著者
赤羽根 良和 永田 敏貢 齊藤 正佳 服部 潤 栗林 純
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.28, 2012

<b>【目的】 </b>外傷性頚部症候群(WAD)とは、交通外傷後の包括した臨床症状を意味し、我々はこれまでに、頭頚部移行部障害に対する運動療法の有効性について報告してきた。<br> 今回、WAD後に頚胸椎移行部障害(CTD)を呈した症例に対し、当院で実施している運動療法を行った結果、良好な経過が得られたので、その方法論について紹介する。<br> 尚、本研究は患者に対して十分な説明と了解を得た上で実施した。<br><b>【対象】 </b>2009年4月から2012年4月までに、交通外傷により頚(C)・胸椎(T)を損傷し、当院を受診した症例のうち、対象の選定を全て満たした20例(男性16例、女性4例、年齢39.6±13.4歳)を対象とした。<br> 対象の選定は、①臨床症状の主体は頚背部痛であること②頚部の伸展時痛を認めること③両肩関節の拳上時痛を認めること④C7/T1を徒手で固定すると、頸椎の伸展時痛や両肩関節の拳上時痛が消失すること⑤C7/T1の椎間関節に圧痛を認めること⑥第1肋骨(R1)に圧痛を認めること⑦消炎鎮痛剤の投与や物理療法を実施するも3ヶ月以上明らかな変化を認めないことである。これらを全て満した場合をCTDと判断した。<br><b>【方法】 </b>運動療法は患者を側臥位にさせて実施した。<br> 椎間関節に対する治療は、PTの一方の手でC7棘突起を固定し、他方の手でT1棘突起を把持する。そこから他方の手でT1を尾側方向に滑らせ、椎間関節を離解する。つづいて、深層筋群を収縮することでT1を頭側方向に滑らせ、椎間関節を閉塞する。この操作を繰り返し行うことで、椎間関節の可動域を増大させていく。<br> R1に対する治療は、PTの一方の手で患者の肩関節を拳上させる。他方の手で、中斜角筋と前鋸筋が結合するR1を尾側に押し込みながら各筋のIb抑制を行う。この操作を片方ずつ実施する。R1に圧痛が消失することを目的に実施する。<br><b>【結果】 </b>椎間関節の圧痛が消失した推移は、4週以内が13名、8週以内が20名、12週以内が20名であった。R1の圧痛が消失した推移は、4週以内が12名、8週以内が18名、12週以内が20名であった。頸椎の伸展時痛が完全に消失した推移は、4週以内が10名、8週以内が16名、12週以内が20名であった。<br><b>【考察】 </b>WADでは、頚背部痛を呈することが多く、3ヶ月以上持続すると、慢性化することも少なくない。<br> 生理学的に、頚部の屈曲運動は上位頸椎が主体であるが、伸展運動は頚椎間のみならず、可動域の少ない頚胸椎移行部間でも生じる。また、両肩関節の拳上時には頚胸椎移行部での屈曲運動とR1の拳上運動が生じる。そのため、CTDを呈すると、これらの一連の運動は制限され、疼痛が誘発される。その一方で、C7/T間を徒手で固定すると、これらの疼痛は消失する。この検査はCTDを見極めるための重要な所見であり、また、椎間関節の圧痛も、そこに病態が潜んでいるのか判断するに有効である。<br> 運動療法の目的は、椎間関節の滑り運動の誘導と、R1に付着する筋の柔軟性を獲得することである。これにより、CTDとR1の生理的な連結運動が再獲得できたことが、症状消失に至ったと考えられる。<br><b>【結論】 </b>WADでは頚背部痛を呈することが多く、その中の一つの病態であるCTDは、我々の実施している運動療法が有効と考えられた。
著者
斉藤 正佳 赤羽根 良和 永田 敏貢 栗林 純
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.27, pp.100, 2011

