著者
竹内 孝 石黒 勝彦 木村 昭悟 澤田 宏
雑誌
情報処理学会論文誌数理モデル化と応用(TOM) (ISSN:18827780)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.71-83, 2014-03-28

行列分解には,観測行列に含まれる零要素の割合が大きくなるにつれて低ランク近似の汎化性能が低下する問題がある.本稿では,この問題を解決するための統計的機械学習アプローチとして複合非負値行列因子分解(Non-negative Multiple Matrix Factorization: NM2F)を提案する.NM2F は,観測行列と2つの補助行列の間に共通の潜在構造を仮定し,これらの行列を同時に分解する.本稿では,NM2F を非負値行列因子分解(Non-negative Matrix Factorization: NMF)の一般化として定式化し,補助関数法により一般化KLダイバージェンスを用いた場合のパラメータ推定法を示す.さらにNM2F は,ブロック未定義領域ありNMFとポアソン分布を用いた確率的生成モデルと等価であることを示す.人工データと実データを用いた実験から,NM2F と既存手法の汎化性能を比較し,NM2F の定量的な優位性を示す.また,実データを用いた実験では,NM2F が複数の行列から多角的な基底を抽出する定性的な利点を示す.Analyzing highly sparse data often results in poor generalizing performances of matrix factorization. To compensate data sparseness, in this paper, we introduce a novel machine learning technique called Non-negative Multiple Matrix Factorization (NM2F). NM2F factorizes multiple matrices simultaneously under a non-negative constraint. We formulate NM2F as a generalization of Non-negative Matrix Factorization (NMF) with the generalized Kullback-Leibler divergence. We derive multiplicative update rules for parameter estimation. We evaluate NM2F and other existing techniques in both the quantitative and qualitative ways. NM2F shows better performance than other techniques on both synthetic and real-world data sets.
著者
田中 健太郎 宮崎 浩一
雑誌
情報処理学会論文誌数理モデル化と応用(TOM) (ISSN:18827780)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.1-13, 2011-07-20

本研究では,オプションのデルタヘッジ戦略への利用をふまえて,将来の実現ボラティリティを予測するモデルを提案し,既存モデルに基づく場合とデルタヘッジ戦略の収益性を比較検討する.提案モデルは,実現ボラティリティとインプライドボラティリティの比に関する時系列データを利用したものであり,デルタヘッジ戦略の収益性は,既存モデルによるものよりも高い.実証分析では,この結果がどのようなメカニズムから生じるかについても詳細に検討する.
著者
中本 昌由 南原 英生 荒木 勇一朗 雛元 孝夫
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌数理モデル化と応用(TOM) (ISSN:18827780)
巻号頁・発行日
vol.42, no.14, pp.64-72, 2001-12-15
被引用文献数
2

本論文では,非ガウス性の確率過程におけるピーク値分布評価法について論じている.ここでは,まず,ガウス過程のピーク値分布評価式により2 つの重み関数を定義し,重み関数の線形結合に基づいてピーク値分布をモデル化している.提案モデルは,帯域情報から求められるパラメータ(帯域パラメータ)に基づいて2 つ重み関数を調節することにより,確率過程のピーク値分布を表現するものである.そして,これを非ガウス過程に適用することにより,非ガウス過程における新しいピーク値分布評価式を導出している.さらに,我々がすでに提案している非ガウス過程に対応した拡張帯域パラメータを使用した場合のピーク値分布評価式も提案している.これらの評価式は,ガウス過程や狭帯域過程のようなスペシャルケースでは,近似をともなわないピーク値分布評価式と一致する.計算機シミュレーションでは,非常に良好な結果が得られており,提案手法の有効性が確認されている.In this paper,we consider an approximate evaluation of the peak values distribution (PVD) for a non-Gaussian random process.We define two weighting functions from the PVD evaluation formula for a Gaussian random process,and model the PVD by a linear combination of weighting functions.The weighting functions are adjusted by a parameter which is related to frequency band information (band-parameter).Furthermore,we derive a novel formula for the PVD approximation of a non-Gaussian random process by applying the proposed model.We also propose a formula with an expanded band-parameter in which a non-Gaussian random process is assumed.This formula agrees with formulas derived without the approximation in the cases of a narrow-band random process and normal Gaussian random process.Results of computer simulations show this methodhas a goodperformance on the PVD evaluation of non-Gaussian random signal,and confirms the effectiveness of the proposed model.
著者
橋田 修一 田村 慶一
雑誌
情報処理学会論文誌数理モデル化と応用(TOM) (ISSN:18827780)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.22-35, 2020-08-28

