著者
近藤 幹生
出版者
一般社団法人 日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.51-58, 2005

The age at which children begin school is six years in Japan. It is a part of the Japanese educational system which has 130 year history since the proclamation of the "School System" in 1872. There has been very little historical research on the controversy of those times regarding school age. The author took notice of Michiyoshi Mishima's article: "Investigation Report of the Educational Systems: The Issue of School Age (1902)", which had not been researched in earlier literature. Mishima settled the argument of children's age and school readiness in his article. He maintained that six years was the standard age for beginning school in those days and proposed his concrete idea of educational contents and methodology for the first grade. This argument in the middle of Meiji period suggests a viewpoint toward educational reform today.
著者
飯野 祐樹
出版者
日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.90-104, 2014-08-31

本研究は,1996年にニュージーランドで就学前統一カリキュラムとして作成されたテ・ファーリキの作成過程を作成に携わった関係者へのインタビューから明らかにすることを目的としたものである。テ・ファーリキの作成には,ヨーロッパ系民族とマオリ族の代表執筆者との協同によって作成されたことがこれまでの研究で明らかになっている。本研究では,代表執筆者に加え,ニュージーランド政府関係者へのインタビュー調査を行うことで,3方向からテ・ファーリキの作成過程を検討した。結果,テ・ファーリキの作成過程では,マオリ族側が主導し,そこにヨーロッパ系民族の価値観が内包されるというこれまでの見解とは異なる事実が明らかとなった。
著者
佐藤 智恵
出版者
日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.393-403, 2013

本研究の目的は,特別な支援を必要とする,ある一名の男児の,保育所から小学校への移行について,男児,保護者,保育者・小学校教諭の3者の語りを併せて質的に分析し,就学移行期の実相を描き出すことである。方法は,半構造的なインタビューを行った。分析により,それぞれが男児について異なる見方をしていたこと,男児にとって小学校での学習環境に困難さがあったこと,保護者との関係性において保育者と小学校教諭では差異があったことが浮かび上がった。また保育者と小学校教諭では「子どもの特性に合わせる」ことについて違いがあると考えられた。
著者
大野 歩
出版者
日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.150-161, 2014-12-25

本論文の目的は,生涯学習制度を構築したスウェーデンで,2011年教育改革後に導入された保育評価の特徴を検討することにある。方法としては,「教育学的ドキュメンテーション」という評価方法に焦点を当て,先行研究の検討からその特徴を分析した。また,現地調査に基づいて,就学前学校における新しい評価の導入への対応を検討した。検討の結果,「教育学的ドキュメンテーション」はスウェーデンの幼児教育学の研究を基盤に開発された独自の実践手法であり,子どもの学びと保育者の学びという2つの学びのプロセスを観察するという観点から編成されていることが明らかとなった。
著者
山田 恵美
出版者
日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.263-275, 2012-12-25

幼稚園の絵本コーナー内の場所(家具配置),設定(絵本の表紙の見え方)と幼児の絵本の読み方の関係を検討した。場所と読み方の関係からは,絵本コーナーには2人が並んで絵本を広げられる大きさのテーブルと,姿勢や子ども同士の位置関係をフレキシブルに変えられるくつろげるスペースの両方が必要であることが示された。絵本を介した他児との相互作用が見られ,様々な絵本の共有の仕方に柔軟に対応できる空間を用意しておくことが重要であるといえる。設定としての表紙の見えの効果については,実際に読まれる本の多くは表紙が見えるように置かれている本であり,特にコーナーが居場所として定着していない子にとってはディスプレイに飾られた絵本があることがコーナーの利用に効果を持つことが示された。
著者
上田 敏丈
出版者
日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.232-242, 2014-12-25

