著者
松岡 裕美 高木 直 大森 桂
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.46, pp.77, 2003

<b><目的></b> 現在、高齢社会の担い手である若者が家庭や地域で高齢者と関わる機会は大変少なくなっている。しかし、若者が生活していく上で、他世代との共生は不可欠である。現行の学習指導要領では、高等学校家庭科においては、高齢者学習が位置づけられているが、中学校は選択領域であり明確には位置づけられていない。しかし、高齢者理解は中学生にとっても重要であり、著者らは、病床にある介護の必要な高齢者と関わるよりも、健康な高齢者と一緒に活動したり、高齢者の知恵や技に触れたりすることが高齢者理解により有効だと考えている。そこで、本研究では、中学生を対象に高齢者との直接体験等を通して、高齢者に対する感想の変化をとらえ高齢者理解を分析することを目的とする。 <br><b><方法></b> 対象は、山形大学教育学部附属中学校3年生であり、選択家庭科履修1クラス35名(男子 9名・女子26名)である。授業実践時期は2003年5月~7月である。具体的な方法は、? 単元導入時に高齢者に対するイメージ調査をする。 ? 高齢者と直接かかわる機会を持ち、感想文を書かせる。? 高齢者が活躍するビデオ(番組「鉄腕DASH」)の鑑賞後に感想文を書かせる。 以上の活動から得られたイメージ調査結果及び二つの感想文の分析をおこなった。なお、イメージ調査のカテゴリー分類は、山形大学教育学部3・4年生40名を被験者として2003年7月に実施した。 <br><b><結果></b> <b>(1)高齢者に対するイメージ</b> 「おとしより」をキーワードとして与え、このことばからイメージすることばを自由に書かせた。そのことばを大学生に判定させ、プラスイメージ・ニュートラルイメージ・マイナスイメージに分類した。「お茶」「早寝早起き」「物知り」「やさしい」などはプラスイメージに判定され、「白髪」「めがね」「つえ」などはニュートラルイメージに判定され、「ボケ」「入れ歯」「病院」などはマイ ナスイメージに判定された。各生徒について、その生徒がイメージしたことばを3つのイメージ群に分類し、各イメージ群のことば数の多い者をグルーピングした。プラスイメージの多い群をA群、ニュートラルイメージの多い群をB群、マイナスイメージの多い群をC群とした。その結果、A群は13人、B群は11人、C群は10人であった。<br><b>(2)高齢者と直接かかわる機会後の感想文</b> 「活動内容」だけを書いている生徒はC群に多く、「高齢者」について書いている生徒はA群に多かった。また、「活動の感想」について肯定的な感想を書いた生徒はA群に多く、特に「高齢者と会話をして楽しかった」という内容の感想を書いた生徒はC、B、A群の順に人数が増加した。<br><b>(3)高齢者が活躍するビデオ鑑賞後の感想文</b> 感想文中、高齢者に言及している字数は、A・B群に多く、C群が少なかった。感動を表わした感想を書いた生徒はA群に多く、消極的な感想を書いた生徒はC 群に多かった。しかし、「今後の展望」についての感想はC群が多かった。「高齢者」そのものに言及している生徒はA群に最も多く、次いでB群、C群の順であった。全体的に、A群は肯定的な感想や高齢者自身に着目している生徒が多く、C群は高齢者には着目せず活動内容のみの記述が多くみられた。しかし、C群のみの感想文の変化をみれば肯定的な感想や「今後の展望」への言及が増加し、健康な高齢者と直接かかわることの有効性が示唆された。
著者
田中 宏子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, 2012

【目的】内閣府の有識者会議は、東海・東南海・南海地震が今世紀前半にM9として発生すると想定している。さらに、日本全国には約2,000に上る活断層があると言われており、それらの活断層の中にはM7クラスの地震をもたらすものが確認されている。大規模地震発生の切迫性が高まっている中、生徒たちも自分や家族の命は自分たちで守るという重要性を強く自覚し、その実効性が今緊急に求められている。先の東日本大震災では津波防災教育を受けていた岩手県釜石市の子ども達の多くが生き残った。津波防災教育の有効性が確認されたが、これらは地震発生時の津波を主としたものである。本研究は地震災害全体を取り上げ、山崎<sup>1)</sup>が提案する、教科を主軸とする減災教育カリキュラムの理論に基づき、地震災害という非常時に生徒が即時に有効に対応できる家庭科授業の開発と強化を目的とする。<br>【方法】まず、学習指導要領の中に分散している減災の要素を全て拾い集めて整理し、児童・生徒の発達段階を考慮しながら、家庭科授業に於ける地震災害対応授業の内容とそのねらいを明らかにした。次に2009年11月に滋賀県公立の小学校90校と中学校40校の教諭と2011年7月に開催された滋賀県学校安全研修会防災教育指導者研修に参加した教諭を対象として、減災教育に関する調査を実施した。以上を踏まえ、既往の防災・減災教育に関する実践報告を参考にしながら、家庭科教育に於ける地震災害対応授業案を作成し、その一部の実践を試みた。<br>【結果及び考察】<br>1. 教科の中に組み込む地震災害に関する学習<br> 2009年の調査では、小学校で約4割、中学校で約5割の教室で大型備品の転倒・落下防止対策がなされていなかった。中学校においては自然災害の内容を含まない教科を担当する教諭は備災行動が遅れがちであり、教諭の担当教科と対策の間に関連がみられた。学校の減災を推進するには、全ての教科に災害に関する学習を組み込むことが有効であると考えた。そこで災害に関わる学習を、どの学年の何の教科で、どのような内容でできるかを自由記述で教諭に尋ねたところ、2009年、2011年の調査とも、どの教科においても授業案がだされ、全教科に災害教育を組み込むことができることを確認した。家庭科はその特性から、学校の災害対応力を強化するための先導的役割を果たしていきたい。<br>2.東日本大震災を経ての災害教育の変化<br> 2009年と2011年の調査から得た授業案を精査した結果、震災前と震災後で、生徒自身が自分で対応方法を「考える」指導方法をとる授業案が25.2%から55.6%へと増加した(p<0.001)。そこで地震災害対応授業では、生徒自身が自分で対応方法を「考える」ことを重視した。<br>3.災害状況のイメージ<br> 2009年の調査より、被災地に赴いての体験が減災行動に影響することを確認した。従って全ての教職員、児童・生徒が被災地を訪れることが望ましいが、時間的、空間的、経済的制約がある。また、女性教諭は現地に赴く比率が低いという性差もみられた。そこで現地体験が困難な場合、災害状況を感性で捉えて実体化するために映像による疑似体験を地震災害対応授業に導入した。<br>4.家庭科授業案<br> 災害時に対応できる冷静で俊敏な行動性を高める避難訓練授業をベースに、非常持ち出しベストのポケットに入れる物、家族災害計画、家庭にある危険要素、地震に強い家や地盤、地域の危険、エネルギー依存型のライフスタイルを考える授業などを作成した。これらの授業は宿題を通じて家庭と協働し、生徒自身に加え、家族や地域住民の減災に対する意識や行動を促すことをねらいとする。<br>1)&nbsp; 山﨑古都子、田中宏子:滋賀県における巨大自然災害にともなうリスクについての総合的研究、滋賀大学教育研究プロジェクトセンター報告書、2010.
著者
西岡 里奈 阿部 睦子 金子 京子 倉持 清美 妹尾 理子 望月 一枝
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.61, 2018

<背景と目的><br> 学習指導要領の改訂により、平成29年3月に告示された小学校学習指導要領から、小学校家庭科でも「A 家族・家庭生活(3)家族や地域の人々との関わり」の中で幼児又は低学年の児童との関わりができるよう配慮することが求められている。中学校や高等学校では、幼児や小学校低学年児との関わりは行われている。しかし、小学校では特別活動などで異学年との交流は行われているものの、家庭科の授業では少ない。そこで、本研究では六年生と一年生でスイートポテトを作る交流調理実習を行うことで、新たに小学校低学年児との関わりを取り入れた授業を開発し、小学校家庭科で異なる世代の人々との関わりを学ぶことの効果を検討する。<br><br><br><br><方法><br><br>①対象: 東京都内国立小学校六年生全3クラスのうち、1クラス34名を対象とした。このクラスについて全7時間(一年生との交流は2時間)の授業を開発した。<br><br>②ナラティブ分析:交流調理実習後に六年生が交流を思い出してナラティブを作成した。書かせる際には「文章で書くこと。時間の流れに合わせて、始めから終わりまで書くこと。そのとき自分が思ったことや、相手の様子・思っていることを書くこと。」とした。 <br><br> 一クラス分のナラティブを6人で読みあい、児童によるナラティブの特徴と、授業の効果をカテゴリーのまとまりとして確認した。カテゴリーは、中学校で小学校低学年児と交流を行った論文(倉持ら,2009)を用い、他のカテゴリーが抽出できる場合は、その点について話し合った。<br><br><br><br><開発した授業><br><br> 六年生と一年生の交流を取り入れた学習として、以下のような授業を開発した。<br><br>第一次:一年生の特徴を考えると同時に、自分の成長を実感できる授業を設定した。一年生との縦割り班(特別活動の異学年交流)やお世話での経験をふまえて、自分たちと一年生の違いを考えると同時に、自分が一年生だった頃の写真を見て自分の成長を実感する場を設けた。<br><br>第二次:六年生だけで試し調理としてスイートポテト作りを行った。自分たちで試し調理を行うことで、一年生と一緒に行うときに気をつけることやどのように関わっていったらよいかを実際に調理を通して考えられるようにした。(2時間)<br><br>第三次:試し調理をふまえて、一年生を楽しませるために交流調理実習を行うときのポイントや関わり方を考える場を設定した。<br><br>第四次:一年生と一緒にスイートポテト作りを行った。(2時間)<br><br>第五次:ナラティブを記入し、一年生と交流調理実習をして、一年生の様子で気付いた点等や自分の関わり方についてまとめを行った。<br><br><br><br><授業の効果><br><br> 中学生のカテゴリーに当てはめて、六年生の記述を分類した結果、「問題解決」に関わる内容として、「接し方」「調理安全」「前次の学び」に細分化することができた。「接し方」とは、一年生との関わり方に言及したもので「待ち時間にあきてしまわないように、たくさん話しかけるようにした」などで、「調理安全」とは調理の際の安全に関わるもので、「前時の学び」とは「前回の授業で、一年生に楽しんでもらうために、調理器具の名前クイズをするとあったので、実際にやってみました」など既習事項を活用したものである。このことから、六年生が一年生との交流を通して様々な問題に直面したが、一年生に楽しんでもらうために自分達で課題に対して向き合い、解決していったことが分かった。
著者
小野 恭子 大竹 美登利
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.52, pp.25, 2009

