著者
下岡 良典 牧口 展子 成田 浩二 福澤 純 鶴巻 文生 菅原 寛之 長谷部 直幸
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.284-291, 2017-03-15 (Released:2018-03-15)
参考文献数
17

無症候の60歳代男性.健診で高血圧と心雑音を指摘され,2010年10月に当院を初診した.聴診で拡張期雑音を聴取し,経胸壁心エコー検査で中程度の大動脈弁逆流症と大動脈四尖弁を認め,精査目的で当科へ入院となった.入院時の左室駆出率は62%であった.経食道心エコー検査,心臓CT検査から2つのlarger cuspと2つのsmaller cuspから構成される大動脈四尖弁を認めた.自覚症状がなく,左室拡張末期径も60 mm以下であったことから経過観察の方針とし,高血圧に対する内服治療を開始し退院となった.初診から5年間の経過観察期間内で明らかな臨床症状は出現しなかった.降圧管理と利尿薬の内服により,経胸壁心エコー検査では大動脈弁逆流症の進行もみられず,左室拡張末期径,左室駆出率の増悪はみられなかった.また大動脈径や弁基部の拡大も認めなかった.大動脈四尖弁は稀な疾患であり,臨床経過についてはほとんど報告がない.これまでの報告から四尖弁に起因する大動脈弁逆流症は比較的早期に外科的修復を要することが多いとされる.われわれの経験した症例から無症候性の大動脈弁逆流症と診断された症例においては,早期に内科的管理を行うことで外科的修復を回避ないし延期することの可能性が示唆され,修復時期の延期は修復方法の選択肢を広げ得る可能性も期待できる.
著者
村上 英徳 村上 暎二 竹越 襄 松井 忍
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.16, no.11, pp.1173-1180, 1984

砂時計型を呈する大動脈弁上狭窄症の2症例の臨床的特徴について報告する.第1症例は,約20年前より心雑音を指摘されている43歳女性,美容師で,今回,胸部圧迫感と失神発作を主訴に入院した.本症例では大動脈弁狭窄症の合併がみとめられた.第2症例は小学校入学時の健康診断時に心雑音を指摘されていた17歳女性,学生である.本例は本学胸部外科にて手術し良好な経過を示している.2症例共,左右冠状動脈起始部近くに動脈瘤を認めた.また第1例は本邦報告例中最も高齢であり,大動脈弁狭窄症の合併は本邦初例である.
著者
桑原 宏一郎
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.383-387, 2019-04-15 (Released:2020-04-24)
参考文献数
4
著者
外山 英志 田原 良雄 豊田 洋 小菅 宇之 荒田 慎寿 松崎 昇一 天野 静 下山 哲 中村 京太 岩下 眞之 森脇 義弘 鈴木 範行 杉山 貢 五味 淳 野沢 昭典 木村 一雄
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.37, no.Supplement3, pp.27-30, 2005-07-30 (Released:2013-05-24)
参考文献数
8

症例は64歳の男性,狭心症の既往はなし.冠危険因子は高脂血症と家族歴があった.2週間前から発熱,咳嗽などの感冒様症状が出現し内服薬を処方されていたが改善しなかった.突然の呼吸困難にて発症し救急隊を要請したが,現場到着時には心静止であった.当院搬送後,心肺蘇生処置を継続したが効果なく死亡確認となった.病理解剖を行ったところ,肉眼的には,漿液性の心嚢水が貯留,両心室腔・右房の拡張,左室壁の肥厚を認めた.左室壁はほぼ全周性に心筋の混濁が認められたが,心筋の梗塞巣や線維化は認められなかった.組織学的には両室心筋に全層性の炎症細胞浸潤,巣状壊死,変性,脱落を認めた.臨床経過と合わせて劇症型心筋炎と診断した.一般に「突然死」と呼ばれている死亡原因には,急性心筋梗塞,狭心症,不整脈,心筋疾患,弁膜症,心不全などの心臓病によるものが6割を占め,そのほかに脳血管障害,消化器疾患などがある.突然死の中でも心臓病に起因するものが「心臓突然死(SCD)」と呼ばれているが,現在米国では心臓突然死によって毎年40万人もの人が命を落としており,その数は肺がん,乳がん,エイズによる死亡者の合計数よりも多いとされている.心臓突然死における急性心筋炎の頻度は不明であるが,しばしば可逆的な病態であり,急性期の積極的な補助循環治療により,完全社会復帰された症例も散見されるので,鑑別診断として重要である.
著者
松下 紀子 小宮山 浩大 田辺 康宏 石川 妙 北條 林太郎 林 武邦 深水 誠二 手島 保 櫻田 春水
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.45, no.9, pp.1117-1121, 2013-09-15 (Released:2014-09-17)
参考文献数
10

