著者
福井 淳
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.243-249, 2020 (Released:2020-05-28)
参考文献数
19

【目的】HD患者では亜鉛欠乏が懸念されているため, HDと亜鉛濃度の関係, 亜鉛補充の有効性や安全性に関して後ろ向きに検討した. 【対象と方法】HD患者143例のうち, 亜鉛値が80μg/dL未満患者61例に, 酢酸亜鉛水和物含有製剤 (ZA) を服用させ, 血清亜鉛値および銅値, 血清Hb値, Ht値, Alb値, 1週間あたりのエポエチンα換算ESA投与量を測定した. 【結果】HD患者132例は血清亜鉛値80μg/dL未満で亜鉛欠乏を示した. ZA投与により, 血清亜鉛値, Hb値, Ht値およびAlb値が有意に増加し, ESA投与量およびERIが有意に減少した. 亜鉛欠乏による食欲不振や味覚異常の自覚症状が改善した. 【結語】ZAによる亜鉛補充療法は, Hbや赤血球数が増加し, ESA投与量の減少およびERIを改善したことから, HDにおける選択すべき治療法になり得る. この療法には, 亜鉛値と銅値をモニタリングする必要性があると考えられた.
著者
佐々木 信博 上野 幸司 白石 武 久野 宗寛 中澤 英子 石井 恵理子 安藤 康宏 草野 英二
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.40, no.7, pp.581-588, 2007-07-28 (Released:2008-11-07)
参考文献数
17
被引用文献数
3 5 2

生体電気インピーダンス法 (BIA法) は, 生体に微弱な電流を流して, 身体の体水分量 (TBW), 細胞外水分量 (ECW), 細胞内水分量 (ICW), 体脂肪量 (BFM) などを測定することが可能であり, 透析患者のドライウェイト (DW) の指標になり得ると考えられる. 高精度体成分分析装置であるInBody S20は, 多周波数分析, 8点接触型電極, 部位別測定, 仰臥位測定といった特徴を有し, 高い精度と再現性が立証されており, 近年, その臨床報告が相次いでいる.今回われわれは, 本装置を用い各種体液量を測定し, DWの指標となり得るか検討した. 対象は当院で維持透析を施行している41名で, 透析前後でInBody S20による各体液量と一般血液検査, hANPを測定し, 透析後に胸部X線による心胸比 (CTR) と超音波断層法による下大静脈径 (IVC) を測定した. その結果, 1) hANPは, CTR, IVCe (安静呼気時最大径) とそれぞれ有意相関 (p<0.01, p<0.05) を認めた. 2) 各種体水分量 (TBW, ECW, ICW) は, 透析後に有意に低下し, IVCeと有意相関 (p<0.001) を認めた. 3) 体水分量変化率 (%TBW) は, 循環血液量変化率 (%BV) や循環血漿量変化率 (%CPV) と有意相関 (p<0.001) を認めた. 4) 浮腫値 (ECW/TBW) は, 透析後に有意に低下し (p<0.001), hANPと有意相関を認めた (p<0.001). 5) InBodyで測定した透析後DW (BIA-DW ; 浮腫値0.38のBW) と臨床でのDW (cDW) は, 強い正相関を示した (r=0.99, p<0.001).InBody S20は, 簡便性, 非侵襲性, 即時性に優れ, 血液透析患者の体液量・体組成の定量的評価が可能で, 浮腫値や透析後BIA-DWは, 実際のDWの指標として有用と考えられた.
著者
小北 克也 山本 忠司 山川 智之
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.49, no.7, pp.483-491, 2016 (Released:2016-07-28)
参考文献数
31
被引用文献数
1