近年,深層学習を用いた時系列データの分類問題に関する研究がさかんに行われており,時系列データを高精度に分類することができる深層モデルの開発が求められている.本論文では畳み込みニューラルネットワーク(CNN)とMACDヒストグラムを用いた新しい分類手法としてMulti-Channel MACD-Histogram-based LSTM-FCN(Multi-Channel MHLF)を提案する.先行研究において,時系列データの分類問題に対してCNNを用いた分類手法が提案されており,その有効性が示されている.本研究では時系列データと時系列データから抽出したMACDヒストグラムとをマルチチャネルデータとして入力する手法を検討する.Multi-Channel MHLFはMACDヒストグラムとして短期と長期の2種類のウィンドウを用いて異なる特徴を抽出し,深層モデルとして時系列データの分類において高い精度が報告されているLSTM-FCNモデルにマルチチャネルデータを入力する手法となっている.評価実験では時系列データの分類問題のためのベンチマークとして公開されているUCRアーカイブデータセットを用いて,従来手法との比較実験を行った.実験の結果,提案手法は従来手法よりも分類精度が高いことが確認できた.
著者
野崎 雄太 櫻井 義尚
雑誌
情報処理学会論文誌数理モデル化と応用(TOM) (ISSN:18827780)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.69-83, 2020-08-28

本論文では,教師データセットの作成において,事例をランダムに選び,アノテーションすると不均衡データになってしまう課題に対して,機械的なプレフィルタリングを用いたサンプリングにより,不均衡化を緩和するアノテーション手法PSSA(Prefilter based Stepwise Sampling for Annotation)を提案する.また,辞書フィルタを用いたPSSAによるTwitterからの意見抽出モデルを構築し,提案手法の有効性を示した.まず,辞書フィルタを用いたPSSAによる,不均衡化の緩和効果の検証のため,ツイートのアノテーション実験を行い,次にアノテーション段階での不均衡データ対策の有効性を検証するため,意見抽出モデルを構築し,アノテーション手法と前処理,機械学習構築手法の組合せの違いによるモデル精度の違いを検証した.最後に,アノテーションを行うサンブル選択に辞書フィルタを用いることによる影響を分析するため,各辞書フィルタを適用した場合とフィルタリングしなかった場合のモデル精度を比較した.以上の比較実験を通して,提案するアノテーション手法の優位性を多角的に検証した.
著者
木村 博道 秋山 英三
雑誌
情報処理学会論文誌数理モデル化と応用(TOM) (ISSN:18827780)
巻号頁・発行日
vol.48, no.SIG19(TOM19), pp.1-9, 2007-12-15

投資家が,あまり価格を動かさずに素早く株式を売買できる市場を「流動性の高い」市場という.また,買い指値注文の中で最も高い注文の価格と,売り指値注文の中で最も安い注文の価格の差をスプレッドという.先行研究によって,流動性が比較的高い銘柄に対し,スプレッド縮小率が流動性の指標になりうることが分かっている.そこで,本研究では,流動性が低い銘柄に対してもスプレッド縮小率が流動性の指標となりうるかどうかを検証した.具体的には,まず,東証1,2部の銘柄を対象に,先行研究の方法を参考にしつつ,スプレッド縮小率とある流動性指標の相関を調べた.すると,両者の相関は十分高いものとなった.次に,スプレッド縮小率以外の複数の流動性指標に対して主成分分析を行い,「流動性の統合指数」と呼べるものを作り,その統合指数とスプレッド縮小率の相関を調べた.やはり両者の相関は十分高かった.以上の分析から,スプレッド縮小率は流動性の低い銘柄についても流動性の指標と見なせることが確認できた.このことは,流動性の低い銘柄では,トレーダがアスクとビッドの間に売り(買い)指値注文を行う場合,アスク(ビッド)付近に注文を行うことを意味する.
著者
西野 順二 西野 哲朗
雑誌
情報処理学会論文誌数理モデル化と応用(TOM) (ISSN:18827780)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.11-21, 2010-03-17

