著者
岡田 裕之 松本 敬 森川 美雪 中平 隆志 大村 光浩 山本 浩嗣
出版者
公益社団法人 日本臨床細胞学会
雑誌
日本臨床細胞学会雑誌 (ISSN:03871193)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.321-326, 2002-09-22 (Released:2011-12-05)
参考文献数
11
被引用文献数
3 5

目的および方法:歯肉アメーバはミトコンドリアを持たない真核生物の代表であるアメーバ類に属し, 絶対嫌気的環境で寄生する. 歯肉アメーバ症28例を, 臨床病理学的および微細構造を含め細胞学的に検討した.結果:アメーバ虫体は小型染色中心を伴う核と, ライトグリーン淡染性, PAS陽性の細顆粒状の胞体を有しており, Giemsa染色では濃青色の細胞境界の明瞭な外質が認められた. また, 虫体は食胞を有し, 白血球を貧食する栄養型として存在していた. 虫体は放線菌に随伴して認められることが多かった.画像解析において, 虫体の最大径は9.3~37.5μm (平均18.2±5.0μm), 面積が51.0~360.1μm2 (平均175.6±68.3μm2) であった.微細構造学的に, 虫体における胞体の外質と内質が明瞭に区別され, 外質が細胞小器官に乏しく突起を有していた. 内質にはグリコーゲン顆粒と種々の大きさの食胞が多数みられ, 食胞内には変性した細胞などが観察された.結論:歯肉アメーバ症28例を臨床統計的にみると, 60歳代と50歳代に出現することが多く, それらが過半数を占め, 放線菌と共存していた. 細胞学的および微細構造学的検索では, 歯肉アメーバは食胞を有し, 白血球を貧食しており, 栄養型として観察された.
著者
岡田 基 松井 明男 米沢 千佳子 伊藤 雅文 柴田 偉雄
出版者
公益社団法人 日本臨床細胞学会
雑誌
日本臨床細胞学会雑誌 (ISSN:03871193)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.479-484, 1994 (Released:2011-11-08)
参考文献数
12

婦人科標本中に認められたいわゆるヘマトイジン結晶様物質 (以下ヘマトイジン様結晶と略す) について, 4年6ヵ月の問に当院を受診した41,274人, 標本件数116,360件を対象に検討した.35人 (45件) にヘマトイジン様結晶を認めた.35例の年齢分布は24歳から52歳 (平均38.7歳) であった.疾患内訳は, 腟部ビラン17名, 妊娠7名, 切迫流産4名, 異形成2名, 上皮内癌1名であった.ヘマトイジン様結晶の出現頻度は, 子宮腟部擦過で0.05%, 子宮頸管擦過で0.04%であった.結晶の出現様相は, パパニコロー染色で黄金色ないし黄褐色調に染色され, ロゼット状配列, 樹枝状配列を呈する集塊が主体で, 一部は散在性に楕円形結晶として出現した.大きさは1~341.5μ であった.大多数の結晶は, 組織球や好中球からなる炎症細胞集塊中に認められた.特殊染色ではPAS染色が陽性を呈したが, ほかの粘液染色, 鉄染色, ビリルビン染色は陰性であり, 免疫染色ではフェリチン, S-100蛋白, EMA陰性であった.以上の所見から婦人科標本中に認められたヘマトイジン様結晶は, ヘマトイジンとは異なる物質で, ヘモグロビン系の色素ではないと考えられた.
著者
家坂 利清 井上 浩 今井 昭満 名古 純一
出版者
特定非営利活動法人 日本臨床細胞学会
雑誌
日本臨床細胞学会雑誌 (ISSN:03871193)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.478-486, 1985

人工妊娠中絶術後に出現する異型細胞の起源と形態的特徴を調べる目的で, 妊娠2~3ヵ月の中絶後116例と非妊婦内膜掻爬術後12例の子宮内膜吸引細胞診の検討を行った.<BR>中絶術後の異型細胞は術後4時間より出現し始め, 4~5日に出現率のピークを形成し, 32日まで認められた.ピーク時には, 100%の検体に異型細胞が出現した.<BR>これら異型細胞は, 絨毛, 脱落膜細胞の変性に起因するのではなく, 下記の理由で子宮内膜再生細胞と考えられる.<BR>1.非妊婦内膜掻爬術後にも出現.<BR>2.再掻爬術後の反復出現.<BR>3.著明な核分裂に代表される活動核の存在.<BR>4.異型細胞は, 変性現象では説明の困難な, 特徴ある4期に分けられる.<BR>換言すれば, 異型細胞の特色ある経時的変遷とは, 再生細胞の子宮内膜修復過程そのものにほかならないと考えられる.<BR>4期の異型細胞のそれぞれの特徴に従って, 再生細胞を発生期, 分裂期, 成熟期, 退行期の4期に分類した.これらの区分は, 細胞形態学的に有意差をもって可能であった.
著者
家坂 利清 井上 浩 木村 茂
出版者
特定非営利活動法人 日本臨床細胞学会
雑誌
日本臨床細胞学会雑誌 (ISSN:03871193)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.449-456, 1987

