著者
青木 三郎
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.60-73, 1982-02-10 (Released:2017-08-01)

The theme of this chronicle, as stated in the preface, is a comparison of the workings of Buddha's Law in the family history of the Minamoto's with that in the Jokyu Rebellion. The unfolding of the Law seems dubious in the case of the former, As the third generation approaches its end; how should it be assessed in the case of the latter, constituting a matchless page in the history of imperial insurrection? In the Jokyu Rebellion itself, ex-Emperor Gotoba, as a result of having neglected not only Buddha's Law but the gods and heaven as well, is defeated by his subjects and sent to exile. In other words, the law of cause and effect, Buddhism's most fundamental principle, is fulfilled. That this text recounts the history of this rebellion in this fashion shows that it viewed this outcome favorably. In contrast to other texts of this work, the Jiko-ji text demonstrates a sure grasp of history.
著者
塩崎 文雄
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.38, no.12, pp.1-12, 1989-12-10 (Released:2017-08-01)

泉鏡花の『春昼』『春昼後刻』には、不可解なメッセージ○△□が二度にわたって出現するばかりでなく、両者ともきわめて重要な挿話を形成している。それだけに、従来からその読みをめぐって、さまざまな解釈が試みられている。本稿は、○△□は鏡花の謡曲体験から生まれたものではないか。しかもそれは、母の遺愛の、<付帳>と呼ばれる大鼓の楽譜の図像体験に媒介され、培われたものではないか、といった仮説を提起したものである。
著者
松本 真輔
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.1-10, 2002-02-10 (Released:2017-08-01)

『日本書紀』『聖徳太子伝暦』には、太子存命中に数度の新羅侵攻が企てられたという記述がある。一度は侵攻に成功するが、最終的に派遣された将軍が筑紫で病没し、派兵は失敗に終わったとされている。ところが、中世太子伝において、これが大きく変容を遂げ、聖徳太子の実弟、来目皇子が、新羅侵攻成功の立て役者として大復活をとげる。本稿では、中世の物語的太子伝のうち、増補系太子伝を中心にして、その内容を紹介するとともに、新羅の脅威が喧伝され、日本の安全を守るため、侵攻がなされたとされている点、戦闘の様子が、神国思想を背景にした護国説話として描かれている点などを、その特徴として指摘した。
著者
原 道生
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.54, no.10, pp.34-46, 2005-10-10 (Released:2017-08-01)

近松最晩年の時代浄瑠璃『井筒業平河内通』には、さまざまなミステリー的要素が認められる。本稿では、同作の分析を通して、惟高親王の皇位纂奪をめぐる筋立てには怪奇的な色彩の濃いホラー的特色が、また、親王の二条后への横恋慕をめぐるそれには緻密な構成に基づく謎解き本位のミステリーとしての特色が、それぞれ顕著であるということを考察した。
著者
吉田 幹生
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.12-19, 2009

本論では、七・八世紀の異類婚姻譚が様々な展開の可能性を孕んでいたことを確認した上で、異類との別れに注目するところから、離別する二人の未練や葛藤の情が次第に描き出されてくる様を論じた。この流れは、異類という側面を希薄化させ、愛し合う二人の悲恋という点を強調していくようになるが、それがやがて王朝物語の領域に引き取られつつ一つの命脈を保っていくことについても見通しを述べた。
著者
槙林 滉二
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.66-67, 2014-03-10 (Released:2019-03-20)

1 0 0 0 OA 『名人伝』論

著者
山下 真史
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.43, no.12, pp.11-19, 1994-12-10 (Released:2017-08-01)

中島敦の『名人伝』は、名人を純粋さの体現者とする通念に対して、名人を突き詰めれば木偶に至るということ、そしてその名人を偶像化することの滑稽さを描いた作品である。川端康成の『名人』などと比較しながら、同時代の文学状況にこの作品を置いてみると、中島が太平洋戦争下の日本の<純粋さ>を徒に崇める風潮への批判、陶酔を拒否して醒めた認識を持ち続けることをモチーフとしてこの作品を書いたことが分かる。
著者
兵藤 裕己
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.9-24, 1986

相反する二つの論理が、位相を異にしながら平家物語で重層する。それはまず、序章に仕組まれた王権因果論と、無常感の印象である。作品の次元でいえば、歴史と物語、日常と非日常、中央と辺境であり、成立論的にいえば、モノの鎮めと鎮まらざるモノの語り、寺院権門とそれに隷属する語り手、すなわち文字と語りの問題に位相的に重なり合う(平家物語が語りと文字の出会いの文学であるとは、じつはその危うい<歴史>モノ語りの構造と不可分の問題であった)。そしてにもかかわらず、平家物語が(最終的には)語り手の側に属する以上、語り手の側の論理は深層から作品をささえている。物語の<歴史>書的な外皮が内側から相対化され、史実と虚構日常と非日常という二元的境界が反転する。それは平家物語の作品構造であるし、文字テキストを不断に変形・相対化するモノ語りの論理であった。
著者
小川 豊生
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.32-45, 1993

中世的な知の岩盤を露出させた、いわゆる中世日本紀という新たな言説が生成する場の諸問題について、『彦火々出見尊絵巻』を中心にすえて論じた。後白河院の絵巻制作の工房が孕む政治性は、『日本書紀』原典から逸脱した『尊絵』というテクストにおいても具体的にあらわれているのであって、それを切り口に、異形化した日本紀が政治的中枢の場に兆しはじめる胎動期の様相を、信西や藤原教長の言説とからめて説き明かす事が可能であろう。
著者
阿部 泰郎
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.31-48, 1985

古代王権がその根拠を示すために編んだ『日本書紀』は、中世に至り、王権を支える諸道芸能の一流なる「日本記の家」に伝承された。所謂中世日本紀である。その学問は訓古註釈に止らず、物語的言説として再創造され、その典型たる三種神器説(宝剣説話)は『平家物語』「劔巻」と関連し、また、その生成過程は、慈円の夢想記が示すように、天皇即位に関する旧仏教界の即位法伝承の形成とも不可分の関係にあって、中世王権を神話的に支える機能を果していた。『太平記』中の即位法と三種神器(宝剣)の二説話が南北両朝を批判する物語上の文脈は、そうした消息を伝えるものであろう。
著者
西原 志保
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.58, no.9, pp.22-33, 2009

女三宮は、研究史においてその存在が六条院世界や物語のありようを変容させたものの内面を語らないと言われるが、『源氏物語』中に心内語や心情に添った描写、会話文、和歌は少なくない。それゆえそれらを女三宮のことばとして総合的に捉え、結婚当初、柏木事件後、出家後の変容を考察する。「身」、「我」など自己をあらわす語と、対置される語である「心」「世」「人」に着目し、柏木事件後にあらわれる「身」「我」という意識が、出家後「心」は描かれるものの消えることを述べる。