場の問題に焦点化した集団認知行動療法の有効性が示唆された。
著者
野村 和孝 嶋田 洋徳 神村 栄一
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.121-131, 2020-05-31 (Released:2020-10-23)
参考文献数
30

わが国の司法・犯罪分野・嗜癖問題の認知行動療法(CBT)の実践として、2017年に創設された公認心理師がその職責を果たすためには、CBTの実践を精査し今後の課題を明らかにすることが必要である。本稿ではわが国における司法・犯罪分野の心理に関する支援を要する者の特徴と支援の枠組みを網羅的に概観し、CBTの実践における課題を検討した。そこで、プロセス指標の評価、グループワークの展開方法、抵抗や否認への対応、認知的介入、レスポンデント条件づけ、および施設内処遇と社会内処遇との連携に基づく介入の六つについて、知見を蓄積していくことが提案された。いずれの課題についても、司法・犯罪分野・嗜癖問題における支援効果を高めるために、個人と環境の相互作用の観点を持つCBTの理解の枠組みで取り組み知見を蓄積していくことが期待される。
著者
富田 望 甲斐 圭太郎 南出 歩美 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.261-272, 2021-09-30 (Released:2022-01-12)
参考文献数
30

本研究では、自己注目を誘発する音刺激を含めた注意訓練法(ATT)を作成し、通常のATTとの効果を比較した。社交不安傾向者30名を自己注目ATT群と通常ATT群に割り当て、各ATTを2週間実施し、介入前後で社交不安症状、能動的注意制御機能、スピーチ課題中の自己注目の程度や翌日の反芻(PEP)が変化するかを検討した。その結果、両群で社交場面への恐れは低減したが、自己注目ATT群で減少量が大きいことが示された。観察者視点による自己注目は両群ともに減少したが、PEPは自己注目ATT群にのみ減少が見られた。以上より、自己注目を誘発する刺激を使ったATTでは、SAD症状やPEPに対する効果が大きいことが示唆されたが、その作用機序の違いに関してはさらなる検討が必要と考えられた。
著者
宮崎 哲治
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.33-45, 2021-01-31 (Released:2021-05-18)
参考文献数
13

症例は、強迫観念を主症状とする40歳代前半の男性強迫症患者。患者は初診時、悪い人間のオーラが襲ってくるというイメージが生じ、自分も悪い人間になってしまうのではないかという不安に圧倒され、仕事にも行けなくなっていた。無念無想の境地を思い出してもらうために行った剣道の素振りにより、強迫観念に対する望ましい対処の仕方を患者が体得し、imaginal exposure法を入院中集中的に行うことにより、強迫症状の改善に至った。これまで武道やスポーツで無念夢想の境地に入るような体験をしたことがある場合、再度その体験ができるような稽古や練習を行うことによって、強迫観念に対する望ましい対処の仕方を体得することは、強迫症の治療に寄与する可能性があると思われた。筆者なりの工夫を紹介するが、強迫症に対するimaginal exposure法などの行動療法を施行する際、本論文が参考資料になれれば望外の喜びである。
著者
石川 信一 小野 昌彦
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.99-110, 2020-05-31 (Released:2020-10-23)
参考文献数
73

学校における行動的・情緒的問題は近年は増加の一途を辿っている。そのため、この社会的問題に対する適切な支援と予防は急務であるといえ、現在のエビデンス水準と適用可能性を鑑みると、認知行動療法が重要な役割を果たすと考えられる。教育場面における認知行動療法の現状を展望すると、不安とその関連する問題、抑うつ、怒り、不登校に対する指導・助言や予防的取り組みに関する研究が積み重ねられてきた。以上を踏まえ、認知行動療法を教育場面で効果的に適用する際には、科学者、教育者、支援者、創造者としての姿勢が求められることが議論された。そして、認知行動療法は、個別の指導・助言、集団に対する介入、「チーム学校」としてのアプローチが可能であることが示された。今後の課題としてエビデンスの更なる蓄積、教育・研修方法の構築と普及、組織的・大局的な活動の必要性が述べられた。
著者
小野 昌彦 江角 周子 佐藤 亮太朗
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.307-318, 2021-09-30 (Released:2022-01-12)
参考文献数
15

