著者
加藤 雅彦
出版者
一般社団法人 廃棄物資源循環学会
雑誌
廃棄物資源循環学会誌 (ISSN:18835864)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.427-434, 2021-11-30 (Released:2022-11-30)
参考文献数
8
被引用文献数
1

下水汚泥には肥料養分が下水から濃縮されるといえ,下水汚泥肥料・堆肥の耕種利用が期待されている。家畜ふん堆肥の利用が進んでいる一方で,下水汚泥堆肥の耕種利用は進んでいない。本報告では,下水汚泥堆肥の施用で期待されること,また懸念されることを整理し,下水汚泥堆肥の利活用に向けてどのような下水汚泥堆肥が求められるか,研究事例等にも触れながら述べる。下水汚泥堆肥は,加里を除けば家畜ふん堆肥と同等,あるいはそれ以上の有機物や養分 (窒素,りん,カルシウム等) を含んでいる。また,有害 (半) 金属量も家畜ふん堆肥と同量程度である。難溶態りんを多く含むが,これらはク溶性である。凝集剤や微量物質の影響等も考慮に入れながら下水汚泥堆肥の理化学性を評価し,その利用用途を整理する必要がある。また下水汚泥堆肥の評価点,評価方法,品質目安等も提示する必要がある。
著者
寺園 淳
出版者
一般社団法人 廃棄物資源循環学会
雑誌
廃棄物資源循環学会誌 (ISSN:18835864)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.214-228, 2022-05-31 (Released:2023-05-31)
参考文献数
33

近年,リチウムイオン電池は多くの電気製品や自動車に使われており,日常生活に欠かせないものとなっている。一方で,粗大ごみ・不燃ごみを処理する一般廃棄物処理施設やリサイクル施設での火災等が増加している。リチウムイオン電池は資源有効利用促進法に基づく自主回収の対象ではあるが,対象外の品目,電池一体型製品,回収率の目標がないことなど,多くの課題がある。リチウムイオン電池のマテリアルフローに関しては,年間排出量約 1.6 万 ton (2019 年) とする環境省推計がある一方,排出先の情報が限られており,処理施設に混入する量の推計精度を向上させる必要がある。火災等の発生を背景として,環境省は排出状況や自治体の先進事例を調査して 「リチウム蓄電池等処理困難物対策集」 をとりまとめ,経済産業省でも資源有効利用促進法の在り方に関する検討を行なってきた。今後の課題として,安全確保を考慮した回収の責務と意義の見直しの必要性を論じた。
著者
所 千晴
出版者
一般社団法人 廃棄物資源循環学会
雑誌
廃棄物資源循環学会誌 (ISSN:18835864)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.181-187, 2022-05-31 (Released:2023-05-31)
参考文献数
20

使用済みリチウムイオン電池からコバルト,ニッケル,銅等を回収するための分離プロセスを概観した。現在リサイクルプロセスの主流となりつつある焙焼プロセスが,安全上,また分離の効率上,重要な役割を果たしていることを示した。さらに,粉砕や物理選別からなる物理的分離プロセスによって,ブラックマスと呼ばれる正極活物質と,銅,鉄,アルミニウムに分離され,分離された正極活物質はさらに酸浸出や溶媒抽出によってコバルトやニッケルに分離されるフローを紹介した。また,サーキュラー・エコノミーの概念にもあるように,内側の資源循環ループを創成すべく焙焼なしの分離プロセスが検討されていることを紹介するとともに,筆者らが取り組んでいる電気パルス法によるアルミニウムと正極活物質粒子との分離技術開発を紹介した。
著者
橋本 英喜
出版者
一般社団法人 廃棄物資源循環学会
雑誌
廃棄物資源循環学会誌 (ISSN:18835864)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.188-195, 2022-05-31 (Released:2023-05-31)
参考文献数
10

自動車メーカー各社による製品電動化の加速により今後相当量の高電圧バッテリーが必要になってくる。そのような中,リチウムイオン電池 (以下,LiB) は有力候補であり,既にハイブリッド車 (以下,HEV) に大量に搭載されている。 今後 2023 年頃には HEV 上市から 10 年が経過し,それらが商品としての寿命を終え,大量廃棄時代を迎えようとしている。その際に予想される社会環境側面と資源側面双方のリスクを回避すべく,本田技研工業 (株) は LiB の適正処理の手法として,低コストかつ低消費エネルギーな分解・材料分別回収および希少資源のニッケル (Ni) コバルト (Co) 合金再資源化技術を,東北大学 柴田悦郎氏による学術指導のもと,松田産業 (株) と日本重化学工業 (株) とともに開発してきた。今回はその開発に向けた検討内容について報告する。
著者
小松 浩平 境 健一郎 飯野 智之
出版者
一般社団法人 廃棄物資源循環学会
雑誌
廃棄物資源循環学会誌 (ISSN:18835864)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.196-203, 2022-05-31 (Released:2023-05-31)
参考文献数
8

