著者
依田 紀久
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.58, no.10, pp.492-498, 2008-10-01

本稿は,近年漸進的な変化を遂げつつある米国図書館の経営の実態の理解を目的とするものである。ピッツバーグ公共図書館にスポットライトをあて,全国的な動向を意識しながら,事例報告という形でその経営を調査した。このピッツバーグ公共図書館の事例分析から見えてきたものは,公共図書館経営の,1)複線性,2)戦略性,3)科学性という3つのキーワードである。すなわち,米国の図書館の経営は,1)様々な資金調達方法を組み合わせた複雑なものであること,2)それを実現させるために専属の部局が設置され館全体のサービスやプロジェクトを資金調達に向けて戦略的に組み立てていること,3)経験が蓄積され理論・実践とも深まりをみせていること,特に資金調達の科学的手法が実証されつつあること,が明らかになった。
著者
梅澤 貴典
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.58, no.10, pp.511-516, 2008-10-01

アメリカの大学図書館においては寄付金など外部からの資金調達がたいへん重要な活動で,高度な教育研究支援を支えている。本稿では,これから日本で資金調達をおこなう上での布石となるように,アメリカにおける重要な要素(歴史・宗教的背景と寄付文化・税制優遇措置・資金調達者としての図書館長・専門団体・寄付者情報の蓄積管理・図書館司書の高度な教育研究支援能力・アドヴォカシー活動)を挙げ,日米間の相違点と,日本に応用する上で注意すべき点を述べる。
著者
横山 広美
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.63, no.11, pp.464-469, 2013-11-01

世界における科学コミュニケーションの潮流は,政策に寄与することに注目が集まっている。本稿では,日本の科学技術政策の中でも,その運営に注目が集まる「ビッグサイエンス」について,科学コミュニケーションの立場から,その歴史と問題点,課題を述べる。ビッグサイエンスが持つ,多様な側面において,科学コミュニケーションが関わる側面は限定的に見える。しかしここで指摘する,筋の通つた戦略を練ることに,科学コミュニケーションは大きく貢献する可能性がある。多くの科学が大型化する中で,限られた人材,予算の中,よりよい科学を育てるため,科学コミュニケーションがどのような貢献ができるか整理する。
著者
吉田 幸苗 高橋 菜奈子 木下 克之 尾城 孝一
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.63, no.11, pp.452-457, 2013-11-01

電子リソース管理は,その煩雑さにおいて,大学図書館にとって依然として問題であり続けている。その克服のために,現在,大学図書館と国立情報学研究所が連携して電子リソース管理データベース(ERDB)の構築を目的としてプロジェクトを行っている。ERDBは国内外の電子リソースを管理するためのナレッジベースであり,参加館の契約情報を結び付け,電子リソース管理の効率化を図るものである。ERDBは,データの整備に課題を抱えているものの,日本の電子リソースのメタデータ基盤を整理することにより,学術情報の流通に大きな役割を果たすことが期待される。本稿では,このプロジェクトの現状を報告するとともに,海外の動向を紹介し,電子リソースの管理をめぐる将来展望にも触れる
著者
長澤 公洋
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.63, no.11, pp.443-451, 2013-11-01

大学等の教育研究活動の成果である学術情報は,高度な教育研究の展開,将来の社会発展,国際競争力の強化につながる情報であることから,その流通基盤の整備は極めて重要である。国の施策の方向性として,第4期科学技術基本計画では,機関リポジトリの構築や電子化による体系的な収集・保存,オープンアクセス,第2期教育振興基本計画では,学生の主体的な学習のべースとなる大学図書館の機能強化,ICTを活用した双方向型の授業・自修支援を促進するとされ,世界的な流れとしては,オープンアクセスやオープンデータの必要性がクローズアップされている。学術情報流通における課題としては,主な要素ごとに,論文では,日本のジャーナルの国際発信力強化,図書については,電子書籍化への対応,データについては所在の把握・流通体制の整備教材・講義については保存.共有の促進とともにオンライン教育の充実があり,全体的には,機関リポジトリにおけるコンテンツの充実やクラウド環境の構築による学術情報の効果的な流通・利活用の促進を進めるべきである。最近のICTの進展は著しく,学術情報流通に関わる環境変化も大きい。各大学がこうした流れを的確に把握し,大学としてふさわしい学術情報流通基盤の充実・高度化に大学全体で取り組むことが重要である。
著者
林 和弘
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.63, no.11, pp.436-442, 2013-11-01

学術情報流通の革新は新しい段階に入り,17世紀から続いた,紙,印刷と物流を基盤として電子化対応を含めて発展してきた情報流通基盤の骨格がいよいよ崩れ,新しいフレームワークが形成され始める,あるいはその変化がこれまで以上に加速されることが推察される。東京の都市交通の一時代を作った馬車鉄道の歴史を参照しながら,学術情報流通における変革を連続的変化と不連続的変化に分けて論じた。また,情報や関係者のリンクとネットワークが生み出す信頼性が新しいフレームワーク構築のキーワードであり,既存の関係者の保守化のリスクを指摘しながら,新しい情報流通基盤のデザインに繋がるポイントを考察した。
著者
矢田 俊文
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.29-36, 2014-01-01

Google世代もしくはGoogle時代のインフォプロがおちいり易い「情報リテラシー」の盲点に留意し,調査研究を行う人材を育成するためには,どのような教育を設計し,どう実行するべきか。データベース会社のノウハウを通して,利用者教育のデザインと具体的手法について論じる。急増するエンドユーザに必要な「情報リテラシー」を伝え,利用者対応で疲弊しない,サステイナブルな知識と人材育成の方法を議論する。
著者
佐渡島 紗織
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.22-28, 2014-01-01

