著者
西岡 真弓 今村 律子 赤松 純子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.60, 2017

<strong>目的</strong> <br /> 家庭科の製作実習はこれまで,実習体験だけで終わりがちだった。しかし,現行の中学校学習指導要領においては「生活を豊かにしようと工夫する能力と態度を育てること」が求められ,さらに次期学習指導要領では,「何ができるようになるか」,「何を学ぶか」,「どのように学ぶか」が今まで以上に重要となった。本研究は,「アイロンかけ」実習を科学的知識に基づいた授業と位置づけ,生徒に3つの力(生活に生かせる知識・技能,工夫して実践する思考力,将来にわたって学びを生かそうとする意識)をつけさせる主体的・対話的で深い学びであるアクティブ・ラーニング型授業を具現化することをねらいとし,提案・実践・評価・分析する。<br /><strong>方法 </strong><br /> 「アイロンかけ」実習授業で学べる科学的知識を整理し構想図にまとめ,授業を立案した。授業展開については,アイロンかけの科学性すなわち,しわが伸びる3要素(熱・水分・圧力)および繊維の性質(霧吹き・スチーム)の理解に重点を置くことと,アクティブ・ラーニング型授業の特徴である主体的・対話的で深い学びに導く指導方法を確立することを重視した。指導の工夫は,①視聴覚教材の開発,②実感で納得させる体験,③グループ学習による学びあいのしかけ,④思考を深め授業を振り返る相互評価と自己評価の4点とした。それに基づいた授業をW県内3中学校9クラスで実施し,「生活に生かせる知識・技能」,「工夫して実践する思考力」,「将来にわたって学びを生かそうとする意識」の3点について授業効果を確認した。<br /><strong>結果</strong> <br /><strong>1.授業立案</strong> 「アイロンかけ」で学べる内容を整理し,科学的知識に基づく「アイロンかけ」実習をアクティブ・ラーニング型授業として立案,試行実践の後,基礎編(アイロンでしわが伸びる原理の理解と基本的なかけ方の習得)と応用編(繊維の水分特性と衣服の構成を理解したかけ方の習得)各1時間の授業提案ができた。<br /><strong>2.アクティブ・ラーニング型授業</strong> 基礎編では「繊維分子の紙芝居・かけ方ビデオの活用」および「アイロンのしわ伸ばし体験」を,応用編では「綿と毛の吸水実験」および「ワイシャツの解体見本提示」を行い,原理やかけ方の意味を考えさせた。また,グループで1枚のワイシャツを分担して実習する学習形態をとった。これらの指導の工夫により,「アイロンかけ」実習をアクティブ・ラーニング型授業として提案することができた。<br /><strong>3.3</strong><strong>点の授業効果</strong><br /><strong>(1)</strong><strong>「生活に生かせる知識・技能」</strong> 3要素の理解と霧吹き・スチームの使い分けは自己評価で9割以上が「わかった」と回答した。これは,視聴覚教材と体験を取り入れたアクティブ・ラーニング型授業の効果であると思われる。「アイロンかけ」技能の習得レベルは約9割がきれいに仕上げることが「できた」と回答しており,基礎的な技能はおおむね習得させることができたと思われる。<br /><strong>(2)</strong><strong>「工夫して実践する思考力」</strong> これまで各自で行うことの多かった「アイロンかけ」実習を,互いのかけ方を見て双方向に学びあう協働学習で行った結果,相互評価で「しわを整えるとかけやすそうだ」などの生徒の記述から,思考力の深化が認められた。<br /><strong>(3)</strong><strong>「将来にわたって学びを生かそうとする意識」</strong> 授業前後の意識変化調査から,今後のアイロンかけ意欲が8割以上の生徒にみられた。教師からの一方向的な指導ではなく生徒主体で考えさせる学習ができたこと,協働学習により友だちからよい刺激を受けたこと,自己評価により授業の振り返りと自己の到達度確認ができたことなどが,次の意欲へとつながったと思われる。このことは主体的で対話的な学びであるアクティブ・ラーニング型の授業展開に取り組んだ本研究の大きな成果といえる。
著者
仲田 郁子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.48, pp.32, 2005

1、目的<BR>自分らしく充実した人生を送るためには、生活設計を立案し自らの課題について考えることが不可欠である。しかし十代半ばの高校生には、何十年も先まで考えることは簡単なことではない。近年は社会変動の激しさに伴うフリーターの増加や未婚化・少子化の進行などの問題点が指摘され、また就職活動に取り組もうとしない若者が増えていることなど、従来は見られなかった問題も注目されてきており、高校生にとっては、学校を卒業してから精神的・経済的に自立するまでの移行期の過ごし方を考えることが特に重要であると考えられる。就職や結婚などに関する意識は、性別や進路の違いによって相当大きいことが予想されるが、これらについて今までに充分研究がなされているとは認められないことがわかった。<BR>そこで本研究では、高校生が学校卒業後の生き方についてどのように考えているか調査を行い、男女差と進学志向に注目して、その特徴と課題を明らかにすることを目的とする。<BR>2、方法<BR>ほぼ全員が大学進学を希望していると考えられる高校2校(都立高、千葉県立高各1)と、多様な進路選択が行われていると考えられる高校2校(都立高、千葉県立高各1)の計4校を選び、各校の家庭科担当教諭に依頼して質問紙調査を行った。対象は1年生、調査時期は2004年11月から2005年2月、回収数は647(男子302、女子345)である。<BR>3、結果<BR>調査は高校生の(1)親との関係と成育環境、(2)職業選択・結婚・自立に関する意識、(3)現段階での自立度と興味関心、(4)生活設計のための資源の4点について行った。今回は(2)と(4)について報告する。<BR>職業選択で重視する点については全体に大きな違いは見られず、「安定していて雰囲気が良く、自分がやりたい仕事」が挙げられていた。働き方についても大きな違いは見られなかったが、男女別に見ると、どの高校でもフリーターについては男子の方が「長く続けるべきではない」と考えていることがわかった。「就職のことを考えると不安になる」者は進路多様高の男子に多く見られ、女子は男子に比べて、人間関係に不安を持つ者が多かった。<BR>結婚については「するつもりはない」とする者は大変少なく、結婚志向は高い。「フリーターとは結婚したくない」と考える女子は男子と比べて多かった。「長男には特別な役割がある」、「理想的な女性の生き方は専業主婦」とする者は今回の調査ではかなり少なかった。「子どもが3歳になるまでは母親は家で子育てをするのがよい」とする者は進路多様高の女子には比較的多く見られたが、全体では「女性も働き続けるのがよい」とする者が多かった。<BR>自立したと言えるのはいつかという問いに対しては、全体では「就職して自活が可能になった時」が最も多かった。進路多様高の女子ではそれ以外に「親元を離れた時」とする者が多く、男子では同様に「親元を離れた時」と「就職した時」が多かった。<BR>自分の生活設計を考える時、どのような資源を利用したいかについては、男子は「自分で勉強する」と答えた者が最も多く、続いて「学校での進路指導」や「アルバイトの経験を生かす」が挙がった。女子もほぼ同様であるが「親や友人と相談して考える」とする者が男子より多かった。「授業の中で考える」を選んだ者は男女共大変少なく、彼らも教科としては現代社会や政治経済、総合的な学習を挙げており、家庭科はごく少数の者しか選択していなかった。<BR>高校生は就職や結婚について真面目に考えてはいるが、生活設計として積極的に捉えることは充分にできていないように思われる。
著者
加藤 浩子 池崎 喜美恵
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.52, pp.41, 2009