〔目的〕商品経済が発展した今日、多重債務などの金融に関連する諸問題は、私たちに身近な生活問題となっている。そうした商品経済社会や金融経済社会は子どもたちにとっても遠い存在ではなく、カードや携帯電話やインターネットなどの普及により、知らずに金融商品を利用していることも多い。そうした現代では、子どもたちが主体的な経済生活を行うために、金融知識の学習や、実践力を身につけることが求められていると言えよう。多重債務などの消費者被害に巻き込まれる第1の要因は、必要最低生活費が保証されないことである。すなわち、生活の経済的な側面を主体的に営むためには、生活費の意味や構造を学ぶことが必要と考える。家庭科では、経済に関する学習として、これまで消費者教育を基軸に据え、消費者被害にあわないため、あるいは巻き込まれた場合の対処方法を学習するノウハウを学習することが多かった。そこで本研究では収支バランスを取り上げ、生活費の構造を学ぶこととした。 今回は、子どもたちも関心が高く、選択幅と金額幅が大きい衣服の購入を教材とした。その際、子どもたちが身近で具体化できる題材として、今度行く移動教室でのハイキング場面で着用する衣服を選び、各人が必要とした購入金額合計額から、被服費が高い場合低い場合によって、食費や娯楽費などの他の費目の金額を節約したりする必要があることを確認し、生活費には収支バランスがあることを学ぶ授業を展開した。〔方法〕1.授業展開 小学校5年生1クラス(男子19名・女子20名)を対象に、2008年7月に行った。授業の流れは、_丸1_移動教室に持っていた服を振り返り、良かった所と改善できるところを考え、ワークシートに記入する。_丸2_各班に1セットずつ用意されている長袖メリヤスシャツ、長ズボン、レインウェアー、それぞれ価格・機能・デザインがそれぞれ異なる3種ずつ、計9種のカードから、それぞれ1枚、3種選択する。_丸3_選択した理由とその合計金額をワークシートに記入する。_丸4_ある生活費の例を提示し、被服費が増加すると食費、娯楽費などの他の支出を減少させなくては、収支のバランスがとれないことを確認する。_丸5_購入を決定した服の購入金額を3パターンに分け、金額が高い場合と低い場合によって、外食や遊園地などに行ける回数といった子どもたちに身近に感じられる具体的な食生活と娯楽内容3パターンを示したプリントを提示し、金額の増減の具体的イメージを確認した。_丸6_授業全体の感想を、ワークシートに記入する2.分析データ ワークシートの記入内容と、授業を記録したビデオの児童の発言や呟きをおこしたプロトコルから、児童の学びの内容を分析した。〔結果〕1.服を選択した理由として、男子は「デザイン」を女子は「活動的機能」を最も多く挙げていた。各班で、自分と友だちの選択理由を確認したその結果、自分はあげておらず友だちがあげていたものは「価格」であるとする児童が38%と最も多く、この活動によって「価格」が選択要素のひとつであることを気づくことになった。2.生活費の収支バランスの学習をした後には、被服費が増えると食費や娯楽費など他の支出を減らさないといけないことに気づいた児童が23%いた。収支のバランスを取るために、被服費を減らすことを考えた児童が25%、被服費ではなく食費や娯楽費を減らすことを考えた児童が23%いた。3.授業全体の感想からは、「洋服などを買うときに大きなサイズを買って長持ちさせる」など今後の被服購入について記述してあるものが67%と一番多かった。次に「バランスを考えながら生活しなくてはいけないことがわかった」や「洋服を買うときには、ほかのことも考えて買わなくてはいけない」など収支バランスに関するものも54%書かれていた。被服費を減らすことだけでなく、収支バランスについての考えも書かれていることより、収支バランスを理解できたことがわかった。
著者
大下 市子 鈴木 明子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.57, 2014

【目的】<br>&nbsp; 小学校,中学校および高等学校の家庭科学習によって,自立した生活主体としての生活実践力を身に付けさせることが必要である。布を用いた製作の経験が,生活実践力にどのように影響を及ぼしているのか,大学生の家庭科における製作体験と生活実践力との関係を検討することによって明らかにしておくことは,今後の教員養成の指導のあり方を考える上で重要なことと考えられる。 現在の大学生は,中学校での製作は選択内容であり必ず学んでいるとは言えない。また, 高校では「家庭基礎」履修の場合,被服の製作は行わないという教育課程で学んでいる集団である。日常生活でも裁縫経験が乏しい現状を勘案すると,製作体験の精査を行うことは不可欠である。<br>&nbsp; &nbsp;そこで,まず,小学校,中学校および高等学校家庭科でどのような教材を製作し,どのような意識をもって学んできたかという実態を把握した上で,生活実践力との関係を検討することを本報告の目的とした。<br>【方法】 <br>&nbsp; &nbsp;調査時期:2012年1月,2013年1,7月 <br>&nbsp; &nbsp;調査対象者:広島市私立総合大学女子大学生1年生142名,2年生53名,3年生10名,4年生6名,合計211名。広島県内出身者 約85%。 <br>&nbsp; &nbsp; 調査内容:小学校,中学校および高等学校家庭科において製作した布を用いた教材と製作への興味・関心・意欲,製作物の使用実態についての質問紙調査を行った。同時に生活を実践する力10項目について問い,製作体験や意識との関係を分析した。<br>【結果】 <br>&nbsp; &nbsp;家庭科での製作体験有りは,小学校96.7%,中学校75.4%,高等学校50.2%であった。小中高を通しての製作教材数は,3種類が最も多く28.0%,ついで4種類20.9%,2種類19.4%であった。小学校での主な製作物は,袋類(ナップサック・リュックサック・巾着など)であった。体験有りの76.0%が袋類,60.3%がエプロン類を製作していた。中学校では,小物類(クッション・ティッシュケース・刺繍など)がもっとも多く,体験有りの55.3%が製作していた。ついでズボン類(ズボン・ハーフパンツ・短パンなど)で23.9%,エプロン類17.0%であった。高等学校では,袋類(トートバック・手提げ・巾着など)が32.1%,衣服類(ジャケット・シャツ・ワンピースなど)が25.5%,エプロン類が23.6%であった。 これら製作物への興味・関心,製作への意欲は高く,いずれの校種も肯定的な回答が8割みられた。しかし,「製作物をよく使用した」は高等学校34.1%,小学校32.0%,中学校27.8%であった。その後の製作経験を問うたところ,小学校68.2%,中学校64.7%,高等学校67.4%が作っていなかった。<br> 小学校,中学校および高等学校で重複して小物類,エプロン類,袋類を作成している実態が明らかになった。それぞれの校種における教材の種類,布の種類及び製作方法などの検討を行う必要があると考えられる。小学校と中学校において,興味・関心,製作意欲が高いのは小物類であった。中学校のパンツ類製作への興味・関心,製作への意欲は他の製作教材に比べて低く,使用頻度も低い傾向にあった。高等学校では,衣服類製作への興味・関心,製作の意欲は高いものの,使用頻度は低い傾向がみられた。<br> また,小学校,中学校および高等学校を通じての製作教材数と生活を実践する力の「成果」の項目の関係をみたところ,製作数が少なくても成果がみられ,製作数が増えるに従い成果が上がっていることが明らかになった。<br>&nbsp;&nbsp;
著者
土橋 由紀 志村 結美 斉藤 秀子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.54, pp.99, 2011