酢酸を低濃度 (8~10mEq/L) 含有する重炭酸透析液における症候性低血圧症 (SH) と酢酸不耐症 (AI) を検討した. 外来透析患者391名を対象に, 透析中のSHとAIの頻度, 血漿酢酸濃度, 酢酸負荷速度および酢酸クリアランスを測定し, SHに関連する因子を解析した. SHは何らかの処置を要する低血圧症, AIはSHがあり血漿酢酸濃度≧2mmol/Lの症例とした. SHは391名中71名 (18.2%), AIは1名 (0.3%) であった. SHに関係する因子は糖尿病 (オッズ比, 1.92 ; 95%CI, 1.09-3.38), 体重減少率 (オッズ比, 1.29 ; 95%CI, 1.07-1.55) であり, 血漿酢酸濃度と関連性はなかった. 血漿酢酸濃度は開始2時間から定常状態となり4時間値で1.062±0.348mmol/Lであった. 酢酸負荷速度は1.51±0.48mmol/hr/kgで透析患者の代謝能力以内の負荷率, 酢酸クリアランスは1.30±0.42L/minで健常者の57%程度であった. 現行の低濃度酢酸含有透析液ではAIは解決されていると考えられた. 今後, 酢酸の影響についてはAIの定義を含めて再検討されるべきと考える.
著者
花房 規男 阿部 雅紀 常喜 信彦 星野 純一 和田 篤志 菊地 勘 後藤 俊介 小川 哲也 神田 英一郎 谷口 正智 中井 滋 長沼 俊秀 長谷川 毅 三浦 健一郎 武本 佳昭
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.55, no.12, pp.665-723, 2022 (Released:2022-12-27)
参考文献数
22
被引用文献数
9

日本透析医学会統計調査(JSDT Renal Data Registry:JRDR)の2021年末時点における年次調査は,4,508施設を対象に実施され,施設調査票に関しては4,454施設(98.8%),患者調査票に関しては4,251施設(94.3%)のほぼ例年通りの回答を得た.わが国の透析患者数は年々増加し,2021年末の施設調査結果による透析患者数は349,700人に達し,人口百万人あたりの患者数は2,786人であった.患者調査結果による平均年齢は69.67歳で,最も多い原疾患は糖尿病性腎症(39.6%),次いで慢性糸球体腎炎(24.6%),第3位は腎硬化症であった(12.8%). 2021年の施設調査結果による透析導入患者数は40,511人であり,2020年から233人減少した.患者調査結果による透析導入患者の平均年齢は71.09歳であり,原疾患では糖尿病性腎症が最も多く40.2%で,昨年より0.5ポイント少なかった.第2位は腎硬化症(18.2%)で,昨年同様慢性糸球体腎炎(14.2%)を上回った.2021年の施設調査結果による年間死亡患者数は36,156人であり,年間粗死亡率は10.4%であった.主要死因は心不全(22.4%),感染症(22.0%),悪性腫瘍(8.4%)の順で,昨年とほぼ同じ比率であった.2012年以降,血液透析濾過(HDF)患者数は急増しており2021年末の施設調査票による患者数は176,601人で,維持透析患者全体の50.5%を占めた.腹膜透析(PD)患者数は10,501人であり2017年から増加傾向にある.腹膜透析患者のうち20.3%は血液透析(HD)やHDF との併用療法であり,この比率はほぼ一定していた.2021年末の在宅HD患者数は748人であり,2020年末から3人減少した.2021年は,施設調査として災害対策調査,また本年も引き続き,新型コロナウイルス感染症,悪性腫瘍,生体腎移植による腎提供の既往が調査された.これらのデータはそれぞれの疾患・患者に関する基礎資料となり,その結果から,より治療効果の高い日常臨床パターンの提案が期待される.
著者
根石 純子 岡上 準 山本 多恵 平松 範行 石井 義孝 成清 卓二 野島 美久
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.267-271, 2003-04-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
20