本研究では選択性緘黙の中学2年女子に学校場面における発話行動形成のため、包括的支援アプローチを適用し、その効果を検討した。彼女の選択性緘黙は発現前条件が学校場面で誘発されるストレス反応、維持条件が彼女の代替発言をする生徒および筆談をする教員の存在と考えられた。そこで、彼女の学校場面でのストレス反応低減と発話行動形成を目的に、不安階層表の段階を唾液アミラーゼ評価で確認し、その段階のストレス反応の程度に合わせて刺激フェィディング法、系統的脱感作法、現実的脱感作法、主張反応法を併用適用した。また、彼女の選択性緘黙維持条件除去の目的で学校介入をした。専門支援機関でのセッション4回、学校訪問指導4回の10カ月の支援の結果、彼女の選択性緘黙は解消し学校場面における活発な発話行動が形成され、予後も良好であった。包括的支援アプローチの選択性緘黙への有効性が示され、今後の課題として技法選択基準の明確化をあげた。
著者
菊田 和代 石川 信一
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
pp.21-027, (Released:2022-09-08)
参考文献数
25

社交不安症に対する認知行動療法(CBT)の効果は実証されているが、職域において早期に社交不安症状とプレゼンティズムに介入した研究は乏しい。本研究では未診断の社交不安傾向をもつ従業員13名に対し、対象者の業種と職業に最適化したCBTのプログラムを用いて介入を行った。CBTのプログラムは、隔週で7回の基本セッションを実施したのち、3か月間の実践セッションを実施した。実施前と基本セッション後、実践セッション後に、社交不安症状とプレゼンティズム、障害度が評価され、プログラムの前後で社交不安症状とプレゼンティズムに改善が認められた。この結果から、職域においてCBTに基づいたメンタルヘルスの二次予防的介入が有効であり、特に、業務で生じている問題に直接的に介入することにより、プレゼンティズムを改善できることが示唆された。
著者
竹森 啓子 下津 咲絵 佐藤 寛
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.163-171, 2022-05-31 (Released:2022-07-28)
参考文献数
27

本研究は教員のメンタルヘルスリテラシー(MHL)と児童のサポート知覚、抑うつ、不安の関連を検討することを目的とした。14名の教員とその担任学級の児童425名を対象に質問紙調査を実施した。その結果、教員のMHLと児童のサポート知覚は相関関係にはないことが示された。また、階層線形モデリングの結果、児童の抑うつ症状の抑制には教員からのサポートを学級全体が知覚することと、児童個人が知覚することの両方が有効であるであることが示された。一方で児童の不安症状の抑制には児童個人がサポートを知覚することのみが有効であった。さらに教員が対処法に関するMHLが高いことが児童の不安が抑制されることが明らかになった。以上の結果を踏まえて、教員対象のMHL教育の在り方を議論した。
著者
東 美穂 冨樫 耕平 大森 由紀乃 山本 淳一
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.235-247, 2021-09-30 (Released:2022-01-12)
参考文献数
11

本研究では、発達障害のある幼稚園年長児に対して、「家族」「先生」「友達」とのコミュニケーション行動の獲得を支援する家庭用教材を作成し、オンライン発達行動支援を実施した。課題間多層ベースライン法を用い、カテゴリーごとの介入効果を検討した。支援者が母親に対して行った半構造化面接をもとに、標的行動を選定した。支援者はプローブ試行のみを実施し、母親が家庭トレーニング試行の実施者となった。その結果、3種類のコミュニケーション行動が獲得され、100%に近い正反応率で推移した。1カ月後フォローアップでも高い値を示した。母親の満足度調査の結果からは、高い満足度と低い負担度が得られた。
著者
田中 佑樹 嶋田 洋徳 岡島 義 石井 美穂 野村 和孝
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
pp.20-021, (Released:2021-06-17)
参考文献数
33

本研究においては、ユーザーからの入力データに基づく自動化された個別フィードバックによって、ストレッサーに応じたコーピングの実行と睡眠の質の改善を促すストレスマネジメントのためのスマートフォンアプリケーションを開発し、労働者を対象としてその有効性を検討することを目的とした。効果検証は、コーピングレパートリー、睡眠の質、心理的ストレス反応を指標として、アプリケーション群、ワークシート群、個別面接群の3群における介入前後の比較が行われた。計63名分のデータを分析した結果、コーピングレパートリーおよび心理的ストレス反応には、アプリケーション群とほかの2群の間に有意な効果の差異は見られなかったものの、睡眠の質は、むしろ個別面接群のみにおいて有意な改善が認められた。したがって、開発されたスマートフォンアプリケーションのコンテンツには改良の余地が残されていることが示唆され、今後の展望に関して考察された。
著者
岸田 広平 石川 信一
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.73-85, 2019-05-31 (Released:2019-08-23)
参考文献数
22
被引用文献数
1

