著者
伊藤 進一郎 窪野 高徳 佐橋 憲生 山田 利博
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本林学会誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.80, no.3, pp.170-175, 1998-08-16 (Released:2008-05-16)
参考文献数
31
被引用文献数
8

1980年以降,日本海側の各地において,ナラ類(コナラとミズナラ)の集団的な枯死が発生して問題となっている。枯死木には,例外なくカシノナガキクイムシの穿入が認められるのが共通した現象である。このナガキクイムシは,一般的には衰弱木や枯死木に加害するとされており,枯死原因は現在まだ明らかでない。この被害に菌類が関与している可能性を検討するため,野外での菌害調査と被害木から病原微生物の分離試験を行った。被害発生地における調査では,枯死木の樹皮上にCryphonectoria sp.の子実体が多数形成されているのが観察された。しかしながら,日本海側の6県にわたる調査地に共通する他の病害,例えばならたけ病や葉枯•枝枯性病害の発生は観察されなかった。そこで,枯死木やカシノナガキクイムシが穿入している被害木から病原微生物の分離試験を行った。その結果,変色材部,壊死した内樹皮,孔道壁から褐色の未同定菌(ナラ菌と仮称)が高率で分離されることが明らかとなった。この菌は,各地の被害地から採集した枯死木からも優占的に分離されることがわかった。また本菌は,カシノナガキクイムシ幼虫,成虫体表や雌成虫の胞子貯蔵器官からも分離された。分離菌を用いたミズナラに対する接種試験の結果,ナラ菌の接種において枯死したのに対し,他の処理では枯死は認められなかった。これらの結果から,この未同定菌は,ナラ類集団枯損被害に深く関与しているものと判断した。本菌は,母細胞に形成された孔口から出芽的(Blastic)に形成されるポロ(Polo)型分生子を持つことがわかったが,現在その所属については検討中である。
著者
伊藤 進一郎 福田 健二 中島 千晴 松田 陽介
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

1980年以降、日本ではブナ科樹木に萎凋枯死が発生し、被害は拡大している。この被害は、カシノナガキクイムシが伝搬するRaffaelea quercivoraによって発生することが明らかとなった。本研究では、アジア地域でカシノナガキクイムシ科昆虫に随伴するRaffaelea 属菌を調べ、それらの病原性を明らかにすることを目的とした。その結果、タイ、ベトナム、台湾で採集したカシノナガキクイムシ科昆虫からはRaffaelea属菌類が検出された。それらの菌類は、ミズナラに対して親和性があること、またタイの1菌株がミズナラに対して病原性を示すことが明らかとなった。
著者
小林 正秀 伊藤 進一郎 野崎 愛
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース 第114回 日本林学会大会
巻号頁・発行日
pp.60, 2003 (Released:2003-03-31)

カシノナガキクイムシ(以下カシナガ)の穿入に伴うナラ類集団枯死被害について、カシナガの天敵に関する報告はほとんどない。筆者らは、カシナガが繁殖に失敗している坑道内で、ある種の線虫が増殖していることを発見した。そこで、この線虫がカシナガの密度抑制要因、つまり天敵である可能性を明らかにするための予備実験を行った。被害発生年度が異なる4林分で、健全木、穿入生存木、穿入枯死木から線虫を分離したところ、被害発生初期の林分からは線虫がほとんど分離できなかった。また、有意差はなかったが、健全木と穿入生存木からの線虫の分離数は少なく、穿入枯死木からの分離数が多かった。この線虫は、カシナガ生存成虫から分離できたが、死亡個体や他のキクイムシからは分離できなかった。また、カシナガ成虫を解剖したところ、線虫は鞘翅裏側に存在することが判った。線虫はカシナガ孔道内から分離した酵母でよく増殖した。線虫のカシナガ繁殖に及ぼす影響を調べるため、増殖させた線虫を穿入枯死木と健全木に接種した。その結果、枯死木からは再分離されたが健全木からは再分離されなかった。また、再分離数が多かった木ではカシナガの死亡率が高い傾向が見られた。以上のことから、この線虫はカシナガと共に移動し、カシナガが繁殖した坑道内で、カシナガの餌と考えられる酵母を搾取して間接的にカシナガの密度を低下させることが示唆された。
著者
松田 陽介 伊藤 由佳 伊藤 進一郎
出版者
樹木医学会
雑誌
樹木医学研究 (ISSN:13440268)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.165-173, 2010-10-31 (Released:2020-11-04)
参考文献数
23