<BR>【目的】 グローバル化する社会の中で、国や環境の異なる人を理解し、共に生活していくためには、自分の国や地域の伝統や文化についての理解を深め、尊重する態度を身に付けることが重要である。高等学校家庭科の学習指導要領(2009)では、高校生が家庭や地域の生活を主体的に創造していく主体として、生活文化の伝承と創造を担う必要性が述べられ、伝統と文化に関する教育の充実が求められている。<BR>そこで本研究では、山梨県の伝統文化、伝統産業の一つである「甲斐絹」を取り上げた地域の伝統産業と連携した家庭科の授業開発を行い、検討を行うこととした。本研究は、甲斐絹製品を生産・販売している企業(甲斐絹座)、県庁等の行政機関、小・中・高・大学といった教育機関の三者、すなわち産官学が連携し、甲斐絹の伝承と発信をめざしたプロジェクトの一環として行われている。本研究を通して、児童・生徒が具体的に地域や日本の伝統、生活文化を把握し、継承していくことの意義を認識するとともに、継承、発展させていくための実践的な態度の育成を図ることを目指している。また、甲斐絹を使って小物製作を行う実習を組み入れることにより、基礎的な裁縫技術を習得できるとともに、五感を使って本物の絹に触れる体験ができ、さらには、自らの地域の伝統と文化等に誇りを持つことにより、自己肯定感の育成等に関与できると考えている。<BR>本報告では、甲斐絹の生産地である山梨県郡内地域にある山梨県立F高等学校において実施した家庭科の授業実践を分析・検討し、今後の教育プログラムの開発の一考とすることを目的とする。<BR>【方法】 山梨県立F高等学校1学年7クラス約280名を対象に、家庭科(家庭基礎)において、2011年2月に各2時間授業実践を行った。授業前後のアンケートや授業中のワークシート、甲斐絹を用いて製作した小物(ティッシュケース)等を分析対象とした。<BR><BR>【結果及び考察】 第1次の授業は、甲斐絹座のメンバーが実際の甲斐絹の布地や製品の紹介をしながら、甲斐絹の歴史、特徴、織り方、甲斐絹復元への想い等の講義を行い、地域の伝統や文化の伝承の意義等について生徒の認識を高める授業展開とした。第2次では、手縫いによる甲斐絹の小物の製作を行い、最後に授業のまとめを行った。<BR>分析の結果、授業後には伝統と生活文化を後世に伝えていく活動について意欲的に参加したいとの回答が有意に多くなり、自由記述の中にも甲斐絹を自らが伝えていきたいと考える意見が多くみられた。授業後には、食文化・衣文化・住文化のいずれに関しても興味・関心が高くなり、さらに、ものづくりに興味・関心を持った生徒も多くなっていた。<BR>また、第1次の甲斐絹座メンバーによる講義後の感想では、地域の伝統文化への誇りに関する記述が多く認められた。甲斐絹を広く社会に発信していくための工夫としても、甲斐絹の商品開発や商品販売、マスコミの活用等、積極的な回答が多く認められ、地域の伝統産業である甲斐絹についてより身近に、具体的に捉えることができたと考えられる。<BR>甲斐絹を使った小物製作については、事前には4割の生徒が否定的に捉えていたが、事後には、全員の生徒が意欲的に取り組むことができたと回答した。これは、甲斐絹の特徴である手触りや高級感を感じることができたためと推測される。しかし、手縫いでは縫いづらいという意見も多く認められ、実際、甲斐絹は手触りが良い分、手縫いでは滑りがあり上手に縫い合わせることができない生徒が多くみられた。また、ほつれやすく、縫ったところからほどけてしまう様子も見受けられた。<BR>そこで今後の課題として、小物製作の実習として、手縫いによる基礎的裁縫技術の習得を含め、学習後、日常生活でより活用できるものとして、ミシンを利用した小物製作を行うことを検討している。また、小・中・高校と発達段階に即した山梨県全域で普遍的に継続的に実践できる教育プログラムの開発・検討を行う予定である。<BR>
著者
山本 紀久子 佐藤 麻子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, 2012

Abstract:【目的】   社会が大きく変化する中、教員養成課程の充実のためには教員の資質向上の方策の見直しは緊急の課題となっており、教科指導を行う実践的指導力を身に付けた教員の育成は重要である。家庭科の衣生活技能として、なみ縫い、返し縫い、玉結び、玉どめなどの基礎縫いとならぶボタン付けは、基本的な技能である。そこで、小学校教員養成において、小学校の家庭科の授業実践を想定し、学習指導要領 2内容 C 快適な衣服と住まい (1)衣服の着用と手入れ イに記載がみられるボタン付けを取り上げ、ボタン付けの実習・作品の製作で基礎的な技能を身に付けるとともに、実践的指導力を身に付けるために、教材の内容分析、さらに、ボタン付けの内容分析に関連する内容を含む学習指導案と評価問題の作成として具現化することを受講生に求めた。そして、授業後にアンケートを実施した結果を分析することなどを通して、この授業デザインの教育効果を明らかにすることが目的である。【方法】   2011年度I大学後期教職に関する科目「初等家庭科教育法研究C・ D」において、2年次を対象に、90分1コマの講義を3回にわたり実施した。調査対象者は、3回の授業に参加して全てに回答した63人(男21人、女42人)である。具体的内容としては、1)ボタン付けの目標、ボタン付けの要素分析(ボタン・糸・布・針)、ボタン付けに関する目標達成のための教材分析(ボタン付けの下位目標・ボタン付けの教材の分析)、2)ボタン付けの実習、この授業で扱うものと扱わないもの、ボタン付け関連の学習指導案の作成、作品の製作(一部家庭学習)、3)評価問題の作成・まとめである。その後、受講生に、ボタン付け関連の授業デザインについて、5件法による受講生の評価と授業イメージ、自由記述法による感想を求めるとともに、ボタン付けの作品・評価問題の分析を行った。【結果】  教師教育としての授業への導入について、各項目の平均値(標準偏差)を求めた結果、評価問題の作成は4.60(0.53)と最も高く、次にボタン付け・作品の製作4.35(0.70)、ボタン付けの要素分析・教材分析4.17(0.94)、学習指導案の作成4.14(0.78)の順で、平均値で4点以上と、教師教育への導入に好意的評価が得られた。自己評価の平均値(標準偏差)を求めた結果、ボタン付け・作品の製作は4.05(0.83)と最も高く、次に学習指導案の作成3.51(0.88)、評価問題の作成3.40(0.77)の順であった。評価問題の作成の自己評価に比べ、教師教育としての授業への導入は高かった。自由記述法による感想では、評価問題の作成の難しさと初めての評価問題の作成の記述をあげたものが多くみられた。ボタン付け・作品の製作では、ボタン付けの練習のみ16件、小物入れ24件、ティッシュケース7件、ペンケース4件、ブックカバー2件、その他10件で、ボタンは、丈夫に丁寧に付けられていた。自由記述法による感想では、ボタンの内容分析から順を追って子どもの立場、教師の立場の両面から考えることができた、示演用見本についての記述の順で多くみられた。小学校の家庭科授業を想定し、ボタン付けの実習、教材分析・学習指導案・評価問題の作成を取り入れた授業デザインは、有効と考えられる。今後、授業改善に向けて課題を見つけ自分の実践を振り返るなど実践的指導力を向上させる授業デザインとして、相互評価を評価問題に取り入れるなどが課題である。
著者
永田 智子 藤原 容子 山本 亜美 潮田 ひとみ
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2016

【研究目的】<br>&nbsp;&nbsp;家庭科の研究指定を受けている小学校の教員でさえ,ミシン指導に不安を抱えている(永田・鈴木2014).そこで永田ら(2015)は,将来の小学校教員である初等教員養成課程の学生に対し,ミシン使用の技能と指導の自信を高めるよう工夫した授業を実施した.その結果,ミシン使用の技能と指導の自信を一定程度高めることができたものの,改善の余地はあり,より詳細に検討する必要性が示唆された.そこで授業を改善し,その効果を詳細に検討することとした.<br>&nbsp;【研究方法】<br>&nbsp;&nbsp;研究対象は,2015年度にH大学で開講された小学校教諭の普通免許状授与のための必修科目「初等家庭科教育法」である.この科目を履修した学生(学部2~4年生,大学院生,計217名)のうち,被服実技に関する授業を3単位時間(1単位時間=90分)受講し,事前・事中・事後アンケートのすべてに回答した117人を分析の対象とした.また2014年度受講生の171人分を比較対象とした.<br>&nbsp;&nbsp;2014年度は,第1校時には,基本的なミシン操作に重点をおくため,糸をつけずに紙を空縫いさせる練習をした.第2校時には,糸の通し方から説明をはじめ,糸調子や裏表がわかるようにするため,上糸と下糸で色の違う糸をつけて紙を縫う練習をした.その後,ポケットティッシュケース作りをした.ティッシュの出し口は,手縫いで並み縫いと返し縫いさせ,両端はミシンで直線縫いさせた.<br>&nbsp;&nbsp;2015年度は2014年度に実施した授業の前に,手縫いを中心とする授業を1単位時間増やした.並み縫い・返し縫いに加えて,玉結び・玉どめ・ボタン付けを学習内容として新規に追加した.<br>&nbsp;&nbsp;また2015年度は事中・事後アンケートの質問項目を詳細にし,自信の程度を4件法(自信がある4~自信がない1)で尋ねた.<br> 【研究結果】<br>&nbsp;&nbsp;2015年度は,ミシンに関する自分自身の技能について,授業後は,直線縫いの自信が大きく向上した.一方で,糸かけや糸調節については,事前よりは自信は高まったといえるものの,直線縫いほど大きくは高まらなかった.またミシン指導に対する自信についても同様の傾向であった.直線縫いに関しては,紙の空縫いから始めて,練習を繰り返したことが奏功したと思われる.<br>&nbsp;&nbsp;手縫いに関して,2015年度は自分自身の技能についての自信は,授業後はどの項目も平均3点以上に高まった.これは2014年度に比べて授業時間を1単位時間分増やしたためと思われる.また,指導に対する自信についても,どの項目も高まったが,特にボタンつけについて3点以上に高まった.これは,ボタンのつけ方のみ児童用ビデオ教材を視聴させたことに起因していると考えられる.<br>&nbsp;&nbsp;以上のことから,今回行った3単位時間の授業を通して,ミシン縫いと手縫いの技能およびその指導に対して自信が高まったといえる.特に,紙の空縫い,紙の直線縫い,布の直線縫いと回数を重ねたミシンの直線縫いは,技能への自信を高めることがわかった.また手縫いは,時間を増やしたこともあり,全般的に技能に対する自信が高まった.特に児童用ビデオ教材を用いて説明したボタンつけは指導に対する自信も高まったことがわかった.一方で,実際に体験しなかったミシンの糸かけや糸調節,手縫いの返し縫いについては指導の自信が低いままであった.<br>&nbsp;&nbsp;今後,技能及びその指導に対して自信が低かった内容について効果的な指導法を検討し,さらなる授業改善を図りたい.<br>【引用文献】<br>&nbsp;&nbsp;永田智子・鈴木千春(2014)小学校家庭科教育研究指定校の教員が抱える不安,日本家庭科教育学会第57大会(岡山大学)<br>&nbsp;&nbsp;永田智子・藤原容子・潮田ひとみ(2015)ミシン使用の技能と指導の自信を高める初等教員養成課程『初等家庭科教育法』の工夫,日本家庭科教育学会第58大会(鳴門教育大学)
著者
永田 智子 藤原 容子 潮田 ひとみ
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.58, 2015