ヒトにおけるアセトアミノフェンの中毒量は5gとされており, 重症の肝障害を引き起こす. 正常の代謝経路であるグルクロン酸抱合および硫酸抱合の許容範囲を超えた場合, N-アセチル-p-キノネミンが生成され, 細胞内の蛋白や核酸と結合し, 小葉中心性肝細胞壊死, 腎尿細管細胞壊死, DICをきたす. 5g以下であっても肝障害を引き起こすこともあり, アレルギー性の機序の関連も考えられている. 今回われわれが経験した2症例と, 1995年以降の国内報告例をまとめ, 報告する.【症例1】 24歳女性. 自殺目的で市販の感冒薬を内服. アセトアミノフェン含有量29.7g, 血中濃度は入院時 (推定8時間後) 91.8μg/mLであった. 血液吸着療法施行. また, 肝不全, 腎不全, 脳浮腫を起こし, 血漿交換, 血液透析施行したが, 死亡した. 【症例2】 34歳女性. 夫婦喧嘩で激昂し, 市販の感冒薬を内服し, すぐに来院. アセトアミノフェン含有量6g, 入院時血中濃度は69.4μg/mLであった. 血液吸着療法施行. とくに臓器障害をきたすことなく退院することができた.【結論】 上記2例において, 血液吸着療法施行後は,血中アセトアミノフェン濃度が著明に低下した. アセトアミノフエン中毒に対し, 血液吸着療法が効果的であると考えられた.
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.363-368, 2011-05-28 (Released:2011-06-29)
参考文献数
76
被引用文献数
2
著者
原田 敬子 平田 純生 奥平 由子 閑田 なるみ 山澤 紀子 山本 員久 東 治人 安田 英煥 小野 秀太
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.213-217, 2005-03-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
11
被引用文献数
2 1

H2拮抗薬ラフチジンによると思われる幻覚・幻視, 異常発言などの精神神経症状がみられた血液透析患者2症例を経験した. 症例1は64歳男性, ラフチジン20mg/日を10日間投与した後, 幻覚・幻視を訴えた. 症例2は55歳男性, ラフチジン20mg/日開始後6か月目より幻覚症状が発現し, その際の血漿ラフチジン濃度は918.8ng/mL (透析前) であり, それは腎機能正常者に同量投与した時の平均ピーク濃度の4.5倍であった. 2症例ともラフチジン投与中止後精神症状が速やかに消失したことから本剤の中毒症状であると考えられた. ラフチジン錠は尿中未変化体排泄率は10.9%であるもののバイオアベイラビリティが不明である. そのため腎機能に応じた投与設計は容易ではなく, 透析患者に対しては他の腎排泄型H2拮抗薬と同様に慎重に投与する必要があると思われた.
著者
鈴木 一裕 神田 英一郎 菅野 義彦
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.239-242, 2015 (Released:2015-05-01)
参考文献数
12
被引用文献数
2 1

高血流量透析を行うと静脈還流量が増加し前負荷が上昇する結果, 心臓への負担を増大させるのではないかという考えに対し, 高血流と通常血流の状態で心エコーによる心拍出量測定を行い, 静脈還流量の変化を検討した. 同意の得られた維持透析患者33例に対し, 単回の透析セッション中に高血流 (360~400mL/分), 通常血流 (日本で一般的な200mL/分) 再び高血流のもと心エコーを行い, 一回拍出量を測定し, 心拍数との積 (=心拍出量 (mL/分) ) および下大静脈径を静脈還流量の指標とした. 33名中, 中等度以上の弁膜症を呈した3例は解析から除外した. 血流量を高血流から通常血流, そして高血流に戻したときの心拍出量および下大静脈径に有意な変化を認めなかった. 今回の検討から, 高血流透析により心負荷を増大させる可能性は低いと考えられた.
著者
木原 将人 岩崎 美津子 野村 賢二 金原 輝紀 大嶋 るみ子 三橋 由佳 海老原 里香 常山 重人 若狭 幹雄 宇田 晋
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.241-245, 2007-03-28 (Released:2008-11-07)
参考文献数
10
被引用文献数
1

