著者
村上 陽介
出版者
大阪市立大学文学部
雑誌
人文研究 (ISSN:04913329)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.p178-189, 1978
著者
田中 孝信
雑誌
人文研究 (ISSN:04913329)
巻号頁・発行日
no.60, pp.110-124, 2009-03

イギリスの帝国主義的野心によって始まった第2次ボーア戦争(1899-1902)は、イギリス側の当初の予想に反して長期化の様相を呈する。政府は戦争を遂行するために世論を味方につけなければならなかった。それに大きく貢献したものの一つが「戦争もの」と呼ばれる大衆文学である。実際の軍隊が提供できない英雄と勝利の物語を大衆に期待されたそれらには、理想の兵士像や国家像が描き込まれる。本論では特に、これまであまり顧みられなかったドキュメンタリー・タッチの作品に焦点を当て、その主人公に据えられた「トミー・アトキンズ」像を分析した。結果として明らかになったのは、その像が孕む異質性だ。勇猛果敢で母国への忠誠心に溢れる陸軍兵卒は、将校への不満を通して社会の階級的緊張を示唆し、肉体的に退化し道徳的に堕落した現実のフーリガンと結びつく。軍隊はフーリガンを更生する役割を担う一方で、フェアプレーの精神というカモフラージュのもと、将校も兵卒もともにフーリガンと同じく残忍性を示す。既成事実化していたイギリス人とボーア人の優劣、軍隊内の秩序、文明と野蛮といったものの境界の流動化という問題が生じる。ボーア戦争は、それらの問題が今にも噴出せんとするイギリス史上初めての戦争だったのである。しかし、従来の言説に生じた亀裂は「健全な臣民」育成の大合唱によって覆い隠され、社会は「異質な要素」を孕んだまま、悲惨な第一次大戦へと突き進んで行くのである。
著者
長橋 芙美子
出版者
大阪市立大学文学部
雑誌
人文研究 (ISSN:04913329)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.p103-116, 1986

1 第一次大戦の体験が1920年代になると一般に忘れさせられる傾向が強まったこと, その「現実の抑圧」(die Verdrangung der Wirklichkeit)を問題にして, A.ツヴァイクは『グリーシャ軍曹をめぐる争い』(Der Streit um den Sergeanten Grischa)執筆当時の状況を, のちに次のように説明している。……
著者
長橋 芙美子
雑誌
人文研究 (ISSN:04913329)
巻号頁・発行日
vol.36, no.10, pp.759-775, 1984

1 アルノルト・ツヴァイク(Arnold Zweig 1887-1968)は『グリーシャ軍曹をめぐる争い』(Der Streit um den Sergeanten Grischa 1928)以来7編の長編小説からなる第1次大戦に関する連作(最後の1編は未完)を書き, 戦争をひきおこす力との対決を生涯の課題とした作家である。……
著者
高島 葉子
出版者
大阪市立大学
雑誌
人文研究 (ISSN:04913329)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.123-137, 2001

はじめに : 昔話や伝説に老婆の姿で登場する「山姥」は, 人を取って喰う恐ろしい妖怪であるが, 同時に, 作物の豊作や狩猟の獲物さらには食物や富など様々な恵みをもたらす豊饒の女神, あるいは福の女神でもある。このような豊饒の女神としての山姥が, 縄文時代に崇められていた古い母神の性質を受け継いでいることは, 吉田敦彦によって指摘されている。筆者も, 山姥の起源が遙か縄文時代の狩猟神にまで遡る可能性があることを別の機会に指摘した。本論では, 吉田があまり論じていない狩猟神としての山姥を対象とし, 狩猟民文化の伝統の強く残るシベリアや北米の北方諸民族の女神と比較することによってその原形を考察する。……
著者
三上 雅子
出版者
大阪市立大学
雑誌
人文研究 (ISSN:04913329)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.109-121, 2002

1963年の東宝による『マイ・フェア・レディ』(My Fair Lady)初演の興奮を, 小藤田千栄子は以下のように記す。「マイ・フェア・レディ」の日本初演は1963年9月1日から29日まで, 東宝劇場において行われた。初日の開演は午後3時―。当時のミュージカル・ファンは, どんなにかこの日を, そしてこの時を待ちこがれていたことか。この日のことを思うと, 私は今でも, いささか上気してくる。それは新しい歴史の始まりであり, ミュージカルというジャンルに向けての興奮の船出であった。(中略)客席にみなぎる静かな興奮。もうすぐ「マイ・フェア・レディ」が, "本格的な"ブロードウェイ・ミュージカルの「マイ・フェア・レディ」が始まるのだという興奮。私は三階席だったけれど, 見まわすと東宝劇場は観客の期待をのみこんで, もう限界までふくれあがっているようだった。……
著者
大黒 俊二
出版者
大阪市立大学
雑誌
人文研究 (ISSN:04913329)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.55-86, 2002

一 : 説教史料 : 「声の影」 : 西欧中世史研究において、説教記録のもつ豊かな可能性が広く知られるようになったのはここ二〇年来のことである。説教記録は近年ようやく、単なる記録を脱して歴史家にとっての史料としての地位を得たといってよい。それ以前、説教記録は教会史家や思想史家、ときに文学史家が興味を示す程度であり、研究者も修道士など教会関係者がおもであった。それが今日では、説教それ自体が中世最大のマス・コミュニケーション手段として専門研究の対象となるとともに、経済史、心性史、女性史、民衆文化史、美術史などの研究者が素材を求めて説教史科に赴くようになっている。……
著者
高島 葉子
出版者
大阪市立大学
雑誌
人文研究 (ISSN:04913329)
巻号頁・発行日
vol.48, no.11, pp.835-850, 1996