【はじめに】内側型変形性膝関節症(以下,内側OA)は,関節軟骨の変性を基盤とした非炎症性の疾患である.臨床的症状として動作の開始時・立ち上がり・階段昇降時に膝関節内側部痛を訴え,様々な病態を合併する.その中でも,鵞足炎はもっとも多い合併症の一つであるが,内側OAは,膝内反,下腿内旋位を呈しているため,鵞足はむしろ弛緩しており,これまでのところ,鵞足炎を有した内側OAの発症機序は明らかにされてこなかった. 今回,内側型OAの荷重・非荷重のX-pを検討する事で,鵞足炎の引き金となる特徴的な所見が得られたので報告する. 【対象および方法】平成21年4月から平成23年5月までに当院を受診し,内側OAと診断された47例47足である(男性:13例13足,女性:34例34足,年齢:68.02 ±11.21歳).OAの重症度分類は,腰野の分類で,grade 0は0例,grade1は16例,grade2 は25例,grade 3は4例, grade 4 は2例,grade 5は0例である. 方法は, 鵞足部に圧痛や同部に疼痛が認められた群を鵞足炎群(25例25足,男性:4例,女性21例,平均年齢:66.10±12.36歳)と圧痛や同部に疼痛が認められなかった群を非鵞足炎群(22例22足,男性:9例,女性13例,平均年齢:69.14±9.62歳)に分類した.つづいて,X-pより荷重時・非荷重時の大腿骨内側顆と脛骨内側顆の距離を計測(荷重時値・非荷重時値,単位:_mm_)した.さらに,非荷重時と荷重時における大腿骨内側顆の距離の差(移動量,単位:_mm_)を計測した.また,FTA,非荷重時FTAについても計測した.尚,統計学的処理はノンパラメトリック検定,Mann-WhitneyU検定を使用した.【結果】鵞足炎群の非荷重時値は7.21±3.05_mm_,荷重時値は8.33±3.23_mm_,移動量は内側へ1.12±1.61_mm_,FTAは183.91±4.75°,非荷重時FTAは181.38±2.11°であった.非荷重値と荷重値は,有意差を認めた (p<0.01).鵞足炎無し群の非荷重時値は8.26_mm_±2.2_mm_,荷重時値は7.31±2.49_mm_,移動量は外側0.96±1.13_mm_,FTAは182.77±1.82°,非荷重時FTAは180.77±2.41°であった.非荷重値と荷重値では有意差は認められなかった.また,鵞足炎群と鵞足炎無し群の非荷重時値,の有意差が認められなかったが,鵞足炎群と鵞足炎無し群の移動量の差は,有意差を認めた(p<0.001).【考察】 鵞足炎は,鵞足構成筋による鵞足腱炎と鵞足腱深層に位置する滑液包による鵞足包炎の両者を含み,スポーツ障害として代表的な疾患である.その臨床的な特徴所見は,鵞足部への圧痛や同部への動作時痛である.圧痛の原因は,脛骨回旋の不安定性により鵞足腱や鵞足滑液包表面に対する直接的な摩擦や圧迫が持続的に加わり,生理的限界を超える過大な応力が炎症を引き起こすと言われている.スポーツ障害膝における鵞足炎の発症は,外反膝・knee in toe outを呈するアライメントである事が多い.鵞足腱には伸張ストレスが加わりやすいため,その発症は理解しやすい.しかし,内側OAでは鵞足はむしろ弛緩位であるため,その肢位を考慮すると発症要因が不明となる.そこで,我々はX-pにて内側OAにおける荷重位・非荷重位を比較検討してみた.鵞足炎群と鵞足炎無し群の非荷重時値の有意差が認められなかったことから,大腿骨内側顆の形態的構造が鵞足炎を発症するとは考えられない.しかし, 鵞足炎群における非荷重時値と荷重時値の差は認められ,鵞足炎無し群では認められなかったこと,さらに,鵞足炎群の移動量と鵞足炎無し群の移動量の差も認められたことから,鵞足炎群では,荷重時に大腿骨の内側への移動量が大きくなることで,鵞足構成筋に伸張ストレスが生じ,鵞足炎が発症したと考えられる.鵞足周囲における停止部の詳細な構造は,縫工筋腱は下腿筋膜に覆われ,その間に長い線維束が存在する.縫工筋を覆っている下腿筋膜の深層にも線維束が位置し,その直下に薄筋腱が位置している.そして,半腱様筋腱,半膜様筋腱の拡張線維,内側側副靭帯という順で停止している.つまり,大腿骨の内側偏位に対して,鵞足構成筋はスタビライザーとして機能するが,縫工筋・薄筋は長い線維束や下腿筋膜で覆われているため,可動性・滑動性が少ないと考えられる.特に,薄筋腱は大腿骨内側顆の内側かつ深層を走行するため,内側偏位に対して直接的にストレスを受けやすいと考えられる.一方,半腱様筋腱の表層には,縫工筋腱・薄筋腱を覆っている様な組織・線維は存在しないため,可動性・活動性があり大腿骨内側偏位に対するストレスから免れやすいと考えられる. これらのことから,大腿骨の内側偏位には鵞足筋の中でも,縫工筋腱,薄筋腱が伸張ストレスをうけやすく,鵞足炎を生じたのではないかと考えられる.