<B><目的></B> 環境教育は、これからの持続可能な社会の形成において、重要な役割を担うものである。特に、ゴミ問題は私たちにとって日常的な問題であり、見過ごすことはできない。環境教育について研究している中で、環境先進国であるドイツの環境問題への取り組みと日本の取り組みの違いに関心を持った。ゴミの分別について言えば、ドイツは国で環境対策をしており、どこの地域に行っても分別方法は国で決められているので一定である。 このようなドイツに暮らす日本の子どもたちは、日本に暮らす子どもたちよりも環境意識が高いのではないのかと考え、日頃、環境問題についてどのように考えているのか、どのように行動しているのか調査することにした。日本もゴミの有料化やゴミの分別、レジ袋の有料化などの環境への取り組みは進んできているが、日本より以前に、環境対策に取り組んでいるドイツの環境教育には学ぶべきものが多いと言える。本報告では、ドイツと日本に暮らす子どもたちの環境に対する意識や実態を比較検討し、今後の家庭科における環境教育への示唆を得ることを目的とした。<BR><B><方法></B> 2008年11月から2009年1月にドイツの日本人学校4校(A校、B校、C校、D校)の小学部、2009年2月に東京都の公立M小学校にアンケート調査を行った。対象は家庭科を学習している5、6年生の児童である。ドイツの日本人学校では199名、M小学校では181名の回答を得ることができた。アンケート項目の中で、ゴミの分別方法や分別理由等の項目を環境認識度得点、ドイツでの日常生活の満足度に関する項目を生活満足度得点として計算し、得点の平均点から上位群、下位群に分けて比較検討を行った。<BR><B><結果および考察></B>・ドイツの滞在年数が1年未満の児童は46名、1~3年未満は59名、3~5年未満は58名、5年以上は36名であった。・環境認識度得点の上位群の割合は、日本人学校が6割、M小学校が5割であり、日本人学校の児童の方が高かったが、顕著な差はみられなかった。・日本人学校4校それぞれの環境認識度得点を見ていくと、上位群の割合は、B校が4割、他の3校は6割とB校がやや低い結果となった。生活満足度得点に関してもB校が他の3校よりもやや低い結果となったが、4校とも高い得点結果となった。・ドイツでの滞在期間が長い児童やドイツ語能力が高い児童など、ドイツの生活に同化していると考えられる児童は環境意識がやや高い傾向にあった。・「家庭科が好きか」という問いで、日本人学校では男子7割、女子9割、M小学校では男子6割、女子7割の児童が「好き」と回答した。学年ごとでは、日本人学校の5年生9割、6年生 7割、M小学校の5年生 7割、6年生 6割が「好き」と回答した。・日本人学校の児童もM小学校の児童も、環境意識が高い児童ほど家庭科に対するイメージは肯定的である傾向が見られた。・日本人学校もM小学校も、家族で環境について話す機会がある児童ほど、環境認識度得点が高い傾向が見られた。・顕著な差はみられなかったが、環境先進国であるドイツに暮らす子どもたちの方が、日本に暮らす子どもたちよりも環境意識が高いという結果から、今日の我が国における環境問題解決のためには、環境教育をより充実させる必要性があると言える。
著者
小林 裕子 永田 智子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2016

【研究目的】 <br>&nbsp; &nbsp;自然災害大国と呼ばれる我が国において、児童生徒に対し実践的かつ継続的な災害学習の実施は必要不可欠である。本研究の目的は中学校家庭科で災害時の食を扱った学習の開発、実施、評価を行うことである。前回の報告(小林、永田2015)では研究の第一段階として、中学生に災害に関する質問紙調査を実施した。その結果、食料を数日分備蓄している家庭は3割程度に過ぎず、災害時に水や食料の確保が不安だと答えた生徒が6割を上回っていた。また社会の中で広がりを見せる従来の「非常食」から保存のきく日常食を災害時に活かす「災害食」への転換や、「ローリングストック法」の考えはまだほとんどの中学生が知らないことが分かった。そこで次の段階として「災害食」を題材とした課題解決的な学習を開発し実践することとした。 【開発した学習】 <br>&nbsp; 開発した学習は3時間で構成され、B食生活と自立(3)ウの「食生活についての課題と実践」に位置づけた内容である。この題材の目標は「災害時の食生活に関心をもち、課題をもって災害時の調理活動と献立作成を体験することを通して、災害時に備えた食品の備蓄を工夫して計画を立てて実践できること」である。この目標に沿い、学習の構成は、1.生徒が災害時の食生活に関心をもち課題を見つけ、どのような解決方法があるかを知り考える 2.災害時を想定した「災害食」の調理実習を実施し、体験活動から工夫や学びをさらに深める 3.平均的な家庭の備蓄食品から災害時の一日分の献立を栄養バランスにも配慮して考え家庭での実践につなげる という展開とした。3ではB(2)イの献立学習内容を押さえながら家庭での備えの改善につながるよう工夫した。 <br> 【学習の実践】 <br>&nbsp; &nbsp;実践は兵庫県公立中学校2学年の生徒5クラス164名を対象に、2016年2月に行った。 第1校時の授業はパワーポイントを使用して行った。南海トラフ地震の被害想定と日本が自然災害大国であることの確認から入り、災害時の食生活の課題にはどんなものがあるか各自で考え、発表をして意見の共有を行った。次に日常的に保存のきく食品を備蓄しながら使い回す「災害食」の考えや、その実践方法として「ローリングストック法」が推奨されていることを学習した。従来の乾パンやアルファ米のように使わず備えておく「非常食」より、「災害食」は賞味期限切れの無駄がなく、味も普段から慣れているので合理的でよいという感想が大半を占めていた。 第2校時は災害時を想定した調理実習を行った。使う食材は保存食品のみ、水の使用は調理と洗い物含め各班2リットルに制限、ガスコンロは使用可とした。献立はポリ袋炊飯で作るわかめご飯とツナ缶を肉の代わりに使用したツナじゃがとした。栄養面で6つの基礎食品群をすべてカバーした献立である。炊飯時間が20分と短く洗い物も出ず、なおかつ食味も炊飯器で炊き上げたものとほぼ変わらないと生徒に大変好評であった。食器にラップを敷き洗い物を減らす体験も行った。被災地から生まれた節水になる工夫のすばらしさに感心している様子が伺えた。 第3校時は班活動とした。平均的な家庭の備蓄食品を各食品群別に分け一覧にしたプリントを配布し、まず各自で災害時の一日分の献立を栄養バランスも考慮して考えた。それを班単位で組み合せ1週間分にまとめるという活動を行った。その後、献立を立てる際に不足した食品や使用しなかった食品を挙げ、災害時の備蓄の課題を再度見直し、どのように改善していけばよいかを具体的に考えた。 今後は、授業で生徒が記入したワークシートの感想や自己評価、アンケートなどを分析し評価を行う予定である。
著者
倉元 綾子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.58, 2015

【目的】子どもの貧困,虐待,殺人など,個人・家族・社会において生活をめぐる多様な問題・課題が発生している。このような状況において,個人・家族の生活に関する教育の必要性が認識され,米国,韓国,台湾,シンガポールをはじめ,諸外国では家族生活教育が様々な形態で提供されるようになっている。日本においても家庭科・家政学を基礎にした家族生活教育を展開しようとしてきている。その方法論については従来の講義を中心とした授業の形態を発展させ,ワークショップなど理論と実際の生活を結びつける実践的な教育方法が求められている。ここでは家族生活教育をいち早く確立し発展させてきた米国の家族生活教育における方法論に関する言説を検討する。<br>【方法】『家族生活教育 人の一生と家族 第2版』(パウエル,キャシディ著,倉元,黒川監訳,南方新社,2013),Family Life Education Working with Families across the Lifespan 3rd ed. (Darling & Cassidy with Powell, Waveland Press, 2014),米国家族関係学会(NCFR)などの文献を用いた。<br>【結果】米国における家族生活教育方法論に関して検討した結果,以下のようなことが明らかになった。<br>(1)米国家族関係学会では,2011年に「生涯にわたる家族生活教育のための枠組み」(The Family Life Education Framework)を改訂し,家族生活教育方法論を新たに加えている。 <br>(2)同枠組みのまえがきは,「幅広い,生涯にわたる家族生活教育プログラムのための主要な内容を特定することによって、家族生活教育の定義について詳述する。 これは、それぞれの内容領域における最近の概念の発達や経験的知識を反映しており、関連知識、態度、スキルに注意を払っている。枠組みは,カリキュラムではなく、プログラム開発、普及、調査のためのガイドを目的としている。実践者は特定の対象者のニーズを満たすために,最も適切な概念組織と最も適切な種類の方法論を選択することが望ましい。コミュニケーション、意思決定、問題解決は、個別の概念としては取り扱っていない。しかし,それぞれの内容領域に組み入れなければならない。」と記されている。<br>(3)提示された枠組みのなかの,家族生活教育方法論のうち,「FLEプログラムを計画し実行しなさい。」では「プログラムを設計して、対象者のニーズを満たしなさい。/FLEの材料、関与している進歩、およびプログラムの有効性を評価しなさい。/さまざまな教育技術を使用しなさい。/教育学と成人教育学の原則を適用しなさい。/関係者と利害関係者を関係させ、教育的有効性を高めなさい。/すべてのフォームの多様性を尊重して、敏感にコミュニティ関心と価値に応じなさい。/奉仕活動と広報戦略を実行しなさい。/個人的な値/信念とFLE領域との関係を理解しなさい。」としている。また,「ベスト・プラクティスを利用しなさい。」では,「さまざまな習慣と戦略を使いなさい。/基本規則を使用するか、または集団規範を特定しなさい。/教育の年齢に適した原則を適用しなさい。/(あなたの対象者にとって適切)で段階ごとの認識的な内容を構造化しなさい。/学習スタイルの好みを尊重しなさい。/特定のグループの過程を支持して、管理できるグループサイズを使用しなさい。」<br>(4)さらに,家族生活教育方法論では,プログラム計画の循環的ステップが示されている。<br>(5)Family Life Education&nbsp; 3rd ed.&nbsp;では,新たにワークショップに関する記述が追加され,家族生活教育におけるワークショップの定義が提案されている。<i></i><br>&nbsp; 以上のことから,米国では家族生活教育方法論に関する認識の高まりが見られ,優れたプログラムの実践に高い関心がはらわれていることが分かる。家族生活教育の実際を分析検討が今後の課題である。
著者
藤田 智子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.48, pp.18, 2005