人工妊娠中絶術後に出現する子宮内膜再生細胞について, 性ホルモン投与後の形態変化を観察した (109例).全体を無処置群, プロゲステロン投与群, エストロゲン投与群の3群にわけ, 術後2~3日と6~8日に内膜細胞診を施行した.主として核分裂細胞と巨細胞の出現率という観点から, これらの検体を分析し, 以下の結論を得た.<BR>1. プロゲステロンやエストロゲンは再生細胞の出現率には影響は及ぼさなかった.<BR>2. だがプロゲステロンもエストロゲンも再生細胞の分裂能を低下させた.特にエストロゲンの作用は著明であった.<BR>3. エストロゲンには再生細胞を小型化し, 成熟を抑制する作用もある.プロゲステロンにはこの効果は明らかでなかった.<BR>これらの作用が生体内においていかなる役割を果たすか, 詳細な意義は不明である.しかし成熟内膜が両ホルモンにより発育を制御されるのと異なって, この場合両者の作用とも抑制的であることから, 細胞増殖を基盤とした内膜の再生は内分泌因子だけでは解釈しにくい.また同じ内膜とはいえ, 成熟腺細胞と未熟な再生細胞では, エストロゲンに対する応答が異なる事実も興味深い.
著者
杉田 直道 窪田 与志 生水 真紀夫 三輪 正彦 寺田 督 西田 悦郎
出版者
公益社団法人 日本臨床細胞学会
雑誌
日本臨床細胞学会雑誌 (ISSN:03871193)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.33-39, 1984-01-25 (Released:2011-11-08)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

妊娠ラットの膣内吸引Smear像, ならびに組織を作製し, 正常性周期各期における像と比較検討した.その結果妊娠第1日目はいわゆる発情期 (Estrus) に近い像で, 多数の精子と無核表層細胞が大部分を占め, 午後より角質層は剥離し白血球がしだいに多くなり, 2日目にはいわゆる発情間期 (Diestrus) に類似した像を呈した.しかし4~5日目以後, 膣上皮の増殖とともに腔腔に面する上層部より細胞の円柱化, 粘液形成化 (Muci丘cation) が起こり, 一般のDiestrusとは全く違った像を呈した.妊娠末期にMucificationはPeakに達し, その幅も7~10層になり細胞像でも円柱形粘液細胞の大きな集団として認められた.一般に妊娠初期ラットでは, そのSrnear像がいわゆるDiestmsに類似しているといわれるが厳密にはかなりの違いがあり, とくに粘液形成化が最も重要な点と思われた.ただし正常周期群においてもlate-Diestrusより粘液細胞は出現しており, 妊娠群との質的な差はあまり認められなかった.粘液形成化発生はEstrogenをBaseにしたProgesteroneの作用によると推定されるが, 副腎性Androgenによっても発現しており, また下垂体系のホルモンの関与を主張する報告もあり, そのメカニズムはいまだ判然としていない.今回方法において塗抹前の固定法を試みたが, 保存の良い細胞が多数採取されており臨床的にも応用されるものと思われた.
著者
平園 賢一 篠塚 孝男 藤井 明和 堀 貞明 伊藤 仁 川井 健司 佐藤 慎吉 長村 義之
出版者
特定非営利活動法人 日本臨床細胞学会
雑誌
日本臨床細胞学会雑誌 (ISSN:03871193)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.1069-1074, 1992
被引用文献数
3

