著者
今井 信也 小川 俊夫 赤羽 学 今村 知明
出版者
一般社団法人 日本医療情報学会
雑誌
医療情報学 (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.141-149, 2014 (Released:2016-04-20)
参考文献数
12

磁気共鳴画像装置(MRI)は今日の画像診断において欠かすことのできない検査機器であるが,その採算性についてはMRIの性能や利用頻度,また周辺地域の導入状況に影響されると考えられる.そこで本稿では平成23年度に一般病院で稼働しているMRIの一台あたり年間収支差を年間費用と収入より試算し,MRI導入の採算性を性能別,病床規模別,都道府県別に分析を行った.MRIの年間収支差は,1.5テスラ以上では病床規模別,都道府県別においてばらつきはあるものの,ほぼすべて黒字であったが,1.5テスラ未満ではほぼすべて赤字であった.MRI導入による採算性の要因としては,病床規模での各種加算の取得割合の違いや,地域でのMRI一台あたりの人口および医師数が大きく関係していた.病院経営の視点から,高性能なMRIは病床規模や地域性に関わらず導入を検討できうる医療機器であると考えるが,採算面だけでなく臨床的な必要性や間接的な収支を考慮するべきである.
著者
中西 康裕 三宅 好子 川田 耕平 久保 友美子 今中 淳二 廣田 雅彦 後藤 淳宏 今村 知明
出版者
一般社団法人 日本医療情報学会
雑誌
医療情報学 (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.123-134, 2016 (Released:2017-09-11)
参考文献数
29

本研究では,800床規模の高機能を持つ平均的な大病院をモデルケースとして,まず薬剤収益を求める収益計算の一般的な線形式を作成した.その線形式を基に,後発医薬品導入率,院外処方率および薬剤値引き率等を変数として,変数の増減による薬剤収益の変動を分析した.後発医薬品導入率が0%から100%へ増加することで,収益は約2億1,143万円上昇した.DPCに包括される薬剤が後発医薬品に置き換えられることによって入院薬剤経費が削減され,さらに後発医薬品係数の上昇により診療報酬が増加した.しかし,院外処方率が10%から90%へ増加することで,後発品導入による収益増と同程度の約2億442万円の収益が減少した.院内処方を堅持している病院は,院外処方に切り替えた病院と比較してより多くの薬剤収益を上げていることが本分析によって示された.国の政策として,後発医薬品の推進は経済的インセンティブが有効に機能していると言える.だが,院外処方の推進については,すでに院外処方が主流であるものの経済的インセンティブが働いているとは言い難い状況であろう.
著者
神奈川 芳行 海老澤 元宏 今村 知明
出版者
日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.78-86, 2005-03-01 (Released:2010-08-05)
参考文献数
7
被引用文献数
4 4

目的; 食物アレルギーの実態調査は, 医療機関に来院した患者の原因物質等に関する調査は行われているが, 患者側の行動に着目した原因食品の販売形態や発症場所, 発症時の対処方法に関する調査研究はないので実態調査を行った.方法; 全国的な食物アレルギーの患者会の協力を得て, 会員家族1,510家族に対して, 郵送による「食物アレルギー発症回避のためのアンケート調査」を実施し, 878家族, 計1,383名 (内アナフィラキシー経験者402名) の回答を得た.結果; アナフィラキシーの原因食品の販売形態は,「容器包装加工食品」,「店頭販売品」「レストラン (食堂) での食事」の順となっていた. 発症場所と販売形態の関係では,「自宅」で「容器包装加工食品」や「店頭販売品」による発生が最も多く, ほぼ毎日摂食している「学校給食」よりも「レストラン」での食事,「ファーストフード」での「店頭販売品」による発生が多い結果となった. アナフィラキシー発症時の軽快までの時間では, そば, 落花生が乳, 卵, 小麦よりも長く発症件数の多さの順とは異なっていた.
著者
村上 淳基 赤羽 学 中西 康裕 今井 信也 玉本 哲郎 今村 知明
出版者
一般社団法人 日本医療情報学会
雑誌
医療情報学 (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.73-84, 2019-10-15 (Released:2020-10-23)
参考文献数
23

