著者
長山 知由理
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.54, pp.91-91, 2011

1.はじめに<BR>本稿は,人間・環境科学と家庭科教育を調和させることで,その領域が広義になることに目を向けたものだ.<BR> 専攻だった人間・環境科学では,生理学や生化学,構造力学や意匠学,高分子科学(水・熱・力に対する性質)やコロイド科学などを教わる.研究室に入ってからは,神経科学のようなこともやった.プログラムを書いて,ニューロリハビリに明け暮れる毎日だった.<BR> 大学院では,可塑性を数理モデルで検討していた.ニューロリハビリでの可塑性は,『運動などの外界(環境)が人間にもたらすこと』といった意味合いが強い.一方の保育では,『家族が幼児にもたらすこと』といった役割も多く1),家庭科教育で扱うことで新しい発見があった.<BR><BR>2.目的<BR> 現在の教育現場に求められていることは,活用型学力と呼ばれるものだ.家庭科での活用型学力とは,一言で表現するなら,授業で学んだことから社会をより良くしていける能力のことだ.もう一つの方向性は,e Learningでは得られない,生徒の言語能力の向上である.<BR> では実生活をより良くするとは,どういう意味だろうか.やはり少子高齢化,高度情報化,それから環境教育や防災教育といった,日本が直面している危機に,学校教育により立ち向かっていくことなのではないだろうか.そのような大きな課題に取り組むためには,やはり社会に開かれた人格を育成すべきだ.そのために,コミュニケーションを強調すべきなのだと考えている.ここでは特に,少子高齢化について述べる.<BR><BR>3.方法<BR> 遊ぶことで,幼児は成長していくけれど,どうしてなのか."遊び"は年齢を重ねていくと,徐々にグループでのものとなる.身体・心身の発育だけでなく,生活習慣も身に付けていく.この真似することとは,何か.<BR> 高齢になっても,新しくできるようになることもある.そんなお年寄りもいる地域と,学校や家庭という三角形の中で,その重心のように暮らしていることを伝えたつもりである.それは幼児も,中学生も同じだ.そして,可塑性,ミラー・ニューロンなどについて平易に説明してあげた.<BR><BR>4.結果<BR> 学活の時間に一担当クラスに行ってみると,『理科っぽいことも知っていて…』と言われて嬉しかった.生徒は一生懸命であるにも関わらず,中学生には難しい局面もあり,そこは改善していきたいと思っている.幼児の成長を画像化する技術(NIRS:近赤外分光法)があることは,脳波を計測したこともある生徒に対して,理解させるのは容易だった.しかし数理モデル2)まで理解させようとすると,急に難易度は高まった.少し工夫して次時に,人工知能(PCゲームでの対戦など)を思い出させて説明すると,生徒の理解度は高まった.<BR><BR>5.まとめ<BR> 保育に関わらず,何だかんだで,まずは生徒に関心を払ってもらうことから始まる.そして幼児のためのお菓子やオモチャ作りなど,実際に手を動かす"ものづくり"を通して,知識もモノになっていくのだろう.一緒に考える時間を持ちながら,将来の日本や世界の在り方をイメージさせられたら望ましい.<BR>
著者
小林 由実 川端 博子 薩本 弥生 斉藤 秀子 呑山 委佐子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, 2012

【目的】 伝統的・文化的な技術や習慣が伝承されにくく、関心も低くなっている中、2008年改訂の中学校学習指導要領の家庭・被服領域において「和服の基本的な着装を扱うこともできる」が明記された。しかし、教師自身の知識・技能が十分でない、教材の確保が困難といった理由から、和服に関する授業の実践例はまだ少ない。この様な現状をふまえ、ゆかたの着装を含む体験的学習を通してきもの文化を次世代に継承する家庭科の教育プログラムを開発し、その学習効果を検証することを目的とする。【授業実践】 本研究では、埼玉大学教育学部附属中学校(2年生4クラス173名)の協力を得て、2011年5月から4週にわたり50分授業を4回実施した。授業は、和服の基礎的内容の学習にはじまり、たたむ、帯を結ぶ、ゆかたを着装する体験学習へと、段階的に進めた。