著者
杉浦 郁子
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.148-160, 2013
被引用文献数
2

本稿では,性別違和感のある人々の経験の多様性が顕在化したことを背景に,「性同一性障害であること」の基準として「周囲の理解」が参照されるようになった可能性を指摘する.また「性同一性障害」がそのように理解されるようになったとき,性別違和感のある子とその親にどんな経験をもたらしうるのかを考察する.<br>まず,1980年代後半から90年代前半に生まれた若者へのインタビュー・データを用いて,「周囲の理解」という診断基準が出現したプロセスについて分析する.次いで,「性同一性障害」の治療を進めようとする20代の事例を取り上げ,医師も患者も「親の理解」を重視していることを示す.そのうえで,親との関係調整の努力を要請する「性同一性障害」という概念が,親子にどのような経験を呼び込むのかを論じる.
著者
大貫 挙学 藤田 智子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.72-83, 2012-04-30 (Released:2013-07-09)
参考文献数
27

1970年代以降,フェミニズムは,ドメスティック・バイオレンス(DV)の背景に,近代家族における男性支配の権力構造があることを指摘してきた.これまで,多くの女性がDV被害に遭ってきたが,「被害」女性が「加害」者となってしまうケースもある.本稿では,DV被害女性が夫を殺害したとされる事件を取り上げ,動機の構成という点から,刑事司法における家族規範について考察する.裁判で弁護人は,被告人の行為を, DVから身を守るためのものだったと主張した.しかし裁判所は,弁護人の主張を退けている.検察官は,被告人の「不倫」を強調していたが,判決においては,「不倫」に対する非難ゆえに,弁護人の動機理解が否定されたのだ.本件裁判は,「不倫」を「逸脱」とみなす規範によって,弁護人のストーリーが排除される過程であった.近代家族モデルの犠牲者たる被告人が,家族規範からの「逸脱」ゆえに処罰されたといえよう.
著者
羽根 文
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.27-39, 2006-07-31 (Released:2009-08-04)
参考文献数
12
被引用文献数
2 2

急速な少子高齢化に伴い, 高齢者の介護問題がさまざまな角度から取り上げられているが, 介護殺人・心中事件は最も悲劇性の高い問題のうちのひとつであるとされている。この事件の大きな特徴として, 加害者である介護者の圧倒的多数が男性であることが挙げられる。そこで本稿では, 介護者が夫と息子の事件について事例分析し, 事件からみえてくる家族介護の困難と, そこに作用するジェンダー要因をもとに, なぜ男性が事件へ追い込まれやすいのか考察した。夫・息子の介護者とも互酬性の規範やジェンダー規範などにより, 強く介護を動機づけると同時に周りに相談できない状況に陥っており, また, 男性介護者というだけで周囲から高評価されることも, 彼らをより介護に打ち込ませる要因となっている。このような状況で介護を継続困難にする要因が発生すると, 介護意欲をそがれることで目的を失い, 殺人・心中に至るリスクが高まってしまうのである。
著者
布川 日佐史
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.37-46, 2007
被引用文献数
1

現代日本においてワーキングプアという言葉が一般化し, 貧困の広がりが注目を浴びるようになってきた。貧困の判定基準は生活保護給付額であり, それがあってはならない状態である貧困の境界線を確定している。また, 生活保護が最後のセーフティネットとして貧困をなくす役割を負っている。生活保護制度は, 2005年より, 自立生活の基盤を失い社会生活に参加ができない社会的排除状態にある生活困窮者に対し, 日常生活・社会生活・就労自立のための体系的支援 (生活保護における自立支援プログラム) を始めた。本稿は, 雇用形態と家族形態の変容を前にして, 最低生活保障としての生活保護制度が, 所得・消費・資産のミニマム保障はもとより, 自立の基盤作りのための対人援助サービスを保障できるものにしなければならないとの問題提起をしたものである。
著者
佐々木 尚之
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.152-164, 2012-10-31 (Released:2013-10-31)
参考文献数
29
被引用文献数
6 3