<B>【研究の目的・背景】</B><BR>過剰な痩身願望を持つことは、特に青年期の女性にみられる現象とされ、その影響としての摂食障害の増加も問題視されている。近年、摂食障害の患者の低年齢化、男性における発症なども指摘されている。摂食障害の大きな原因として、身体像(ボディ・イメージ)の歪みと、それに基づくダイエット行為が挙げられる。田結庄(1997)は家庭科における学校知と日常知の検討において、栄養や食品に関する知識、特にダイエットに関する知識は学校知より日常知が先行し、「学校知が日常知を後追いするか、あるいは両者が対立することになってしまうという事情をどう解決するかが課題」であると指摘している。学校知が日常生活において実践されるためには、生徒たちがどのような日常知を持っているかを明らかにすることが必要であると考えられる。よって、高等学校において、家庭科で食物領域を学ぶ前の生徒たちが、ダイエットについてどのような知識を持ち、ダイエットを実践しているのかを明らかにすることを本研究の目的とする。<BR><B>【研究の方法】</B><BR>高等学校において、家庭科の食物領域を学ぶ前の都内の高校1_から_2年生を対象とする質問紙調査。有効回答数269名(男子校84名、女子校115名、共学校70名。男子113名、女子156名。2004年1~2月に実施。)なお質問紙は高校生14名(男子8名、女子6名)に対するインタビュー調査(藤田 2003)を元に作成した。具体的には、知っているダイエット、実際に行ったダイエット、ダイエットの情報源、他者(家族や友人)との関わり、実際のBMI、理想の身長と体重、属性などである。<BR><B>【研究の結果と考察】</B><BR>(1)知っているダイエット りんごダイエット、マイクロダイエット、ダイエットテープ、カロリー計算、断食ダイエットをそれぞれ知っているか尋ねた結果、知っていると回答した生徒は、53.5%、36.9%、36.1%、73.2%、81.4%であった。知っているダイエットの数と、性別×学校属性の一元配置分散分析の結果、女子校、共学・女子、男子校、共学・男子の順で有意差があった。同じ性別の場合、学校属性によって差が生じていた。<BR>(2)実際に行ったダイエットの種類 上記の5種類のダイエットのうち少なくとも一つは行ったことのある生徒は、男子生徒は0%、女子生徒は1割強であった。自由記述欄を入れても、男子でダイエットを行ったことのある生徒は1人であった。χ2検定の結果、性別による差は有意であった。現在の身長とそれに対する理想の体重、理想の身長とそれに対する理想の体重を聞いた結果から、男子は身長、体重とも増加するのを望んでいるのに対し、女子は身長は男子と同様に高くなることを望んでいるが、身長が高くなっても理想体重はほとんど変わらなかった。男子の場合、理想の身体に近づこうとする際、やせるということが重視されないため、ダイエットといった場合、実践率が低いと考えられる。<BR>女子生徒のうち、どのような生徒がダイエットを実践しているのかを明らかにするため、クロス集計をした後、χ2検定行った。その結果、知っているダイエットの数、学校属性において有意差が見られたが、自分は太っていると思う、今よりやせたいと思う、BMIとの有意な関連は見られなかった。また、家族、同性の友人、異性の友人から体型について言われた経験がある女子生徒は、それぞれ6割以上が実際にやせようとしたと回答した。<BR>高校生において、ダイエットに関する知識および実践において、性別差のほか、学校属性による差がみられた。また身近な他者とのかかわりの中でダイエットは実践されており、身体像や実際のBMIではなく、日常生活環境の中でダイエットに関する知は影響を受けているといえるだろう。
著者
藤田 智子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.58, 2015

<b>【研究の背景と目的】</b><br>家庭科が男女共修となって20 年が経過した。男女共修家庭科の履修経験は、ジェンダー・イクイティ意識の形成や、高校生の多様な家族形態の受容、家事参加率、親準備性等に影響すること(荒井他1998、中西2000等)が明らかにされている。だが、家庭科に対するイメージには根強いジェンダー意識がみられる(中西2006)。<br>本研究では、家庭科に対する「学習レリバンス(学習にどのような意味や意義を感じているか)」の構造を明らかにすることを目的とする。それを通し、男女共修家庭科の意義と課題を検討する。「学習レリバンス」は、学習そのものを面白いと感じる「現在的レリバンス」と学習が将来役立つという感覚である「将来的レリバンス」に分けて捉えられる(本田2004)。<br><b>【方法】<br></b>男女共修家庭科を学んだ大学生に対してインタビュー調査を行った。調査人数は39名(女性27名、男性12名)である。所属は教育学部生21名(家庭科専攻10名、家庭科専攻以外11名)、その他の学部生18名である。インタビュー調査協力依頼の文書を配布・掲示し、同意の得られた人に対し1対1の半構造化インタビューを行った。調査時期は2014年11月~2015年3月である。対象者に了解を得た上でICレコーダに録音し、文字起こしを行い1次データとした。大まかな質問項目ごとに、共通するキーワードに着目してコード化し分析した。<br> <b>【結果および考察】<br></b> 家庭科の学習で楽しかった・面白かったこととして、調理や裁縫が多く挙げられた。自分たちで自由にメニューやデザインを決められる場合、特に楽しかったと記憶されていた。「失敗して『もうちょっとこうすればよかったね』と反省は色々結構するんですけど、それでもやっぱり楽しいという方がみんな勝っていました」というように、失敗しても「自分たちでやった」とことが学びの楽しさとなっていた。「個人的に私がちょっとクラスに行きづらい時期で。でも、(調理実習の班員に恵まれて)仲良くできたのがすごく印象的で。その授業はすごく楽しくて印象に残ってます。」と、学びの状況に関する語りもみられた。<br> つまらなかった・嫌だったこととして、座学の授業を挙げる者が多かった。学校の雰囲気に左右される部分も大きく、「荒れた」環境の場合、授業はつまらないと認識されていた。摂食障害を発症していた学生は、自分が作ったものなので絶対に残さずに食べなければならないことや、友人と一緒に食べなければならないことが苦痛だったと語った。<br> 役に立っていることとしては、調理と簡単な裁縫技術が多く挙がった。ミシンを家庭科の授業で初めて使ったという学生も多く、サークル活動などで衣装を縫う時などにも役立っているようだ。<br>男女が共に家庭科を学ぶことについては、全員が肯定的な意見を述べた。授業中の男子の様子として、男子だから要らないという雰囲気はなく、「『料理、俺やりたい』みたいな人がいたら結構その人が率先して」行動する男子もいたり、家庭科が得意で上手い男子に対しては、「素直に『あ、それ、綺麗ー』みたいな。『すごいね、ってか、どうやってやったの』とか」といったように、称賛の声が上がり、教えてもらうこともあるようである。男子は苦手と感じる者もいたが、「女子にも苦手そうな子はいると思うんですけど、あまり言わないというか。男子は苦手と言って助けてもらおうというのがある」というように、必ずしも男女による得手不得手ではないと考えられる。「(お米を研ぐときに、女の子の)友達が洗剤を取り出そうとしたんでそれを止めて」といった経験がある者もいた。進学校のため、男女ともに軽視していたと語りもあった。<br> 男子が家庭科を学ぶ必要性については、母親の大変さや結婚後の女性の仕事を理解するため、一人暮らしでも生きていくために必要と考えられていた。生活をする上で必要、自立のために必要と語る者が多かったが、男性が中心的に家庭の仕事を行うことを考えている者は少なかった。<br> なお、本研究はJSPS科研費26780493の助成を受けた。
著者
伊藤 葉子 鶴田 敦子 片岡 洋子 高野 俊 宮下 理恵子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.52, pp.9, 2009

