著者
三浦 玲一 川端 有子 戸田山 みどり 渡辺 美樹
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

戸田山の日本における『ちびくろサンボ』の受容史研究から、児童文学の評価においては、「優れた」作品であることが、(児童文学として)「教えるに値する」という価値観/イデオロギーと密接に繋がっていることが示された。渡辺の考察は、このことと関連して、児童文学においては、先行する作品から断絶することで成立する独創性(オリジナリティ)の重視が比較的希薄なこと、同時に、ある種の作品においては、児童文学のコンヴェンション/規範に積極的に依拠しようとする姿勢が見られ、それが評価されていることを調査した。非政治的な「美学的価値」や作者の「オリジナリティ」の虚構性は、いわゆる文学研究においても(多くの論争を巻き起こしながら)既に指摘されている点である。本研究は、そのような性質が、より明示的、あからさまに承認されている場としての「児童文学」を対象とした。個々の作品がその固有性としてもつ、オリジナルな美学的価値とは、20世紀初頭のいわゆるハイ・モダニズムの時代に、芸術としての文学という体制が確立すると共に、自明視されることになる。エレイン・ショウォールターの著作に代表されるような、歴史的なジェンダー研究は、このハイ・モダニズム体制の成立を、文学が(性的な含意を伴った)「表現」として認知される過程と同時進行し、それゆえ、このような美学の成立は、世紀転換期のジェンダー配置の転換と、密接に結び付いていることを示唆している。三浦および川端の研究は、クィア理論以降の拡張されたセクシュアリティの理解から見るとき、児童文学のテクストとみなされるものも亦、セクシュアリティ、ジェンダーの力学から構成されており、そこでは、「児童文学」であることからむしろ積極的に、伝統、規範に依拠しようとしつつ、そのことでむしろ逆説的に、転覆的なジェンダーを描くこととなった諸作品のありようを考察した。
著者
三浦 玲 梶原 健吾 八木 喜崇 坂本 和香奈 芹川 亜実 西山 景子 吉井 隆一 西口 佳彦 山本 紗友梨 中村 朋文 梶原 奈央 藤本 歌織 尾上 友朗 富田 正郎 向山 政志
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.395-399, 2018 (Released:2018-06-28)
参考文献数
14

本邦における2型糖尿病患者数は増加の一途をたどっている. メトホルミンの単独療法では低血糖のリスクは低く, 他の血糖降下薬にて懸念される体重増加も少ないうえに, インスリン抵抗性の改善を期待でき心血管保護作用もあいまって, その適応は増加している. メトホルミンの極めて稀な副作用として乳酸アシドーシスがあるが, 致死率が非常に高く迅速な対応を必要とする. 今回, われわれは53歳の患者におけるメトホルミンを原因とした重症乳酸アシドーシスに対し, 点滴加療を施行するも改善不十分であり, 血液透析にて救命することができた1例を経験したため報告する. 乳酸アシドーシスは発症すると重篤であるため, ハイリスク患者ではあらかじめ投与を避けることや, 脱水, シックデイ, 過度のアルコール摂取など患者への注意指導を行うことで発症自体を予防することが重要だが, 発症した場合は遅滞なく透析を含む積極的治療介入を検討する必要がある.
著者
三浦 玲一 越智 博美
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

平成24年度は、三浦と越智の共同の成果公開の機会が多くあった。本プロジェクトの目標通り、リベラリズムのイデオロギーと現代のアメリカ文学研究の深い関係を分析しようとする試みは、三浦、越智が執筆し、三浦が編者をつとめた『文学研究のマニフェスト』(研究社)として刊行された。越智は、第二次世界大戦期の南部文学と新批評がリベラリズムをどのように制度化したのか、三浦は、J・D・サリンジャーの『キャッチャー・イン・ザ・ライ』とコーマク・マッカッシーの『ザ・ロード』がどのようにリベラリズムの文学として成立しているかを論じた。また、平成23年急逝されたお茶の水女子大学の竹村和子教授を偲ぶ、アメリカ文学会東京支部におけるシンポジウム(6月於慶応大学三田キャンパス)に、三浦、越智の双方が招かれ、発表を行った。この成果は、アメリカ文学会東京支部の紀要『アメリカ文学』の6月発行の次号において、公開される予定である。越智は、竹村さんの仕事を貫くリベラリズムへの複雑な想いを、三浦は、竹村さんの後期の仕事における生政治批判がどのようなリベラリズム批判であるかを論じた。さらに、一橋大学において隔年で慣行されている人文学とジェンダーの関係についての論集が2013年3月に慣行されたが、その編者を三浦がつとめ、そこに越智も執筆した。『ジェンダーと「自由」』(彩流社)と題されたこの論集も、本プロジェクトの延長上で、リベラリズムと人文学的な想像力との関係を、批判的に考察しようとするものである。越智は、冷戦期の男性性が当時のどのようなリベラリズムの言説によって正当化されたかを、三浦は、新自由主義期の男らしさ、女らしさがどのような新しい定義を与えられているかを論じた。
著者
松田 保 小河原 緑 三浦 玲子 関 俊子
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
血液と脈管 (ISSN:03869717)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.207-209, 1984
被引用文献数
1