本研究の目的は、児童青年の不安症と抑うつ障害に対する回避行動に焦点化した診断横断的介入プログラムの有用性と有効性に関する予備的検討を行うことであった。プログラムは個別形式の全6回であり、第1回は感情の心理教育、第2回は機能的アセスメント、第3回は回避行動の同定、第4回は回避場面の同定、第5回は回避行動への挑戦、第6回は振り返りと目標の設定であった。プログラムの対象者は、不安症または抑うつ障害を抱える児童青年8名であり、すべての対象者がプログラムを完遂した。介入の結果、臨床家評定の主診断の重症度と診断の数、自己評定の不安症状と抑うつ症状、親評定の不安症状、自己評定の情緒への有効性が示され、プログラムの有効性と有用性が示唆された。最後に、いくつかの限界はあるものの、プログラムの不安症と抑うつ障害への有効性について、エクスポージャーと行動活性化療法に基づく作用機序が議論された。
著者
佐々木 美保 宮尾 益理子 奥山 朋子 七尾 道子 越坂 理也 佐田 晶 石川 耕 水野 有三 熊野 宏昭 鈴木 伸一
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.81-91, 2018-05-31 (Released:2019-04-05)
参考文献数
24

本研究の目的は、成人2型糖尿病患者の抑うつ・不安がセルフケア行動に及ぼす影響を検討することであった。外来通院中の2型糖尿病患者65名を対象に質問紙調査を実施した。階層的重回帰分析の結果、セルフケア行動のうち、患者の食事療法遵守行動は不安から有意な負の影響が認められた。また、フットケア遵守行動では、抑うつから負の影響が認められた。一方、運動療法遵守行動には抑うつ・不安いずれからも有意な影響性は認められなかった。抑うつ・不安の高い外来通院中の2型糖尿病患者には、食事療法やフットケアに関する療養指導に先立って、セルフケア行動遵守場面における抑うつ・不安が生じる際の対処行動について、行動分析によるアセスメントと介入を行っていくことが有効であると考えられた。
著者
清水 栄司
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.59-66, 2020-05-31 (Released:2020-10-23)
参考文献数
15

日本認知・行動療法学会は、公認心理師、医師、看護師、精神保健福祉士などを対象にした認知行動療法師およびスーパーバイザーの資格認定をトレーニング・ガイドラインに基づいて行う。現在、日本の公的医療保険では医師および医師と看護師のみのため十分な普及に至っていない。うつ・不安に対する段階的ケア・モデルを取り入れ、公認心理師等の多職種による認知行動療法の提供が重要である。日本不安症学会は、外来認知行動指導料(案)にリハビリテーションの保険点数の単位制の応用を提案している。おおむね25分1単位で開始から180日以内(最大50単位まで)という設定にし、社交不安症の患者に毎週1回50分(2単位)で18週=36単位を提供したり、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の患者に毎週1回100分(4単位)で12週=48単位を提供するなど、患者の重症度やニーズに合わせて、柔軟な時間単位での提供が可能となり、認知行動療法の普及が期待される。
著者
仲上 恭子 中鹿 直樹 谷 晋二
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
pp.21-025, (Released:2022-11-29)
参考文献数
14

在宅リハビリテーションでは、高齢者特有の心理状態により目標設定が不明確となっていると指摘されている。本研究では、在宅リハビリ患者に対する価値に関する介入が、生活の質と目標設定に及ぼす効果について、単一事例を通して検討した。患者は慢性腰痛を抱える男性であり、腰痛による活動性低下と、運動の拒否が生じていた。介入は、週に2回計12回の介入セッションと、2週間後のブースターセッション1回を実施した。結果、心理的柔軟性と生活の質が向上し、運動の拒否行動が減少した。価値に基づく行動として将棋を行い、痛みがあっても活動できることに気づき、運動が価値に関連づけられたことで拒否行動が低減したと考える。また、本研究では患者本人の心理的問題だけでなく、家族やリハビリ担当者との関係性とその問題を扱うことで、さらに介入の有効性を高めることができたと考えられる。