<B>目的</B><BR>家庭科の女子のみ履修に抗して、家庭科の男女共学の実践に取り組んだ「源流」は京都府(1963年1校開始、1974年全面共修実施)の教師達であった。本研究では、ほぼ同時代(1970年代)に長野県の高校において、同じく自主編成の教育課程として男女共学家庭科の実現を導いた元家庭科教師たち5人のライフヒストリー研究に取り組む。元家庭科教師たちのライフヒストリーから、それぞれの人となりとその活動を明らかにしながら、なぜ各自が男女共学家庭科の実現に取り組んだのか、どのように男女共学実現を果たしていったのかを考察していく。また、その授業づくりにはどのような特徴がみられるのかを検討する。<BR><B>方法</B><BR>1960-70年代に長野県において男女共学家庭科の実現に関与した元家庭科教師5名に対して、一人約2時間のインタビュー調査を実施し、スクリプトを作成し、分析・考察を行った。この方法を用いることで、教師の価値観や動機および周囲の状況に対する理解が、その教師の実践にどのような影響を及ぼしたかを探求することが可能になる。加えて、同種の集団(ここでは、男女共学に取り組んだ教師たち)に属する複数のライフヒストリーは、互いに補い合うことができることから、個人史を超えて、社会状況の中での考察を可能にするものである。<BR><B>分析・考察</B><BR> <B>1</B> 当時の家庭科教育への疑問<BR>(1) 元家庭科教師たちは、その成長過程における家庭・社会環境の複合的な影響により、精神的な自立・自律心や、批判的に思考できる力を育くんでいった。これには、戦前からの伝統的性別役割観に基づいた女性の進路・進学の閉塞性への反発や、戦中・戦後の激動を中国で過ごした際の、差別と被差別の双方をみた経験に基づく、平等への志向が根底にあった。<BR>(2) この批判的思考力が、女子だけの家庭科履修や生徒たちの生活現実から遊離した当時の家庭科の教育内容への疑問につながっていった。<BR><B>2</B> 教師たちの学び合いと授業づくり<BR>(1) 元教師たちは、自主的な学習会や地域および全県的な研究会で出会い、個々に有してきた上記の疑問を、互いの学び合いの中で、単なる疑問から授業の創造の段階へと移行させ、自主編成の指導資料を作成するまでに至った。<BR>(2) 元教師たちの授業づくりには、大きく二つの特徴がみられた。一つは、女性への道徳教育の色合いが濃い、理論を有しない非科学的な家庭科の教育内容からの脱皮と、生徒の生活現実から出発し生活に帰結する家庭科の授業の創造である。<BR>(3) 個々の元教師たちの実践を支えたのは、家庭科を学びたいという男子学生の存在と、実際に男女共学を授業のなかで進める中で感じた手応えであった。<BR><B>3</B> 元教師達の根底にある教育観等<BR>(1) 男女共学家庭科の実現は、教師は教科書に書かれている知識・技術の伝達者であるという考え方から、教師が授業の創り手であるという考え方の転換だと捉えられる。<BR>(2) 家庭科の男女共学実現のための元教師たちの活動は、戦後の民主的な家庭を目指した男女平等実現への運動という側面と、家庭科が科学的理論体系を備えた教科となるための教科論の探求という側面を持っていると考えられる。<BR>
著者
表 真美
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.60, 2017

【目的】本報告の目的は、マルタ共和国における家庭科教育の現状を明らかにすることである。<br /> マルタ共和国は、地中海中央に浮かぶ淡路島の半分ほどの広さの島に、約43万人が暮らすカトリックの国である。マルタ語、および英語が公用語であり、年間約180万人の観光客が訪れる観光立国である。我が国におけるマルタ共和国の教育に関する研究蓄積は極めて少なく、家庭科教育については紹介されたことがない。<br /> しかしながら、国際家政学会(IFHE)にはマルタ共和国の会員が複数名参加しており、2016年のIFHEアニュアルミーティングはマルタ共和国の首都バレッタで開催された。熱心に学会活動を行うIFHE会員をもつ国の家庭科教育について明らかにすることは、我が国の家庭科教育に何らかの示唆が期待できると考える。<br />【方法】本報告は、国が定める教育スタンダードおよびマルタ共和国への訪問調査により得た資料を元にしている。教育スタンダードはマルタ共和国教育省ホームページより入手した。また、2017年3月にホームエコノミクスセミナーセンター、中等教育学校、ジュニアカレッジ、およびマルタ大学を訪問し、大学教員、および家庭科教師への聞き取り調査、授業参観を行った。<br />【結果】得られた結果は以下の通りである。<br />(1)マルタの学校制度の概要は以下のとおりである。3~5歳に就学前教育、義務教育は、5~11歳(6年間)の小学校、11~16歳(5年間)の中等教育学校の11年間であり、その後、後期中等教育は、マルタで唯一の総合大学であるマルタ大学に進むためのジュニアカレッジ、芸術・科学・工学大学に進むためのジュニアカレッジ、および職業教育の3コースに分かれる。<br />(2)一方、マルタ教育省が示す学校教育カリキュラムは、①The Early Years Cycle(就学前教育1・2年と小学校1・2年:KG1、KG2、Y1、Y2)、②Junior Schools Years Cycle(Y3、Y4、Y5、Y6:小学校3・4・5・6年)、③Secondary School Years Cycle(F1、F2、F3、F4、 F5:中等教育学校1・2・3・4・5年)の3段階に分かれる。Secondary School Years Cycleには、マルタ語、英語、数学、宗教/倫理、社会科学、総合科学、物理、歴史、地理、ICT、PHE、表現芸術、PSCD、第2外国語の14教科が設置されている。PHEは、Physical EducationとHome Economics(家庭科)が含まれる教科である。F1、F2に半年間、週2単位時間(40分×2)の男女必修の家庭科、F3、F4、F5に半年間、週2単位時間2回の選択家庭科が位置づけられており、選択人数(試験受験人数)は、毎年120名ほどである。<br />(3)ホームエコノミクスセミナーセンターは、小学校の最上階に設けられ、所長1名と6名の家庭科教師、2名の職員で運営されていた。他教科も同様のセンターを持つ。複数のプログラムが用意されて国内の各学校に広報されている。学校の判断により、先生が児童生徒を連れてセンターを訪れたり、センターの家庭科教師が学校に行って出張授業をしており、保護者向けのプログラムもある。訪問当日は小学校4、5年生の2クラスの子どもたちが同時並行で、お金の授業、野菜と果物の授業を行っていた。小学校には家庭科が教科として設置されていないが、任意の教育が行われている。<br />(4)訪問した中等教育学校では、必修家庭科の調理の授業、選択家庭科の消費生活の授業を参観した。必修家庭科の授業は特別に支援が必要な5名の生徒が対象であった。学校独自のテキストが、特別に支援が必要な生徒向きに改良され使われていた。<br />(5)大学進学のためのジュニアカレッジには専攻科目の1つとしてHome Economicsが位置づけられ、マルタ大学では、教育学部「健康体育教育、消費者科学科」に家庭科教員養成課程がある。
著者
河村 美穂 小清水 貴子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.48, pp.49, 2005

研究目的 数多くの実践がある調理実習に関しては、児童生徒の実習中の行動分析やグループにおける学びの様態について様々な知見が示されている。近年では、家庭科の学習を振り返る感想文分析から役立ち感と学習意欲の関連も明らかにされており、さらに生徒の側から学びの実態を明らかにすることが求められている。 そこで、本研究では生徒が調理実習の直後に何を学んだと感じているのかを生徒自身の記録から読み取り、さらに実施後約1ヵ月後の振り返りをあわせて検討することにより、生徒が調理実習で学んだことを明らかにすることを目的とする。研究方法表に示す調理実習3回を高校家庭科「家庭基礎」において実施し、実習直後に記述した実習記録をデータとして、生徒が学んだと考えることについて検討を加えた。○調査対象:国立大附属高校1年生(40名)。○調査時期:2005年1月_から_2月。○データの収集:毎回の授業後に生徒40名が記述した実習記録、 および、実習後約1ヶ月に記述した振り返りシートをデータとし て用いた。この他、生徒の実態を把握するために事前アンケート 調査を実施した。また、10班のうち2班を抽出し、実習中の様子 を観察、ビデオ録画、録音により記録し補足データとして用いた。全体的な目標<br>●1日に食べる食品の量と質を体験し、朝・昼・夕食に食べるものを理解する●包丁で切る技術を学ぶ。●料理にあう皿を選んで盛り付ける。●班で協力して作業を行い、時間内に手早く調理・試食・片づけをする。●食材を大切に扱い、できるだけ生ごみを出さないように工夫をする。<br>題材<br>オムレツ・ミネストローネ・ヨーク゛ルト・ロールハ゜ン・ハ゛ナナ<br>本時の目標●卵の調理性(熱凝固性)を理解する。(オムレツ)●食材の形をそろえて切ることを理解する。(ミネストローネ)●調理実習室に慣れる。<br>題材 スハ゜ケ゛ティミートソース・ク゛リーンサラタ゛・ハ゜ンナコッタ(いちご添え)<br>本時の目標●ミートソースを手作りする方法を知り、味わう。(スハ゜ケ゛ティ)●ハ゜スタのゆで方を知る。(スハ゜ケ゛ティ)●ゼラチンの調理性と取り扱い方を知る。(ハ゜ンナコッタ)●ドレッシングを手づくりできることを知る。(サラタ゛)<br>題材 肉じゃが・ほうれん草の胡麻和え・米飯・味噌汁(豆腐とワカメ)・うさぎりんごと木の葉りんご<br>本時の目標●混合だしの取り方を理解する。(肉じゃが・味噌汁)●調味料の浸透性を理解し、手順よく調味料を扱うことができる。(肉じゃが)●無洗米の扱い方を知る。(米飯)●青菜のゆで方を理解する。(ほうれん草の胡麻和え)●肉じゃがが簡単にできることを知る。(肉じゃが)●りんごの飾り切りができる。(りんご)<br>結果と考察<br> 生徒が調理実習で身についたと考えていることは、「実習した料理そのものの作り方」「その後に応用可能な知識・技能」「グループ学習としての学び」の3つに大別できる。「その後に応用可能な知識・技能」のうち多くを占めるのは「材料を切る」など包丁を使う技能であった。包丁を使う技能は、調理実習で多く使用されるだけでなく、生徒にとっては技能の習得を実感しやすいと考えられる。また、振り返りにおいて調理に対する自信を持つようになった生徒は、直後の記録においては「その後に応用可能な知識・技能」を多く記述していた。これは、調理を一つ一つの料理を作る方法としてではなく、複数の調理方法や知識・技能が複合して成立するものとして捉えていることを示していると考えられる。
著者
葭内 ありさ
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.60, 2017