<b>【研究目的】</b>永田・鈴木(2014)の研究において,家庭科の研究指定を受けている小学校の教員でさえ,ミシン指導に不安を抱えていることが示された.現職研修も必要であるが,本来は教員養成課程の段階で自信を持ってミシン指導できる知識や技能を身に付けている必要がある.しかし家庭科の学習内容における教育学部生のつまずきで最も多いものが「ミシンの使い方(54.8%)」であり,その要因として,「機会が足りない」「方法・手順が複数ある」「教え方が不適切だった」「コツが分からない」「役割やしくみが分からない」「内容や作業が複雑だった」などが挙げられた(小林・伊藤2013).<br>&nbsp; そこで本研究では,将来の小学校教員である初等教員養成課程の学生に対し,ミシン使用の技能と指導の自信を高めるため,つまずきの要因をできるだけ排除した授業を工夫し,実践を通して効果を検証することとした.<br><b>【研究方法】</b>研究対象は,2014年度にH大学で開講された小学校教諭の普通免許状授与のための必修科目「初等家庭科教育法」である.この科目を履修した学生(学部2~4年生,大学院生,計217名)のうち,被服実技に関する授業を2単位時間(1単位時間=90分)受講し,事前および事後アンケートの両方に回答した171名(2年137人,3年4人,4年1人,大学院29人.男78人,女93人)を分析の対象とした.<br>&nbsp; 被服実技に関する授業では,第1校時には,縫い始めたい場所にミシン針をおろしてから押さえをおろすといったミシンの縫いはじめと縫い終わりの動作説明に重点をおくため,糸をつけずに紙を空縫いすることから始めた.第2校時には,糸の通し方から説明をはじめ,上糸と下糸の色をかえ,糸調子や裏表がわかるようにするなど,ミシンの仕組みや役割がわかるように,2段階で指導することとし,最終的に直線縫いでポケットティッシュケースを完成させる授業展開とした.<br><b>【研究結果】</b>事前アンケートより,小学校家庭科における手縫いやミシン縫いは多くの学生が経験していたが,中学,高校と校種が上がるにつれ減少していた(小学手縫い88.9%,小学ミシン88.3%,中学手縫い58.5%,中学ミシン57.3%,高校手縫い25.7%,高校ミシン26.9%).また,針と糸は自分のものを所有している学生は多いが(80.1%),自分のミシンを所有している学生は少なく(3.5%),家族所有もないとする学生も4分の1いた(26.9%).一方,家庭でミシンを作った物づくりは半数強が経験していた(52.6%).<br>&nbsp; 授業の理解度について「わかった」を4点,「わからなかった」を1点とした4件法で尋ねた,平均点を算出したところ,手縫い3.3点,ミシン3.2点と,おおむね授業は理解できたことがうかがえた.<br> &nbsp; 手縫いとミシン縫いの技術と指導の自信について,授業前後でのアンケート結果を比較した.手縫いは2.8点から2.8点,手縫い指導は2.1点から2.7点,ミシン縫いは2.5点から2.7点,ミシン指導は1.9点から2.5点へと向上した.事前において他の項目に比べて高かった手縫い以外の3項目が有意に高くなった(p<.01).以上のことから,今回行った授業において,手縫いおよびミシン縫いの技術と指導の自信が高まったことが検証された.しかし,授業後も自信がないとする学生が少なからずおり,さらなる授業の改善が求められる.<br><b>【引用文献】 </b><br>&nbsp; 小林歩,伊藤圭子(2013)家庭科における子どもの「つまずき」要因の検討一大学生の学習経験をもとに一,初等教育カリキュラム研究 (1), 69-79, 2013-03-31,広島大学大学院教育学研究科初等カリキュラム開発講座<br>&nbsp; 永田智子・鈴木千春(2014)小学校家庭科教育研究指定校の教員が抱える不安,日本家庭科教育学会第57大会(岡山大学)
著者
志村 結美 斉藤 秀子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.53, pp.26, 2010

<B>目的</B><BR><BR> 現代の子どもたちは、生活実感すなわち、生活を自らのものとして具体的に捉える力が欠如し、自らの生活に関心が薄いと言われている。このような子どもたちの現状に対し、家庭科教育は、日常生活の営みである生活文化に目を向け、その歴史あるいは先人の知恵や技術を理解し主体的に生活を捉えることで、新たな生活文化を創造し、生活をより豊かにしようとする心を育むという役割を担っている。特に、学習指導要領の改訂(2008・2009)において、伝統と文化に関する教育の充実が謳われている現在、家庭科教育も果たすべき役割は大きいと言えよう。<BR> そこで本研究では山梨県の児童・生徒を対象に、山梨県の伝統文化、伝統産業の一つである「甲斐絹」を取り上げた、地域の伝統産業と連携した家庭科の教育プログラムの開発を行うこととした。本プログラムの開発には、甲斐絹製品を生産・販売している企業(甲斐絹座)、県庁等の行政機関、教育機関が一体となった産官学が連携して携わっており、甲斐絹の商業的展開の発展をも目指している。もちろん、教育プログラムとしても児童・生徒が現実的に甲斐絹の発展や継承について捉え、より具体的に地域、日本の伝統や文化を継承していくことの意義を認識し、実践的な態度を育成することができるため、有効である。また、甲斐絹を使って小物製作を行う実習を組み入れることにより、基礎的な裁縫技術を習得できるとともに、五感を使って本物の絹に触れる経験ができ、さらにはプログラム全体を通して自らの地域の伝統と文化等に誇りを持つことにより、自己肯定感の育成等に関与できると考える。本報告では、Y大学附属中学校で試行的に実践した家庭科の実験的研究授業を分析・検討し、山梨県全域で普遍的に継続的に実践できる教育プログラムのあり方を探ることとする。<BR> <BR><B>方法</B><BR><BR> 実験的研究授業は、Y大学附属中学校3年生1クラス40名を対象に、2010年1月13日、20日の各1時間、計2時間実施した。授業前後のアンケート、授業中のワークシート、甲斐絹を用いて製作した小物(ポケットティッシュケース)等を分析対象とした。<BR><BR><B>結果及び考察</B><BR><BR> 実験的研究授業の第1次では、甲斐絹座のメンバーが実際の甲斐絹の布地や製品を紹介しながら、甲斐絹の歴史、特徴、織り方、甲斐絹の現状等の講義を行った。その講義を踏まえて、地域の伝統と文化の意義を理解し、実践的に継承していくための方策をグループで話し合い、発表した。第2次では、甲斐絹の素晴らしさを実感できる小物の製作を行い、最後に授業のまとめを行った。<BR> 授業の分析の結果、伝統と文化等に関する学習への興味・関心は、学習後に有意に高くなり、特に衣文化に関して、食文化と同様に9割以上の生徒が興味・関心があると答えている。また、甲斐絹を使った小物製作については、学習前に3割の生徒が否定的に捉えていたが、学習後には、全員の生徒が意欲的に取り組むことができたと回答した。これは、甲斐絹座による講義や、甲斐絹の色、光沢、手触りの素晴らしさに触れ、しっかりとした製品を創り上げたいという意欲がわいたためと推測される。性別による比較では、学習前は女子の方が意欲・関心が高い傾向が見られたが、学習後には有意な差が認められなくなり、男女ともに興味・関心を高めながら、その差を縮める結果となった。甲斐絹を広く社会に発信していくための工夫としては、マスコミの活用や本授業のような体感する機会の増加、その他、具体的な商品開発のアイディア等が積極的に述べられた。また、自らが伝統と文化に興味・関心を持ち、学び、伝えていく意義、甲斐絹を含めた地域や日本の伝統と文化に対する誇り等の自由記述も認められた。<BR> 今後の課題として、短時間で完成する小物の開発、小・中・高校と発達段階に即した教育プログラムの開発、小物製作キット等の作成等があげられ、今後も教育現場で活用できる教育プログラムの開発の検討を行う予定である。
著者
風岡 百穂 財津 庸子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.53, pp.71, 2010

