著者
小林 裕子 永田 智子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2016

 【研究目的】自然災害大国の我が国において,児童生徒に対し実践的かつ継続的な災害学習の実施は必要不可欠である。本研究の目的は中学校家庭科で「災害時の食」を扱った授業を開発し,授業実践を通して有効性と適切性を評価することである。研究の第一段階として,小林・永田(2015)は中学生に災害に関する質問紙調査を実施した。その結果,中学生は「災害時の食」への不安は大きいが,災害に関する知識や家庭での備えが不足していることが明らかとなった。この結果を基に,小林・永田(2016)は,「災害時の食」を扱う3時間構成の授業を開発し,実践した。実践は兵庫県公立中学校2学年の生徒5クラス164人を対象に,2016年2月に行った。 【授業評価の結果】 開発した授業の有効性と適切性を検証するため,以下の4つを実施した。 1)授業前後に行った「災害時の食」に関する知識アンケート 「「災害食」と「非常食」の違い」,「ローリングストック法」を「分かる」と回答した生徒は,事前3.7%から事後61.8%へ,事前2.5%から事後70.4%へとどちらも授業後大幅に増加した。 2)授業終了1ケ月後自由記述感想 「各時間の授業」,「学習の内容・活動」に関してカテゴリに分類した。また生徒の「~したい」の記述は,「災害時の食」と主体的にかかわろうとする意欲の表れで重要ととらえ,これも抽出しカテゴリに分類した。「各時間の授業」について記述した生徒は70.1%であった。その内2時間目について記述した生徒は59.3%で最も多く,次いで1時間目が50.0%で,3時間目は1.9%と少なかった。「学習の内容・活動」を記述した生徒は72.7%であった。その内「災害食」・「ローリングストック法」を記述した生徒が50.0%と最も多く,次いで「ツナじゃが調理」,「ポリ袋を用いた炊飯」が各40.2%,36.6%であった。「献立作成」は4.5%と少ない結果であった。「~したい」を記述した生徒は66.9%で,「作りたい」28.2%,「備えたい」20.3%,「実践したい」11.7%,「家族で話し合いたい」11.7%であった。 3)授業終了1カ月後アンケート 「授業後,本授業について家庭で話しあった」生徒は65.1%で,思春期の中2としてはかなり多い結果であった。「授業後,「災害時の食」に関する意識や考えに変化」があったと答えた生徒は75.7%と多く,変化の内容は「節水の大切さを考えるようになった」74.8%,「「非常食」より「災害食」が便利で役立つと考えるようになった」66.1%が上位であった。 4) 有識者対象アンケート調査 家庭科教育を専門とする大学教員7人に,開発した授業のアンケートを実施し,5段階尺度で各授業の「目標設定」,「内容や方法」,「生徒の興味・関心」の適切性,「開発した3時間の授業の総合的な適切性」を尋ねた。3つの項目の平均値がほぼ4以上の評価を得,総合的な適切性も平均値は4.6と高評価であった。 【まとめと今後の課題】 1)~3)の結果から,「災害時の食」の基本的な知識の習得,備えや対策を考えること,学習内容を家庭で共有することについては,大半の生徒が達成したと考えられる。また多くの生徒が本授業を積極的に評価し,「災害時の食」について主体的に考えることができるようになったことが分かり,授業としての有効性が認められたと言える。有識者からは本授業を家庭科で扱うことは適切であるという評価を得ることができた。以上のことから,本研究で開発した授業は有効であり適切であることが示唆された。今後の課題は,まず災害時の献立を考える授業の難しさを解消するべく,授業内容や活動の改善を図ることである。家庭や地域と連携した「災害時の食」の授業開発や実践を行うことも目指したい。
著者
野池 知枝美 飯野 由香利
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2016

1.研究の背景と目的<br><br> 住生活は生徒にとって身近なものであるが、日常生活において住環境を整えるのは主に家族であり、生徒は日頃あまり意識せずに生活を送っているのが現状である。そこで生徒の住生活への関心を高めさせ、家族との生活の中でも生徒が住環境を整えることができるように指導計画や指導方法の工夫を図りながら授業を進めた。具体的には、生徒間での「協働学習」や専門的な立場から科学的な視点に基づいた「講座」を実践し、家庭での追究活動を行った。<br><br>2.授業の内容<br><br>(1)住生活の学習における導入段階で、住まいの役割や働きを考える際に住生活への興味・関心を高め学習が進められるように、生徒間でのファシリテーションを実施した。グループ毎に住まいの役割や働きについて各自が付箋に記入した事項を分類した。さらに「健康に必要な物」、「過ごしやすさ」、「安全性」などの生活における快適な住まいの条件を考案し、ポスターを用いて発表した。<br><br>(2)考案した快適な住まいの条件の学習を基に、住まいの構造についてワークシートにまとめた。自分の家の見取り図を描き、自分の家にある空間や構造について見直し、快適な住生活を送る上で住まいに必要な基本的な構造や空間及び設備等を考えた。<br><br>(3)快適な住生活を送るために必要な基礎的な室内環境の整え方や家庭内の安全や災害への備えについて調べ学習を行い、ワークシートにまとめた。<br><br>(4)住生活における「涼しく・暖かく住まう」について、専門的な立場から科学的な視点に立ち、原理・原則を学ぶための体感型実験等を取り入れた「講座」を行った。生徒達は身体と周辺環境との科学的なかかわりを理解し、快適に住生活を送るための工夫の仕方を学んだ。「講座」の前後にアンケート調査を実施した。<br><br>(5)上記学習を通して、自分の家庭で快適に安全に住まうために実践できる「我が家の快適・安全プラン」の課題を2~3種類挙げて、ワークシート(計画表)を作成した。<br><br>(6)追究活動として、夏休みに家庭でワークシートに基づいて「我が家の快適・安全プラン」を実践した。実践後プランを評価し、家族からも実践の評価を得た。<br><br>(7)夏休み終了後の授業で、「我が家の快適・安全プラン」で実践したことを発表し合い、互いの実践内容を共有する「協働学習」を行った。なお、(4)と(6)以外の授業において、毎時間家庭科学習カードを用いて授業の振り返りと自己評価を行った。<br><br>3.結果<br><br>(1)家庭科学習カードにおける自己評価<br><br> 毎授業後に振り返りを記述することで、自身の学習の成果や次の学習に向けての課題を考えることができた。積極的に学習に取り組み、授業を通して知識や技術を習得でき、学習活動で創意・工夫することができた。生徒と家族の今後の生活での課題を見出し、生かそうとする傾向が見られた。<br><br>(2)「協働学習」における効果<br><br> 生徒間での「協働学習」を実施することで新たな視点を見出し、住生活に対し徐々に関心を持ちながら学習を進めていくことができた。実践内容を共有することで、生徒や家族の今後の生活の新たな課題や実践方法を見つけることができた。「協働学習」の有効性が示された。<br><br>(3)アンケート調査の結果<br><br>①住生活に関する情報源と興味及び住まい方の工夫<br><br> 約半数の生徒はテレビと家庭科の授業により住生活の知識を得ており、自身の生活と住生活との関連性を約83%の生徒が認めている。住生活への興味は約58%に留まっているものの、83%の生徒は「講座」前の学習からより快適な住まい方への関心を持っていた。<br><br>②「講座」の理解度と意識の変化<br><br>伝熱や気化熱の原理を学習して、人体と周辺環境との熱や水分のやりとりの仕組みについて70%以上の生徒が理解した。「講座」後に、住生活の学習が生活の向上にとても役に立つと思う生徒の割合が高くなった。住生活の学びは学習している現在や将来の快適な生活に生かすことができると74%以上の生徒が回答した。「講座」の実践を通して、生活を科学的にとらえることにより家庭実践に繋がることを確認できた。
著者
鈴木 昌代
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.46, pp.62, 2003

