著者
根本 亜矢子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2016

【目的】<br> 中学校家庭科の「食領域」においては、生涯にわたって健康で安全な食生活を送るための基礎知識を身につけること、食事の役割について理解を深め、基礎的な調理ができることをねらいとしている。「日常食の調理と地域の食文化」項目では、食事には文化を伝える役割があることを理解し、地域の食材を生かした調理、地域の食文化にも関心をもつことが取り上げられている。しかし、内閣府による食育に関する意識調査報告書(2014年3月)によると、地域や家庭で受け継がれてきた料理や味について知っている者は46.9%であり、半数を満たしていなかった。そこで、地域の伝統的な行事食や郷土料理について、どの程度理解しているのか、食生活・生活習慣も含めて調査を行った。<br><br> 【方法】<br> 北海道F大学に在籍する女子学生のうち、同意が得られた156名を対象に2014年10月に実施した。調査項目は、食育に関する意識調査を参考にし、食育への関心4項目、地域の食文化(行事食・郷土料理)に関すること6項目のほか、日ごろの食生活・生活習慣に関すること6項目について無記名自記式質問紙法により実施した。行事食、郷土料理については、知っていると回答した者に対し、料理3つまで記述してもらった。回答に不備があるものを除き、132名を解析対象とした。<br><br>【結果および考察】<br>1.食育への関心 食育の言葉も意味も知っていた者は99名(75.0%)、言葉は知っていたが意味は知らなかった者は33名(25.0%)であり、食育に関心があると回答した者は、128名(97.0%)であった。食育の日および食育月間を知っている者は、それぞれ44名(33.3%)、54名(40.9%)であり、食育の日の認知度が低かった。<br><br>2.地域の食文化 行事食を知っていると回答した者は106名(80.3%)であり、おせち料理が最も多く、次いで桃の節句、端午の節句の行事食であった。回答した中には、料理名ではなく行事名での回答がみられた。節分については、炒り大豆、福豆の回答はみられず、恵方巻が多かった。行事食の料理として土用の丑の日、ハロウィン、クリスマスという回答も見られた。中学校家庭科教書の中では、受け継がれる食文化として、雑煮・おせち料理(正月)、おしるこ(鏡開き)、七草粥、炒り大豆、福豆(節分)、ちらしずし、ひなあられ(桃の節句)、かしわもち、ちまき(端午の節句)、そうめん(七夕)、月見だんご(中秋の名月)、おはぎ(彼岸)、かぼちゃ(冬至)、年越しそば(大晦日)が行事食として取り上げられていた。北海道の郷土料理について尋ねたところ、知っていると回答した者は110名(83.3%)であった。中でも鮭を使用した料理(石狩鍋、チャンチャン焼き)の回答が多く、全体の76.3%であった。行事食や郷土料理を次世代に伝えたいと回答した者は116名(87.9%)であり、地域や家庭で受け継がれてきた料理や味を大切にしたいという意識が高いことがわかった。<br><br>3.食生活・生活習慣 朝食を欠食する者は32名(24.2%)であった。日々の生活に時間的なゆとりを感じている者は44名(33.3%)、感じない者は51名(38.4%)であり、朝食を欠食する者の方が、日々の生活に時間的なゆとりを感じていない者が多かった。自分の健康状態について、とても良い、まあまあ良いと回答した者は96名(72.7%)であったが、どちらともいえない20名(15.2%)、あまり良くない、良くないと回答した者は16名(12.1%)であった。<br><br> 以上のことから、食育への関心は高く、地域の食文化について認知度は高かった。しかし、伝統として長く受け継がれてきた行事食の意味、生活の節目の行事に用意する特別な食事であることを正しく伝える必要性が確認できた。
著者
西谷 圭二 信清 亜希子 河田 哲典 佐藤 園
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.50, pp.89, 2007

<B>1.目的</B><BR> 現在、我が国では、偏った栄養素等摂取など食に関する問題が顕著になっており、小学校家庭科にもその解決の一端が期待されている。しかし、第49回大会で発表したように、現在の小学校家庭科の食生活学習には、児童が生涯にわたり健康を保持増進していくために必要な「食事の意義・食品の選択」に関する知識が欠落・不足しているため、それを充足できる新たな小学校家庭科の授業開発が急務であると考えられた。<BR> 授業開発に必要な児童の栄養素等摂取の現状と問題点を明らかにするため、岡山県の小学校第5・6学年の児童135名を対象とした2日間の食事調査、及び、岡山県浅口郡里庄町立里庄東小学校の全校児童280名・東京都八王子市立浅川小学校の第5学年2組の児童38名を対象とした給食調査を、写真記録法により行った。その結果、新たな小学校家庭科の授業には、2006年度例会・第50回大会で発表したように、食事を栄養素等と食品群の両視点から捉え、食品に含まれる栄養素等の種類と量から自分に必要な栄養素等・食品の量を同時に把握する能力を育成できる教育内容の必要性が示唆された。<BR> 上記の条件を達成する教育内容を検討した結果、児童に、自分に必要される栄養素等・食品の量を同時に把握させるためには、食品が栄養学的な特徴から食品群に類別され、各食品群の必要量がサービングポイントで表されるとともに、各食品の概量が理解できる食品群を用いた教育内容を編成することが有効であると考えられた。<BR> 以上から、本発表では、児童が自分に必要な栄養素等と食品の量を同時に把握することのできる授業を開発するため、以下に示す方法で研究を行い、サービングポイントを用いた新規「食品群」を開発することを目的とした。<BR><B>2.方法</B><BR>(1)食品群の選定<BR> 「平成16年国民健康・栄養調査成績」、及び、先の三つの食事調査から明らかにした児童の食品群別摂取の現状と問題点から、新規「食品群」に求められる条件を検討した。その後、現在我が国の小・中・高等学校家庭科で使用されている「三色食品群」・「六つの基礎食品群」・「四つの食品群」、及び、授業構成の基盤とする栄養学習プログラム"Teaching Nutrition by Teams-Games-Tournament"における「四つの食品グループ」に示された食品の類別を基に、新規「食品群」を検討した。最後に、検討した選定条件から新規「食品群」の群数と食品群の食品の例示を決定した。<BR>(2)食品の選定<BR> 岡山大学教育学部附属小学校の平成18年1月12日~平成19年1月31日の学校給食の献立構成表(日数196、献立数951)を分析し、献立に使用された食品の使用頻度を算出した。その後、得られた食品の使用頻度を基に、新規「食品群」に使用する食品を選定した。<BR>(3)サービングポイント・サービングの算出<BR> 現在、中学校家庭科で使用されている『六つの食品群別摂取量のめやす』を基に、新規「食品群」の各食品群における摂取量のめやす(g)を設定した。その後、「食品解説つき新ビジュアル食品成分表[増補版]」に示された食品の概量から新規「食品群」に使用する食品の概量を設定するとともに、各食品群毎のサービングポイントを算出した。最後に、食品群別荷重平均成分表を用いて新規「食品群」と食事摂取基準との比較を行う。<BR><B>3.結果</B><BR> 現在は、各食品群毎のサービングポイントの算出が終了した段階である。今後は、上記「方法」に示した手順で検討を進め、発表時に詳細な結果を報告したい。
著者
福田 典子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.47, pp.15, 2004

