著者
信清 亜希子 西谷 圭二 佐藤 園
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.52, pp.82, 2009

[目 的-本継続研究の目的と本発表の位置づけ-]<BR> 平成20年に改訂された新学習指導要領では、各種調査結果の分析から「確かな学力」「豊かな心」「健やかな体」の調和的育成による「生きる力」の育成を基本理念としている。この中で家庭科は、特に「豊かな心」「健やかな体」の育成を担う教科として位置づけられ、わが国が抱える教育問題を解決する重要な役割を負っている。ところが、小学校家庭科は第5・6学年にしか課されていない。しかし、家庭科が前述した役割を持つ教科として学校教育に位置づけられている以上、家庭科でしか身に付けられない能力の育成は、全学年の子どもに保障されなければならない。そのためには、系統的に組織した家庭科の学習内容を小学校低学年から教科「家庭」として一貫して学ぶ方が、子どもにとってより意味があると考えられる。この課題解決のためには、昭和31年度版『小学校学習指導要領家庭編』で示された「家庭科が第5学年から課される三つの理由」と「教科成立の4条件」から考えるならば、第一に「家庭科を第5学年からしか学べない理由」を事実に基づいて検討し、小学校低学年からの家庭科学習実践の可能性を理論的・具体的に実証し、第二の課題となる制度・行政的に小学校全学年の教科として「家庭」が位置づけられ、目標・内容が学習指導要領に規定されなければならない。本継続研究は、この問題意識に基づき、第一の課題検討を目的として、平成20年度例会では、米国N.J.州初等家庭科プログラムにみられるカリキュラム構成原理を分析し、小学校低学年からの家庭科学習の論理的可能性を明らかにした。平成21年度大会では、米国初等家庭科プログラムを参考に、わが国の小学校低・中学年で試行する「食育」をテーマとした投げ入れ授業としての家庭科学習指導計画「なぜ、食べるのか?」を、科学的認識の獲得を目的とする「教授書試案」の形式で開発した。本発表では、その試案に基づき、平成21年度2学期に実践した結果を分析し、小学校低学年からの家庭科学習実践の可能性を検討したい。<BR>[方 法-小学校第2・4学年における家庭科授業の実践と分析-]<BR>(1)授業の対象者・実践者・実践年月日;○岡山市立西小学校第2学年(男子19名、女子15名、計34名)・西谷圭二(学級担任)・9月15日5校時 ○吉備中央町立大和小学校第4学年(男子11名、女子4名、計15名)・信清亜希子(学級担任)・9月30日6校時<BR>(2)授業の実施内容;時間の関係で、指導計画「なぜ、食べるのか?」(1.なぜ、食べるのか?・2.何を食べているのか?・3.何を食べるのか?どのように食べるのか?)の「1.なぜ、食べるのか?」を実践した。<BR>(3)授業の分析方法;授業記録(VTR、子どものワークシートの記述)に基づき、「家庭科が第5学年からしか学べない理由」から、1)この学習で子どもはどのような知識を獲得したのか・2)その中で、他教科の基礎的な理解と技能は応用されたのか・3)1)2)には、どのような子どもの発達段階の違いがみられたのか、の視点を設定し、分析を行った。<BR>[結 果-小学校第2・4学年における家庭科授業実践の結果と評価-]<BR> 学習全体を通して、両学年ともに国語(話す・聞く・書く)、第2学年では、算数(三位数の整数を含む減法)・生活科(植物の成長)、第4学年では、体育(保育・毎日の生活と健康)・算数(小数の減法)・理科(植物の成長)を応用して子どもは思考をし、本時のMain Question「なぜ、私たちの体はこれだけ大きくなったのか」「なぜ、私たちは食べるのか」に対する答え(知識)を導出していた。それらの知識は、本時の到達目標であった「空腹を満たすために食べる。」「自分の体を成長させるために食べる。」の他に、「たくさん食べ物を食べたから大きくなった。」「いろいろな食べ物を食べたから大きくなった。」「食べ物の栄養で大きくなった。」「好き嫌いなく食べたから大きくなった。」、「食べないと力(元気)が出ないから食べる。」「食べないと運動や勉強ができないから食べる。」「体を健康にするために食べる。」等に分類され、それらは、第2次「何を食べているのか?」、第3次「何を食べるのか?どのように食べるのか?」で分析的に学習する「食物の種類・量」「私たちが食物を食べる理由-健康保持・活力(活動・運動・勉強)を得る」に繋がる「子どものこれまでの経験から直観的に把握した知識」となっていた。
著者
駒津 順子 小松 恵美子 森田 みゆき
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.76, 2008

<B><目的></B> 高等学校家庭科で実施する「染色」教材の開発研究を行ってきた。高等学校家庭科において「染色」の辿ってきた歴史を知るために、高等学校学習指導要領・教科書等における「染色」取り扱い科目及び領域の変遷について調査したところ、家庭科における「染色」は、「更正染」「手芸染色」「生活文化の伝承」の順に変遷し位置づけられていることがわかった。今の時代を反映した「染色」教材を開発するための視点を検討した結果、高等学校家庭科における「染色」の授業は、「生活スキルの向上により生徒に自信を持たせ、自己理解を深めさせることができる」と考えられた。今回は、実践的な教材開発のために、「染色」教材や「染色」研究についての論文検索を行い、先行研究を抽出して内容を比較検討した。それらを元に教材化のための予備実験を行った。<BR> <B><方法></B> 論文検索は学会誌5誌と商業誌7誌を対象とした。学会誌は、繊維学会誌、日本家政学会誌、日本家庭科教育学会誌、日本蚕糸学会誌、化学と教育、であった。また商業誌は、染色研究、染料と薬品、染色工業、色材、月刊染織α、京染と精練染色、考古学と自然科学、であった。論文検索には、国立情報学研究所(NII)のポータルサイトであるCiNii(NII論文情報ナビゲータ)を使用した。論文は発表年が2005年までのものを対象とした。論文の抽出および分類は13のキーワード(染色法、色素の合成、分解、洗浄、環境、廃液、堅牢度、拡散、天然染料、染色教材、染色領域、顔料、その他)を設定し、論文タイトルから読み取り該当するものを抽出した。なお、「繊維学会誌」と「日本家政学会誌」の2誌に関しては、CiNii掲載以前の論文についても検索対象とした。<BR> <B><結果></B> 学会誌の検索論文総数は18,087件であり、染色教材に関するものは日本家庭科教育学会誌が1件、化学と教育が43件であった。一方、商業誌の検索論文総数は4,901件であり、染色教材に関するものは月刊染織αが8件であった。日本家庭科教育学会誌から抽出された論文は生野ら<SUP>(1)</SUP>によるものであった(以下論文1とする)。この他に、大学紀要等で発表されている論文2<SUP>(2)</SUP>、論文3<SUP>(3)</SUP>、論文4<SUP>(4)</SUP>を加えた4件の論文を検討対象とした。論文1は玉葱、紅茶、紅花、藍の染色条件を検討し堅牢性も調べた上で標本を作成しており、実践的な教材を検討するには最も参考になると考えられた。論文1の染色材料の中で手に入りやすいものは玉葱と紅茶であった。教材としては媒染剤による色相の変化が大きい方が望ましく、また被服だけでなく家庭科の様々な科目で実践が想定できることから、玉葱を染色材料に選び、論文1の実験条件をもとに予備実験を行った。実験はすべて水道水を使用して行った。のり無し白布を試料布として、同一染液で布を換えて2回染色を行い、色の濃さを比較した結果、目視では1回目染液染色布と2回目染液染色布の差は見られなかった。媒染剤は5種類を検討した。鉄明礬と硫酸第一鉄アンモニウムは暗緑色、カリウム明礬は山吹色、塩化カリウムとリン酸水素二カリウム、及び未媒染は薄茶色となった。<BR> <B><引用文献></B>(1)染色教材への天然植物染料の適用-主として玉葱・紅茶の場合-、生野晴美、堀内かおる、岩崎芳枝、日本家庭科教育学会誌、34、31-36(1990)、(2)地域素材を用いた染色教材の開発-さくらの葉を用いた場合-、日景弥生、三國咲子、弘前大学教育学部紀要、80、71-78(1998)、(3)小学校家庭科と関連させた「総合的な学習の時間」の構築-草木染めの教材化-、後藤景子、橘高純子、京都教育大学紀要、107、115-122(2005)、(4)天然藍の染色教材への適用、浦野栄子、萩原應至、信州大学教育学部附属教育実践研究指導センター紀要、7、181-188(1999)
著者
山田 桂子 日景 弥生
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.44, pp.36, 2002

&lsaquo;目的&rsaquo;第1報で報告した測定項目をもとに、中学生とその保護者のジェンダー観を比較し、両者の意識の関連を検討することを目的とした。<BR>&lsaquo;方法&rsaquo;1. 調査対象と時期;第1報と同様である。2. ジェンダー観の比較;中学生とその保護者、それぞれのアンケート項目で近似した項目を比較した。さらに、中学生と保護者を男女に分け、それぞれ得点の高い者(以下バイアス群)と低い者(以下フリー群)から順に約20%を抽出し、各群を詳細に分析した。<BR>&lsaquo;結果および考察&rsaquo;1. 両者のジェンダー観の比較;アンケートの近似項目では中学生およびその保護者ともほぼ同じ傾向を示した。しかし、「運動会の応援団長はいつも男子がやる方がよい」では保護者の方がフリー傾向を示したが、近似項目である「PTA会長は男性の方が活動しやすいと思う」ではバイアス傾向となり、この傾向は母親の方が父親より顕著にみられた。これより、保護者が自分自身に直接的に関わるものとそうでないものとでは無意識のうちに違う判断をしていることがうかがえた。2. 両者のジェンダー観の関連;両親がフリー群の場合は中学生もフリー群が、両親がバイアス群の場合は中学生もバイアス群が多くなった。これより、父親と母親のジェンダー観が似ている場合、その子どもである中学生も両親と同じ傾向となることが示唆された。
著者
葭内 ありさ 石原 愛子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.56, 2013