着装技能/ゆかた着装時の気持ち/ゆかたへの興味・関心の視点に関するアンケートと授業ごとの感想をもとに、授業の効果を考察した。【結果と考察】 着装技能の評価 ゆかたの着装技能について、「帯の結び方」等の3項目について8~9割の生徒が理解できたと感じていた。また、写真によるゆかた着装の生徒の自己評価では、「背中心がまっすぐである」等の全ての個別評価と、総合評価「外出できる出来ばえになっている」で有意な相関がみられた。「えり」「すそ」の評価項目では男女とも相関が比較的高い傾向となり、出来ばえに関連する要素とみなされる。男子においては「帯の形が整っている」の相関が最も高く、着付けにおいて帯結びの美しさが総合的な出来ばえに及ぼす影響は大きい。また、教師が同様の評価を行ったところ、5項目について自己評価と教師評価の間に有意な相関がみられた。特に帯に関する項目で、生徒と教師の評価基準が一致する傾向となった。 モデルのゆかた着装時における気持ち ゆかたの着付け体験は2~3人のグループ活動とし、そのうちの一人をモデルとした。授業の前後にモデルを対象にゆかた着装時の気持ちを評価させたところ、「うれしかった」等のゆかたのよさに関する5項目については、全てで高まった。「帯がきつかった」「歩きにくかった」の否定的な2項目においては授業後にはあまり変化せず、比較的低くとどまった。 ゆかたへの興味・関心 授業の前後に、ゆかたへの興味・関心(7項目)を評価させ比較したところ、男女ともに全ての項目で興味・関心が大きく向上した。事後調査においては、「和服について関心がもてた」等の項目で全体の約8割が「(やや)そう思う」と回答した。また、「家族と和服の話をした」の項目では全体の52%が「はい」と回答したことから、授業を通して生徒にきもの文化の継承に関わるきっかけを与えられたと考える。 自由記述の分析 授業後の感想を観点別に分析したところ、帯結びの体験では「帯の形」「長さ調節」「きつさ」が、着付け体験においては、「帯」「おはしょり」が困難な点として最も多く挙げられていた。これらの記述を参考に、要点をおさえた、より簡潔でわかりやすい指導につなげていくことが課題である。
著者
志村 結美
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, 2012

目的 現在、主体的に生き方を探究していくキャリア教育の重要性が叫ばれている。中央教育審議会答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」(1999)において、「学校教育と職業生活との接続」の改善を図るために、小学校段階から発達の段階に応じてキャリア教育を実施する必要があると提言されて以降、小・中・高等学校において、キャリア教育の充実が喫緊の課題として図られてきた。中学校では職場体験活動が必修化し、大学等においても積極的にキャリア発達支援を行い、インターシップ等が実施されるようになった。しかし、子どもたちが将来就きたい仕事や自分の将来のために学習を行う意識が国際的にみて著しく低く、それに伴い、教科学習に対する興味・関心が低い状況であることが明らかとなっている(TIMSS調査2007・PISA調査2003,2006)。また、働くことへの不安を抱えたまま職業に就き、適応に難しさを感じているといった若者は依然として多く、若者の早期離職率が増加している等、未だに多くの課題を抱えたままである。 そこには、キャリア教育は、従来、「進路決定の指導」を目的とした進路指導、「専門的な知識・技能の習得」を目的とした職業教育で行われており、「キャリア発達を促す教育」としてのキャリア教育となった現在も、職業生活における自己実現を希求することに重きが置かれていることに問題があるとの指摘がされている。すなわち、職業生活、家庭生活、地域生活といったライフキャリアの視点からのキャリア教育の実践が希薄であると言わざるを得ない状況である。 このような現状において、キャリア発達を職業の有り様のみから捉えていくのではなく、ライフキャリアの視点から将来の生活の一部として、生活設計の中で職業の在り方を考え、自立という観点を直接的に捉える家庭科教育においてこそ、キャリア発達を促すことができるのではないかと考える。しかし、家庭科教育においてもキャリア発達を促す授業実践、カリキュラム開発はこれからの充実・発展が待たれている段階である。家庭科教員にも、ライフキャリアの視点からキャリア発達やキャリア教育を捉えることが難しい状況にあるのではないかと推察される。 