<目的>生活用水の使用量は年々増加傾向にある。この用水は排水として、下水に流されるが、わが国の約半数といわれる下水道の完備されていない地域においては、直接河川に排出されている。一般に河川には微生物等の力で、汚濁物質を分解する能力があるが、短期間に多量の物質が流入し、水中の汚濁物質が高濃度になり、微生物の分解能力を超えると、水棲生物などへの影響が生じる場合も予想される。生活用水は様々な生活場面で不可欠であり、その家族構成やライフスタイルにより異なるが、使用量の多いものから、調理・入浴洗面・洗濯となることが知られる。これまでに、洗濯排水に関しては界面活性剤やリン酸塩などが問題視され、生産者サイドでは様々な対策が講じられてきた。行政サイドには、下水道の充実や汚水処理施設の充実を一層望む。生活者サイドの役割について日常生活での行動から考えると、生活における用水の使用状況を見直し、節水やカスケード利用の方法を実践的に指導し、定着を図ることが何よりも優先されよう。第ニに、汚れと基質(汚れが付着しているもの)の性質に応じた洗剤の種類や濃度の選択についての正しい知識を有し、実践力を身につけさせることが不可欠であろう。そこで、家庭科教育において家庭や学校における指導を徹底し、生活者一人一人の行動変容を期待したい。そこで、本研究では、日常生活において最も身近であり、実践し易い行動の1つである「衣料用洗剤を適正量使用すること」に注目した。洗剤の使用量と汚れ落ちの関係を実物の観察によって実感させ、児童・生徒が洗剤濃度に関心を持ち、自らの洗剤の使い方に意識を高め、正しい利用ができることをねらいとした実験教材を開発した。大学生を対象とした授業実践を通して、その教材の有用性と課題等について指導方法を含めて考察することを目的とした。<br><方法>研究授業は2003年1月、国立大学構内調理実習室において、45分の1回で実施した。授業対象は大学生女子20名であった。当日の水温は11℃、天気は雪のち晴れであった。実験教材の試料は綿スムース(綿100%白ニット)10cm角、モデル汚染物質は希釈用コーヒー飲料、モデル洗剤は市販洗濯用合成洗剤であった。汚染布は室温にて、授業日の1日から3日前に直接浸漬処理して作成し、風乾させて用いた。同一濃度に均一に汚染させるよう配慮した。実験教材の洗浄方法は、1リットルのペットボトル内に1リットルの水道水を入れ、キャップをして、50回手で上下に振ったのち、水道水で軽くすすいだ。授業の流れを以下に示した。まず導入部では、コンサートに出掛けるために服を選ぼうとして、洋服に染みがついていたという劇を見せ、着用後の手入れの重要性を意識化させた。展開部で着用後の衣類は実際にどのようにしているか学習者自身の日常生活を振り返らせ、手入れの中でも主要な洗濯という日常の衣類管理上不可欠な行為に目を向けるように配慮した。次に、10cm角のTシャツ生地にコーヒーの染みがついてしまったら、1リットルの水で洗うとしたら、洗剤はどのくらいの量が必要だろうか。という発問を投げかけ、洗剤量を予想させた。そこで、8条件の実験で用いる洗剤グラム数を提示し、予想させた。実験は4班に分かれて、班ごとに、2つの濃度の違う洗剤液を作成させ、それを用いて洗濯を行い、汚れ落ちの具合を観察比較させた。実際に洗浄後の汚染布の状態は師範台の上に並べた8枚の様子を洗剤濃度とともに示した。洗浄後の布をビデオカメラで接写し、プロジェクターで投影し、拡大して、8枚の汚れ落ちの程度を並べて学習者に観察しやすいように工夫した。終結部では、洗濯機の中に洗剤を多く入れても、汚れ落ちは変わらず、排水中の洗剤濃度を高めるだけであることを知らせ、洗剤の適正量を守ることの重要性を伝えた。<br>【結果】実験後記述された学習カードの分析より、学習者が洗剤は多く入れれば入れるほど、汚れが良く落ちるわけではないことを実感し、洗剤には水の量(洗濯物の量)に応じて、適正量があることに気付いている様子が伺えた。また、環境に負荷の少ない洗濯方法を実践しようとする態度が形成されることが期待できた。衣服を着用すると、手入れが必要であり、適切な手入れをすることは、環境に負荷が少ないだけでなく、経済的であることにも気付かせることが可能であることがわかった。実験の際には、予想をさせる段階で、どのような内容(情報)をどのような方法で学習者に対して与えるかについて、一層検討すべきであることがわかった。また、本実験教材では、汚れ落ちの観察方法の説明において、汚染布と洗浄布を比べて、洗剤濃度によって、どのくらい汚れ落ちの程度が違うのかを比較するということをしっかりと明瞭に指示する必要があることがわかった。
著者
田中 京子 岩崎 香織
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.50, pp.77, 2007

<B>【目的】</B><BR> マズローの欲求階層説によれば、生理的欲求を満たすことが人間の最も基礎的な欲求とされる。食生活の知識・技能の習得は、生理的欲求を自ら満たす術を身につけることであり、愛情と所属欲求や自尊欲求、自己実現欲求といった、より上位の欲求を満たす基盤になると考えられる。日本の子どもの自尊感情は、世界的にみて低いことが指摘されており、1990年代以降、家庭科教育においても子どもの自尊感情を育てることへの関心が高まってきている。<BR>本研究は、高等学校家庭科食領域の授業において、生徒の食生活の知識・技能を向上させる上で有効と考えられるプログラムを実験的に開発・実践し、1)食生活の知識・技能の習得、および2)子どもの自尊感情(Self-esteem)の2点から授業効果の検討を行うことにより、家庭科教育への示唆を得ることを目的とする。<BR>第1報では、開発した授業の内容と実施した授業の様子について報告する。第2報では、実施した授業の効果について報告する。<BR><B>【方法】</B><BR>1、調査の概要<BR>お茶の水女子大学附属高校3年生(3クラス、女子117名)の家庭科(家庭総合)の授業(2006年4月~2007年1月)を対象として、調理実習を中心とする食生活の授業(ミニマムエッセンシャル調理実習)の開発と授業効果の測定を行う。授業開発・実施を田中が担当し、調査設計・効果測定を岩?が担当する。授業効果の測定は、1)参与観察(4月~1月、週1回、1クラスを対象)と2)質問紙調査(記名自記式、同一内容調査を授業前5月と2学期末12月の2回、全クラスを対象として実施)の2つの方法を採用する。<BR>2、授業開発の経緯<BR>田中は、高校家庭科の指導経験をもとに、生活での実践につながる、材料と手順を単純化した基本的な料理を『ミニマムエッセンシャルクッキングカード』にまとめた(田中2006)。本研究では、このレシピをもとに、3年生対象の1コマ(45分)の授業時間で[材料・調理法の説明、調理、試食、片付け]の全てを実施する調理実習を開発した。授業内容は1)親子丼(7月)、2)中華風あんかけ焼きそば(9月)、3)ドライカレー(11月)、4)ビビンパ風丼(12月)、5)赤飯(1月)の全5回である。これらの実習は、食生活領域としてまとめて実施するのではなく、「自立に向けて」を包括的なテーマとして、家庭経営や住居領域の授業と並行させて実施した。<BR>3、附属高校家庭科の特徴<BR>対象校の家庭科の授業は、2004年度入学生から家庭総合5単位を実施することとなり、対象者は1・2年次に、食生活の科学と文化を学習し、調理の基礎(1年次)献立調理(2年次)を経験している。本研究で対象とする3年生の授業は、1・2年次の授業を基礎として、実生活で応用する力を身につけることをねらいとした。また、1・2年次は家庭総合のすべての授業で班別学習を実施しているが、3年次は2単位のうち1単位分のみが班別学習となっている。<BR><B>【結果】</B><BR>参与観察の結果、実習初期(7月~9月)には、作り方が途中で分からなくなる生徒、作業分担の出来ない生徒が多くみられたが、実習後期(11月~1月)には、教師からの調理法の説明の際に自ら質問する生徒、事前に班内で手順を確認し、班員の行動を先読みして次の行動を選択する生徒が現れた。また、実習後期には、試食中の発話が増え、自己の食生活の反省(毎日の夕食にコンビニ弁当を購入する、最近家族が料理を作ってくれない)や、自分の作った料理に対する感動(「やっぱり家庭料理が一番だよね」)等が現れ、生徒が自己の食生活の知識・技能に自信を深める様子が観察された。
著者
菱村 佳子 飯村 しのぶ
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2016

【目 的】 <br> 2012年「消費者教育推進法」が施行され、この中で学校における消費者教育の推進については、発達段階に応じた体系的・総合的な消費者としての能力の開発が目指されている。とくに中学校では、消費生活についての基礎的・基本的な知識の習得をもとにそれらを消費者の基本的な権利と責任に結びつけ、消費者としての自覚を高めていくことが必要である。本研究では、小学校での学習を基盤にして、中学生の身近な消費行動と関連させながら消費者としての自覚を高められるよう、具体的な場面を設定し実践的な学習を試みた。<br> 【方 法】 <br> (1)2015年12月に札幌市公立中学校2年生4クラス116人を対象として中学生の金銭・消費行動に関する基本的なアンケート調査を実施した。 (2)上記のアンケート調査結果を踏まえて、2016年2月に同様の生徒達を対象に、「商品の選択と購入」の授業として「考えてみよう!&rdquo;読み取り上手は買い物上手&rdquo;~こんにゃくゼリーの場合~」を各クラス1時間ずつ実施した。教材として「マンナンライフの蒟蒻畑 ララクラッシュ」(8個入り160円)の商品パッケージ(両面)を印刷したワークシートを作成し使用した。 授業の展開は、1)個人作業として「売る人の立場になって、この商品のセールスポイントを1つあげよう」、つぎに「買う人の立場になって、この商品の注目するところを1つあげよう」との問いかけをした。つづいてそれらをもとに2)グループ作業として、上記の個人作業の結果について意見交換をさせた。さらに、3)再び個人作業として、「買う人の立場でとくに注意した方がよい商品情報」をあげさせ(複数)、その理由についてもワークシートに記入させた。2)3)を通して発表された意見を教師が黒板に板書する形でまとめ、クラス全体で確認をおこなった。その際、自分以外の意見については、ワークシートに追加記入するよう指示した。最後に<まとめ>として、「あなたの友達がこの商品を買おうとしている時、あなたはどのようなアドバイスをしますか」について考えさせワークシートに記述させた。<br> 【結 果】<br> 生徒が売る側のセールスポイントとして挙げたのは、商品パッケージの表面に書かれている「おなかの調子を整える」(約60%)が最も多かった。一方買う側の注目箇所としては、「価格」(約36%)、「味と内容量」(約24%)、「1個あたりの食物繊維量」(約19%)の順であった。中学生では、栄養効果よりも味に対する期待が上回っていた。この他では期限表示に注目した生徒が約1割あり、この表示は小学校家庭科での学習を通して生徒たちには身近なものとして捉えられていることがわかった。グループでの意見交換と発表の後は、買う側がとくに注意すべき商品情報としてパッケージの裏面にある「食べる際の注意事項」(死亡事故につながるかもしれない、体質によってはおなかの調子が悪くなる)や、「原材料名」(アレルギーへの注意)、「問い合わせ先」(問題が起きた時に必要)など、当初は注目されていなかった表示に目を向ける生徒が多くなった。さらに、消費者にとって本当に必要な情報は、商品パッケージの表面よりも裏面に多く表示があり、しかも小さい文字で書かれていることに気付いた。その結果、<まとめ>のアドバイスとしては商品裏面に記載されている説明文に注目するよう促す内容が多く見られた。 授業後の「学習記録表」に記入された生徒の自己評価によると、「これから買い物をするときには小さい文字もよく見て買うようにしたい」「気をつけて見る必要がある表示がたくさんあって驚いた」「今までは価格と好みだけで選んでいたが、これからはもっと他の表示にも目を向けたい」などの記載が見られ、「生活に生かせる知識・技術」としての授業効果が確認された。<br> &nbsp;
著者
荒井 紀子 鈴木 真由子 綿引 伴子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.58, 2015