近年の社会経済環境のなか,少子高齢化の主な要因として晩婚化や未婚化の進行が指摘されている.しかしながら,これまでの初婚に関する研究では,一貫した結果が得られていない.その原因の一つとして,初婚の要因となる変数の時間的変化をとらえることができないという,データ上の制約があった.そこで本稿では,「日本版General Social Surveyライフコース調査(JGSS-2009LCS)」の詳細なライフヒストリー・データを用いて,学歴,就業状態,居住形態の結婚に対する影響力が時間とともに変化するのかどうかに焦点をあてたイベントヒストリー分析を行った.その結果,それぞれの要因の結婚に対する効果が加齢とともに増減することが明らかになった.雇用環境の急速な悪化にもかかわらず,結婚における男性の稼得力が重視され続けている一方で,女性の稼得役割も期待され始めている可能性がある.将来の経済的展望が不確実な現状では,家族形成は大きなリスクとみなされている.
著者
湯澤 直美
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.45-56, 2009-04-30 (Released:2010-04-30)
参考文献数
12
被引用文献数
2 1

子育て家族の経済基盤の二極化の進行のなかで,子育ての実態はいかなる現況にあるのか。本稿では,より困難が集約されている家族の現実を考察するため, 貧困の世代的再生産が把握される母と子のライフヒストリーをもとに,いかなる政策対応が求められるのかを検討した。分析からは,子ども期の貧困が若者期の貧困化に直結し,母子家族の貧困—女性の貧困へと分かち難く連なる慢性的貧困が確認された。子ども期の貧困の持続的な影響力は,貧困化と孤立化の連鎖により,生活基盤に加えて家族の形態も流動化させ,解体された家族は社会的排除のなかに置かれていた。子どもの貧困克服には,親世代における富の不平等に積極的に介入し,教育・福祉・医療・住宅・労働など包括的な支援システムが必要である。加えて,貧困リスクのなかで生きる子どもへのソーシャルワークによる子どもの孤立化の防止と,社会的包摂に向けたエンパワーメントの視点が必要であることを提言した。
著者
杉浦 郁子
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.148-160, 2013
被引用文献数
2

本稿では,性別違和感のある人々の経験の多様性が顕在化したことを背景に,「性同一性障害であること」の基準として「周囲の理解」が参照されるようになった可能性を指摘する.また「性同一性障害」がそのように理解されるようになったとき,性別違和感のある子とその親にどんな経験をもたらしうるのかを考察する.<br>まず,1980年代後半から90年代前半に生まれた若者へのインタビュー・データを用いて,「周囲の理解」という診断基準が出現したプロセスについて分析する.次いで,「性同一性障害」の治療を進めようとする20代の事例を取り上げ,医師も患者も「親の理解」を重視していることを示す.そのうえで,親との関係調整の努力を要請する「性同一性障害」という概念が,親子にどのような経験を呼び込むのかを論じる.
著者
志田 哲之
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.105-105, 2001