【目的】最近携帯電話の普及により、高校生の金銭感覚が変化している。実際に本校の1年生(72名)と2年生(63名)に、携帯電話に対する意識調査を行った。その結果、ほとんど(93%)の生徒が所有しており、使用頻度が高く、中には月々の使用料金が5万円という生徒もいた。さらに携帯電話の料金は、小遣いとは関係なく両親が支払っており、携帯料金が家計に及ぼす影響について質問したところ、約半数の生徒が「家計に全く影響していない」「わからない」と回答していた。その上、大部分の生徒が、携帯電話は必要であると答えていた。したがって、高校生に携帯電話の欠点をよく認識させ、正しい金銭感覚を養い、限られたお金を効率よく使用しなければならない家庭経営の難しさを教育・指導してゆく必要がある。さらに、家族各々が満足し、豊かな家庭生活を営むには何が大切かを生徒に教えて行きたいと思う。そこで本研究では、将来の生活設計を視野に入れた家庭経済を考えさせるために、家庭経営のシミュレーションを授業に取り入れ、実践的な授業を行った。 <br>【方法】本校生徒2年126名(男子64名 女子62名)を34グループに分け、親と高校生がいることを条件に家族を設定し、家族経営をシミュレーションさせた。具体的には、父親、母親、娘、息子等の役割を分担し、家族の将来設計や職業、趣味等の家族像を作らせた。その後、それぞれの家族で予想される1ケ月の収入を決めさせ、それに対し、諸費用(公共料金、食費、住居費、被服費、教育費、教養・娯楽費、通信費、預金、予備費等)を分配して家庭経済の検討をさせた。その際、家族の短期・長期生活設計に基づいて趣味やイベントに費やす購入希望品や小遣い、財産について検討させ、1ケ月分の予算を決定させた。そしてこの予算に対し、それぞれの立場から自分の満足度と自分以外の家族の満足度を、?軸とY軸の座標上にポストイットを貼ることで評価させた。さらに、シミュレーションによる効果をアンケートにより評価した。<br>【結果】家庭経営のシミュレーションにより、70%以上の生徒が家庭経営を理解でき、その難しさも把握できたと答えていた。その中でも、実際に生徒の家では共働きの家庭が多いため、家事と仕事を両立する母親の方が父親より苦労していると答えていた。そのため、家計に協力したいと答えた生徒の約半数は、家事を手伝いたいと述べていた。鈴木は昨年度の日本家政学会で、家事労働には「家族のきずな」を深める効果があると報告している。したがって本研究によっても、最終的には家族のきずなの形成に結びつくと思われる。 <br>座標軸により、個人の満足度と家族の満足度を比較した場合、お互いが話し合い、理解し合った家族は、家庭経営による家族全員の満足度が一致していた(18/30 家族)。これらの家族に所属した生徒は、お金よりも家族間のコミュニケーションの方が家庭経営に重要だ、と述べていた。その他、両親と子どもの間に満足度が二分化されたものが4家族。子どもたちの満足度は一致しているが、両親がばらばらであるパターンが2家族。1人を除く家族の満足度が一致しているものが6家族。家族全員がばらばらなものが4家族であった。 <br>さらに、シミュレーションの勉強をした後に、携帯電話の使用について調査すると、大部分の生徒が必要だが、使用頻度を減らすことが大事だと答えていた。 以上のことから、家庭経営のシミュレーションを授業に取り入れ、実践的な授業を行うことは、高校生の金銭感覚を養い、さらに家族のきずなを深め、豊かな家庭生活を営ませるのに効果的であると結論づけることができる。
著者
牧田 利枝 永田 智子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.54, pp.77, 2011

目標に準拠した評価では、「めざす姿」(行動目標)として、到達規準を設定し、ルーブリックによって評価基準を明確にし、教育評価がなされている。しかし、「意欲・関心・態度」のような情意面の「見えにくい学力」は、行動目標として表すことに適さず、評価しにくいという問題が指摘されている。また、中村ら(2006)は調理実習おける教師の情意面での評価が行動観察に偏り、ワークシートの記載内容の判定については、指導者より、生徒を知らない教師が判定したほうが客観性が高かった事例があったことを報告している。本研究では、高等学校家庭科における調理実習に対する「意欲」を学習の意義認知という認知的な動機づけ理論にもとづいて、調理実習に強く関連している興味(内発的動機づけ)を自律的に発達させ、さらに活用力に繋がる高度な認知領域である「思考・判断・表現」の学力形成とともに「動機づけ」が継続される様な授業デザインを実証的に検討することを目的としている。1年目(08年度)は高等学校家庭科における実習―実習以外の学習における価値づけを「主観的課題価値(subjective task value)」理論にもとづいて調査し、「役立ち感」「有用感」を高めることで調理実習の意義を認知させ、価値の内在化を促すことで意欲向上が期待できるという仮説をたてた。2年目(09年度)はこの仮説にもとづき、自己評価と組み合わせる「意義認知ワークシート」を開発し、その効果を検証した。3年目(10年度)は「意義認知ワークシート」を改良し、調理実習の意欲を高める「意義認知ツール」としての生徒の記述活動を構造化しその全体像としての授業デザインに取り組んだ。「意義認知ツール」における「意義認知ワークシート」への記述の質の変化が確認され、意欲の向上とともに、家庭での実践的態度に結び付くと考えられるような記述も見られたことから、調理実習が授業だけでなく、日常生活にいかされていると考えられた。また、教師が評価基準表を作成し、点数化した「意欲」と「テストの点数をとる」こととは、必ずしも一致しないことが確かめられた。さらに、09年度と10年度の「授業評価(自己評価)」をそれぞれクラスター分析した結果を比較すると、09年度では、「授業規律class rule」は協調性や公共心とは独立しており、教師が行う提出物や忘れ物チェックといった外的な統制の影響をうけていたが、10年度は「授業規律」が「協調性」「公共心」と相関がみられた。このことは、10年度においてクラス・グループの関係性依存的な学習態度が形成され、その結果、生徒の実習に対する意欲が向上したためと推測された。以上のことから、調理実習の「楽しさ」は情意面で強く表れやすいが「意欲」が高まった生徒の姿は生徒の自己統制的かつ主体的な学習態度と重なっており、「楽しい」といった初発の内発的興味を持続・発達させるためには、クラス・グループの関係性に依存した学習形態であることに配慮した授業デザインが望ましいことが確認された。また、「意義認知ツール」では生徒が1学期末の成績以降、意欲を減退・消失するような問題が生じなかったため、「関心・意欲・態度」の向上を見通した計画的な指導―評価が可能となり、日常生活で活用するなどの活用型の学力向上が期待される等、「意義認知ツール」の有効性が示された。
著者
花輪 由樹
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.58, 2015

【研究背景と目的】我が国では男女共同参画社会の推進と少子高齢化等への対応から、『学習指導要領』でも家庭のあり方や子育ての意義などをより一層充実させるように改訂する動きがあり、家庭科教育における保育領域が重視されるようになっている1)。家庭科の保育領域に関する既往研究には、家庭科教師(中・高校)と保育者(幼稚園・保育所)へのインタビュー調査により教育的課題を明らかにした研究2)や、短大生の紙芝居製作において製作者の学習効果を指摘した研究3)や、保育体験学習が子どもへのイメージと自己効力感を変容させることに注目した研究4)等があるが、保育所での交流内容について究明したものはあまりみられない。そこで本研究は、高等学校家庭科の保育領域で、保育所訪問時に、食領域の五大栄養素をテーマにした紙芝居を披露させることにより、披露する生徒がどのような感想を抱くのかを明らかにし、食と保育の領域横断的な実践の可能性を探ることを目的とした。<br> <br>【方法】対象は関西圏にある某高等学校衛生看護科で、訪問日時は2015年1月末の5,6校時、訪問場所は高等学校より徒歩15分のエリアにある保育所に訪問した。紙芝居製作は、2学期の食に関する知識学習と並行して製作させ、その際、保育所訪問することを念頭に5グループに分かれて五大栄養素をテーマに取り組ませた。このような中で当日は、4,5歳児の3クラスを対象に1グループ3回の紙芝居披露を行い、その後園児達と自由に遊び、最後に園児達からピアニカ演奏の披露を受けるという内容を実施した。訪問後に行った3学期の期末テストにおいて、以下の7点の質問を行った。本稿では、紙芝居披露に関するものとして、1,2,7の回答を分析した。(1.紙芝居をつくる際に工夫した点、2.紙芝居を披露してみて感じたこと、3.子ども達と何をして遊んだか、4.子ども達と遊ぶ際に気をつけたこと、5.子ども達から演奏を披露してもらい、何を感じたか、6.もし保育園に再度訪問できるとしたら、紙芝居以外にどのような企画を実施したいか、7.今回の保育園訪問の経験を、あなたの将来の職業生活・家庭生活にどのように生かしていきたいか)<br> <br>【結果】1.紙芝居づくりで工夫した点については、主に「言葉」と「絵」をあげていた。「言葉」については、ひらがなで書いたり、なるべく難しい表現を使わないように気を使っており、「絵」については、色合いを鮮やかにしたり、ひと目で見てすぐ分かるような工夫をしていた。2.披露して感じたことは、喜んでくれて嬉しかったというように園児の反応に自分の感想を重ねている者が多く、また難しい漢字を読めていたことや静かに聞いてくれたことへの驚きを感じている者もいた。7.今後の生活への応用については、多くの生徒が子どもの接し方や触れ合い方を知ることができたと述べており、これを将来子どもが産まれた時に生かしたいと答えている者や、看護師として小児科等で子どもに接する際に絵本の読み聞かせなどをしていきたいと述べている者もみられた。今回の分析では食をテーマとした紙芝居の保育実践により生徒達の保育領域への深化が明らかになったが、食領域に関する学習効果はうかがうことができなかったため、これは今後の課題としてあげておきたい。<br> <br>1)岡野雅子,宮澤愛,赤塚みのり:高等学校家庭科「保育領域」についての現状と課題 : 長野県家庭科教員に対する調査から,信州大学教育学部紀要 114,pp.13-24,2005<br> <br>2)伊藤葉子:中・高校生の家庭科の保育体験学習の教育的課題に関する検討,日本家政学会誌,Vol.58,No.6,pp.315-326,2007<br> <br>3)芝静子:「調べてつくる」家庭科の紙芝居製作指導―5年間の実践とその評価―,広島大学教育学部紀要<br>第二部 第42号,pp.139-149,1993<br> <br>4)鎌野育代,伊藤葉子:子どものイメージと自己効力感の変容からみる保育体験学習の教育的効果, 日本家庭科教育学会誌 52(4),pp.283-290,2010.1
著者
杉浦 なぎさ 藤田 智子 大竹 美登利 菊地 英明
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.60, 2017