<br><br><br><br>【目的】<br>&nbsp; &nbsp;1980年代後半以降、学校の中でしか通用しない力を標準テスト等で測るのではなく、現実の生活の中で真に働く力を評価する方法論が米国を中心に模索されてきた。ウィギンス(Wiggins, G.)等により「真正の評価(Authentic assessment)」の概念が提示され、それ以降、「リアルな課題」に取り組ませるプロセスのなかで子どもを評価する試みが各国で施行されている。スウェーデンにおいても、2011年のシラバス改訂により、評価基準を明示化し、その到達に向けての学習の工夫が志向されている。本報告では、同国の家庭科の新シラバスにおける評価尺度を検討すると共に、評価方法として提示されている「真正の評価」の事例として、パフォーマンス評価をとりいれた学習事例を取り上げ、子どもの学習の実際と、学習構造の特徴について分析する。<br><br>【方法】<br>&nbsp;&nbsp; スウェーデンの2011年家庭科シラバスおよび関連文書、教師用解説書等について文献調査を行なった。また2014年10月に、ヨーテボリ市郊外の中学校において、「真正の評価」の方法論としてパフォーマンス評価を採用した授業を参観するとともに教師の面接調査を行った。加えて新シラバスおよび評価方法について、ヨーテボリ市、ストックホルム市およびウプサラ市の大学関係者と家庭科教師に、聴き取り調査を実施した。<br><br>【結果および考察】<br> &nbsp;&nbsp; スウェーデンでは、2011年に知識の獲得と定着、選択の自由の拡大、生徒の安全の確保の3点を促進する新教育法を制定し、新カリキュラムを導入した。大きな特徴として、学習の評価尺度をAからFまでの6段階(このうちA~Eが合格)で示し、評価を第6学年から開始することを定めるとともに、知識をより深く広く獲得するための方法として「真生の評価」の方法を提示している。家庭科については、2つのパフォーマンス評価の演題「持続可能なランチ」「タコスの夜」が開発され、それを活用することが推奨されている。<br> &nbsp;&nbsp; 今回参観した「持続可能なランチ」(9年生、6時間)の学習は、以下のような3段階構造をとっていた。1)「持続可能」をキーワードに、a.健康・栄養、b.価格や品質、c.環境への影響の3点(これらは生徒が生活の質について考えるうえで重要な家庭科シラバス全体を貫く観点)に配慮した献立を各自で考え、活動内容、道具・調理方法、時間行程を検討し計画を練る。(180分) 2)12名が調理実習者と観察者の6組のペアになり、実習者は自分で考えた献立のもとに、手順に沿って食材を調理し、料理を完成し、片付けまで全て1人で遂行する。観察者は終始そばで実習の様子を観察し、評価シートに結果を記入する。この役割は週毎に入れ替わる。(80分) 3)実習後、キーワードと3つの観点から自己の実習について省察し、観察者による評価シートも参考にしながら、改善点を考え自己評価を行う。(60分)<br>&nbsp;&nbsp; 全体的に、実習者の集中力と意欲の高さは際だっており、かつ楽しんで活動する様子が観察された。知識を理解しつつ、それをスキルに結びつけ、かつ試食という本番に向かう学習の構造であること、および本人の自由な発想が保証されていたことが、生徒の意欲ややりがいを刺激した要因と考えられる。また評価の視点が全員に通知され共有化されており、さらに、「健康」「経済」「環境」の3観点を目ざすことがどの程度できたかを生徒が省察的に自己評価することになっている。評価という行為が、生徒の学習の深化を促す契機となり得ているのは、こうした学習の構造によるところが大きいと考えられる。<br>&nbsp;&nbsp; なお、これらの授業が、実習時間の長さ、1クラスの人数の少なさ、機能的なシステムキッチンの整備などに支えられている点も無視できず、日本の家庭科の学習環境の問題がみえてくる。<br><br>&nbsp;&nbsp; パフォーマンス評価のもうひとつの演題「タコスの夜」の分析と、日本における「真生の評価」に関わる授業のさらなる開発が今後の課題である。<br><br>
著者
亀原 めぐみ 森田 みゆき
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.56, 2013

〈目的〉 本研究は、2009年発表の「高等学校家庭科における洗浄力試験教材の開発」、2011年発表の「高等学校家庭科における洗浄力試験教材の実践」を基に、その実践結果について報告するものである。2009年の研究では大学生を対象に実践を行い、その結果、この実験を用いて授業を行う有効性を得られた1)。2011年の研究では、高等学校家庭科授業時に高校生を対象に実践を行い、この実験によりどのような効果が得られるのか、また改善すべき点は何かを明確にし、教材としての有用性を高めることができた2)。そして今回の研究では、「家庭総合」被服分野の授業の教材として授業に組み込み、実践を行ったものである。実験から得られる効果は何か、より精査な教材にするに改善すべき点は何か、明確にすることを目的とする。〈方法〉 汚染布は(財)洗濯科学協会の湿式人工汚染布を用いた。汚染布を一枚ずつ渡し、各家庭で洗濯を行ってもらった。調査項目は、洗濯衣類、洗剤、洗濯物の詰め込み具合、使用した水の種類である。洗浄後の汚染布を持ち寄り、全員で見た目での比較の順位付けを行った。その結果と調査項目を一覧表にし、それを資料に衣生活管理の授業を行った。さらに全員にアンケートを実施した。実践1:高等学校家庭科「家庭総合」1年生19名。2012/2/1実施。実践2:高等学校家庭科「家庭総合」1年生20名。2012/2/5実施。実践3:高等学校家庭科「家庭総合」1年生20名。2012/2/5実施。実践4:高等学校家庭科「家庭総合」1年生16名。2012/2/5実施。実践5:高等学校家庭科「家庭総合」1年生19名。2012/2/7実施。実践6:高等学校家庭科「家庭総合」1年生19名。2012/2/7実施。〈結果〉 前回からの改良点 1)汚染布を他の洗濯物に安全ピンで留め付けることで、途中で失くす生徒はいなかった。2)教師側が用意した多様なサンプルも含めて洗浄効果の順位付けをしたことは、多くの例を示す上でもよかった。3)実験時の調査項目を4項目に絞ることで、項目が多いと取り組む意欲を削ぐといった点を、改善することができた。意識の変化 洗濯への関わりは、実践前後で次のように変化した。「ぜんぜんしない」54%→42%(減少)、「いつもする」5%→10%)、「よくする」5%→10%「時々する」12%→16%「自分のものは自分でする」10%→14%(増加)。このことから、実験を通して洗濯への興味関心が高まった事がわかる。実験時の感想から 実験の効果として次の6つが挙げられる。1)「洗濯、というものがわかった。」「汚れたものを洗うということをやって、気持ち良かった。」洗濯への興味関心を持たせられる。2)「洗濯中、時々止まることがあるのを知った。」初めて洗濯機を使い、洗浄の仕組みについて関心を持つ子もいた。3)「自分の布はあまりきれいになっていなかったのに、クラスの人のはとてもきれいになっていて驚きました。」「クラスの人が洗ってきている布を見て、洗濯はそこまで落ちるわけではないのを知った。」友達と比較することで高い興味関心を引き出せる。4)「小さくなった。布の周りの糸がほつれた。」洗浄効果以外の、洗濯による布の傷みにも気付くことができる。5)「普段から部活のユニフォームを親に洗濯してもらっているが、とても大変なことだと改めて思いました。感謝の気持ちを忘れないようにしたいです。」「家の人から、これからもやってくれるとうれしいんだけど…と言われた。」家族とのつながり・会話の一助になる。6)「『家庭科でやった』と言ったら、『じゃあ、自分のものは自分でね。』と言われ、自分の洗濯物は自分で干すところまでやるようになった。家庭科の授業を通して、家事に少し興味を持ったよ!」「洗剤のCMを気にするようになった。」興味関心の広がりが見られる。今後多くの生徒が日々の実践へとつなげていくためにはどうしたらよいか、その点を見据えた授業展開が、検討課題と言える。1) 高等学校家庭科における洗浄力試験教材の開発、亀原、森崎、森田、日本家庭科教育学会第52回大会要旨集、132-133頁(2009)2) 高等学校家庭科における洗浄力試験教材の実践、亀原、森田、日本家庭科教育学会第54回大会要旨集、176-177頁(2011)
著者
荒木 葉子 笹原 麻希 三神 彩子 長尾 慶子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.57, 2014