日本で放射線治療に使用される装置は,直線加速器(リニアック)が最も多く,今後のがん治療には不可欠である.しかし,高額医療機器であるリニアックの収益性に関する研究はまだ不十分である.本研究では,2014年度にリニアックを導入している一施設あたりの年間収支差を病院規模別,地域別に試算した.さらに,年間収支差の要因について分析した.放射線治療に特化した小規模や大規模な病院では,一施設当たりの年間収支はプラスとなる一方,中規模病院では収支が均衡,あるいはマイナスとなることが示された.また地域別では,一部の都道府県で収支がマイナスとなった.これらの差は,治療患者数および機器の購入費用に起因すると考えられる.今後,放射線治療を受ける患者数はさらに増加することが予想されるため,放射線治療が病院経営に与える影響は大きい.リニアック導入に関しては直接的な収支に加え,化学療法など併用治療による収支に間接的に与える影響や各医療施設での臨床的必要性を総合的に考慮する必要がある.
著者
上ノ土 武 飯尾 靖枝 只熊 幸代 原塚 柳子 神奈川 芳行 今村 知明 古江 増隆
出版者
福岡医学会
雑誌
福岡醫學雜誌 (ISSN:0016254X)
巻号頁・発行日
vol.96, no.5, pp.183-184, 2005-05-25

ダイオキシンやダイオキシン関連化合物の,次世代に対する影響について社会的関心が高まっている.吉村らは1968年から1977年の間に,油症患者から出生した85人の性比を,一般人の期待される男女比0.514と比較し,明確な差はない,と報告した.しかしながら,曝露者が父親か母親かと,親の曝露時の年齢との関連についての検討は,油症ではまだ行われていない.油症と同様に,PCBやダイオキシン関連化合物が食用油に混入した例としては,台湾で発生したYuchengがある.Yu-chengの原因物質は,油症の原因物質と極めて類似しており,Polychlorinatedbiphenyls(PCBs)やPolychlorinateddibenzofurans(PCDFs)が主なものである.ダイオキシンやダイオキシン関連化合物質に曝露された例は,イタリアのSevesoをはじめ複数の国から報告がある.Yu-chengや,Seveso,ロシアやオーストリアの塩素ざ瘡コホートでは,20歳前や20代の前半に,ダイオキシンやダイオキシン類関連化合物に曝露した男性が父親である児の男女比は有意に低下している,との報告されている.一方で,曝露した女性が母親である児の男女比については影響が認められない,との報告がYu-chengやSevesoからなされている.
著者
久保 慎一郎 野田 龍也 明神 大也 東野 恒之 松居 宏樹 加藤 源太 今村 知明
出版者
一般財団法人 日本健康開発財団
雑誌
日本健康開発雑誌 (ISSN:2432602X)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.11-19, 2017 (Released:2019-10-19)
参考文献数
3
被引用文献数
2

背景・目的 レセプト情報・特定健診等情報データベース (NDB) に含まれるレセプトデータは1カ月単位で発行される診療報酬請求データであり、患者単位での分析を行うには2種類の個人情報由来のIDを用いて「名寄せ」と呼ばれる紐づけ処理が必要であるが、その処理法についての十分な検討は未だなされていない。本研究では、NDBにおける2種類のIDが変化するパターンを整理し、名寄せを行う上での留意点を明らかにした。方法 2013年度のNDBデータを用い、名寄せの支障となる過誤の整理と、過誤が発生する件数と頻度の検証を行った。結果 2種類のIDはライフイベントによって変化するため過誤が発生しやすい。扶養の同性双子や、同性同名・同一出生日・同性患者が存在した場合、別人物を同一人物と誤認する第一種過誤が発生しやすい。また転職や離職、定年等で「保険者番号」「被保険者証等記号・番号」が変化し、養子や結婚による改姓や医療機関による氏名の表記ゆれによって同一人物を別人としてしまう第二種過誤が発生する。1年間の追跡だけで概ね11%のIDが変わる可能性があり、コホートから脱落する。追跡対象者の0.8%はID1とID2が同時に変わる可能性があり、1年あたり1%程度の対象者は追跡が困難な状況となると見積もられた。考察 名寄せの問題点として、2種類のIDがライフイベントに応じて変化することと、名寄せキー変数に乏しいことが挙げられる。名寄せ精度の検証については匿名でも同一人物であるコホート集団があれば、教師データとなりうる。今後、名寄せの精度を向上させる必要がある。
著者
康永 秀生 井出 博生 今村 知明 大江 和彦
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.40-50, 2006 (Released:2014-07-08)
参考文献数
55
被引用文献数
14

