- 著者
-
貴田 晶子
- 出版者
- 一般社団法人 廃棄物資源循環学会
- 雑誌
- 廃棄物資源循環学会誌 (ISSN:18835864)
- 巻号頁・発行日
- vol.22, no.5, pp.363-374, 2011 (Released:2016-09-14)
- 参考文献数
- 22
国連環境計画 (UNEP) の進めている水銀条約の中での重要課題の一つである水銀の大気排出量について,既報およびUNEPの報告をまとめるとともに,日本における排出量推定値を概説した。また過去の採掘量,消費量も併せて示した。1900年からの世界の採掘量55万tonのうち,日本は1956年以降2.7万tonを消費し,1970年代に世界の1/5を消費した時期もある。水俣病の発生原因でもあり,UNEPの水銀プロジェクトのきっかけとなった極地への移動とそれに伴う食物連鎖の高位にある生物群への高濃度蓄積の事実に鑑み,日本の責務が求められる。世界の水銀排出量は年間1,930ton (1,220~2,900ton) と推定され,そのうちの56%をアジアが占めている。現在の採掘量1,300tonよりも多い量が大気排出されていることになるが,これは水銀使用製品以外に,不純物として原燃料に含まれるものの熱処理による大気排出量の寄与も大きいことがあげられる。日本の水銀の大気排出量は21.3~28.3ton/年と推定された。日本の特徴として,世界では石炭火力が45.6%と排出源としてもっとも大きな寄与があるのに対し,日本ではセメント製造 (31~42%),非鉄金属精錬 (2~13%),鉄鋼・製鉄 (14~19%) など製造業からの排出量が約60%を占めている。化石燃料燃焼は10~14%であり,世界全体に比べて日本での寄与は小さい。また廃棄物焼却全体は8~12%であり,下水汚泥焼却・医療廃棄物焼却,産業廃棄物焼却がほとんどを占め,一般廃棄物焼却は1%程度であった。一般廃棄物焼却では入口で,電池等,水銀不使用製品が普及したこと,また焼却炉内部では2000年前後にダイオキシン類対策のために集じん装置がバグフィルターに換わり,活性炭吹込も行われていることが,水銀排出量が小さい理由と考えられる。水銀排出量については,1980年代半ば以前には焼却ごみ中に1~2mg/kg程度あった可能性があり,また電気集じん機が主たる集じん設備であった当時の水銀排出量は年間30~60tonあった可能性がある。