<b>【目的】</b>比較的水源に恵まれた我が国では、水の大切さをあまり意識することなく大量の水を使用しており、生活用水の一人当たりの使用量は297L/日(2010年)となっている。一方、水資源を活用するためには、水の揚水、浄水、下水及び汚水処理の各段階で大量のエネルギーを必要とし、我が国の上下水道事業における電力使用量は総電力使用量の1.4%、約150億kWh(2010年度)を占めている。そこで、本報告では、水使用、特に食器洗浄に着目し、実態調査などから食器洗浄に関する問題点を洗い出して、家庭への省エネルギー策の普及を目的とした節水行動を推進するための方策を検討することとした。<br><b>【方法】</b>まず、食器洗浄法に関して、小学校家庭科教科書での記述内容及び洗剤メーカーなどの情報提供の現状について調べるとともに、欧米と日本の食器洗浄法について、それぞれの特徴、節水に対する考え方や具体的な節水方法を文献調査などにより比較検討した。次に、各家庭の上下水道の家計費に占める割合を調べて、電気やガスなどの光熱費と比較した。また、新渡戸文化短期大学1年生45名に対して食器洗浄に関するアンケート及び実態調査(洗剤使用量、水使用量および残留洗剤量)を行った。<br><b>【結果】</b>小学校家庭科教科書内に食器洗浄法に関する記述はあるものの、限られた時間内での実習であることから、食器洗浄指導が十分な時間を割くことが難しい現状が考えられる。短大生のアンケート調査では、家庭における食器洗浄の機会は、約7割において小学生の段階で発生し、洗浄手法はその約9割において親あるいは家族から伝えられたものであった。また、各種洗剤のCM等の影響もあってか、現代の日本においては、直接洗剤を塗布しての洗浄及び流し洗いが好まれており、上記アンケートでも、残留洗剤に対して懸念する声が多かった。<br>&nbsp;一方、欧米諸国では、ため水洗いが主流であり、日本のような流水洗浄は習慣化されていないことが多い。省エネ及び節水を推奨するためにIFHE (国際家政学会)が作成したポスターでも、汚れを落とし、洗剤を混ぜた温水でのため水洗い後、きれいな温水でのため水すすぎ、乾燥といった手順が推奨されている。また、日本と違って温水洗浄が主流である。これらの洗浄方法の違いは、水資源を大切にしようとする節水習慣に起因していると考えられるが、衛生面からの配慮や温水洗浄による水切れの良さ、硬水での長時間流水洗浄は食器にカルキがつきやすいこと、食器の形状などにも理由があると考えられた。<br>&nbsp;我が国でも江戸時代以前はため水を使った食器洗浄が行われていたとされるが、現代においてそれが廃れてしまった背景には、流しの狭さも関係していると見られる。欧米のような2層式シンクやため水作業が行いやすいシンクのサイズは日本のシステムキッチンでは少数派である。また、電気、ガス、通信費と比較しても上下水道費が廉価であることも節水につながりにくい要因の1つだと考えられる。<br>&nbsp;食器洗浄に関する実態調査では、大半が洗剤原液を付けたスポンジでこすり洗いをした後、大量の流水によってすすぐ方法を選択しており、直径15cmのポリプロピレン製食器1点の洗浄での洗剤使用量は0.5mL~5mL、水の使用量300mL~1300mL、残留洗剤量は0.05ppm~2ppmと個人差が大きかった。一方、希釈洗剤を用いた洗浄ではすすぎ水が少なくて済む傾向が認められ、大量に食器を洗浄する際にはため水洗いによって節水できる可能性が示唆された。<br>&nbsp;食器洗浄に関して、洗剤の適量使用、適切な取扱いによって効率化を図るとともに、衛生面も担保した洗浄の方法を教育指導することは大きな改善につながると考えられた。そこで、今回の調査から明らかになった点を整理し、学生指導のための適切な食器洗浄方法を図式化した。今後、この方法を習得した学生の食器洗浄時の水使用量測定などを通して、行動変容による省エネルギー効果や行動を阻害する要因について継続して検証を行っていく予定である。
著者
佐藤 雪菜 高木 幸子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.58, 2015

<b>〔目的〕</b> <br> 小学校家庭科における製作学習では、製作経験が少ない児童に対して限られた時間の中で指導することが求められており、結果として作品を完成させることに重きが置かれやすい現状がある。筆者は、2013年度に児童が考えながら取り組むことを目的とする製作学習を行ったが、活動の質を高めるためには、児童一人一人の進め方などの違いに対応できる学習環境を整えることの必要性が課題となった。そこで、本報告では、製作活動の進め方や進度、支援教材の活用の仕方に、児童の製作活動への取り組みの傾向(学習スタイル)や教材提示のタイミングがどのように影響しているのかを検討することを目的とする。 <br> <b>〔方法〕<br></b> 2014年11月~12月に新潟市内の小学校第6学年2学級(A組:男子17名 女子18名、B組:男子18名 女子18名)を対象に題材名「作ろう!オリジナル袋」とした授業実践を行った(A組8時間,B組6時間)。実践前には(1)児童の特性を捉えるためのアンケートを行い、結果を因子分析法によって分析し学習スタイルを整理した。実践後に(2)製作進度や進め方・支援教材の活用の仕方等の観点について、学習スタイル別の特徴をワークシートや製作物・事後アンケート等を用いて検討した。また、教師の働きかけとして(3)支援教材(動画・作り方ブック)の提示方法の違いによる児童への影響を、2学級の比較を通して考察した。 <br> <b>〔結果〕</b> <br>(1)事前アンケートは、滝聞・坂本ら(1991)が作成した認知的熟慮性‐衝動性尺度の項目<sup>1)</sup>、学習スタイルに着目した製作学習の開発を行った中沢ら(2010)の調査票<sup>2)</sup>などを参考に構成した。因子分析法を用いて分析し、児童の学習スタイルを〔熟慮/衝動型〕,〔能動/受動型〕として整理した。<br> (2)〔熟慮/衝動型〕の視点から比較して違いが確認されたのは、製作の進め方であった。衝動型の児童は製作初期から一定の速さで製作を進めていたのに対し、熟慮型の児童は製作初期よりも後半に製作の速さが高まる傾向が見られた。また、作品完成までの時間を比べると、能動型の児童の方が受動型の児童よりも早く製作を終えていた。これら2つの学習スタイルを組み合わせて考えると、熟慮かつ能動型に含まれる児童が早く製作を終え、熟慮かつ受動型に含まれる児童が完成までに時間がかかっていることがわかった。児童が使用した支援教材の種類を比較すると、使い方では〔熟慮/衝動型〕において違いが確認された。衝動型よりも熟慮型の児童の方が、動画を利用して製作を行っていることが伺えた。また、全過程を通して支援教材を用いず友達や先生に聞いて進めていたのは、衝動かつ能動型の児童にのみ見られた。支援教材の分かりやすさについては、学習スタイル別による有意差は見られなかった。 <br>(3)支援教材の提示方法に関して、毎時間の製作開始前に作り方ブックと動画を提示した学級の児童の方が、他の学級の児童よりも作り方ブックを分かりやすいと感じていた。 <br> 以上、学習スタイルの違いを捉えることで、製作学習の進め方や進度に影響していることが確認できた。多様な児童の製作活動を充実させ一人一人の学習を保障するためには、これらの違いを参考にした学習支援環境づくりを行うことができるのではないかと考える。今後、学習支援環境を構成し、その効果を確かめることが課題である。 <br>1)瀧聞一・坂本章,(1991),「認知的熟慮性-衝動性尺度の作成―信頼性と妥当性の検討―」,日本グループダイナミックス学会第39回大会発表論文集,39-40 2)中沢公美他,(2011),「小学校家庭科における製作学習の開発と実践-学習スタイルに着目したマスク製作-」,教材学研究(22),137-144
著者
猪野 郁子 田結庄 順子 入江 和夫
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.46, pp.10, 2003

<研究目的> 研究目的は第1報と同様である。 中学・高校生の実態を明らかに,得られたデータと全国データを比較し,地域の課題に対応した家庭科カリキュラム開発の基礎資料としたい。 <br><研究方法> 第1報と同様。調査実施期日,実施校,配布数,有効回収数等,入力・集計等は第1報のとおりである。 <br><研究結果> 中・高校生の特徴があったものを記す。<br>1.基本的な生活技能の実態と意欲・関心について<br>1)食衣住生活技能の実態と意欲・関心---食生活 4項目全てにおいて学年進行に伴って実践率は低下していた。全てで女子が実践率が高かった。「家族の夕食を作る」は、中・高ともに実践率が食生活の中で最も低いが、中国中2の実践率は全国中2と比較して高かった。衣生活3項目において学年進行に伴って高まる結果が表れ,中・高ともに4項目全てにおいて女子の方が実践率が高かった。パソコン利用の項目では,中2女子を除いて、全国と比べて利用状況が低い。中学生では女子の方が男子より利用状況が高く、高校生では男子の方が女子より利用状況が高くなっていた。住生活では中・高ともに,4項目全てにおいて女子の方が男子より実践率が高く,男女差も学年進行に伴って拡大していた。<br>2)対人関係について---3項目全てにおいて,学年進行に件ってほぼ同じ実践率であるか,低い。「近所の人へのあいさつ」は,全国と比較して,中・高ともに高い実践率であった。<br>3)もっとすすんでするようにしたいと思うこととその理由 理由は「気持ちが良くなるから」が中・高とも多かった。<br>2.生活についての自己管理 <br>1)金銭についての自己管理---外出時の所持金額においては、中2では2千円位、高2では5千円位と学年進行に伴って金額が高い。男女別に見ると、中・高ともに女子の方が男子より金額が高かった。<br>2)コンビニへ行く目的---コンビニヘ行く目的は,「食べ物を買う」「飲み物を買う」が圧倒的に多い。中・高生は,全国の中・高生より「コンビニヘは行かない」割合が高いことから,全国の中・高生と比べて利用することが少ない。<br>3.幼児との関わり <br>1)幼児の遊び相手を頼まれたときの対応---中・高ともに「遊んであげる」が最も多く,学年進行に伴って増加していた。中・高の男女ともに,遊び相手をひきうけようという意識は高い。<br> 2)遊んであげる理由---中・高ともに「子どもが好きだから」が最も多い。「子どもが好きだから」は学年進行に伴って増加している。「子どもが好きではない」という理由をあげた者は学年進行に伴って減少しており,全国の結果と逆の結果となっていた。<br>4.家庭の働きと家族についての意識<br> 1)家庭の働きについての意識---物質的なものが存在する場として捉えるのではなく、精神的な豊かさを育む場として捉えていた.女子は,家族や近所の人など人と人のつながりを重視していた。<br>5.家庭科の学習経験とその効果 最も高かったものは,中「できるようになった」,高「わかるようになった」であった。高の「考えるようになったこと」の「ある」割合が「ない」割合を下回っていることは、今後の課題である。まとめ 1~3 報の結果より,「生活価値観の育成」と「人と人とのかかわりを重視した」カリキュラム開発の必要が指摘できた
著者
渡邉 智美
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.57, 2014

