著者
平澤 順子
出版者
一般社団法人 日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.87-99, 2019

本研究では,保育所1歳児の絵本場面における保育者の援助について明らかにすることを目的とした。約1年間保育所での自由遊び時間における自然発生的な場面を観察した。結果は次の通りである。<br>①1歳児の絵本場面における意図伝達のための身振りの特徴は,機能別に「説明」が最多で,形態的には「手や足の使用」「焦点化した指差し」など8種類の身振りが見られた。②子ども―保育者間と子ども同士の意図伝達の際の身振りの違いは,前者の方が身振りの種類・頻度共に約倍以上見られた。③ ①対する保育者の援助では,子どもの反応から自分の答えの誤りに気づくと,子どもの声の変化など詳細な手掛かりを基に修正して応答していることが示唆された。
著者
湯浅 阿貴子
出版者
一般社団法人 日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.29-39, 2017 (Released:2018-03-16)
参考文献数
22

本研究は,ゲーム遊びに生じる「ずる」への保育者のかかわりについて明らかにすることを目的とした。10名の保育者の逐語録をM-GTAによって分析し,保育者の実践知を図式化した。その結果,保育者のかかわりは《実態を把握する》カテゴリーから《かかわり方の判断》カテゴリーを通して,《教育的かかわり》カテゴリーへと段階を経ていることが示された。そして,保育者は個々の幼児のルールに対する認識によってかかわり方を変化させており,「ずる」に対して問題意識をもつ幼児が出てくる時期を指導の基点としていた。「ずる」に対するかかわりは,〈権威的かかわり〉と,〈認知葛藤的かかわり〉を中心としていることが明らかとなった。
著者
赤川 陽子 木村 直子
出版者
一般社団法人 日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.56-66, 2019 (Released:2019-12-13)
参考文献数
17

本稿は,保育士のバーンアウト状況をもたらす原因を職場でのストレス要因から明らかにし,具体的な職場環境の改善を提案することを目的とする。結果,次の3つのことがわかった。⑴休憩時間の取得時間が短い保育士ほど疲れている。勤務中の休憩時間は少なくとも30分の取得が必要である。⑵自宅への持ち帰り仕事については,週4日まではストレスを溜め込みながらもバーンアウトへの影響を認められず,週5日になるとバーンアウトに直接的影響がある。⑶持ち帰る仕事の内容が,本来職場で完遂する内容の場合はストレスと感じているが,保育士自身のスキルアップにつながる自主研究であればストレスと感じず,やりがいや満足感を感じていることがわかった。
著者
宮津 寿美香
出版者
一般社団法人 日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.30-38, 2018 (Released:2018-10-31)
参考文献数
31

本研究は指さし行動を獲得して間もない0歳後期から1歳前期の子どもの指さし行動に注目をした。対象児は0歳代の9名(男児5名,女児4名)である。指さし行動には,コミュニケーション機能が付随していることが特徴であるが,対象児の行う指さし行動には「自分自身のために行う」ような「ひとりごと」のような指さし行動がみられ,そのような指さし行動を本研究では「一人指さし行動」と定義した。分析には,大きく以下の3つの視点から検討をした。「指さし行動と日齢との関係」,「指さし行動と身体の発達との関係」,「指さし行動と言語発達との関係」である。その結果,対象児の日齢,身体発達,言語発達により,「一人指さし行動」とコミュニケーション機能をもつ「伝達的指さし」の頻度に違いがみられた。また,「一人指さし行動」を質の違いから4カテゴリーに分類したところ(ア.状態,イ.目的,ウ.理解/命名,エ.その他),1歳半頃までは,自分の目的や欲求物について指さす「イ.目的」の割合が高かったが,それ以降では,人の動きや状態を指さす「ア.状態」の割合が高くなることがわかった。
著者
湯澤 美紀 湯澤 正通
出版者
一般社団法人 日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.36-46, 2010-08-30 (Released:2017-08-04)

本研究では,信頼関係のある保育者に支えられたアスペルガー症候群の男児の活動を観察し,アスペルガー症候群の男児とクラスの子どもたちが共に成長するための体験を明らかにした。保育者の働きかけは,アスペルガー症候群の男児を含めて成員一人ひとりがもてる特性を認め合うという保育の文脈を生成した。アスペルガー症候群の男児の体験は,他の子どもに共有され,また,アスペルガー症候群の男児に関わる問題を一緒に考え,解決した体験は,自身の問題解決へと生かされた。アスペルガー症候群の子どもの特性を生かした保育の重要性が示唆された。
著者
永井 毅 溝邊 和成
出版者
一般社団法人 日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.90-101, 2019 (Released:2019-12-13)
参考文献数
48

