著者
茂本 由紀 武藤 崇
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.3-14, 2018-01-31 (Released:2018-06-18)
参考文献数
23

本研究は、茂本・武藤(2017)が開発した漢字迷路課題を改良し、関係フレーム反応の測定指標としての妥当性、および抑うつ的反すうの測定指標としての適用可能性を検討することが目的であった。漢字迷路課題を中性語のみで構成された迷路と抑うつ語のみで構成された迷路の両方を含むように改良し、抑うつ語の反応時間から中性語の反応時間を減じた反応時間の差分を算出した。関係フレーム反応の妥当性の検討では、漢字迷路課題の反応時間の差分とIRAPのDIRAP得点との相関を求め、刺激の機能変換を測定する自己評定尺度の高群と低群との間で、反応時間の差分に差があるかどうかを検討した。また、抑うつ的反すうの測定指標としての適用可能性の検討では、抑うつ的反すうを評価する自己評定尺度による高群と低群の反応時間の差分を分析した。その結果、漢字迷路課題の反応時間の差分が、関係フレーム反応測定指標として妥当であることは示されなかったが、抑うつ的反すうの測定指標として適用可能であることが示唆された。
著者
伊藤 理紗 矢島 涼 佐藤 秀樹 樋上 巧洋 松元 智美 並木 伸賢 国里 愛彦 鈴木 伸一
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.13-22, 2019-01-31 (Released:2019-06-08)
参考文献数
17
被引用文献数
1

本研究では、(1)安全確保行動を恐怖のピークの前でとるか後でとるか、(2)恐怖対象への視覚的な注意の有無が、治療効果に及ぼす影響を検討した。ゴキブリ恐怖の大学生を対象に、四つの条件のいずれか一つに割り当てた:(a)恐怖ピーク後注意あり群、(b)恐怖ピーク後注意なし群、(c)恐怖ピーク前注意あり群、(d)恐怖ピーク前注意なし群。群と時期(エクスポージャー前・エクスポージャー直後・フォローアップ時)を独立変数、ゴキブリ恐怖を従属変数とした分散分析の結果、メインアウトカムである行動評定の恐怖度の変数において、時期の主効果が有意であった。また、セカンダリーアウトカムである想起時の回避度において、交互作用が有意であった。単純主効果の検定の結果、a・b群はフォローアップ時の回避度の改善が認められないのに対し、c・d群は改善が認められた。最後に、治療効果が認められた原因について考察した。
著者
入江 智也 河村 麻果 青木 俊太郎 横光 健吾 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.1-12, 2019-01-31 (Released:2019-06-08)
参考文献数
28

本研究は、大学生の精神的健康に対する集団アクセプタンス&コミットメント・セラピー(G-ACT)の効果の検討を目的として行われた。大学生17名のうち9名(男性4名、女性5名)をG-ACT群、8名(男性1名、女性7名)を通常介入群に割り付けた。G-ACTはアクセプタンスとマインドフルネスに関わるワーク、コミットメントと行動変容に関わるワークを含む全6セッションから構成された。通常介入は学生相談サービスの利用であった。測定は、G-ACT実施前、実施後、実施1カ月後時点で実施した。線形混合モデルによる解析の結果、G-ACT群は通常介入群と比較して、実施後時点において不快気分の改善、および行動の活性化が、実施1カ月後時点において不快気分の改善および心理的柔軟性の向上が認められた。価値の明確化および回避行動は、G-ACT群と通常介入群の変化量の差異は認められなかった。以上の結果を踏まえ、大学生に対してG-ACTを実施するうえでの留意点について考察を行った。
著者
鈴木 伸一 小関 俊祐 伊藤 大輔 小野 はるか 木下 奈緒子 小川 祐子 柳井 優子
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.93-100, 2018-05-31 (Released:2019-04-05)
参考文献数
5
被引用文献数
2