そこで、本研究では、まず、キャリア教育に関する施策や先行研究からキャリア発達やキャリア教育の定義等の推移を明らかにし、ライフキャリアの視点から分析する。次いで、家庭科教育におけるキャリア発達を促す教育内容等を学習指導要領等から導き出し、ライフキャリアの視点から家庭科教育とキャリア教育の関連性を検討することを目的とする。また、本報告では、小学校で家庭科を担当している教員対象のキャリア教育の実施状況やその実施内容等に関する実態調査を踏まえて、小学校教員の家庭科に関するキャリア教育の捉え方の傾向を明らかにし、家庭科教育とキャリア教育の関連性を検討する一助とする。 方法 1.ライフキャリアの視点からキャリア教育に関する施策、先行研究等を分析し、家庭科教育との関連性を検討する。2.小学校教員対象調査は、山梨県と静岡県の計406校の小学校に在籍している家庭科主任、家庭科担当教員を対象にアンケートを郵送し、計146人の有効回答を得た(有効回収率36.0%)。調査期間は2009年8月~11月である。 結果及び考察 先行研究等では、ライフキャリアの視点でキャリア発達を捉えたものが多く認められ、その重要性が確認された。家庭科教育においてもキャリア発達を促す教育内容を多く内包しており、その関連性が明らかとなった。また、小学校教員対象調査では、約6割の教員がキャリア教育に関する教育を行っているが、実施している教科等は、総合的な学習の時間、特別活動、社会、道徳、家庭科の順であった。家庭科での実践は15%程度であったが、家族の一員として仕事を行うこと、また、衣食住に関する技能の習得等を通した実践等、幅広い教育内容があげられ、教員がライフキャリアの視点を持って、授業を行うことの重要性が明らかとなった。
著者
羽根 裕子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.56, 2013

<目的> 教員養成大学家庭科選修、専攻学生の授業における受講意欲向上を目指す取り組みを続けてきた。将来、教師という社会的にも重要な役割を担う職業に携わる学生が、自分自身の「衣生活」をどのようにデザインしようを考えているのかを調査し、授業において着装コーディネートの方法を学ぶことで、自己表現力を高め、教師としての「衣生活設計」をデザインする能力をもにつける目的である。2008年、「ファストファション」が登場し、不況に追い討ちをかけるように2011年、東日本大震災に見舞われた。日本の社会に浸透したのは、徹底的にローコストを追求する合理性なファションで、若い学生世代の感覚に合致していると思われる。震災後、復興や節約志向が続く日本に、「流行」という言葉が空々しく聞こえもするが、今、自分が置かれている環境の中で、どのような服装をコーディネートし、どのように自己表現をするのかを指導したいと考える。将来の衣生活設計における創造性をも高めたいと考える。教師として教壇に立つときに何をどのように着るべきかを考えさせることにより、積極的に授業に参加する意欲を向上させ、創造性、表現力を高める目的である。<研究方法> 「衣生活論」の授業において、ファッショントレンドを取り入れ、着装コーディネートをデザインする授業を行う。ファッショントレンドについてデザイン、素材、色彩の領域からその決定方法と詳細について理解させる。特にその年のトレンドが決定される要因にはバックグラウンドとして、流行が生まれる社会情勢、経済情勢などが大きく影響していることを認識させることが重要である。実際に自分自身の着装コーディネートにどのように取り入れたらよいかという指針になるからである。コーディネートの提案手順は、ユニバーサルファッションのデザインプロセスに従って教師の生活・社会環境の分析、問題点の抽出を行った。それらの問題点の解決点、改善点を把握し、要求されるデザイン要素を考察し、最終的に、教師に求められる機能的要素、心理的要素を充足するコーディネートを提案させた。<結果と考察> 学生たちは、教師は教壇で何を着るべきかを考えることで、自分自身の生活環境をより深く分析することが出来た。服飾による自己表現をすることで言葉以上の感情を伝達することができるとも認識した。自分自身を主張するだけでなく、対児童、対保護者、対同僚、対上司という複雑な人間関係を言葉以外のコミュニケーションスキルを駆使して保持しようとする考え方がデザイン提案に表現されている。