<strong>【目的】</strong><br /><br /> 男女が協力して生活することの重要性が謳われている現代において、男女がともに家庭科を学ぶ意義を感じられることは重要である。しかし、高校生は、家庭科の必要性は「現在」ではなく、「将来」の家庭生活にあると感じており(中西 2006)、中学生においても「現在」学ぶことに意味があると感じられるかは疑問である。また、高校生において、家庭科の有用性を認知することが食生活行動に結び付いていることが明らかにされており(藤田 2012)、実感をともなう学びにすることこそ、子どもたちが生活実践につなげるために有効なのではないかと考えられる。本田(2004)は、「子どもが学習にどのような意味や意義を感じているか」を「学習レリバンス」と定義し、学習そのもののおもしろさを示す「現在的レリバンス」と、学習が将来何かに役立つ感覚を示す「将来的レリバンス」の2つがそろうことで、男女ともに学習を長期にわたって継続したいと思えることを明らかにした。本研究では、中学生が家庭科を学ぶ意義を感じているかを明らかにするとともに、家庭科を学ぶ意義の感じ方の違いに着目して、生活実践行動を分析する。<br /><br /><strong>【方法】</strong><br /><br /> T大学附属中学校2年生、3クラス89名(男性31名、女性58名)を対象に、アンケート調査を行った。実施時期は、9月(単元前)、10月(単元後)、1月(単元後の追跡調査)の計3回である。単元については、2時間×3回の計6時間の授業構成として、「洗剤や柔軟剤の性質の理解を踏まえた選び方」「消費者が洗剤購入に必要な情報を考える」など実験や実習を取り入れた。3回の調査すべてに回答した86名(男性31名、女性55名)を分析の対象とする(有効回答率96.6%)。また、授業者が積極的に授業に取り組んでいると思う生徒を有意抽出してもらい、各クラス男女1名の計6名(男性3名、女性3名)にインタビュー調査を行った。10月に2回(単元途中と単元後)実施した。<br /><br /><strong>【結果】</strong><br /><br /> 学習レリバンスに関しては、家庭科全般と洗濯の学習において、「好き・おもしろい」を現在的レリバンス、「将来、役に立つ」を将来的レリバンスとして、単元学習後に聞いた。まず、家庭科全般に対して肯定的に回答をした生徒は、現在的レリバンスは5割以上、将来的レリバンスは9割以上であった。一方で、洗濯の学習に対して肯定的に回答をした生徒は、現在的レリバンスは40%に満たず、将来的レリバンスは9割以上であった。<br /><br /> 中学生の生活実践状況は、洗濯物を「しまう」は男女ともに実践度が高かったが、「洗う」は低かった。次に、学習レリバンスの感じ方による生活実践行動の違いをみるため、一要因の分散分析を行った。その結果、家庭科全般、洗濯の学習ともに「好き・おもしろい」と思う人ほど、学習後、有意に生活実践得点が高かった。<br /><br /> また、質問紙の自由記述(家庭科の学びの中で自分が成長できたと思う点)やインタビュー調査(授業でおもしろかったこと・新たに気付いたこと)から、中学生は洗剤のパッケージデザインを通し、消費者の立場からデザインや表記の仕方を工夫することで、洗剤の表記にも様々なアイデアがあることに気付き、「おもしろさ」を感じていた。また、実験を通して、洗剤の液性によるダメージの受け方や量による汚れの落ち方の違いを目で見て、「実際にお店で洗剤を見比べたい」「洗濯をおこなってみたい」など、科学的知識を基に自分の生活で試したいと考えており、「役に立つ」感覚が育まれたと考えられる。以上のように、授業で「おもしろい」「役に立つ」と感じることは、中学生の生活実践につながるきっかけになると考えられる。<br /><br /> 本研究は,東京学芸大学「日本における次世代対応型教育モデルの研究開発」[文部科学省平成28年度特別経費(プロジェクト分)]の研究成果の一部である。
著者
神山 久美
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.56, 2013

[ 研究の背景と目的 ] 大学では、家庭科における生涯の生活経営に関する内容をさらに発展させ、深く高度な内容の学習が必要である。 ファイナンシャル・プランニング技能士(FP技能士)とは、職業能力開発促進法に基づく、FPの技能に関して包括的で専門的な知識・技術をもつことを証明する国家資格である。導入資格である3級FP技能士の資格取得を目指すことにより、生涯の生活設計で必要となる6分野(ライフプランニングと資金計画、リスク管理、.金融資産運用、タックスプランニング、不動産、相続・事業承継)についての幅広い内容を、体系的に学ぶことができる。FP技能士試験には、学科試験及び実技試験の2つがあり、学生にとって、これらの知識・技能を獲得することは生涯の生活設計のために役立ち、また、FPに関する上位資格を取得することにより、金融関係の仕事(銀行、保険、証券、不動産など)にも役立つものとなる。 2012年12月に「消費者教育の推進に関する法律」が施行された。消費者教育を「消費者の自立を支援するために行われる消費生活に関する教育及びこれに準ずる啓発活動」と定義し、特に、「消費者が主体的に消費者市民社会の形成に参画することの重要性について理解及び関心を深めるための教育を含む」と加え、消費者の消費者市民社会形成の参画を重視していることが特徴である。この消費者教育の定義より、大学における消費者教育は、学生に、消費者の自立に必要な消費生活知識の修得や実践的能力を育成し、消費者市民社会の形成への参画を意識させることが目標となる。このような視点での大学における授業開発が必要であり、特に、大学生に自主的・積極的な消費者市民社会への参画意識を持たせることが重要と考えられる。 そこで本研究は、大学授業において、国家資格のFP技能士資格取得に関わる内容を導入して学生の金融経済に関する幅広い知識・技能の獲得をめざし、その学生の学びを、社会参画のためにも活かすという展開の実践を試みることを目的とした。[ 方法 ] 2012年度、私立A大学家政学部家政経済学科2年生の専門科目である前期授業の「ファイナンシャルプランニング論」及び後期授業の「ファイナンシャルプランニング演習」において、1年間に渡り実践を行った。前期授業では、FP技能士の9月試験の合格を目指した内容の授業を実施し、後期授業では、子どもを対象としたおこづかいに関する内容について、学生が企画・運営した、地域の消費生活展の参加や児童館での講座等を実施した。 これらの授業過程と授業記録などの結果から、大学における金融経済教育としてのFP技能士試験の導入とその展開のあり方について、考察を行った。[ 結果と考察 ] 今回の前期授業の終了後に、授業の前に金融経済教育を受けたことがあるか質問したところ、「受けたと思うがよく覚えていない」、「ほとんど受けていない」を選んだ学生が80%を超えた。前期授業で行った内容について、大学生として学ぶ必要があると思うか尋ねたところ、全員が「とても必要」、「少し必要」を選択し、「あまり必要でない」、「全く必要でない」を選んだ学生はいなかった。その理由としては、「自分の普段の生活に役立つ」、社会人として知っておくべき内容」、「就職活動で役立つ」などが挙がり、これらの内容の導入の意義があると考えられた。 前期授業と後期授業を組み合わせた今回の取組については、学生全員が肯定的に捉えていた。その理由として、「前期に学んだことが活かせてよかった」と書いた学生が多かった。学生は、単に自分たちが知識をつけることのみを重視したのではなかった。今回の取組を通して、社会に貢献する自分たちの役割の自覚や学ぶ動機づけにもつながっていると考えられた。消費者市民として社会への参画意識を持たせるような実践をしていくことが、大学教育における展開として重要なことが示唆された。
著者
○村上 由季 池﨑 喜美惠
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, 2012

【目的】 日本人学校では日本国内の公立小・中学校と同等の教育がおこなわれている。しかし、様々な理由から日本国内と現地との環境には差が多く、教科書の記述と学習環境の不一致が生じることが予想される。本研究では、そのような状況下で、日本人学校ではどのような家庭科教育がおこなわれているのかを明らかにし、今後の日本人学校における家庭科教育の指導の在り方について検討、提言することを目的とした。【方法】 2010年11月~2011年1月にかけてアンケート調査を実施した。日本人学校88校に質問紙を郵送し、家庭科の授業を担当している教師に記入を依頼し返送してもらった。本報告では、調査協力を得られた48校の小学部の家庭科担当教師の調査票を分析対象とした。主な調査内容は、次のとおりである。1)家庭科担当者の属性、2)家庭科のカリキュラム、3)家庭科の教育環境、4)家庭科の指導方法、5)指導上の問題点や要望【結果及び考察】 1)日本人学校小学部で家庭科を担当している教師のうち、家庭科を専門として学んだ教師は10.2%であり、専門外の教師が指導していた。また、日本人学校での家庭科指導年数は1~2年が67%と最も多く、派遣教員が全体の55%を占めていた。このことから、日本人学校では安定した人員配置をすることが難しい状況にあるということが明らかとなった。 2)家庭科の授業時数に関しては、複式学級であるなどの理由から学校毎に多少のばらつきは見られたものの、多くが学習指導要領に定められた時数で授業を行っていた。複式学級の組み合わせは多様であるが、中には小学第5学年~中学第3学年までという組み合わせで授業をしている学校もあり、通常の家庭科指導を日本人学校で行うことの難しさの一因はここにもあると思った。また、現地理解教育の一環として、ペルー料理や韓国料理等の現地料理や、グアテマラ織りなどの題材を取り入れて、日本の教科書に準拠しながら実習を指導している場合が多かった。  3)小学部の家庭科室の保有率は85.7%であり、そのうち18.4%が理科室や他教室と併用していた。しかし、施設・設備については45%の教員が不足を感じていた。教科書について、家庭科担当教員の85.7%が使用しているものの、日本国内と海外では家庭科の基盤となる生活そのものに違いがあるため、実際は教科書どおりに授業をすることが難しいことも日本人学校の課題であることが教師の自由記述から読みとれた。 4)家庭科の指導方法の一つとして、現地理解教育を行っている学校が57.1%と多いことが、日本人学校の特色といえた。家庭科をイマージョン・プログラムの一環として英語で授業を行っている学校も少数派ではあるものの、増えてきていた。そして、現地理解教育では、実体験をとおしてその土地の習慣や生活の仕方を知り、学んでいくため、9割以上の教師が調理実習や被服実習などをまじえて指導していた。 5)家庭科を指導する上で、教員の家庭科免許の有無や海外にあるという日本人学校の立地条件が問題の要因となっている。例えば、調理実習においては、地域によって日本の食材がそろわなかったり、現地の食材には衛生面で問題があったりする。また被服実習においては、日本から製作キットを取り寄せると輸入という形になるため、予算の都合上困難であるとの記述が見られた。【提言】 本調査を考察した結果、ほとんどの教師が家庭科を専門としない中で、現地の環境や状況を受け入れ、工夫して指導していた。そこで、日本人学校が抱える共通の問題、例えば複式学級、現地理解教育、さらには実習材料の問題など、多くの問題を教師間で共有できる場を作ることが、家庭科を専門としない教師たちの指導における不安を軽減することになるのではないかと考える。また、日本人学校出身の児童・生徒の側から見た日本人学校での家庭科の学習経験を調査し現状を精査することにより、よりよいあり方を模索することができるのではないかと考える。
著者
林 淑美
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2016