セジウィックによる本書は, 奇しくもバトラーの『ジェンダー・トラブル』と, その原著 (1990), 日本語訳 (1999) ともそれぞれ同年に出版された。バトラーが既存のジェンダー理解を構築主義的視点から批判的に問いかけたというならば, セジウィックは同様の視点から同様の問いかけを既存のセクシュアリティ理解に対して行なったといえ, 両書はジェンダー・セクシュアリティ研究に対し, 強いインパクトを与えた。<BR>「近代西洋文化の実質上どのような側面についての理解も, 近代のホモ/ヘテロセクシュアルの定義に関する批判的な分析を含まない限りは, 単に不完全というだけではなく, その本質的部分に欠陥を持つことになる」 (P.9) 。冒頭においてそう主張する著者は, その批判的分析を, 異性愛主義を内在化させている20世紀の西洋文化全体の側からではなく, 近代のゲイ理論および反同性愛嫌悪 (アンチ・ホモフォビア) の理論といった, 相対的に中心から外れた視点から始めることが適切であるとし, この視点から本書を著わした。このような問題関心から, 本書は二項対立化されている男性のホモ/ヘテロセクシュアルの定義が内包する矛盾や非一貫性に着目し, この矛盾や非一貫性に対して裁定を図るのではなく, むしろそれらの有するパフォーマティヴな効果を明らかにすることを企図した。<BR>序論では, ホモ/ヘテロセクシュアルの定義問題や二項対立について, またジェンダーとセクシュアリティを区分することによって生じる研究上の生産性についてなど, ホモセクシュアリティを研究していくうえでの諸議論に対し, 鋭い予備的考察が公理のスタイルをとって展開されている。序論としての役割を果たしながらも, この序論のみでホモセクシュアリティに関する今日的議論の概観を把握することが可能であり, まずはこの序論を一読することを勧めたい。<BR>第1章から第5章にかけては20世紀の欧米の文学作品を分析対象として, 本質主義対構築主義の拮抗, 二項対立, ホモセクシュアル・パニック, クローゼットという沈黙の発話状態などについて詳細に論じている。<BR>西洋文化圏において対照的な二項対立化された諸カテゴリーが, 実は暗黙のうちにダイナミックに存続しており, ホモ/ヘテロセクシュアルもその一部であるという筆者の主張は家族研究に連結する。なぜならこれら諸カテゴリーのリストとして筆者がとりあげた私的/公的, 男性的/女性的などは, 近代家族論の立脚点と相通じるからであり, 本書において筆者が行ったこれら二項対立の脱構築の試みは, 今後の家族研究のさらなる展開に対し示唆的であろう。また, 近代家族論以前の家族研究が, ホモセクシュアリティを研究の対象外とするか, あるいは病理として扱い, そして近代家族論においてはジェンダーを主要な軸のひとつに据えているものの, ホモセクシュアリティについては俎上に乗せられなかったという経緯をふまえるならば, 近代家族論以降の家族を論じる際にホモセクシュアリティという, あらたな軸を導入する意義や可能性について検討するヒントも本書から与えられるだろう。
著者
神谷 悠介
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.135-147, 2013

本稿は,インタビュー調査に基づき,ゲイカップルにおける家計組織とパートナー関係を分析することによって,(1)レズビアンカップルと比較した際のゲイカップルの家計組織の特徴, (2)家計組織パターンと平等なパートナーシップとの関係,(3)同性愛者に対する差別が,ゲイカップルにおける家計組織や生活状況に与える影響について解明することを目的とする.分析の結果,(1)レズビアンカップルは共同管理型が典型的な家計組織パターンの一つであるのに対して,ゲイカップルは独立型が典型的な家計組織パターンであること,(2)家計組織の独立性は,平等なパートナーシップを保障するとは限らないこと,(3)同性愛者に対する差別がゲイカップルにおける生活の個別性の一因であることが解明された.
著者
余田 翔平
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.139-150, 2014

本稿では,再婚率の(1)趨勢,(2)階層差,(3)趨勢変化の階層差に着目して記述的分析を行った.『日本版総合的社会調査(JGSS)』にイベントヒストリーモデルを適用した結果,以下の知見が得られた.第1に,近年の離死別コーホートほど,再婚ハザードは低下している.第2に,男性よりも女性のほうが,低学歴層よりも高学歴層のほうがそれぞれ再婚経験率が高い.第3に,学歴と再婚経験との正の関連は近年の離死別コーホートほど明確に現れており,一方で再婚経験率の性差は縮小傾向にある.<br>以上を踏まえると,日本社会では「離死別者の非再婚化」が進展しており,未婚化・晩婚化のトレンドとあわせて考えれば,無配偶の状態に滞留するリスクがライフコースを通じて高まっていると推測される.さらに,こうしたライフコースの変化は社会全体で一様に広がっているわけではなく,階層差を伴っている.
著者
三品 拓人
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.29-42, 2022-04-30 (Released:2022-04-30)
参考文献数
34