【目的】<br> 高等学校「家庭」の科目、家庭基礎の食事と健康では、「健康で安全な食生活を営むために必要な基礎的・基本的な知識と技術を習得させ、生涯を見通した食生活を営むことができるようにする」ことが求められている。家庭基礎の食事と健康で学んだことを生活のなかで実践できるようにするためには、生徒の実態に応じた題材を取り上げ、調理実習を通して指導することが必要である。<br> 本研究では、調理経験の少ないと思われる生徒でも調理ができ、課題のねらいが理解できるように教材の改善を試みた。<br>【方法】<br>(1)平成24年度に、県立高等学校1年生70名を対象として、夏バテを防ぐための1食分の献立作成と調理・レポートという夏休みの課題を与えた。さらに教員が作成した教材「野菜をたっぷり摂れるレシピ」を生徒へ配布した。このとき配布した教材について、作り方の理解度に関するアンケートを実施した。アンケート結果をもとに、教材「野菜をたっぷり摂れるレシピ」を改善した。<br>(2)平成25年度に、同校1年生66名を対象として、改善した教材「野菜をたっぷり摂れるレシピ」を使用した夏休みの課題を与えた。課題後に調理方法、課題のねらい(野菜を多く摂ることができる調理方法を知る)に対する理解度や調理の意欲についてアンケートを実施した。<br>【結果】<br> 平成24年度の夏休みの課題で、生徒が作成した献立の約60%は、野菜の使用量が食品群別摂取量のめやすの1/3を充たしていなかった。そこで、野菜を多く摂ることができる調理方法を学習させるために、教材「野菜をたっぷり摂れるレシピ」を生徒へ配布した。レシピは根菜のお味噌汁とスープカレーである。根菜のお味噌汁には人参と大根などを使用。スープカレーにはキャベツ、玉ねぎ、プチトマトとウィンナーを使用した。この教材についてのアンケートで、材料の切り方が分かったという回答は82.5%、分からなかったという回答は17.5%であった(回答者63名)。材料の切り方が分からなかったという回答をした生徒が指摘した4種の切り方について、教材に図を加えた。また加熱時間を具体的に示し、さらにカラー刷りにした。<br> 平成25年度の夏休みの課題で、生徒は改善した教材「野菜をたっぷり摂れるレシピ」2つから1つを選択し、調理を行った。この教材についてのアンケートで、材料の切り方が分からなかったという回答は1.5%であった。前年度の教材を改善したことによって、切り方が理解しやすくなったと考えられる。またレシピの選択では、根菜のお味噌汁が30.3%(20名)、スープカレーが69.7%(46名)であった。レシピを選択した理由(複数回答あり)は「美味しそうだから」が32名と最も多く、次いで「簡単そうだから」が14名であった。このように生徒が美味しそうと思うような料理を題材とすることにより、生徒に調理の意欲を持たせることができる可能性があると考えられる。また、選択しなかったレシピも調理しようと思った生徒は54.5%であった。加熱調理をすることにより、野菜を多く摂取できることを理解した生徒は45.5%にとどまったため、今後さらに教材を改善する必要があると思われる。<br>
著者
吉井 美奈子 大本 久美子 岸本(重信) 妙子 田中 洋子 藤川 順子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, 2012

【目的】<br> 近年、消費者庁の設立などの機会によって、消費者教育の重要性が改めて認識されつつあるものの、今なお教育現場では消費者教育に関わる問題が山積している。消費者教育はこれまで必ずしも体系的に実施されてきたとは言えず、日本消費者教育学会も消費者基本計画に関する提言の中で、「系統的・計画的な消費者教育の欠如」を指摘している<sup>1)</sup>。消費者教育は、主に家庭科や社会科で行われているが、特に家庭科では衣食住などの各分野における体系立てた消費者教育が必要であると言える<sup>2)</sup>。これまで、本研究メンバーの一部で、食生活分野での教材を作成し、その効果を検証してきた<sup>3)4)</sup>。本研究では、体系立てた消費者教育を目指し、「安全」「契約・取引・家計」「生活情報」「環境・責任・倫理」の各領域の目標を設定し、その目標が達成できるような消費者を目指す消費者教育教材作りを衣生活分野において行う。<br>【方法】<br> 消費者教育を体系的に行うための領域別目標を掲げ、その各目標を達成できるような教材作りを「衣生活分野」において行った。具体的には、衣生活の流れに沿ったスゴロクを作成し、カードなどを使うことで購入、使用、管理、廃棄(環境への配慮)などが一連で学べるようにした。小・中・高全ての校種で活用できることを目的としているが、今回はまず中学・高校で活用できる教材作りを行い、改良を重ねながら小学校等でも活用できるようにしていく予定である。<br>【結果と考察】<br> スタートからゴールまでの間にあるイベントマスで「商品カード」「表示カード」「エコカード」を引きながら、自立した消費者を示す星マークを多く集めてゴールを目指す教材を作成した。スタート近くでは、衣服を購入するための金銭的なイベントマスを用意し、目標を立てて貯蓄することの大切さなどを感じられるようにした。「商品カード」では、様々な視点から商品を捉えられるように工夫した。「表示カード」では、商品についている表示をクイズ形式で答えるようにし、知識を確認できるようにした。「エコカード」では、環境に配慮した廃棄や再活用について考えられるようにした。また、全員がゴールした後、講師が「お知らせ」を発表することで、知的財産への配慮などの必要性を感じることができるようにした。 本教材の特長は、消費者教育を体系立てて学べるということの他に、ゲームを援用したことで、生徒が自ら学ぼうという意欲が高まるようにしたことである。加えて、ゲームを活用することで、単に「楽しかった」で終わらせず、知識を付けながらコマを進められるように工夫した。また、ゲーム終了後の振り返りを利用して、既にゲームを通して獲得したポイントの数を変動させて意外性を持たせることで、より強い印象を付けることができる。<br>&nbsp;1)日本消費者教育学会「消費者計画に関する提言」(2004年12月13日)内閣府へ提出した意見書<br>2)「消費者教育体系化シートの領域別目標の達成と課題-大学生の消費行動に関する意識調査を手がかりにして―」吉井美奈子、他(2010)消費者教育第30冊、日本消費者教育学会<br>3)「食生活における消費行動に関する領域別達成度と課題」岸本(重信)妙子、他(2011)消費者教育第31冊、日本消費者教育学会<br>4)「食生活分野における消費者教育教材の検討-教材開発の成果と課題-」吉井美奈子、他、日本消費者教育学会第31回全国大会、2011.10.23
著者
前田 紀夫 磯部 由香 平島 円 吉本 敏子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.54, pp.56, 2011

<B>目的:</B>現在実践されている中学校の調理実習では、習得すべき技能・技術が明確に位置づけられておらず、献立構成や指導方法において個々の生徒の技能・技術の習得という視点が欠けている(河村、埼玉大学紀要、2009)。本研究では調理実習を通して身につけるべき力を「1人で調理できる技能・技術」であると定義し、生徒の個々の技能・技術の定着に主眼を置いた授業展開を提案することを目的とした。これまでに調理に必要な技能・技術を盛り込んだ献立3種(A:鰯のかば焼き・青菜のお浸し、B:ホワイトシチュー・ブラマンジェ、C:スパゲッティミートソース・トマトサラダ)と、新しい調理実習の指導方法として、「1限2品3まわり調理法」(3人1組になり、1限で2品の料理を2人が1品ずつ調理し、1人が観察者となって2人をサポートする方法)を報告した。本報では前回の報告で提案した献立と指導方法を用い、授業を実践することにより調理技能・技術習得に対する1人で調理することの効果について検討した。<BR><B>方法:</B>三重県内のA中学校の1年生(全3クラス)を対象に、2010年の4月~10月にかけて3つの献立を用いて調理実習を行った。1人で調理することの効果を比較するため、「1限2品3まわり調理法」だけでなく「1限1品調理法」(班で役割を分担して1限で1品を作るという方法)と「2限2品調理法」(班で役割を分担して2限で2品を作るという方法)を加え、各クラス異なる指導方法で調理実習を行った。各クラスの人数は24~25名であった。効果を検討するため、小学校での調理操作の経験等を問う事前アンケートを最初の授業に行った。また調理実習実施の前後には、リンゴの皮むきを実技テストとして行い廃棄率を計算した。さらに学期末には、筆記テストや事後アンケートを行った。有意差検定にはt検定やχ&sup2;検定を用いた。<BR><B>結果:</B>本報では2010年の1学期に行った献立Aおよび献立Bの調理実習実施前後での指導方法による調理技能・技術習得の差について検討した。事前アンケートにより生徒の調理技能・技術について調べたところ、22%の生徒が小学校で「調理実習において習得すべき技能・技術」の経験がないとわかった。調理実習前の調理経験にはいずれのクラスにおいても差がなかった。実技テストでは廃棄率の変化により検討したが、「1限2品3まわり調理法」を行ったクラスにおいて調理実習前後で廃棄率が下がっており、包丁の技能・技術の向上がわずかに見られた(<I>p</I> < 0.1)。事後アンケートにおいて「1限2品3まわり調理法」を用いたクラスは「1限1品調理法」や「2限2品調理法」を用いたクラスよりも調理操作の自信度の高いことがわかった(<I>p</I> < 0.05)。また、調理実習でとりあげた献立を家で作ってみたいと答えた生徒の割合は「1限2品3まわり調理法」が最も多かった。筆記テストでは、「ホワイトシチューの材料の切り方で正しい組み合わせを選びなさい」という設問に対して「1限2品3まわり調理法」の生徒は「1限1品調理法」や「2限2品調理法」より正解率が高かった(<I>p</I> < 0.05)。献立においては煮込み料理である「ホワイトシチュー」は時間がかかるため、1限の調理実習には適しておらず、2限の調理実習に相応しいことがわかった。また、「1限2品3まわり調理法」は「2限2品調理法」や「1限1品調理法」よりも多くの授業時数を要した。今後は、献立ごとに「2限2品調理法」や「1限1品調理法」を取り入れつつも、1人で調理する場面をできる限り増やす工夫が必要である。また、各献立においても1人で調理させることで習得させたい技能・技術に焦点を当て、実技テスト等も行うことで、個々の調理技能・技術習得や向上につなげていくことが課題である。
著者
小林 裕子 村田 晋太朗 永田 智子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.61, 2018