本研究は,初任保育者を対象にインタビュー調査を行い,初任保育者の保育行為と価値観との関係性を発生の三層モデルを手がかりに明らかにすることで,日々の保育行為が価値観に影響を与えていくプロセスを明らかにする。インタビューは,2012年6月から2013年3月まで,月1回行われた。サトミ先生は公立保育園に勤務し始めた初任保育者である。保育者の語りを質的研究法のSCATとTEMを用いて分析した。結果として,とまどい期から,試行錯誤期を経て,保育できた・できる観を獲得していくプロセスが明らかになった。
著者
赤星 まゆみ
出版者
日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.218-230, 2012-12-25

1880年代からフランスの保育学校は,2〜6歳の子どもを受け入れる初等教育制度の一環にある。今日,ほとんどすべての3歳児が保育学校に通っている。また2歳児の割合は,1990年代には,ほぼ35%であったが,最近は低下し,2010年には13.6%になった。保育学校はフランスの教育制度に独自なものであるとともに,幼児期の保育サービスとしても重要な役割を果たしている。しかし,近年,2歳児の保育学校就学が,教育的にも経済的にも大きな政治的論争点になっている。本稿は,フランスにおける最近の保育学校の政策的な論議がいかなるものであるか,その本質的な問題点を,その歴史的側面と現状を踏まえて考察することを目的とする。
著者
實川 慎子 砂上 史子
出版者
日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.94-104, 2013-08-31

本研究の目的は,専業主婦の母親が,ママ友との人間関係をどのように捉えているのかを明らかにすることである。本研究では,専業主婦の母親9名にインタビューを行い,M-GTAを用いて分析した。その結果,母親は相手との関係を,(1)母親自身の自己における「個としての自分」と「親役割を担う自分」の違い,(2)相手との親しさの度合いの違い,(3)相手との同質感の高低によって区別していた。
著者
香曽我部 琢
出版者
日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.169-179, 2010-12-25

本研究では,まず,遊びにおいて表れる幼児の"振り向き"という行為に着目し,その"振り向き"の実態を明らかにする。次に,事例をもとに"振り向き"から相互作用へと展開する過程について明らかにすることで,遊びにおける幼児の"振り向き"の意味について分析と論証を行う。その結果,"振り向き"が主に4つの要因によって引き起こされ,3歳児が一人で行う砂遊びにおいて"振り向き"が多く表れることを明らかにした。そして,3歳児の砂遊びの事例から,"振り向き"直後の注視,双方向的な"振り向き"によって幼児同士にその後の相互作用に対する暗黙的な承認が行われることを明らかにした。さらに,その後,幼児は接近することで場を共有し,暗黙的方略で交渉したり,模倣的方略を用いたりすることで相互作用へと至る過程を明らかにした。そして,遊びで表れる幼児の"振り向き"は,その空間にいる幼児や保育者と共に遊びたいという能動的な心理の欲求によって表象されていることを示し,保育者が幼児の"振り向き"を理解することは,その幼児の理解だけでなく,その場においてどの程度の仲間意識,イメージの共有が幼児間に保たれているのか確認する一つの目安になることを示唆した。
著者
岡田 たつみ 中坪 史典
出版者
日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.169-178, 2008-12-25

The objective of this study is to clarify the influence of colleagues in childcare upon the process of understanding a child. The first author, a kindergarten teacher, analyzed her journal of childcare and information from her colleagues with the second author, a researcher, using a qualitative analysis methodology. The results are as follows. First, there exist both verbal and nonverbal types of information. Second, there are four types of information to modify the teacher's understanding. Third, the information has both quantitative and qualitative effects. The colleagues have a great influence on structuring the teacher's understanding of a child by sharing information about events related to the child, their views and values to him/her, and so on.
著者
鈴木 裕子
出版者
日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.132-142, 2009-12-25