アンケート調査の方法として,従来から郵送調査法・面接調査法などが汎用されている。インターネット調査法の医学研究への適用は,その有用性や妥当性についていまだ評価が確立していない。今回,2005年 4 月現在までに報告された,インターネット・アンケートを利用した邦文医学研究論文36編をレビューした。インターネット調査法を用いた原著論文の絶対数は,近年若干の増加傾向を認めるものの依然として少ない。アレルギー疾患(アレルギー性鼻炎,アトピー性皮膚炎,蕁麻疹など)など,青壮年層の患者数が多い疾患を対象とした研究が比較的多い。従来法と比較して,インターネット調査法の利点として,(1)調査者・回答者双方の利便性が高い,(2)データ回収が迅速である,点が挙げられる。欠点として,(1)利用者の年齢層が偏っている,(2)モニター登録という有意抽出法が採用されるため,無作為抽出法と比較して標本誤差が発生しうる,点が挙げられる。しかしながら,近年のインターネットの爆発的な普及拡大によって,利用者の年齢層の偏りは解消されていくことが期待される。高齢者層にもアンケート対象が拡大すれば,より多くの疾病について研究が可能となる。インターネット調査法の利点を考慮すれば,今後は社会医学・臨床医学研究における有力なツールのひとつになりうると考えられる。
著者
神奈川 芳行 海老澤 元宏 今村 知明
出版者
日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 = The Japanese journal of pediatric allergy and clinical immunology (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.69-77, 2005-03-01
参考文献数
8
被引用文献数
2 1

目的; 食物アレルギーの実態調査について, 医療機関に来院した患者の原因物質等に関する調査は行われているが, 患者家族の食品の購買行動に着目した実態調査は充分には行われていないので, その実態を調査した.<br>方法; 全国的な食物アレルギーの患者会の協力を得て, 会員家族1510家族に対して, 郵送による「食物アレルギー発症回避のためのアンケート調査」を実施し, 878家族, 計1,383名 (内アナフィラキシー経験者402名) の回答が得られた.<br>結果; 食品の購入先は,「生協」「スーパー」,「自然食品店」の順である. 99%の家族では, 食品購入時に表示を確認している.「可能性表示」がなされた場合には, 原材料に含まれているものと解釈され, 購入を回避する可能性があると推察された.<br>患者家族は, 表示内容からその食品中に含まれる食物抗原量を推定し, 食品を選択しているが, その情報提供の機会や内容は十分ではないと考えており, 今後, インターネットの活用など, 表示以外の方法を用いて, より詳細な原材料等の情報提供を必要としている.
著者
穐山 浩 五十鈴川 和人 張替 直輝 渡邊 裕子 飯島 賢 山川 宏人 水口 岳人 吉川 礼次 山本 美保 佐藤 秀隆 渡井 正俊 荒川 史博 小笠原 健 西原 理久香 加藤 久 山内 淳 高畑 能久 森松 文毅 豆越 慎一 村岡 嗣朗 本庄 勉 渡邉 敬浩 坂田 こずえ 今村 知明 豊田 正武 松田 りえ子 米谷 民雄
出版者
[日本食品衛生学会]
雑誌
食品衛生学雑誌 = Journal of the Food Hygienics Society of Japan (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.120-127, 2004-06-25
参考文献数
16
被引用文献数
2 12