【研究の背景と目的】<br><br> 平成29年告示の学習指導要領では,中学校家庭科において新たに「B衣食住の生活(5)生活を豊かにするための布を用いた製作」で「衣服等の再利用の方法」を扱うことになった。中学校学習指導要領解説技術・家庭編(2018)には「着用されなくなった衣服を他の衣類に作り直す,別の用途の物に作り替える」などが例として示されている。しかし,現在中学校で使用されている家庭科教科書(開隆堂・東京書籍・教育図書)の内,2冊はリフォーム・リメイク等の単語がイラスト付きで簡単に紹介されているのみ,1冊は古着を持ち寄り衣服や小物にリメイクしている団体の取り組みに関する内容であり,実践的で具体的な内容や方法は記載されていない。<br><br> 衣服等の再利用に関する研究として,高森(1999)や赤塚ら(2016)による「衣服等の再利用」に関する調査がある。中高生は衣服の再利用やリメイクに関心がない訳ではないが(赤塚ら2016),着用しなくなった衣服をリメイクする生徒は僅かである(高森1999)ことが分かっている。高等学校段階では消費生活やESDと関連づけた研究調査や実践があるが,中学校段階ではほとんど見当たらない。<br><br> そこで,中学校家庭科「衣服等の再利用の方法」の教材開発を目指し,本研究では中学生対象に「不要になった布製品の活用について」の質問紙調査を実施し,家庭で不要となっている布製品の実態や対処方法・リメイク経験や興味関心等について,中学生の実態を把握することとした。<br><br><br><br>【研究の方法】<br><br> 質問紙調査の内容は(1)家庭で不要になっている布製品の種類,(2)不用になった布製品の家庭での対処方法,(3)不要になった布製品を何かに作り替える(リメイク)ことへの関心度,(4)不要になった布製品を何かに作り替える(リメイク)ことの経験について,(5)何かに作り替えて(リメイク)みたい布製品の種類,(6)具体的なリメイクのアイデア(自由記述)である。<br><br> 2018年3月,兵庫県M市と大阪府S市の中学1・2年生422人(M市275人,S市147人)を対象に行った。<br><br><br><br>【結果】<br><br> (1)家庭で不要になっている布製品として,「Tシャツ(59.5%)」が最も多く,次いで「靴下(48.1%)」が家庭にあることがわかった。(2)不要になった布製品の家庭での対処方法は,「誰かにあげる・譲る(62.5%)」が最も多く,次いで「捨てる(59.5%)」となった。(3)要になった布製品のリメイクへの関心度は,「とてもある・少しある」と「あまりない・ない」がともに50.0%であった。(4)不要になった布製品のリメイク経験は「ある」の回答が31.3%,「ない」が68.7%であった。(5)リメイクしてみたい布製品は「Tシャツ(46.0%)」が最も多く,次いで「ジーンズ(41.5%)」,「タオル(36.7%)」,「ハンカチ(29.1%)」の順となった。<br><br><br><br>【考察と今後の課題】<br><br> 質問紙調査の(1)と(5)の結果から,家庭で最も不要になっている布製品であり,生徒が最もリメイクしてみたいと考えているものが「Tシャツ」であった。「Tシャツ」は,生徒が自宅から持参しやすく,リメイクに対して関心も高いことから,次期学習指導要領で新たに示された「衣服等の再利用の方法」を扱う授業の教材として適切であることが示唆された。<br><br> 今後は,不要になったTシャツをどのようにリメイクすることが中学生の発達段階に適し,かつ資質能力の育成に寄与するか,具体的なリメイクの方法を検討し教材化することが課題である。
著者
日景 弥生
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, 2012

<b>はじめに<br></b><b></b>&nbsp; 家庭科の授業で行われる実習は、学習の手段として位置付けられている。発表者は、2007年以降、小学校家庭科学習内容に関する児童生徒の知識および技能の実態調査を行っており、同一対象者に対し、1回目のボタン付け結果を提示することにより2回目は「できた」割合が高くなったこと、生活技能が高い人は自己肯定感が高いこと、ジェンダーにとらわれている男子児童は生活技能を積極的に習得しようとしないため技能程度が低いこと、被服製作や調理に関する知識が高い生徒は技能程度も高いこと、などを報告している。<br>&nbsp; 以上のようなことを踏まえ、本研究では、青森と東京都において小・中学生を対象に、地域における知識や技能の実態を調査することを目的とした。<br><b>方法<br></b><b>1.アンケート調査<br></b>1)調査時期および調査対象【調査対象】青森は小学5年生106名、中学1年生188名、中学3年生193名、東京は小学5年生154名、中学1年生157名、中学3年生152名(以下、小5、中1、中3)とした。【調査時期】2011年5月~12月に実施した。<br>2)調査内容および方法<br>【学校以外の実践経験】学校以外での裁縫と調理の経験の有無を、「はい」または「いいえ」で回答させた。<br>【被服製作用語と調理用語】小学校家庭科教科書から、被服製作技能を伴う用語17項目と、調理技能を伴う用語20項目について、「できる」または「できない」で回答させた(技能の自己評価)。<br><b>2.「ボタン付け」テスト<br></b>1)調査時期および調査対象;上記のアンケート調査と同じとした。<br>2)調査方法<br>【試料】綿ブロード,縫い針,糸を用いた。<br>【テスト方法】「布に二つ穴ボタンをつけなさい」と指示した。<br>【評価方法】評価基準を決めて6つの項目により評価した。<br><b>結果および考察<br></b><b>1.学校以外の実践経験<br></b>&nbsp; 学校以外で裁縫をしたことのある者の割合は、男子では、小5、中1、中3の順に、青森では46.2%、46.0%、68.4%、東京では68.4%、75.6%、80.5%、女子では青森が81.5%、94.3%、88.8%、東京が91.0%、97.5%、86.7%となり、いずれの地域でも男子は学年進行とともに高くなったが、女子ではどの学年による差はみられなかった。この結果から地域における違いをみたところ、小5と中1の男子では有意差がみられ、東京が優位になったが、女子では有意差がみられなかった。<br>&nbsp; 学校以外で調理をしたことのある者の割合は、男子では、小5、中1、中3の順に、青森では90.7%、83.7%、94.9%、東京では91.9%、93.8%、96.9%、女子では青森が95.9%、96.3%、95.0%、東京が94.1%、98.6%、98.5%となり、裁縫経験と同様に、いずれの地域でも男子は学年進行とともに高くなったが、女子ではどの学年による差はみられなかった。また、地域による違いはみられなかった。<br><b>2.用語に関する知識する知識</b> <br>&nbsp; 青森の子ども達の被服製作用語の「知っている」割合は、[用具]は被服製作用語、調理用語ともに小5が最も高く、小5から中3までほぼ同じ値を示した。小5から中1にかけて被服製作用語の[縫製方法]は約10ポイント、[布・型紙]は約40ポイント増加した。調理用語は、どの学年でもほぼ同じ値だった。<br> 一方、東京の子ども達の被服製作用語と調理用語の「知っている」割合も、青森とほぼ同様な傾向を示したが、その割合は青森より高い値を示した。また、東京では小5や中1が対象学年の中で最も高くなった語群もみられ、特に「できる」割合で顕著にみられた。<br>&nbsp; 地域のおける違いをみたところ、被服製作用語、調理用語ともに小5、中1では東京都の方が優位な項目が多く、特に男子で顕著にみられた。しかし、中3では他の学年に比べて、有意差がみられた項目が少なく、両地域に大きな差はみられなかった。<br><b>3.「ボタン付け」テスト<br></b><b> </b>ボタンつけの調査評価項目については、どの学年でも青森の方が高かったが、あまり大きな差はなく、有意差もあまりみられなかった。また、青森と東京ともに女子の方が高い点数の割合が多かった。<b>&nbsp;</b>
著者
池崎 喜美恵
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.46, pp.21, 2003

