著者
玉谷 亮一 覚知 泰志
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.53, no.12, pp.633-638, 2020 (Released:2020-12-28)
参考文献数
20

【背景】バスキュラーアクセス (VA) の管理において超音波検査は有効であるが治療介入に定まったものはない. AI技術は近年急成長しており医療への応用も進んでいる. 今回われわれはpythonの機械学習を用いて超音波検査結果などから適切なVAの治療介入時期を予測した. 【方法】超音波検査を施行した1,862名を対象とした. 機械学習で学習, 予測し各アルゴリズムのROC曲線からAUCを算出した. 従来の治療基準の比較としてガイドライン群 (GL基準) とし機械学習との正解率を比較した. 【結果】最も良好なアルゴリズムはLogistic regressionでAUC (0.88), 感度 (0.85), 特異度 (0.71), 正解率 (0.83) となった. GL基準は感度 (0.69), 特異度 (0.86), 正解率 (0.72) であった. 【結語】機械学習の予測は正解率でGL基準を上回り, 機械学習を用いてVAの治療介入時期予測を高精度で行えた.
著者
金澤 良枝 城田 直子 中尾 俊之
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.147-151, 2020 (Released:2020-03-28)
参考文献数
17

透析患者では高めの血清マグネシウム (Mg) 濃度が良好な予後と関連している. そこで血清Mg濃度が一定値以下の患者での食事からのMg補給に関し, 日常生活上でよく摂取される食品100品目のMg含有量と食品常用量当たりのMg量について検討した. また血液透析患者の標準的食事 (1,800kcal, たんぱく質60g) のモデル献立を動物性: 植物性たんぱく質比率別に合計30献立作成し検討したところ, たんぱく質の植物性比率60%の献立が同50%, 40%よりMg量が高く (358±47, 309±36, 254±28, p<0.001) かつリン量, カリウム量に有意差なく, アミノ酸スコアはいずれも100 (perfect) であった. したがって透析患者の食事管理においてMg摂取量を増加させるには, たんぱく質の動物性・植物性比率において植物性たんぱく質を60%にすることが有利であると考えられた.
著者
野垣 文昭 鈴木 訓之 杉田 和哉
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.159-165, 2019 (Released:2019-03-28)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

経皮的腹膜透析カテーテル留置術は局所麻酔で施行できるカテーテル留置法である. 当院では超音波および透視を用いたSeldinger法による同留置術を20名の患者に施行し, 1名で腹腔穿刺ができず断念したが, 腹部手術歴のある6名を含む19名でカテーテル留置に成功した. 腸管穿刺は起きなかった. SMAP法8名, 一期的導入9名 (待機期間6~16日) で腹膜透析を開始しているが, 液漏れは認めていない. 早期合併症として, カテーテル先端位置異常2名, 腹膜炎1名, 血性排液2名のうち1名はカテーテル閉塞に至ったが, いずれも非観血的に対処可能であり腹膜透析が継続できた. 1名で留置15か月後にカテーテル抜去を行ったが, 局所麻酔のみで容易であった. 本留置術は低侵襲であり, 透析患者の高齢化が進むわが国においても有用な腹膜透析カテーテル留置法である.
著者
加藤 明彦
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.349-355, 2022 (Released:2022-06-28)
参考文献数
26
被引用文献数
1

透析患者の栄養評価法に関する最近の話題は,Nutritional Risk Index for Japanese Hemodialysis patients(NRI–JH)とGLIM(the Global Leadership Initiative on Malnutrition)基準である.NRI–JH は日本人血液透析患者向けの新たな栄養指標であり,短期的な生命予後の予測に優れる.一方,GLIM 基準の予後予測能は,透析患者では感度,特異度とも低いため,従来の栄養評価法が優先される.Asian Working Group for Sarcopenia(AWGS)2019 によると,透析患者の27~68%にサルコペニアを合併している.診断項目にある握力および5 回椅子立ち上がりテストのカットオフ値は,予後予測に有用である.透析患者の栄養障害には,経腸栄養剤(oral nutritional supplements:ONS)による経腸栄養が第一選択であり,3 か月以上の継続が勧められる.透析時静脈栄養(intradialytic parenteral nutrition:IDPN)は,少なくともエネルギー≥20 kcal/kg/日,たんぱく質≥0.8 g/kg/日を摂取している透析患者が対象となる.現在,透析患者でも一般用のアミノ酸製剤やキット輸液製剤が使えるため,ONS とIDPN で必要量を確保できない場合には中心静脈栄養を検討する.
著者
肥沼 佳奈 木村 隼人 月田 真祐子 三島 敬一郎
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.51, no.9, pp.545-550, 2018 (Released:2018-09-28)
参考文献数
15
被引用文献数
1 2