本研究の目的は、英国のCBTトレーニングにおける基本構成要素と教育方法を明らかにすることであった。英国認知行動療法学会のLevel 2認証を得ているCBTトレーニングコースのカリキュラム責任者を対象に、CBTトレーニングにおける基本構成要素と教育方法に関する調査を実施した。その結果、英国認知行動療法学会のLevel 2の認証を受けたトレーニングコースにおいては、おおむねガイドラインに沿った包括的な教育がなされていた。特に、治療関係の構築やクライエントの個別性への対応、およびスーパービジョンの有効活用などについては、現場実習における実践的なトレーニングが重視されていることが明らかになった。最後に、本研究の結果を日本のCBTトレーニング・ガイドライン策定にどのように活用していくかについて考察された。
著者
藤田 知也
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
pp.21-030, (Released:2023-04-14)
参考文献数
10

反抗挑発症(oppositional defiant disorder: ODD)は小児期において高い有病率が知られている。一方、ODDに関する実証的な研究は少なく、特に多職種連携による介入や行動的介入の症例研究は見当たらない。本症例は、母親に対して反抗的行動を示したODDの男子児童に対して、多職種連携による行動的介入を実施し、単一事例実験デザインによりその効果を検証した。介入は家庭および学校へ訪問を行い、先行子操作、トークンエコノミー、余暇行動の形成が導入された。介入の結果、加害行動と破壊行動は軽減し、余暇行動の獲得が確認された。その効果は1年後および2年後のフォローアップ期においても維持していた。このことから、ODDに対して多職種連携による行動的介入の有効性が示唆された。
著者
平生 尚之 稲葉 綾乃 井澤 信三
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.147-158, 2018-09-30 (Released:2019-04-05)
参考文献数
16
被引用文献数
1

本研究では、自閉症スペクトラム障害特性(以下、ASD)を背景とするひきこもり状態にある人の家族を対象とし、ASDに特化したCRAFTプログラムによる介入を実施した。本プログラムは、個別セッションと集団セッションの併用型とし、対象者は本人相談につながりにくい9家族12名の親であった。本介入の結果、ひきこもり行動チェックリストの得点が改善され、本人10名中6名が相談につながり、別の1名はアルバイトを開始した。また、家族の心理的ストレス反応(SRS-18)の低減も認められた。本介入では、ひきこもり状態にある本人がASD特性のなかでも受け身型で、なおかつ対人不安の強いタイプに効果的であった。一方で、参加した親のなかでパートナーにもASD特性が疑われる場合は、精神健康度(GHQ-28)が介入後に低減したが、フォローアップ時には再上昇が認められた。
著者
国里 愛彦 土屋 政雄
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.113-122, 2022-05-31 (Released:2022-07-28)
参考文献数
29

心理学の再現性の問題が指摘されるようになって久しいが、心理学および認知行動療法の研究において再現可能性を高めるための取り組みはまだ十分に進んでいない現状がある。本稿では、現状把握として、認知行動療法に関連する心理学における再現性の危機について概観したうえで、再現性の危機を乗り越えるための方策について論じた。具体的には、Goodman et al.(2016)が提唱する3つの再現可能性(方法の再現可能性、結果の再現可能性、推論の再現可能性)に基づいて、それぞれの現状における問題点の指摘と問題を乗り越えるための前向きな解決法について解説した。3つの再現可能性は主に個々の研究者の研究実践を扱っているが、より広く社会の中で研究実践を位置づけ、研究の価値を高めることも必要となってきている。そこで、研究疑問の優先順位付けにより研究の価値を高めることについても論じた。
著者
竹島 克典 田中 善大
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.115-124, 2019-09-30 (Released:2020-06-25)
参考文献数
27

本研究の目的は、PPR(Positive Peer Reporting)と集団随伴性によるクラス単位の介入プログラムを実施し、児童の抑うつ症状に対する効果を検討することであった。介入プログラムは、児童が毎日の学校生活のなかで仲間の向社会的行動を観察して肯定的報告を行いそれを担任教師が賞賛するPPRと、クラス全体の肯定的報告が目標数に達した場合にクラスで特別な活動ができるという相互依存型集団随伴性の手続きによって構成された。介入プログラムの事前と事後を比較した結果から、児童の抑うつ症状の有意な低減が示された。最後に、抑うつの対人モデルに基づいて、児童の抑うつに対する介入研究における社会的環境へのアプローチの有効性と今後の課題について考察した。
著者
有園 正俊
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.223-233, 2021-09-30 (Released:2022-01-12)
参考文献数
8

