著者
田中 沙織
出版者
一般社団法人 日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.112-120, 2009-12-25 (Released:2017-08-04)

This study intended a quantitative and qualitative examination of the relationship between motor ability acquisition and physical activities in young children, and to clarify factors affecting this acquisition. The methodology included measuring young children's motor coordination, and classifying the data into high-scoring and low-scoring children. In addition, physical activity counts, physical activity intensity and vigorous physical play were also measured by fitting the children's waists with bi-axis accelerometer for seven days. As a result, during all days on which the children were measured, the group of high-scoring children showed significantly higher scores in their moderate or vigorous physical activity counts and their physical activity counts. The results suggest that there was a close relationship among motor abilities, physical activity counts and the intensity of physical activity.
著者
鈴木 幸子 岩立 京子
出版者
日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.180-191, 2010-12-25

本研究は,幼稚園の帰りの集まりにおいて,3歳児が「別れのあいさつ」のルーティンを学んでいくダイナミックな過程を,幼児と保育者,幼児と他児のやりとりにおける言葉や仕草,表情を詳細に記録し,心情面も含めて考察した。その結果,まず,子どもは個人の楽しさや自分の思いを表現するために教師の提示したルーティンを破り,共に行動する楽しさによってルーティンに戻る。保育者はあいさつのルーティンの要素間の間合いを短くすることで,子どもがルーティンを実行するように援助をしていた。次第に,子ども同士がルーティンの実行を互いにうながすようになっていった。この変化の様相から,子どもが自発的にルーティンを学んでいくためには,子ども同士が影響し合うこと,また,その基盤としての子どもと保育者との信頼関係が重要であると考察された。
著者
河崎 道夫
出版者
一般社団法人 日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.12-21, 2008-08-30 (Released:2017-08-04)
被引用文献数
1

There have been two radical changes in the history of children's play in the past half-century in Japan. The first change began in the 1960s: the period of Japanese rapid economic growth. During this period, children began to lose the three essential factors of play: time, space, and company. Gradually, fewer and fewer children were seen playing outdoors, such as running around with their friends. Many kinds of children's play that had accumulated over time as historical constructs began to be lost. This fundamental change continued, with the second radical change occurring in the late 1980s. At that time, technological development of electronic devices and expressive media produced massive amounts of expressive cultural goods for children such as game software, video software, and picture books. These artificial, fantastical, and imaginative products created a big market targeted at children. Consequently, children's interactive play with the real world, especially nature, changed into play with expressive electronic cultural products. This tendency changed children's play radically from interactive, physical, and creative play to more passive activities. Today, children are likely to play alone indoors without physical activities. It is feared that these changes will have harmful effects on children's mental and physical development.
著者
椨 瑞希子
出版者
一般社団法人 日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.132-143, 2017 (Released:2018-03-16)
参考文献数
35

イギリスの保育は,過去20年で大きな変貌を遂げた。制度整備の遅れは克服され,ほぼすべての3,4歳児が無償保育を享受する。無償枠は,2歳児の40%に拡大され,無償時間は,2017年9月から2倍になる。本稿は1990年代以降の保育政策研究と政策文書に基づいて,保育無償化の歴史的背景とその展開を明らかにし,その特質について考察する。市場主義の功罪と,親の選択権の過度な尊重が,子どもの安寧を脅かしている現状を報告し,適切な生活時間の公的保障の必要性を訴える。
著者
諏訪 きぬ
出版者
一般社団法人 日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.46-56, 2017

<p>子どもの生活に対する家庭の役割は押しなべて脆弱化し,社会的な支援が必要不可欠となっている。学童期の子どもの場合も例外ではない。小学校における学習・遊び・生活(学校給食)による子どもの生活権・発達権保障の役割は大きいし,放課後の学童の生活を学童保育によって守られている子どもも100万人を超えている。ここでは学童保育の運営に着手して日の浅い学童保育のフィールドワークとアンケート調査を通して,学童保育がどう家庭・学校・地域と連携しようとしているか,事例的にその実態を明らかにする。</p>
著者
松井 剛太
出版者
日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.295-306, 2013-12-25

本研究の目的は,障害のある子どもがいる保育にとって,すべての子どもが充実した遊びを行うための示唆を提起することであった。研究方法として,特別支援学校幼稚部の遊びを分析対象とした。その結果,以下のポイントが明らかになった。第1に障害特性論から脱却することが遊びの充実につながること,第2に,個々の子どもの遊びの構えに着目すること,第3に,遊び込むための構造化を考えること,第4に,集団のノリを生むための教師の役割を振り返ること,であった。最後に,障害特性論の脱却のためには,保育独自の個別の指導計画の開発が必要であることを提起した。
著者
佐川 早季子
出版者
日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.163-175, 2013-12-25

本研究は,幼児の共同的造形遊びにおけるモチーフ生成のプロセスを明らかにすることを目的とする。幼稚園の4・5歳児クラスを半年間参与観察し,幼児がモチーフを生み出すプロセスを,言語的・非言語的やりとりの両面に着目して分析した。注視方向に着目した分析から,幼児が遊び相手の制作物を注視して制作方法に関する情報を取得し自分のモチーフをつくり出す過程で,注意がいったん造形遊びから逸脱する行動が見られた。これは,他児のアイデアを自分のものに変えるために必要な過程であることが示唆される。そして,交互に行われるモチーフの言語化が造形遊びに新しいアイデアをもたらす提案となり,造形遊びを協働的かつ即興的に展開させていた。
著者
湯浅 阿貴子
出版者
日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.248-260, 2015-12-25