【<b>目的・方法</b>】子ども食堂は経済的に困窮していたり、ひとり親で食事の支度が思うようにできなかったりするなどの事情をもつ家庭の高校生以下の子どもに無料、あるいは低価格で食事を提供する場所とされている。その始まりは東京都内で2012年頃と言われており、それ以降全国各地に開設され、増加する傾向にある。子ども食堂の現状と今後期待される影響の可能性について調べるために資料および文献検索を行った。【<b>結果</b>】食育基本法が制定され、食育推進活動が学校、食品製造業、流通業、公共団体など社会の食物や食事に関わる様々な領域で行われるようになり、日常の食事内容や状況を見直して、より良くしようとする意識は人々の間で高まった。しかし、近年国民の経済格差の拡大に伴い、食事の見直しをしても、経済的あるいは時間的制約により改善の余地が厳しい現状にある家庭が増えつつある。文部科学省の調査では就学援助制度の支給対象となった小中学生の割合は2012年に15.6%で過去最高を更新したとされた。また、厚生労働省の調査でも、平均的所得の半分未満で生活する子どもの割合は2012年に16.3%で6人に1人が貧困状態にあり、過去最悪を更新したことが報告された。また貧困状態の子どもの割合はひとり親世帯に限ると54.6%となっていた。経済協力開発機構(OECD)の調査でも、加盟34カ国の平均値を上回る水準で推移している。このような世帯の子どもは家庭で野菜を食べる頻度が低く、週3日以下である割合が一般世帯の2倍となっている。またインスタント麺やカップラーメンを週1回以上食べる割合が一般世帯の2.7倍と高くなっており、家計が子どもの食生活にも直接影響することを示している。子ども食堂の開設をめざす協力団体は地域住民のボランティア団体、町内会、NPO法人、社会福祉法人などのほかに私立大学なども加わってきている。また大分県や福岡市では行政からの助成も予定され、堺市では自治体自らが民間団体から依託先を公募して子ども食堂の開設をめざしている。子ども食堂の開設を予定する団体や協力者のための情報交換会や講演会として「こども食堂サミット」が東京や九州で開催されるようになった。子ども食堂は経済的理由で十分な食事が与えられない子どもに栄養のバランスのとれた食事を提供すること以外に、家族と食事をとる機会が少ない子どもの孤食を改善することを目的として始まったが、支援の内容は食事だけでなく、地域住民やボランティアの人々と交流しながら、遊びや学習面に及ぶ場合もある。また、調理や片付けなどを大人と子どもとの共同作業で行われている所もあり、日常生活に必要な知識や技能を家族以外の人々との交流の中から伝授される機会を与える場所ともなっている。核家族化が進む社会で、ひとり親世帯や共働き世帯が増えつつある長時間労働を前提とした社会では子どもが家族と交流する時間は減少する可能性が考えられる。そのような状況で子どもが家族以外の様々な複数の人々と日常的に関り合いながら、学習や遊び、共同作業などを通して知識や技能、コミュニケーション力を身に付けていく場所が存在することは、子どもだけでなく社会にとっても非常に意義深く、重要である。子ども食堂は地域や社会全体で子どもを守り、育む場所として今後ますます様々な可能性が期待されるであろう。
著者
永田 智子 赤松 純子 榊原 典子 鈴木 真由子 鈴木 洋子 田中 宏子 山本 奈美
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.56, 2013

1.問題の所在と研究の目的  家庭科教員を取り巻く現状は厳しい。小学校においては継続的に家庭科の実践研究を行う教員は少なく,家庭科授業の手本を示してくれる先輩教員や情報交換できる同僚が身近にいないことが多い。別の方法で小学校家庭科の授業者を支援する手立てが必要である。  小倉ら(2007)は,全国の小中学校における日々の理科授業の改善に役立てるため,優れた特徴をもつ理科授業をビデオ収録するとともに,その実践の何が優れているかを具体的に示すことによって,理科を指導する教師が参考にすることを目的とした研究を行った。本研究の基本的な発想は小倉らの研究に依拠する。つまり家庭科授業をビデオ収録し,その指導案を集めるだけでなく,家庭科教育の有識者が,その授業の何が優れており,何が課題なのかを具体的に示すことによって,家庭科の授業実施や改善を支援できると考えた。  ただし,小倉らの研究では,授業ビデオと報告書に掲載された評価コメントを,視聴者自身が対応付けながら視聴しなければならない点で不自由がある。そこで,共有された授業風景動画の特定場面と討論中の発言内容の対応を明示化する動画共有システムVISCO(小川ほか2009)を利用することにした。VISCOではコメントを具体的な映像場面に直接付与すると,吹き出しのように表示することなどが可能になるため,視聴しやすくなることが期待できる。  そこで,小学校家庭科授業の実施・改善を支援することを目指し,優れた点や課題点などのコメントを授業ビデオとともに閲覧することのできる動画共有システムと家庭科授業ビデオを一つのパッケージとして開発することを本研究の目的とした。 2.パッケージの開発手順と特徴  今回開発したパッケージには,VISCOおよび7本の小学校家庭科授業の動画ファイル,各授業の指導案が含まれている。   VISCOはWindows7を推奨環境とするシステムで,動画の映像場面にコメントを付与すると,インターネットを通じてコメント情報がサーバに蓄積される。視聴時には,インターネットを通じて,蓄積された複数人のコメント情報を動画上に吹き出しの様に重ねて表示させることができる。またコメントはリスト表示され,そこからコメントを挿入した場面に動画を移動させることもできる。  小学校家庭科授業およびその指導案は日本家庭科教育学会近畿地区会の有志によって収集・編集された。授業は学習内容A~Dから各1本以上とし(A=1本,B=2本,C=3本,D=1本),題材(テーマ)は重ならないように調整した。授業は学校長の許諾を得た上で撮影し,かつ子どもの名前や顔にはモザイク加工を施した。音声が聞き取りにくい場面にはテロップを付け,授業内容がわかる程度の長さにカットした(最短約16分,最長約38分,平均約24分)。  このように編集された7本の授業ビデオに,教員養成系大学・学部で家庭科教育に携わる研究者7名が分担して,VISCOを使って優れた点や課題・助言,解説等のコメントを付与した。1本当たりのコメント者数は3名,コメント数は平均48.3±11.5件であった。 3.今後の課題 小学校と同様の手続きで中学校・高等学校家庭科教育のパッケージを開発するとともに,研究者の付与したコメントの妥当性や有効性を検証することが今後の課題である。 本研究はJSPS科研費 24531124の助成を受けたものである。参考文献 小倉康ほか(2007)優れた小中学校理科授業構成要素に関する授業ビデオ分析とその教師教育への適用,平成 15 年度~18 年度科学研究費補助金 基盤研究(A)(1) 研究成果報告書 小川修史・小川弘・掛川淳一・石田翼・森広浩一郎(2009)協調的授業改善を支援するための動画共有システムVISCO 開発に向けた実践的検討,日本教育工学会論文誌,Vol.33, Suppl., 101-104
著者
赤塚 朋子 佐々木 和也 横山 弘美 大原 弘子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2016