本論文では簡略化した評価値を導入することで,不決定性を持つため探索がしにくい多人数ゲームの終盤データベースを構築した.さらに,これを用いて多人数不完全情報ゲームの意思決定を行うプレイヤモデルへ適用し,コンピュータ大貧民大会サーバを用いた実験によりデータベースの有効性を示した.多人数ゲームには自己の判断によって利得を制御できず,第三者の合理的でない判断によって左右される不決定という状態を持つ.これに対して大貧民のサブセットである単貧民化を行って手の縮約を施し局面を限ったうえで,シングルトンにより単純化した評価を用いることで最終 10 枚の終盤データベースの構築を行い,3 人の場合で 38%,4 人で 25% の場合について必勝手を発見した.不完全情報の局面を必勝手に帰着することで着手決定を行うプレイヤモデルを構築し,対戦実験によりパフォーマンスの向上がみられ,有効なモデルであることを示した.
著者
佐藤尚 内部 英治 銅谷 賢治
雑誌
情報処理学会論文誌数理モデル化と応用(TOM) (ISSN:18827780)
巻号頁・発行日
vol.48, no.SIG19(TOM19), pp.55-67, 2007-12-15

コミュニケーションの原型は,個体が環境や他の個体との相互作用において,報酬の獲得や適応度の向上に寄与する形で発現したと考えられる.本研究では,報酬最大化を目的とする強化学習エージェントが,余剰な行動と感覚の自由度をコミュニケーショのために使うことを学習できるための条件を,2個体が互いに相手の縄張りに入ると報酬を得るが衝突すると罰を受けるというゲームにより検証した.このゲームでは,コミュニケーションと協調行動のそれぞれが必須ではないが,発光行動を使えるエージェント間では,互いにその光を信号として利用することで衝突を避け,報酬を獲得し合う協調行動の創発が観察された.信号の表現の仕方には多様性が見られ,また作業記憶を持つエージェント間では,信号を送る側とそれに従う側という役割分化も見られた.これは,コミュニケーションと協調行動が必須ではない状況において,意味と信号の任意の対応付けによるコミュニケーションが,コミュニケーションの達成そのものを目的としなくても一般的な行動学習の枠組みにより創発しうることを示す初めての知見である.
著者
渡部 秀文 南雲 拓 一宮 和正 斎藤 隆文 宮村(中村) 浩子
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌数理モデル化と応用(TOM) (ISSN:18827780)
巻号頁・発行日
vol.48, no.15, pp.176-188, 2007-10-15
参考文献数
7
被引用文献数
3

本論文では,階層的クラスタリング結果の安定性を解析するための新しい数理モデルを提案する.また安定性とクラスタ要素の広がり度合いを可視化してクラスタの最適な分割数を求める手法について提案する.階層的クラスタリングは,未知のデータ集合から意味のある分類を得る目的でしばしば用いられる.しかし,結果の安定性に関する研究は十分なされているとはいえず,安定性を手軽に求める手法も開拓されていない.本論文では,従来手法のような統計的処理を用いずに,仮想要素の追加によって幾何学的に安定性を測る手法を提案する.この手法では,要素を1個追加して階層的クラスタリングを行い,得られた結果の階層構造変化に着目する.追加要素の位置によって,本質的な階層構造変化が起こる場合と起こらない場合とがある.そのうち,構造変化が起こらない要素の割合を算出することで階層安定度を得る.一方,クラスタ分割を決定するための指標として,クラスタ要素の広がり度合いについて述べる.さらに,階層安定度と要素の広がり度合いを樹形図上に可視化する手法についても提案する.また,提案手法と従来手法にサンプルデータを適用し,提案手法の有効性および問題点について比較検証する.We propose a new mathematical model for analyzing the stability of hierarchical clustering results. In this paper, a method for deciding the most suitable number of clusters with visualization of stability and density of cluster elements is also proposed. Hierarchical clustering is often used in order to obtain meaningful classification from an unknown dataset. However, the stability of the clustering results is not studied enough, and the techniques for simply calculating the stability measure have never been developed. In this paper, the stability is measured geometrically by adding a temporary element, without using a statistical analysis. In this method, we focus on the change of hierarchical structures when an element is added. If there is more stable region of the added element without structure change, the structure is more stable. In this context, the hierarchical stability is obtained by calculating the ratio of the stable area. On the other hand, the density of clusters elements as an indicator for deciding the dividing of the cluster is presented. Moreover, the method to visualize stability and density of the elements of the clusters is proposed. We demonstrate the effectiveness and problems of the proposed method by applying it to the sample data.
著者
高倉 健太郎 吉川 大弘 古橋 武
雑誌
情報処理学会論文誌数理モデル化と応用(TOM) (ISSN:18827780)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.43-50, 2017-07-19