本稿の目的は,アカデミック・ライティング教育において情報リテラシーに関する問題はどのような点にあるかを検討し,今後,求められる指導の方向を示すことである。国語科教科書や小論文演習教材などをみると,日本の小・中・高・大学と受験塾では,情報を自分の文章にどのように取り込むかの,十分な指導,一貫した指導がなされていないことがわかる。引用・参考文献明記の学習を通して,《情報を再定義させる》学習をさせることが必要である。それによって,多様な立場・意見を検討した上で自身の立場を確立し,明確な意見を発信できる学生を育成したい。
著者
兵藤 健志
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.15-21, 2014-01-01

本稿では,ACRLが2000年に発表し,また,2014年に改訂を予定している『高等教育のための情報リテラシー能力基準』を軸として米国の高等教育における情報リテラシーのこれまでの定義や最新の議論を概観する。併せて,情報リテラシーの展開に学術コミュニケーションという新たな視点をもたらした2013年のACRLによる白書『学術コミュニケーションと情報リテラシーの交点:変わりゆく情報環境へ向けて戦略的協同を創造する』を紹介する。
著者
井田 浩之
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.8-14, 2014-01-01

本稿では,学習者の知識創造を可能にする情報リテラシーの条件として,(1)学習者の情報リテラシー能力を向上させるための「問い」を共有するプラットフォームの必要性,(2)情報リテラシーのスキル的側面を考えたときに,「脱文脈」化されたスキルに意味があるのか,換言すれば,学習者にとっての情報リテラシー能力とは知識創造に結びついていること,(3)学習者の情報探索行動のメカニズムが解明されていない中,情報行動に制約をかける取り組みへの疑問を呈する。今後情報リテラシー教育を図書館側が牽引するには,カリキュラム,教育内容,その評価方法を含め,学習者の視点で一からデザインすることが求められていることを指摘する。
著者
野末 俊比古
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.2-7, 2014-01-01

情報リテラシー教育の「これまで」の動向と「これから」の方向性について,"情報リテラシー(教育)観"を軸としながら整理.検討した。次のような"大きな流れ"としてまとめた。「マルチメディアの視点からからトランスメディアの視点へ」「情報源の評価から情報の評価へ」「理念としての情報リテラシー(教育)から戦略としての情報リテラシー(教育)へ」「目的・目標としての情報リテラシー(教育)から手段・方法としての情報リテラシー(教育)へ」「『ツールを(で)教える』から『プロセスを(で)教える』」へ」「"教える"情報リテラシー教育から"教えない"情報リテラシー教育へ」
著者
佐川 亜矢子
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.63, no.10, pp.426-429, 2013-10-01

エルゼビア社は,ライフサイエンス研究の上流から下流までサポートする様々なソリューションを提供しているが,今回新たに医薬品開発を効率化するデータベースとして,メディシナルケミスト向けのReaxys Medicinal Chemistryを開発した。これは反応・化合物データベースとして定評のあるReaxysからは独立した別のデータベースである。化合物情報としてReaxysの収録情報を一部活用し,さらに新たに化合物情報を追加している。化合物データは標準化して収録し,メディシナルケミストが使いやすい情報として整理されている。本稿ではこの新しいデータベースの特長について紹介する。
著者
平野 泉
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.63, no.10, pp.421-425, 2013-10-01

本稿は,草の根の,営利を目的としない逐次刊行物であり,一般図書館等でアクセスしにくい「ミニコミ」について,研究資源としての可能性を示すことを目的とする。筆者の勤務先である立教大学共生社会研究センターが所蔵するミニコミ・コレクションと,それにまつわる試みとを事例として検討し,ミニコミが,書かれた文字以上のものを伝える,コンテクストと強く結びつけられたメディアであり,むしろアーカイブス資料に近いものであることを明らかにする。そのうえで,そうした性質を持つミニコミを保存し,研究資源として利用に供することにまつわる課題等についても考察を加える。
著者
稲垣 太郎
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.63, no.10, pp.415-420, 2013-10-01

広告と配送方法に依存するフリーペーパーの特徴を大学講座で知ることにより,学生たちは記事コンテンツの作成のみならず,広告営業と配送方法のマッチングの重要性を認識する。発行に挑戦する学生も多く,広告営業と配布活動を体験することで,社会人になるための大きな一歩を踏み出している。時代を映す史料としての役割は大きいが,大量に読まれては捨てられ散逸するフリーペーパー。どこが主体になり,どのようにして収集,保存すべきか考える時期に来ている。発行社や関連団体,大学の支援を仰ぎ,基金を設立して,少数のスタッフが運営する専門図書館を作るべきだろう。
著者
戸邉 俊哉
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.63, no.10, pp.403-408, 2013-10-01

近年様々な種類のフリーペーパーが発行されている中で,その転換点となったのは1970年代に新聞社によって発行されたフリーペーパーだとされる。本稿では,なぜ新聞社系フリーペーパーが発行され読者に受容されていったのかを,新聞社の収入構造における広告の位置という経済的要因,フリーペーパーの発行地域である都市郊外の新たな住宅地に住む家族のネットワークという社会的状況から考察した。また,この経済的・社会的要因を架橋するものとして,新聞社系フリーペーパーから生まれ出た「信頼」に関する独自の機制について言及した。特に,新聞社系フリーペーパーにおいて記事体広告が信頼の創出の一翼を担っていたことを,新聞記事と広告の関係を通じて指摘した。