学生が将来に向けて掲げた課題をまとめると下記のようである。・生活環境と衣生活の密接な関係を学ぶことができ、自分自身の毎日のコーディネートを見直そうと思った。・自分が楽しむだけのファッションでなく、社会的に自分自身を表現することが必要である。・自分自身の個性を表現できる服装コーディネートをすることで、精神的に充実感が得られる。・服装による個性の表現をしたい。教師の服装には制服や制限がないからこそ、衣生活設計が難しいと思う。・服装のコーディネートを変えることで、自分自身の内面を表現し、美しい自分でありたいと思う。将来、教師に  なった時の服装について考える必要があると実感した。・教師はタレントやアイドルではないが、イメージ職であると思う。 教師という存在が周囲からどのように評価されているか認識し、心理的側面から教師の衣生活を設計したい。 服飾教育における学生の自主性を育てる授業は、学生自身が将来良質な衣生活を営む力になる。教師という職業にコミュニケーション力が非常に重要であり、学生がその一端を担う服飾による表現(ノンバルコミュニケーション)が言語以上に重要であると理解できたことは大きな成果であったと考える。
著者
有友 愛子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, 2012

【目的】調理実習は生徒が楽しみにしている学習のひとつであり、意欲的に学習に取り組む様子がみられる。学んだ知識や技術の習得に向け、自らの学びをもとに生活場面での実践の積み重ねを視野に入れた指導を心掛けている。そこで、生活場面の実践における目標達成の手だてのひとつとして、レシピカードと調理場面の動画に着目したデジタルポートフォリオの活用について検討を行うことにした。レシピカードは、調理方法を示したスライド形式のカードであり、実習を通して得た調理のポイントや今後の課題等を言葉や図で書き加えることにより、生徒一人一人がオリジナルのレシピカードとして活用することができる。レシピカードの作成と活用により、論理的思考や生活の課題を解決する能力を育む視点を充実させ、知識・技術の習得につなげたいと考えている。【方法】中学部生徒を対象に、家庭科の授業でデジタルポートフォリオを活用し、調理実習を実施した。献立は、「筑波定食」として主食・汁物・副菜を固定し繰り返し取り組ませ、主菜を実習ごとに変えた。レシピカードはプレゼンテーションソフトで作成し、デジタルポートフォリオとして電子黒板やタブレットPC上で活用した。タブレットPCは生徒が1人1台使用し、デジタルポートフォリオにはレシピカードや調理場面の動画、生徒が撮影した静止画や動画、デジタルノートの記録等を盛り込んだ。デジタルポートフォリオの実習時の活用の様子、レシピカードに書き加えられた記内容、自己評価や質問紙による調査等から検討を行った。【結果】調理実習の際、デジタルポートフォリオとしてレシピカードと動画を併せてタブレットPC上で活用させたところ、役割分担を相談する、作り方を確認しながら調理を進める、友達や教員から説明を受ける等の場面で活用する様子がみられた。生徒の自己評価の結果から、「調理技能」、「調理手順」の自己評価の高まりがみられ、特に「調理手順」については、1回目と3回目の実習での高まりが顕著であった。確認が曖昧だったり、わかったつもりで作業を進めたりしたことで思い通りに仕上げることができなかった実習の後、次回の実習に向けての課題として「レシピカードや動画などでよく確認する。」、「作業の間にレシピカードや動画を見て、何が必要か、準備はできているか、注意することは何かを確認する。」等の記述がみられ、レシピカードや動画を知識・技術の習得のために活用しようとする意欲がみられた。調理実習直後に学習プリント形式のレシピカードに書き込んだ内容を元にレシピカード作りに取り組ませたところ、ほとんどの生徒がデジタルポートフォリオの中から調理場面の動画を選んで視聴し、作り方を再確認した上で書き加える内容の整理や拡充に取り組む様子がみられた。書き込まれた内容には、「お湯の色が緑っぽくなってきたり、ブロッコリーがくるくる回り出したりしたら、そろそろザルにあげても大丈夫。香りにも注目。」、「火加減に注意。あまり強くしない方がいいよ。切り身に火が通り、周りが少し白っぽいくらいが裏返す合図。」等の記述がみられた。完成したレシピカードに書き込まれた内容から、体験を通して学んだ知識・技術について具体的に内容を深めて行くことができた。