ALS患者のコミュニケーション手段として,P300 spellerの利用が注目されている.このP300 spellerのインタフェースには主に,行列型と高速逐次視覚刺激呈示(RSVP)がある.特にRSVPインタフェースについては,注視点の移動の必要がないため,より実用的であるといわれている.しかしRSVPインタフェースには,行列型インタフェースと比較して文字入力性能が悪いという特徴がある.この問題を解決するため,河合らにより,部分強調手法が提案されている.しかし,従来手法では,部分強調に用いる図形の形,図形の色の根拠が不明瞭であった.そこで本論文では,RSVPにおける呈示候補の弁別性能を向上させるため,部分強調方法について検討を行う.これにより,部分強調の構造的特徴について,図形の形として方形を,図形の色としてマゼンダを用い,また,文字の背面に強調図形を配置して部分的な強調を施した部分強調手法を提案する.文字入力実験を行い,従来手法と比較して,文字の正答率と文字入力速度を考慮した指標である文字入力性能ITRの有意な向上が確認された.P300 speller is expected to help ALS patients. Rapid Serial Visual Presentation (RSVP) and matrix interface are famous interface used in P300 speller. The advantage of RSVP is that all choices are presented on the same place. Thus, the movement of gazing point is not needed. However, RSVP shows lower performance of inputting than matrix interface. To solve this problem, Kawai et. al. proposed partial highlight method. However, this conventional method did not consider the shape, color and layer of highlight well. Then in this paper, we consider them to improve discrimination performance and propose a new partial highlight method that uses square as the shape, magenta as the color and place highlight on the back face of character. The experiment of inputting character shows that the information transfer rate (ITR) is significantly improved from the conventional method.
著者
猪飼 國夫 石川 亮 本多 中二 板倉 直明
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌数理モデル化と応用(TOM) (ISSN:18827780)
巻号頁・発行日
vol.42, no.14, pp.90-97, 2001-12-15
参考文献数
15
被引用文献数
13