本論文は,中規模の児童養護施設において何が「家庭的」であるのかということ,そして「家庭」がどのように参照されるのかということを,参与観察データから明らかにするものである.施設の小規模化や個別化を実現することにより達成されるとされる「当たり前の生活」という観点に注目した.その結果,児童養護施設において「家庭」が参照される場面として,次の2つの場面が見られることを提示した.1つ目は,「施設内で使われる物の大きさと形」である.例えば,ドレッシング,炊飯器,お風呂などの大きさが「普通の家庭」の大きさや形と比較され,職員がその適切性を問題視する場面があった.2つ目は,「施設における指導の判断の基準」である.例えば,子どもの体調が悪い時の対応,ポケットに手を突っ込んでいる時に注意をするかなどであった.以上のように,児童養護施設の日常生活において「家庭」が参照される一側面が明らかになった.
著者
小玉 亮子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.154-164, 2010-10-30 (Released:2011-10-30)
参考文献数
35
被引用文献数
1

長く教育学研究のメインストリームは学校であり,家族というテーマは,必ずしも市民権を得てこなかった。アリエスの『子供の誕生』(1960=1980)は,日本語で翻訳されるやいなや,非常に大きな反響を得た。ちょうど,子どもの問題が社会問題化した時期とも重なり,この著作は,従来の子ども理解の相対化のための理論的根拠を与えるものとなった。アリエス以降,自明のものであった近代的子ども観,近代家族,近代学校が問い直され,教育学の在り方それ自体に対する問題提起がなされた。同時に,子ども問題への社会関心の高まりに呼応して,家族をターゲットとした教育政策も次々と打ち出されるようになった。教育学研究においても,教育政策においても,家族はその重要なテーマとして位置づけられてきた。しかし,家族や学校への研究上・政策上の関心の高まりは,同時にそれらへのバッシングと結びついてきた側面があったことは否めないのではないだろうか。
著者
余田 翔平
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.139-150, 2014

本稿では,再婚率の(1)趨勢,(2)階層差,(3)趨勢変化の階層差に着目して記述的分析を行った.『日本版総合的社会調査(JGSS)』にイベントヒストリーモデルを適用した結果,以下の知見が得られた.第1に,近年の離死別コーホートほど,再婚ハザードは低下している.第2に,男性よりも女性のほうが,低学歴層よりも高学歴層のほうがそれぞれ再婚経験率が高い.第3に,学歴と再婚経験との正の関連は近年の離死別コーホートほど明確に現れており,一方で再婚経験率の性差は縮小傾向にある.<br>以上を踏まえると,日本社会では「離死別者の非再婚化」が進展しており,未婚化・晩婚化のトレンドとあわせて考えれば,無配偶の状態に滞留するリスクがライフコースを通じて高まっていると推測される.さらに,こうしたライフコースの変化は社会全体で一様に広がっているわけではなく,階層差を伴っている.
著者
久保田 裕之
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.78-90, 2009-04-30 (Released:2010-04-30)
参考文献数
39
被引用文献数
3 2 2

「家族の多様化」論の前提となる,家族に関する選択可能性の増大という認識は,家族が依然として選択不可能な部分において個人の生存・生活を保障している点からみれば一面的である。法・制度に規定された家族規範は,現代においても,婚姻をモデルとした性的親密性・血縁者のケア・居住における生活の共同というニーズの束として複合的に定義されており,個人の主観的な家族定義もまた,この家族概念をレトリカルに参照せざるを得ない。さらに,貧弱な家族外福祉を背景として,主観的家族定義における親密性の重点化により,親密性と生存・生活の乖離が生じることが現代の「家族の危機」の一因となっている。そこで,政策単位としても分析単位としても複合的な家族概念を分節化し,従来の家族の枠組みを超えて議論していくことが重要である。家族概念を分節化することで,家族概念の単なる拡張を超えて,家族研究の対象と意義を拡大することができる。
著者
竹村 祥子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.57-60, 2009