また、レシピカード作成の際、教員が思考の整理をさせたり、考えを深めさせたりする場面において、書き込まれた内容が生徒それぞれの思考や理解の状況を把握する材料のひとつとなった。レシピカードの作成により生徒の調理に関する思考力の高まりがみられた。デジタルポートフォリオとしてレシピカードと調理場面の動画を併せて活用することで、学習活動において様々な相乗効果がみられた。レシピカードをはじめとした生徒の学習の過程をデジタルポートフォリオとして蓄積することにより、生徒の知識・技術の習得や家庭での実践による課題を解決する能力をはぐくむ視点の充実につなげることができるのではないだろうか。今後はデジタルポートフォリオの内容の充実や情報の共有化等による活用の検討を進めて行きたい。
著者
薩本 弥生 川端 博子 堀内 かおる 扇澤 美千子 斉藤 秀子 呑山 委佐子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, 2012

[目的] 現在の衣生活は、旧来の家庭で衣服を作る時代から、既製服を選んで購入する時代となった。日常着が洋装化し、既製服が普及した今日、きもの文化に触れる機会もめっきり減り、これらの技術や文化が若者に理解されにくくなりつつある。一方で、2006年に改正された教育基本法に「伝統や文化を尊重し、我が国と郷土を愛するとともに、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」が新たな教育の目標として規定されたことを受けて、新指導要領が2008年に告示され、中学校の技術・家庭科の衣生活分野では「和服の基本的な着装を扱うこともできること」が盛り込まれたため、和服の着装の体験を含めた教育プログラムを模索することは必要不可欠である。そこで本研究では、和服の中でももっともカジュアルで取り組みやすいゆかたの着装を含む体験的学習を通し、きもの文化を次世代に継承する家庭科の教育プログラムを開発し、その学習効果の検証することを目標とし、特に浴衣の着装実習において大学教育学部で事前に浴衣の着装指導に関してトレーニングを積んだアシスタントティーチャーを活用して技能の理解・習得に力点を置いた授業実践を試行的に行い、技能の理解・習得を目標に着装体験することがきもの文化への興味・関心を喚起するかを明らかにすることを目的とする。 [方法]2011年6月から9月に、Y大学附属K中学校において、家庭分野担当教員の協力を得て教育実習の一環で大学の実習生が2年生4クラスを対象とした浴衣を教材とした3時間(50分×3)の授業を実施した。実習直後および夏休み明け(事後)に着装感や技能習得意識に関する項目(23項目)について5件法で調査を実施した。23項目の直後・事後調査のデータがそろっている4クラス分の男女生徒159部(90.9%)を対象として、分析結果から得られた内容をもとに、授業の成果と生徒の意識変容について考察する。 [結果と考察] (1)因子分析によって抽出された全5因子を相関分析した結果、「興味関心因子」と「理解習得因子」に高い相関があることがわかった。(2)共分散構造分析の結果、「理解習得因子」から「興味関心因子」へのパス係数が有意であった。このことから「技能の理解・習得を目標に着装体験することがきもの文化への興味・関心を喚起する」という仮説が成り立つことが立証された。さらに男女による差異、帯結び部分練習の有無による差異を検討した結果、有意に差が見られた。以上の結果から、男女でのゆかたの色柄の違いや着付けの難易度の違いがある中で男女ともに、きもの文化に対する興味関心や理解習得を肯定的にとらえるために授業のさらなる工夫の必要性が明らかになった。着付け技能の理解・習得をめざした授業作りのために部分練習をすると理解習得意識が高まり、それが興味関心喚起に結びつくことがわかった。授業時間数が縮小傾向の中での時間数の確保が課題である。[まとめ]これまでの実践を通して教師自身の「きもの」文化に関わる意識啓発と知識・技能の力量形成が重要であることが明らかとなってきたので、大学で着付けの技能を中心に「きもの」文化に対する意識啓発と技能習得のためのトレーニングを積んだ学生をATとして活用したのが本研究の特徴である。ATの活用により教員に余裕が生じ、生徒への示範や指導が行き届き、授業が円滑に進行し、着装技能の理解や習得意識が向上し、きもの文化に対する興味関心の喚起にも有効であることが明らかになった。附属学校という地域のリーダー的な実践校での実践であり、設備や教材などの学習環境、教師の実践力向上に向けての周りの支援、さらに生徒の質の高さ等々が整っているため出来た実践という面はある。しかし、一般校でも、地域か、保護者の協力を仰ぐ体制づくりを整えて行くことで可能となると思う。