1.目的<BR> 高校生の多くは、まだ家庭を創ることを遠い将来のように捉えている。そのような生徒たちに家族についての学習をより主体的に取り組ませたいと考え、本研究では「家族シミュレーションゲーム」を用いた授業実践を試みた。班をひとつの家族とみなし、生徒たちを親の立場に立たせて考えさせることを通して、家族の一員として話し合うこと、助け合うことを擬似的に体験させた。その際に、将来の家族について理想モデルを描くのではなく、少子化や家庭内暴力が社会問題・病理現象となっている現状を踏まえ、危機予測もしくは危機回避の力をつけさせることも意図した展開を考えた。擬似体験とはいえ予想外の出来事に対して対処でき得るという自信と、具体的な対応策を検討することにより、前向きに家庭を築こうとする態度を培いたい。以上のような、危機的状況を含む「家族シミュレーションゲーム」による体験的家族学習の効果を検討することを本研究の目的とする。<BR>2.方法<BR> 研究対象は大分県内の私立高校2クラス(A,B)、県立高校1クラス(C)である。「家族シミュレーションゲーム」の方法としては、班ごとに1~6のポジティブな特徴を記した赤色のカードを渡し、自分の家族に特に望む特徴3つを選ばせる。これら6枚のカードの内容は、1.家族形態・2.育児不安・3.親の性質・4.性別役割分業及び夫婦不和・5.子どもの性格的特徴・6.孤立状況といった実際の家庭の中で起こり得る状況を文章化したものである。同様にこれら6項目にそれぞれ対応するネガティブな特徴を記し、青色の1~6のカードとする。各班で選択されなかった数字の赤色カードを回収し、代わりに同じ数字の青色カードを渡す。これが「予想外の問題」が起こる、このゲームにおける家族にとっての危機的状況とする。それら3つの「予想外の問題」に対して対処法を考えさせる。<BR>3.結果<BR> 事前と事後のアンケート調査を比較したところ、育児の社会的支援についての項目でA・B・Cの3クラスとも同傾向の結果が得られた。「子どもを育てるとき、育児支援サービスや制度を利用することができる」という質問項目において、事前と事後の結果をt検定にかけたところ、全てのクラスで有意に意識が高まっていることがわかった(A:p<0.05、B:p<0.001、C:p<0.1)。 自由記述をみると、事前・事後共に「将来どんな家族・家庭を築きたいですか。」という質問項目において、「明るい」「楽しい」という表現は多くみられ、ポジティブな家族イメージをもつ者が多数であった。また事前では、「金銭面」の安定を挙げた生徒も少なくなかった。しかし、事後では、金銭面に関わる記述がほぼ無くなり、「助け合う」「話し合う」の記述が増え、更には「問題が起こっても解決できる」という回答が顕著に増加し、特にクラスBとCにおいては上位になっていた。収入の安定だけではなく、家庭内の人間関係の重要性も意識できるようになったためと考えられる。<BR> 以上より、危機的状況を含む「家族シミュレーションゲーム」を取り入れることで、家庭内で予想外の問題が起こっても家族で協力して乗り越えようとする積極的態度が意識できるようになると考えられる。また、状況に応じて社会的支援を利用することの必要性も理解できていた。6場面という高校生にとって少なくはない、また簡単ではない危機的状況を提示したにもかかわらず、家庭を創ることに後ろ向きになる生徒も見られず、どんな状況でも家族で協力して解決したいという前向きな姿勢が多く見られたことは成果と考える。
著者
桑原 智美 藤田 智子 倉持 清美 阿部 睦子 菊地 英明
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.60, 2017

【研究目的】<br /><br />厚生労働省の2016年食中毒統計資料によるとノロウィルス、カンピロバクター、植物性自然毒などの食中毒の患者総数が多く挙げられている。小学校家庭科の調理実習で作ったカレーのジャガイモのソラニンによる食中毒(2015年読売新聞)や、高校における冷やし中華によるカンピロバクター食中毒(1992年)なども報告されている。後者では鶏肉に付着したカンピロバクターが手指、器具などを介して調理食品を汚染する二次汚染が発生要因として推定(群馬県伊勢崎保健所)されている。このように調理実習で生じる食中毒は度々報告されており、衛生に関する授業開発は喫緊の課題である。学校現場での衛生管理の問題点を明らかにするために調理室や手洗い後の細菌検査を行った研究(石津、大竹、藤田他 2016)はあるが、生徒の食材の扱い方や食材管理上のリスクついては十分に検討されていない。本研究では、まず、調理実習で使用する食材に付着する菌について調べ、教師が食材管理上気を付ける点を整理する。次に、生徒の食材の扱い方の実態を把握し、衛生面についてどのような指導が必要なのかを明らかにする。生徒が衛生を意識した行動をとれているのかも検討する。<br /><br />【研究方法】<br /><br />1.食材調査:小学校、中学校、高校の教員9名に、調理実習時に使用する食材、衛生面で気になる点について調査した。それを基に、頻回に使われる食材について、培地を使用し菌の発生を調査した。<br /><br />2.調理実習時の生徒の食材の扱い方:都内S中学校、第3学年4クラスで、バナナケーキ調理時にバナナの皮を触った手で、そのまま触る場所を調査した。バナナは皮に菌が付着していることが多いため食材として選定した。2016年11月家庭科の授業(50分)で行った。実習グループ4人のうち1人は、バナナの皮を触った生徒が、その後に触れた箇所を、調理器具や調理台など17箇所を写真で示したチェックシートにシールを用いてチェックした。もう1人はバナナの皮を触った生徒の動きをiPadで録画した(アプリケーションソフト「ロイロ・ノート」使用)。バナナの皮を触った生徒が皮を捨てて手を洗った時点で記録の終了とした。<br /><br />【結果と考察】<br /><br />食材管理の観点から、食材配布時のトレーおよび食材について細菌検査を行った結果、肉には細菌が付着していることが明らかになったが、他の食材については結果にばらつきがあった。食材購入時にすでに細菌が付着している可能性があると考えられ、教員は細菌付着の可能性を踏まえたうえで食材管理をすることを再認識する必要があるだろう。また、細菌検査の結果を、他の教員および児童・生徒向けの教材として用いることは有効ではないかと考えられた。<br /><br />調理実習時の生徒の食材の扱い方について、バナナに触れた38名が、手を洗わないまま触った箇所は、17箇所のうち、0~15箇所、平均は6.9箇所であった。触ったのべ回数は、0~68回、平均は22.2回であった。バナナを触った直後に皮を捨てて手を洗った生徒もいれば、手を洗わずに多くの箇所を触る生徒もいるといったように、個人差が大きかった。触る回数が多い箇所は、蛇口、カップ側面、まな板、カップ内側、包丁であった。食材を触った手で様々なものに触れる生徒もおり、食中毒予防には生徒側の衛生に関する理解が必要であると考えられた。生徒の衛生面に関する配慮は個人差があると推察され、安全に調理実習を行うためには、教育の必要性が再認識された。また食材の扱い方調査において、記録をした生徒の衛生意識が高まっていることが授業後の感想から見て取れた。生徒たちの実態把握の方法としてだけでなく、授業方法としても今回のシールと映像を使った記録方法の有効性が示唆された。<br /><br />なお、本研究は東京学芸大学平成28年度教育実践研究推進経費「特別開発研究プロジェクト」の研究成果の一部である。
著者
得丸 定子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.57, 2014