&nbsp; 本実践は、高校家庭科に於いて食領域の学習である配膳の方法を、保育領域の教材制作を用いながら学習し、さらに小学校・幼稚園と学校種を超えた連携授業として試みたものである。<br>&nbsp; 近年、正しい食事の配膳の理解に乏しい生徒が多いことが調理実習時の配膳の様子からも見受けられる。また、和洋中の食器の区別をせずに用いようとする生徒もいる。食生活の文化に関心を持ち、配膳を生活文化として継承していくためには、家庭のみならず学校教育での実践が必要である。このため、本校高校家庭科の授業では、生徒の配膳に対する意識を高め、正しい配膳方法を楽しんで習得するために、絵本制作を用いた実践を行い、その効果を検証した。 <br>&nbsp; 方法は、高校1年次夏から2年次冬にかけての1年間余りにわたって授業実践を行い、その前後に学習内容がどのように定着したか分析した。まず、1年次の生徒の夏休みの課題として、白無地の絵本を配布し、和食の正しい配膳についての絵本制作を行った。その後正しい配膳がどの程度理解できているかを調査した。絵本制作は、家庭科の保育分野の教材として長年扱われており、子どもへの理解を深めるために、布絵本の制作等が行われてきた。しかし、ここでは、特に配膳方法に注目した絵本を制作することで、生徒自身が工夫し考える中での食分野の学習の定着を主眼とした。 <br>&nbsp; さらに、この学習はその後2年次に続く保育分野の学習の導入としても構想した。絵本は、読み手を幼児と設定し、色彩豊かなもの、立体化したもの、くり抜いたもの、マグネットや布、マジックテープを用いたものなど、生徒それぞれの工夫と発想を生かした表現力豊かな作品が出来上がった。 また、絵本という素材をより効果的な授業題材とするために、附属校間の連携した取り組みを行った。附属小学校に依頼し、高校生が制作した絵本を、小学5年生に読んで貰い、それぞれの絵本に感想を書き、高校生へのフィードバックとした。さらに、小学生4人グループで1冊の絵本を、「幼児が興味をもてるか、わかりやすいか」、をポイントに選んで貰った。この試みからは、時に高校生の視点と小学生の視点が異なることがわかった。この際、事前に小学生にも高校生と同様の配膳知識の調査を行ったところ、給食で用いている、主菜副菜兼用皿の盛りつけの影響と見られる配膳方法を提示する児童もおり、給食での配膳指導が児童の知識に影響を与えている様子がわかった。<br>&nbsp;&nbsp; 高校2年次になってから、附属の保育所や幼稚園訪問実習を行う際に、制作した絵本を持参し、5歳児へ絵本の読み聞かせを行った。保育分野の学習の後、経験をふまえて、再度高校生は8人グループで配膳絵本の絵コンテを作成した。ここにおいては、観察した幼児を念頭に置き、配膳が幼児にもわかりやすく、読み聞かせに適した絵本の制作を目指した。この授業は、最初の絵本制作から1年以上が経過している。そこで、再度同じ高校生に配膳方法の定着の調査を行ったところ、約7割弱の生徒が正しい配膳を覚えていた。一方、教師からの座学のみでの配膳方法の学習を行った学年では、学習後3ヶ月経過した時点での調査でも定着率は低かった。<br>&nbsp;&nbsp; このように、絵本制作を通した配膳学習は有効であることが認められた。しかし、絵本制作を行っても1年後に配膳が身についていない生徒も認められる為、家庭での日々の実践の促しや、学校でのさらなる反復学習が必要と思われる。<br>&nbsp;&nbsp; なお、本研究は、お茶の水女子大学附属小学校・高校石原講師との共同研究として実施された。
著者
小清水 貴子 松岡 文子 山本 光世 艮 香織 小倉 礼子 河村 美穂 千葉 悦子 仲井 志乃 仲田 郁子 中村 恵美子 松井 洋子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.65, 2008

<B>研究目的</B><BR> 保育の学習は、母性の保護や子どもの成長・発達がメインである。平成12年高等学校学習指導要領解説(家庭編)では、「少子化の進展に対応して、子どもがどのように育つのかに関心をもち、子どもを生み育てることの意義を理解する学習を重視するために、子どもの発達と保育に関する内容の充実を図った」と述べられている。しかし、少子高齢社会を迎えたいま、中・高校生が小さい子どもとかかわる機会は減少している。生徒たちにとって、赤ちゃんをイメージし、小さい生命に対して自分と同じ命の重みを感じることは難しい。また児童虐待など子育ての困難さから、将来、子どもをもつことに否定的な生徒もいる。そのような生徒たちが、生命について考え、子どもを生み育てることの意義を理解するためには、保育の学習で何を取り上げ、どのような視点に立った授業をすればよいだろうか。<BR> そこで、死から生をとらえ直す授業として『誕生死』を教材にした授業を行い、その実践報告を通して保育で生徒に何を教えるか、保育の学習目標を明らかにすることを目的とする。<BR><BR><B>研究方法</B><BR> (1)メンバーの一人が『誕生死』(流産・死産・新生児死で子をなくした親の会著、2002、三省堂)を教材にした授業実践を報告する。(2)実践報告を聞いて教材や授業の視点について議論する。(3)議論を通して自身の保育の授業を振り返り、メールを利用して意見交換を行う。その後、メンバーが記述した意見をもとに議論・考察を行い、学習目標を検討する。<BR><BR><B>結果と考察</B><BR><U>(1)『誕生死』を教材とした授業実践の概要</U><BR> 授業は平成18年6月、高校2年生の選択科目「発達と保育」で実践した。『誕生死』から一組の夫婦の手記をプリントして、教師が読み聞かせを行い、読後に感想を記述させた。多くの生徒が、出産が必ずしも喜びをもたらすものではないことに気づき、生命の重みを感じていた。また、母親だけでなく父親や祖父母の胎児に対する愛情の深さを感じた様子だった。<BR><U>(2)実践報告後の議論</U><BR> 報告者は生徒の反応に手応えを感じたことから、一教材の提案として実践を報告した。しかし議論では、教材としての妥当性について賛否両論に分かれた。賛成意見では、夫婦の感情が手記に溢れてインパクトが強く、生徒の心に響くなどがあがった。反対意見では、逆にインパクトが強過ぎて生徒の心の揺らぎを受け止めるのは難しいなどがあがった。議論から、生徒に何を教え、考えさせるか、個々の教師が授業を振り返り、学習目標を明らかにすることが必要であることが分かった。<BR><U>(3)教材選択と教師が設定する学習目標</U><BR> 議論後の各自の振り返りから、保育学習の課題として「教材選択と妥当性」と「保育の学習目標」の二つの論点が明らかになった。「教材選択と妥当性」では、教師および生徒の問題意識、教師と生徒との関係性、教師の年齢や生活経験など教師自身のもつ背景が関係していることが分かった。「保育の学習目標」では、とくに生命の誕生に関する学習において、性感染症や中絶などの恐ろしさから生徒の行動抑制に重きをおく授業や、生徒自身の性をみつめることに重きをおく授業など、幅広い学習目標が設定可能である。どのような目標を設定するかは、生徒の実態から教師自身が必要と考える目標を明確にすることが必要である。<BR><U>(4)保育で何を教えるか―私たちが考える保育の学習―</U><BR> 保育では、誕生前より誕生後の子どもの発達にウエイトが置かれている。しかし、人の一生をトータルにみていくことが家庭科独自の視点である。そこで、家庭科教育の中でしか扱えない、誕生前後をつなぐ「性」「生命」を視野に入れた授業が必要である。
著者
山本 奈美 諸岡 浩子 長石 啓子 高木 弘子 渡邉 照美 福田 公子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.49, pp.6, 2006