微視的モデルに基づく渋滞解析用道路交通シミュレータを構築するとき,自動車の運転動作のモデリングが重要となる.しかし,人間の運転動作を精緻に表現しようとすると多様な要素やあいまいで定性的な情報を考慮しなくてはならず,単純な微分方程式や統計式でモデルを構築するのは困難である.本論文では,ファジィ推論を導入したネットワーク構造で,様々な要素を取り入れたすり抜け運転動作モデルや踏切り横断運転モデルを構築する.道路上の駐停車車両などの障害物を回避して進行するすり抜け運転状態は渋滞の大きな原因となるが,本論文では構築したモデルを用いて複雑なすり抜け運転状態を計算機上でシミュレートし,いくつかの渋滞現象を解析する.また同様に踏切りでの渋滞の解析や運転者の個人特性の相違による渋滞への影響を調べる.そしてこれらのシミュレーションを通じてシミュレータでのネットワーク構造モデルの有用性を示す.In constructing a road traffic simulator for congestion analysis based on a microscopic model,the modeling of driver's behavior becomes important.However,expressing a driver's behavior precisely and in detail involves consideration of a variety of factors and ambiguous and qualitatie information.Consequently,it is extremely difficult to build models using simple differential equations or statistical formaula.In this papaer,we propose using a network structure based on fuzzy inferences to build models that contain many factors for simulating drivers maneuvering around obstacles or across railroad crossings.Such maneuvers as driving around obstacles,for example vehicles parked or stopped on the roadside,can be a cause of traffic congestion.The models thus build are used to simulate such complex maneuvers on a computer in order to analyze some cases of traffic congestion.Moreover,we have also build models for analyzing congestion occurring at railroad corossings and for investigating some effects on the congestion due to variations between the tensdencies of individual drivers.With these simulations we will demonstrate the usefulness of network-structured models.
著者
周 潔瑩 坪井 哲也 長谷川 大輔 石川 浩司 木村 恵介 田中 未来 大関 和典 繁野 麻衣子
雑誌
情報処理学会論文誌数理モデル化と応用(TOM) (ISSN:18827780)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.63-74, 2018-07-26

レストランの顧客満足度は,料理の品質だけではなく,料理提供の順序とタイミングにも強く関係している.料理の品質は,料理ごとに定められている調理手順に従うことで維持できるが,料理提供の順序やタイミングは,注文された複数料理の組合せにより,各々の調理手順を組み立てなければならない.本研究では,調理手順を組み立てるスケジューリング問題を扱う.まず,スケジュールを行う調理手順を簡素化したモデルを作成し,提供までの時間とグループ客への同時提供を重視したルールを提案する.そして,評価実験により提案したルールを比較し,ルールの有効性と結果にもたらす影響を考察する.
著者
大上 雅史 松崎 由理 松崎 裕介 佐藤 智之 秋山 泰
雑誌
情報処理学会論文誌数理モデル化と応用(TOM) (ISSN:18827780)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.91-106, 2010-10-25

タンパク質間相互作用 (Protein-Protein Interaction,PPI) に関するネットワークの解明は,細胞システムの理解や構造ベース創薬に重要な課題であり,網羅的 PPI 予測手法の確立が求められている.タンパク質立体構造データ群から網羅的に相互作用の可能性を予測するために,我々は立体形状の相補性と物理化学的性質に基づくタンパク質ドッキングの手法を研究してきた.本研究のプロジェクトの一環として新たに開発した MEGADOCK システムは,高速なドッキング計算を行うための様々な工夫を取り入れており,なかでも rPSC スコアと呼ぶスコア関数は,既存ツールの ZDOCK と比べて同等の精度を維持しながらも約 4 倍の速度向上を実現し,網羅的計算を現実のものとした.本論文では MEGADOCK システムの構成および計算モデルについて述べる.ベンチマークデータセットに適用した結果,従来手法を大きく上回る最大 F 値 0.415 を得た.さらにシステム生物学の典型的な問題の 1 つである細菌走化性シグナル伝達系のタンパク質群に MEGADOCK を応用した.その結果,既知の相互作用の再現をベンチマークデータと同等の精度 (F 値 0.436) で行うことに成功し,かつ生物学的に相互作用の可能性が高い組合せであるにもかかわらず,現在までに報告されていないものとして,CheY タンパク質と CheD タンパク質の相互作用の可能性を示唆した.
著者
徳永 旭将 池田 大輔 中村 和幸 樋口 知之 吉川 顕正 魚住 禎司 藤本 晶子 森岡 昭 湯元 清文
雑誌
情報処理学会論文誌数理モデル化と応用(TOM) (ISSN:18827780)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.14-34, 2011-07-20