特定原材料である牛乳タンパク質測定のELISA法の確立のために10機関による検証評価試験を行った.カゼイン,β-ラクトグロブリンおよび牛乳タンパク質を測定する3種類のELISA法とも同時再現性はおおむねCV値10%以下と良好であった.10機関で牛乳標準溶液を添加した5食品の各食品抽出液を分析した際の平均回収率は,3種類のELISA法とも数種類の食品抽出液を除きおおむね40%以上であった.しかしカゼインキットでは,回収率が極端に低いソースの抽出液の場合,抽出液のpHを中性に調整した後に測定すると回収率が改善された.また牛乳エライザキットでは,クッキー,シリアル,パスタソースの抽出液において,回収率が低かったが,プレート上の抗体量を増加させることにより改善された.3種類のELISA法の検出限界は,測定溶液の濃度で1 ng/mLであった.
著者
佐野 友美 赤羽 学 八巻 心太郎 菅野 健太郎 今村 知明
出版者
一般社団法人 日本医療情報学会
雑誌
医療情報学 (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.293-300, 2008 (Released:2015-03-20)
参考文献数
19

【目的】国際疾病分類(ICD)は,現在ICD–10が広く世界で活用されている.しかし,医学の進歩や社会変化に伴い改訂の必要性が高まってきたため,WHOはICD–11への改訂に着手した.わが国は内科領域の議長国となり,改訂に強く関与することとなった.そこで本論文では,改訂へ向けた進展状況を報告するとともに,今後の課題に対して考察を加える.【現状】WHOは既に改訂に向け,内科や精神等の12個の領域で専門部会(TAG)を設立した.わが国も積極的に改訂にかかわるべく,国内内科TAG検討会を立ち上げ,各専門学会や行政等が連携し,問題点の抽出や課題の整理,改善案の提示,国際会議参加およびWHO動向の把握等を行っている.【考察】現在までに,多くの問題点が指摘されている.問題点の代表的なものとして,言語の問題,インフォメーションモデルの改良や「分類」として利用されているICDにどのようにして「オントロジー」の概念を組み込んでいくか等が挙げられる.【まとめ】今後,国内に加え世界的な意見集約・調整を行う作業は想像以上に困難であろう.現在はICD–10+を作成する作業段階であり,オントロジーまで含めた国際的合意が得られるようにするには多くの困難があると考えられる.
著者
赤羽 学 今村 知明 高野 裕久 上田 佳代 清水 厚
出版者
奈良県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

我々がこれまでに確立したインターネットを介した健康調査システムを用いて、アレルギー症状を日々収集し、黄砂飛来量・花粉飛散量との関係をみた。各症状の有無を従属変数とし、対象者の性別、年齢と各調査日の最高気温、湿度、黄砂量を共変数として一般化推定方程式を用いて分析した。アレルギー症状の有症状率は2月上旬から増加傾向を示し、黄砂の大量飛来日を起点として増加していた。黄砂量と関連が強かった症状は、鼻水、咳、目のかゆみであった。本研究では、黄砂によってアレルギー症状が誘発されている可能性が示唆されただけでなく、花粉症患者においては花粉飛散量と不眠にも関連があることが判明した。
著者
神奈川 芳行 赤羽 学 今村 知明 長谷川 専 山口 健太郎 鬼武 一夫 髙谷 幸 山本 茂貴
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.100-109, 2014 (Released:2014-04-16)
参考文献数
16

目的 世界的に人為的な食品汚染についての関心が高まるに伴い,G8 では専門家会合が開催されたり,米国では多くの対策•方針案等が策定されている。しかし,日本では,食品企業の食品テロに対する認識が低く,その脆弱性が危惧されている。今回我々は,日本の食品企業に食品防御対策を普及させるためのガイドライン等を作成した。方法 すでに作成されている食品工場用チェックリストに示されている食品防御対策について,費用対効果を考慮した「推奨度」を整理した。その推奨度(費用対効果の高い対策順)を基に,「食品防御対策ガイドライン(案)」を作成し,食品工場に対して聞き取り調査を実施した。また,食品防御の観点から,食品工場用チェックリストやガイドラインと「総合衛生管理製造過程承認制度実施要領(日本版 HACCP)」を比較した。結果 推奨度を基に試作したガイドライン(案)に対する食品工場への聞き取り調査を踏まえて,「食品防御対策ガイドライン(食品製造工場向け)」とその解説を作成した。また,食品企業に普及させるために,HACCP における食品防御の観点からの留意事項を作成した。結論 食品防御対策を普及させるためには,食品事業者が使用しやすいガイドラインが有用と考えられた。