<b>【目的】</b>超高齢社会を迎えている現在の日本において、高齢者の持つ経験や知識は貴重な財産であり、それを他世代に受け継いでいく意義は大きい。また、他世代との交流は高齢者にとっても生きがい感を増すと考えられる。しかし、核家族化が進む現在の日常生活では、高齢者と他世代との交流は希薄になっている。このような現状下、子供の高齢者イメージは年齢が上がるにつれてマイナスイメージに傾くという報告がなされているが、小学校児童の高齢者イメージの変化については触れられていない。ゆえに本研究では、高齢者と児童との世代間交流の実態把握、児童の高齢者イメージ変化把握、世代間交流実践の試みより、世代間交流の在り方を探ることを目的とした。 <br><b>【方法】</b>1.世代間交流の実態調査は新潟県J市内国公立48小学校のHPに記載されたグランドデザイン(H25.3現在)と同J市社会福祉協議福祉会のHPに掲載された「社協だより」(2008年~2013年)を分析対象とした。2.児童の高齢者イメージ調査は、J市内小学生77名(男子39名、女子38名)を対象。高齢者イメージは中野(1991)らの研究に基づいたSD法としての評定尺度を改変して使用。尺度は対称性を持つ形容詞ペアを17項目、5段階評価とした。3.世代間交流実践は、放課後児童クラブが設置されていない地区の児童を対象にしたボランティア活動「ねごしの寺子屋」の中で行った。調査統計処理はjs-STARを用いた。<br><b>【結果】</b>対象全小学校のグランドデザインでは「世代間交流」との用語を用いた記述は0校であったため、検索内容を拡大した結果、「高齢者との交流」記述は2校、「地域との交流」は48校であった。しかし、「地域との交流」の対象者は読み取れなかった。一方「社協だより」では「世代間交流」という用語は明確に使用されており、5年間で計32件の世代間交流活動記事が掲載されていた。 高齢者イメージ調査は、項目ごとの全サンプルの標準偏差に有意なばらつきが無く高齢者イメージは個人によって異なるものではないことが分かった。男女差は見られなかった。また、「髪の毛が白いー黒い」「大きい―小さい」の2項目を除き、他の15項目すべて中立点よりもポジティブ側に寄っていることが示された。次に、学年が上がるにつれイメージがネガティブなものへと変わっていくという報告があるため、本対象者を低学年、中学年、高学年にグループ化して分散分析を行った。全てポジティブ側での結果であるが、「うれしそう―かなしそう」「きちんとした―だらしない」「いそがしそう―ひまそう」「たのしそう―つまらなそう」「すなおな―いじっぱりな」の5項目で、様々なケースでのグループ間有意差が表れた。 【考察】「社協だより」では多くの世代間交流の取り組みが紹介されていたが、小学校のグランドデザインでは、世代間交流の用語は皆無であった。推測の域では「地域との交流」の取り組みの中に「世代間交流」が紛れているとも考えられるが、今後「世代間交流」との言葉を前面に出したグランドデザインの掲載が期待される。 高齢者イメージは、学年が上がるにつれてネガティブなものへ変わると予想していたが、今回はその結果は見られなかった。また学年グループ間比較で5項目の有意差が示されたが、一概に高学年になるにつれてポジティブイメージが下がっている結果ではなかった。本調査対象児童の半数以上が高齢者と同居しており、高齢者と日常的に接する機会が多いため、高齢者イメージはポジティブ側に寄った結果が表れたのではないかと考えられる。幼いころから日常的に高齢者と接することの意義の大きさが示された。 世代間交流実践では、児童と高齢者双方の笑顔が印象的であった。 以上のことから、小学校段階だけでなく、大学まで継続的に高齢者と関わることのできる機会を増やすことが大切であり、そのことが超高齢社会を支える重要な教育の1つであると提言できる。
著者
若月 温美
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.61, 2018

【研究の背景と目的】教師は自らの専門的力量を高めるために不断の学習が必要とされ、授業に関する力量を高めるためには日々の授業実践から学ぶ必要がある。高校家庭科の教師は一校に1人であることが多く、自分の授業について一人で振り返ることになるが、独り善がりにならずに他者の視点から授業をとらえ直すことで授業をより高い質へと改善することが可能となると考える。高校家庭科の調理実習で教師は事前に調理や献立のねらいの学習指導を行い、限られた時間の中で実習を安全に実施しなければならない。その時間に生徒が学んだことを確認することが難しく、事後指導で十分な振り返りをしなければならないが、「やりっぱなし」になっているのではないかという不安が残る。高校家庭科の調理実習の授業の課題を発見するための方法として授業リフレクション研究の効果について検討する。<br><br>【研究方法】対象の授業は2017年6月に筆者が高校2年生に行った調理実習の授業である。「麻婆豆腐とごはん」の献立を中華料理用の調味料と材料を使って作り、レトルトの素で作ったものと食べ比べ違いに気づくことを目的とした。この授業をビデオ録画した記録と生徒の実習後の記述をもとに自己リフレクションを行い一人称で記述した。自己リフレクションは「自己分析シート」(家庭科の授業を創る会2007 をもとに作成)に記入して行った。録画された授業記録と自己リフレクションの記述をもとに8月に集団リフレクション(千葉県の高校家庭科教師19名)を行い、ICレコーダーで録音した発話のスクリプトを分析した。<br><br>【結果と考察】自己リフレクションの内容は次のとおりである。事前指導では、示範により実際に作るところを見せ、その後班ごとに役割分担を決めさせた。材料と道具は事前にできる準備を行った。これらの準備は「やり過ぎか」と思ったが、実習がスムーズに進むために必要であるため時間をかけて行った。実習中の教師の発話は①作業内容と片付けの指示 ②生徒のふざけ、失敗への注意 ③生徒からの質問への返答 に分類した。①の最も多かった発話は「片付けの指示」であった。②は悪ふざけや致命的な失敗に対してははっきりと注意をし解決策を伝えた。③は説明したことでもその都度答える、またはレシピを見るように指示した。実習を安全にできるだけ失敗なく、時間内に終えることにこだわって授業を進めており、実習中に学ぶことを意識させていなかったことがわかった。事後指導では①作り方②作業③試食についてそれぞれ振り返り記述をさせた。①は調理のねらいについて意識して作業した様子を伺うことができた。②に時間内に終わらせるという目標も達成できていたが、作業手順について十分理解できていなかったことがわかった。③は食べ比べの目的を十分理解させていなかったことがわかった。集団リフレクションでは「事前準備が徹底しており『失敗しないこと』に主眼を置いている授業」との感想や「失敗からも学べるので失敗しても良いことを生徒には知らせている」など日頃の授業の在り方について意見が交わされた。この他者の視点は授業者が意識していなかった視点であり、実習中に生徒に学ばせたいことを問い直し、事前準備から考え直す必要性を示している。<br><br>実施した授業についての自己リフレクションにより①実習中の指示、②授業の目的を理解させること、に課題があることに気づいた。さらに授業でこだわっていたことを明らかにすることができ、その後の集団リフレクションよりこの「こだわり」ついて自分が意識できなかった課題を明らかにすることができた。以上より、授業リフレクションの効果が明らかとなった。これらの課題を解決しより質の高い調理実習の授業を実践するために、さらに対話リフレクションを行い解決方法研究し、教材研究とリデザイン、実験授業の実施とさらなる分析と考察を実施することを課題とする。
著者
西島 真美 吉原 崇恵
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.49, pp.45, 2006

<br><b>【目的】</b><br> 現代の子どもたちは高度に発達した文明社会に生まれ、便利で快適な生活をしている。しかしその反面、生活感が乏しく、依存性が強く自己中心的な生活をしているとも言われており、このような生活をしている生徒たちに家庭科を通してどのようなことを伝えていくのか、どのような力を育成していくのか、様々な方向から家庭科教育の学習について見つめ直したいと考えていた。生徒の日常生活は、様々な選択の連続である。無意識的に選択していることも多いのではないだろうか。この選択の連続は生き方やライフスタイルを決めることにつながっていく。生徒が主体的に生きていく生活者として育っていくためには選択の仕方を通して、情報の必要性や自分の価値観の見直しが求められていると考えた。つまり、意思決定プロセスについて学習する必要性があると考えた。そこで本研究は、意思決定プロセスの3つの方法と3つの課題を設定して中学生にとって効果的な方法を検討すること、中学生が学びうるものは何かを明らかにすること、意思決定プロセスを導入した授業計画の提案を行うことを目的とした。<br><b>【方法】</b><br> 2005(平成17年)年11月15日~28日に三島市Y中学校1,2,3年生から1クラスずつ抽出して95名を対象に調査した。それぞれ異なる3つの課題を設定し、方法1・方法2・方法3の3種類の方法を用いた。生徒は、3つの方法でそれぞれ異なる3つの課題について、価値項目、資源、選択方法、メリットやデメリットを考え課題解決に取り組んだ。そのプロセスについて、生徒一人ひとりのカルテを作成し、追跡調査を行った。なお、方法1は自由記述の形、方法2は価値や資源との照合ができる形、方法3はデシジョンツリーの形である。<br><b>【結果と考察】</b><br> 各学年ごとの集計結果から、分かりやすい方法は方法2,3であると評価され、課題の違いには関係がなかった。また、生徒一人ひとりのカルテを追跡調査した結果、方法2は、どの学年においても価値項目や資源について考え合わせた問題解決を行っている生徒が多いことがわかった。方法3は、多くの選択方法を考えることはしやすいが、価値項目や資源を考え合わせるという点についてはできない生徒もみられた。方法1は、1つの選択方法について詳しく考えることはできるが、それ以外の選択方法については考えが広がりにくいことがわかった。生徒の感想にも多く書かれていたが、新たな選択方法に気づいたり、今までの生活を見直したり、親のありがたさや、お金の大切さなど、わかっていたつもりであったことを改めて感じ、考えるきっかけとなったようだ。<br> 方法1,2,3についてそれぞれ3学年のカルテを見てきたが、これからの生徒の生活や学習に生きる可能性を見つけることができた。<br><b>【課題】</b><br> 今回の研究では、決定した内容を生徒自身が診断するプロセスについては実践できていない。教師側から、よりよい問題解決ができたという診断を行った。この点はこれからの課題としている。これからは、意思決定プロセスを組み入れた単元構想をもとに「食分野」「消費生活分野」での授業実践を行い、授業後意思決定プロセスの実践が生徒の生活にどのように生きるのか追跡する。単元構想では、1時間の授業や単元のまとめなど様々な場面を使い、生徒自身が自分の決定内容の見直しや診断を行っていくよう計画した。そこまでを意思決定プロセスであると考えている。<br> また、カルテからは生徒の生活実態についての間題点も浮き彫りになった。この点についても授業では、個人の生活と社会との関連が学べるように実践したい。
著者
中屋 紀子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.52, pp.34, 2009