<br>【目的】<br> 平成11年3月に告示された現行学習指導要領では、職業に関する専門教育としての家庭科は、生活関連産業の各分野で必要とされる資質や能力の育成を重視するという趣旨が明確にされた。これまでに、生活関連産業の高度化、サービス化、消費者ニーズの多様化等を踏まえて内容の改善が図られつつあり、さらに職業に関する専門学科としての家庭科を明確に位置づけるためには、日本版デュアルシステム導入の可能性を提言しておく必要がある。家庭に関する専門学科の中では、調理師養成課程をもつ専門学科は生徒数の減少が小さく、中国地方5県を調査した結果からも明確なキャリアパスに基づいて専門教育と職業を直結させた特色ある取組をしている様子がうかがわれた。そこで、今後の家庭に関する専門学科の発展の方向性を探るために、岡山県内のA高校調理科を事例として、カリキュラムと授業実践にかかわる実態やそこで学ぶ生徒の意識を調査し、日本版デュアルシステム導入の可能性について検討した。<BR>【方法】<br> 調査対象校は、岡山県内の私立A高校の調理科である。平成17年10月から12月にかけて、資料収集及び授業観察、アンケート調査を行った。さらにその詳細を把握するために、調理科担当教員及び外部講師、校外実習受け入れ先の担当者から聞き取り調査を行った。授業観察は、1~3年の調理実習をそれぞれ観察し、指導者の発言に着目して分析を行った。生徒に対するアンケート調査は、調理科1~3年生の150名から回答を得た。質問項目は、調理科への志望理由、調理科での学習内容に対する意識、卒業後の進路希望とした。<BR>【結果】<br> 調理科の教育課程は調理師養成施設の設置基準に基づいているため、調理師として要求される技術や能力が最低限保障されているものと考えられた。それに加えて、A高校の調理科は約20年の実績の中で教育内容の改善を重ねるとともに、マイスター・スクールなど学校独自の特色ある取組によって他校との差別化をはかり、生徒にとって魅力ある教育内容が準備されていた。調理実習の授業では外部講師を積極的に活用し、調理科教員による基本的な指導のうえに、外部講師によってより専門的な指導が行われていた。また、外部講師の活用は単なる技術指導だけでなく、生徒の職業意識の向上にも役立っていた。アンケート調査からは、多くの生徒は高校入学時にすでに職業を見据えた進路選択をしていることが分かった。また、調理科での教育内容に対する生徒の役立ち感は高く、調理技術の向上や調理科で学んだ経験が生徒の自信につながっていた。1年次の春休みから3回に分けて行っている校外実習は、生徒が調理師としての仕事を直接的に体験する機会であるとともに、受け入れ先のホテルとしても労働力の確保、雇用の面からメリットがあると受け取られていた。<BR> 日本版デュアルシステム導入の検討にあたり高等学校における調理師養成制度をみると、学校側は調理技術の習得など基礎的部分の指導を担当し、ホテル側は校外実習の場を提供することにより一定レベルの技能を身に付けた人材を確保しやすくなるなど、「日本版デュアルシステム」的な理念や仕組みに通じるものがすでに成立していると考えられた。これをさらに充実・発展させるために、また第1報も踏まえた他の家庭に関する専門学科での日本版デュアルシステムの導入に向けた今後の課題として、1.学校と企業の間でコーディネート機能を果たす組織の必要性、2.教員の資質能力及び人事管理と研修の在り方、3.企業実習の方法・形態及び評価の在り方、4.学校と企業の役割分担を踏まえた教育課程の編成、5.生活関連産業で求められる資質や職業能力について検討し、その担い手を育成する家庭に関する専門学科の社会的認知や肯定的なイメージ形成をどうはかっていくか、などが挙げられる。
著者
鈴木 明子 赤崎 真弓 西野 祥子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.46, pp.2, 2003

【目的】 子どもたちひとりひとりが家庭生活における意思決定をどのような基準で何を考えてどのように行っているのか、その実態を明らかにし、傾向を把握することは、児童・生徒の日常行動をふまえた家庭科カリキュラムの構築と授業設計のために必要不可欠である。本研究では「食事を主体的に準備して食べる」という状況における意思決定の背景を探ることを目的とした。【方法】 日本家庭科教育学会が2001年に実施した『家庭生活についての全国調査』の意思決定場面「休日にあなたが自分で昼ごはんを用意しなければならないとしたら、どんなことを気にかけますか」を用い、11項目について重視する順序を問うとともに、その判断基準や考え方を尋ねる自由記述形式の9つの下位質問項目を設定し、無記名自記式集合調査を行った。併せて休日の昼食などの実態について質問した。 調査時期は2002年9~11月、調査対象は九州地区の小学校4年生93名、小学校6年生105名、中学校2年生93名および高等学校2年生81名、計372名であった。男女の割合は各学年ともほぼ同数であった。 意思決定項目への順位づけの結果を分析し、特徴的な集団の自由記述から、意思決定の背景およびその問題を探った。【結果】 意思決定において重視する項目の順序には、4つの学年各々で有意差がみられた(フリードマンの検定、4学年とも〆0.01)。食事を主体的に準備して食べるという状況下での意思決定の際の基準やプロセスは多様であることが確認できた。このことをふまえてカリキュラムの構築および援業設計を行う必要がある。 しかしながら、夜業を行う際には学習者の意思決定の集団的特徴を知ることも必要である。何らかの傾向を探るために、中学生以下で1番重視すると答えた人数が最も多かった(高校生では2位)「自分で料理ができること」について、その該当者の自由記述を分析した。その結果、同じ項目を意思決定の順位づけの際上位にあげなかった(10および11番目に選択)者と同様に、手間をかけて食事を用意することを特に肯定する記述はみられなかった。該当者は2番目には「おなかいっぱいになること」や「後かたづけが簡単なこと」を気にすると回答した者が多く、このことを裏付けていると思われる。一方、野菜を食べることの大切さや添加物の問題を気にしている者もいたが、調理技能との関連について記述している者はほとんどみられなかった。児童・生徒たちの行動は、健康や環境を意識し、よりよい食生活を営むための必要性から発生しているというよりも、食べるということに対する欲求が大きい誘因となって起こっている場合が多いと推察する。 また、「野菜がたくさん食べられること」と「肉がたくさん食べられること」をそれぞれ1番目および2番目で重視すると答えた者の特徴を比較した。前者は女子に多くみられ、"野菜はいろいろな性質をもっている"、"野菜の栄養素は他で補えるものが少ない"、"身体にいいものが入っていないと不安"など栄養バランスに言及した記述も多く、「自分で料理ができること」も順位づけの上位であった。しかしながらその該当者の中にも、「添加物が少ないこと」を"気にしない"と記述した者が半数近くおり、意思決定の多様な傾向がみられた。また、後者の該当者は男子に多くみられ、「おなかいっぱいになること」を意思決定の順位づけの上位にあげた者が比較的多かった。 家庭科教師は、児童・生徒には多様な意思決定プロセスがあることをふまえ、軽業において、より質の高い健康な食生活を目指して何をしなければならないのかを考えさせる場面を設定することが必要である。
著者
山田 美砂子 鈴木 敏子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.54, pp.13, 2011

【研究の目的】 2009年改訂の高等学校学習指導要領では、必修家庭科に「共生社会と福祉」という項目が設けられた。家庭科において家族や地域社会などで、多様な人たちが共に助け合って生きていくという「人と人との関係性」がより強調されるようになったと思われる。本研究対象の高校生はその成長過程で、生活上の困難さや孤立感を味わいながら成長してきている。障害者としての彼らは「共生社会や福祉」という言葉を、「健常者とは違う自分たち」が健常者と言われる人たちから支援を受けるという面から受け止めてきた。多様な人たちが共に支え合う「共生社会」とはどのような社会か。「福祉」といわれる用語の中に込められた本来の意味は何か。支援を受け続けてきた当事者からの視点で、生徒と共に「共生社会や福祉」の意味を見直したい。題材として「子どもを生み育てる」授業の中で、「児童虐待」「赤ちゃんポスト」に関する報道を取り上げ、彼らと共にその意味を考える授業を構築することを目的とする。<BR>【研究方法】 授業実践校では必修家庭科は「家庭基礎」を各学年1単位ずつの計3単位行っている。現在、改訂学習指導要領の「共生社会と福祉」の視点から各学年のカリキュラムを作りつつある。本報告は2010年度の3年生(12名)の後半に行った「『子どもを生み育てる』ことの意義を考える授業」である。<BR>・題材として「児童虐待」と「赤ちゃんポスト」に関する以下の3点の報道を取り上げた。(1)児童相談所の児童虐待相談対応件数の推移(厚生労働省発表)の新聞報道(朝日新聞2010年7月28日)、(2)2010年7月末に発覚した「大阪の2児放置死事件」報道(朝日新聞2010年8月22日)、(3)熊本の慈恵病院の「赤ちゃんポスト」の番組「アレ今どうなった?」(NHK2009年6月1日深夜)<BR>・新聞記事やテレビ番組のビデオを見ながら自由に討論させ、出された意見を記録し論点をまとめていく。「赤ちゃんポスト」についての授業では、Y国立大学生10名が参加し意見を交換した。<BR>【研究の結果】 (1)の虐待相談対応件数の推移では、望まない妊娠や育児放棄など、親となることに責任を持てない大人達を批判する意見が多く出された。(2)の「大阪での2児放置死事件」の報道に対しては、初めは母親としての無責任さを痛烈に批判する意見が出されたが、一面的な批判に終わらせないために論点を次の3つに絞り話し合わせた。1.若くして子どもを生むことについて、2.母親だから責任を持てということについて、3.離婚し育児は母親一人が背負うことについて、である。ポイントを整理することによって、母親の状況を考える視点が出てきた。3の離婚することによる母親の負担に関しては、多様な家庭背景を持つ生徒たちから様々な意見が出された。(3)の「赤ちゃんポスト」についてのまとめの授業では、聾高校生と大学生に「設置に賛成か反対か」を敢えて決めさせ、意見を発表させた。聾高校生は賛成・反対が全く半数ずつに分かれたが、大学生は賛成:反対が9:1であった。賛成者の意見は、設置によって子どもの命が救われるからということであったが、聾高校生の反対の意見は親に捨てられてしまう子どもの気持ちが考えられていないと言うものであった。これまで設置の賛否が論じられるとき、子どもからの視点、特に「困難な子育て」状況に置かれてきた当事者の視点から考えられることは少なかった。困難な成長過程を経験してきた生徒達の発言にはその視点があった。この授業を経て障害者として感じてきた18年間の思いを「自分史」という形で綴らせた。一般社会の中で共に歩むことへの疑問を感じながら、生徒達は障害者も含めた多様な人たちが共に支え合う「共生社会」への構想を描きつつある。さらに実践を重ね生徒と共に目指すべき「共生社会」の意味を探っていきたい。
著者
中西 雪夫 柳 昌子 財津 庸子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.46, pp.3, 2003

