著者
田口 善弘
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.74, no.9, pp.659-660, 2019-09-05 (Released:2020-03-10)
参考文献数
3

シリーズ「人工知能と物理学」機械学習のコモディティ化
著者
長谷川 剛 小林 研介 村上 修一
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.228-231, 2020-04-05 (Released:2020-09-14)
参考文献数
7

令和元年度科学研究費助成事業(科研費,基盤研究等)審査結果報告
著者
土井 正男
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.73, no.8, pp.551-557, 2018-08-05 (Released:2019-03-12)
参考文献数
15
被引用文献数
2

蒸発と乾燥は我々の身近にみられる現象である.皿の上の水滴がいつの間にか消えている,洗濯ものが乾いてゆく,茶碗の底のご飯粒がカチカチになってしまう,などは典型的な蒸発・乾燥現象の例である.蒸発とは,物質が液体から気体に変わる相転移現象であると学校では教わるが,実生活で我々が見ている現象はそれだけではない.洗濯ものが乾くときのことを考えてみよう.洗濯物が乾いてゆくとき,水はいきなり気体になっているのではない.水は繊維の間を流れつつ蒸発してゆくのである.この流れには表面張力,界面張力,繊維の弾性力などが関与しているが,原因となっているのは水の蒸発である.洗濯ものの乾燥では,蒸発によって水の流動,気液相転移,水蒸気の拡散などが同時に起こっている.同じようなことが燃料電池の中でも起こっている.燃料電池の中では,水素,酸素および水が気体や液体に状態を変えながら電解質材料の中を移動している.そのコントロールは電池の設計上重要である.洗濯ものの乾燥の問題は,先端科学と結びついている.一般に蒸発・乾燥は物質内部の流動や変形を引き起こし,それが乾燥後の物質の構造に影響を与えるので,蒸発・乾燥の物理を理解することは物質科学の上からも重要である.最初に蒸発速度について誤解を解いておく.蒸発は液体表面で起こる現象だから,蒸発速度は表面近傍の条件で決まっていると考えている人がいるが,これは大きな誤解である.通常の蒸発条件では,液体表面には液体と平衡になっている蒸気があり,蒸発速度は,この蒸気がどのくらい速く運ばれてゆくかで決まっている.これは蒸気の拡散と空気の流れの絡む流体力学の問題である.実際,蒸発速度は物質が置かれた環境に強く依存する.例えば,試験管の中の水の蒸発速度は,管の半径や入っている水の量によって大きく違う.蒸発には,気中の運動だけでなく,液中の運動も絡んでいる.皿の上のコーヒーの滴が乾くと,リング状のコーヒーのしみが残っているのが良く見られるが,この現象は,蒸発によってコーヒー滴の中に中心部から外縁部に向かう流れが誘起されることによってできる.この問題の厳密な取り扱いは難しいが,Onsager原理を応用した,近似的ではあるが,簡便な取り扱いをすることができる.この方法によって乾燥後に残された堆積物の形や,蒸発によって起きる液滴の運動などが理論的に議論できる.蒸発はまた,物質内の構造変化をもたらす.均質な溶液であっても,蒸発にともない,溶液内の溶質の分布は不均一になる.たとえば,高分子系では表面にスキン層と呼ばれる膜ができることがあり,これにより,表面に凹凸ができたり,内部に空洞が発生する.また,粒径の異なる大小のコロイド粒子の混合溶液では,蒸発後の表面にはサイズが小さい粒子が偏析する.これらの現象も物理の言葉で理解できる.
著者
天羽 優子 菊池 誠 田崎 晴明
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.342-346, 2011
参考文献数
4

「『ありがとう』などの『よい言葉』を見せたり『美しい音楽』を聴かせたりした水は凍らせたとき美しい結晶を作るが,『ばかやろう』などの『悪い言葉』を見せた水は凍らせても結晶を作れない」というのが「水からの伝言」という物語である.この単なるファンタジー(ないしはオカルト)が,時に「科学的」とさえみなされ,学校教育の現場にまで浸透している.ここでは,予備知識のない読者を想定し,「水からの伝言」をめぐる状況を紹介し,関連する問題点や論点を簡潔に整理したい.
著者
小宮山 進 竹川 敦
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.72, no.6, pp.422-426, 2017-06-05 (Released:2018-06-05)
参考文献数
5