<strong>目的 </strong><br /> 本研究は、高校家庭科において、知的障がい者通所福祉施設と外部連携し、知的障がい者の織ったさおり織を用い、ITを活用した交流を通じて、高校生の障がい者への理解を深め、多様性、ダイバーシティを尊重する視点の育成を試みたものである。 <br /><strong>背景</strong><br /> 2016年4月に「障害者差別解消法」が施行され、障がい者への合理的配慮を求める事が法的にも定められた。障がいの有無、ジェンダー、宗教、民族、人種、性的志向など個人の違いの幅による多様性を生かした共生社会を目指すダイバーシティ教育が一層求められるようになったと言える。一方で、中学迄の義務教育段階と異なり、高校段階では特別学級は設置されていない。義務教育段階でも、必ずしも特別学級との交流が図られている訳ではない中、高校段階に於いては教育の中で意識的に障がい者との交流を図らなければ、障がい者理解の機会を得る事は一層容易くない。<br /> そこで本研究では、対象を必修2年「家庭総合」3クラス120名とし、通常施設との交流に於いて人数や距離に制約のある点を、ITを活用することで克服を試み、必修科目に於いて全員で障がい者施設との交流を図った。特に、魅力的な個性を生かすさおり織を用いることを通じて、障がい者への視点を育むことに着目した。<br /> なお、さをり織は、城みさを氏が考案した、糸の緩さや糸の選び方、編み方において各自の個性を生かし自己を表現する、「差」を織り込む織物である。リサイクルの余糸を繋ぎ合わせたものが織用の糸として用いられているため環境にも優しい。障がい者施設の作業所でも多く取り入られている。<br /><strong>方法</strong><br /> 埼玉県の知的障がい者通所福祉施設と連携した。作業所で織ったさをり織を用いた服を高校生が作り、さらにその服を紹介する動画を班で製作し、福祉施設で上映会を行い、その際インターネットビデオ通話を用いて東京の高校と埼玉の施設を繋ぎ、施設見学や通所の障がい者、施設職員の方々と高校生との双方向の交流を行い、事前事後のアンケート調査と感想の分析を行った。<br /> なお、本研究は、2011年度より実践を重ねる、消費の背景に着目するエシカル・ファッションを用いた、消費者教育の一貫であり、家庭科教育学会において発表済みである(葭内、2014、岡山大学/葭内、2015、鳴門教育大学/葭内、2016、新潟朱鷺メッセ)。2016年度の本研究は、科学研究費奨励研究の助成により行った。<br /> 世界的に厳しい基準のGOTS認証を取得した有機綿花を、日本が誇る高い技術を持つ日本綿布社が織ったオーガニックコットンの布を用いた服をまず製作し、さをり織をアレンジした。動画は製作した服を紹介するのに留まらず、エシカル・ファッションのプロモーションイメージビデオとして製作した。動画は、ユニバーサルデザインを目指し、文字による説明を入れ、グローバル対応として可能な限り英語訳も加えた。10人グループで製作した動画は、クラスで中間発表会を行い、アドバイスを互いにすることで、内容の充実を図った。最終完成作品はクラス発表会を行い、生徒による相互評価やアドバイスを行い、各クラスで優れた動画2本が選ばれ、福祉施設で上映された。また、福祉施設併設のパン工房とカフェで販売されるクッキーをインターネットによる施設見学時に高校生が試食した。<br /><strong>結果</strong><br /> 高校生は、服の製作段階に於いて、さをり織を魅力的に感じ、個性豊かなアレンジの服が完成した。事前調査では、障がい者福祉施設への事前知識がある生徒の方が施設への関心がある割合が高く、知識と施設への関心は相関関係にあることがわかった。高校生の感想からは、通所の障がい者の作業の様子や生徒へのメッセージや感想、自分たちの作った動画への好意的な反応への喜び、その他の双方向の交流により、障がい者への理解を深め、多様性を認め合う共生社会への視点が育まれたことがわかった。
著者
池田 まどか 古川 恭子 鈴木 明子 赤崎 眞弓
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.44, pp.42, 2002

目的:昨年の報告において、保育実習の効果的な指導の工夫として、母親も同席した授業環境での乳幼児とのふれあい学習を提案した。本研究では、提案した保育実習における高校生の学びを人との関わり方および学習した内容の分析から明らかにするとともに、ふれあい学習の成果を検証することを目的とする。<BR>方法:分析対象は長崎県立N高等学校の乳幼児ふれあい学習に参加した生徒302名が反省や感想を自由に記入したプリントである。人との関わり、学習した内容を示した語句や文章を抽出&middot;分類し、「子ども理解」「将来親となる」などの視点で分析した。参加した母親の感想も考察の参考にした。<BR>結果:(1)提案したふれあい学習における生徒の学びには、「子どもと遊ぶ」「子どもを観察する」「育児体験をする」「子育て体験談を聞く」の4つがみられ、単独型の生徒と複合型の生徒が存在する。 (2)生徒の学習した内容は、育児の大変さ、子育てへの夫の協力の必要性、母親の偉大さ、乳幼児の心身の発達の様子や子どもの個人差や個性である。 (3)生徒の学びは子ども理解や子育て体験にとどまらず、自分と親との関係、将来親となる自分の姿を考えるという学びの広がりと、これまでの保育に関わる学習の内容を再確認し、乳幼児の心身の成長&middot;発達の様子を実感するという学びの深まりとがみられる。
著者
丸山 智彰 鈴木 真由子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.67, 2008