【目的】 <br>家庭科では住まい方に関心をもったり、室内環境を整えよりよい住まい方.を工夫したりする能力を育成しようとしている。学習主体である児童・生徒は、現実の生活やマスコミなどの情報の影響を受けて様々な住まい観をもつと考えられる。本研究では日本家庭科教育学会の「家庭生活についての全国調査」の結果を踏まえながら、さらに児童・生徒の意識に踏み込んだ調査を 実施し、住生活についての具体的な教育狭題を得ようとするものである。<br>【方法】<br>全国調査の住生活に関する意思決定の10項目それぞれに下位質問項目を作成し、自記式質問紙法で九州地区の小学絞4年生93名、6年生108名、中学.絞2年生115名、高等学校2年生106名、合計422名に実施した。質問は「もしもあなたが一人で使える部屋をもらえるとしたら、どんなことを大切にしたいと思いますか」と尋ねた後、「もう少しくわしく答えてください」と求めた。回答は単語のみ、箇条書き、文章と様々であったが、コード化して整理・分析した。<br>【結果】<br>1 部屋と空間との関わり<br>(1)好きなように部屋をかざること 「何をどんなふうに飾るの?」と尋ねたところ、ポスター等「何かを貼る」という回答と、好きな物など「何かを置く」という回答が多かった。「貼る」では小4、小6女子が、「置く」では小6男子、中2女子が高かった。高学年になるにつれて家具の配置、部屋の色使いなどと回答は多様化している。<br>(2)片づけて整理・せいとんすること 「片づいた部屋ってどんな部屋?」に対し、きれい、整理された等、肯定的記述と、ゴミが無い、ごちゃごちゃしてない等、否定的記述に分かれた。肯定の中では「きれい」が全体として25%前後と高く、とくに中2男子、高2男子が高かった。否定の中では「散らかってない」が20%前後と高く、小6女子、中2女子が高かった。<br>(3)そうじをして、清潔にすること 「清潔か清潔じゃないかってどうやったらわかるの?」に対し、ごみやほこりが無いことという記述が多く、とくに小5男子が高かった。「わからない」の回答は男女とも小4に多かった。<br>(4)風通しをよくすること 「なんのために風通しをよくするの?」に対し、換気や温度調節の記述が多く、気分転換などの回答もあった。<br>(5)部屋の位置および部屋の佐用期限についての希望 これは地区独自の設定項目である。「家の中のどのあたりがいい?」に対し回答は多様であり、配置は「2階」が多かった。また「その部屋はいつまで使いたい?」に対し、「自立するまで」は学年進行とともに高くなった。<br>2 部屋と人間関係<br> (1)ひとりでのんびりすること「ひとりでのんびりするってどういうことをするの?」に対し、「寝ること」と答えたものは学年進行とともに増え、男子、とくに小4男子に多かった。読書など「動きが少ない活動」は小6が最も多く、どの学年でも女子が圧倒的に多かった。「動きが多い活動」を答えたものは少数であったが、低学年、男子に多い傾向があった。(2)静かに勉強すること 「静かでないってどんなこと?」に対し、「うるさいこと」というように反対語に言い換えた答えが最も多く、男子に多く見られた。「テレビの音」は、高杖を除くと女子の方が多く、学年では小6と中2が高かった。「人の話し声」はどの学年でも女子に多く、とくに小4女子が飛び抜けていた。(3)友だちをよんで楽しくすごす 「楽しくすごすために何をしたいの?」に対し、「ゲーム」は低学年、男子が多く、とくに小4男子が飛び抜けていた。「おしやべり」と答えたのは逆に高学年、女子で多かった。ゲームと限定せずに「遊ぶ」と答えたのは低学年女子に多かった。(4)部屋にいても家族のようすがわかる 「どうして家族のようすが知りたいの?」に対し、「知りたいとは思わない」は高学年ほど多かった。「何をしているのか知りたい」は小学生と高2女子に多かった。「安心する」など情緒面の答えは小学生に多く、中2女子にも多かった。「わからない」と答えたのは、小4男女に多かった。(5)パソコンやテレビなどをひとりで使う 「みんなでテレビを見るのとどうちがうの?」に対し、「好きな番組を見られる」という回答が最も多く、小6を除いて女子の方が多かった。ひとりで見ると「寂しい」という答えは小4男女にみられたが、他の学年ではほとんど見られなかった。(6)ドアにカギをつけて家族が入らないようにする 「どうしてそう思ようになったの?」に対し、全体では「カギをつけようと思わない」が多かったが、中学生には少なかった。カギをつけたい理由で「家族が勝手に入ってくるから」は中2が飛び抜けていた。「見られたくない物・事がある」はどの学年でも女子が圧倒的に多かった。
著者
青木 香保理
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.97, 2008

【目的】<br> 城戸幡太郎は1951~1954年に小山書店(後に、生活百科刊行会)から刊行された『私たちの生活百科事典』(全20巻)の編集を行っている。同事典は、城戸による家庭科教科書である『わたしたちの生活設計』と連動する著作であり、「大項目、中項目、小項目等に分類し、小・中学校の教科内容を全部包含する」新しい《事典》で、家庭科のみならず教育課程の全体を視野に入れた新しい構想の具体化として編集された。 本報告では、_丸1_小山書店と『私たちの生活百科事典』の刊行に纏わる経緯、_丸2_事典としての特色と、事典の内容・記述の特長を中心に行い、城戸が構想した『私たちの生活百科事典』の構造をもとに、城戸の生活把握について述べる。<br>【方法】<br>文献研究による。<br>【結果】<br>_丸1_小山書店と『私たちの生活百科事典』の刊行に纏わる経緯<br> 『私たちの生活百科事典』(小山書店)の刊行の経緯は、小山久二郎(おやまひさじろう、1905-1984)著『ひとつの時代-小山書店私史-』(六興出版、1982)に詳しい。同事典刊行後の1955~1956年に、『わたくしたちの生活百科事典 学生普及版』が出されている。『私たちの生活百科事典』は、1951年に第5回毎日出版文化賞(毎日出版文化賞は1947年に創設)企画部門賞を受けている。同事典は、書店・読者・出版社の三者をつなぐ、書物の選定購入に関する読者の便宜の増進と販売をめぐる合理化と共同化により刊行される。_丸2_事典としての特色と、事典の内容・記述の特長『私たちの生活百科事典』は大項目式の事典である。事典は日常生活の必要から誕生し、社会の進展に伴いその形態は多様化した。知識の膨大化と知識を表す言葉の増加によって、言葉をアルファベット順に並べて説明する単語引きの事典(小項目式事典)のボリュームは増す一方だった。近代になると、事典に入れる内容は一層増大したため、事典は字引(dictionary)と百科事典(encyclopedia)に分化する。百科事典の多くは小項目式か中項目式の事典で、項目をアルファベット順や五十音順など単語で引く仕組みになっていた。これらの事典は、わからない事柄を単語で引くことができる点で便利である。しかし、複雑化する現代の生活にあって、知ろうとする事柄を事典で引くことができたとしても、膨大な知識の寄せ集めに終始しかねない。そこで、城戸は現代の生活に対応する「新しい内容と構成をもつ事典」が必要と考えた。「新しい内容と構成をもつ事典」の目的と概略について、城戸は以下のように述べている。<br> われわれは、生活が複雑になればなるほど、その複雑な知識を、一貫した思想で系統づけ、しっかりした理論で分類し、新しい知識の価値を自分の力で判断する力をもたなければならない。そのためには、知識の整理統合および判断の基礎を、つねに'生活'におかなければ、自分のものとはならない。こう考えてくると、これまでにあらわれた事典のほかに、まったく新しい内容と構成をもつ事典の出現が、どうしても必要になってくる。 城戸は、知識の整理統合および判断の基礎を「生活」において知識の系統化・価値化をはかるためには、知識をばらばらに並べる小項目式ではなく、ひとつの問題を項目として設定した大項目式が妥当と考えた。大項目式を採用した事典(第1巻~第16巻)では、生活と切り離すことのできない問題を取りあげ、各巻の題目とする。編集にあたっては、知識や情報の体系性、事柄の関連性などが総合的に把握できるように内容と構成を組織化する。一方、最終巻(第17巻『百科の使い方:総索引』)は特定の事柄について調べることができる小項目式を採用する。「どの巻のどのページには、どんな事項がのっているか、一目でみつけられる」ように工夫されている。子どもの生活経験に基づき、子どもの関心や疑問を出発点として、単語・単元・問題を関連づける索引により分析と総合が繰り返され、調査の方法を身につけることが目指された。
著者
立山 ちづ子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.47, pp.21, 2004

