著者
森本 和寿
出版者
京都大学大学院教育学研究科
雑誌
京都大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13452142)
巻号頁・発行日
no.67, pp.123-136, 2021

本稿は、ライティング教育はどのような視点から、どのように分類できるかという問題意識の下、米国におけるジェームズ・バーリンとリチャード・ファルカーソンの分類に着目し、ライティング教育の理論的な分析枠組みを描くことを試みた。先行研究において見落とされていた1980年代のバーリンの研究成果を検討することで、ファルカーソンの分析枠組みを修正し、より妥当な枠組みを提供することを目指した。本稿では、価値論/認識論、教授学、評価の3つの観点と現代的伝統修辞学、認知主義、表現主義、批判的/文化研究、手続き的修辞学という5つの立場で構成される新しい分析枠組みを提示した。これにより、①認知主義のポリティクスへの分析視角が保障される、②「プロセス」概念を教授学に組み込むことで分析視角が明瞭になる、③価値論・認識論に関わる論点と評価論に関わる論点を個別に検討できるという改善が得られた。
著者
石井 佑可子
出版者
京都大学大学院教育学研究科
雑誌
京都大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13452142)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.347-359, 2006-03-31

この論文は国立情報学研究所の学術雑誌公開支援事業により電子化されました。
著者
広瀬 悠三
出版者
京都大学大学院教育学研究科
雑誌
京都大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13452142)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.67-79, 2011-04-25

This paper examines the new possibilities to think enlightenment through reconsidering Kant’s idea of enlightenment. It is often said that Kant’s enlightenment shows a fundamental paradox of education: enlightenment tries to make one autonomous but at the same time enlightenment itself hinders it because enlightenment is primarily heteronomous. In this context Kant’s enlightenment deals with an issue of abstract and closed individual. However there is another aspect of enlightenment that is includes a relationship with society and others. In order to be autonomous and mature through enlightenment, one should think publicly. That is to say, one should communicate with others and examine his view at the others’position. Kant also says that one should be a member of cosmopolitan society. I try to pick up two kinds of cosmopolitan: (1) cosmopolitan who has interests in truth, world, inner value of human being and humanity, in other words, interests which are irrelevant to his own profits. (2) cosmopolitan who has a pluralistic view point stemmed from geographical thinking. With this pluralistic and geographical view point, cosmopolitan can live actually and seek such idealistic idea. Kant’s enlightenment asks us to be such cosmopolitan and it suggests dynamic movement to be mature.
著者
溝口 侑
出版者
京都大学大学院教育学研究科
雑誌
京都大学大学院教育学研究科紀要
巻号頁・発行日
vol.67, pp.375-388, 2021-03-25

本稿の目的は、ロールモデルについて、様々な支援関係、特にメンターと対比させて概念整理を行い、キャリア教育におけるロールモデルの可能性と有効性について検討することである。現代においてロールモデルは従来的な役割行動を示すだけではなく、模倣する対象であると同時に、行動や意思決定に対して様々な影響を与える人物である。また個人との関係性においてロールモデルはメンターと異なる存在である。メンターが個人と支援者の双方向的・互恵的な関係であるのに対して、ロールモデルは個人から対象への一方向的な関係である。したがって、キャリア教育におけるロールモデルは効果的であると同時に効率的であるといえる。しかし、適切なロールモデル候補を選び、学生がその人物に対して共感的な態度で触れように促す必要がある。
著者
彭 永成
出版者
京都大学大学院教育学研究科
雑誌
京都大学大学院教育学研究科紀要
巻号頁・発行日
vol.67, pp.29-42, 2021-03-25