パルボウイルスB19 (以下B19) は伝染性紅斑, いわゆるリンゴ病の病原体であり, 成人でも風邪様症状や関節炎を起こし, 特に妊婦が妊娠初期から中期にかけて感染すると胎児水腫などを引き起こし流早死産になることが明らかになってきた. 現在, 産科的に風疹やサイトメガロウイルスにつぐ重要なウイルスとして注目されている.<BR>〈症例〉胎齢25週2日の男児死産児. 母親は28歳, 保母. 妊娠10週頃に伝染性紅斑に患, 妊娠22週の超音波検査にて胎児水腫を指摘され当院産科を受診し, B19感染による非免疫性胎児水腫が疑われた. 25週2日子宮内胎児死亡のため人工中絶となった.<BR>〈剖検〉全身浮腫と著明な胸腹水の貯留を認めたが外表奇形, 内臓奇形はみられなかった. 剖検時の腹水細胞診では細胞の変性強く核内封入体を有した感染細胞は明らかでなかったが, 酵素抗体間接法 (B19に対するモノクロナール抗体) により感染細胞の細胞質に特異抗原を認めた. また諸臓器 (肝, 脾, 肺, 腎, 骨髄, 胎盤など) に核内封入体を有する感染赤芽球が多数認められ, 酵素抗体法にて陽性が認められた. また胎児胸腹水のPCR法分析および組織電顕にてB19を確認した.<BR>〈考察〉本邦の妊娠可能女性の50%から80%はB19抗体陰性といわれており, 感染時に定形的な紅斑を示さないことが多いとされる. またB19IgM陽性妊婦の約10%に胎児水腫が発症したとの報告があり, その致死率も高い. 早期診断のためにも簡便でかつ臨床応用可能な細胞診は有用であると思われた.
著者
野田 起一郎
出版者
公益社団法人 日本臨床細胞学会
雑誌
日本臨床細胞学会雑誌 (ISSN:03871193)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.226-230, 1972-10-30 (Released:2010-10-21)
参考文献数
10

The process of squamous metaplasia in the uterinecervix might be discussed more properly in contextwith inflammation, regeneration or repair for itsinitiation may be related to the inflammatory process. On the other hand, squamous metaplasia maybe initiated by non-inflammatory stimuli such aschronic irritation of a physical nature or by chemicalirritants. Althorgh the process of squamous metaplasia is extremely common in the uterine cervix, itis not usually regarded as a change which necessarilyantedates development of cancer. However, some of the chemical stimuli which initiate squamous metaplasia are also capable of inducing cancer in theuterine cervix of the experimental animals.Squamous metaplasia can be arbitrarily subdividedinto: 1. reserve cell hyperplasia, 2. immature squamous metaplasia, 3. premature squamous metaplasia and 4. mature squamous metaplasia. The cellularchanges which can be related to each of them havebeen presented.
著者
小谷 広子 阪下 裕子 林 和加子 吉田 君子 松田 実 植松 邦夫
出版者
特定非営利活動法人日本臨床細胞学会
雑誌
日本臨床細胞学会雑誌 (ISSN:03871193)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.226-230, 1980-04-25
被引用文献数
1

A case of mesothelioma of the peritoneum with asbestosis of the lung was reported. Cytological examination of the peritoneal effusion was performed in this case, which was histologically diagnosed to have malignant mesothelioma. Characteristic findings of malignant cells are as follows: Tumor ceils appeared singly or as groups consisting of a few〜 many cells. Some of these cells were overlapping each other. The cytoplasm was abundant and its perinuclear area was staind lightly pale or sometimes appeared to be eosinophilic, with a gradual transition to a deep stain at the periphery. Cytoplasmic rims were distinct and sometimes blister-like protrusions appeared after application of the Giemsa' stain. Nuclei were round or oval and mainly central in location. Their borders were smooth. The chromatin content was increased and chromatin was finely granular with occasional prominent clumps of chromatin. There could be seen 1〜4 small nucleoli and, sometimes, 1〜2 large irregular-shaped nucleoli. Single tumor cells were large and often multinucleated. Mitoses occured in a small number of tumor cells. Thick strand-like, dark clumping or finely granular PAS-positive substances were irregularly distributed in the cytoplasm, sometimes the whole of the cytoplasm was stained as a ring. Vacuolated cytoplasm gave a negative reaction to staining. Vacuolated cytoplasm and a part of the cytoplasmic border were stained positive by alcian blue staining.
著者
牛島 倫世 山川 義寛 高越 優子 加藤 潔 岡田 英吉
出版者
公益社団法人 日本臨床細胞学会
雑誌
日本臨床細胞学会雑誌 (ISSN:03871193)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.280-284, 2009 (Released:2011-03-18)
参考文献数
12