本研究は,保育者養成課程において,以下を特徴とする授業を実施し,「虫」に対する苦手意識および保育実習に対する効果を分析することを目的とした。⑴講義・演習連続型,⑵実習前体験,⑶「虫」への自分らしいかかわり方の保障受講女子学生85名を対象に事前・事後アンケートを実施した。分析の結果,学生の多くは,知識を得ながら体験する授業に対して興味・関心を示し,仲間と楽しさを共有しつつ取り組んでいたことがわかった。それにより「虫」に対する苦手意識も薄らぎ,実践への自信や実習での活用も見られ,実習での学生が子どもとの自然遊びを豊かにすることにも寄与したと考えられる。
著者
木曽 陽子
出版者
一般社団法人 日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.200-211, 2011-12-25 (Released:2017-08-04)
被引用文献数
3

本研究の目的は,「気になる子ども」の保護者との関係の中で現れる保育士の困り感に着目し,その変容プロセスを明らかにすることであった。そこで,公立保育所の保育士5名に半構造化面接を行い,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチにより分析を行った。分析の結果,以下の3点がこのプロセスの特徴として明らかになった。第1に,「気になる子ども」の保護者に関わる際に,保育士は<"子どものため"の思いの基盤>を常に持ち合わせていた。第2に,<保護者との思いの対立>という経験を経て,保育士の働きかけが<"子どものため"に理解を求める>から<保護者に合わせる>へ変わっていた。第3に,<保護者に合わせる>関わりに変わっても,保育士は<"子どものため"の思いの基盤>とく保護者に合わせる>の間に葛藤を抱いていた。
著者
杉本 信 並木 真理子
出版者
一般社団法人 日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.279-292, 2014-12-25 (Released:2017-08-04)

本研究の目的は,母親の怒り感情の抑制と怒り感情への評価,子育てに関するメタ認知,育児自己効力感の関連を検討することであった。4〜5歳児を持つ母親を対象に,子育てに関する怒り感情の抑制と評価,子育てに関するメタ認知,育児自己効力感に関する質問紙調査を実施した。結果,以下の点が明らかとなった。怒り感情への評価の『他者懸念』と子育てに関するメタ認知の「他者をとおした省察」との間に有意な正の相関を見出し,怒り感情に対して他者を意識している母親は,他者をとおして自分の育児を見直していることを示した。また,怒り感情への評価の『負担感』と育児自己効力感との間に有意な負の相関が見出され,怒り感情を負担であると評価していない母親の育児自己効力感が高いことを示した。
著者
上田 よう子
出版者
一般社団法人 日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.111-119, 2018 (Released:2018-10-31)
参考文献数
20

本研究の目的は,地域子育て支援拠点の利用者の心情の変容を分析し,子育てによる親の孤立を防ぐための支援のあり方を明らかにすることである。拠点によく訪れた5人の利用者にインタビューし,複線径路・等至性モデル(TEM)によって質的分析を行った。その結果,親の複雑な心情の変容が4つの過程に分類された。本研究では,利用者が他の人の言葉やかかわりに非常に敏感であることが明らかになった。利用者の緊張と不安は表面上見ることが難しいため,拠点での支援では,「把握」「アプローチ」「創意工夫」「橋渡し」の必要性を提案した。
著者
香曽我部 琢
出版者
一般社団法人 日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.117-130, 2013

本研究では,保育者が自らの転機についての語りから,転機の要因や転機における保育者の自己の変容について明らかにすることで,現代社会において保育者に求められる専門性について検討を行う。具体的には,まず,保育者の成長に関連性が強い保育者効力感を縦軸としたライフラインを記入し,それを刺激素材として保育者の転機の時期やその要因,プロセスについて半構造化インタビューを実施する。そして,そこで得た言語データをSCAT (Steps for Coding and Theorization)を用いて分析を行う。その結果,転機の要因として3つのカテゴリーと異動との関連性が示された。そして,保育者が転機をi問題認識,ii省察,iii将来の展望,iv困難な状況の発生,v他者との相互作用の活性化,vi他者との実感と展望の共有,以上6つの段階のプロセスとして認識していることが明らかとなり,他の保育者と実践コミュニティを形成し,将来の展望を共有することの重要性を示した。
著者
保木井 啓史
出版者
一般社団法人 日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.261-272, 2015