一般に,前兆現象は突発現象にそのものに比べて非常に目立ちにくく,その開始時刻は曖昧である.従来よく用いられてきた変化点検出法を適用した場合,このような微小で緩慢な変化は見逃されやすい.Tokunagaら(2010)では,Ideら(2005)の提案した特異スペクトル分析を応用した変化点検出法(SST)を,多次元データを用いたアルゴリズム(MSST)へと拡張することで,鋭敏に前兆現象の開始時刻を推定できることを示した.MSSTは,緩慢な変化も検出できる鋭敏な手法であるが,実データへの適用では誤検出が問題になる.本稿では,突発現象の大まかな開始時刻をあらかじめ検出し,さらに検出された時刻の前後で前兆現象の開始時刻と終了時刻を個別に探索することで,前兆現象を鋭敏に検出でき,かつMSST単体よりも誤検出を劇的に減少させることができることを示す.
著者
山崎 優大 野里 博和 岩田 昌也 高橋 栄一 何森 亜由美 岩瀬 拓士 坂無 英徳
雑誌
情報処理学会論文誌数理モデル化と応用(TOM) (ISSN:18827780)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.28-37, 2015-03-30

錐制約部分空間法は,非負の特徴ベクトルに対して錐形状の空間を形成することで学習パターンを精度良く表現し,錐との角度を基にパターン認識を行う.しかし,錐形状の空間内では表面付近と中心付近の特徴ベクトルの区別ができないため,錐形状の空間の広がりが大きい場合は,認識性能が低下するという問題がある.そこで本論文では,錐の表面付近の異常を検出するため,錐形状の空間における確率密度を基にした異常検出手法を提案する.提案手法では,錐形状の部分空間の広がり方向を表す空間上において学習パターンの確率密度関数を作成し,確率密度が低い位置に存在する特徴ベクトルを異常として検出する.実験では,乳腺超音波画像の実データを用いて病変検出精度の検証を行い,提案手法の有効性を確認した.
著者
池田 大輔 山田 泰寛 廣川 佐千男
雑誌
情報処理学会論文誌数理モデル化と応用(TOM) (ISSN:18827780)
巻号頁・発行日
vol.46, no.SIG2(TOM11), pp.56-66, 2005-01-15

本論文では,複数の文字列に共通な部分を見つける問題を考察する.まず,この問題をパターンから生成された文字列の集合が与えられたときに,そのパターンの定数部分を見つける問題(テンプレート発見問題)として定式化する.パターンとは定数と変数からなる文字列で,パターンが生成する語は変数を定数文字列で置きかえて得られる.置きかえに用いられる文字列中の部分文字列の頻度分布はベキ分布に従うことを仮定し,高確率でテンプレート発見を解くアルゴリズムを構築する.共通部分の発見問題の1 つである最長の共通部分列を探す問題はNP 完全であることが知られているが,問題の再定式化,部分文字列の集合による定数部分の表現方法,部分文字列の頻度と総出現数から共通部分を発見する手法により,テンプレート発見問題は高確率でO(n) 時間で解けることを示す.ここで,n は入力文字列の長さの和である.さらに,このアルゴリズムがノイズに対し頑健であることと,複数のテンプレートが混在する場合でも有効であることを,Web 上の実データに適用することで実証する.
著者
Jason PaulCruz Yuichi Kaji
雑誌
情報処理学会論文誌数理モデル化と応用(TOM) (ISSN:18827780)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.41-48, 2016-08-10

The role-based access control (RBAC) is a natural and versatile model of the access control principle. In the real world, it is common that an organization provides a service to a user who owns a certain role that was issued by a different organization. However, such a trans-organizational RBAC is not common in a computer network because it is difficult to establish both the security that prohibits malicious impersonation of roles and the flexibility that allows small organizations and individual users to fully control their own roles. This study proposes a system that makes use of Bitcoin technology to realize a trans-organizational RBAC mechanism. Bitcoin, the first decentralized digital currency, is a payment network that has become a platform for innovative ideas. Bitcoin's technology, including its protocol, cryptography, and open-source nature, has built a good reputation and has been applied in other applications, such as trusted timestamping. The proposed system uses Bitcoin technology as a versatile infrastructure to represent the trust and endorsement relationship that are essential in RBAC and to realize a challenge-response authentication protocol that verifies a user's ownership of roles.
著者
篠澤 和恵 楜沢 順 高田 雅美 城 和貴
雑誌
情報処理学会論文誌数理モデル化と応用(TOM) (ISSN:18827780)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.119-127, 2013-03-12