【目的】<BR> 家庭科における「福祉」は、特別な支援を必要とする社会的弱者のみならず、すべての生活者(個人・家族・コミュニティ)を対象にした広義の概念と考える。その場合、「福祉」をすべての領域に通低する"視点"として捉える必要があり、そのためには、福祉の視点を取り入れた授業が検討されなければならない。<BR> 我々は2007年7月、教員養成系大学における家庭科専攻学生に対し、「調理実習」の授業において、試食時に食事介助体験を導入し、学習の意義や可能性について検討した<SUP>1</SUP>。介助体験について自由記述で回答を求めた結果、食事を快適にする介助技術や被介助者に対する配慮等の記述が散見された。また、中高生が食事介助を体験することは、福祉の視点を身につけるために有意義であるとの指摘があった。<BR> そこで、本報告は、高等学校における調理実習の試食時に食事介助体験を導入する可能性について検討することを目的とする。<BR>【方法】<BR> 大阪府立N高等学校における『家庭総合」の調理実習の試食時に食事介助体験を設定し、前後に自記式質問紙法調査を行った。<BR>1)事前調査<BR>1.調査期間:2007年10月<BR>2.調査対象:普通科2年生全クラス240名、回収数220票、有効回答数(有効回答率)203票(男子93名女子110名)(84.6%)<BR>3.調査項目:「食事介助の経験の有無」「食事介助に気をつける点」「高齢者のイメージ」等<BR>2)食事介助体験実習<BR>1.実習期間:2007年11月<BR>2.実施方法:介助役→被介助役→介助役をA、被介助役→介助役→被介助役をBとし、二人一組あるいは三人一組で実施<BR>3.メニュー:ロールパン、コーンポタージュ、サケのホイル焼き<BR>3)事後調査<BR>1.調査期間:食事介助体験実習と同日<BR>2.調査対象:回収数208票、有効回答数(有効回答率)206票(85.8%)<BR>3.調査項目:<BR>A「介助時の気持ち」「被介助時の気持ち」「被介助後の介助変化」等<BR>B「被介助時の気持ち」「被介助後の介助変化」「Aの介助変化」等<BR>【結果】<BR>・食事介助経験がある生徒は20名(9.9%)、被介助経験がある生徒は8名(3.9%)と少なかった。<BR>・高齢者について、ポジティブなイメージを持っている生徒75名(36.9%)に対して、ネガティブなイメージを持っている生徒は134名(66.0%)と3割以上多かった。なお、このうち両方のイメージを併記していた生徒も26名(12.8%)いた(重複カウント)。<BR>・「被介助時の気持ち」については、「食べにくい」「恥ずかしい」「自分で食べたい」「怖い」等の回答が多かった。<BR>・「被介助経験後の介助」は、被介助時に不快に感じたことを通じて「被介助者の経験をしたから」「自分がされて不安だったから」何らかの変化を伴ったとの回答がほとんどであった。<BR>・食事介助体験の感想には、「汁物は食べさせ難い(食べ難い)」等、介助技術に関する記述が多かったが、介助する側・される側の困難を体験し、相手の立場を思いやることの重要性の指摘も散見された。<BR>【引用文献】<BR><SUP>1</SUP>丸山智彰 鈴木真由子「調理実習の試食における食事介助体験導入の可能性~教員養成カリキュラムでの試みより~」生活文化研究 大阪教育大学 Vol.47 2007年(印刷中)
著者
日影 弥生 中屋 紀子 渡瀬 典子 長澤由喜子 浜島 京子 黒川 衣代 高木 直 砂上 史子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.46, pp.5, 2003

1.はじめに 第3報では、『家庭生活についてのアンケート』中の母親と父親の職業の視点から全国と東北のデータについて比較分析することを目的とした。2.方法(1)調査対象および調査時期対象者は全国では6959名(小4;1484名、小6;1514名、中21;1870名、高2;2091名)、東北では3070名(小4;621名、小6;792名、中2;686名、高2;971名)とした。なお、この人数はアンケートの全ての項目に回答した者としたため、第1報および3報とは異なる結果となった。(2)調査時期およびアンケート項目、これらは全国調査と同じであるため省略した。(3)分析方法アンケート項目の「あなたのお母さん(またはお父さん)はどのような仕事をしていますか。」の回答と他の項目とをクロス集計し、検定により有意差を調べた。3.結果および考察(1)母親と父親の就労の有無とその形態a)労働をしている母親と父親の割合母親と父親が労働してるかどうかの観点から、その割合をみた。その結果、両親が働いている家庭は全国S8.1%、東北61.7%、母親だけが働いている家庭は全国 3.0%、東北 4.9%、父親だけが働いている家庭は全国20.6%、東北18.6%となり、両親と母親だけが働いている家庭は東北の方が多く、父親だけが働いている家庭は全国の方が多い結果となった。この傾向は、各学年でもほぼ同様となったが、中学2年生の両親が働いている家庭は全国79.0%と東北62.8%となり、他と異なる結果となった。b)母親と父親の就労形態 両親ともフルタイム就労家庭は全国21.4%、東北29.3%、母親がパートタイム就労で父親がフルタイム就労の家庭は全国23.4%、東北17.1%、母親が無聯で父親がフルタイム就労の家庭は全国17.0%、東北14.3%となり、全国に比べて東北では両親ともフルタイム就労の家庭が多く、母親がパートタイム就労や無職の家庭は少ないことがわかった。(2)母親と父親の就労職業からみた子ども達の生活実態両覿の就労形態のうち代表的と思われる「両親がフルタイム就労」、「母親がパートタイム就労で父親がフルタイム就労」、「母親が無職で父親がフルタイム就労」の3つの形態の家庭について子ども達の生活実態を分析した以下は、t検定の結果、有意差がみられたものについて示した。「両親がフルタイム就労」では、東北の方が、朝ごはんを家族みんなと一緒に食べている家庭が多いこと、洗濯機で衣服の洗濯をし、とれたボタンつけをいつもする子どもが多いことがわかった。「母親がパートタイム就労で父親がフルタイム就労」では、朝ごはんの食べ方は全国では大人の誰かと一緒に食べている家庭が多いが、東北では家族みんなと一緒に食べている家庭が多いこと、また、全国の方が食事の用意をする母親が多いことがわかった。これらは、家族の人数や両親の通勤に要する時間などと関連することが推測された。
著者
吉原 崇恵 加賀 恵子 鈴木 裕乃
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.80, 2008

目的 家庭科は体験的な学習をとおして、生活のしくみやよりよく生活するための知識や技術を習得することを目指してきたそのために実験や実習、そのほかの多様な体験的学習の方法も開発してきた。なかでも実習授業は子どもが気づき、考え、わかる、できることを育てる問題解決学習過程の中で、導入、展開あるいはまとめの段階において位置づけられ、豊かな教材と価値を生み出してきたと思われる。しかしながら、子どもたちの手が「虫歯」になっただけではない。「自分が傷ついたり」「他人を傷つけたり」する、またはその前段階の事例も多く、指導過程において危険回避の指導スキルが求められてきた。各教科書において「安全喚起マーク」のページやスペースを設けられているのも工夫の証である。ただしこの「安全喚起」の内容は、「ガスコンロのそばに燃えやすいものを置かない」「包丁は持ったまま歩き回らない」という表現になっている点が特徴的である。危険を予知し、回避する能力の育成とそのための指導の方策を追究しなければならない。そのために実習授業の観察記録をもとにKYTシートを作成し、危険箇所チェックと危険度の評価調査を行っている。昨年の報告では、大学生の教育実習経験者と未経験者で比較した。その結果、二者の間では大きな違いは見られなかった。今年度は中学生、小学生自身の危険予知の実態を把握することを目的とした。方法 調査内容は調理実習時間と被服製作時間における危険な場面をイラストによって想定したKYTシートを用いた。また危険度の評価をさせた。危険な場面の想定は次のとおりである。調理実習の場合。1.ザルから水をこぼしている。2.包丁の使い方がよくない。3.(調理台の)扉が開いている。4.まな板が机から出ている。5.火の傍に燃えるものがある。6.歩く時の包丁の持ち方が良くない。被服製作実習の場合。1.よそ見しながらアイロンを使っている。2.はさみを振り上げている。3.アイロンがコンセントにつながれたままになっている。4.ミシンの使い方。5.マチ針が出しっぱなし。6.ミシンの電源が入ったまま針を取り付けている。危険度の評価は高い順に4段階である。a.すぐにやめさせる。b.状況が変わると重大事故、状況を見て注意。c.いつか事故になるかもしれないので後で注意。d.事故にはならない。調査対象は小学校が浜松市公立小学校、附属小学校各1校(計132名)。中学校は附属浜松中学校、焼津市、藤枝市公立中学校(計205名)。対照として教員免許取得希望大学生(計42名)である。調査時期は2008年2月~3月。結果と考察 危険度a評価について調理場面では火の傍に燃えるものを置かない、歩く時の包丁の持ち方が多く指摘された。小中大学生ともに同様であった。被服製作場面ではミシンやアイロンの電源が入ったままについて多く、次によそみの作業、はさみの扱いが続いた。小中大学生ともにほぼ同様であった。危険度b評価は、状況を見る項目である。これは調理、被服場面のいずれにおいても小学生が多くあげており、調理では、まな板が机からはみ出ている、ザルから水をこぼしている、を指摘していた。同じく小学生が多くあげたb評価の被服場面ではよそ見しながらのアイロン使い、マチ針を出しっぱなしであった。大学生は他に比べてa評価項目が多く、小学生は他に比べてb評価項目が多くなっていた。大学生が指導的立場で考え指示が多くなるのではないかと思われた。子どものわかり方を把握すれば変化するかもしれないと考えさせた。小学生のb評価は自分の不安さが表れていると考えられる。同じ視点で見ると中学生が他に比べてaもbも少なくcの一般的注意、注意しないという評価が多くなっていることは自信、過信を示していると思われた。
著者
望月 朋子 河村 美穂
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2016