本研究の目的は,幼児の協同的な活動の成立過程を,幼児の日頃の関係性の点から明らかにすることであった。研究方法として,幼稚園5歳児クラスの保育場面を,Ripleyらが提唱した「メンターシップ」の視点から質的に分析した。その結果,次のことが明らかになった。第1に,協同的な活動への参加は,日頃の遊びでの決まったメンバーである「仲良しグループ」を単位としてなされていた。第2に,幼児同士の目的の共有がなされない場合にも,「仲良しグループ」を単位とした活動は,他児への関心によって図らずも「協同的」になっていた。第3に,「気楽な雰囲気」が,仲良しグループを単位とした協同的な活動を継続させていた。
著者
寺田 恭子 赤井 綾美 小杉 知江 藤崎 亜由子 榊原 志保
出版者
一般社団法人 日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.379-390, 2014-12-25 (Released:2017-08-04)

本研究は,人が本来持ち備えている「主体性」に着目し,家庭での「しつけ」を地域の子育て家庭が共有することを通して,「子どもの主体性を育てる」地域の子育て支援の課題を検討することを目的としている。行動理論に基づき感情を抑制する親支援プログラムを活用しながら地域で「親の主体性」に働きかける「しつけ」に取り組んだところ,受講後の親アンケート調査から親の変化として「子どもの主体受容」「親効力感の向上」「自尊感情の安定」「自己のふり返り」という4つの因子が認められた。地域の子育て家庭が「しつけ」を共有することによって,自己の「しつけ」へのふり返りだけではなく,他の親やスタッフとの相互作用により「親の主体性」が育ち,さらに親と子の相互作用によって「子どもの主体性」が育つ芽が示された。
著者
星 三和子 塩崎 美穂 勝間田 万喜 大川 理香
出版者
一般社団法人 日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.153-163, 2009-12-25 (Released:2017-08-04)

This study examined the thoughts of daycare center practitioners regarding appropriate reaction to crying babies. Seventy-four daycare teachers participated in this research. First, they watched some videos of babies crying in a daycare situation. Afterwards, they were questioned about the practitioners' reactions in the video scenes. Their opinions were collected during a group discussion and analyzed. The results indicated some common beliefs: "Crying infants should be immediately calmed by adults and should include receptive behaviors such as taking the child in their arms and saying sympathetic words." "Demands communicated by crying should be accepted because crying helps establish an affective bond between baby and practitioner." In addition, historical examination of older beliefs suggested reconsideration of today's infant care.
著者
根ヶ山 光一 星 三和子 土谷 みち子 松永 静子 汐見 稔幸
出版者
一般社団法人 日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.179-186, 2005-12-25 (Released:2017-08-04)

This study investigates conditions surrounding infants' crying at day nurseries, and aims to examine the quality of daycare. In the day nurseries, 570 babies were observed. For each subject, the state of each period of crying, as well as its cause and the adult's techniques used to calm the child, were recorded during one day by his/her nursery teacher. The results show: 1. As a whole, the frequency of crying was highest in the morning and then declined; 2. The causes of crying were interpreted by the adults as mostly physical, though social causes increased with age in months; 3. Crying interpreted as having a physical origin was nevertheless dealt with by applying social techniques like holding; 4. The duration and the strength of a baby's crying were related significantly to the length of professional experience of his/her practitioner.
著者
中根 真
出版者
一般社団法人 日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.18-27, 2016 (Released:2017-03-22)
参考文献数
62

本稿の目的は,昼間保育事業の先駆者・生江孝之の神戸市職員時代に焦点をあてて再評価することである。まず,神戸市婦人奉公会発足の経緯,児童保管所の運営について要約し,生江は当初,保育事業のために神戸市に採用されたのではなく,救済事業の企画・立案者として採用されたことを明らかにしている。加えて,生江の保育事業構想は,市長と生江の採用交渉を行った留岡幸助によって鼓舞されたことを明らかにしている。すなわち,非行予防は彼の保育事業の主要目的であった。本稿は,今日的にも非行予防が保育事業の役割の 1 つとして認識できると結論づけている。
著者
奥 美佐子
出版者
一般社団法人 日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.163-174, 2004-12-25 (Released:2017-08-04)

Imitation appearing in children's painting processes can be regarded as a positive activity in which they absorb information and use it to create their own expression, or it can be considered a negative activity, often called merely copying without understanding. The purpose of this article is to examine imitation in young children's painting process in terms of absorbing information and reflecting it in expression, and discuss the effects of imitation. The result of this case study reveals that visual stimulation is the most important element in imitation and that a spatial element and a human element are also related to imitation. Imitation can be classified into three types, each of which reflects in various ways the information young children absorb and use in their creative expression.