血液透析患者のアレルギーは日常的に経験し, 原因として透析膜や抗凝固薬の報告例が散見される. 酢酸含有重炭酸透析液によるアレルギーが疑われた症例を経験した. 症例は77歳男性. 血液透析導入後から発熱, 全身紅斑, 下痢, 末梢血の好酸球増多 (7,730/μL) が出現. 透析機器関連アレルギーを疑い, 透析膜変更や, 酢酸含有重炭酸透析液から無酢酸透析液への変更を行うも改善せず, 副腎皮質ステロイドを開始したところ, 症状は改善し, 好酸球数も基準値内となった. 酢酸含有重炭酸透析液の薬剤誘発リンパ球刺激試験 (DLST) が陽性であったことや, 同透析液の再使用で症状が再燃したことから, 同透析液のアレルギーと考えられた. 同透析液のアレルギー報告は少ないが重篤化することがある. 血液透析患者のアレルギーでは透析液も原因として考慮すべきである.
著者
目叶 裕史 江口 直人 加藤 たつ郎 中村 中
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.47-52, 2016 (Released:2016-01-28)
参考文献数
13
被引用文献数
1

血液透析の分野は生命予後の改善や生活の質 (quality of life : QOL) の向上のため, 浄化法や管理方法の検討がされており, 当院では内部濾過を踏まえた透析量増大を考え, 現在350mL/min以上の高血液流量で治療を行っている. 日常的な制限を極力設けない高血液流量透析のQOLを含む生命予後への影響について当院のデータと日本透析医学会やほかの研究データと比較した. 高血液流量透析は透析効率や透析量, 栄養指標, QOL評価が高い傾向にあり, 粗死亡率は5.2%と十分に低く, 透析歴20年以上の長期透析患者は21.9%と高い割合を占めた. 高い血液流量により内部濾過が増えれば予後不良因子を多く除去できる大きな透析量が得られ, その大きな透析量が食事制限を必要としない栄養状態の良好な生活が維持できてQOLの向上に貢献していると考える. 高血液流量透析は生命予後の改善, QOLの向上のため重要な基本条件である.
著者
高森 幹雄
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.49, no.12, pp.806-808, 2016 (Released:2016-12-27)
参考文献数
3
被引用文献数
1
著者
三浦 玲 梶原 健吾 八木 喜崇 坂本 和香奈 芹川 亜実 西山 景子 吉井 隆一 西口 佳彦 山本 紗友梨 中村 朋文 梶原 奈央 藤本 歌織 尾上 友朗 富田 正郎 向山 政志
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.395-399, 2018 (Released:2018-06-28)
参考文献数
14

本邦における2型糖尿病患者数は増加の一途をたどっている. メトホルミンの単独療法では低血糖のリスクは低く, 他の血糖降下薬にて懸念される体重増加も少ないうえに, インスリン抵抗性の改善を期待でき心血管保護作用もあいまって, その適応は増加している. メトホルミンの極めて稀な副作用として乳酸アシドーシスがあるが, 致死率が非常に高く迅速な対応を必要とする. 今回, われわれは53歳の患者におけるメトホルミンを原因とした重症乳酸アシドーシスに対し, 点滴加療を施行するも改善不十分であり, 血液透析にて救命することができた1例を経験したため報告する. 乳酸アシドーシスは発症すると重篤であるため, ハイリスク患者ではあらかじめ投与を避けることや, 脱水, シックデイ, 過度のアルコール摂取など患者への注意指導を行うことで発症自体を予防することが重要だが, 発症した場合は遅滞なく透析を含む積極的治療介入を検討する必要がある.
著者
竹口 文博 中野 広文 菅野 義彦
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.49, no.9, pp.561-569, 2016 (Released:2016-09-29)
参考文献数
30
被引用文献数
1