物理教育は今このままで良いのか大学の電磁気学教育
著者
諏訪 秀麿 藤堂 眞治
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.77, no.11, pp.731-739, 2022-11-05 (Released:2022-11-05)
参考文献数
52

マルコフ連鎖モンテカルロ法は多自由度系に対する強力な数値積分手法として,さまざまな分野で広く用いられている.この手法では,積分変数を状態変数とみなして,状態を逐次的に更新するシミュレーションを行う.このとき状態遷移が確率的であることがモンテカルロ法の特徴である.十分長時間のシミュレーションにより,任意の分布(例えばボルツマン分布)からの状態サンプリングが可能となる.ここで確率的な状態遷移を,状態空間中でのランダムウォークとみなすことができる.遷移確率は,通常,詳細つりあいを満たすように決められる.これは状態空間に正味の確率流がないこと,つまりは平衡状態からのサンプリングに対応する.このときの時間発展ダイナミクスは可逆である.マルコフ連鎖モンテカルロ法では,ランダムウォークのおかげで,長時間待てばどんな複雑な分布からもサンプリングができるが,悩ましいことに,そのランダムさゆえに計算効率が悪くなってしまう.ダイナミクスが拡散的であるため,行ってほしいところになかなかたどり着けないのである.計算効率を上げるには,逆説的ではあるが,ランダムウォークのランダム性をうまく抑える必要がある.つまり,詳細つりあいを破ることで,状態空間に確率の流れを作り出し,その流れに沿って,効率的にサンプリングを行えばよい.たとえ詳細つりあいを破っても,分布の収束先(定常分布)を不変に保つことができれば,非平衡定常状態からのサンプリングにより,平衡状態を用いたときと同じ積分計算を実行できるのだ.このような動機のもと,20世紀末頃から,詳細つりあいを満たさない不可逆なダイナミクスが数学的に議論され始めた.典型的な可逆ダイナミクスに対して摂動的に可逆性を破ると,必ず分布の収束が速まることが証明された.また状態空間が1次元などの特殊な場合,収束のスケーリングが大幅に改善されることが示された.しかしながら,物理的に興味のある多体問題に対して不可逆モンテカルロ法が実用的かどうかは,長い間わかっていなかった.そのような状況の中,ようやくここ10年ほどで,実用的かつ効率的な不可逆モンテカルロ法が開発された.中でも,状態空間を拡張し,その拡張された空間で確率の流れを導入するアプローチ――リフティング――がさまざまな系に用いられている.例えばイベント連鎖モンテカルロ法では,どの粒子を動かすかという自由度も状態変数として扱い,一般的な相互作用粒子系に対して効率的なサンプリングを実現する.また,量子系における粒子数保存則などのような制約が状態空間にある場合,ワームアルゴリズムがよく用いられている.この手法の拡張版として,状態空間に向きの自由度を加えた有向ワームアルゴリズムが開発された.向きのない場合と比べて,計算効率を大幅に改善することができる.このようにリフティングはさまざまな系に適用することができ,幅広い分野でますます重要となるであろう.今後,不可逆モンテカルロ法の基礎理論の発展と共に,さらなる効率的なアルゴリズムが生まれてくると期待される.
著者
宮沢 弘成
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.211-213, 2000-03-05 (Released:2019-04-26)
被引用文献数
1
著者
田崎 晴明
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.74, no.6, pp.378-379, 2019-06-05 (Released:2019-10-25)
参考文献数
6

特別企画「平成の飛跡」 Part 2. 物理学の新展開量子力学,統計力学,そして,熱力学
著者
前野 悦輝
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.175-176, 2019-03-05 (Released:2019-08-16)
参考文献数
16

談話室Leggett教授から物理学若手研究者へのメッセージ――傘寿を祝う研究会にて
著者
波多野 恭弘
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.71, no.12, pp.836-840, 2016-12-05 (Released:2017-10-31)
参考文献数
21