<目的><br>&nbsp;&nbsp;衣生活領域の消費者教育を発達段階に応じて教材開発するための課題を抽出し、授業案を作成することを目的とした。<br><br><方法><br>&nbsp; 衣生活における消費者問題の把握と、衣服に関する知識を知るためのイメージマップ法と衣生活に関する実態を調査するためのアンケート調査を行った。<br><br><結果><br>1.衣生活における消費者問題の把握 <br>&nbsp; 県消費生活センターによれば、平成26年度の苦情相談件数上位5位の商品・サービスでは、19歳以下では1位「放送・コンテンツ等」、2位「履物」、3位「他の身の回り品/レンタル・リース・賃借」、5位「健康食品/書籍・印刷物/自動車/補習教育/役務その他」、20歳代では1位「放送・コンテンツ等」、2位「融資サービス」、3位「レンタル・リース・賃借」、4位「自動車」、5位「インターネット通信サービス」となっている。19歳以下で、2位、3位と上位に衣生活関連の消費者問題があることがわかった。<br>&nbsp; 衣生活に関する相談では、クリーニング・トラブル(しみ・変色・形状変化・破損・紛失など)、購入した商品に関する苦情(組成、耐久性、着心地など)、その他(柔軟剤、購入時および売却処分時のトラブル、製品に起因する事故など)があがった。関連して紹介があった事例では、着用で体にしみができたブラジャー、手にはめたところヌルヌルした手袋、詰め物が表示と違っていたこたつ布団など具体的であった。こうした衣生活における消費者問題が存在することの事例は、当事者にならなければ気が付かないことが多い。また実際に話を聞かなければ、原因が身に着けていた衣服であることも想像できない。県消費生活センターと連携することの重要性を痛感することとなった。<br><br>2.衣生活実態調査<br>(1)イメージマップ法 <br>&nbsp; 小学生、中学生、高校生、大学生に対して、衣服を中心に置き、そこから派生してイメージするワードをつなげてもらった。年齢が進むにつれて、アイテムの単語が多かったのが、衣服の成り立ちや手入れ、布の性質に関連する単語の出現が多くなり、大学生は衣服を環境面でとらえる割合も増えている。<br>(2)アンケート調査 <br>&nbsp; 主に中学生と高校生を対比して検討した。中学生から高校生へと年齢があがるにしたがって、衣生活での自分での行動が増えているようである。しかし、衣服を選ぶのは誰かの問いに対して、最も多いのは、両者ともに「自分と保護者」であることから、衣生活消費の面での自立が遅いことがうかがえる。衣服をインターネットで購入したことがあるかどうかの問いに対しては、中学生は半数に満たないが、高校生は約6割近かった。スマフォの所有率に比例すると考えられる。成長期のこの時期は、「服のサイズが合わなくなって着られなくなったから」、「長い間使用していてもう着られないと感じたから(例:布が薄くなるなど)」という理由で処分の対応をしていることがわかり、衣生活の消費の側面では、堅実さが垣間見られた。衣服の再利用やリメイクにも関心がないわけでもないこともわかった。<br><br>3.教材開発のための課題<br>&nbsp; 衣生活領域の消費者教育を発達段階に応じて教材開発するためには、1)衣生活をいつから自分で成り立たせているか、つまり衣生活の自立がいつから始まるかに大きく関係するため、その把握が重要であること、2)衣服の消費は既成品の中から選択することが多いため、その衣服がどのように作製され手元に届き、身に着け、最後はどうなるのかという一連の衣服のライフサイクルへの理解を知識としてどのように押さえるのか、3)購入時の知識は教材化しやすいが、管理・保存の知識・技術は実感を伴った教材になりにくいこと、4)ITの進展によるネットショッピングの普及により、身に着けるものでありながら、素材の安全性や繊維そのものの性質を知る機会をどう保障するのか、5)授業時間のない中、製作の場面を想定できる教材が必要だが、どうすればいいか、などの課題が抽出された。<br><br>4.授業案作成 <br>&nbsp;&nbsp;課題を受けて、発達段階に応じた授業案を検討した。
著者
伊藤 将太郎
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2016

<b>【目的】</b><br> 「家庭科は男女ともに学ぶ教科」という認識が浸透している一方で、家庭科を教える教員、また家庭科教員を目指す学生は、未だ女性が多い。そこで、男性家庭科教員、また家庭科教員を目指す男子学生は著しく少ない傾向にある理由・要因の追求を行う。所属する研究室に同様の目的で調査された卒業研究の結果があり、これらと比較することで、家庭科教員を目指す男子学生の現状と時系列の変化を知ることができるのではないかと考えた。また、今回の調査では、男子学生と共に学んでいる女子学生との比較を行い、より多面的に男子学生の実態に迫ることを目的とする。&nbsp;<br> <b>【方法】</b><br><b> 調査1:</b>「日本教育大学協会全国家庭科部門 会員名簿2014年度版」に記載されている教員養成系48大学49校を対象とし、家庭科に関する学部・学科・コースに在籍する(していた)男子学生数の調査を往復はがきで行った。同時に、H26年当時、すでに採用予定であった男子学生数(=H27年度採用)ならびに卒業生の中で中・高家庭科教員をしている人数をそれぞれ尋ねた。&nbsp;<br><b> 調査2:</b>調査1で回答のあった大学に協力をお願いし、男子学生・女子学生、各145名 計290名を対象に実態把握と意識調査を行ったところ、計117名から回答を得た(回収率40.3%)。内容は、学生自身の学習環境や状況、学習意欲等の6つのカテゴリーに分けた設問アンケートを郵送にて行った。<br> <b>【結果および考察】</b><br> <b>調査1:</b>男子学生数は、回答のあった大学で集計するとS63年度32名(49大学)、H13年度146名(43大学)、H26年度130名(35大学)という数字であり、S63からH13の増加数に比べると、H13からH26の変化は多いとは言えなかった。また、中・高男性家庭科教員数に関しては、回答校においてH17~26年度の10年間で計45名という結果であり、合わせても年間平均約4~5人しか中・高の家庭科教員になっていないということが分かった。<br><b> 調査2:</b>①家庭科についての印象は、以前の回答結果より「内容が面白く、興味が持てる」と感じている男子学生が増加していることが分かった。中・高の家庭科の授業を受けてきたことで、家庭科の良さを感じる者の割合が多くなっている。②科目別の興味関心度は、食物・保育分野に関する関心度が男女共に高く、「被服学」「被服製作実習」「被服実験」の3科目については、いずれも女子の方が関心が高く、男子学生の方が低い。③男性の家庭科教員の必要性については、約50%が「中・高で必要である」、約40%が「分からない又はどちらともいえない」であった。「必要である」の理由は、これまでの学習経験から、教員の男女差が気になっているというものが男女共に多い傾向であった。「分からない・どちらともいえない」の理由としては、男女の軸では考えていないというものが多かった。ただし、男性教員がいれば、何かしらの効果や影響を与えるのではと期待を込めた意見も見られた。④卒業後の進路は、中・高の家庭科教員になりたいという意欲は、男子学生の方が高く、将来中・高の家庭科教員を目指している学生が70%程度見られた。家庭科教員になりたいとする男子学生の理由は、「家庭科が好きだから」が一番多く、「男性家庭科教員が少ないから」という理由も多い。男性家庭科教員を増やしていきたいという気持ちも含まれていると考えられる。⑤男性家庭科教員が少ない要因は、『男は仕事、女は家事』という性別役割分業意識がまだ根強く残っていることを挙げ、「家事=家庭科=女子」のイメージが定着していると考えている。家庭科に女性教員が多いことで、家庭科に男性というイメージがもたれにくく、女性の世界へ飛び込む抵抗感が拭えない。また、「採用数や家庭科授業時数の減少など教育界の変化」も要因の一つだと考えている者がいた。授業数が少ないことで、(高校までの男子生徒に)興味を与える機会が少なく、家庭科の印象が薄く魅力が伝えきれず、仕事として家庭科を見る視野を充分に提供できていないという指摘もあった。
著者
土屋 善和
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.60, 2017