先行研究によると、児童期のマルトリートメント(childhood maltreatment; CM)を体験したことで、情動の調節が困難な特性をもつことや強迫症/強迫性障害(obsessive–compulsive disorder; OCD)の症状に潜在的に影響する可能性が示されている。本症例の患者は、CMを体験し、対人関係でストレスを感じても自分の意見を表現抑制する傾向があった。そして、成人になって職場でのストレスが強い出来事をきっかけに、他者への加害の強迫観念を抱くOCDを発症した。重症度が増し、自宅で一人のときは、ほとんど身動きしないでいた。自宅にいる患者に音声通話を主とした遠隔診療で認知行動療法を行った。この方法は、患者が強迫症状の現れる場所にいながら、治療者と課題をできるなどのメリットがあり、症状は改善した。本研究では、その患者のCM体験とパーソナリティ、OCDへの影響を検討した。
著者
緒方 慶三郎 朝倉 崇文 滝澤 毅矢 出水 玲奈 大石 智 宮岡 等
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.155-162, 2022-05-31 (Released:2022-07-28)
参考文献数
23

本研究の目的はギャンブル障害と診断された者を対象として、その重症度と完全主義の各因子との関係を多次元的に検討することであった。自己評価式尺度であるMultidimensional Perfectionism Cognition Inventory(MPCI)およびProblem Gambling Severity Index(PGSI)を用いて、精神科医によってギャンブル障害と診断された54名を対象に調査を実施した。PGSIと属性データ、MPCIについてスピアマンの順位相関係数を算出したところ、初診時の借金額、完全主義の不適応的な側面とされるMPCIの下位尺度である「完全性追求」および「ミスへのとらわれ」がPGSIとそれぞれ有意な正の相関を示した。さらにPGSIを目的変数とする重回帰分析を行ったところ、説明変数である初診時の借金額と「ミスへのとらわれ」の標準化係数が有意な値を示した。本研究の結果はギャンブル障害の臨床像を完全主義認知の側面から説明するものであった。
著者
南出 歩美 富田 望 亀谷 知麻記 武井 友紀 梅津 千佳 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.47-60, 2022-01-31 (Released:2022-04-01)
参考文献数
35

社交不安症の維持要因として、自己関連刺激への注意バイアスが指摘されている。メタ認知療法によると、注意の向け方に関するメタ認知的信念が注意バイアスや社交不安症状に関与している。本研究では、社交不安症状と表情への注意バイアス、注意の向け方に関するメタ認知的信念の関連性を検討した。大学生55名を対象に、社交不安症状および肯定的/否定的なメタ認知的信念を測定する質問紙尺度と、注意バイアスを測定するドット・プローブ課題を実施した。その結果、社交不安高群において怒り顔および笑顔への注意バイアスが認められた。また、怒り顔への注意バイアスと社交不安症状の関連性は、否定的信念により完全媒介されることが示された。注意バイアスに焦点を当てた介入を行う際は、その過程で否定的信念に働きかける必要があると考えられた。
著者
小関 俊祐 伊藤 大輔 杉山 智風 小川 祐子 木下 奈緒子 小野 はるか 栁井 優子 鈴木 伸一
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.61-72, 2022-01-31 (Released:2022-04-01)
参考文献数
11