背景 : 子宮内膜間質肉腫はまれな疾患で予後不良であり, 術前診断は困難である. 子宮内膜細胞診・組織診が診断の契機となった 1 例を報告する.症例 : 52 歳, 4 回経妊 2 回経産, 50 歳閉経. 主訴は不正性器出血. 経腟超音波で子宮体部に径 5.5 cm の腫瘤を認めた. 子宮内膜吸引細胞診陽性であり, 内膜生検にて間質細胞に著明な核異型と核分裂像を認め, 子宮内膜間質肉腫が疑われた. CT で腫瘤は辺縁が不均一に造影され, MRI では T2 強調像できわめて不均一であり, 出血性壊死を疑わせる所見であった. 病変は子宮内に限局しており, 腹式単純子宮全摘術・両側付属器摘出術を施行した. 病理所見では, 子宮内腔に広茎性ポリープ状腫瘤を認め, 多くの核分裂像を伴った多形性の腫瘍細胞からなっており, 脈管侵襲を認めた. 免疫染色では CD10, vimentin に陽性, cytokeratinAE1/AE3, SMA, S-100, ER に陰性であり, high-grade endometrial stromal sarcoma と診断された.結論 : 本症例では免疫染色を含む細胞診, 組織診が子宮内膜間質肉腫の診断に有用であった.
著者
阿倉 薫 畠中 光恵 向井 みどり 坂井 雅英 綾田 昌弘 岡本 茂 古川 順康 弥生 恵司
出版者
公益社団法人 日本臨床細胞学会
雑誌
日本臨床細胞学会雑誌 (ISSN:03871193)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.31-36, 1995 (Released:2011-11-08)
参考文献数
15

原発性乳癌119例について, 核DNA量 (DNA index=DI) と癌細胞の核の大きさ, 核の異型度, 細胞診の判定, リンパ節転移, t因子との関連性について検討を行った. DIの測定は新鮮摘出腫瘍を用い, 末梢リンパ節をploidy standardにした. その結果, hypoploid (DI<1) が6例 (5%), diploid (DI=1) が39例 (32.8%), aneuploid (DI>1) が62例 (52.1%), multiploidが12例 (10.1%) であった. 術前穿刺吸引細胞診標本 (Pap. 染色) から癌細胞50個の長径を計測し平均を求めた, 最小は6.3μm, 最大は13.9μmで2倍以上の差が認められた. 核異型が軽度な症例は12例, 中等度は44例, 高度は51例であった. DIと比較してみると軽度異型はdiploidが多く, 異型が高度になるにしたがってaneuploidが増加した.術前の細胞診判定はpositiveが107例, suspiciousが10例, negativeが2例であった. 悪性と判定できなかった12例のうち11例はdiploidであった. 乳癌細胞の核の大きさとDIは正の相関がみられ, DIが大きくなるにつれて核は大きく, 異型も強くなり細胞診の判定は容易であった. しかしhypoploid (DI<1) やdiploid (DI=1) の癌細胞は大部分が小型で異型に乏しく, 細胞診で正確に判定できない症例が多かったが, 倍率1,000倍で詳しく観察することによって正診できる症例が増すと思われた. リンパ節転移はhypoploid (DI<1) とdiploid (DI=1) は少なく, aneuploidとmultiploidは多く, 有意差が認められた (p<0.05). DIとt因子については有意差は認められなかった.
著者
飯塚 真理 宇井 万津男 伊吹 令人 城下 尚 倉林 良幸 堀越 美枝子
出版者
公益社団法人 日本臨床細胞学会
雑誌
日本臨床細胞学会雑誌 (ISSN:03871193)
巻号頁・発行日
vol.35, no.5, pp.439-445, 1996-09-22 (Released:2011-11-08)
参考文献数
9

今回われわれは, 子宮内膜増殖症のホルモン療法後妊娠し, 分娩後に子宮内膜癌に進行した1症例を経験したので報告する.症例は23歳, 0妊0産.月経不順.1991年5月, 不正性器出血を主訴に来院した.子宮内膜の肥厚がみられたため内膜細胞診と組織診を施行し, 異型増殖症と診断された.未産婦であり, 挙児希望があったため, ダナゾール療法を開始した.3ヵ月後, 内膜組織診で桑実形成性腺腫性増殖症と診断され, 大量黄体ホルモン療法を施行した.その間, 内膜細胞診と組織診を再検したが悪性所見はみられず, 4ヵ月後, ホルモン療法を中止し, 排卵誘発を行った.3ヵ月後に妊娠が成立し, 1993年2月正常分娩となった.1年後, 内膜細胞診と組織診で異型増殖症と診断され, ホルモン療法を再開した.4ヵ月後, 内膜組織診で高分化型腺癌, 間質浸潤陽性と診断されたため, 1994年8月, 準広汎子宮全摘術+両側付属器摘出術+骨盤リンパ節郭清術を施行した.現在まで, 異常なく経過している.