(研究目的)教員養成大学において、教育実習と連動した指導が最近特に求められるようになった。大学に入学したばかりの1年生から、実際の家庭科の授業を観察する機会を作り、それを生かした大学での講義作りが求められている。ただ授業観察するだけでは話にならず、せっかくの観察機会を生かすためには明確な「視点」が必要である。しかし、学生たちに授業を観る「視点」をつけることはそれほど簡単ではない。(研究方法および経過)そこで、本報告は「観察」することを重点においた指導を試みた。それをもとにした考察を行う。1.宮城教育大学附属小学校の校内研究授業を3台のビデオ記録したものを編集し、1本のテープとした。授業は2008年6月30日、5年2組、齋藤憲子教諭によって行われた。テーマは「家族と生活」である。2.その映像をCDに焼き付け、資料とした。3.同時に、ストップモーション方式で活字記録化した。ストップモーション方式について補足をすると、以下である。「教師(T)-子ども(C)」の記録に教師や子どもの非言語的な行動についても加えて記述する。その点は「T-C型+ト書き」形といえる。さらに、子どもの非言語的な行動や非言語的なニュアンスも加えた文章を加える。「地の文+発言」である。またさらに、「一時停止」を利用して若干の補足や解説を加える。(藤川「授業記録を書く」『授業分析の基礎技術』(二杉・藤川・上條 編著 学事出版 2002)4.家庭科教育実践研究という授業観察が必須である講義で、受講生各自にCDと活字記録のコピーを配布した。5.CDを再生しながら、活字記録の余白に受講生の「ストップモーション」を挿入させた。6.記入が終わったら、活字記録のファイルを配布し、それに記入させた。7.それを集めて、検討資料とした。受講生各自がどこで、どんなストップモーションを入れたかが分かるように色分けをした資料とした。どんなところにストップモーションを入れるか(視点を明確にする)は、この取り組みの前にレクチュアをした。8.最後に授業者からのコメントを入れて、受講者に返却した。(検討結果)1.受講生たちは教師の教授行為の積極的な側面をしっかり評価することができた。たとえばある受講生は「おへそをこちらへ向けてください」という指示はわかりやすくて子供たちも素直に聞ける指示であると感じた。」と、記していた。2.同時に、教師の教授行為の課題も見つけることができた。たとえば、「発言しない子どもも授業に参加しやすいように、「同じ意見の人は?」というような問いがあると、より多くの子どもが授業に参加できると思う。」と、自らの意見も同時に述べることができている。3.同様のことが教材についても言えた。評価した点として例をあげると「児童が食いつきやすい内容の絵の提示はとても良かった。実際の生活の中で考えられる場面であるのも良い。」と、絵を用いて問題を追及する方法の積極面をあげた。他方、採用したビデオレターについて「ビデオレターというアイディアは良いと思う。しかし、なぜ先生なのかわからなかった。今まで自分自身や家族からの視点で成長をしたことをまとめてきたのなら、親など身近な家族のほうが題材にあっていると思う。」と、ビデオレターに登場した高学年担当の教師について厳しい意見も出せた。同じところにストップモーションをしながら、異なった意見も多々あり、意見分布の多様性も興味深かった。4.いくつか、今後解決したい課題が残った。例をあげる。「授業という場面で、「発表」することができる「力」とは、どんな力でしょうか?それを考えて普通、教師は発問をします。答えやすい問いを投げかけて、たくさんの児童から引き出したいときと、わかる児童が少なくても、答えを引き出したいときの二つに分かれます。それぞれ、教師は何を考えるのでしょうか?」などである。
著者
小守 友里恵 山田 忍 仙波 圭子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.53, pp.16, 2010

【目的】経済状況の悪化により、日本の貧困率は15%となり児童扶養手当受給者は年々増加する一方、家計簿の売上げは2008年、前年比1割増で、やりくりへの関心の高さを反映していると言える。平成20年高等学校家庭科新学校学習指導要領においても、細やかな家計管理の学習が求められていることから、本研究は、高校生の高校生のライフマネジメントと金銭管理の関係を明らかにし、今の時代に求められている家計の教育をさぐることを目的とした。【方法】1.2008年12月に市販されていた家計簿23冊を入手し、記述内容を調査をした。2.市販家計簿の費目が生活実態を反映していることに着目し、高校生の個計の費目について検討した。3.「家庭基礎」の消費生活の授業で、費目に着目したワークシートを用い、「各費目の負担者」、「欲しい物があった時の消費行動」、「貯蓄目的」について分析した。【結果・考察】方法の3から得られた結果は以下の通りである。 費目の負担者については、「映画・娯楽」「書籍(漫画)」の自己負担が多かった。他の「飲食代」「携帯代」「化粧品」「洋服・靴」「文具・雑貨」「交通費」は、家族の一定の理解があり、家族が負担しているものと考えられる。欲しい物があった時の消費行動は、「諦める」「親に頼る」「自分の力で購入する」の3パターンであった。貯蓄については、将来なにかしら必要であると考え貯蓄する生徒や、目の前にある欲しいもののために貯蓄する生徒が多いということが分かった。 そこで費目の負担と「消費行動」及び「貯蓄行動」の関係について、SPSSを用いてコレスポンデンス分析を行った。 その結果「消費行動」に対する回答パターンでは、「自己負担している女子」は、「自分で購入する」「バイトする」の回答パターンに、「自己負担している男子」は、「貯めて購入する」の回答パターンに、「自己負担していない女子」は、「親に購入する」の回答パターン、「自己負担していない男子」は、「諦める」の回答パターンに類似している。このことから、「自己負担している男女」は、他人には頼らず自分の力で入手していると分かった。 また、「貯蓄目的」に対する回答パターンは、「自己負担している女子」及び「自己負担している男子」は、「長期的目的がある」「長期的目的はない」「短期的目的がある」の回答パターンに、「自己負担していない女子」は、「短期的目的はない」の回答パターンに、「自己負担していない男子」は、「無回答」の回答パターンに類似している。このことから、男女とも自己負担のある生徒は、貯蓄に対してある程度具体的な目的を持ち、また、将来的に使う目的で貯蓄をイメージしていることが読み取れる。以上の結果、高校生は「自己負担をしている、していない男女」で異なる金銭管理を行っていることが明らかとなった。 高等学校家庭科においては、「自己負担をしている、していない男女」がそれぞれ異なる「消費行動」と「貯蓄目的」をすることを踏まえ、それぞれに必要な指導を明確にする必要があると考えられる。 「消費行動」では「自己負担をしている男子」は、「貯めて購入する」、「自己負担をしている女子」は「自分で購入する」「バイトする」回答パターンとの類似から「意思決定」が必要であろう。また「自己負担していない男子」は、「諦める」回答パターンとの類から、「自己投資」が必要であると考えられる。また「自己負担していない女子」は、「親が購入する」パターンとの類似から、「資金管理」が必要であると考えられる。 「貯蓄目的」では、「自己負担をしている男子」及び「自己負担している女子」は、「長期的目的がある」「長期的目的はない」「短期的目的がある」回答パターンとの類似から、「生活の見直し」「生活設計」が必要であると考えられる。「自己負担していない男子」は、「無回答」回答パターンとの類似から、「資金管理」が必要であると考える。「自己負担していない女子」は、「短期的目的はない」回答パターンとの類似から、「生活設計」が必要であると考えられる。
著者
鈴木 智子 得丸 定子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.49, pp.17, 2006

<br><b>【目的】</b><br> 近年のインスタント食品、加工食品の増加、外食産業の普及等の食生活環境は、現在の中学生の食生活や味覚に影響を及ぼしている。昨年度の第48回本大会では、食行動と味覚の識別能の関連について、味覚の識別能が高い生徒は「栄養バランス性」が高く、味覚の識別能が低い生徒は「ファスト・濃厚味志向性」が高い食行動であること、生徒の食行動には本人の食への関心と共に食事担当者の意識との関係があることを報告した。今回は昨年の調査を基に、食生活や食体験および食への関心について聞き取り調査を行い、生徒の食意識や食行動に影響を及ぼす要因を探り、今後の食教育の在り方について示唆を得ることを目的とした。<BR><b>【方法】</b><br> 新潟県上越市内の大学法人中学校1年生12名(味覚の識別能高群生徒6名、識別能低群生徒6名)を対象に、1,主食・主菜・副菜の摂取について、2,インスタント食品・ファスト食品・惣菜・スナック菓子等の摂取について、3,味について、4,団らんや食を通したコミュニケーションについて、5,食生活への関心について、等の内容について、半構成面接法による調査を実施した。調査は2004年9月におこなった。<BR><b>【結果と考察】</b><br> 生徒の食生活は、母親の手作り中心の食生活を送る生徒と、インスタント食品などを利用する食生活を送る生徒に二分された。味覚の識別能が高い生徒の家庭では手作り中心の食生活を送っている生徒が多く、識別能が低い生徒の食生活は様々であった。また、手作り中心の食生活を送る生徒は、ファスト化された食品よりも手作り料理の味を美味しいと述べているが、インスタント食品などの利用が多い家庭の生徒は、インスタント食品やコンビニ食品の味が美味しいとの回答が多かった。ファスト化された食品の頻繁な利用により、それらの味への好み形成と味覚識別低下をきたしていると推測された。<br> 「天然だしと合成だしの味の違い」や「旬の野菜とそうでない野菜の味の違い」といった食品の味の識別については、味覚の識別能の高低にかかわらず、実際の食体験の有無に左右されていた。意識的な味覚経験の積み重ねが食品の微妙な味の識別力を育てることが示唆され、素材本来の味や多様な味に触れることの重要性が示された。<br> 味覚の識別能が高い生徒は食への関心が高く家庭の食事の手伝いに関わる生徒と、食への関心が低く親任せの食生活を送る生徒に二分された。一方、味覚の識別能が低い生徒は、家庭の食事の手伝いへの関わりが少なく、食への関心が薄かったり、偏ったりといった傾向にあった。このことにより、味覚の識別能の高低には保護者の食意識と生徒自身の食意識・食行動が関連していることが示された。<BR><b>【今後の課題】</b><br> 生活の根幹である食教育は、本来家庭が中心になり行われることが望ましい。しかし、生活状況の多様化は食生活にも影響を及ぼし、保護者が子どもに豊かな食教育を施すことが難しい家庭があることも現実である。したがって学校教育、とりわけ義務教育における食教育の役割は大きいと考える。今後の課題としては、五感を通した食体験学習と、自立的・自覚的食生活を送るために必要な関心を育て、食に対する基礎的な知識、技術、食事観を教育していくための教材開発が挙げられる。
著者
土屋 善和 千葉 眞智子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.61, 2018