目的<br>消費生活センターなどへの消費者からの相談件数が昭和45年度に比べ平成14年度は18倍に増加し、約1,048,000件となった。近年は販売方法、契約・解約に関する相談が70~80%を占め、また20歳代未満と70歳代以上がふえている。とりわけ、子どもの相談が平成8年度は10,010件であったが、平成14年度は34,046件に増加している。なかでも15~17歳の高校生期で平成13年度以降急増している。熊本県は自己破産率が毎年全国5位以内に位置し多重債務者が多い県といわれる。本研究ではこの原因を探り、さらに多重債務を防止するために、高等学校家庭科「消費と環境」での学習重点事項を明らかにすることを目的とする。<br>方法 1 熊本県における多重債務者の原因の特徴を関係機関で調べた。2 「家庭経済」に関するアンケート調査を家庭科授業時間に配布し回収する方法で行った。調査期間は平成15年11月~平成16年1月。調査は熊本県、東京都、山形県の高等学校の普通科〈進学が多い学校と少ない学校〉、工業科、農業科、商業科の1~2学年、女837人、男745人、合計1,582人。<br>結果と考察<br>? 多重債務の原因は「熊本クレ・サラ・日掛け被害をなくす会」の相談者からの調べでは(1)生活費の不足による負債の発生、(2)ギャンブル・浪費による負担の発生、(3)悪徳商法の被害による負債の発生によるものが多い。職業別でみると1位パート・アルバイト28%、2位会社員24%、3位自営業15%で多い。多重債務家庭の子どもへの直接的な影響は1位債権者からの執拗な電話〈82%〉であり、その結果として子どもは学習意欲を消失〈80%〉、親を信頼できなくなる〈58%〉、などの事態が出ている。「やみ金」と立ち向かうためには、法律的知識学習が必要であるとされている。<br>? アンケート調査結果と考察:1 高校生の収入は毎月定額の場合、3都県ともに5,000円が最多である。定額を家族からもらう者は3都県比較で山形県が多く、熊本県が最も少ない。2 携帯電話の1ヶ月の支払額は5,000円が3都県ともに最も多い。その支払い者は熊本・山形では「家族」が70%を超え、東京が58%で少なく、「私」が支払う割合は東京が27%で多い。3 小遣い帳の記入者が多いのは東京・男で9%、少ないのは山形・男で2%である。3都県ともに少ない。4 わが家のことを知る者が多いのは東京・男で、収入について38%、支出について22%であり、支出について知る者が少ないのは熊本・男で15%である。家計の収支を高校生はあまり知らない(知らされていない)、とりわけ熊本・男で少ない。5 クレジットカードの貸し借りを「してはいけない」の回答率が高いのは東京・女54%。「してもよい」の回答率は熊本・男6.3%が最多であり、熊本・女は2.4%で少ない。6 年利29.2%の1年後返済金(概算)の正解率は東京・男73%、最小は山形・女42%である。3都県ともに利息計算力をつける必要がある。7 身近に多重債務者を知る者の最多は熊本・女35%、最小の山形・男18%である。その原因の第1位は3都県女男で「サラ金利用」で、続いて連帯保証人、ギャンブル、やみ金利用、リストラ、生活費の不足である。8 借金返済不能の場合の相談相手は、1位「家族」で最多の熊本・女で70%、最小の東京・男で46%である。熊本では家族で解決しようとする傾向が強いようである。2位に「消費生活センター」、3位に「弁護士」で熊本・男8%、東京・男7%であり、法律を活用する意識が3都県ともに低い。 9 結婚式は3都県ともに1位は「シンプルで祝儀金で間に合う程度」で46%〈東京・男〉~35%〈熊本・女〉、2位に熊本の女・男ともに「豪華に、自分の貯金と祝儀金で」26%で多い。熊本県は派手にする傾向が強い。10 18歳の契約の回答は3都県ともに三分され、契約の権利と責任の理解が不十分である。11 連帯保証人は債務者が「支払えない場合には支払う」の回答が3都県ともに最多で、熊本・女88%~山形・男58%であり、正解の「貸し手の請求で支払う」は山形・男で18%~東京・女で6%と少ない。連帯保証人の役割の認識がとても低い。多重債務を防止するための学習重点事項として、(1)本人・わが家の家計の実態把握と記録の習慣化(2)地域の生活慣行のふり返り(3)関連の相談機関の活用方法(4)契約やクレジット、連帯保証人については具体的な事例を通しての理解が重要であることなどが示唆された。
著者
青木 幸子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.53, pp.11, 2010

【目的】<BR> 男女平等は世界共通の課題である。今年度は、1979年の「女子差別撤廃条約」の採択から31年、85年の批准から25年とちょうど節目の年に当たり、しかも国連女子差別撤廃委員会への第6回報告書に対する最終見解の受理等と併せて、我が国の今後の取り組み課題について見直しを図っていく時期でもある。<BR> 政府においても第3次男女共同参画基本計画の策定準備が進められており、「男女共同参画社会基本法」に謳われた21世紀社会の喫緊の課題としての男女共同参画の新たな方針を検討中である。<BR> 固定化された男女の役割分担への意識や行動は、以前に比べると薄らいできたが、経済状況の悪化による環境整備は難しい局面を迎えており、男女平等への道のりは険しい状況にある。<BR> 一方、平成生まれの子どもが大学生となり、彼らは小学校から高等学校まで男女共学で家庭科を学んできた。家庭科に男女別学の時代があったことを知り驚いている状況があり、それほどまでに男女平等は彼らにとっては「当たり前」のことである。<BR> 1998年の教育職員免許法の改正により「総合演習」が大学の教職科目として新設された。爾来、「ジェンダーと教育」講座を開講してきたが、そのうち2年間をかけて『男女平等を考える教育カルタ』を製作した。<BR> 昨年度の大会において、このカルタを家庭科の授業で活用し、女子中学生のジェンダー観の涵養に果たすカルタ教材の効果を分析した。その結果、カルタ教材を使用した授業は、生徒の性差意識に揺さぶりをかけ、自らのジェンダー観をリセットする契機としての効果が確認された。<BR> 今回は、この「教育カルタ」を活用し、男女平等を当たり前と認識している教員を目指す大学生のジェンダー意識を分析し、「教育カルタ」の教材としての汎用性について検討することを目的とする。<BR>【方法】<BR>1.対象者;T大学「家庭科教育法_I_」履修者(大学2年)81名<BR>2.調査時期;平成21年12月~平成22年1月<BR>3.研究方法<BR> * 「家庭科教育法_I_」の授業中にカルタ大会を実施し、学生はワークシー トを作成する。<BR> * 授業後にジェンダーチェックを行なう。<BR> * ワークシートの記述内容とジェンダーチェックシートの得点から大学生の ジェンダー意識の涵養に果たすカルタの効果を分析する。さらに、中学生 の結果との比較分析を行ないカルタ教材の汎用性について検討する。<BR>【結果と考察】<BR>1.気になったカルタは、44枚中33枚とカルタ全体の75%に及んだ。選ばれ たカルタは、中学生の結果に比べると分散傾向にあることが確認され た。<BR>2.授業のワークシートの分析から、大学生は、考える>意思表示>分かる >気づく、の順で学びとっていることが確認された。これは、意思表示 > 気づく>分かる>考える、の順で学びとった中学生の学びとは明らか に異なり、学び手の発達段階や経験から多様な学びとりができることを 期待させる結果となった。<BR>3.ジェンダーチェックシートの分析から、固定的な性別役割分担の考え方 には反対する傾向が強いが、身体的・生理的特性に関する項目について は、固定的な性差観にとらわれる傾向が強い。<BR>4.本カルタ教材について汎用性が期待できるが、より多くの学びを提供で きる多角的な視点を持ったカルタの必要性が確認された。
著者
若月 温美 中山 節子 冨田 道子 藤田 昌子 中野 葉子 松岡 依里子 坪内 恭子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.53, pp.17, 2010