本稿は雑誌『ゼクシィ』の九州版の歴史変遷を中心に、結婚情報誌における地方色の表し方と衰退の過程について検討するものである。「九州ゼクシィ」を分析した結果、創刊初期の誌面上では、地方の結婚事情の特色が読み取れた。たが、『ゼクシィ 首都圏』が表紙、目次、記事、付録という順に「九州ゼクシィ」の内容を同化していくうちに、誌上に表した地方色が徐々に消えていき、誌上で見られる結婚理想像も首都圏版とほぼ変わらないものになった。同時期、福岡発の地元誌『MELON』は地域特色に密着する誌面づくりをしていたが、最終的には廃刊に至った。『MELON』の対抗は、『ゼクシィ』による九州地方の結婚イメージの均質化を止めることはできなかった。
著者
岩井 八郎
出版者
京都大学大学院教育学研究科
雑誌
京都大学大学院教育学研究科紀要
巻号頁・発行日
vol.67, pp.99-121, 2021-03-25

戦時体制下において, 女性の教育機会は拡大し労働力需要も著しく高まったが, その一方で出産力と家族を維持するための政策も次々と打ち出された.本稿は, 「職業移動と経歴調査(女子調査), 1983」の再分析によって, 戦時体制が女性のライフコースに与えた影響を明らかにしている.分析では, 1913-20年出生, 1921-25年出生, 1926-30年出生の3つの出生コーホートについて, 学歴別に人生パターンを比較している.分析結果として, 1921-25年出生の10代後半から20代前半に戦時体制の影響が強くあらわれていた.とりわけ中等教育卒の中で, 20歳までに事務職が急増し, それが25歳までに急減している点が重要である.高度成長期以降, M字型就業パターンは日本人女性のライフコースの特徴とされてきた.本稿は, 20代半ばまでのパターンの原型が戦時体制下で中等教育を終え就業した若い女性層に登場したと論じている.# ja
著者
森本 和寿
出版者
京都大学大学院教育学研究科
雑誌
京都大学大学院教育学研究科紀要
巻号頁・発行日
vol.67, pp.123-136, 2021-03-25

本稿は、ライティング教育はどのような視点から、どのように分類できるかという問題意識の下、米国におけるジェームズ・バーリンとリチャード・ファルカーソンの分類に着目し、ライティング教育の理論的な分析枠組みを描くことを試みた。先行研究において見落とされていた1980年代のバーリンの研究成果を検討することで、ファルカーソンの分析枠組みを修正し、より妥当な枠組みを提供することを目指した。本稿では、価値論/認識論、教授学、評価の3つの観点と現代的伝統修辞学、認知主義、表現主義、批判的/文化研究、手続き的修辞学という5つの立場で構成される新しい分析枠組みを提示した。これにより、①認知主義のポリティクスへの分析視角が保障される、②「プロセス」概念を教授学に組み込むことで分析視角が明瞭になる、③価値論・認識論に関わる論点と評価論に関わる論点を個別に検討できるという改善が得られた。
著者
佐野 和子
出版者
京都大学大学院教育学研究科
雑誌
京都大学大学院教育学研究科紀要
巻号頁・発行日
vol.67, pp.85-98, 2021-03-25

女性の職業的技能形成の主要なパターンである職業資格の有用性について、資格職に就く女性を対象に、職業移動、および賃金を従属変数とするパネルデータ分析を行った。その結果、資格職共通の特徴として同じ職に留まる割合が高く、無職後の復帰職となる傾向が強いことから、企業内部でのスキル形成を選択しない女性にとって、資格は安定的な<職>を保障することで継続的なキャリア形成に貢献している点が示された。実質的な収益に対しては、個別効果を取り除いた固定効果モデルによる分析では資格職の効果は見られない。但し対象を大学卒の女性に限ると医療・保健系資格職に、非大学卒の女性に限ると教員にそれぞれ作業職に対する賃金上昇効果がみられた。女性全員を対象にした分析では企業属性に賃金上昇効果はなく、企業内でキャリアを重ね収益を高めるパターンとは異なる、日本特有のスキル形成システムの縁辺に広がる女性のキャリアが明らかとなった。
著者
張 潔麗
出版者
京都大学大学院教育学研究科
雑誌
京都大学大学院教育学研究科紀要
巻号頁・発行日
vol.67, pp.57-70, 2021-03-25