This work aims to define the concept of "Kansei," or sensitivity in young children through an evaluation scale based on the development process. In Part I, the concept of Kansei was classified into three main categories, 28 sub-categories and 64 items based on a questionnaire completed by kindergarten and day nursery teachers. Finally, the 31 most relevant items were selected to be used for an evaluation scale. In Part II, the concept of Kansei was divided into three different factors based on the analysis of data collected in another questionnaire: factor 1: original sensibility and creativity, factor 2: active response, and factor 3: emotional and moral empathy. These three factors include 26 items. Using these three factors and 26 items, a scale was invented to evaluate young children's sensitivities. In Part III, the validity of the scale was examined and the result verified its high reliability. This invented evaluation scale can be used for understanding the richness of young children's sensitivities from their behaviors.
著者
木曽 陽子
出版者
日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.116-128, 2012-12-25

本研究は,特別な支援が必要な子どもとの関係の中で,保育士が抱く困り感の軽減に焦点を当て,保育士の保育の変容プロセスを明らかにすることを目的とした。公立保育所の保育士5名に半構造化面接を行い,得られたデータを修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチで分析した。その結果,保育士の困り感は子どもの問題の肥大化により蓄積されていくものの,保育士が保育を子どもに合わせることで子どもの問題が縮小し,困り感が軽減していくプロセスが明らかになった。保育を子どもに合わせるためには,子どもの問題行動の意味を理解することや,個と集団のダイナミズムを踏まえた保育が必要であった。さらに,保育士自身が困り感を抱くことに対して罪障感を持っていることも示された。
著者
白取 真実 菅野 和恵
出版者
日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.20-28, 2012-08-31

本研究では,障害児通園施設保育士のストレッサー構造を明らかにすることを目的とした。因子分析の結果,「職務多忙」,「人間関係における問題」,「子どもや保護者への支援の難しさ」,「障害理解の不足や社会的評価の低さ」の4因子が抽出された。「障害理解の不足や社会的評価の低さ」は,社会全体の障害受容の不足がうかがえることから,障害児通園施設ならではのストレッサーであると考えられた。また,経験年数によりストレッサー得点を比較した結果,経験年数10年以上群の保育士の方が,「障害理解への不足や社会的評価の低さ」をより強く認識していることが示され,経験年数により直面する問題や悩みが変化していると考えられた。さらに,障害児通園施設保育士の精神的健康状態は,不良と示される層が59.3%と全体の半数以上を占め,かなり悪化していることが推察された。
著者
小川 晶
出版者
日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.51-62, 2011-08-30

高学歴・高齢初出産母子の中には,子どもが生まれたことでそれまでの仕事中心の生活の変換を余儀なくされることも多く,そのような家庭への支援には困難を伴うのが常である。増加傾向にある高学歴・高齢初出産母子への支援の難しさを解くことは保育実践上の今日的課題と言えよう。そこで本論文の目的は,高学歴・高齢初出産母子への支援のあり方について一つのモデル構築を試みることである。そのためにここでは,母親との関係構築に困難を伴った筆者自身の母子支援実践過程から保育者と子ども,母親と子ども,保育者と母親の関係性の変容過程を取り出し,エピソード記録を中心とする質的研究の方法をとって分析した。その結果,母親の価値観を変えるためには,子どもがより良く変わるプロセスを可視化して示すことが必要であること。また,社会的志向が高く,職業キャリアを積んでいる女性としての母親への寄り添いが必要であること。さらに,複雑化する双生児の母子関係形成を解かり易く示す必要があることが分かった。
著者
松井 剛太
出版者
日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.12-21, 2009-08-30

The purpose of this study is to clarify the structure of teacher conferences where teachers have the opportunity to reflect on their personal childcare practices and consider the frameworks in which these practices occur. During teacher conferences, the author analyzed the content of teacher questions and examined how these questions worked as change agents to transform the teachers' childcare practices. The change agents included fundamental questions about their own frameworks of childcare based on their experience. The result suggests that the change agent plays an effective role to reconsider and improve their childcare practices. It is clear that an effective teacher conference has a structure based on an essential intention to support teacher reflection on their personal childcare practices.