1.本研究の目的<br /> 中央教育審議会(2016)の答申では、今後の学校教育においてアクティブ・ラーニングの視点である「対話的な学び」「主体的な学び」「深い学び」を実現できる学習の必要性が説かれ、それらの学習により「学びに向かう力・人間性等」「知識・技術」「思考力・判断力・表現力等」の3つの資質・能力の育成を目指すことが示されている。そして、「思考力」の中でも、問題解決や意思決定に関わり合理性と創造性を伴う「批判的思考」は、複雑化・多様化する社会を生きる上でも、またよりよい生活を追究するためにも不可欠であり、生活を創造する力を目指す家庭科においても育むべき資質・能力と言える。<br /> 授業の中で批判的思考を促すためには、自分とは異なる価値観に触れることや意見を吟味・検討することなどが必要となるが、単なる意見交換の場面を設定するだけでは不十分であり、物事を深く考える場面が重要となる。そして、それぞれの生徒が深く考えるためには、深く考えるべき問いとアクティブ・ラーニングでも示されている協働的かつ対話的な学びを可能とする学習活動が有効であると考えられる。上述した教育政策を反映させた次期学習指導要領が示されている中、家庭科においても、アクティブ・ラーニングの視点を取り入れた批判的思考を促す授業を検討する必要がある。<br /> 以上を踏まえ、生徒が深く考える協働の場面を設定した批判的思考を促す授業を構想し実践した。そして本研究は、授業分析をもとに深く考える協働の場面における批判的思考を促す授業の在り方を検討することを目的としている。<br />2.研究方法<br /> 授業は2017年2月下旬から3月上旬にかけて、1クラス1時間で実施した。対象は附属中学校3年生の4クラスである。<br /> 本時では、よりよい消費生活をめざして「環境に配慮した消費行動」から「よりよい生活」へのつながりを考える協働の場面を設定した。まず生徒は環境に配慮した消費行動について、衣・食・住に関連する内容で付箋に記入をした。その後、生徒はそれらの消費行動の効果や影響について模造紙上に記入し、環境に配慮した行動が最終的に「よりよい生活」に行き着くように効果や影響をつなげて考えていった。また、他の班の模造紙をみてコメントをする時間も設定した。<br />なお、本研究では、グループで作成した模造紙、学習後の振り返りなどを分析・考察し本時の効果を検討した。<br />3.結果及び考察<br /> グループで作成した模造紙から、1つの消費行動について深く掘り下げているグループや1つ1つの消費行動が「ゴミ削減」や「エネルギー削減」といった影響や効果でつながっていることを示しているグループ、消費行動から考え出された効果や影響が1つのみであまり深く掘り下げられていないグループとグループごとに傾向があることが分かった。本時における協働の場面が、生徒にとって1つ1つの消費行動がどのようなことにつながっていくのかといった効果行動の意味や影響に気づく契機となると考えられた。<br /> また振り返りをみると、生徒は身近な行動を社会的な環境問題につなげることで、自身の行動の重要性や必要性を再認識した様子がうかがえた。本時が生徒にとって普段の生活の問い直しと価値づけにも寄与したと考えられる。また、「ゴミが減るとどうなるのかとか、(ごみが減る)という意見の次の意見が大切だと思った」といった生徒の記述もみられた。消費行動を深く掘り下げて考える場面を通して生徒は、行動自体の良し悪しではなく、行動をすることによる影響や効果に目を向けて考えることの大切さに気づいたと推察された。<br />4.今後の課題<br /> 大半の生徒は自分の生活場面を想定した環境に配慮した消費行動を具体的に示すことができた。しかし一方で、環境に配慮した消費行動の意味や根拠等について深く考えられた生徒は少なかった。今後の課題は本時より得られた示唆をもとに、それぞれの生徒にとって深く考えることができる協働の場面となるための手立てと批判的思考を促す授業を検討することである。
著者
畦 五月
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2016

<b></b><b>目的 </b>調理実習は小中高校の家庭のカリキュラム内容の一つに位置付けられ、小学校学習指導要領ではその手法としてグループ学習が明記されている。本報告では、調理実習を指導者提示の課題に対して、個々のグループがそれに適した献立を作成し実習する問題解決的な手法で行った。その結果としてグループでの協働の営みが、多様な人と仕事をするために必要な社会人基礎力の育成へ如何なる影響を及ぼすかを検討した。 <b>方法</b> 広島県内B大学在籍の学生で、「子どもの食と栄養Ⅰ」(講義)を終了し、「子どもの食と栄養Ⅱ」(実習)受講者を対象とした。この授業は調理実習を主体とする授業である。実習は幼児のための献立作成とその実習を目的としているが、グループで献立を作成し食材を購入し目的に適合した調理をするという一連の作業を学修者自身が企画・運営することも指導者として目標とした。授業1回目と授業終了時にアンケートを配布して、その場で記入し回収する方式を採用し、その回答の提出は自由で、回答内容は一切成績には影響しないことを口頭と文面双方で伝えた。 調査内容は①居住形態 ②実習前後の料理頻度と料理への関心 ③実習課題に対する試行錯誤の取り組みについて経済産業省による『社会人基礎力』(『アクション』『チームワーク』『考え抜く力』)の概念を基に作成した19項目、グループ活動での自己認識や関係性の7項目などを4段階で評価してもらった。分析にはSPSSを用い、クロス集計後カイ二乗検定を、分散分析後多重比較を行った。 <b>結果 </b>回答率は98%、その属性は自宅生43.5%、単独56.5%、男性4.2%、女性95.8%であった。居住形態と実習前の料理頻度(<i>p</i><0.01)は有意であったが、実習後には居住形態と料理頻度は有意ではなくなった。しかし実習への意気込みと食への関心度(双方とも実習後評価)は有意(<i>p</i><0.01)となり、実習の教育効果が認められた。既習の家庭科及び家庭での知識と実習への役立ち度は、共に平均点3.26を示した。 調理実習に問題解決的な学修を導入した結果、学修に対する意気込みと意欲の向上が図られること、さらにこれらの要因には仲間の存在が有意に関連することを畦(2013)は明らかにした。そこで、本報告ではグループ活動の学修効果をさらに検証するため、『社会人基礎力』の3能力の育成状況を詳細に検討した。 『アクション』『シンキング』『チームワーク』の3能力を構成する12の下位能力のうち、『アクション』の中の「働きかけ力」が最も低い2.96の平均を示した。逆に高い能力は『チームワーク』の「柔軟性」の3.43、『アクション』の「主体性」の3.31であり、全体平均は3.19であった。分散分析による3能力内での群内有意差が確認された(順に<i>p</i><0.01、 <i>p</i><0.05 、<i>p</i><0.05)。さらにその中でも特に『アクション』の「主体性」と「働きかけ力」(<i>p</i><0.05)、『シンキング』の「課題発見」と「計画力」(<i>p</i><0.05)、『チームワーク』の「発信力」と「柔軟性」(<i>p</i><0.05)が有意であった。対象は、主体性・柔軟性を持ち課題発見力を発揮しながら学修したが、計画力が不足し、相手への働きかけ力や、意見の発信力が低かったことが裏付けられた。 次にグループ内での自己認識や関係性を確認する7項目と『社会人基礎力』との関連を調べた。特に自己認識を問う項目の「仲間から期待される存在」「仲間の中で役割を担う」「仲間に対して何かできる」に対して、『アクション』『シンキング』『チームワーク』の11の下位能力は有意性を示した。一方で、関係性評価である「仲間とのつながりが深まる」「責任の公平性が保たれる」「グループで貢献度した」と『社会人基礎力』の下位能力間では有意な下位能力が極めて少なく、特に『シンキング』とは全く関連性はなかった。以上から、調理実習でのグループ学修では『シンキング』に関連する活動を意識し、学修者の変容に関与するような視点を学修内容に導入設定する必要があると考えられた。
著者
長澤 由喜子 渡瀬 典子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.57, 2014

<b>目的</b>&nbsp; &nbsp;平成19年改正学校教育法に規定され,現学習指導要領で育成が求められる「思考力・判断力・表現力等の活用する力」は,法的な縛りをもって登場していることから,学習指導要領の次期改訂においても現行より踏み込んだかたちで提示されることが想定される。家庭科においては評価規準の設定例においても,「思考力・判断力・表現力等の活用する力」として,学習内容のまとまりABCDの指導事項ごとに育成したい力が具体的に示されているわけではない。このことが,基礎的・基本的な学びが教科目標の実践力につながりにくい状況に少なからずかかわっていると考えられる。<br>&nbsp; &nbsp;そこで本研究では,「思考力・判断力・表現力等の活用する力」に着目し,授業実践を通して学習内容のまとまりABCDごとの活用力の具体化について検討することを目的とする。<br><b>方法</b>&nbsp; &nbsp;岩手大学教育学部附属小学校における平成25年度家庭科年間指導計画に基づく題材の中で,研究目的に即して適切な分析が可能な学習題材を検討した結果,「C快適な衣服と住まい」は生活経験を活かしやすく,「D身近な消費生活と環境」との関連も図りやすいことから,Cの題材を取り上げることとした。具体的には,C(2)イ「季節に変化に合わせた生活の大切さが分かり,快適な住まい方を工夫できること」に係る住生活題材を実践対象とした。自然の力を活用する力の見取りには夏季・冬季ともに「ダンボールルームの計画」の学習シートを用いた。夏季・冬季共通に分析対象とした児童は6年生の28名(男子13名,女子15名),実践期日は夏季2013年5月,冬季11月~12月である。 <br><b>結果</b>&nbsp; &nbsp;今回改訂の学習指導要領において住生活分野の対象題材で活用力として問われているのは,「日光や風などの自然の力をいかに活かして住まい方を工夫できるか」である。夏季・冬季それぞれの学習シートに書き込まれた表現から読み取った快適エレメントに係る分析結果及び活用力に係る考察は以下に要約される。 <br>(1)活用力をみる上で前提となる基礎的・基本的な知識・理解の実現状況についてみると,夏季の場合は28名中11名,冬季の場合は16名が基礎的・基本的な知識・理解が十分とは言えなかった。<br>(2)夏季で基礎基本が十分ではなかった11名について冬季における位置づけを検討すると, 11名中,冬季にも同じく基礎的・基本的な知識・理解が十分ではない判断された児童は8名であった。<br>(3)夏季に日射しのコントロールの記述がない児童は,冬季においても日射しの暖かさの利用に目が向いていなかった。<br>(4)夏季に風通しの記述がなかった7名のうち5名は,冬季においても換気に係る記述が見られず,気泡断熱シートや目貼りテープ等の隙間風防止の手段を例外なく用いていた。<br>(5)実践題材の学習シートから活用力として読み取らなければならないのは,「課題解決的な要素として何を対象としているか」及び「解決策をどうデザインしているか」であり,「基礎基本の要素に係るデザイン」をいかに見取るか,その具体的な視点を活用力として明示する必要がある。<br>(6) &nbsp;上記(1)(2)に示すように,活用の前段としての基礎基本が整わない状況で,課題解決としての家庭実践に実践題材における活用力を求めることができないことから,「ダンボールルーム」の学習シートを用いた効果的な活用力の育成について,上記(3)(4)(5)の結果を踏まえ,見直しの視点を示した。 <br>&nbsp; &nbsp; 以上,今回は「快適な衣服と住まい」の住生活題材に着目したが,内容のまとまりABCDそれぞれに検討が必要である。今後,ABCDそれぞれの実践課題を踏まえた上で,さらに分野ごとに効果的な活用力の育成について実践的な検討を重ねたい。
著者
奥谷 めぐみ 鈴木 真由子 大本 久美子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2016