[目的]<BR>本研究は、社会環境の激変の中で進行する格差社会において、どのように生活経営を考え、暮らしをつくりかえていけばよいのか生活経営領域を中心としたカリキュラムを検討することを目的とするものである。本報告では、セーフティネットをどう構築していけばよいのかを探求する授業実践分析を中心に報告を行う。最後に、授業実践分析結果を踏まえながら、本研究の授業設計やカリキュラムの構築の課題を明かにする。<BR>[方法]<BR>対象校は、千葉県の私立高校(B校)と東京都の私立高校(C校)の2校である。対象学年は、B校1年生、C校2年生である。授業実践時期は、2010年1月~2月である。両校ともに4時間の授業計画で、導入で『ホームレス中学生』<SUP>1</SUP>を教材として用い、そこから住まいに住むために必要なこと(B校)や生きていくために必要なこと(C校)を考察させた。次に、派遣社員やネットカフェ難民の実態をVTRで視聴させ、格差や貧困の問題を身近な課題であることを理解させた。B校の対象者は格差や貧困の問題が自分の生活課題として捉えることが難しいことが予想されたため、VTR視聴後に自分自身の生活設計を考えさせた。両校ともに、最後に社会的排除を生み出す社会構造について解説し、ホームレスやネットカフェ難民、派遣社員などの厳しい生活実態から抜け出すためには何が生活資源として必要なのか、また資源を得るためには何が課題となるのかを考察させた。これらを踏まえて、自分自身の生活資源について考えさせ授業のまとめとした。<BR>[結果]<BR>導入の『ホームレス中学生』を取り上げた授業後の記述内容から、「住むこと」や「生きること」に必要なこととして、B校では、基本的な最低限度の生活を維持するのに必要な「物的資源」に関する内容やお金や仕事など「経済的資源」に関する内容が最も多く記述された。次に人や関係性に関する「人的資源」の内容が多く、具体的な記述としては「家族」よりも「近所の人」や「友達」などの記述が多くみられた。また、「個人の努力や能力、運、夢」など個人の資源や能力の問題として捉える記述も見受けられた。C校では信頼関係、頼れる人、家族、友人、つながりなど「人的資源」が最も多く記述され、続いて知恵、知識、資格などの「能力的資源」、「経済的資源」が続いている。その他、生きる希望、プラス思考などの「精神的資源」など、より多くの種類の資源があげられた。派遣社員やネットカフェ難民の実態については、両校ともに「初めて知った」や「大変だと思った」など驚きの反応が観察され、授業後の感想からは、これらの実態から漠然とした不安を抱きながらも自分の将来についてや仕事を得ることの重要性を客観的に見つめようとする様子が伺えた。社会的排除を生み出す社会構造の把握については、生徒の発達段階やこれまでの記述内容などを考慮し、それぞれ独自に工夫した教材を用いたことが効果的であった。自分自身の生活資源を考えることは、労働や福祉の諸課題、転落しやすい社会をどう変えていけばよいのかなど幅広い議論に発展することが明らかとなった。雇用労働環境が厳しさを増し、高校生の就職や進路も益々深刻な問題となっている中、自分がどうすればよいのかわからず悲観的あるいは消極的な状況に留まり続ける生徒の支援が今後の課題である。<BR>[課題]<BR>カリキュラム全体の課題としては、時間数の確保である。これまでカリキュラムの内容を厳選し、6~8時間計画のカリキュラム試案を提示した。<SUP>2</SUP> 試案を部分的に複数の学校で実施したが、時間数に関わる具体的な課題が見え、カリキュラムのコアを定めることがさらなる課題として明らかになった。<BR><BR>1 田村裕(2007)『ホームレス中学生』ワニブックス、田村 裕(2008)『コミックホームレス中学生』ワニブックス<BR>2 日本家庭科教育学会2009年度例会 分科会5配布資料
著者
佐藤 安沙子 藤田 智子 阿部 睦子 菊地 英明 桑原 智美 西岡 里奈 倉持 清美
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.61, 2018

【目的】<br> 近年、学校現場における安全・衛生面への配慮が期待されている。中学校家庭科の学習指導要領には、「安全と衛生に留意し、食品や調理用具等の適切な管理ができること。」(文部科学省,2008)とある。田中他(2015)は、大学生の食の衛生管理の実施状況は、下準備・調理時、後片付け時で特に意識が低いことを指摘している。さらに、河村他(2006)によると、生徒にとって調理実習は、楽しい時間であると同時に、調理技能の習得を目指すものであることが明らかとなっている。これらのことから、小・中・高等学校家庭科で衛生管理について学んでいるはずであるが実践されておらず、学校での調理実習においても衛生管理に意識が及ぶことは少ないと考えられる。<br> 本研究では、小・中・高校生の食の安全における衛生管理に関する意識を調査する。学校種間の衛生意識の相違と、ICTを活用した衛生管理に関する授業と調理実習での実践前後の衛生意識の変化を明らかにする。それを通し、授業での衛生管理の扱い方を検討する。<br>【方法】<br>(1)調査対象および調査方法<br> 調査は、東京学芸大学附属小・中・高等学校の児童・生徒を対象に、2017年9~11月に2回行った。1回目は、409名(小5:102名、中2:149名、高2:158名)を対象に、無記名自記式質問紙調査を実施した。2回目は、248名(小5:100名、中2:148名)を対象に、食の安全における衛生管理に関する授業実践と調理実習の後、1回目と同様の調査を実施した。なお、高校では2回目の調査は行わなかった。質問紙調査の有効回答率は、全て100%であった。<br>(2)質問紙調査内容<br> 食の安全における衛生管理について、「家庭」と「学校での調理実習時」の2つの状況において気を付けている程度を5件法で質問した。質問項目は、下準備・調理時、食事時、片づけ時などである。<br>(3)授業実践の概要(小・中学校)<br> ICTを活用した衛生管理に関する授業と調理実習を行った。<br>・小学生:衛生を意識した手の洗い方についての授業を行った。蛍光剤入りローションを手に付け、手洗いの様子を撮影し、手洗い方法や洗い残しについて検討した。調理実習は青菜をゆでた。<br>・中学生:バナナケーキの調理を通して、衛生を意識した食材の扱い方と手洗いについて、授業を行った。バナナの皮を触った後、触れた箇所をシールと映像で記録し、食材の菌の繁殖や手洗いの重要性について検討した。調理実習は煮込みハンバーグである。<br>【結果】<br> 衛生管理に関する授業前の学校種間の意識について比較をした。その結果、家庭においてはほとんどの項目において、「大変気を付けている」と回答した者の割合が、小・中・高の順に高かった。学校においては、小・高・中の順に高かった。これは、小学生は保護者や教員からの衛生管理への意識付けが高いことが考えられる。また、生肉の取り扱いに関しては、家庭・学校ともに中学生よりも高校生の方が気を付けている者が多かった。中学生はまだ学校で生肉を扱った経験がなかったことが影響していると考えられる。<br> 次に、授業前後の意識について比較をした。中学校では、ほぼ全ての項目で気を付けている割合が高まった。特に、手洗いに関する項目は大幅に増加していた。これは授業で重きをおいた、食材に触れた後の手洗いに関する学びの効果であることが考えられる。一方小学生では、意識変化があまり見られなかった。小学生は、衛生管理に関する授業前から意識が高かったことに加え、衛生に関する授業において食材を扱っておらず、具体的な調理場面における衛生意識との関連付けが難しかったことが考えられる。<br> なお、本研究は東京学芸大学平成29年度教育実践研究推進経費「特別開発研究プロジェクト」の研究成果の一部である。
著者
河岸 美穂 綿引 伴子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.48, pp.23, 2005

<B>(目的)</B>少子化が進み、児童虐待や育児放棄などが多発している中、子どもについて理解し、乳幼児に適切に対応できる力をはぐくむことは大切である。先行研究より、乳幼児に対する興味・関心や理解を深めるために、保育体験をすることは有効であることがわかっているが、家庭科の単位数が減少している中、家庭科の授業の中で保育体験の時間を確保することは難しい現状である。そこで、幼児に対する興味・関心や理解を深めるとともに、生徒の自己理解を深め、進路選択の一助になることを期待して「総合的な学習の時間」において幼児と接するための学習と保育体験を行った。この体験が生徒の自尊感情や社会的スキルを高めることに役立つかどうかを考察することと、高校生だけでなく、参加した高校教員、保育士、幼稚園児の意識調査から、保育体験の有効性と課題を検討することを目的とした。<BR><B>(方法)</B>2005年に県立高校普通科2年生273名(男71名、女202名)を対象に総合的な学習の時間において幼児と接するための学習と保育体験を行い、保育体験学習前と体験後に乳幼児や保育体験に対する意識と、自尊感情及び社会的スキルに関する調査を行った。また、保育体験後に生徒と共に参加したクラスの担任・副担任14名、受け入れ先の保育士18名、幼稚園児365名に意識調査を行った。<BR><B>(結果と考察)</B>(1)生徒の自尊感情の平均得点は、保育体験後の方が有意に高かった。この結果から保育体験によって自尊感情が高まることがわかった。(2)社会的スキルについては体験前と後において有意差は見られなかった。短い体験時間では社会的スキルの変化までは難しいと考えられる。しかし、社会的スキルの高い生徒群ほど「子どもに対する興味・関心」「関わる自信」「成長を知ることの大切さ」が高く、子どもに対するマイナスイメージが低いことがわかった。(3)3才から5才の幼稚園児1人1人に聞いた結果、361人(99%)が「高校生と遊んで楽しかった」、359人(98%)が「また遊びたい」と答えた。(4)保育士は18名全員が園児にとって「良かった」「わりと良かった」と答えた。具体的には「大人とは違う、きょうだいとも違う年代の人と過ごす経験は大切だと思うから」「園児が自分のことを話そう、わかってもらおうとする姿がたくさん見られたこと」等と答えている。保育士さん自身は楽しかったかという質問に対しては、15名(83%)が「楽しかった」「わりと楽しかった」と答えている。その理由として「園児の違った一面を見ることができた」「つまらなそうな顔をしていた高校生が子どもと触れ合うことにより明るい表情に変化するのを見て」「普段、高校生と話す機会がないので」「若い子には負けられないといつも以上にハッスルできた」等と答えている。保育体験を続けたら良いかについては17名(94%)の保育士が続けたら「良い」「わりと良い」と答えた。保育体験の課題として、園児の安全を十分に考える、おしゃべりや私語を慎む、返事や自己紹介をしっかりする、積極的に子どもと関わる等をあげている。(5)参加した教員は回答しなかった1名を除く全員がこの体験が高校生にとって「良かった」「わりと良かった」、園児も「楽しそうだった」「わりと楽しそうだった」と答えている。意見・感想として「幼児との接し方がわからなく、幼い命が奪われてしまうことが多い中、十代のこの体験はとても意味があると思う」「実習の後、授業でもわがまま言う生徒が減った気がする。意外な生徒の意外な一面が見られて、教師側からも生徒理解を深めることができた」「園児は片づけや身支度『こんにちは』『さようなら』という基本的なことがきちんと出来ていたので、今の高校生が忘れている大切な基本を振り返る時間となった。この体験が保育に関しての知識を深め、進路決定に役立つことだろうと思う」と答えている。保育体験を続けたら良いかについては8名(57%)の教員が続けたら「良い」「わりと良い」と答えた。他の教員も保育体験をすることを否定しているのではなく改善が必要と述べている。改善点として、時期や時間帯、回数の見直し、教科との関連を探る、体験が生かされる総合的な学習の時間全体の「流れ」が必要、事前学習と身なり指導の徹底等があげられた。(6)総合的な学習の時間で行うことのメリットは、担任の引率で実施することで生徒の実習態度が良くなったこと。教室では見られない生徒の表情をみることができたこと。教員の生徒理解が深まること。デメリットは、事前事後の学習時間が確保しにくく、幼児の心身の特徴・行動パターン・接し方などの理解が充分とは言えないことである。
著者
福井 典代
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.56, 2013