2050 年カーボンニュートラル必達のためには蓄電池 (LIB) を最大限活用する必要があるが,素材の開発やリサイクル等の資源循環を含めた電池サプライチェーン全体の強化が必須となる。LIB の処理においては,発火等の安全面での懸念がある他,適切な処理をしないと金属資源を回収できないことから,安全で効率的なリサイクルシステムの構築が鍵となる。太平洋セメント (株) (当社) と松田産業 (株) は 2011 年よりセメント製造設備を活用した LIB のリサイクル技術の開発を進めており,2017 年には当社グループ会社である敦賀セメント (株) 内に焙焼設備を併設し,世界初となるセメント製造工程を活用した実証試験を開始した。2020 年からは産業廃棄物として排出される LIB のリサイクル事業を実施しており,これまでに 40 種を越える車載用の大型 LIB や定置用 LIB を焙焼した。今後も本システムのさらなる規模拡大による『低環境負荷処理』『金属資源循環』を通じ,LIB の資源循環に貢献したい。
著者
中谷 隼 平尾 雅彦
出版者
一般社団法人 廃棄物資源循環学会
雑誌
廃棄物資源循環学会誌 (ISSN:18835864)
巻号頁・発行日
vol.21, no.5, pp.309-317, 2010 (Released:2014-12-19)
参考文献数
19
被引用文献数
3 1

容器包装プラスチックのリサイクルの意義や材料リサイクルの優先的な取り扱いへの疑問に応えるためにも,材料リサイクル,ケミカルリサイクル,エネルギー回収といったさまざまなリサイクル手法による環境負荷や資源消費の削減効果を客観的に評価することが求められている。本稿では,これまでの容器包装プラスチックリサイクルのライフサイクル評価 (LCA:Life Cycle Assessment) の事例をレビューして,さまざまなリサイクル手法による二酸化炭素 (CO2) 排出の削減効果について考察した。その中で,システム境界や代替される製品の設定によって評価結果が影響されることに言及し,容器包装プラスチックリサイクルのLCA評価に残された課題について述べた。
著者
朱 愛軍 覃 宇 謝 成磊 李 玉友
出版者
一般社団法人 廃棄物資源循環学会
雑誌
廃棄物資源循環学会誌 (ISSN:18835864)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.280-291, 2021-07-31 (Released:2022-07-31)
参考文献数
34

脱炭素や循環型社会の実現のために,バイオマスの利活用がますます重要になってきている。近年メタン発酵によるバイオメタン生成とバイオガス発電が注目されている。本稿ではバイオガスの生成に関する研究動向を総括するために,まずデータベース Web of Science を用いて,バイオガスに関する研究論文の年間発表状況をまとめた。次にメタン発酵技術に焦点を絞り,プロセスの効率化と安定化を向上させるためのさまざまな強化技術 (前処理,添加材および混合消化) をレビューした。また,筆者らが近年行なった都市廃棄物系バイオマス (生ごみ,下水汚泥および紙ごみ) の混合メタン発酵研究を紹介した。最後に,日本で実装化されているメタン発酵プラントの代表的事例を取りあげ,応用拡大の可能性を展望した。
著者
古林 通孝 安田 直明
出版者
一般社団法人 廃棄物資源循環学会
雑誌
廃棄物資源循環学会誌 (ISSN:18835864)
巻号頁・発行日
vol.21, no.6, pp.395-403, 2010 (Released:2015-01-27)
参考文献数
26
被引用文献数
1