話題―身近な現象の物理―物理屋のための地震学入門
著者
玉置 直樹 青木 伸俊 青地 英明
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.73, no.9, pp.648-657, 2018-09-05 (Released:2019-04-27)
参考文献数
34

半導体メモリは情報を制御・記憶する電子回路であり,電源を切ると情報が消失する揮発性メモリと電源を切っても情報を保持できる不揮発性メモリに分類できる.代表的な揮発性メモリはDRAM(Dynamic Random Access Memory)やSRAM(Static Random Access Memory)で高速な動作が特徴である.そのため,CPU(Central Processing Unit)に付随するワーキングメモリとして用いられている.一方,不揮発性メモリはデータを保存することに適したメモリであり,ファイルメモリと呼ばれる.中でも大容量化に適したものの1つがNAND型フラッシュメモリであり,近年急速に普及している.従来型の2次元フラッシュメモリの高集積化の手段は,メモリセルサイズとセル間隔を縮小することである.この集積化の様子をボードゲームの「オセロ」で例えてみよう.盤面にびっしりと「石」を並べると,石の色は1ビット,つまり2値のメモリ機能を持ち,石の大きさがセルサイズに,石が納められるマスの大きさはメモリ1ビットが占める面積に相当する.フラッシュメモリの場合にはセルの間に互いに干渉する効果があるため,ある程度のセル間隔も必要である.従って,決められた領域内に多くのセルを詰め込むには,セルサイズとセル間隔を小さくする必要がある.2000年代になり,いずれ微細化は限界に達するだろうと予測され,この2次元フラッシュメモリを2階建てにした3次元フラッシュメモリが考案された.しかし,この構造で階層を増やしていくと各層の2次元フラッシュメモリを順に作って,重ねていかなくてはならないため,製造コストが高くなってしまう.そこで,革新的に発想の異なる新たな3次元フラッシュメモリが登場した.基本構造は次のようなものである:ミルフィーユという菓子を想像してほしい.クリーム層とパイ生地層が幾重にも積層されている.同様に,メモリセルの元となる半導体と,セル間を隔てるための材料の積層構造をまず構成する.この積み重なった層を縦に貫く穴をあける.この穴の側面に,山を貫くトンネルの内側と岩盤を隔てる側壁のように,メモリ機能を持つ絶縁体膜をつくる.穴の中にはまた別の半導体が満たされる.この穴の中心から順に,穴の中の半導体,穴の側壁の絶縁体膜,そして積層構造の半導体層の3つが作る接合構造が,ひとつのメモリセルとして働き,1本の穴はメモリセルが積層の数だけ数珠つなぎにつながったNAND型フラッシュメモリとして機能する.Punch & Plug技術と呼ばれるこの方法では,積層構造に多数の穴が一括で形成され,これを用いた3次元フラッシュメモリをBiCS FLASHTMと呼ぶ.この方法は,従来型の2次元フラッシュメモリを積層した場合に比べ,必要な微細加工工程を大きく削減することができ,低コストで高集積化が可能であり,動作速度や信頼性により優れたメモリを実現する.一方,大容量化のためには積層数を増やす必要がある.このためには細く深いメモリホールを均一に形成する技術が必要になる.深穴の形成には反応性イオンエッチング技術が用いられるが,直径が100 nm程度で深さ数μmの高アスペクトの均一なメモリホールの開口には高度な技術が必要となる.物理と化学と技術の最先端が具現化したもの,それがフラッシュメモリである.
著者
須藤 靖
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.87-94, 2015-02-05 (Released:2019-08-21)