著者
岡芹 愛子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.54, pp.94-94, 2011

<BR>【目的】<BR> 日本において「赤ずきん」は特に親しまれている絵本の一つで、一般に1812年が初版のグリム兄弟の原作として知られている。しかし実際はそれ以前の1695年にフランス人のペローが執筆し2年後に出版した童話をもとに、ドイツでグリム兄弟が発表した作品とされている。ペローが童話を著した目的の一つは、子どもをしつけ望ましい発達を促すという教育的効果を意図したことであるといわれ、最後に大人・子ども向けの教訓が記されている。またフランス国内ではペロー原作の再話が多様なバリエーションの形で出版されている。<BR>「赤ずきん」は有名且つ単純明快な内容であるため、中学校・高等学校の家庭科における保育領域用教材として活用できると考えられる。そこで、初版以来300年以上の時代を経た現在、ペローのメッセージからどのような示唆を得られるか、時代の変遷につれ変化する社会背景、価値観、文化等を反映しながら再話に込められている教育的メッセージは何かを検討し、家庭教育の在り方を取り上げるための教材としての可能性について考えることを目的とする。<BR>【方法】<BR>ペローによる原文の童話及び2009年8月と2011年3月にパリ市内の書店で収集した絵本「赤ずきん」を検討した。計35冊中8冊は原作者がグリムとなっており、その他の8冊は原作者不詳であった。そのため残る19冊と原作の計20冊を対象とした。<BR>【結果・考察】<BR> 原作では、母親が主人公に森の先にある村に住む病気の祖母にパイとバターを一人で届けるという使いをさせる。途中で狼に出会い話しかけられるが、主人公は狼に気をつけなければいけないことを知らなかったため、言われた通りにしてしまう。その結果祖母とともに狼に食べられたところで本文は終了し、見知らぬ人間や狼とは口をきいてはいけない旨の教訓が続く。原作と同文の絵本は計10冊あったが、そのうち2冊は教訓がなく本文のみだった。<BR>再話は計9冊で、いずれも教訓は記載されていなかった。①結末に関し、祖母は全冊において狼に食べられるが、8冊は猟師または樵に助けられた。主人公は7冊において食べられるが、やはり全ての場合猟師または樵に助けられた。2冊では食べられずに済んだが、内1冊は祖母が食べられ助けられなかったことが強い衝撃となり、後に高齢者となった主人公は自分の孫に教訓として語り聞かせた。②主人公が祖母の家に行く事情は6冊が原作と同様で2冊は不明だが、内1冊は主人公が自らの意志で行くことになった。他の1冊は祖母が病気で孫に会いたがっているとウサギに知らされ、母親の反対を振り切り祖母の家へ向かう内容だった。③道草をしてはいけないと言われたものは2冊だった。狼に用心するよう躾を受けている内容は皆無で、1冊は主人公の方から狼に話しかけた。森には狼がいることを母親は知らないという内容が1冊あった。帰宅しない主人公を心配した両親が森へ捜しに行くという内容が1冊あった。主人公は二度と狼とは会話をしないと約束したもの、二度と道草はしないと約束したもの、その後一度も狼とは口を聞かなかったというもの、助けられた後再び森で狼に会ったが無視したというものがそれぞれ1冊ずつあった。このように再話では原作より子どもに恐怖を与えにくい結末になっており、教訓を削除し本文に暗示した分かりやすい内容構成にしている。<BR>子どもは大人の予期せぬ行動をとることが当然であり、幼児一人を誰の意志かを問わず人気の少ない場所を通り遠いところまで行かせるような使いに出すこと、通り道にどのような危険が潜んでいるかを確認せずに幼児を使いに出すこと、見知らぬ人間と話をしたり道草をしたりするような軽率な行動を禁じる躾の必要性等について生徒に考えさせる教材として適していると言える。幼児との触れ合い体験学習や子ども文化の授業で製作する教材の参考としても活用できると思われる。<BR>