コナラの葉内に生息する内生菌の伝播・感染様式を明らかにするため,展葉段階と展葉期の異なる葉から内生菌の分離を行った.2007年4月の一次展葉期の展葉状態を5段階に大別し,段階別に内生菌相とその分離率を調べた.さらに,2008年4月の一次展葉期,6月と8月の二次,三次展葉期の葉から検出された内生菌相やその分離率も同様に調べた.その結果,一次展葉期では2007年に10タイプ,2008年に15タイプの内生菌タイプが得られ,2008年の二次,三次展葉期ではそれぞれ11,13タイプの内生菌タイプが得られた.得られた内生菌のうちDiscula sp.の分離率は最も高く,一次展葉期の葉身拡大時に増加したが,二次,三次展葉期の新葉では減少傾向を示した.二次,三次展葉期ではPhomopsis sp.が増加傾向を示した.これらの結果から,Discula sp.は胞子により一次展葉期に感染を行い,葉内で優占するものと考えられた.また,二次,三次展葉期の新葉では,Discula sp.の胞子飛散量が減少したためか,Phomopsis sp.の感染が増加する可能性が示された.
著者
伊藤 進一郎 山田 利博
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 = Journal of the Japanese Forestry Society (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.80, no.3, pp.229-232, 1998-08-16
参考文献数
9
被引用文献数
14
著者
鳥居 正人 松下 知世 松田 陽介 伊藤 進一郎
出版者
樹木医学会
雑誌
樹木医学研究 (ISSN:13440268)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.119-122, 2012-07-31

ブナ科樹木の萎凋病菌Raffaelea quercivoraに対する外国産コナラ属樹種の感受性を明らかにするため,Quercus palustris, Q. robur, Q. rubra,日本産アラカシの各種苗木に対して,多点・1点接種を行った.その結果,多点接種における対照,無処理木では枯死が確認されなかったが,接種木ではQ. rubraのみで枯死が確認され,その枯死率は42%であった.また,枯死率は樹種間で有意に異なった.1点接種の接種木においてQ. rubraの接種部横断面における変色域の割合は,アラカシのものに比べ,有意に高かった.以上の結果から,R. quercivoraは外国産のQ. rubraに対して病原性を有することが明らかとなった.
著者
鳥居 正人 松下 知世 松田 陽介 伊藤 進一郎 Masato Torii Tomoyo Matsushita Yosuke Matsuda Shin-ichiro Ito 三重大学大学院生物資源学研究科 三重大学生物資源学部 三重大学大学院生物資源学研究科 三重大学大学院生物資源学研究科 Graduate School of Bioresources Mie University Faculty of Bioresources Mie University Graduate School of Bioresources Mie University Graduate School of Bioresources Mie University
雑誌
樹木医学研究 (ISSN:13440268)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.119-122, 2012-07-31

ブナ科樹木の萎凋病菌Raffaelea quercivoraに対する外国産コナラ属樹種の感受性を明らかにするため,Quercus palustris, Q. robur, Q. rubra,日本産アラカシの各種苗木に対して,多点・1点接種を行った.その結果,多点接種における対照,無処理木では枯死が確認されなかったが,接種木ではQ. rubraのみで枯死が確認され,その枯死率は42%であった.また,枯死率は樹種間で有意に異なった.1点接種の接種木においてQ. rubraの接種部横断面における変色域の割合は,アラカシのものに比べ,有意に高かった.以上の結果から,R. quercivoraは外国産のQ. rubraに対して病原性を有することが明らかとなった.
著者
伊藤 進一郎 中村 宣子
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.66, no.7, pp.262-267, 1984-07-25
被引用文献数
3