【目的】<br>東日本大震災による原子力発電所の事故の影響から,昨年度の夏期には厳しい節電要請があった。企業とともに各家庭での協力が不可欠であり、節電に関する個人の意識を高めるきっかけとなった。学校現場においても環境問題の観点から、節電の必要性が高まっている。そこで本研究では、環境教育を取り入れることが可能な小学校家庭科において、節電に対する意識を高め、実践する能力の育成をめざした教材の開発を行った。<br>【方法】<br>1.大学生が考える環境問題について実態調査を行い(2012年12月)、類似した内容に分類して環境問題の大枠を捉えた。<br>2.小学校学習指導要領解説および小学校家庭科の教科書で取り扱われている環境教育に関する記述内容を分析した。<br>3.「環境教育指導資料(小学校編)」(国立教育政策研究所教育課程研究センター)の中から実践事例を教科別に調査して、小学校における環境教育の取り組みを把握した。<br>4.節電に関する教材を作成するために、一般家庭で用いられる電気製品の待機電力量(電子レンジ、パソコン、エアコン、テレビ、炊飯器)と消費電力量(冷蔵庫、エアコン、電気ポット、電気ケトル)を測定した。用いた測定器は、ワットメーター(SANWA SUPPLY TAP-TST9)である。<br>5.4で得られた測定結果を活用して、節電に関する小学校家庭科の授業案を作成した。 <br>【結果および考察】<br>1.大学生を対象として、環境問題として考えられることについて質問調査を行った。その結果、環境問題は「地球温暖化」、「ごみ問題」、「エネルギー問題」、「大気汚染」、「森林破壊」、「海洋汚染」、「生態系の攪乱」の7つに分類された。「エネルギー問題」では、「電力不足」、「原子力問題」、「自然エネルギー」、「資源の枯渇問題」の4つにまとめられた。<br>2.小学校では、家庭科、生活科、社会科、理科、道徳、総合的な学習の時間において環境教育に関する内容が取り上げられていた。家庭科では「D身近な消費生活と環境」を軸として、A~Dのすべての項目において環境教育が関連づけられていた。小学校家庭科教科書の比較では、K社の教科書が環境教育に関して充実した内容を記述していた。<br>3.「環境教育指導資料(小学校編)」の実践事例では、すべての学年において取り組まれており,調べ学習を行ったものが多い。家庭科では「ごみ」や「生活排水」を題材とした実践事例が多く,「節電」を題材とした実践事例は少なかった。<br>4.一般家庭で用いられる電気製品の待機電力量を測定した結果、テレビ、パソコン、電子レンジの待機電力量が、炊飯器、エアコンの待機電力量より7~9倍多い結果となった。電気製品の消費電力量では、冷蔵庫の強弱設定を強くすると消費電力量も増加し,冬場よりも夏場の方が消費電力量は多い。エアコンでは、暖房の設定温度を高くすると消費電力量も多くなった。電気ポットでは,水量1.0リットルの場合、電気ケトルで11回沸騰させる消費電力量と電気ポットを24時間保温しておく消費電力量がほぼ同じであった。<br>5.本研究で提案する小学校家庭科の授業案は、「C(2)快適な住まい方」と「D(2)環境に配慮した生活の工夫」との関連を図り題材を設定した。<br>本研究にご協力いただきました平成24年度卒業生の矢野由姫さんに感謝いたします。
著者
入江 和夫 (田結庄 順子 猪野 郁子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.46, pp.8, 2003

<研究目的および概要><br> 本研究は小学4年生の衣食住等に関する生活技能の参加や意欲・関心,消費生活の実態や生活管理,家庭科の学習経験,問題解決能力等からなる調査票を用いた中国地区三県の児童・生徒への調査で得られたデータと全国データを比較し,地域の課題に対応したカリキュラム開発の基礎資料としたい。[二次分析]に当たり,日本家庭科教育学会「家庭生活についての全国調査」(科学研究費基盤研究(A)(1)課題番号13308005)の個票デー夕の提供を受けました。<br><研究方法>全国調査と同様の調査方法を用いた児童・生徒に対する自記式アンケート調査で,実施期間は9月1日から9月3日である。 本研究に用いたデー夕は全国データに反映した調査票(1264名)に加えた中国地区で協力が得られた学校の全ての調査表を再集計・再分析した。調査地点は大都市部,中小都市部,町村部の人口比より学校数を抽出し,小学校:9校,中学校:6校,高校校の計21校。配布数,有効回収数等は表1である。データ入力は,日本リサーチセンターに依頼した。集計・解析はSPSSを用いて,広島大学学校教育学部生の板口元気さん,窪田笑さん,上ノ原玲奈さんの3名には,言葉に尽くせない多大な協力をしていただいた。記して深謝申し上げる。第1~3報の集計・分析は,性別で考察を行った。<br><研究結果>中国地区三県の小学4年生の主な特徴は次である。<br>1、基本的な生活技能の実態と意欲・関心について<br>1)衣食住生活技能の実態と意欲・関心---食生活およびパソコンに関する仕事への参加度は、「いつも+ときどき」の割合は一様に低く、日常生活の中でほとんど実践されていない。衣生活に関する仕事の参加度は、「季節や気候にあった服装を自分で決める」の実践率が全体で60.1%と高く、その他「洗濯物をたたむ」が若干高かった以外は、食生活・パソコンに関する仕事と同様に低い実践率であった。全国の結果と比較すると、中国地区の小学4年生の仕事の参加度は低く、生活技能はあまり身についていない。<br>2)住生活・環境および対人関係---実践度は全体的に低い。「ゴミを決められた方法で捨てる」に関しては例外で,全国に比べてよく実践していたが,その他の環境に関する項目において全国を下回ったため,環境問題に積極的に取り組んでいるとはいいがたい。特に,対人関係3項目について,実践度の低さが目立った。<br>2.待間,金銭,消費生活についての自己管理 <br>1)時間についての自己管理---「朝の起き方」では,全体的に自己管理ができていたが,「いつも一人で起きる」は男子に多い。<br>2)生活についての自己管理---外出時の所持金については,「お金は持たなくてもいい」「わからない」と答えた児童が多い。<br> 3)コンビニヘ行く目的---「食べ物を買う」,「飲み物を買う」は60%前後で圧倒的に高い。全国と比較すると,コンビニの普及率及び利用率が低いせいか,回答の選択率が全体的に低かった。<br>3.幼児とのかかわり---子どもの遊び相手を頼まれた時「よろこんで遊んであげる」で男女で顕著な差があった。「あげたくない」「わからない」は男子が多い。全国との比較では,中国地区の男子の「幼児とのかかわり」に対する意欲が全国に比べて低いことが判明した。
著者
牧田 利枝 永田 智子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.58, 2015