<b>1.研究の背景及び本研究の目的</b><br> 現在の日本は、高齢化率27.3%と、約4人に1人が高齢者という超高齢社会をむかえている。そうした時代の中、中学校の新学習指導要領解説家庭編(2017)には、「A家族・家庭生活(3)家族・家庭や地域との関わり」の中で、「高齢者との関わり方について理解すること」、また内容の取扱いでは「高齢者の身体の特徴について触れること」と明記された。つまり、現行学習導要領では高校段階の学習内容であった高齢者について学ぶことが、学習指導要領の改訂に伴い中学校段階にも位置づけられたことで、系統性を持たせてより深く学ぶ必要があることが読みとれる。<br> そこで、高齢社会に関する内容の深い学びを促すために、アクティブ・ラーニングの視点を取り入れた授業が望ましいと考えた。アクティブ・ラーニングは主体的・協働的・対話的な学びであるため、学習者にとって身近に感じることが困難である高齢者及び高齢社会について深く学ぶ上で、有効な手立てと考えられたからである。<br> 以上を踏まえ、アクティブ・ラーニングの視点を取り入れた高齢社会を題材とした授業を考案し実践した。そして、今後の家庭科における高齢社会の学習の充実に向けた、深い学びにつながる新たな授業提案が、本研究の目的である。<br><b>2.研究方法</b><br> 神奈川県内の私立中高一貫女子校に通う高校2年生を対象に、2時間構成の授業を行った。実施時期は、2018年2月中旬である。本実践では、アクティブ・ラーニングの視点を取り入れた学習として、「知識構成型ジグソー法」及び「KP法」を取り入れた。そして、授業の効果を把握するために、「高齢社会を生きる上で,私たちは何をすべきでしょうか」という問いに対する学習前後の生徒の記述を分析・考察した。<br><b>3.授業概要</b><br>(1)知識構成型ジグソー法(1時間目)<br> 高齢社会及び高齢者に対する基礎的な理解を促すために、知識構成型ジグソー法を取り入れた。メインの問いは「高齢者はどのような暮らしを望んでいるだろうか」と設定し、問いに迫るために4種類のエキスパート資料を用意した。なお、エキスパート資料のテーマは以下に示す。<br>・エキスパート資料A:日本の高齢化の動向…高齢化率など<br>・エキスパート資料B:高齢者の暮らし…高齢者の世帯構成など<br>・エキスパート資料C:高齢者の身体的特徴…バリアフリーなど<br>・エキスパート資料D:活躍する高齢者…高齢者インタビューなど<br>(2)KP法(1時間目)<br> メインの問いに対する答えについて生徒同士が協働で考えるために、KP法を取り入れた。KP法(紙芝居プレゼンテーション)は、グループの意見を端的に用紙にまとめ、紙芝居形式で発表をする手段であり、グループの思考整理のツールとしての機能を持つ。本実践ではメインの問いに対する答えをグループで考え、A4用紙4~6枚にまとめ、3分程度で発表をするという方法をとった。<br><b>4.結果および考察</b><br>(1)発表内容の分析<br> 発表内容をみると、それぞれのエキスパート資料に記載されている用語が用いられており、ジグソー学習で得た知識や意見を取り入れて考えている様子がみられた。それだけではなく、若者と高齢者の共生や地域とのつながりなどエキスパート資料を統合した考えも表出されていた。さらに、高齢社会を生きる上で必要なことや課題・問題に対する解決方法にまで思考を巡らしていたこともうかがえた。<br>(2)生徒の記述の分析<br> 学習後の記述における抽出語をみると、「関わる(関わり)」、「コミュニケーション」、「交流」といった語が学習前に比べて頻出しており、人(地域の人、家族、若者と高齢者)との関わりに着目した意見が挙げられるようになった。また、「地域」、「身近」、「近所」といった単語も頻出するようになり、生徒が自身の身の回りの生活にも目を向けるようになったことがうかがえる。生徒が学習内で得た知識や意見を取り入れ、新たな考えを創出しており、本実践で取り入れたアクティブ・ラーニングが、生徒の深い学びにつながったものと推察される。
著者
高取 逸子 増澤 康男
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.53, pp.32, 2010

1 研究の背景と目的<br> 中央審議会答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」(1999年12月)の中で「高等学校における生徒の能力・適性・意欲・関心に応じた進路指導や学習指導の充実」が明記され、「高大連携」は飛躍的に拡大した。勤務校では、京都高大連携研究協議会「2006~2008年度実践研究共同教育プログラム」*による授業を「家庭基礎」で実施した。本研究の目的は、この実践の成果を検証し今後の方向性を探ることである。<br> 今回の学習指導要領の改訂において、「家庭科」では、生徒自身が考える場面を設定し、科学的根拠に基づいた学習指導を行うことが従来にも増して大切になると考える。一方、昨今の「食の安全」に関わる社会問題の増加は、「家庭科」の授業内容を理解し生活に生かすことが、21世紀を生きる生徒にとってますます重要となっていることを浮き彫りにしてきた。現代人の食生活にスポットをあて、飽食の時代に生きる高校生が自らの栄養事情を考えることができる授業を構築することが、家庭科に求められているといえよう。<br> 以上を踏まえ、本研究では、高大連携授業を通じて大学での専門的で、かつ先端的な知識を学ぶことにより、現在の若年層の中でスポーツ効果やダイエット等注目を浴びているサプリメントや機能性食品について、どのような知識・情報を持って選択していけばよいか、またその科学的効果について考えることを目標に授業を構築し、以下の4点が達成できたかどうかを検証することとした。<br>(1)探求的学習として興味・関心が得られたか。<br>(2)授業への積極的な参加が促されたか。<br>(3)教科内容の理解は向上したか。<br>(4)進路希望実現への「学び」の広がりはできたか。<br>2 高大連携授業の内容<br>(1)連携大学:京都府立医科大学・京都府立大・同志社大学<br>(2)対象生徒:2006・2007年度3年生、2008年度2年生「学力伸長コース」<br>(3)学習内容:題 「サプリメントを科学する。 _I_・_II_・_III_」<br>日常摂取する食材や市販サプリメントについて の実験・調査研究。<br>(4)学習目的:データ収集と分析、考察、科学的根拠に基づいての検証。<br>(5)授業回数:2006・2007年度 6回10時間、2008年度8回14時間<br> 3 結果と考察<br> 主として、2年生を対象とした2008年度における生徒アンケートにもとづいて評価・考察を行った。アンケート結果においては、検証目的であった4点について、ほぼ達成出来たことを示していると考えられた。特に教科内容の理解向上については、大学の先生より現代人における食生活の実態やその問題点、生活習慣病との関わり等、現代の「食」についての理解を深める講義を受け、その中で自分の食生活についても問題点はないのかを考え、毎日の食事の大切さとバランスの良い栄養摂取方法についての理解も深めた。<br> 講義レポートでは70%の生徒が自分の理解できた具体的な内容を書いており、次の講義に向けて、20%の生徒が質問を投げかけている。大学の講義内容に不安を持って臨んだ生徒も、前向きに大学の講義内容を理解しようという姿勢が見られたことが評価される。生徒たちは、「調査・研究」という新しい授業に対して、興味を示しつつも最初は戸惑いも多い。しかし内容を理解するにつれ、楽しんで積極的に取り組む生徒が大半になった。「仮説」「実験」「検証」というプロセスを通して、思考方法や、学びに対する視野が広がり、また「地域・保護者授業公開」という大きな場での発表で、良い評価を得て自信になった。同時に、プレゼンテーションの難しさを経験することも出来た。<br>「進路希望実現」という課題においては、大学で学ぶ目的を、早期から具体的に考える生徒が多く見られ、本校での進路指導にも大きく貢献することも出来た。<br> 今回の取り組みは、生徒の「学習意欲向上」につなげることが大きな目的であった。この点については所期の目的を達成したと考える。そして、高校と大学双方の教員が互いに影響し合いながらともに高め合える関係が構築されるようにすることも大切な課題であるが、高校と大学が共通理解を持って連携教育プログラムを開発するには、事前準備等の時間的確保や校内での周知徹底と授業時間確保などに対する学校体制の整備、予算面での行政支援等が望まれる。そのためには的確なコーディネーターの存在が必須であると考える。<br>(謝辞)2006年度~2008年度までの3年間にわたる高大連携授業の実施では、京都高大連携実践研究プログラム総括責任者を務めていただいた京都府立医科大学吉川敏一教授をはじめ、同志社大学市川寛教授、大妻女子