都市ごみ焼却施設の発電量向上策の一つの考え方として,窒素酸化物自主規制値緩和を取り上げ,窒素酸化物排出濃度の違いによる周辺環境への影響の度合いと,期待される発電増加量や温室効果ガス削減効果について整理した。都市ごみ焼却施設からの窒素酸化物排出濃度は,触媒脱硝装置などを採用しなくても,100~120ppm程度が期待される。そこで,簡易な大気拡散計算により,国内の建設予定施設の周辺地域の大気環境濃度を推算したところ,排出濃度が50ppm (触媒脱硝装置を採用) から120ppm (触媒脱硝装置を不採用) に緩和されても,二酸化窒素の環境基準に対して,1~4%程度の増加にとどまることが推測された。また,施設規模150ton⁄day×2炉の都市ごみ焼却施設について,自主規制値が50ppmから120ppmまで緩和されると,発電量として2,205MWh⁄年の増加が見込め,この発電増加量は1,237ton⁄年の二酸化炭素削減量に相当することが推察された。
著者
中村 恵子
出版者
一般社団法人 廃棄物資源循環学会
雑誌
廃棄物資源循環学会誌 (ISSN:18835864)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.93-100, 2009 (Released:2013-12-18)
参考文献数
14

福島県大内宿では,およそ300年間,江戸時代宿場町の町並み,「住まい」,生活文化を保持し続けたまま,人々は生活と生業を成立させている。1981 (昭和56) 年には,国の「重要伝統的建造物群保存地区」に選定された。大内宿の概要,「住まい」,江戸時代からの歴史と生活を調べ,まちづくりのキーパーソンに取材し,「持続可能な住まい」を現出させた要因を考察した。その要因は 1.収入減と情報減による江戸時代そのままの暮らし,2.日本の風土に合った建築と建て方 3.「地域コミュニティ」の仕組みである。その住み手のライフスタイルと仕組み,現在も続く「持続可能な住まい」への努力を報告する。大内宿の事例は,循環型社会,低炭素社会,自然共生社会を地球規模でめざす現在の私たちに,大きなメッセージを伝えているが,とりわけ,経済成長戦略の道具と化した日本の住政策に警鐘をならしている。
著者
副田 俊吾
出版者
一般社団法人 廃棄物資源循環学会
雑誌
廃棄物資源循環学会誌 (ISSN:18835864)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.191-200, 2015-05-31 (Released:2021-06-14)
参考文献数
14

観光旅行は私達の余暇の楽しみの一つであり,特に宿泊を伴うような観光は家族や友人にとって一大行事であり,人々の絆を深める大切な機会でもある。このため,観光地はさまざまな「おもてなし」の工夫を凝らして観光客の想い出づくりを援けるとともに,観光収入を得て,地域経済を支えている。一方,観光地を訪れる人々にごみとし尿は必ず附随するものであり,その処理は受け入れる観光地にとっての負担となっている。 本稿では,国内外の観光地,あるいは観光地を抱える自治体等の観光ごみに対する考え方や取組事例を紹介し,観光インフラの一つとしてのごみ処理対策のあり方について概略を述べる。
著者
市川 聡
出版者
一般社団法人 廃棄物資源循環学会
雑誌
廃棄物資源循環学会誌 (ISSN:18835864)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.183-190, 2015

屋久島については,世界遺産に登録されてから観光客が押し寄せてごみだらけになったとの報道がしばしばなされてきたが,その実態はむしろ逆で,山のごみはなくなりきれいな状態が保たれている。これは世界遺産登録で住民意識,観光客意識が高まったことに加え,エコツアーガイドが常時山にいることで,日常的に清掃がなされることによる。一方登山者の増加に伴う山小屋のし尿処理については,全額募金で賄おうとしたが,思うように募金が集まらず処理に行き詰っている。このため新たな入山協力金の導入を決めているが,実際には山小屋のトイレを使用しない大部分の登山者に,負担を押し付けるミスマッチが生じるおそれがあり,むしろ広く薄く,屋久島に来るすべての観光客に屋久島の世界遺産保全全般のための協力を求め,そこから山岳部のし尿処理も対応すべきと考える。
著者
酒井 伸一 矢野 順也
出版者
一般社団法人 廃棄物資源循環学会
雑誌
廃棄物資源循環学会誌 (ISSN:18835864)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.55-68, 2014-01-31 (Released:2021-04-23)
参考文献数
57
被引用文献数
5 1