透析中低血圧は糖尿病血液透析患者では頻繁に観察される. 今回, 透析中にCRIT-LINE™ (In-Line Diagnostics, UT, USA) を用いてplasma refilling rate (PRR) と循環血液量変化率 (ΔBV) とを検討した. 糖尿病患者10名と非糖尿病透析患者10名で, 各6回ずつの血液透析を施行し, 除水残量がドライウェイト3%の時点でヘマトクリットを測定し, ΔBVおよびPRRを算定した. その結果, 両群でPRRには有意差が認められなかった. しかし, ΔBVとPRRの相関をみると, 非糖尿病群では有意な相関関係がみられた (r=-0.64) が, 糖尿病群では認められなかった. 一方, ΔBVが9%以下の循環血液量の変化が大きい場合には, 糖尿病群では非糖尿病群に比較してPRRの有意な低下 (0.71±0.10 vs. 0.90±0.15, p<0.01) と平均血圧低下率が大きい傾向 (10.07±12.21% vs. 1.83±10.09%, p=0.11) が認められた. 以上の結果より, 糖尿病患者ではΔBVに応じたPRRが得られにくい場合が多く, このような病態が透析中低血圧の一因となる可能性が推測された.
著者
鈴木 一之 井関 邦敏 中井 滋 守田 治 伊丹 儀友 椿原 美治
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.43, no.7, pp.551-559, 2010-07-28 (Released:2010-08-31)
参考文献数
40
被引用文献数
3 2

透析条件・透析量と生命予後の関係を明らかにするため,日本透析医学会の統計調査結果を用いて,後ろ向き・観察的な研究を行った.2002年末の週3回施設血液透析患者を対象に,事故・自殺を除く死亡をエンドポイントとして,患者の透析条件・透析量と2003年末までの1年死亡リスク,および2007年末までの5年死亡リスクについて,ロジスティック回帰分析を行った.2002年末の平均的透析条件は,透析時間239分,血流量(Qb)192 mL/分,ダイアライザ膜面積(膜面積)1.55 m2,透析液流量(Qd)486 mL/分であった.また,尿素の標準化透析量(Kt/V urea)は平均1.32,指数化しない透析量(Kt urea)は平均40.7 Lであった.予後解析の結果,透析時間は240分以上270未満を基準として,それより透析時間が短い患者群で死亡リスクが高く,透析時間が長い患者群で死亡リスクが低い傾向を認めた.Qbは200 mL/分以上220 mL/分未満を基準として,それよりQbが少ない患者群で死亡リスクが高く,Qbが多い患者群で死亡リスクが低い傾向を認めた.膜面積は1.2 m2未満の患者群で死亡リスクが高かったが,それ以外の膜面積と死亡リスクの関係は明確ではなかった.透析量はKt/V urea 1.4以上1.6未満またはKt urea 38.8 L以上42.7 L未満を基準として,それより透析量が少ない患者群では死亡リスクが高く,それより透析量が多い患者群で死亡リスクが低かった.以上の傾向は,残腎機能がないと仮定が可能な,調査時点で透析歴5年以上の患者で顕著であった.一般的な週3回血液透析では,平均的な透析条件・透析量よりも,透析時間の延長やQbの増加によって透析量を増大させることが,患者の生命予後の改善につながる可能性が示唆された.
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.47, no.8, pp.iv-iv, 2014 (Released:2014-08-30)

日本透析医学会では,同内容の論文が他誌に掲載されているとの報告を受け,重複と判断いたしましたので,掲載を撤回いたします.
著者
井上 啓子 清水 和栄 平賀 恵子 吉川 妙子 梅村 聡美 大瀧 香織 高橋 恵理香 徳永 千賀 古田 久美子 若山 真規子 水野 晴代 松村 香里 高井 千佳 加藤 静香 宇野 千晴 出口 香菜子 榊原 知世 高橋 宏 伊藤 恭彦
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.49, no.7, pp.493-501, 2016 (Released:2016-07-28)
参考文献数
20