本稿では中国高等職業教育分野における1+X制度の位置づけを明らかにするため、従来ある各種証書を制度枠組みと高等職業教育分野における取得方法を整理した。その結果、高等職業教育分野と企業・産業界との緊密なつながりを図る方向性は2000年以降継続してみられ、その具体的な方法は、既存の職業資格証書自体の高等職業教育分野への導入から、各種職業基準が反映される職業技能水準証書の新設までに転換したことが明らかになった。現在、高等職業教育分野では学歴証書、職業資格証書、職業技能水準証書が同時に存在し、これらの組み合わせからなる双証書制度および1+X制度が異なる位置づけを有している。後者の1+X制度は、労働者の学歴教育および職業の間の流動可能性を向上させて、高等職業教育分野と産業界の境界線を不明確にするものとして、高等職業教育分野と企業・産業界の双方の需要が反映される架け橋として位置づけられているといえよう。
著者
藤村 達也
出版者
京都大学大学院教育学研究科
雑誌
京都大学大学院教育学研究科紀要
巻号頁・発行日
vol.67, pp.15-28, 2021-03-25

本稿は、「受験英語」における英文解釈法が歴史的にいかに展開してきたのかを、入試問題や受験生の変化といった英語教育に対する外的要因によって説明することを試みるものである。その際、「受験英語の神様」と呼ばれた英語講師、伊藤和夫による英文解釈法である「構文主義」を中心に分析した。「構文主義」以前に主流だった英文解釈法は、日本語に訳しにくい「熟語」・「公式」の暗記が中心であった。「構文主義」はこれを批判し、英文を体系的に分析する原理と、英文を「直読直解」する視点を提示し、後に「構文主義」は後者を重視するようになった。「構文主義」の登場以後は、これを批判的に継承する様々な方法が現れた。こうした展開全体を通じて、受験生の多様化および入試問題の長文化という外的変化の影響が見られることを指摘した。また、「受験英語」において様々な英文解釈法が生まれる原因として、予備校における講師間の卓越化競争の存在を指摘した。
著者
桑本 佳代子
出版者
京都大学大学院教育学研究科
雑誌
京都大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13452142)
巻号頁・発行日
no.65, pp.15-27, 2019

死にたいと訴えるクライエントにいかに関わっていくのか考えるため, フロイトの「死の欲動」に端を発する精神分析の論考を紐解いた。その中で, クラインの「羨望と感謝」, ウィニコットの「破綻恐怖」を取り上げた。そして, 人々の自殺願望の背景に, 生育歴に深く根を下ろした死に憑かれた自我があること, 「死にたい」というと同時に, 「なぜ生きているのか」という問いがあることを見いだすとともに, 生の欲動も死の欲動も, 同一の円環として位置づけられることに気づいた。さらに不治の病に苦しんだ著者の著作を通して, 過去の生活を死んだものとして受け入れること, 受け入れようとすることが, 絶望から人を救う唯一の方法なのではないかと考えた。自殺願望の強いクライエントに対して心理臨床家がやるべきことは, 自己破壊へと進もうとする, その背景にある不安, 恐怖をくり返し分析していくことであると見出した。
著者
堀 雄紀
出版者
京都大学大学院教育学研究科
雑誌
京都大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13452142)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.359-371, 2018-03-30

本稿の目的は、言葉によっては説明し尽くされ得ない「暗黙の知」をあえて言語化しようとする営みに、どのような意義を見出すことができるのか、身体技法の伝承場面における観察・分析を通じて明らかにすることである。そのために、M. ポランニーの<暗黙知>に着目し、「私たちの『知』を支える、暗黙裡に進行する過程」という定義に立ち戻った上で、G. ベイトソンのコミュニケーション理論を導入することで、「<暗黙知>によって構築される自己修正的システムの階層構造」という新たな理論枠組みを提示した。それに基づいて見出された「語り」の意義は、いずれも<暗黙知>の制御による学習者支援であった。ひとつは、言語の表示作用によって<暗黙知>が取りこぼした差異(情報)に注意を向け、既存のシステムの再構築を促すことである。もうひとつは、比喩的言語表現によって<暗黙知>を起動し、より高次の包括的統合を実現することである。
著者
杉本 均 山本 陽葉
出版者
京都大学大学院教育学研究科
雑誌
京都大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13452142)
巻号頁・発行日
vol.65, pp.179-200, 2019-03-27