食品廃棄物の 3R に対する取り組みは国内外で近年目まぐるしく展開されている。本報では食品廃棄物の定義や発生量等について国内外の現状を整理し,リデュース・リサイクルの LCA に関する複数の研究事例から定量的な効果を総合的に検討した。加えて老朽化が進んでいる国内の焼却施設の施設更新に伴う都市廃棄物 (MSW) 処理戦略として,食品廃棄物の嫌気性メタン発酵の導入による国内のエネルギー回収,温室効果ガス削減ポテンシャルを推定した。食品廃棄物のメタン発酵バイオガス発電とその他都市廃棄物の高効率焼却発電を組み合わせることで,2011 年現在と比較して 2020 年には 37 %,2030 年には 64 % の発電電力量増加が期待できる。現在未利用の家庭系をはじめとする MSW 中の食品廃棄物のメタン発酵利用は,特に焼却発電が難しい規模の中小都市にとって重要なエネルギー回収,温室効果ガス削減手段となることが期待できる。
著者
池内 裕美
出版者
一般社団法人 廃棄物資源循環学会
雑誌
廃棄物資源循環学会誌 (ISSN:18835864)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.186-193, 2017

「ホーディング」(hoarding) とは,「他の人にとってほとんど価値がないと思われるモノを大量にため込み,処分できない行為」と定義され,1990年頃から臨床心理学や精神医学の領域において,特に強迫性障害 (OCD) の観点から多くの研究がなされている。しかしその一方で,ホーディング自体は誰にでも,すなわち非臨床的な人にもみられる,極めて日常的な行為であるという主張もある。<br> そこで本論では,より重篤な強迫的ホーディングと非臨床群を対象とした日常的なホーディングの両方に焦点を当て,ホーディングをめぐるさまざまな課題について既存研究を基に概説する。より具体的には,精神疾患や幼少期の家庭環境といったホーディングと関連する諸要因,ため込む人の特性,ため込む理由やその対象,さらにはホーディングのもたらす諸問題等について取りあげる。そして,最後にホーディングに陥らないための予防や対策について考察する。
著者
浅利 美鈴 名倉 良雄 酒井 伸一
出版者
一般社団法人 廃棄物資源循環学会
雑誌
廃棄物資源循環学会誌 (ISSN:18835864)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.310-319, 2019

災害廃棄物対策において,発災時の支援を含む地域間連携・協調の取り組みには,進展がみられた。指針等での役割や体制の整理に加えて,複数の災害において,支援実績や教訓が蓄積されつつある。たとえば,初動時のプッシュ型支援が効果的に働いてきたこと,支援の内容はさまざまであり支援マネジメントが重要であることなどがあげられる。さらに,特に 2018 (平成 30 ) 年に相次いだ災害への支援の速報的情報から分析すると,今後検討が必要な視点も多い。たとえば,支援内容のミスマッチを避けるための事前受援計画が効果的であること,国による支援マネジメントにおいては拠点をどこに置くかも重要であることなどがあげられる。また,今後は,大規模災害のみならず,同時多発的・連続的な通常災害時においても,現在の体制では対応が不十分となる可能性があり,平時からの人材育成や地域ブロック内・間の連携体制検討に加え,司令塔機能を補完する仕組みも検討する必要がある。
著者
市川 聡
出版者
一般社団法人 廃棄物資源循環学会
雑誌
廃棄物資源循環学会誌 (ISSN:18835864)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.183-190, 2015-05-31 (Released:2021-06-14)
参考文献数
2

屋久島については,世界遺産に登録されてから観光客が押し寄せてごみだらけになったとの報道がしばしばなされてきたが,その実態はむしろ逆で,山のごみはなくなりきれいな状態が保たれている。これは世界遺産登録で住民意識,観光客意識が高まったことに加え,エコツアーガイドが常時山にいることで,日常的に清掃がなされることによる。一方登山者の増加に伴う山小屋のし尿処理については,全額募金で賄おうとしたが,思うように募金が集まらず処理に行き詰っている。このため新たな入山協力金の導入を決めているが,実際には山小屋のトイレを使用しない大部分の登山者に,負担を押し付けるミスマッチが生じるおそれがあり,むしろ広く薄く,屋久島に来るすべての観光客に屋久島の世界遺産保全全般のための協力を求め,そこから山岳部のし尿処理も対応すべきと考える。
著者
稲垣 厚之
出版者
一般社団法人 廃棄物資源循環学会
雑誌
廃棄物資源循環学会誌 (ISSN:18835864)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.291-297, 2014

本稿では,川崎市が取り組んでいる廃棄物分野の環境教育・環境学習について紹介しています。小学生を対象にした社会科副読本「くらしとごみ」や体感型環境教育・環境学習「出前ごみスクール」における学習効果を高めるためのさまざまな取り組みにより,一般廃棄物処理基本計画の基本理念にかかげる「地球環境にやさしい持続可能な循環型のまち」の実現に近づくことが期待されます。