<b>目的 </b>本研究では、日本人学校の家庭科教育の現状を明らかにするために、家庭科を指導する教師の属性や教師がどのような教育意識をもって児童・生徒を指導しているかを明らかにした。そして1996年の調査結果と比較し、日本人学校の家庭科教育がどのように変容してきたかを検討することを意図した。 <br> <b>方法 </b>2002年11月に世界の国々に点在する88校の日本人学校の学校長と家庭科担当教師宛に「日本人学校における家庭科の教育環境に関する調査」を依頼した。そして、2003年2月までに67校から回答が得られた。回収率は76.1%であった。 調査の概要は、家庭科の指導者、家庭科の指導法、家庭科教育に対する問題点や要望の観点から調査項目を設定した。<br><b>結果および考察</b>? 家庭科指導者は専任1名のみが59.5%、非常勤1名が17.5%であった。小学部と中学部で同一教師が指導する場合もあった。年齢構成は30歳代、40歳代とも各49名(38.9%)であった。大学時代の専門は、国語や音楽、美術を専攻した教師が家庭科を指導しているケースが多く、家庭科やその関連科目を専攻した教師は僅少で、免許外の教師による指導が現状であった。派遣教師と現地採用教師の比率は半々であった。 日本人学校での家庭科指導経験が2年以下が約5割を占めており、10年以上の家庭科指導経験をもつ教師が約2割いた。前回調査と比較して、教師の属性には大きな変化はなかった。<br>? 家庭科の指導方法では、4~5の手段を取り入れて指導していた。実習や講義の他、家庭での実践、現地にあった内容の導入、英語によるイマージョンの授業、幼稚部での保育実習なと多様な指導法を駆使していた。調理実習教材では現地の特産品を使用した実習や現地料理を扱っていた。教師の年齢や経験年数、採用方法により指導に特色がみられた。前回調査と比較すると、概ね現状の方が多様な指導法を活用していた。また81.0%の教師が教科書を使用しており、前回調査より教科書を使用して指導している教師が多くなった。<br>?教師全体の83.9%が、「とても・少し関心がある」と児童・生徒の家庭科に対する関心を高く評価していた。授業態度については、全体の83.3%が「とても・少し積極的である」と回答していた。前回調査ではそれぞれ83.3% 75.0%であり、児童・生徒に対する評価が若干上がっていた。<br>? 家庭科指導上の問題や悩みとして、「指導者の専門性(49.2%)」「教科書にそってすすめるとギャップがでる(46.6%)」「被服製作のための施設・設備の不足(46.4%)「調理のための施設・設備の不足(36.4%)」「教材が揃わない(33.9%)」が上位にあげられた。男性教師の半数以上が「指導者の専門性」を、女性教師の半数が「被服の施設・設備の不足」、47.6%が「指導者の専門性」をあげていた。その他、小規模校におけるカリキュラムの構成や教師の交替など、切実な問題が指摘された。年齢や経験年数・採用方法などにより問題点に特色がみられた。 <br>? 家庭科の授業の中で現地理解教育の観点から、学校の現地スタッフの協力や現地の人々との交流により、海外生活への理解を深める活動を推進していた。例えば、ローカルフードを利用した料理、調理用具の使い方、生活習慣や住まいの違いなどにふれ、エスノセントリズムの払拭に心掛けていた。<br>? 日本人学校の設置国によって違いはあるが、家庭科指導上の問題点として、多くの学校では教材入手の困難性授業時間の不足、視聴覚教材の不備、家庭科の専門教師の配置をあげていた。概ね、家庭科の教科書に準じた指導が行われているが、特に製作教材の準備の難しさや疑問が出された。<br>? 授業時数の確保や海外生活の利点を活かした授業実践を構想していく必要がある。また、日本人学校の家庭科教育の実態や指導方法などの情報交換を密にすることが要請される。
著者
田中 由美子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.58, 2015

<b>【背景と目的】</b><br><br>2005年、OECDが『DeSeCo』プロジェクトの中で提案した3つのキーコンピテンシーにより、日本の教育政策における学力の捉え方に変容が見られたといわれる。これは、今日的な教育目標とされる能力概念を示しており、社会で必要とされ、これからの社会で生きる子どもたちに身につけさせたい能力である。<br><br>一方、社会問題と捉えられる状況の渦中にいる子どもたちには、その状況から救済する視点での教育も考えなければならない。例えば、ネット・スマホ依存症、貧困などである。これらに陥らない予防策を学校教育の内容に導入することは、人生をよりよく生きていくために必要である。<br><br>ところで、家庭科教育での目標・学びと、今日的な教育目標は重なる部分が多い。言い換えれば、家庭科での学びを有意義なものにすることで、社会で生きるために必要な能力の多くを培えるということである。そこで、本研究の目的は、今日的な教育目標と、社会問題の予防策という両面からアプローチした教育内容・教材を提案することとした。<br><br><b>【方法】</b><br><br>1.OECD(2005) DeSeCoから、キーコンピテンシーのカテゴリー及び下位カテゴリーの抽出<br><br>2.青少年のインターネット利用環境(状況)実態調査及び、ネット・スマホ依存症に関する先行研究から、その原因の抽出<br><br>3.貧困の連鎖を回避する要因の抽出<br><br>4.2.3.を予防するための手法として認知行動療法等からの知見を援用し、予防に留まらずキーコンピテンシー育成を目指した教育内容・教材の考案<b></b><br><br><b>【結果】</b><br><br>青少年のインターネット利用環境(状況)実態調査より「規則正しい生活がなされていない」という実態が窺えた。 また、先行研究として、日本の大学生のインターネット依存傾向測定尺度作成を試みた鄭は、ネット依存傾向の問題点を分類すると①「欲求抑制・自制心の欠如」、②「時間管理能力の不足」、③「コミュニケーションスキルの不足」の3点とみなすことができる。<br><br>これらを解消する手法として「認知行動療法」を援用することを考えた。その手法の中での「気づき」をきっかけに「発見」「思考」「実践」「省察」「修正」と発展的拡張を可能にし、より良い成長、自己実現が可能になる。<br><br>また、適切で有意義な社会生活を送るには、自己のありのままの感情や欲求を自制(コントロール)することが必要であり、その第一歩は、それらを客観的にとらえ、望ましい状況・感情と比較・意識(モニター)することを要する。この一連の思考様式は、メタ認知である。<br><br> ネット・スマホ依存症、及び貧困の連鎖を予防するだけでなく、生活上の思考様式・行動様式をより自律性の高いものとするため、それを身につけた人材育成を目指した教育内容・教材に取り入れることを考え、下記項目を設定した。<br><br>1.生活時間を記録し、振り返り、気づき・満足度を記入する。<br><br>2.上記1.に改善点・向上点(できるようになったこと)も記入させ、自己効力感向上とモチベーション保持を行う。<br><br>3.やらなければならないことをリストアップし、優先順位を決め、時間を逆算し、予定を立てるスキルを身につけさせる。<br><br>4.予定を立てる際、上手くできたとき、できなかった時をイメージするトレーニングを行い、悪循環を自分で断ち切れる自己管理能力を身につけさせる。<br><br>5.他者とのコミュニケーションを行う際、ストレスを感じにくくするための主張行動スキルを身につけさせる。<br><br>今後は、本研究において作成した教材を教育現場において実践し、教育効果の測定を行う。<br><br>
著者
田甫 綾野
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.57, 2014

1.はじめに<br> 中学校では、幼児とのふれあい体験活動を全ての生徒が体験すべき活動となっている。筆者はこれまで、中学生と幼児(3歳児~就学前児)との触れ合い体験活動の観察を通して、幼児と中学生の質の高い交流とはどのようなものか明らかにすることを試みてきた。その結果、ただ、かかわる機会を持てば良いのではなく、幼児と中学生がともに同じ目的をもち、身体的な同調を伴うような活動を設定することが有効であるということが明らかとなった。<br> これまでは、幼児との触れ合い体験を研究の対象としてきたが、本発表では、かかわりの対象が乳児および低年齢の幼児(0~2歳児)の場合の事例を検討し、交流活動が双方にとってどのような学びをもたらすのか、また乳幼児の保護者にとってどのような効果があるのかを明らかにすることを目的とする。&nbsp;<br><br>2.研究方法および研究対象<br>(1)研究対象<br>①山梨県内にあるA中学校<br>⚫︎家庭科の授業における「赤ちゃん抱っこ体験」(子育て支援活動を行っているNPO法人が行っている活動に依頼)<br>⚫︎参加者;家庭科の授業を受講しているA中学校2年生および乳幼児(主に0歳~2歳児)とその保護者<br>②東京都内の区立B児童館 子育てサロン「ひだまり」<br>⚫︎ B児童館で行われている乳幼児と遊ぶキッズボランティア活動&nbsp;<br>⚫︎参加者;キッズボランティアに参加している小学校1、2年生および「ひだまり」遊びにきている乳幼児(0歳~1歳半児まで)とその保護者<br>(2)研究方法①②ともに、参与観察を行い、手記記録および映像による記録を行った。①は動画および静止画②については静止画のみの記録である。&nbsp;<br><br>3.結論<br>乳児および低年齢の幼児との交流の場合、乳幼児側からのアプローチが高年齢幼児と比べて少ないため、交流する児童・生徒は積極的に行動しないと、かかわりをもつことができない。また、かかわり方も難しく、戸惑う児童、生徒も多くみられた。しかしながら、今回の活動は両者とも保護者が参加しており、保護者が自分の子どもの好きな遊びや発達の様子などの細かいことを教えてくれたり、児童生徒が戸惑う部分のサポートをしてくれたりしていた。その他にも母子手帳やエコー写真などを持参し、子どもを授かり出産するまでの話を涙ながらに話してくれるなど、子どもの愛おしさ、子育ての大変さなどを生徒に伝えてくださっていた。乳児や低年齢幼児との交流活動の場合、保護者の方の存在も大きいと考えらえる。<br> 「キッズボランティア」については、今回の観察対象は小学生が活動の主体であったが、継続的に乳幼児とかかわれるということで小学校低学年の児童であっても、学びの多い活動となっていた。継続的にかかわることが可能であれば学習効果は高まると考えられる。今後、中学校・高等学校の家庭科の授業としても児童館との連携、また総合的な学習の時間や他教科との連携も考えていけるとよいのではないだろうか。<br> 乳幼児と「触れ合う」という意味では、今回観察したふたつの活動ともよい交流になったと思われるが、「赤ちゃん抱っこ体験」については、一度きりの活動であり、ただ「触れ合う」という目的のみでは「もったないない」「もの足りない」と思われる。例えば、生徒が作ったおもちゃを与えて遊んでみるとか、既成のおもちゃであっても生徒自身が選択して赤ちゃんに与えられるようにするなど、他の保育分野の学びと合わせてこの活動を位置付けることが必要なのではないだろうか。中学校については、学習の対象として乳児は入っていないが、乳児や低年齢幼児との触れ合い体験も、保護者との交流、子育てや出産の生の声を聞けるという意味で有効な学習になると考えられる。
著者
岡部 雅子 堀内 かおる
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2016