透析医にとって, 透析の見合わせが刑法上許容されるのかは重要な関心事である. 透析の見合わせは, 不作為といえるところ, 医師は患者との診療契約に基づく刑法上の作為義務を負っていることから, 不作為犯に問われる可能性がある. このため, 刑法的許容性の問題は, 生じた作為義務が解除される要件は何かという形で問題となる. 透析見合わせの正当化根拠は, 患者の自己決定権に基づく透析拒否権に求められる. したがって, 患者の透析拒否の意思表示を要件として作為義務が解除され, 透析の見合わせは刑法の規定する「人を殺した」行為に当たらず許容される. 患者本人に意思決定能力がない場合には, もし患者に意思決定能力があれば透析を受け入れないであろう, と他者が代行判断することが許容されるかが問題となるが, 意思決定能力がない患者でも, 患者の現在の推定的意思に基づく透析拒否権を尊重すべきであり, 慎重にされた場合には代行判断を許容すべきである.
著者
深水 圭 酒井 和子 甲斐田 裕介 大塚 紹 和田 芳文 杉 健三 奥田 誠也
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.367-374, 2014 (Released:2014-06-28)
参考文献数
13
被引用文献数
3

血液透析 (HD) 患者におけるカルニチン欠乏は, 貧血や低栄養を惹起しQOLを低下させる. 最近わが国において透析患者に対するL-カルニチン経口・静注治療が可能となり, その効果が期待されている. 今回, HD患者に対する6か月間のL-カルニチン900mg経口投与が貧血や栄養状態にいかに影響するかについて, さらに500mg, 1,000mg静注への切り替えによりカルニチン濃度がどのように推移するかについて観察した. 総カルニチン50μmol/L未満の102人のHD患者を単純無作為化によりコントロール群, L-カルニチン群に分け, 6か月後の時点で観察し得た患者を比較検討した. カルニチン投与群 (n=23) では, コントロール群 (n=24) と比較しすべてのカルニチン濃度は有意に上昇し (p<0.001), アシルカルニチン/遊離カルニチン (A/F) 比は低下した (p=0.006). コントロール群と比較しL-カルニチン群ではHt (p=0.02), 総コレステロール (p=0.002), 中性脂肪 (p=0.022) が上昇し, AST (p=0.008), ALT (p=0.013) は低下した. 経口900mgから静注1,000mg (n=8) への切り替えはHD前後, 静注10分後においてすべてのカルニチン濃度を上昇させたが, 500mg (n=6) への切り替えは経口投与と同等であった. 500mgと比較すると1,000mgへの切り替えはHD前後ともに遊離カルニチンを上昇させたが有意差は認めなかった. カルニチン欠乏HD患者に対するL-カルニチン900mg経口投与は貧血や栄養状態, 肝機能を改善しうる可能性を見出した. カルニチン濃度, 患者アドヒアランス, 医療経済効果, トリメチルアミン-Nオキシド産生等を考慮すると静注が推奨されるが, 今後はどちらの投与方法が透析患者に有用であるかを検証するための比較試験が必要である.
著者
大前 清嗣 小川 哲也 吉川 昌男 新田 孝作 大塚 邦明
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.46, no.9, pp.915-921, 2013 (Released:2013-10-05)
参考文献数
21
被引用文献数
1 1