維持血液透析患者のprotein-energy wasting (PEW) の実態とPEWとの関連因子を検討した. 透析導入後6か月以上409例の合併症, 身体計測値, 血液検査, 食事摂取量を調査. 国際腎疾患栄養代謝学会による区分に従いPEWを判定し, Logistic回帰分析により関連因子を求めた. 年齢64±11歳, 透析歴8 (3~14) 年, 高血圧合併74.3%, BMI 21.1±3.4kg/m2, 血清Alb 3.7±0.3g/dL, エネルギー30±6kcal/kg IBW, たんぱく質1.01±0.22g/kg IBWであった. PEWは3項目以上該当17.1%, 年齢, 透析歴, 高血圧がPEWとの独立した背景因子であった. 食品群別摂取量との関連は, 肉類, 魚介類, 砂糖類摂取量が独立因子となった. さらにROC解析によるカットオフ値 (肉類46.7g, 魚介類41.7g, 砂糖類9.0g) 未満の摂取のオッズ比は肉類2.74 (95%CI 1.55-4.85, p=0.001), 魚介類2.04 (95%CI 1.16-3.61, p=0.014), 砂糖類1.88 (95%CI 1.05-3.37, p=0.033) であった. 通院患者の17.1%がPEWであり, 肉類, 魚介類, 砂糖類の摂取不足とPEW発症との関連が示唆された.
著者
吉岡 徹朗 向山 政志 内藤 雅喜 中西 道郎 原 祐介 森 潔 笠原 正登 横井 秀基 澤井 一智 越川 真男 齋藤 陽子 小川 喜久 〓原 孝成 川上 利香 深津 敦司 田中 芳徳 原田 昌樹 菅原 照 中尾 一和
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.40, no.7, pp.609-615, 2007-07-28 (Released:2008-11-07)
参考文献数
9
被引用文献数
1 2

症例は, 39歳男性. 36歳時に硝子体出血を機に初めて糖尿病を指摘され, 以後当科で加療されていたが, 糖尿病性腎症によるネフローゼ症候群加療のため入退院を繰り返し, 次第に腎機能が低下した. 2005年5月に腸炎症状を契機に乏尿, 労作時息切れ, 下腿浮腫, 体重増加をきたし, 血清クレアチニン5.8→13.0mg/dLと急激に上昇したため, 血液透析導入目的で当科入院となった. 透析開始後, 積極的な除水にもかかわらず, 心胸比は縮小せず, 透析導入後第6病日以降血圧が低値となり, 第10病日には収縮期血圧で70mmHg前後にまで低下した. 心エコー検査にて心タンポナーデを認め, 心膜穿刺にて多量の血性心嚢液を吸引除去した. 臨床経過, 穿刺液の検査所見, 血清学的検査所見, 画像検査所見から, 尿毒症性心外膜炎と診断し, 心嚢腔の持続ドレナージと連日の血液濾過透析を行い軽快した.尿毒症性心外膜炎は, 透析治療が発達した今日ではまれであるが, 急性腎不全, 慢性腎不全の透析導入期, あるいは透析不足の維持透析患者において, 心嚢液貯留を認める場合, 溢水のほか, 悪性疾患や感染症, 膠原病とともに考慮する必要がある.
著者
片桐 勇貴 竹之内 豪 山﨑 和正 畑中 憲行 古賀 智典 上田 高士 三澤 学 吉田 祐一 山崎 誠治
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.233-242, 2023 (Released:2023-06-28)
参考文献数
14