症例は,45歳,男性.通勤時に突然の上腹部痛を自覚し他院へ搬送された.精査のために施行した腹部造影CTで上腸間膜動脈に解離を認め,急性上腸間膜動脈解離症と診断され,加療目的に当院へ搬送となった.来院時は血圧 143/85mmHg,上腹部に自発痛と圧痛を認めたが腹膜刺激症状は認めなかった.血液検査ではアシドーシスは認めず,CK 182U/Lと軽度高値,D-dimerは正常範囲内で腸管虚血を示唆する所見は認めなかった.軽度の腹痛は残存するものの,症状は落ち着いていたため保存的加療の方針とし,禁食・ヘパリン持続投与を開始した.来院8時間後に,急な腹痛を訴え腸管の虚血所見を認めたため緊急カテーテル検査を施行した.上腸間膜動脈起始部から解離を認めIVUSでは偽腔により真腔が大きく圧排されていた.解離を修復するように遠位より,2本のステント(PALMAZ Genesis® 6×15mm,E-Luminexx® 10×60mm)を留置し,良好な血流が得られ腹痛も軽快した.急性上腸間膜動脈解離は比較的稀であり,その治療法も一定していない.今回,われわれは急性期に反復する腹痛と腸管虚血を呈した上腸間膜動脈解離に対してステント留置を行い良好な結果が得られた.文献的考察を踏まえて報告する.
著者
大井田 史継 長尾 伊知朗 伊藤 譲治 小川 研一 飯塚 昌彦 久野 恒一
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.712-718, 1992-06-25 (Released:2013-05-24)
参考文献数
8

今回我々は単独心房梗塞と思われる2症例を経験した.2症例とも心筋由来の血清酵素の明らかな上昇が見られたが,心電図において有意なST変化を認めず,P-Taの偏位と上室性期外収縮のみが見られた.その偏位はYoungらが述べた基準を十分に満たすものであり,かつ梗塞部位は左房前壁と推測できた.この偏位は4,5日で消失したが慢性期負荷心電図にて,2症例とも急性期と同じ誘導に,同様なP-Taの偏位を認め,時間の経過と共に改善した.この変化は心房の生理的構造および特性を考えると,単に左心房の虚血のみを反映しているのではなく,運動負荷により左心機能を代償する心房の形態学的変化の関与の可能性も示唆され,興味深い所見と思われた.
著者
石川 尚子 庭野 慎一 今木 隆太 竹内 一郎 桐生 典郎 入江 渉 豊岡 照彦 栗原 克由 相馬 一亥 和泉 徹
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.43, no.SUPPL.2, pp.S2_97-S2_104, 2011 (Released:2012-12-05)
参考文献数
11

背景と目的: わが国では, 年間10万人を超える院外心肺停止(cardiopulmonary arrest; CPA)患者が報告されているが, その救命率は6.3%程度といまだに低い. CPA症例の救命率を規定する因子を検討するため, 当院における院外CPA患者データを解析し予後予測因子を検討した.方法: 対象は2009年1月1日から2010年6月30日の間に当院3次救命救急センターへ搬送された18歳以上の内因性CPA患者. 1カ月後の予後で生存群, および死亡群の2群に分類し, 虚脱から病着までの経過(プレホスピタル因子)および病着後の所見(インホスピタル因子)を両群間で比較検討した.結果: 観察期間中に789症例のCPA患者が搬送され, 外因死を除く連続581症例(平均年齢71±1歳, 男: 女 352人: 229人)について検討を行った. 各評価項目を多変量解析した結果, 以下の8つの項目が独立予後予測因子として統計学的に有意であった. (1)目撃あり(オッズ比12.8, 95%信頼区間1.6-185.0), (2)バイスタンダーCPR(cardiopulmonary resuscitation)あり(オッズ比10.9, 95%CI 1.9-107.6), (3)初回心電図が脈なし心室頻拍/心室細動(ventricular tachycardia; VT/ventricular fibrillation; VF) (オッズ比12.6, 95%信頼区間2.3-86.0), (4)病着前自己心拍再開あり(オッズ比60.6, 95%信頼区間7.8-524.0), (5)心原性CPA(オッズ比 17.5, 95%信頼区間4.4-119.4), (6)血中pH≥7.0(オッズ比14.5, 95%信頼区間5.1-49.3), (7)血中K+≤5.0mEq/L(オッズ比36.0, 95%信頼区間9.6-235.3), (8)血中CRP≤0.5mg/dL(オッズ比6.6, 95%信頼区間1.9-31.5). これらの8因子を各1点ずつで加算したものを予後予測スコアと定義すると, 生存のためには5点以上を要し, さらに6点以上のスコアは神経学的に良好な予後を得るための優れた指標となった(感度92.3%, 特異度88.8%).結語: 予後予測スコアは, 院外内因性CPA患者の予後予測に有用であり, 救命率向上に役立つ可能性が示唆された.
著者
永井 克也
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.32, no.12, pp.987-1000, 2000