<b>【目的】</b><b></b> <br>&nbsp;&nbsp;発表者は日本家庭科教育学会第58回において、情報社会における生活課題に焦点を当てた中学校家庭科の授業開発・実践の成果を報告した。デジタルコンテンツの売買に焦点を当て、実物との契約の仕組みの違いを扱うことで、消費者としての自覚、権利意識の育成を図ることができた。 しかし、生徒の生活経験や家庭環境によっては、デジタルコンテンツを身近な商品として捉えられず、一部の生徒にとって理解が困難な題材となってしまったことが課題として挙げられた。<br> &nbsp;&nbsp;そこで、デジタルコンテンツ購入のプロセスを動画化することが有効であると考えた。本研究では、ヴァーチャルな商品との関わり方を考え、市場における事業者側の意図について理解を促す動画教材の開発・評価を目的とする。 <br> <br> <b>【方法】</b><b><br></b> &nbsp;&nbsp;K中学校の中学生第2学年118名を対象に、全2時間分の授業実践を行った。1時間目を平成27年11月24日(火)に、2時間目を12月9日(水)、12月15日(火)の2日間に分けて実施した。<br>&nbsp;&nbsp; 分析対象は授業前アンケート(平成27年11月)と、授業時のワークシート、グループワークの結果、授業後アンケート(平成28年2月)である。 授業のワークシートからは、動画から読み取れることや課題を話し合った結果を、事前と事後からは普段の消費行動と、デジタルコンテンツへの意識についての変容(回収数109名/回収率92.4%)について分析することとした。結果分析は、Microsoft Excel2013及びIBM SPSS statistic22.0を用い、アンケート及びワークシートの記述内容を分析した。<br> <br> <b>【結果】</b><b><br> </b>(1)授業前後の消費行動とデジタルコンテンツに対する意識の変化<br> &nbsp;&nbsp;デジタルコンテンツに対する意識と日頃の消費行動に関する9項目の質問を設定し、「全くそう思わない~とてもそう思う」の5段階で回答を求めた。授業前後において同一の質問を行い、t検定によって平均値を比較した。うち6項目に有意差が見られた。特に、顕著(p<0.001)に差が見られたのは「商品やサービスを購入する時、作っている人のことを考える」や「商品やサービスについての不安や疑問があった時、企業や消費生活センターに相談することができる」といった項目であることから、事業者と消費者との関わりに視野を広げ、事業者側の意図を知る必要性を認識できたと考える。<br>&nbsp;&nbsp;また、「デジタルコンテンツにお金をかけることは良くないことだ」も肯定的な方向で変容があった。時間的、経済的に適切な情報技術との付き合い方を伝えるという点では、デジタルコンテンツ=悪としない、設問や内容に工夫が必要であったと考える。 <br> <br> (2)動画教材から読み取られた特色と授業の評価<br>&nbsp;&nbsp; ワークシートには、中学生に高額請求を受けた事例を挙げ、事例のみを聞いた状態でのトラブルの原因と、動画を見てから新たに考えた原因の2つの記述を求めた。事例のみの原因は「友人との競争意識」、「現金を使っている感覚がなかったから」等、消費者側の経験や感情に則した記述がみられた。動画からは「規約や確認画面、ペアレンタルコントロールの確認」や「ランクアップやゲームオーバー等プレイを続けさせたくなる仕組み」に関する記述がみられた。利用者側の問題だけではなく、サービスそのものにお金を掛けたくなる仕組みがあることに気付いていた。<br>&nbsp;&nbsp; また、授業での説明は分かりやすいものだった88.1%(N=109)、動画は見やすいものだった89.8%(N=108)、動画は自分の生活に身近なものだった85.1%(N=108)と、授業理解に関する肯定的な評価は概ね8割を超え、動画教材が理解を促す一助になったことが伺える。 <br>&nbsp; &nbsp;今後は、動画のポイント、問いかけ、解説等を加え、どのような教師でも利用でき、生徒の理解を促す仕掛けを持った動画教材に改善する必要がある。<br>&nbsp;&nbsp;本研究は、JSPS科研費26381267の助成を受けたものである。&nbsp;
著者
鄭 暁静 大竹 美登利
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.56, 2013

1.目的 今日、家族・家庭生活には様々な課題があり、日本と韓国はこれらの状況が類似している。家庭科教育はこうした家族・家庭生活に関する課題を主に扱っており、どのような内容を取り上げどのように学ばせるかは、教師の家族・家庭生活意識に影響されることも多い。また、その授業内容や方法によって生徒の学びは相違し、生徒の家族・家庭生活意識に与える影響は大きいと考えられる。そこで、本研究においては、日本と韓国の家庭科教師を対象に、教師の家族・家庭生活意識及び授業実態を調査し、日本と韓国の家族・家庭生活領域の教育の実態の違いを明らかにすることを目的とした。2.研究方法 (1)調査方法:日本の普通科高等学校(2000校)と韓国の一般系高等学校(1500校)の家庭科教師宛にアンケート用紙を郵送し、返送してもらった。 (2)調査期間:韓国は2013年3月上旬発送、日本は5月上旬発送し、それぞれ3週間後を締め切りとして返送してもらった。 (3)調査対象:有効回収数、韓国209名、日本570名であった。 (4)調査内容:学校の雰囲気、男女平等意識、結婚・家族生活意識及び授業の内容など。3.結果 (1)学校の雰囲気は家庭科教師自身の男女平等意識や家庭生活観に影響を与えるものと考えられる。そこで、学校の雰囲気について「周囲と違う意見を言いにくい雰囲気がある」など、9つの項目について尋ね、「全くそう思わない」(1点)、「そう思わない」(2点)、「そう思う」(3点)、「とてもそう思う」(4点)の4選択肢の中から1つを選ばせ、4段階評定尺度によって平均値を出し得点化した。その結果、「教員間の意思疎通がうまく取れている」、「教員会議などで活発な議論が交わされている」、「男性教員の方が女性教員より管理職から信頼されている」の項目においては韓国の方が得点が高く、日韓の間に1%水準で有意な差があった。一方、「新しいことをはじめにくい雰囲気がある」の項目は日本の方が得点が高く、日韓の間に1%水準で有意差があった。 (2)男女平等意識をはかるため、「能力や適性は男女で異なる」など、11の項目について、4段階評定尺度によって得点化した。その結果、「女性の校長、教頭を増やした方がよい」という項目において、日本の方が得点が高く、日韓の間に1%水準で有意差があった。 (3)結婚生活に求めるものの重要度について「精神的な親密さ」など、10の項目について尋ね、4段階評定尺度によって得点化した。その結果、「経済的な安定」以外の全ての項目において韓国の方が得点が高く、中でも「性的満足度」、「子どもを生み育てること」、「趣味が同じであること」、「社会的な地位を築くこと」、「同じ人生観、価値観を持っていること」、「親や周囲の期待に応えられること」の項目で1%水準で有意差があった。 (4)家庭科の授業内容の中で、現在、重点をおいて教えている内容について、複数回答で尋ねた。その結果、韓国は「配偶者の選択と結婚」が75.0%、「妊娠と出産」が63.0%、「家族の関係と家庭の機能」が54.2%など、結婚・家族に関しての内容が多く扱われていた。一方、日本は「食事と健康」が91.7%と突出して多かった。また、今後、重点をおいて教えたい内容について、複数回答で訪ねた結果、日本と韓国両国とも1位は現在と変わらないが、韓国は「高齢者・障害者の問題」、「共生社会と福祉・社会的支援」が、日本は「職業・キャリア教育」、「生活設計」が新たに注目されていた。
著者
楢府 暢子 阿部 睦子 亀井 佑子 志村 結美 仙波 圭子 仲田 郁子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2016