本研究の目的はゲーム遊びで生起した「ずる」の場面に着目し,「ずる」が継続的に観察された幼児の行動記録から行動の変容プロセスを明らかにした。その際,他者との相互交渉が幼児の意識及び行動の変容を促す要因と繋がっているのかについて検討した。結果,(1)望んだ状況にするための「ずる」が一定期間繰り返されることによって周囲が疑問を抱くようになる,(2)周囲の幼児が「ずる」に対して疑問や不満を抱き,指摘するようになる,(3)「ずる」を行う幼児が指摘を受け,自身の行動の意味や結果について考える機会を得る,(4)突然変化するものではなく徐々に変容していく,という4つの段階を経ていることが明らかとなった。
著者
谷川 夏実
出版者
日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.105-116, 2013-08-31

本研究の目的は,新任保育者の危機を通じた専門的成長について,省察を手がかりとして明らかにすることである。省察をとらえる視点として<(1)問題状況のとらえ方の変容><(2)実践に取り組む姿勢の変容>に着目し,幼稚園教諭2名の,1年余りに渡る継続的なインタビューデータを分析した結果,それぞれの新任保育者に固有のリアリティ・ショックとそれに伴う省察がみられ,省察を通じた専門的成長を読み取ることができた。この結果から,新任保育者が省察によって問題状況を解釈する枠組みを獲得し,それに基づき実践に取り組む姿勢に変容がみられるまでには,一定の期間と機会を与えられることが必要だということが示唆された。
著者
志村 裕子
出版者
一般社団法人 日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.58-68, 2010

本稿の目的は,子どもの描いた絵の中の物語を理解する方法をみつけることである。本稿では,子どもの描いたタイプの違う絵と一人の子どもの描いた複数の絵を,物語論(ナラトロジー)の観点から分析した。その結果,絵の中に主人公をみつけることとその主人公と作者である子どもの距離関係を知ることによって,物語世界の質すなわちモードの違いをみつけ,それを子どもの絵の物語を理解するための糸口とすることができた。
著者
虫明 淑子 髙橋 敏之
出版者
一般社団法人 日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.20-31, 2016 (Released:2017-03-22)
参考文献数
21

本論では就園と同時期に子どもの発達障害の診断告知を受けた母親と教師との間で行った交換日記の記述から,1 年間の母親の障害受容の過程を明らかにした。量的分析の結果から,母親が肯定感情を高めた時期は,1 学期と 2 学期後半であると特定した。さらに質的検討を加えると,母親の障害受容が促進した要因は,①ペアレントメンターの効果,②子どもの目に見える成長,③子ども理解と問題行動への対応力,④非言語のやりとりにおける成長の確認,等が確認できた。母親が主体的に障害受容を進められるようになるためには,障害受容初期に接見した支援者の役割は最重要である。
著者
加藤 由美 安藤 美華代
出版者
一般社団法人 日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.54-66, 2016 (Released:2016-10-24)
参考文献数
77

本研究の目的は, 保育士の経験年数や勤務状況, 首尾一貫感覚, 対処スキルと抑うつの関連を検討することである。法人立保育園の保育士 292 名を対象として 2012 年に実施した自記式調査 (“CES-D Scale”, “Kiss-18”, “TAC-24”, “SOC 3-UTHS”) を分析した。その結果, 常勤か非常勤か, 1 人担任か複数担任かといった保育士の勤務状況と抑うつとの関連は見られなかった。相関の結果に基づいて, パス解析を行った結果, 経験年数と首尾一貫感覚は, 「対応のスキル」や「肯定的解釈と回避的思考」といった対処スキルを介して, 抑うつに関連することが明らかとなった。
著者
佐伯 胖
出版者
日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.347-357, 2008-12-25
著者
山崎 徳子
出版者
日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.23-35, 2010-08-30

この研究の目的は,障害児学童保育Pで,自閉症のある中学生まさきが,「友だち」と呼んで同世代の子どもとかかわろうとするまでを,「私は私」と「みんなの中の私」という自己意識の観点から考察することと,彼の周囲の人々のかかわりの意味を問うことである。Pで包まれるような状態であったまさきの自己性は早期に発揮され,「私は私」という自己意識は充実したが,他者を受け止めることはできず,自己防衛的になっていた。「棒人間」を使って人とやりとりすることは,自己内の対話的関係を生み出し,さらに他者との対話的関係が豊かになり,相互に主体として受け止めることの繰り返しがなされた。まさきは自分がなりたい「良き自己」を感じ,人格を形成することの喜びや誇りを得,人にかかわろうとする志向性が生まれた。「みんなの中の私」という自己意識の元になったまさきの「内的な他者」に生命を吹き込んだのは,「障害への対応」ではなく,周囲の人々の受動的なかかわりと,まさきの成長を喜びあう心情であった。
著者
香曽我部 琢
出版者
日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.202-215, 2012-12-25

本研究では,少子化,過疎化が急激に進む地方小規模自治体における保育者の成長を,保育者アイデンティティ形成の視点から明らかにし,その特徴について検討する。そして,少子化,過疎化が急激に進む地方自治体の保育者の現職教育の在り方について新たな視座を示唆する。具体的には,熟達した保育者に対して半構造化インタビューを行い,GTAによって分析を行った。その結果,保育者アイデンティティの形成過程において,少子化によって施設の規模の差異が生じ,その差異や差異のある施設間を異動するによって,さまざまな問題や良い効果が生み出されていることが示された。そして,これらの問題に対して,保育者は,異動を繰り返し(異動サイクル),その度に新たな気づきを得て,理想とする保育実践を構想し,葛藤することを保育実践において繰り返す(実践サイクル)中で,保育所や研究会などの公的な組織ではない,保育者間の個人的なつながり(保育実践コミュニティ)を生み出し,問題に対応していることを明らかにした。そこで,本研究では,施設の規模に応じた,現職教育の研修内容や体制の在り方について例示を行った。