著者
谷川 雅俊 飯塚 智子 松本 卓之 岩下 美喜雄 平松 且稔 小宮 雅弘
出版者
一般社団法人 日本医療情報学会
雑誌
医療情報学 (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.251-258, 2008 (Released:2015-03-20)
参考文献数
10
被引用文献数
1

医薬品の使用成績調査での電子的症例データ収集システムの運用において,電子的調査票と紙調査票を併用して実施した場合の各調査票の収集方式による,①医療機関との契約開始日から調査票入手までの期間,②調査票の入手から調査票の再調査依頼までの期間,③調査票の再調査に要した期間,④調査票の入手から調査票の再調査が不要となるまでの期間,⑤医療機関との契約開始日から調査票確定までの全期間,⑥再調査率(再調査実施調査票数/全収集調査票数)および⑦1調査票当たりの平均再調査項目数について比較した.その結果,上記の①~④の各期間はいずれも電子的調査票方式が紙調査票方式より短縮された.また,⑥は,電子的調査票方式の37.8%に対し,紙調査票方式が75.8%,⑦は,全入力項目数92項目のうち電子的調査票方式が1.5項目に対し,紙調査票方式が8.5項目と電子的調査票方式が紙調査票方式に比べ再調査率および再調査項目数ともに低かった.以上の結果から,使用成績調査における電子的症例データ収集システムによる電子的調査票方式の活用によって,紙調査票方式に比べ,収集された症例データの確認に要する期間の短縮が図られ,より効率的に症例データを収集できることが示唆された.
著者
岡垣 篤彦 上尾 光弘 定光 大海
出版者
一般社団法人 日本医療情報学会
雑誌
医療情報学 (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.35, no.5, pp.219-227, 2015 (Released:2016-12-16)
参考文献数
7

ER外来の診療速度に電子カルテの入力が追いつかず,これまでER外来の電子化は難しいとされてきた.大阪医療センターでは電子カルテの入力を容易にし,閲覧性を向上させる目的でファイルメーカープロで作成した入力画面を富士通製病院情報システムであるEGMainEXに接続した電子カルテを運用してきたが,この仕組みを用いて高速入力用のテンプレートを作成しER経過記録として実装し,1年間運用したデータを分析した.ER経過記録の1レコードに記載された診療行為数は平均で32件,入力する間隔は平均2分29秒であった.直前の入力から1分以内に入力されているケースが全体の47%であり,10~20秒以内に次の診療行為を入力しているケースが最も多かった.これまでER外来の診療速度についていける電子カルテがなかったため定量的な評価は難しかったが,電子化によりどのような診療が行われているかを把握することが可能となった.
著者
西出 優子 村田 和大 小松 恒彦
出版者
Japan Association for Medical Informatics
雑誌
医療情報学 (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.139-143, 2012

血液がんの診療を行う施設は限られているため,遠距離を移動しなければならない患者が多い.また,血液がん患者は感染症のリスクが高いため公共交通機関の利用が躊躇される.われわれは血液がん患者の居住地を電子カルテData Warehouseから抽出し,Google Earth ProとBatch Geoを用いて地図上に可視化し運送費用の推計を行った.対象は,帝京大学ちば総合医療センター血液内科に2009年3月から2011年3月までに入院した血液がん患者90名(平均年齢64歳).通院に往復50 km以上の移動を要する患者が33%,100 km以上が7%存在した.さらに往復の運送費用が10,000円を超える患者が全体の47%(平均費用20,957円)にも達すると推計された.
著者
中島 典昭 渡部 輝明 弘末 正美 楠瀬 伴子 奥原 義保
出版者
一般社団法人 日本医療情報学会
雑誌
医療情報学 (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.259-273, 2015 (Released:2017-02-22)
参考文献数
14

近年,医療施設では診療情報の電子化が進み,システムによる医療安全面でのチェック機能や医療スタッフ間で情報を共有する機能が充実しつつあるが,情報の共有漏れに起因するインシデントの発生の予防に十分に寄与できているとはいえない.これに対してわれわれは「確実に情報を伝える」という観点でシステムが担う役割を整理することで,従来の病院情報システムに加えて情報の伝達を担う仕組みが必要であることを示し,システムを構築するための基盤全体を「医療情報伝達基盤」と捉えた統合的な設計と実装を提案する. 高知大学医学部附属病院では,2013年1月の総合医療情報システム(IMIS)の更新時に,「医療情報伝達基盤」を目指して総合医療情報伝達基盤(IMII)を構築した.実現にあたって,個人専用携帯端末の選定や携帯端末で稼働するアプリの開発,安定して接続できる無線LAN環境の敷設が必要であった.「医療情報伝達基盤」という考えに基づく病院情報システムを支える基盤全体の設計や構築は医療安全の観点からも重要であり,多くの医療施設で適用できるものと考えられる.
著者
高崎 光浩 服部 佳代子 北原 真里子 溝口 明美 大島 玲子 浦山 緑 内野 秋子 和田 米敏 井原 貴子
出版者
一般社団法人 日本医療情報学会
雑誌
医療情報学 (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.22, no.5, pp.391-398, 2002 (Released:2017-08-14)
参考文献数
3