1976〜1979年の4年間, 東京大学農学部小石川樹木実験圃場において樹木の白紋羽病被害の発生状況について調査を行った。ヤマナラシの生枝による菌の捕捉調査および被害木の分布状態から本圃場には白紋羽病菌(Rosellini anecatrix)が広く分布していることが判明した。調査期間中に45科158種の樹木で発病が観察されたが, そのうち135種が未記録の新宿主であった。発病樹種のなかでは, トチノキ, ブナ, ウメモドキ等では被害木の発生本数が多かった。一方, コウヨウザン, シュロ, クマザサ等では, 土壌中で本菌の生息が確認された位置にありながらまったく被害が発生しなかった。被害は根元直径2cm以下, 樹高1.5m以下の幼樹に集中してみられ, 夏期に発生が多かった。本圃場では, 1960年代に導入改良ポプラ類の系統保存が行われたが, その際本病に罹病した根が未処理のまま残された。このときのポプラ植栽位置と今回罹病個体が集中して認められた位置とがきわめてよく一致するところから, これら罹病ポプラの残根が本圃場での白紋羽病の発生源となり, さらにそこから若齢の植栽樹に被害が拡大したものと推測された。
著者
黒田 慶子 伊藤 進一郎
出版者
日本林學會
雑誌
日本林学会誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.p383-389, 1992-09
被引用文献数
5

マツノザイセンチュウ以外の微生物がマツの萎凋に関わる可能性があるかどうか, 接種した線虫の樹幹内分布や木部の通水阻害開始時期と糸状菌や細菌の検出状況とを比較しながら検討した。クロマツに接種した線虫は, 150cm/日と非常に速く接種枝から樹幹の上下方向に移動した。最初の病徴, つまり仮道管のキャビテーションによる通水阻害の出現は, 線虫接種の1週間後であった。それに対してマツ組織に分布する微生物は, 線虫接種後4週間は健全木と同様であり, Pestalotiopsis spp., Nigrospora spp., Cladosporium spp., Phomopsis spp., 細菌類がごく低率で検出された。発病に先立つ菌相の変化はなかった。また, 線虫の培養に用いたBotrytis cinereaは検出されなかった。接種5週後に, 青変菌Ceratocystis sp.が初めて検出され細菌類の検出率が上昇するなど, 菌相に変化が現われた。しかしこの時期以前に, すでに樹幹全体で通水阻害が進行し, 形成層の壊死が開始していた。これらの結果から, 接種したマツノザイセンチュウは単独でクロマツに萎凋を起こすことができ, クロマツ木部から検出されたCeratocystis sp.その他の糸状菌や細菌類はマツ材線虫病の発病および病徴進展に関与していないものと判断された。
著者
伊藤 進一郎 窪野 高徳 佐橋 憲生 山田 利博
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.80, no.3, pp.170-175, 1998-08-16
被引用文献数
18

1980年以降, 日本海側の各地において, ナラ類(コナラとミズナラ)の集団的な枯死が発生して問題となっている。枯死木には, 例外なくカシノナガキクイムシの穿入が認められるのが共通した現象である。このナガキクイムシは, 一般的には衰弱木や枯死木に加害するとされており, 枯死原因は現在まだ明らかでない。この被害に菌類が関与している可能性を検討するため, 野外での菌害調査と被害木から病原微生物の分離試験を行った。被害発生地における調査では, 枯死木の樹皮上にCryphonectoria sp.の子実体が多数形成されているのが観察された。しかしながら, 日本海側の6県にわたる調査地に共通する他の病害, 例えばならたけ病や葉枯・枝枯性病害の発生は観察されなかった。そこで, 枯死木やカシノナガキクイムシが穿入している被害木から病原微生物の分離試験を行った。その結果, 変色材部, 壊死した内樹皮, 孔道壁から褐色の未同定菌(ナラ菌と仮称)が高率で分離されることが明らかとなった。この菌は, 各地の被害地から採集した枯死木からも優占的に分離されることがわかった。また本菌は, カシノナガキクイムシ幼虫, 成虫体表や雌成虫の胞子貯蔵器官からも分離された。分離菌を用いたミズナラに対する接種試験の結果, ナラ菌の接種において枯死したのに対し, 他の処理では枯死は認められなかった。これらの結果から, この未同定菌は, ナラ類集団枯損被害に深く関与しているものと判断した。本菌は, 母細胞に形成された孔口から出芽的(Blastic)に形成されるポロ(Polo)型分生子を持つことがわかったが, 現在その所属については検討中である。
著者
伊藤 進一郎
出版者
樹木医学会
雑誌
樹木医学研究 (ISSN:13440268)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.57-60, 2008-04-30
著者
松田 陽介 清水 瞳子 森 万菜実 伊藤 進一郎
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第53回大会
巻号頁・発行日
pp.32, 2009 (Released:2009-10-30)