本論文は日本の学校で働くフィリピン人ALT教師の実態について調べることで、ESLであるフィリピン人をALTとして雇用することがJETほか日本の英語教育プログラムにおいてどのような意味を持つかについて考察することを目的としている。結論としては、日本側はより多くのALTを必要としており、それに伴って十分な英語能力を持つESLの英語話者を採用しつつあるが、実際の現場では未だネイティブスピーカーが好まれる傾向があり、職場における人種差別を感じている者も多かった。しかしながら帰国後ALTとしての職歴が有利に働くことや、他国出身者よりも勤務歴が長いことなどから、メリットのある取り組みであることが明らかになった。ESLの英語能力は英語教育の推進を図る日本の英語教育界においては十分通用するものであり、ESLであるALTは人員確保の面だけでなく、生徒に多様な文化に触れる機会を与えるという点においても、今後の日本にとって必要な存在であると言える。
著者
呉 江城
出版者
京都大学大学院教育学研究科
雑誌
京都大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13452142)
巻号頁・発行日
no.66, pp.233-246, 2020

本稿の問題意識は、1990年代の中国の都市新中間層の文化に表れた特性にある。その特性は、特殊な歴史条件にあった学校教育から短時間で獲得した文化資本の在り方と深くかかわっている。しかし、これまでの研究では、そのような視角が等閑視されてきた。先行研究に対する批判を踏まえて、本稿は1980年代に流行った「文化熱」をてがかりに、急速な高等教育改革によって形成したエリート大学生の文化的教養習得に焦点をあて、その実態を明らかにすることを研究目的とする。多様な歴史資料を取り扱った本稿は、エリート大学生の文化的教養の習得状況およびその特徴を「読書文化」、「娯楽文化」の枠で精緻に描き出してまとめた。今後は1990年代の新たな社会動向に注目し、中国の都市新中間層の文化の特性の解明に向けて続いて歴史的考察を行う。
著者
松岡 朋佳
出版者
京都大学大学院教育学研究科
雑誌
京都大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13452142)
巻号頁・発行日
no.63, pp.489-500, 2017

現在日本の財政状態は極めて厳しく、公的教育費の持続的な確保のためには、行財政の効率化だけでなく、新たな財源の確保が急務となっている。本稿は地方教育費を対象に、ふるさと納税制度が自治体に対する寄附金を"新たな"財源としうることを示すとともに、平成27年度の実績としてその額を明らかにすることを目的とする。その結果、ふるさと納税による寄附金は現時点で把握できるデータでも既に約33億円の教育財源となっていることが確認できた。また先行研究では、自治体の財政力によって地方教育費に格差が生じていると指摘されていたが、財政力の弱い自治体がふるさと納税による教育財源を確保していることから、地方間の教育費格差を緩和する可能性があることを示した。Japan's current fiscal condition and aging population do not warrant optimism, and it is important to improve local and national governmental operations with the increasing demand for social welfare. There is uncertainty regarding the ability to maintain the current level of public local educational expenditure, and previous research showed that there are regional gaps. As it is not sufficient for local governments to streamline their administrative operations, they need to find new financial sources for local public educational expenditure. Although previous research proposed the introduction of a tax for education and donations, they have either not been implemented or have not fulfilled their purpose sufficiently. This paper discusses the significance and potential of "the Furusato Tax, " which allows local governments to acquire new financial sources for local public educational budget expenditure through a new type of donation system. A comparison of current local expenditure budgets and actual contributions by the "Furusato Tax" indicated that this tax represents a new financial source for local public educational budget expenditure, and the whole national contribution in FY2015 was at least 3.3 billion JPY. In addition, local cities with poor financial condition receive more sources for education than urban cities with good financial condition, which improves regional disparities.