大動脈弁狭窄症に対する経カテーテル的大動脈弁植込術(TAVI)を透析用シャント肢と同側の鎖骨下動脈アプローチを用いて行った4例を報告する.症例は70~79歳,左上肢に透析用シャントが作成されていた.いずれも大動脈弁置換術は髙リスク(STSスコア6.292~12.624)と考えられ,TAVIを行うこととなった.腸骨動脈の狭窄・石灰化もしくは総大腿動脈の高度石灰化のため,左鎖骨下動脈アプローチを選択した.術前大動脈弁圧較差は30.2~44.2mmHgであったが,術後3.0~5.8mmHgへと減少した.いずれの症例でも術後透析は問題なく行うことができ,シャント不全は認めなかった.透析患者では末梢血管疾患の合併が多く,大腿動脈アプローチが困難であることが少なくない.しかし,透析用シャント肢と同側の鎖骨下動脈アプローチの安全性について十分なデータは存在しない.自験例では術後透析経過に問題なく,TAVI時のアプローチサイトとして安全に使用できる可能性が示唆された.
著者
吉藤 歩 竜崎 崇和
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.129-136, 2022 (Released:2022-02-28)
参考文献数
58
被引用文献数
1 1

2020年以降,日本でも,新型コロナウイルス感染症(COVID‒19)は猛威を振るい,多くの死者を出した.透析患者は低免疫ゆえに罹患すると重症化し,致死率も高い.COVID‒19の発症・重症化予防のためワクチン接種は極めて有効である.日本では,mRNAワクチンが主に使用され,高い発症予防効果,入院・重症化・死亡抑制効果を有する.透析患者でも,2回のワクチン接種により大幅に死亡率が低下した.しかし,2回目のワクチン接種から時間が経過し,抗体価が低下し,感染する事例が増加している.とくに,透析患者はワクチン接種により抗体価が上昇しにくく,低下しやすいこと,細胞性免疫や記憶免疫の異常などから感染が重症化する可能性も指摘されている.2021年12月より日本でも3回目の追加接種が開始された.追加接種により抗体価は2回目の接種後よりも有意に増加し,変異株に対しても有効であるという報告もある.欧米からは,透析患者における追加接種の有効性が報告されている.今後,3回目のワクチン接種の普及が進み,感染の再拡大が抑えられることを期待する.
著者
中山 昌明 宮澤 優介 深川 雅史
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.55, no.11, pp.613-625, 2022 (Released:2022-11-28)
参考文献数
20

【背景と目的】透析患者のQoL維持向上のためには,患者が重視するアウトカムを明確にする必要がある.本研究では,患者と医師を対象に,アンケート調査を行い,主要なアウトカムを確認するとともに,医師と患者間の乖離の有無について検討した.【対象と方法】外来通院中の慢性維持血液透析患者と日本透析医学会認定透析専門医(透析専門医)を対象とした郵送法による任意のアンケート調査を行った.調査内容は,回答者の特性,および透析関連キーワード(KW)45個(疾病・予防9個,透析関連18個,患者自覚症状12個,家庭・社会生活6個)に対する重要度の定量的・主観的評価である.さらに,各KWに対する対策について主観的意見を質問した.【結果】アンケート回収数(回答率)は医師184例(36.8%),患者898例(89.8%)だった.重要度“高”と回答された上位20個KWで医師と患者で共通していたのは14項目(すべて疾病・予防,透析関連),一方,患者に含まれ医師には含まれないのが6項目(患者自覚症状:慢性疲労感,透析後脱力,家庭・社会生活:旅行,家族や友人への影響,経済的な影響,就業・仕事への影響)だった.患者自覚症状における患者アウトカムとして,1位は透析後の脱力,次いで慢性疲労感だった.全KWにおいて医師と患者の重要度順位で最も乖離していたのは,1位が慢性の疲労感(患者10位・医師41位),次いで旅行(11位・42位),透析後の脱力(5位・34位)だった.透析後の脱力,慢性の疲労感への対策として“十分”と回答した割合は,医師でそれぞれ19.2%,12.1%,患者で44.4%,35.0%だった.【結論】重要な患者アウトカムとして,透析後の脱力・慢性の疲労感が確認されたが,医師の評価ではこれらの重要度は低かった.その一方で,対策は十分と回答した医師は少ないことから,これらは臨床イナーシャに該当すると考えられた.透析後の脱力・慢性の疲労感は,患者QoL向上のうえで集学的に取り組むべき重要課題である.
著者
古賀 俊充 田中 義輝 伊奈 研次 南部 隆行 玉城 裕史 不破 大祐 小島 木綿子 佐々木 陽子 柏原 輝子 榊原 千穂 高橋 彩子 太田 圭洋
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.55, no.9, pp.525-531, 2022 (Released:2022-09-28)
参考文献数
26

