著者
小松 輝久 中川 尚子
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.63, no.9, pp.694-697, 2008-09-05
参考文献数
14

熱流や外場によって駆動された非平衡定常状態における系の微視的状態の定常分布について,最近,我々が得た結果を紹介する.得られた表式は,平衡系におけるボルツマン因子の非平衡定常状態への拡張と見ることができる.線形応答領域をはみ出した非平衡度の2次まで正しく評価した結果は,過剰エントロピー生成の軌道群平均によって表現される.この表式では,従来取扱いが難しかった定常流の効果,すなわち時間無限大で発散する定常的なエントロピー生成の寄与は相殺し,エントロピー生成の過剰分が基本的な役割を演じる.我々は,この分布表現の発見を切り口として,非平衡物理学に新しい展開ができるのではないかと期待している.
著者
藤井 賢一 大苗 敦
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.239-246, 2002-04-05
被引用文献数
2

基礎物理定数が1999年末に十数年ぶりに大幅改訂され公表された.実験と理論の進歩により多くの基礎物理定数が高精度化された.得られたデータの比較・検討から,我々は自然現象を理解するための手段として頼りにしているモデルの妥当性を検証することができる.最近では,より高精度化された基礎物理定数が,質量の単位キログラムの再定義を実現するための鍵として注目されている.本稿ではミクロな世界とマクロな世界を結びつけるアボガドロ定数と,ミクロな世界を記述するプランク定数の測定方法について紹介し,これらの定数を使ったキログラム再定義の実現可能性について述べる.
著者
黒川 信重
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.43, no.12, pp.951-953, 1988-12-05

素粒子の弦理論の一つの特徴は, 数論の様々な性質が深く使われている点にある. 数論の大きなテーマは保型形式とゼータ関数である. ここでは弦理論で使われてきた数論の結果を保型形式を中心として概観し(§1), 弦理論から得られるゼータ関数の値に関する結果に触れる(§2). さらに, p進弦理論(Volovich)や類体論の非可換版も視野に含む一般の体上の弦理論(Wittcn)に言及する(§3). 数論を弦理論に応用することは自然であるが, 現在は既に弦理論を用いて数論を研究する段階に来ていると思われる.
著者
牧野 淳一郎
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.330-336, 2002-05-05

最近になってM82銀河の中心近くに太陽質量の1,000倍程度の「中間質量」ブラックホールが見つかった.これまでは太陽質量の100から100万倍の間のブラックホールは全く見つかっていなかった.M82での発見はブラックホール,特に多くの銀河の中心にあると思われる太陽質量の100万倍を超える大質量ブラックホールの形成過程に対する我々の理解を大きく変えるものである.この解説では,大質量ブラックホールの形成過程に対する,上の発見をふまえた新しいシナリオを紹介する.我々はこれがブラックホール形成シナリオの「決定版」になる可能性は十分にあると考えている.
著者
大栗 博司
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.60, no.11, pp.850-859, 2005-11-05
参考文献数
19
被引用文献数
1

トポロジカルな弦理論はそもそも「おもちゃの弦模型」として考え出されたが, その後筆者らのグループはこの理論が素粒子の統一理論としての超弦理論の計算に直接利用できることを明らかにした.この記事ではブラックホールの量子状態や4次元のゲージ理論の強結合問題といった素粒子物理学理論の重要な課題にトポロジカルな弦理論がどのように応用されているかを解説する.
著者
岡 小天
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.92-94, 1975-02-05
著者
栗田 英資 久保 晴信 守田 佳史 小竹 情悟 白石 潤一
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.170-180, 1998-03-05
参考文献数
63

楕円代数という名の国があります. 最近までは, この国のことを詳しく記した地図はありませんでした. この国には楕円関数に付随した代数の秘密が伝わっていると謂われています. それはBaxter達の模型を開ける大事な鍵になると信じられています. Baxter達の模型の臨界点での振舞を読み解く鍵となったのは共形場理論でした. 臨界点から離れたところを探るために, 次の鍵を見つけよつとして, 多くの人々が何年にも亘って知恵を出し合いました. 紆余曲折の末, それでも懸命に進み, 目的地へのある扉を叩くことになった人達がいました.
著者
早川 美徳
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.753-757, 2009-10-05
参考文献数
16

金平糖の角はどのように生え,その大きさや格好はどのようなメカニズムで決まっているのか.それに明快に解答するのは,案外と難しいことのようである.最近筆者らが行った金平糖の成長実験で得られた結果を紹介し,薄膜流を伴った結晶成長という観点から,つららや鍾乳石の表面にできる凹凸との関連性について考える.
著者
諏訪 秀麿 藤堂 眞治
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.370-374, 2011-05-05
参考文献数
26

マルコフ連鎖モンテカルロ法は積分計算の汎用的数値手法であり,様々な分野で必要不可欠な解析手段となっている.1953年の発明以来,この手法は詳細つりない条件の枠の中で発展を続けてきた.しかし詳細つりあいは必要条件ではない.最近の研究により,この条件を破ることで,推定値の収束が大幅に改善されることが明らかになってきた.本稿では,モンテカルロ法の原理について解説した後,我々の新しいアルゴリズムを紹介する.
著者
大関 真之 西森 秀稔
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.252-258, 2011-04-05
参考文献数
11

量子アニーリングというのは,量子揺らぎを巧みに利用して最適化問題を解くアルゴリズムである.量子力学を用いて最適化問題の解を与えるような情報処理を行うという意味では,量子計算のひとつの技法ともいえる.実験技術の進歩もあって,このような量子力学的な自由度を制御する研究が理論・実験両面で盛んになっている.量子アニーリングは,量子計算の中でも汎用性という意味において際だった特徴を持つ.量子アニーリングの今とこれからについて紹介していこう.
著者
青木 秀夫
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.80-84, 2009-02-05
参考文献数
16

南部理論と物性物理学との深いかかわりを,南部理論とBCS理論とのかかわり,南部・ゴールドストーン定理,南部理論と超伝導とアンダーソン・ヒッグス機構,などの観点から解説する.
著者
永弘 進一郎
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.763-767, 2009-10-05
参考文献数
14

流体表面と固体の衝突の問題は,古くから研究されている.「石の水切り」はその身近な例である.しかし,衝突時の流体の過渡的なダイナミクスや,表面の大変形を扱うことは難しく,水面へ投げ入れた小石が小さな波紋を作り反発する条件について,単純な現象論も見いだされていない.この水切りについて,最近の実験から,平らな石の面と水面のなす角度が約20°の時,もっとも反発が起こりやすくなる事実が見いだされた.本稿では,数値シミュレーションによる,石の反発条件の解析を行った結果を紹介する.また,最適角度の存在が,単純なモデルによって説明できることを示す.
著者
菊池 誠
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.48, no.10, pp.824-825, 1993-10-05
著者
三輪 哲二
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.43, no.8, pp.626-632, 1988-08-05

2次元イジング模型というのは, まことに "世界と世界のあいだの林" (C.S. ルイス「魔術師のおい」岩波少年文庫)のような所で, ところどころに静かな水をたたえた池があって, モジュラー不変性という緑色の指輪をまわしながらその池に飛び込むと, そこには一つの世界がひろがっていて…. conformal field theory という世界から帰ってきた我々は, もう一度隣の池に飛び込んでみる. するとそこにひろがる世界は, Baxterという名のライオンによって作られたcommuting transfer matrixという国で….