Levels of fibrinogen, plasminogen, antithrombin III, &alpha;<sub>2</sub>-plasmin inhibitor and &alpha;<sub>2</sub>-macroglobulin in plasma were determined using single radial immunodiff usion method in an old people's home in 1979, 1981 and 1982. Comparison of results of these parameters in the same subjects between in 1981 and 1982 was possible in 67 subjects. Comparison between in 1979 and 1981 was done in 61 subjects. Results of coagulation analysis in 1979 and 1982 were compared in 49 subjects.<br>Generally, concentrations of plasminogen, antithrombin III and &alpha;<sub>2</sub>-plasmin inhibitor in plasma were higher in women than in men. There were statistically significant correlations between all the parameters determined at intervals of 1, 2 and 3 years in the same subjects. The coefficients of correlation in each parameter at intervals of 1 to 3 years were as follows: +0.45-+0.57 in fibrinogen, +0.69-+0.81 in plasminogen, +0.55-+0.81 in antithrombin III, +0.46-+0.64 in &alpha;<sub>2</sub>-plasmin inhibitor and +0.91-+0.93 in alpha;<sub>2</sub>-macroglobulin. From these results, it is concluded that old women are generally less thrombotic than old men and that there is some &ldquo;individuality&rdquo; in patterns of the parameters affecting blood coagulation and fibrinolysis in the elderly. The significance of the &ldquo;individuality&rdquo; upon prognosis of the elderly was discussed.
著者
松田 保 小河原 緑 三浦 玲子 関 俊子 横内 正利
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
血液と脈管 (ISSN:03869717)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.13-15, 1981

Viscosity of blood at 37&deg;C and 25&deg;C was compared in various blood samples using coaxial cylinder viscometer which operates on the couette principle. Ratios of blood viscosity measured at 25&deg;C to one at 37&deg;C at shear rate of 0.39sec<sup>-1</sup> were significantly correlated with fibrinogen content of blood (n=49, r=+0.62, p<0.001). However, there was no significant correlation between ratios of blood viscosity at body temperature to one at the lower temperature and hematocrit values (n=49, r=-0.22, n. s.). To confirm important role of fibrinogen in elevation of blood viscosity when temperature falls, following experiment was carried out. Red blood cell suspentions with various amount of fibrinogen were prepared from combinations of packed red cells, bentonite adsorbed plasma, which contains no fibrinogen, normal plasma and human fibrinogen solution. Elevation of viscosity at 25&deg;C was more pronounced when amount of fibrinogen in the suspension increased.<br>Significance of elevated viscosity of blood with increased fibrinogen content at low temperature in development of Raynaud's phenomenon was discussed.
著者
中井 亜佐子 中山 徹 三浦 玲一 越智 博美 鵜飼 哲 河野 真太郎
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では、モダニズム研究を地域および時代横断的に展開することによって、越境性と地域性の相互関係を分析し、従来的なモダニズムの時代区分を再検討しつつ、近代の時空間にかんする理論構築を行った。より具体的には、(1)英米の正典的なテクストを、精神分析的および歴史的観点から批判的に精読することによって、モダニズム・モダニティの理論構築を行う、(2)マイノリティや(旧)植民地地域の複数化されたモダニズムを研究し、近代の時空間を理論的、実証的に再検討する、(3)イギリス、北米のモダニズム研究者と研究交流を行い、新しいモダニズム研究のネットワークを構築する、という3点の成果を挙げることができた。
著者
越智 博美 井上 間従文 吉原 ゆかり 齋藤 一 三浦 玲一
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、近代以降の日本が海外との交渉のなかで自己形成してきた事実に着目し、おもに日本と合衆国のあいだのトランスパシフィックな文化の相互交渉が、日本の文化および英米文学研究というアカデミズムに与えた影響の分析である。具体的には英米モダニズムの(特に合衆国を介した)文化・文学の受容、および研究体制が日本の文化や日本の文学研究に与えた影響を、太平洋戦争前後の断絶と継続性を踏まえて考察し、文化や想像力の相互干渉という視点を入れつつ理論化を目指し、またアジア太平洋研究でリードするカリフォルニアの複数大学の研究者・研究所とのあいだで研究の連携体制の構築を目指すものである。