物理学会誌の記事のほとんどは難しい.私の知る限り少なくとも30年以上前から編集委員会の方々が編集後記で繰り返し,わかりやすい記事をと訴えかけ,かつそれに向けた不断の努力をされてきたにもかかわらず.多分にこれは,非専門家のためにではなく,身近な専門家の顔を浮かべながら執筆してしまう著者のせいである.これが良いことか悪いことかは自明ではないが,著者が「釈迦に説法」を避けるべく書いた解説が,大多数はその分野の非専門家である平均的物理学会員にとって「馬の耳に念仏」になってしまい,ほとんど読まれなくなっているとするならば,あまりにももったいない.一般相対論の研究者ではない私が本特集の序論的解説を依頼されたのは,まさにそのためであろう.というわけで,今回は学生時代に一般相対論の講義は受けたもののほとんど覚えていない,という平均的物理学会員を念頭においた平易な,といっても一般向け啓蒙書とは異なる解説を試みたい.したがって,もしも「釈迦に説法」あるいは「厳密には正しくない」と感じられた方がいたならば今回の試みは大成功だと言える.該当しそうな方はただちに本解説をスキップして以降の記事に進まれることを強くお薦めする.
著者
金子 和哉 伊與 田英輝 沙川 貴大
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.361-369, 2018-06-05 (Released:2019-02-05)
参考文献数
41

ミクロな運動を記述するニュートンの運動方程式やシュレーディンガー方程式は,時間反転に関して対称である.一方,マクロな現象を記述する熱力学は,熱平衡状態への緩和や熱力学第二法則に代表される不可逆性をもつ.一見すると,可逆なミクロの力学と不可逆な熱力学は矛盾している.このミクロとマクロの整合性の問題は,19世紀にはボルツマンが議論し,20世紀初頭にはフォン・ノイマンが量子力学に基づき研究をしたが,解決には至らなかった難問である.近年,冷却原子などの実験系で理想的な孤立量子系が実現されるようになり,不可逆性の起源をめぐる問題が再び注目を集めている.理論と実験の両面から,シュレーディンガー方程式に従った時間発展で,量子純粋状態でさえも,熱平衡状態へ緩和(熱平衡化)することが明らかになってきた.理論的にも,従来の統計力学を使わず,量子力学だけから熱平衡化を理解する試みがなされている.とくに,「量子多体系において,全てのエネルギー固有状態が熱平衡状態を表す」という固有状態熱化仮説(Eigenstate Thermalization Hypothesis, ETH)が,熱平衡化を説明する機構として有力視されている.ETHは,数値計算で多くの非可積分系において確認されているが,数学的な証明はない.一方で我々は,一般の並進対称な局所相互作用する量子多体系において,「(全てとは限らない)ほとんどのエネルギー固有状態が熱平衡状態を表す」という弱い形のETHを証明した.また,以上とは異なる研究の流れの中で,第二法則の基礎についても大きな進展があった.とくに重要なのは,「ゆらぎの定理」の発見である.ゆらぎの定理は,エントロピー生成のゆらぎを考慮することで,第二法則を不等式ではなく等式の形で表現したものだ.第二法則は,ゆらぎの定理から自然に導かれる.しかし,孤立量子系の熱平衡化の研究とは異なり,ゆらぎの定理は統計力学を基にしている.とくに熱浴の初期状態として,通常のカノニカル分布を仮定しているため,冷却原子などの緩和過程には適用できない.というのも,熱浴の初期状態は一般にカノニカル分布とは限らないからだ.では,これら二つの研究の流れを統合し,熱浴の初期状態が量子純粋状態のときにも,第二法則とゆらぎの定理を示すことができるだろうか.我々はこの問題に取り組み,熱浴の初期状態がエネルギー固有状態の場合にも,第二法則とゆらぎの定理が短い時間の間では成り立つことを数学的に証明した.証明の鍵となるのは,ETHに加えて,量子多体系の相互作用の局所性である.相互作用が局所的な量子多体系では,情報の伝搬速度に上限が存在することが,リープ・ロビンソン限界(Lieb-Robinson bound)として厳密に示されている.これを利用して,我々は熱浴がカノニカル分布ではないことの影響を厳密に評価した.我々の結果は量子力学と熱力学第二法則を直接的に結び付けるシナリオを明らかにしたと言え,量子多体系の非平衡ダイナミクスのより深い理解につながることが期待される.
著者
深谷 英則 大野木 哲也 山口 哲
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.210-214, 2020-04-05 (Released:2020-09-14)
参考文献数
17