コンピュータ上での絵具の発色シミュレーションは,グラフィックソフトウェアへの応用が期待できる.古典油彩画における「グレーズ」は,薄く溶いた透明な絵具の層を重ねる技法であり,混色で表現できない色調を,重色によって表現するものである.その発色は,放射伝達方程式を解くことによって求められる.しかし従来手法は,異なる絵具でグレーズを行う方法が示されておらず,高精度な解を得るには計算量が大きくなるため,グラフィックソフトウェアへの応用には不向きである.本研究では,まず従来手法を異なる絵具の層に対応できるように拡張する.さらに,係数行列を分解し,刻み幅を固定することにより,高精度な解を小さい計算量で得ることが可能な数値解法を提案する.また,実際の油絵具のデータを用いて数値実験を行い,高精度な解が,従来手法の約4%~7%の計算時間で求められることを示す.
著者
奥野 拓也 中村 和幸
雑誌
情報処理学会論文誌数理モデル化と応用(TOM) (ISSN:18827780)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.61-74, 2016-12-14

セールスプロモーションは顧客の購買行動へ直接的に働きかけるため,多用されているマーケティング施策である.しかし,セールスプロモーションの効果に関しては他の要因から複雑な影響を受けているため純粋な計測が難しいが,要請は強い.本研究はそういったニーズに鑑み,市場反応が動的であると仮定し,プロモーション活動が来店・購買に与える影響を推定する.そのために,来店と購買の生起行動を確率モデルで構築する.構築した確率モデルを状態空間モデルで記述し,個人ごとに提供するプロモーションが与える影響の時間変化を推定する.スーパーマーケットのID付きPOSデータから価格帯の異なる2商品を用いた結果,長期的なプロモーションの購買へ与える影響が異なることが示唆された.両商品において継続的なプロモーション効果があるが,高価格帯で割引率の高い商品は低価格帯で割引率の低い商品よりも長期的にはプロモーション効果が弱くなることが確認された.In the marketing field, sales promotion is used extensively because it can directly work on consumer buying behavior. The measurement of the effect of the sales promotion is required though it is difficult because the effect is complexly affected from other factors. In this research, we estimate the effect of sales promotion on a shopping trip and purchase behavior by assuming dynamic market response. Probability model of the occurrence of the shopping trip and purchase behavior is constructed. This model is transformed to state space model and we estimate the time course of the effect of the individual promotion. We have targeted two items in analysis using ID-POS data of a supermarket. The result implies that the effect of long-term promotion is different between two items. More specifically, the effect of the promotion of the item that is high price and high discount becomes weaker than the one that is low price and low discount in long-term period though it is continued for both items in analyzed period.
著者
井庭 崇
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌数理モデル化と応用(TOM) (ISSN:18827780)
巻号頁・発行日
vol.48, no.19, pp.75-85, 2007-12-15

本論文では,2人のモデル作成者によるコラボレーションによってモデリングを行う「ペア・モデリング」の方法を提案し,その実践事例を報告する.ソフトウェア工学の最近の研究では,ペアによるプログラミング作業が,個々に仕事を割り振って分業するのに比べて,生産性の観点からも品質の観点からも優れているということが知られており,モデリングにおいてもそのような効果が期待できる.本論文では,ペア・モデリングの方法について論じた後,ペア・モデリングの原理を,ニクラス・ルーマンによって提唱された社会システム理論に基づいて考察する.最後に,私たちの提案するモデリングツールを用いたペア・モデリングの実践事例を紹介する.In this paper, we explore a new method for collaborative modeling, which we call "pair modeling". In pair modeling, two modelers use the same computer at the same time, and conduct modeling by communicating with each other. Pair modeling is considered to improve the quality of a model and productivity of modeling more than usual modeling which two modelers make different models separately and put them into one. We discuss what happens in pair modeling, applying social system theory, which is proposed by Niklas Luhmann. As a conclusion, we suggest that pair modeling is effective method for collaborative thinking, which is essentially different from single modeling. Finally, we take up some comments given by the modelers about the process and advantages of pair modeling.