哺乳類の概日リズムの体内時計は脳視床下部視交叉上核(SCN)に存在する.筆者らはSCNに自律神経と内分泌系を制御して血糖調節に関与するニューロンが存在することを明らかにした.SCNから膵臓,肝臓と副腎へ投射する自律神経経路が存在することを示す結果も得ているので,SCNはこの経路を介して血糖調節を含むエネルギー代謝調節に関与すると考えられる.低血糖状態の体内環境や明暗などの体外環境の情報を得て,体内時計の時刻情報に依存して,SCNニューロンは自律神経系を制御する.筆者らは,阪神大震災の際に体内時計が乱れて,その位相(時刻)が大きく移動すると共に,体外環境の明暗周期による体内時計の同調が起こらなくなる(時差ぼけ時のような)状態にマウスが陥ったことを認めている.したがって,冬季うつ病や不登校などの患者における体内時計の乱れによる時差ぼけ状態が,体内外の環境情報によるストレス刺激によって引き起こされることは十分に考えられる.ヒトの光照射が心拍数を変化させることが報告されているので,自律神経経路を介するSCNによる心臓機能の調節機構の存在も予想される.
著者
青野 潤 渡辺 浩毅 東 晴彦 稲葉 慎二 池田 俊太郎 濱田 希臣
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.346-352, 2006

症例は68歳,男性.高血圧と糖尿病で近医に通院治療中であった.2004年8月4日に全身倦怠感を主訴に当科外来を受診した.外来時のトレッドミル負荷心電図でII・III・<SUB>a</SUB>V<SUB>F</SUB>のST低下を認めたため,ATPタリウム心筋シンチグラフィを施行した.下壁の取り込み低下と後期像で同部位の再分布現象を認めたため,9月9日に心臓カテーテル検査を施行した.冠動脈造影では右冠動脈seg.1の慢性完全閉塞を認めた.ワイヤーをIntermediateからShinobi,Conquestに変更しExelsiorのバックアップ下でワイヤーを通過させた.Sprinter(1.5×15mm)で拡張後,血管内視鏡による観察を行った.病変部はワイヤーによる内膜損傷や小さなフラップが観察された.Seg.1~2にDriver(4.0×30mm),seg.2~3にPenta(3.5×28mm)を留置し終了した.PCI後の内視鏡ではフラップやプラークをステントが押さえつけている所見が観察された.今回われわれは慢性完全閉塞の病変部を内視鏡で観察し得た1例を経験したので報告する.
著者
岡田 雅彦 中村 雄二 古田 博文 斉間 恵樹 松尾 史朗 岸本 道太 埴岡 啓介 浅野 正英 由谷 親夫
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.20, no.7, pp.881-886, 1988

著明な右室の拡張を呈し右心不全に慢性腎不全を合併して死亡した1剖検例につき,生前の諸検査所見および剖検所見から右室の障害を主徴とする拡張型心筋症の症例と考えられたので報告する.症例は67歳女性で全身浮腫を主訴として入院.入院時現症にて全身浮腫,腹水の他に心聴診上三尖弁領域に全収縮期雑音を聴取.胸部X線上心拡大を,また心エコー図にて右房,右室の著明な拡大を認めたが左室の拡大はなく左室壁運動も正常であった.右心カテーテル検査では右房,右室圧の上昇を認めたが肺動脈は正常,また左右短絡所見は得られなかった.これらの所見から右心不全の原因として孤立性三尖弁閉鎖不全および右室異形成症が疑われたが,剖検所見からいずれも否定された.剖検所見は,右室は著明なびまん性拡張を示し左室の拡張はなく,心筋組織所見上は左室に比して右室により高度なびまん性病変を認めた.拡張型心筋症の病態は一般に左室の拡張と収縮障害を主徴とするものと考えられているが,左室の障害が軽度ないしほとんど存在せずに高度の右室の障害を示す拡張型心筋症の報告例も本邦および海外において散見され,自験例を含めて右室型拡張型心筋症と考えるべき症例がまれに存在するものと思われる.