透析患者において高カリウム(K)血症は心臓突然死の危険因子と考えられている.一方,心疾患合併患者では低K血症が致死性不整脈の誘因とされている.今回われわれは透析患者における血清K(SK)と心血管死との関連をコホート研究により検討した.当院外来透析databaseに登録された症例を対象とした.対象症例について心血管死をend pointとし2010年10月まで追跡しCox比例ハザード法により生命予後関連因子を抽出した.対象を透析前SKで層別化(SK≦4.5, 4.5<SK≦5.0, 5.0<SK≦5.5, 5.5 mEq/L<SK)し,説明変数には層別化したSKのほか,年齢,性別,合併症,透析歴,透析前後の血圧,生化学,末梢血検査値を用いた.Database登録の309例中data不備を認める16例と転院により追跡不能となった33例を除外した.解析対象の260例は男性149名,女性111名,平均年齢68.8歳で透析期間は5.6年であった.原疾患はDMが89名,心疾患合併が97名で全体の透析前SKは4.97 mEq/Lであった.平均観察期間3.3年で心血管死は43名であった.抽出された予後悪化因子は高齢,長期透析,血液濾過の施行,糖尿病,心疾患の合併,SK低値,CRP高値であった.層別化したSKのうちSK≦5.0 mEq/Lの2群が予後不良と関連しHazard比はSK≦4.5 mEq/Lで6.377,4.5<SK≦5.0 mEq/Lで2.733であった.透析患者においてSK高値が予後良好と関連し透析前SK>5.0 mEq/Lに保つ必要性が示唆された.
著者
中井 滋 若井 建志 山縣 邦弘 井関 邦敏 椿原 美治
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.45, no.7, pp.599-613, 2012-07-28 (Released:2012-08-07)
参考文献数
48
被引用文献数
7 13

日本透析医学会が2001年から2010年までを対象期間として,全国の透析施設を対象に実施した調査の報告に基づいてわが国の透析人口の将来推計を試みた.各年の施設調査回収率によって補正された2001年末から2010年末までの各年末透析人口に基づいて2002年から2010年までの9か年の各年について透析人口年間増加率を算出した.次いで西暦年をx,当該年の透析人口年間増加率をyとする直線回帰を最小二乗法にて行い,その回帰式を求めた(y=450.372044-0.222751 x,R-square=0.7227,p=0.0037).この回帰式に基づいて2011年以降の各年透析人口年間増加率を推定し,推定された年間増加率に従って各年末透析人口を逐次推計した.その結果,わが国の透析人口は2021年末に348,873人(90%信頼区間:302,868~401,119人)で最大となり,その後減少に転じることが推計された.
著者
神野 卓也 中原 大揮 西川 繁 櫻井 淳子 西口 和美 奥田 成幸 和田 直也 西野 立樹 辻野 麻里 三ッ石 一智 千﨑 大樹 鶴﨑 清之 岸本 武利
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.54, no.11, pp.571-581, 2021 (Released:2021-11-28)
参考文献数
27

血液透析患者20例に対し透析中の運動療法を6か月間施行した.身体運動機能,栄養評価を介入前,3,6か月後に行い,統計解析はHolmの多重比較検定を用いた.Quality of life(QOL)は介入前後に評価し,Wilcoxon符号付順位和検定を用い比較した.いずれもp<0.05を有意差ありと判定した.身体運動機能は介入3か月後に握力(非シャント肢),膝伸展筋力,足趾把持力,外転筋力,30秒立ち上がり試験,6分間歩行が向上し6か月後も維持または向上した.血中ヘモグロビン濃度を含む栄養評価項目に有意な変化は示さなかった.QOL評価は身体機能,心の健康,全体的健康観,活力が有意に上がった.身体機能の向上が日常的な疲労感を緩和させ,活動意欲が生まれたことで日常活動量が増加したと推察される.透析中の運動療法は身体機能の向上とともに精神心理的QOLを高めることが示唆された.
著者
田島 恵莉香 富永 大志 高橋 遼 吉村 久仁子 服部 潤 竹内 康雄
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.52, no.10, pp.599-604, 2019 (Released:2019-10-30)
参考文献数
19

カフェイン過量摂取の報告は本邦でも年々増加傾向にある. 本稿ではカフェインの大量服用から急性カフェイン中毒に至ったが, 急性期に血液透析を施行し, 良好な経過をたどった症例を経験したので報告する. 症例は基礎疾患のない32歳女性, 市販の眠気予防薬にてカフェイン24gを自殺目的で摂取後, 嘔吐, 振戦を認め, 当院へ受診となった. 来院時患者は興奮状態であり, 頻脈, 頻呼吸, 振戦, 発汗, 筋緊張の亢進を認めた. 心拍数は142回/分で二段脈を認めた. カフェイン致死量を超える24gを摂取しており, 難治性不整脈の出現が危惧されたため, 血液透析を施行したところ, 速やかに臨床症状は改善し, カフェイン血中濃度も著明に低下した. 致死量を内服した急性カフェイン中毒の症例に対して, 血液透析は有効な治療手段の一つであると考えられる.