はじめに : ヨーロッパにキリスト教が広まるとともに, 土着の異教の神々の多くは悪魔に転落させられ, 排除されていった。「大いなるパン神は死せり」という言葉どおり, パン神も悪魔として追放された。……
著者
弘田 洋二
出版者
大阪市立大学
雑誌
人文研究 (ISSN:04913329)
巻号頁・発行日
vol.48, no.9, pp.641-665, 1996

はじめに : 文部省の提唱によって、スクールカウンセラーを学校に配置することについての制度化が推進されつつある。勤務形態および心理臨床的な専門家をどのように選定するかという重要な基準は曖昧なままに、各都道府県の公立学校はスクールカウンセラー制度の導入に向けて動き始めている。……
著者
田中 孝信
出版者
大阪市立大学文学部
雑誌
人文研究 (ISSN:04913329)
巻号頁・発行日
vol.43, no.8, pp.p623-641, 1991

1840年から翌年にかけて週間読物Master Humphrey's Clock(1840-41)に掲載されたThe Old Curiosity Shop[以下OCSと略す]は, 従来の喜劇的なメロドラマに新しくペイソスを加え, "Little"を冠せられたNellという純情可憐な乙女の哀れな物語を綴ろうとしたDickensの野心作である。……
著者
天ヶ瀬 正博
雑誌
人文研究 (ISSN:04913329)
巻号頁・発行日
vol.51, no.10, pp.91-104, 1999-12

1 整列性効果 : われわれはしばしば移動中に地図を見て目的地への方向の判断や経路の選択をする。その場合, 地図上に記された地形や建造物の位置関係が実環境におけるそれと平行するように地図の向きを変えると, 地図が読みやすくなる。例えば, 路上で地図を見る場合, 現実の道路と地図上に記されているその道路とを平行にし, かつ, 前方に見える地理的目印(landmark, 場所の目印となる建物や地形など)が地図上でも前方になるように地図を向ける。……

1 0 0 0 IR 親忠家と俊成

著者
谷山 茂
雑誌
人文研究 (ISSN:04913329)
巻号頁・発行日
vol.12, no.6, pp.551-573, 1961

一 俊成の岳父藤原親忠(定家の外祖父)については、宇槐記抄・仁平三年(一一五三)五月二十一日に「後聞、今日入道若決守親忠卒(五十九)美福門院乳母伯耆之夫也。天下無雙幸人也。」とあるので、そこから逆算すると、嘉保二年(一〇五九)に生まれたことになる。このように、親忠の生歿年はひとまず明らかに知られるのだが、その系譜については諸説があって不審な点が多い。……
著者
高坂 史朗
雑誌
人文研究 (ISSN:04913329)
巻号頁・発行日
vol.55, no.8, pp.1-17, 2004-03

1 狩野直喜の『中国哲学史』には次のようなエピソードが紹介されている。「兪樾(蔭甫・曲園)は中国に於ける近時の大儒で, 経学・文章を以て名を海の内外に馳せ, 著述も多く, 我国の人で就いて教を請ひし人もあつた位であるが, 彼のまだ存命中, 我国に於て余の一友人が其の著述を読み, 哲学雑誌に「兪曲園の哲学」なる題目で其の学説を紹介したことがあつた。然るに其の後, 春在堂全書といふ彼の全集の舶載され来つたのを見ると, 其の中に, 日本の学者が己の学説を紹介したるを喜び作つた詩がある。其の一節に「挙世人人談哲学。傀我迂疏未研権。誰知我即哲学家。東人有言我始覚。」と。……
著者
水鳥 喜喬
出版者
大阪市立大学文学部
雑誌
人文研究 (ISSN:04913329)
巻号頁・発行日
vol.27, no.10, pp.p651-667, 1975-12

I 14世紀の末頃, North-west Midlandの方言で書き残された技巧的な頭韻詩Sir Gawain and the Green Knight(以下Sir Gawainと略す)は, 主人公Sir Gawainをとりまいて次々に展開する冒険的な事件の連続である物語の面白さと, 生き生きとして無駄のない叙述・描写の巧みさのために, Arthur王伝説群を形成する中英語期最高のロマンスであり, 今日の読者をも最後まで退屈させない物語である。……
著者
牧野 宇一郎
雑誌
人文研究 (ISSN:04913329)
巻号頁・発行日
vol.13, no.10, pp.975-994, 1962

まえがき : 私は前回(第一二巻、第一一号、昭和三六年一二月)では、第一節において生活を芸術的にするための芸術教育の理論の必要を説き、第二節においてまず芸術をアプリシエイションの過程として規定した。第三節では「芸術的能力と教育」という見出しの下に、まず第一として学習が完結への性質的思考であるべきことを指摘したのであった。……
著者
仁木 宏
出版者
大阪市立大学
雑誌
人文研究 (ISSN:04913329)
巻号頁・発行日
vol.48, no.12, pp.1019-1036, 1996

近世、肥後熊本細川藩の筆頭家老であった松井家は、一方で同国八代(熊本県八代市)城主として領内の経営にあたるなど、独自の地位と格式を有していた。同家はまた、江戸時代の文書や『松井家譜』などの編纂史科の他、中世古文書の写など、多数の貴重な史科を伝来している。……