Atiyah–Patodi–Singer(APS)の指数定理は,境界のある多様体上の数学の定理である.こう書くと難しそうで拒否反応を示す読者もいるかもしれないが,もともと指数定理は物理学を起源としていて,実際,電子と電磁場の性質を関係づけるものである.4次元で平坦な時空を考え,電場E,磁場BとしてAPS指数定理を書き下すと,となる.ここで,左辺のn±は電子の満たすDirac方程式でカイラリティ(運動方向に対するスピン演算子)という性質が±1の解の個数を表す.右辺のcは次元だけで決まる定数,第二項はη不変量とよばれ,境界面Yに伝導電子が現れたとき,そのDirac演算子の正の固有値と負の固有値の差を表す量である.したがって,APS定理は電磁場の情報(を時空間で積分したもの)と,電子の全体のDirac方程式の解の個数,および境界上に現れる電子の情報の三つの物理量を結びつけるものである.さらに,この定理の右辺第一項は,絶縁体の内部(バルク)の重い電子の有効作用と考えられ,表面(エッジ)の伝導電子の時間反転対称性の量子異常の相殺を説明する.すなわち,APS定理の第一項(バルク電子の寄与)がゼロでない場合,それに応じて必ず第二項の起源となる境界上の伝導電子(エッジ電子)が現れなければならず,合計が整数になるという性質が,系全体での時間反転対称性を保証する.この性質は,近年注目されているトポロジカル絶縁体の性質と一致する.トポロジカル絶縁体とは,内部で電子がギャップを持ち,絶縁体としてふるまうが,表面ではギャップが閉じてよい伝導性を示す特殊な物質である.上記で示したAPS指数定理の性質は,量子異常の相殺を通じて,トポロジカル絶縁体のバルクエッジ対応を説明する,その数学的保証を与える.このことから,近年,素粒子論,物性理論の研究で注目されている.しかし,APS定理のオリジナル論文は難解で,しかも物理的に実現されるとは考えられない非局所的な境界条件をフェルミオン場に課すことで定理を導いている.2017年,私たちは素粒子論でよく知られた手法を使って,APS指数定理と同じ結果を与える新しい定式化を見出した.非局所的境界条件を必要とせず,ドメインウォールフェルミオンとよばれる,トポロジカル絶縁体のよい模型となる演算子を用い,APSと同じ結果を与える物理量を定式化した.この新しい定式化は計算もより簡単なので,「物理屋でもわかるAPS指数定理」として発表した.この研究は数学者からも大きな反響を呼び,指数定理の専門家である古田幹雄氏,松尾信一郎氏,山下真由子氏が加わり,物理,数学の分野をまたがる共同研究へと発展した.その結果,「任意のAPS指数に対し,それと同じ結果を与えるドメインウォールフェルミオンの演算子が存在する」ことの数学的証明を与えることができた.この証明ではさらに1次元高い時空の指数定理を異なる2つの方法で評価,それぞれがオリジナルのAPS指数および私たちの新しい定式化と一致することで示された.この結果は任意の偶数次元,任意のリーマン計量を持つ多様体上でのAPS指数について成り立つものである.
著者
川合 敏雄
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.227-235, 1986-03-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
3

最近では工学者もしきりにハミルトニアンを口にします. それは物理学者の使い方と同じ場合もありますが, 制御工学者のいう〓はより広い意味をもっています. 最適制御の理論は最大原理という大きな枠で, これを特殊な対象に適用すると力学をはじめとする自然法則が出てきます. この文では最大原理を日常の言葉で理解しながら, 物理法則を制御の目で眺めなおしてみます.
著者
豊田 長康
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.296-297, 2019-05-05 (Released:2019-10-02)
参考文献数
2

特別企画「平成の飛跡」 Part 1. 物理学をとりまく環境の変化国際環境の変化――論文数の分析より
著者
九後 汰一郎 中村 真
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.171-173, 2022-03-04 (Released:2022-04-05)
参考文献数
2

ラ・トッカータ あの研究の誕生秘話ゲージ理論における九後・小嶋形式
著者
森前 智行
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.98-101, 2019-02-05 (Released:2019-08-01)
参考文献数
7
被引用文献数
1

話題量子計算で出来ること・出来ないこと