<b>研究目的</b><b></b><br><br>DeCeCoによるキーコンピテンシーが世界的な注目を集め、教育現場では関連した科学的リテラシーの育成が急務の課題とされている。PISA調査(2003)では科学的リテラシーを「自然界および人間の活動によってつくり変えていった自然の変化について理解し、意思決定できるために、科学知識を駆使し、問題を見分け証拠に基づく結論を引き出すことのできるような能力」と定義している。家庭科では、教科として成立して以来、生活を科学的に理解し、科学的知識を応用しながら生活を営むことを目指してきたが、PISAが定義したこの科学的リテラシーでは、十分に生活を科学するということを説明できないと考えられる。<br><br>そこで、本研究では家庭科における科学的リテラシーを「自然界および人間の活動によって変化した自然や生活、社会状況について理解し、必要に応じて意思決定するために、文化的、社会的、自然科学的な知識を活用し、自らの生活に即して問題を見分け、証拠に基づき生活がよりよくなるような結論を導く能力」と仮に定義する。本研究は、実際の調理実習の授業において文化的、自然科学的知識を学んだ生徒が、どのようにそれらの知識を捉えているのかということを生徒の授業記録を対象として探究し、明らかにするものである。<br><br><b>研究方法</b><b></b><br><br>対象とした授業は2016年1月~2月に実施した静岡県東部公立中学校2年生2クラス84名(男子44名、女子40人)「ちらしずしを作ろう」である。本研究では、授業前(2016年1月)と授業後(2016年2月)の2回に同一の質問紙調査を実施し分析データとした。調査項目は、以下の通りである。(1)食文化に関する設問(1問):どんなときにちらしずしを食べると「おいしい」と感じるか。それはなぜですか。(2)食品科学に関する設問(2問):①さやいんげんをゆでてからざるにとって水にさらす理由について書いてください。②うす焼き卵をきれいにつくるために大事だと考えること書いてください。いずれも生徒に自由記述させ、それぞれの設問の記述についてカテゴリーを生成、分類して検討を行った。<br><br>&nbsp;<br><br><b>結果と考察</b><br><br>設問(1)の「どんなときにちらしずしを食べるとおいしく感じるか」では、授業前には、行事、ひなまつり、お祝いのときが44人で、授業後には57人であった。その理由として、「ひな祭りのときにだいたい食べるから」、「お祝いするときに食べる料理だから」等行事の時に特別に食べる記述や「親せきなど、みんなが集まったとき」といった大勢で食べる場面を想定した回答が増加していた。<br><br> 設問(2)「さやいんげんをゆでたあとに水にさらす理由」には、授業前の回答は、「色が鮮やかに、濃くなる」4人、「食感がよくなる」14人、「わからない」42人であり、授業後はそれぞれ60人、10人、4人であった。<br><br>設問(3)「うす焼き卵をきれいにつくるために大事だと考えること」についての記述を分析したところ、授業前はとき卵をなるべくうすくひくというような「うすさ」に関することが29、こがさないように気をつける「焼き加減」に関すること21、「火加減」に関することが15であった。授業後は、卵を全部ではなく、何回かにわけてやくというような「うすさ」に関すること43、こげないように注意したという「焼き加減」に関すること24、卵を焼く温度を保つという「火加減」に関すること31、であった。記述総数は調理実習後に増加していた。以上のことから、調理実習を通しても食文化について理解可能であること、調理科学についてはゆでて水にさらすと色が鮮やかになる「さやいんげん」について理解しやすいこと、一方でうすやき卵を作ることに関しては、科学的な理解よりも作る手順をより必要なものとして学ぶことがわかった。
著者
青木 幸子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.61, 2018

<目的><br> 2011年3月11日の東日本大震災から7年が経過した。復興した町や人々の生活の様子が伝えられる中、避難生活を余儀なくさせられて人々もいる。災害遺構の保存が進む一方で、被災地の人々からは災害の風化を懸念する声も聞こえる。被害の爪あとは世代を超えて建物や人の心に受け継がれていく。<br> 家庭科は日々の生活を健康・安全・快適に営むために、実践的・体験的な学習活動により知識・技能の習得とともに、人や環境への影響を考えて自律的に生活を創造していく自立と共生の能力を育成することを目指している。現在、高等学校の約8割が「家庭基礎」を選択しており、4単位から2単位への履修単位減は、衣生活や住生活分野をはじめとした学習内容の削減、実習や交流体験、調べ学習・発表・話し合いなど生徒が主体的に取り組む学習活動の削減となって教育現場に大きな影響を及ぼしている。<br> このような授業時数の制約の中で、筆者は生徒が意欲を持って主体的に学習活動に取り組み、生活を体系的に理解し、学習成果を生活の改善向上に適用していく能力を習得するための一方策としてトピック学習による可能性を示唆してきた。トピック学習は、学習者の興味・関心や生活知を尊重して学習分野を固定せずに内容を構成し、学習者による個別・具体的な学習活動を特徴としている。<br> 本稿は、主に住生活分野で担われている防災対策を複数の分野にわたる取り組みを通して、生活の体系的な理解と多角的なリスク認識の可能性について、高校生を対象とした授業分析を通してトピック学習の効果を検証することを目的とする。<br><方法><br>1.埼玉県立高校Bにおいて、学校長・家庭科教員の承諾を得て、2年生を対象に「家庭基礎」で授業研究を実施した。<br>授業前に「『生活のリスク管理』に関する意識調査」「ひらめき連想調査」を、授業後に「『生活上のリスクを考える』学習終了後の調査」を実施した。3つの調査および調べ学習、発表、相互評価を取り入れた授業中のワークシートなどすべて提出した6クラス205票を有効票とし、分析の対象とした。<br>2. 生涯に起こる可能性のあるリスクのうち高校生に比較的身近なリスクを対象に事前調査を行い、リスクに関する意識について中学生を対象とした先行研究の結果と比較し、特徴や傾向について把握する。<br>3.事前調査およびワークシート、授業後の調査結果を分析し、災害のリスク要因について認識の変化と授業の効果を分析し、トピック学習の可能性について検討する。<br><結果と考察><br>1. 予想される生活上のリスクのうち、高校生は「生活への被害の程度」について10項目すべてが4段階評価で平均値3.0以上であった。自然災害のリスクは3.38と中学生の3.61よりは低かった。しかし、環境問題、インターネット上の問題、健康問題のリスク意識は、中学生を上回っていた。<br>2. 自然災害のリスクに対する備えとして、非常用の水・食料や非常持ち出し袋の準備、避難場所とルートの確認の認識は高かったが、家族での話し合いや防災訓練への参加は若干低かった。<br>3. 授業前の「ひらめき連想調査」において、授業内容に関するキーワードは一人当たり平均6.44個であったが、授業後のキーワードは8.29個であった。キーワードの増加は、災害に関連するリスクへの認識が拡大したことを意味する。また、授業内容を踏まえ、自身が関心のあるリスクを記した者が12名おり、キーワードは一人当たり6.58個であった。<br>4. 授業後の学習内容と学習方法に関する6項目の評価について、「とても効果があった」「やや効果があった」と肯定的にとらえていた生徒は92.7~99.5%であった。<br>5. 生活に根ざした内容と実感的理解を促進する主体的・体験的な学習活動を特徴とするトピック学習の効果が認められた。
著者
栗原 恵美子 和田 早苗
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.61, 2018