佐賀県における子育てのあり方を地域全体で考え愛情をもった育児・育児支援が図られることを目的としたインターネット上の情報提供サイトを構築し,運用している.地域情報については行政機関とも内容を検討したため,地域全体で子育てについて考える第一歩につながったと思われる.従来は自治体や病院・医院等が実施している保健指導,母親学級,母子健康相談の受講などが唯一の情報源であったが,働く女性の増加と就労形態の変化によりそれらの受講が困難となっている.インターネットでの情報提供は現状の解決策のひとつと考えられる. このサイトの運用により,子育て対象者の仲間づくり・仲間意識の向上・専門家による子育てに関する正しい知識の普及を図ることができ,当事者の不安の軽減に役立っていると思われる.より細かな需要の把握とコミュニケーション実現のために,掲示板の有効かつ活発な活用に向けて検討が必要であることが示唆された.
著者
永井 昌寛 山本 勝 横山 淳一 藤本 明伸 中島 俊朗
出版者
一般社団法人 日本医療情報学会
雑誌
医療情報学 (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.239-250, 2002 (Released:2017-08-14)
参考文献数
14

歯科分野においてIT(情報)化の推進を効率よく効果的に進めていくためには,歯科医師のIT化に関する意識を把握し,その状況に応じたIT化を計画的に進めていく必要がある. そこで,本論文では,愛知県の歯科医師に対しIT化に関する意識実態調査を実施し,とくに,情報機器の利用状況,歯科診療所のIT化に関する意識状況,および,歯科医師会事務局のIT化を分析テーマとして今後のIT化に向けて考察を行うとともに,調査結果からシステム工学的な立場でIT化推進に向けての課題を述べている. この調査結果から,①歯科診療所のIT化の必要性の認識は,歯科医師が高齢になるほど低くなる,②歯科診療所のIT化の目的あるいは期待される効果として,サービス内容の充実を重視している,および,③歯科医師会事務局のIT化の必要性の認識は,役員の方が非役員に比べて高い,等がわかった.
著者
渡辺 佳代 山本 和子 岡田 美保子 高上 僚一
出版者
一般社団法人 日本医療情報学会
雑誌
医療情報学 (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.249-255, 2005 (Released:2015-07-17)
参考文献数
11

川崎医療福祉大学医療情報学科では,医療現場の実情に対応し得る教育を目指し,平成13年から「電子カルテ・ラボ」システムの開発を進めてきた.本システムは,電子カルテシステムが導入された場合に,これを支援する人材に必要と考えられる知識・技能を,学生が演習を通じて習得することを目的としている.システムの機能は大きく1)電子カルテシステムを中心とした機能,2)学習支援機能,3)教材作成支援機能からなる.学習支援機能は,患者の動線に沿った画面から構成される.画面ごとに,学習目標,理解を助ける解説,各部門で行う業務システムによる入力演習,確認のための試験問題を用意している.本システムを演習で使用し,学生にアンケートを実施した結果,電子カルテシステムや病院の仕組みを学ぶ上で有用であることが示された.
著者
佐野 友美 赤羽 学 八巻 心太郎 菅野 健太郎 今村 知明
出版者
一般社団法人 日本医療情報学会
雑誌
医療情報学 (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.293-300, 2008 (Released:2015-03-20)
参考文献数
19

【目的】国際疾病分類(ICD)は,現在ICD–10が広く世界で活用されている.しかし,医学の進歩や社会変化に伴い改訂の必要性が高まってきたため,WHOはICD–11への改訂に着手した.わが国は内科領域の議長国となり,改訂に強く関与することとなった.そこで本論文では,改訂へ向けた進展状況を報告するとともに,今後の課題に対して考察を加える.【現状】WHOは既に改訂に向け,内科や精神等の12個の領域で専門部会(TAG)を設立した.わが国も積極的に改訂にかかわるべく,国内内科TAG検討会を立ち上げ,各専門学会や行政等が連携し,問題点の抽出や課題の整理,改善案の提示,国際会議参加およびWHO動向の把握等を行っている.【考察】現在までに,多くの問題点が指摘されている.問題点の代表的なものとして,言語の問題,インフォメーションモデルの改良や「分類」として利用されているICDにどのようにして「オントロジー」の概念を組み込んでいくか等が挙げられる.【まとめ】今後,国内に加え世界的な意見集約・調整を行う作業は想像以上に困難であろう.現在はICD–10+を作成する作業段階であり,オントロジーまで含めた国際的合意が得られるようにするには多くの困難があると考えられる.
著者
田中 勝弥 山本 隆一 渡辺 宏樹 星本 弘之 土屋 文人 秋山 昌範 大江 和彦
出版者
一般社団法人 日本医療情報学会
雑誌
医療情報学 (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.183-194, 2010 (Released:2015-02-20)
参考文献数
10

本稿では,地域医療連携を促進すべく,PKIを使用した診療情報交換のためのシステムを開発したので報告する.開発したセンター中継方式の送受信システムを使用して,医療機関等の間で暗号化された診療情報をS/MIME形式でやりとりすることとし,受信先機関のみが対象情報を復号可能な機構を持たせた.診療情報の暗号化に必要な公開鍵は,医療機関を対象とした組織向け公開鍵ディレクトリを開発しこれを利用した.さらに,救急診療向けの患者基礎情報を対象として本システムを活用すべく,一定期間の蓄積可能な機能を構築した.いずれの場合も,伝送システムでの診療情報の授受や蓄積は患者の同意を得て行われなければならず,患者自らが中継システム上の自身の診療情報の登録状態を直接参照し,制御する機能も持たせた.特にPKIをベースとした広域での医療機関間の情報連携を促進するためには,本研究で開発した公開鍵ディレクトリが有用であると考える.