レムデシビルはCOVID-19 治療薬として本邦で最初に承認された抗ウイルス薬である.一般集団におけるレムデシビルの有用性については多くの報告があるが,透析患者に対するレムデシビルの安全性に関する情報は限られている.本研究では2022 年4 月までにCOVID-19 に罹患した透析患者58 例を対象にレムデシビルによる有害事象を後方視的に評価した.レムデシビル投与群43 例と非投与群15 例で有害事象の頻度に有意差を認めず,またレムデシビル3 日間投与群と非3 日間投与群においても有害事象の発生率と有効性に差はなかった.レムデシビル投与後,肝機能障害が3 例発現したが,1 例はグリチルリチン製剤を投与するのみで改善し,ほか2 例は自然に軽快した.以上よりCOVID-19 の治療として,レムデシビルの投与は,肝機能障害に注意すれば,血液透析患者に対しても安全で有用な治療法と考えられる.
著者
土谷 千子 松尾 七重 嵯峨崎 誠 古谷 麻衣子 丸山 之雄 大城戸 一郎 横尾 隆
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.249-253, 2021 (Released:2021-05-28)
参考文献数
15

症例はループス腎炎による慢性腎不全で透析歴28年の53歳女性.腹痛主訴に受診し,感染性腸炎からPeritoneal dialysis(PD)腹膜炎となり入院となった.絶飲食の上,中心静脈栄養を開始した.第17病日から筋肉痛が出現し,微量元素減少症を疑い,血中セレンを測定したところ5(正常値10.6~17.4)μg/dLと低値を認めた.経口摂取を開始,セレン含有栄養補助食品を併用し,再度血中セレンを測定したところ11.7μg/dLと症状の改善とともに血中セレン濃度の改善を認めた.セレンは必須微量元素で,通常の食生活上は欠乏をきたしにくいが,透析患者はたんぱく質の摂取制限があり,血清セレン濃度が低い傾向があると報告がある.また当院で使用できるtotal parenteral nutirition(TPN)用微量元素製剤にはセレンが含まれておらず,本症例は3週間のTPN中に欠乏をきたしたと考えられた.透析患者で比較的長期のTPNを必要とする際,治療に難渋する貧血や筋肉痛などの症状に対してセレン欠乏を考慮する必要がある.
著者
勝二 達也 金 智隆 林 晃正 北村 栄作 岡田 倫之 中西 功 椿原 美治 岸川 政信 桂田 菊嗣
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.89-93, 1995-01-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
17

意識障害が約1か月間遷延し, 多臓器不全を合併しながらも救命しえた熱中症の1例を報告する. 症例は14歳, 男性. 平成5年8月17日, サッカー部の練習中, 突然呼吸困難, 意識障害をきたした. 入院時, 意識レベル3 (JCS), 直腸温40.8℃, 発汗停止し, 呼吸不全を認め, さらに急性腎不全, 肝不全, DICを合併し多臓器不全に進行した. 9日間の高度意識障害と, さらに1か月に及ぶ軽度から中等度の意識障害を伴ったが, 持続的血液濾過, 血液透析, 血漿交換療法等の血液浄化法により多臓器不全の管理を行い, 救命するに至った.熱中症は現在でも致死率の高い疾患であり, 特に意識障害が遷延する場合は, 極めて予後不良である. 迅速な体温冷却と多臓器不全の管理が重要であり, 血液浄化療法を行うにあたって, 体温冷却を念頭におくことが望ましい.