<b>1 目的</b><br><br>近年、路線バスの廃線や減便などにより、「買い物弱者」といわれる日常の買い物にも困る人々が出現している。今後急速に進展する高齢社会では、クルマを運転できない高齢者が増加し、健康・福祉問題にも大きな影響を及ぼすと考えられる。また、環境保全からも公共交通を利用する社会のほうが望ましく、公共交通の確保は喫緊の課題である。<br><br>「交通すごろく」は「自らの日常生活の行動が周辺環境に影響を与える事実に気づき、環境との観点から自らの暮らし方を変える必要性の気づきになる」ことを意図して遊びながら行動変容を促すものである(松村2006)。先行研究では小学校の総合的な学習の時間や社会科で「交通すごろく」を実施し、「CO2削減に役立つから公共交通を利用すべき」というような環境学習の側面が強い。しかし、CO2削減からのアプローチでは徒歩や自転車通学の高校生に対する公共交通利用の動機づけは弱い。よって、家庭科の「まちづくり」や「高齢者福祉」「共生」などの領域を学習したうえで環境学習を絡めた「交通すごろく」を実施することが望ましいのではないだろうか。<br><br>そこで本研究では、「交通すごろく」を活用した授業実践とそれによる生徒の意識変容等をとおして、高等学校家庭科で地域の「公共交通」を扱う意義について考察する。<br><br><b>2 方法</b><br><br>・実施時期 平成27年2月10日~24日<br>・対象クラス 商業科2年生全クラス(7クラス)256名<br> <br>・地域の「公共交通」を扱う授業は以下の手順で実施された。<br>(1)家庭科教師による「交通すごろく」の実施<br>(2)交通政策室による出前授業の実施(バス利用等の意識についてのアンケート)<br>(3)家庭科教師による「交通すごろくの仕組み」の再確認(振り返りの実施)<br><br><b>3 アンケート結果</b><br><br>「交通すごろく」をやってみて、もっとバスを使ってみようと「とても思った」「少し思った」と回答した生徒186名について利用意向の増加数を算出した。<br><br>・交通すごろくをきっかけに、もっとバスを使ってみようと思った人数186名(72.7%)<br>・これからバスを使おうと思う回数の平均0.148(回/人・日)<br>・普段バスを使っている回数の平均0.169(回/人・日)<br>・(0.169-0.148)&times;186(回/186人・日)<br>=0.021&times;189(回/186人・日)<br>=3.906(回/186人・日)<br>&rArr;1426(回/186人・年)となり、商業科2年生全体で年間約1400回バス利用が増える見込みとなった。また、自由記述では公共交通は環境に優しいといった感想が多かった。<b></b><br><br><b>4 生徒の振り返り</b><br><br>「交通すごろくの仕組み」を再確認し、振り返りをさせたところ、バス利用促進に肯定的な記述が多くみられた。しかし、生徒は高齢者の「移動のしにくさ」について教師が期待するほど記述できていなかった。<br><br>また、自転車通学の生徒は、費用負担の割にはバス便の数が少なく混雑するバス利用にさほど魅力を感じていないが、バス利用の必要性がわかったと記述している。出前授業のアンケートからはわかりにくいが、振り返りからは、現状をすぐには変えることができない生徒の葛藤を読み取ることができた。<br><br><b>5 結果と課題</b><br>アンケートや振り返りから、生徒は「交通すごろく」を通して、地域の「公共交通」の重要性に気づき、利用促進についての実践的態度が育まれたことがおおよそ確認できた。<br><br>また、生徒は「交通すごろく」により、買い物、通院、通学などの生活基盤を踏まえて「わがまち」を捉えることができた。つまり、「公共交通」を切り口として高齢社会における「まちづくり」を身近に感じることが期待される。<br>以上のことから、家庭科で地域の「公共交通」を学習することで領域横断的な学習が可能であることが示唆された。次年度(平成27年度)は、高齢者・障がい者、子育て中の若い親などの「移動のしやすさ/しにくさ」を考えさせるように改善する。<br><br>&nbsp;参考文献<br><br> 西田純二ら(2014)まちづくりDIY,pp.118-124,学芸出版社<br><br>桐谷正信(2014)小学校社会科におけるモビリティ・マネジメント教育の特質,埼玉大学<br><br><br><br><br><br><br><br><br>
著者
吉本 敏子 小川 裕子 星野 洋美 室 雅子 安場 規子 吉岡 吉江 吉原 崇恵
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.57, 2014

<目的>家庭科の学習は、基礎的・基本的な学習が実生活の場面で実践できる力となることを目指している。そこで、日常の具体的な生活場面を想定し課題解決ができる力がどの程度身についているかを把握するための調査を行った。本調査の設計については、日本家庭科教育学会2013年度例会にてすでに報告をしている。調査の内容は、消費生活・環境、食生活、衣生活、住生活、家族・家庭生活の5つ問から構成されているが、今回報告するのは、消費生活・環境に関する結果である。<方法>調査時期:2013年3月~10月調査対象者:愛知県、静岡県、三重県の中学校1年生(小学校6年生を含む)298名、高等学校1年生(中学校3年生を含む)456名、大学1年生567名調査方法:質問紙法による集合調査 回収率:100 分析方法:1)回答の記述内容を読み取り、データベースを作成した。2)そのデータを集計(エクセル統計、&chi;<sup>2</sup>検定)し考察した。<結果> 消費生活・環境の調査内容は、インターネットを利用して靴を購入する場合の代金の支払いと、靴のサイズが合わないというトラブルが発生した時の対応の仕方、およびこれまで履いていた靴の処理の仕方について回答を求めている。そしてこの調査内容から読み取りたい内容を、a)靴の購入にかかる費用が分かり、情報を正しく読み取ることができる、b)インターネット上の情報から、返品交換の可否や条件が理解でき、その情報を基にトラブルへの対応ができる、c)モノを大切にする気持ちや環境への配慮ができる、の3つとした。aとbは、科学性(知識・技能の応用力)を、cは生活合理性(状況把握、姿勢や態度、価値観)を読み取ることができると考えた。 調査の結果は以下の通りであった。1)インターネットを通じて商品を購入した経験のある者は、中学生41.9%、高校生68.2%、大学生78.0%であった。2)靴の購入価格(販売価格+送料+振込手数料+後払い手数料)の正答率は、中学生45.6%、高校生41.7%、大学生52.6%であった。高校生は中学生に比べて正答率が低く、特に高校生男子の正答率は34.0%と低かった。振込手数料や後払い手数料が計算されていないと思われる誤答が多くあった。3)「靴のサイズが合わないというトラブルが生じた場合にどのように対応するか」(本調査の設問では返品交換ができる)については、「返品・交換ができることがわかり、自分で返品・交換をする」と回答したものが最も多く、中学生で80.5%、高校生で83.3%、大学生で87.1%であった。次に多かったのは「少しくらい小さくてもしばらく我慢して履く」であった。4)「今まで履いていた靴をどうするか」という問に対して最も多かった回答は、「友人や知人にあげる」で、中学生34.2%、高校生28.7%、大学生32.8%であった。その他にも「フリーマーケットに出す」「弟が履けるようになるまで取っておく」「予備の靴や思い出の靴として、しまっておく」「雨の日や作業などのときに履く」「放置する」「ごみとして捨てる」など多様な意見が出されていた。以上の結果から、科学性すなわち課題解決のために知識や技能を総合して活用できる力は、発達段階に応じて徐々に身についてきているが、大学生においても十分であるとは言い難い。また「今まで履いていた靴をどうするか」に見られた多様な回答は、モノを大切にする気持ちや環境への配慮という生活合理性に基づくものであるのかについて慎重な検討が必要である。
著者
一色 玲子 鈴木 明子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.50, pp.26, 2007

<B><BR>【目的】</B></BR> 家庭科の調理実習は一般的にグループ活動として展開されており,その学習環境が多様な学びを構成している。実習台を取り巻く場の共有は,調理実習固有の「相互作用のある対話(transactive discussion:TD,以下TDと略記)」を誘発する。TDとは,「自分自身の考えをより明確にしたり,相手の考え方や推論のしかたにはたらきかけ相手の思考を深めたりするような相互作用のある対話(Berkowits&Gibbs,1983)」である。調理実習では調理の分担等,異なるモノや他者との関係性にもとづいた対話がみられる。本報告では中学校の調理実習を対象に,抽出班の授業過程におけるTDに着目し,対話の実態を探ることを目的とした。<B><BR>【方法】</B></BR> 授業分析の対象はF中学校の2年生2学級であった。対象授業は平成18年5月11日(1組),同16日(2組)に2時間構成の授業として実施された。実習題材は炊き込みご飯,だし巻き卵,すまし汁であった。<BR> 実習授業のVTR記録にもとづき,各学級抽出班5名のプロトコルおよび行動分析をおこなった。高垣ら(2004)の「TDの質的分析カテゴリー」にもとづき,他者の考えを引き出したり表象したりする表象的トランザクション(representational transaction)と互いの考えを変形させたり認知的に操作したりする操作的トランザクション(operational transaction)を検討した。さらに,個人意識および実習自己評価を質問紙により調査し,分析の資料とした。個人意識調査は,平石(1990)の自己肯定意識尺度をもとに対自己領域17項目(因子:自己受容,自己実現的態度,充実感)と対他者領域20項目(因子:自己閉鎖性・人間不信,自己表明・対人的積極性,被評価意識・対人緊張)計37項目を設定し,5段階評価で回答を得た。</BR><B>【結果および考察】</B><B><BR> 1.対話の量的分析および質的分析</B></BR> 抽出班一人当たりの対話平均回数は1組131.4回(対班員117.2回,89.2%),2組197.2回(対班員169.8回,86.1%)であった。そのうちTDを含む場面は1組10回,2組11回であった。両抽出班とも一人ずつだし巻き卵を焼く場面にTDが含まれていた。また,失敗や完成する場面では象徴的な表象的トランザクションが発現していた。さらに,他者の見守る中で作業する場面や他者を補助する場面等では,学習者相互に場の共有を認識したTDがみられた。<B><BR> 2.個人特性と対話との関連性</B></BR> 個人特性と調理実習の対話の質に関連がみられた。対人的積極性が高い生徒は他者評価が多く,自己受容が高い生徒は指示や指摘を与えることが多いこと,被評価意識が高い生徒は作業の確認が多く,自己閉鎖性が低い生徒は指示を受けることが多い傾向がみられた。<B><BR> 3.調理実習に対する評価と対話との関連性</B></BR> 実習後の自己評価アンケートより,「班員との協力」,実習の調理体験や他者のサポートにもとづく「役立ち感」,料理のできばえや他者からの称賛による「満足感」,先生や班員等「他者とのかかわり」から調理実習を肯定的に評価していた。これらは他者との対話に内在しており,両トランザクションによる認知的葛藤が知識・技能の習得にそれぞれ関与していることが推察できた。 具体的な調理操作を伴う調理実習において,対話におけるTDが活動や思考の方向性に影響を与えるだけでなく,学習者の認知的葛藤を引き起こすことが示唆された。中でも操作的トランザクションを含む他者間葛藤は学習者の情緒面と連動し,個々の学習評価に有用な役割をもつと考える。