【研究目的】<br>&nbsp;&nbsp; グローバル化が進展する中、世界の人々と共に生活していくためには、日本や地域の伝統、文化についての理解を深め、他国の文化も理解し、共に尊重する態度を身に付けることが重要である。中央教育審議会答申(2008)においては、家庭科の関連事項として、「衣食住にわたって伝統的な生活文化に親しみ、その継承と発展を図る観点から、その学習活動の充実が求められる」と明記された。&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp; <br>&nbsp;&nbsp; 本研究は、家庭科教育における日本の伝統的な「生活文化」に関する教育内容・教育方法について現状を検討し、小・中・高等学校の授業を創造し、実践し、検証して授業提案を行っていくことを目的とする。本研究では、「人間がよりよい生活を営むために工夫し、努力してきたもの」を「生活文化」と考え、「文化」「歴史」「伝統」「地域」などをキーワードとし、主に衣食住に関する事項を取り上げている。<br>&nbsp;&nbsp; 本報では、第58回大会、平成27年度例会に引き続き、全国の国立大学法人附属小・中・高等学校の教員対象調査から生活文化に関連する授業分析の報告をする。<br><br>&nbsp;【研究方法】 <br>&nbsp;&nbsp; 全国の国立大学法人附属小学校・中学校・高等学校の家庭科担当教員に2014年3月に「生活文化」に関する授業調査を行った。結果、小31校、中29校、高9校、計69校から回答を得た。その中の先進的な授業実践から一事例を取り上げ、報告と分析を行う。具体的には、国立大学法人A中等教育学校の学校設定科目である6年生(高校3年生)対象の選択科目「生活文化」の実践内容と2001年度受講生25名と2015年度受講生12名の授業後の感想の分析等である。<br><br>【結果及び考察】<br>&nbsp; &nbsp;国立大学法人A中等教育学校では、平成10年公示の学習指導要領で生活文化の伝承と創造が取り入れられたことを受けて、6年生(高校3年生)の選択授業に「生活文化」を設置することとした。科目設置のねらいは、伝統行事や社会的慣習の意味や内容を体験的に理解させるとともにその背景となる先人の知恵や考え方を知ることによって、生徒自身が生活文化の重要性に気付き、それらを現代の生活の中で自分たちなりの工夫をしながら継承していくことである。<br>&nbsp; 2単位の通年のこの授業では、実習と講義を隔週で行った。調理実習では、季節の食材や行事に関連したものを取り上げ、それに関連する講義も併せて行った。具体的には、草餅、梅干し、おはぎ、おせち料理、クリスマス料理などである。実習内容は、日本だけでなく、海外の行事や慣習も扱った。調理実習だけでなく、手紙の書き方、冠婚葬祭のマナーなど日常生活におけるしきたり、心遣いについても扱った。調理以外に水引き、祝儀袋、しつらえなど日常生活に見られる伝統技術の実習も行った。<br>1年間の授業後の生徒の感想からは、「日本の生活文化について正しく理解していなかったことがわかった」や「常識がないことに気づいた」など自分自身に対しての気づきが多く認められた。また、各授業内容について、「ためになった」、「楽しかった」など肯定的な評価がほとんどであった。この授業全般に対して、「生活に役立つ、日本人として知っておくべきこと」など、必要性を認めていた。<br>&nbsp;&nbsp; 今後の課題は、今までの調査等を踏まえ、A中等教育学校を含めた具体的な授業事例の分析から、種々の条件の中で実施できる授業提案につなげていくことである。また、国立大学法人学校授業調査において、どの校種でも生活文化を学ぶことで培える力として「自分自身の生活課題に気づく」を挙げる教師が半数を超えており、生活課題の気づきに焦点を当てた授業内容の検討を合わせて行いたい。
著者
長山 知由理
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, 2012

1.序論 最初に循環器系として,神経・血管カップリングを提案したい1).神経・血管カップリングによって,循環器系から神経系を推定できる.心臓の機能を計測する方法として,ECGなどを挙げられる.肺の機能である心拍数についても,成人した健常者では目安値があるため疾病の診断などにおいて活用されている.このような心臓機能や肺機能などの循環器系は,神経系と連動していて神経パルスとECGや心拍数は同期している.神経・血管カップリングはガウス関数であり,ニューロンの活動は正規分布をしている. 神経により動くものには視覚系や聴覚系の他に,神経パルスにより行動になるので歩行機能を良く結び付ける.脊髄には,CPG(Central Pattern Generator)という生体を制御する仕組みがある.このことによって,身体全体のバランスを維持するように歩行することができる. 2.目的 神経・血管カップリングによって正規分布を描いた知覚系・運動系の成果から,脳システムに関する家庭科について検討する.このようなニューロンの活動について利用することで,生徒に情報教育に関する深い知識・理解を与えることを目指したい.   3.方法 中学校の生徒116人に対して,アンケート調査を実施することになった.生徒には,インフォームド・コンセントを実施した.質問項目は,a.衣生活のこと,b.食生活のこと,c.住生活のこと,d.消費生活のこと,e.家族のことに分類した各およそ20問の質問用紙に5段階評価で答えさせることをした.アンケート調査の結果は,各段階の人数をカウントした後にパーセント表示した.   4.結果 オレンジ色には女性が似合うのだと回答した生徒が多く見られて,既にあるジェンダーの研究とほぼ同じような結果が得られた.このことから,本研究で実施したアンケート調査は参考になる程度のサンプル数であったのだと言える.その他にも睡眠を促す色とされている緑色には,夏らしいイメージがあることが統計的に分かった. 生徒は環境,福祉,国際,安全,情報のテーマ中では,『安全』に対する興味・関心が最も高い結果であった.また別の項目では,生活に欠かせないものとして衣・食・住と水道・電気・ガスを挙げる生徒が目立った.このように『情報』や電話とインターネットに関しては,なくても困らない生徒が目立った結果であり,教育的問題を感じられた.   5.考察 水道・電気・ガスなどの住宅設備には生徒も関心を持っているようなので,是非とも情報教育の方針を取り入れたいものだ.水道・電気・ガスを最も利用するキッチンの設計では,関節可動域への配慮を欠かせないだろう2).関節可動域とは身体の動作域のことで,脳システムから推定される神経パルスなどで評価される.人体採寸などの実験・実習は,家庭科教育全般に関する実践の際に取り入れたいものだ. またインターネットによる消費電力の管理などの最新技術によって,日常生活の快適詩・利便性は拡がる.省エネ(節電・節水)は,生活に欠かせないものである水道・電気・ガスについて環境課題と関連させて指導できる可能性があるように思う.家庭科で電話やインターネットについて環境問題の観点から指導することで,アンケート調査の結果を改善していきたい.   6.結論 電話やインターネットについて,生活に不可欠でないのだと感じている生徒が目立ったことを受けて,改善させるための授業計画を練った.神経・血管カップリングの成果から,脳システムを取り入れることでペースメーカーへの理解を深められる.更に電磁波に関する課題を知らせた上で,調査結果から躍度によるキッチン設計について授業実践した.以上のことから,単なる興味を実生活で実現するために,家庭科に情報教育という方向性を与えられた.   文献 1)Buxton RB et al. Neuroimage 2004. Vol. 23, pp. 220 – pp. 233 2)AIST 人体寸法・形状データベース
著者
石澤 美代子 得丸 定子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.56, 2013

【目的】食育基本法(平成17年)や新小学校学習指導要領解説(平成22年)等において食育の重要性がうたわれている。この現状下、筆者らはその知識習得や日常の食生活への波及効果を期待し「食育すごろくゲーム」を開発し、平成23年1月、小学校6年生家庭科の授業において実践し好評を得た(第54回本大会にて報告)。今回、実施から1年以上経過した時の本教材の影響や印象を調べるため、中学1年生となった対象児童(以降生徒)にアンケートを行ったので、報告する。【方法】調査時期は平成24年3月で、授業実践から1年1ヶ月が経過していた。対象者は、授業実施小学校から全児童が進学する長野県T中学校の1年生72名のうち、他小学校から転入した生徒や授業当日欠席だった生徒を除く、62名(男子29、女子33名)である。調査は、授業実施の記憶やその内容、授業実施後食事について変わったことがあるか等6項目からなる記名式アンケートである。なお、アンケートの配布・回収は生徒の担任が担当し、当時の授業等について全く触れずに行ってもらった。分析は、集計数については独立性の検定を、自由記述についてはテキストマイニングにより行った。【結果】「去年1月に『食育すごろくゲーム』を使った授業を覚えていますか」の問いに、「覚えている」との回答は42名(67.7%)で、男子15名(51.7%)、女子27名(81.8%)であり、女子の方が有意(p<0.05)に多く覚えていた。「強く印象に残っているものは何ですか」の問いには、40名(男子15、女子25名)が記述し、最多ワードは「コマ(食品サンプル)」であった。「今でも覚えている知識は何か」の問いには、36名(男子15、女子21名)が記述し、最多ワードは「特にない」であり、次いで「三色群」であった。「またやるとしたら誰とやりたいか」の問いでは、複数回答で、「友だち」が33名(男子14、女子19名)、次いで「きょうだい」が11名(男子2、女子9名)、以下、祖父3名、祖母3名、母2名等と続いた。「授業をきっかけに食事のことで変わったことがあるか」の問いには、複数回答で、「1日三食食べるようにし欠食しない」が17名(男子6、女子11名)、「今までより料理を手伝うようにした」が16名(男子5、女子11名)、「家族と食事について話すことが増えた」が15名(男子7、女子8名)、「食事のことで注意されることが減った」が14名(男子7、女子7名)、以下「三色の群を気にして食べるようにした」、「今までより栄養や食事のことを気にするようになった」「今までより郷土食に興味がでてきた」「(ツールのひとつである)くりだし六角形に興味が出てきた」であった。【まとめと考察】1年以上経過したが、本教材を使った授業について67.7%の生徒が記憶しており、女子の方が有意に多かった。印象に残っていることは「コマ(食品サンプル)」であった。覚えている知識は「三色群(食品を三つの色の群に分けること)」が多くあったが、「特にない」との記述も多くあり、授業や教材を覚えてはいるが知識として習得されていない可能性が示唆された。また、授業をきっかけに食意識が向上したり、食についての家族との会話や料理手伝い等が増えたとの回答が多く、本教材による食生活への波及効果が示唆された。