1990年代後半の経済の構造転換と家族の多様化により,親の経済基盤の二極化が進んでいくなか,その状況の報告をうけて以下の点について検討する必要があると考えた。一つは,首都圏の就学前児童の保護者世帯の経済的差異や母親の学歴の差異と,子どもの教育機会の差異が関連していることがどのような格差のもととなるかを考えること。二つめは,「より良い子育て」や「リスク回避戦略」として子どもに小・中学校受験をさせている親とそうでない親たちとの階層分断化,生活圏での分断化が起こる可能性があるということが首都圏特有の問題なのか,地方の家族においても潜在的に抱えている格差問題であるのかを精査していく必要があること。三つめは,母子家庭の貧困・低所得問題と母子家庭が幾重にも周縁化され,貧困の世代間再生産が起こっていることへの対処はどうすべきかを考えることである。いずれにしても,このような家族の二極化によって,子どもの不平等(格差)がどのように進むのか,日本の家族全体の格差問題であるのかを検討し,対策を立てていくことが緊急の課題である。
著者
牧野 カツコ 山根 真理
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.7-12, 2003

届出に象徴される社会的制度としての結婚が日本では一般的なものとなっているが, しかし, 晩婚化や婚姻外の性関係の広がり, 子どもをもたないカップルの増加, 中高年の離婚の増加などは, われわれに結婚とはなにかを問うている。われわれは, 性別分業にささえられた近代家族型の結婚の揺らぎを体感しつつも, その次にくる脱近代家族のイメージを確立することができずにいる。シンポジウムでは, この領域で活躍されている4人の論者を迎え, 近代社会における婚姻制度とそれを支える理論に対する立場を軸として, 討論が展開された。 (1) 近代結婚理論と脱近代的家族論との対峙が本格的になされたこと, (2) 同性間パートナーシップに関する議論が, 家族社会学会のなかで初めて本格的になされたこと, (3) 2者パートナー関係に特権的な位置を与えない未来社会の可能性が示されたこと, の3点において, 意義のある成果がみられた。<BR>今後, 脱近代社会における子どもの位置や親密関係について, 議論が深まることが期待される。
著者
風間 孝
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.32-42, 2003-01-31 (Released:2010-02-04)
参考文献数
20
被引用文献数
3 2

本稿は, 同性婚の政治性を明らかにすることを目的とする。まず, 近代家族が異性愛規範に基づくことにより, 同性愛者を周縁化し, 家族を形成する機会を奪ってきたことを論じた。つぎに, 近代家族を批判する立場からの婚姻制度の解体が多様性の承認につながるという主張は, 権力関係の外部を前提にしていることを指摘した。最後に, 家族制度擁護論に基づく反対論の分析を通じて3つの点を指摘した。第1に婚姻の定義に基づく同性婚の拒絶は法が特定の定義を採用する恣意性を隠蔽することによって成り立っていること。第2に生殖に基づく拒絶は同性カップルが規範的異性愛家族およびジェンダーの (再) 生産につながらないことを理由としており, それゆえに同性婚の要求は家族と規範的異性愛とジェンダーの結びつきに異議申立てを行うものであること。第3に同性婚の要求は, 近代の特徴である異性愛規範に基づいた公/私二元論の枠組みを問題化するものであること。
著者
武藤 香織
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.128-138, 2003-01-31 (Released:2009-08-04)
参考文献数
17
被引用文献数
2 1

従来, 主に生命倫理学や医療社会学の分野で検討されてきた臓器移植だが, 家族社会学とのコラボレーションを求めるべく, 第12回日本家族社会学会大会において生体肝移植を取り上げたテーマセッションを設定した。本稿の目的は, そのセッションの企画意図と背景, ならびに現在の生体肝移植医療の概要を述べ, 家族社会学での議論の契機とすることである。現在, 生体肝移植の症例は2,000例を超え, レシピエントは小児の血縁者だけでなく, 成人の血縁者から非血縁者に広がり, さまざまな家族関係からドナーが選ばれるようになった。また, 脳死臓器移植における提供先に関する生前意思の尊重についての議論もあり, 親族指定の心情は理解されながらも, 運用上認められることはなかった。その一方で, 非正統的な家族・親族関係における臓器授受については議論の俎上にあがっていない。このような状況下で, 改めて医療社会学と家族社会学の垣根を超えて, 移植医療と家族の関係を問い直す必要があるだろう。