<目的><br> 平成29年3月に中学校学習指導要領が告示され、移行期間を経て平成33年度より全面実施される。実践研究してきた余熱保温調理の学習に関して振り返ると、新学習指導要領の基本理念、技術・家庭科の目標の実現、SDGsの実現、に合致する内容が多いことがわかった。<br> そこで平成33年度に向けて、今まで実践してきた内容を更に省察し、余熱保温調理の学習の効果と課題を明確にし、また家庭科教育及び学校教育で、SDGsへの意識を高める余熱保温調理の学習の可能性を提案すること、を目的とした。<br><br><方法><br> 先行研究として、保温調理に関する文献等にあたり、保温調理のメリット・デメリット等を調べた。その後、中学校家庭科調理室で保温実験等実施し、授業への展開を探り、授業実践研究を行った。<br> 学習後、生徒へ自主的な取り組みとして課した探究活動レポートを分析し、また振り返りアンケートを実施し、学習の効果等を明らかにした。<br> また実施上の課題解決の方策を検討すべく、協力を得られた教員にインタビュー調査を実施し、余熱保温調理学習の可能性を探った。<br><br><結果・考察><br> 第2次世界大戦中の余熱保温調理に関して記載している文献(沼畑金四郎著・宮崎玲子著等)があり、それらから「…助炭と称して、やかんを覆う綿入れカバー、鍋の保温におがくずや綿を詰めた保温箱…」等、当時限られたエネルギーを大切に使う様子が掴め、また先行研究・著書(香西みどり著『加熱調理のシミュレーション』)より「…沸騰を続けなくても比較的高い温度が保たれれば、温度に応じた反応速度で調理が進んでいく…」等の情報を得ることができ、授業実践研究に活かすことができた。<br> 都内の国立大学附属中学校調理室で諸条件の下実施した、温度降下測定実験(2014年5月)では、約1時間保温後は約98℃から約90℃、約2時間保温後は85℃前後、と充分調理に適する温度が得られることがわかり、授業実践に繋げることができた。<br> 授業では、市販の保温鍋と手作り保温鍋(鍋を新聞紙とフリース布地で包んだもの)の温度降下等の比較実験を実施し、生徒は調理したスープを試食した。「思っていたよりも温度が下がらず、多くの利点があると思った」等、授業後に回収した生徒のワークシートの自由記述から、驚きと楽しく学べた様子や意欲等みとれ、学習の効果が確認できた。<br> 長期休みに生徒が自主的・発展的に取り組んだ余熱保温調理レポート(2014年度実施 n=11)分析からは、保温方法として「発泡スチロールの箱」や「どてら」を利用する等の様々な創意・工夫が見られ、余熱保温調理のレポート発表後のワークシートでは「100年後も同じ空が見ていられるために」といった標語を記す等、持続可能な社会の構築に向けて、生活を工夫し創造しようとする実践的な態度がみとれ、余熱保温調理の学習の効果が確認できた。<br> アンケート調査(2017年3月実施 n=112)では、エネルギーを大切に使う意識は93.8%が高まったと答えている。<br> 一方実践研究をすすめる中、学校によっては、授業内での保温時間の確保や、食中毒の懸念といった余熱保温調理の学習の課題が明確になった。そこで複数校の教員(n=5)にインタビュー調査をし、実施可能な対応策として、休み時間を利用しての計測、総合的な学習の時間を利用、食中毒の直前学習等様々な方策が上がり、実施するために可能性を検討できた。SDGsに直接的・間接的に繋がる、可能性のある余熱保温調理の学習を、継続研究し、家庭科授業から教育の場全体に提案したい。
著者
中村 真理子 永田 智子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.57, 2014

【背景と目的】<br>&nbsp; 2009年告示学習指導要領における改善の基本方針,及び学習指導要領解説家庭編から,家庭科教育において&ldquo;生涯を見通す視点を明確にし,一生の中で家族や生活の営みを総合的にとらえる力&rdquo;が求められていることがわかる。<br>&nbsp; 一方,学習内容は大して減っていないにもかかわらず,必修科目の主流は2単位の「家庭基礎」であり,家庭科の授業時間は半減したといえる。そこで,学習内容の関係性を高めて一連の流れをつくり,少ない時間ながら内容の濃い授業にするために,ライフデザインを「家庭基礎」の主軸に据えることにした。ライフデザインとは多様な夢や目標を考えることで,生活設計に該当する。<br>&nbsp;&nbsp;「家庭基礎」の学習内容をライフデザインで包括するために,年度当初の単元「自分の生き方と家族(以降「導入単元」とする)」で,ライフデザインに直接関わる授業を実施し,生徒一人ひとりに「人生すごろく」を作成させる。この「人生すごろく」をベースとして,導入単元以降の授業を展開しようという計画である。<br>&nbsp; 本研究では,導入単元の効果を検証するとともに,その後の授業に生かす課題を把握するため,すなわち形成的評価のために,生徒が作成した「人生すごろく」を分析することとした。<br>【方法】<br>&nbsp; 導入単元において作らせた3クラス118人の「人生すごろく」を分析・評価した。<br>【結果と考察】<br>&nbsp; 導入単元の指導目標には「生涯発達の視点」「各ライフステージ課題の認識」「青年期の課題の理解」等があり,これらが達成されたかをみた。ほぼ全員ライフイベントを10以上あげ,分岐を設けていた。悪いこと(アクシデント)については,学生特有の留年や受験失敗等や日常起こりうる嫌なことが多かった。良いことに比べて記入が少なく,また分岐も乏しかった。人生にはどんなアクシデントが潜んでいるか,より現実的に「自分の将来」を考える必要がある。そこで「家庭基礎」のまとめの単元で,もう一度この人生すごろくを振りかえらせ,起こりうるアクシデントについて考えさせる必要がある。<br>&nbsp; ゴールは生徒に自由に設定させた。死を想定している生徒が27%,老年期を想定している生徒が48%であった。これらを合わせると75%の生徒が自分の老年期の生き方まで思いめぐらすことができたと考えられる。成人期までで終わった生徒については高齢者福祉の単元で補充する必要がある。<br>&nbsp; 青年期の課題である進学や就職はほぼ100%記入されていた。また,成人期の発達課題については,結婚が86%,「親になること」は70%の生徒が記入していた。そこで,単元目標はほぼ達成できたと考えられる。しかし,残り30%の生徒が親になることを想定できていないことが明らかになった。保育の単元で補う必要がある。<br>&nbsp; ライフイベントやすごろくのコマの設定等から,具体的に生徒の職業観・恋愛観・結婚観・家族観などを認識できた。「結婚や出産したら仕事は辞めるのが当たり前」と考える女子生徒が多かった。ジェンダー等について授業で説明したにもかかわらずこのような結果となり,性別役割分業意識の根強さが明らかとなった。<br>【まとめ】<br>&nbsp; 「人生すごろく」の分析から,導入単元の目標を達成できたことがわかった。さらに生徒の作品を詳細に分析することによって,「家庭基礎」各分野における指導に生かすための課題を把握できたことから,「人生すごろく」が形成的評価として活用できることがわかった。&nbsp;
著者
野田 知子 伊深 祥子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.53, pp.82, 2010

家庭科教育学会課題研究1-1のグループでは、「食に関する教育 ―行動変容を目指した授業の検討―」という課題に取り組んだ。課題研究では、授業において、生徒が自己効力感をもつことが、意識と行動の変容を起こすことになるのではないかという仮説を立てた。 <br>研究の目的<br> 自己効力感を高める授業の要素は何か、を明らかにする。<br>研究の方法<br> 授業後の自由記述調査により、自己効力感が高まったという結果を得た、授業「なぜひとりで食べるの」(授業者:伊深祥子)を研究対象として、授業内容を録音、文字化して、次の二つの方法で分析した。<br>A.授業後、5人の教師・研究者で構成される研究会で、授業内容を共有した上で、授業者が省察し、検討をした。その内容を授業記録の「教師の思い・判断」に記入、また、その時の「教室の雰囲気」、授業の中での生徒の発言に対して教師が「発言の意味を推測」して記入して検討した。<br>B.授業記録から、教師と生徒の対応の仕方の特徴を探った。<br>省察(reflection)を協同でおこなう意味<br> 「教師の思い・判断」について、授業者は「研究会で言葉にして初めて認識した」と述べている。授業の中で、教師はその瞬間にとっさの判断で生徒の言葉に応えたり質問したりしている。その時の思いは記録には残らない。そこで複数の教師・研究者との協議の中で、その時、なぜそのような言葉を発したのかを思いだし言葉にすることで、「教師の思い・判断」が明確になる。また同時に、そのことが授業者・協議参加者の学びになる。<br>授業の流れ<br> 【_丸1_自分の食卓の絵を描く _丸2_VTR「なぜ一人で食べるの」(NHK1999年)を視聴する _丸3_「一人で食べる子どもたち」について考えたことを書く _丸4_皆の書いた考えを印刷して配り、その中からふたつ選んで、共感・批判の意見を述べる】 分析した授業は_丸4_の授業である。<br>結果<br>1.参加型の授業である<br> 授業は、生徒の声が交流する授業、教師と生徒が応答する授業である。・「なんで?」という言葉が13回以上記録されている。・「こんなこと話し合っても意味ないじゃないの。何も変わらないんじゃないの」というような授業の意味を否定する意見も言える。<br> 生徒が主体的に自分の言葉で発言できることは自己効力感を高めることの土台となると考える。 参加型の授業ができる要素として下記の3点があげられる。<br> _丸1_積極的に考える生徒(「考える授業」に取り組む)<br> _丸2_意見・批判・共感等をじっくり考えさえ述べることの出来る時間<br> _丸3_入学時から取り組んだ教室の風土など<br>2.共感を示す教師・発言する生徒の存在をまるごと受け止める教師<br> ・・授業者は「一人で食べる事が多いので、全員で食べたら疲れちゃったんだね」など、生徒の発言に共感を示す対応をしている。「共感」という言葉が、1コマの授業の中で、教師13回、生徒5回記録されている。<br>・発言している生徒に対して、「Kの家は複雑な家庭だ。大丈夫かな?」<br> 「ちょっとKを助けよう」など、生徒の背後にある家庭状況なども考慮して応答している。<br> 生徒の多様な意見や生徒の存在を丸ごと受け止める教師、価値観の一方的な押しつけはしない教師の姿勢が、生徒の発言意欲につながり、生徒の声が交流する授業を成立させ、生徒の自己効力感を高めることにつながると考える。