<b>〈研究の目的〉 <br></b>&nbsp; 小学校家庭科の教科書には、汎用性の高い基本的な手順や知識と、個々の状況により加減が必要な時間等のめやすが記述されている単元が多いが、子どもたちはそれらを区別して読み取ることができず、すべて教科書に書かれたとおりに行えばうまくいくと考えている。<br>&nbsp; そこで本研究では、炊飯の単元において、実習を通して学んだことや、自分の経験から言えることを、自分たちの言葉で表現し、教科書の炊飯のページに吹き出し型に付け加えていく形でまとめて、オリジナルの教科書ガイドを作ることを試みた。そして、子どもたちにどのような炊飯のときにもあてはまる内容と、状況によって加減する必要のある内容とが書かれていることに気づかせたいと考えた。その後グループで、作ったガイドをもとに「どんなごはんが炊きたいのか」という思いを共有し、それらを実現する具体的な方策を考え、次時の実習に臨ませた。そうすることで学習がより子どもたちの生活に生き、考えながら実践し続ける態度につながると考えたからである。こうした活動を通して、教科書を子どもたちの生きた教材として使いこなす方策を探ることを本研究の目的とする。<br><br><b>〈方法〉<br></b>&nbsp; 授業実践は国立大学法人附属小学校5年生3学級において平成28年2月に行った。そのうちA組(児童数32名)での実践を報告する。単元名は「いつものごはんを見直そう」で、授業数は全10時間、授業の流れは次のようである。<br> ・「いつものごはんとは」について考え、話し合い、学習課題を確認する。(1時間)<br> ・ビーカーと文化鍋で炊飯をする。(各2時間)<br> ・実習したことなどをもとに、グループでオリジナル教科書ガイドを作る。(2時間)<br> ・オリジナル教科書ガイドを発表しあい、次時のおにぎり作りに向けて自分たちの作戦を立てる。(1時間)<br> ・作ったガイドを生かして炊飯をし、おにぎりを作る。(2時間)<br><br><b>〈結果と考察〉</b> <br>&nbsp; 単元の導入では、「いつものごはんとは」について考えさせた。考えを交流する中で、子どもたちは、ごはんの炊きあがりを左右する炊飯の要素がさまざまあること、また、おいしさの基準は人によってちがうこと等に気づいた。その上で単元を通して「どうすれば自分の思い通りのごはんが炊けるのか」を追究することを確認してから、2回の調理実習を行った。<br>&nbsp; 単元最後のおにぎり作りの実習の前に、炊飯の実習を通して学んだことや自分の経験から言えることを、自分たちの言葉で表現し、教科書の炊飯のページ(開隆堂「小学校私たちの家庭科」pp.46-47)に吹き出し型に付け加えていく形でまとめて、グループで一枚のオリジナル教科書ガイドを作った。ガイドの吹き出しには、米や水のきちんとした計量、洗米の仕方、浸水時間の保障といった汎用性の高い知識に関する追加記述のほかに、水の量や火加減の調節など、自分の思いや米による違い等によって加減する必要のある作業があることについての記述が見られた。また、まとめのおにぎり作りの実習時には「どんなごはんが炊きたいか」という思いと具体的な方策を考えて臨んだグループがほとんどであり、これまでの実習に向かう姿勢との違いが見てとれた。<br>&nbsp; このように、教科書をカスタマイズして作ったオリジナル教科書ガイドは、あいまいさや加減の要素を併せ持つ生きたテキストになり、教科書を教材化する有効な方策であるということができた。<br> (なお、本研究は、小玉亮子お茶の水女子大学教授と堀内かおる横浜国立大学教授との共同研究の成果の一部である。)
著者
三神 彩子 赤石 記子 飯村(久松) 裕子 長尾 慶子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.60, 2017

<strong>【目的】</strong>物の購入や消費にかかわる消費生活の分野は,身近な問題でもあり,小・中・高の家庭科教育の中でも重要な分野である。さらに,食品の選択は食分野の教育においても欠かせない。しかし,調理実技と異なり,食品の選択は講義だけで済まされることも多く,実践が難しい。<br /> これまでの調査研究から,買い物,調理,片付けを通した食生活における省エネ行動に関する教育を行った場合に,買い物に関しての教育効果(意識変容や行動変容) が調理や片付けと比べ,得にくいことを明らかとしてきた。<br /> そこで,本研究では,買い物を擬似体験できるゲームを開発し,授業等で活用することとした。合わせて,大学生を対象とした授業及び中学校家庭科教員を対象とした研修で活用し,教材としての可能性を検討することとした。<br /><strong>【方法】</strong>買 い物に関する5項目の省エネ行動,「環境にやさしい商品を選ぶ」「必要な量だけ買う」「旬の食材を購入する」「買い物袋を持参し必要のないものを断る」 「食材を選ぶ際に簡易包装のものを選ぶ」について,教育前の認知度及び教育前後の実践度の変化を調査し,行動の阻害要因を明らかとした。<br /> 合わせて,小・中・高等学校で使用している教科書をもとに,環境に配慮した消費者教育に資する教材とするため盛り込む必要のある要素を抽出し,ゲームに反映させた。<br /> 次 に,T大学3年生「食教育の研究」授業履修者(2015年度65名,2016年度44名)を対象とし,ゲームを導入していなかった講義のみの2015年度 とゲームを導入した2016年度の授業前後の意識及び行動変容効果を調べるためアンケートを行った。合わせてH市中学校家庭科研修会にて活用し,ゲームの 教材評価を行った。<br /><strong>【結果】</strong>調査結果から,認知度と実践度の間には相関関係は見られなかったものの,環境に良 い理由や具体的な方法を理解していない等,理解度に差があることが阻害要因の1つとなっていることが明らかとなった。また,教科書等の記載状況を鑑み,環 境に配慮した消費者教育に資する教材とするためには,金額,容器包装,旬,地産地消,必要量に関して,選択理由と選択方法を具体的にゲームに盛り込むこと が重要であることを確認した。<br /> ゲームは,実際の買い物が想起できるよう,学生にもなじみのあるカレーライスとオムライスを作ることを想定し,店員 と消費者に分かれ,1,600円の所持金額の中で疑似買い物体験をするという設定とした。ゲームセットの内容は,はがき大のカードを使用し,実際の食材の 写真に,本物に即したラベル等を組み合わせたものとした。カードの表面には商品の情報,裏面には領収書を作成する際の選択のポイント等を表記した。開発し たゲームセットには,カード(ルール・買い物リスト・食材・レジ袋カード),領収書,買い物かご,電卓等が含まれる。<br /> 教育前の認知度及び実践度に関しては,2015年度及び2016年度ともにほぼ同様の傾向がみられた。一方,教育後の実践度を見てみると,2016年度のゲームを導入した教育では,「いつも実行している」人の割合がいずれの項目でも有意に増えていることが確認できた。<br /> ゲー ム終了後の振り返り発表の中の感想からも,「値段だけでなく,地産地消や,有機栽培かどうか等に気を付けることの意味が分かった」「安いという理由でセッ ト販売のものを買いがちであるが,余らせて捨ててしまうことを考えると必要な量を買うことがよいと思った」「たくさん販売されているものが旬のものと思い がちだった」「簡易包装が良いことは分かっていても何を選ぶと簡易包装になるのかがよく理解できた」等の声が聞かれた。このことから,情報提供の講義だけ の2015年度と比較し,理屈としては理解していても実際の買い物時に迷うことが多かった点に関し,ゲーム体験により,自信をもって日常で実践できるよう になったのではないかと推察された。<br /> また,教員研修の結果からも,すぐに使える教材であるとの評価を得た。特に,意図していた消費生活や環境の分野,食品の選択の授業で活用したいといった回答が得られた。