イチヤクソウ属植物は根に菌との共生体であるアーブトイド菌根を形成し,自らの光合成生産物に加え,根系に定着する菌根菌を通じて周囲の樹木から光合成産物を獲得すると示唆されている.イチヤクソウは日本の様々な森林生態系の林床に生育する常緑多年生草本であるが,上記のような栄養獲得様式に関する知見はない.そこで本研究では,イチヤクソウの栄養獲得様式を明らかにするための端緒として,異なる光環境下で生育する個体の菌根形成とその形成率の季節変化,定着する菌類を調べた.調査は,三重県津市のコナラ・クヌギ二次林で行った.2007年1月から11月にかけて,合計6回,イチヤクソウ3個体ずつを明所,暗所から採取した.採取個体の光環境は,各個体と林外の被陰されない場所における照度の比較にもとづき相対照度として算出した.各個体の根系は,基部,中央部,先端部の3つの部位に大別し,各部位から10~30枚の切片を作成してから,光学顕微鏡観察を行った.根の表皮細胞に貫入する菌根菌菌糸の侵入形態にもとづき6タイプ(コイル初期,コイル,分解初期,分解,コイルなし,デンプン)に大別し,その割合を測定した.上記調査のために採取した個体,さらにDNA解析用に採取した個体の菌根からDNA抽出をしてからITS領域のシークエンス解析を行った.得られたDNA塩基配列はBlast解析を行った.採取した全ての根で菌糸コイルが確認されたことから,イチヤクソウにおいてアーブトイド菌根の形成を明示した.明所,暗所における菌糸コイルの形成率は,それぞれ16.8%から46.2%,14.1%から58.1%と季節によって異なり,上層木により林冠が被覆される5月,7月の夏期において高くなる傾向を示した.菌糸コイルの形成割合は根の部位により異なり,根の先端部から基部にかけて減少する傾向にあった.根に定着する菌種として,現在までに,主としてベニタケ科が推定されている.以上より,イチヤクソウは林床の光環境が悪くなる条件下で菌根形成を,特に根の先端部で高頻度に行なうと考えられた.さらに,イチヤクソウに定着する菌根菌種はいずれも外生菌根菌種と分類学的に同一であるため,上層木のコナラ,クヌギに外生菌根を形成する菌と菌糸を介して繋がっている可能性がある.
著者
山田 利博 伊藤 進一郎
出版者
日本植物病理學會
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.666-672, 1993
被引用文献数
8 27

マツノザイセンチュウを感受性のクロマツ,抵抗性のテーダマツおよびストローブマツの枝に接種し,接種枝からのエタノール抽出物の分析を行った。線虫接種1週間後にストローブマツの皮層,師部および木部で抗菌性物質の集積が認められた。この活性は実験期間中維持された。木部から抽出された抗菌性物質にはpinosylvin, pinosylvin monomethylether, pinobanksin, pinocembrinが含まれていた。これらの物質は線虫を不動化すると考えられた。テーダマツとクロマツで接種5週間後に菌に対する阻害活性がわずかに認められたが,線虫に対する不動化活性は認められなかった。これらのことから,ストローブマツ接種枝では線虫感染に対する抵抗性反応として,エタノール可溶性の阻害物質が生産されることが示唆された。
著者
山本 福壽 伊藤 進一郎 板井 章浩 小谷 二郎 伊藤 進一郎 板井 章浩 小谷 二郎
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

ヒノキ科樹木の漏脂現象(ヒノキ漏脂病など)に関連した傷害樹脂道の形成機構を検討した。樹幹の連続的な漏脂現象には傷害刺激の伝達物質であるエチレン、ジャスモン酸、およびサリチル酸の濃度バランスが関与しているようであった。またエチレンの前駆物質であるACC合成酵素の遺伝子発現も確認した。さらにタイ王国においてAquilaria crassnaを用いて樹幹内の沈香成分沈着に関する刺激伝達物質の役割についても検討し、生産促進処理技術を開発した。