本研究の目的は、栁井他(2018)のコンピテンス評価尺度を用いて、臨床心理士養成大学院の大学院生の自己評価と教員による他者評価を行うことでCBTコンピテンスの実態把握と、2時点調査による教育に伴うコンピテンスの変化について基礎的な知見を得ることであった。臨床心理士養成大学院の臨床心理学コースに在籍中の修士課程2年の大学院生、および同大学院においてCBTに関連する講義・実習などを担当している大学専任教員を対象に、X年7月とX年10月の2回にわたって縦断調査を実施した。1回目の調査では教員29名と大学院生87名、また2回目の調査では教員27名と大学院生67名が分析対象となった。本研究の結果から、日本の大学院生におけるCBTコンピテンスの実態に関する基礎的データが得られた。そして、日本のCBTの質保証に向けた今後の取り組みとその課題について論じられた。
著者
内田 空 池田 浩之
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
pp.20-013, (Released:2022-09-12)
参考文献数
38

本研究の目的は、就労後を見据え、就労前の統合失調症患者にWebシステムを用いたセルフモニタリングを導入し、その効果を検討することであった。就労移行支援事業を行う法人に通所する統合失調症患者2人を対象に導入とフィードバック(週2日のコメント+3回の振り返り)を行った。効果測定は導入前1回、導入後2回の計3回行った。事例1では自身の睡眠状態を把握し、振り返りのなかでその傾向に気づくことで、自ら改善するための方法を考えることができるようになった。事例2では幻聴や思考停止について、そのタイミングと傾向をつかむことで、自ら考えた予防策を実施し、継続することができた。最後に就労支援領域における支援方法と今後の課題について考察した。
著者
杉山 智風 髙田 久美子 伊藤 大輔 大谷 哲弘 高橋 史 石川 利江 小関 俊祐
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
pp.20-047, (Released:2022-09-06)
参考文献数
22

本研究の目的は、高校生を対象に問題解決訓練を実施し、抑うつ、活性化、回避に及ぼす介入効果を明らかにすることであった。あわせて、問題解決訓練の実施前後にかけての活性化/回避の変化によって、抑うつに対する介入効果に差異がみられるか、検討を行った。本研究では、高校生1年生253名を対象として、1回50分の問題解決訓練を実施した。その結果、対象者全体において抑うつ得点、活性化得点、回避得点の有意な変化は示されなかったが、活性化/回避の機能的変容が生じた可能性のある群において、抑うつ得点の有意な低下が示された。このことから、抑うつ低減において、問題解決訓練による問題解決スキルの習得だけではなく、対処行動の促進と強化子の随伴の重要性が示唆された。
著者
村山 桂太郎
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
pp.21-015, (Released:2022-07-12)
参考文献数
14

注射恐怖症の患者に対してApplied Tension法(ApT)を施行した際、患者の生理学的指標を継時的に測定しそれを共有した事が、治療の進展に寄与したと考えられたため報告する。患者は20歳代の女性で、採血や点滴時に気分不良が生じるため、病院受診を長期間回避していた。治療は曝露法と筋緊張法を組み合わせたApTを用いた。治療者は、気分不良の原因である循環動態の変化を脈拍数と血圧値という客観的なデータとして測定した。測定は曝露前、曝露時、筋緊張法施行時と継時的に行い、ApT後にその推移を患者と共有した。12セッションを経て採血時の気分不良は生じなくなり、採血に対する患者の不安は消退した。10週間後のフォローアップセッションでも気分不良の再燃はなかった。ApTにおいて脈拍数と血圧値の推移を患者と共有することで患者自身が病態と治療の仕組みについて理解が進み、治療の進展に寄与できたと考えられた。
著者
杣取 恵太 二瓶 正登 北條 大樹
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.11-21, 2022-01-31 (Released:2022-04-01)
参考文献数
21

近年、認知行動療法における多くの研究でベイジアンアプローチが用いられるようになった。このことは臨床研究者や実践家において研究や介入の質を向上するためにそれらの方法を理解する必要があることを示している。そのため、本論文では初学者のベイジアンアプローチに対する理解を促進することを目的とした。はじめにベイジアンアプローチの導入と従来の方法との比較を行い、その後介入効果を調べるためにベイジアンアプローチを使用した実際の研究例の紹介と解説を行った。最後に認知行動療法の研究にとってベイジアンアプローチがどのような示唆をもたらすかを議論した。