著者
加藤 勇気 小山 総市朗 平子 誠也 本谷 郁雄 田辺 茂雄 櫻井 宏明 金田 嘉清
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.28, 2012

<b>【はじめに】 </b>動的バランス能力低下を引き起こす要因として、足底感覚の低下が報告されている。その機序の一つとしては、機械的受容器の非活性化が示唆されている。臨床では、機械的受容器の賦活にタオルギャザーや青竹踏みが用いられている。しかし、刺激量が定量化できない事、随意運動が不十分な患者では施行できない事が問題となっている。近年、経皮的電気刺激(transcutaneous electrical stimulation以下TES)を用いた機械的受容器の賦活が報告され始めている。本手法は、刺激量が定量化でき、随意運動が不十分な患者でも施行できる利点がある。過去報告では、下腿筋群に対する運動閾値上のTESによって、足底感覚と動的バランス能力の改善を認めている。しかし、感覚鈍麻を認める患者においては、可能な限り弱い強度での電気刺激が望ましい。本研究では、足底に対する運動閾値下のTESによって動的バランス能力が向上するか検討した。<br><b>【方法】 </b>対象は健常成人17名(男15名、女3名、平均年齢24.6±3.2歳)とし、10名をTES群、7名をコントロール群に分類した。TES装置はKR-70(OG技研)を用いた。電極には長方形電極(8㎝×5㎝)を使用し、足底、両側の中足骨部に陰極、踵部に陽極を貼付した。TESは周波数100Hz、パルス幅200us、運動閾値の90%の強度で10分間連続して行った。コントロール群は10分間安静を保持させた。動的バランス能力の評価にはFunctional Reach Test(FRT)を用いた。FRTの開始姿勢は、足部を揃え上肢を肩関節90°屈曲、肘関節伸展回内位、手関節中間位とした。対象者には指先の高さを変えない事、踵を拳上しない事を指示し、最大前方リーチを行わせた。測定は2回行い、その平均値を算出した。統計学的解析は、各群の介入前後の比較に対応のあるt検定を用いた。本研究の実施手順および内容はヘルシンキ宣言に則り当院倫理委員会の承諾を得た。対象者には、評価手順、意義、危険性、利益や不利益、プライバシー管理、目的を説明し書面で同意を得た。<br><b>【結果】 </b>TES群は介入前FRT 34.6±3.2㎝、介入後36.9±3.2㎝と有意な向上を認めた。一方で、コントロール群は介入前34.3±1.9㎝、介入後34.6±2.0㎝と有意差は認められなかった。<br><b>【考察】 </b>足底に対する運動閾値下のTESは、動的バランス能力を向上させた。過去の報告で用いられた下腿筋群に対する運動閾値上のTESの作用機序としては、筋ポンプ作用によって末梢循環が改善され、機械的受容器が賦活されたと示唆されている。したがって、本研究における運動閾値下のTESの作用機序は異なるものであると考えらえる。運動閾値下のTESは、刺激部位の機械的受容器や上位中枢神経系の賦活が報告されている。機械的受容器の感受性改善は、足底内での細かな重心位置把握を可能とし、上位中枢神経系の賦活は、脊髄反射回路の抑制によって協調的な動作を可能にすると考える。今後、足底に対する運動閾値下のTESと重心動揺、上位神経系との関係を明らかにすることで、動的バランス能力向上の機序がより明確になると考える。<br><b>【まとめ】 </b>本研究によって足底に対する運動閾値下のTESが動的バランス能力を向上させることが示唆された。
著者
奥佐 千恵 平 昇市 笠原 知子 川口 久美子
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.24, pp.O023, 2008

【はじめに】我々は平成18年19年に女子ウエイトリフティング競技ナショナルチームの強化合宿中の選手に関わる機会を得た.その後,平成19年9月にタイ国で開催された第19回女子ウエイトリフティング世界選手権大会に出場する日本代表選手団に帯同し,大会中の選手に携わる機会を得たので,それらの活動内容に若干の知見を加えて報告する.<BR>【選手・スタッフ構成】合宿には13~15名,国際大会には9名の選手がいた.そこに監督とコーチからなるテクニカルスタッフが2~4名,日本オリンピック委員会強化スタッフのチームトレーナー1名が加わる.<BR>【活動内容】ナショナルチームとして招集された選手達のコンディションは様々である.そのため,合宿中には各選手のコンディションや置かれている立場・状況に応じて,病院内あるいは練習場で治療・ケア・応急処置・指導などを行った.国際大会には,事前合宿が行われていた国立スポーツ科学センターを訪問し各選手のケア及びスタッフとの事前打ち合わせを行った上で,チームに帯同した.現地入りしてからは,練習前後に宿舎で,そして試合当日には競技直前と競技中においてはアップルームでコンディショニング・ケアなどに携わった.<BR>【現場からの要望】合宿中において,監督からは方向性の統一化の元,選手の体をよくすることを第一の目的としたリハビリ以外に,「選手と指導者側とのズレを埋める」「メンタル面のフォロー」などが求められた.国際大会においては,特に「選手がその場で変わる調整」が求められた.選手からは痛みの軽減や身体機能の回復などが求められる一方で,合宿中の記録会や大会では「痛みが出現しようが体が壊れようが記録を出したい」という要望が少なくなかった.また「指導者側が求める事が実際に再現できない」「自分のイメージ通りに体が動かない」などといった意見も多く,選手・指導者側が求める最高のパフォーマンスの獲得あるいは再現を叶えるための関わりが求められていると感じた.しかし,現場での監督・選手からの要望は必ずしも一致するわけではなく,また現場では,理学療法に関する知識や技術以外のものも多く要求された.<BR>【おわりに】スポーツ現場では,医師以外の何らかの有資格者はトレーナーとして一括されることが往々にしてある.そこでは必ずしも理学療法士という「資格」ではなく,選手の競技力を向上させ,試合で最高のパフォーマンスを発揮できるための手伝いができる「人」が求められる.関わる以上,そこにかかる労力とコストは惜しめない.今回の経験より,我々理学療法士はスポーツ医療に関わる多くの職種の共通部分と専門性をより明らかにし尊重し合い,他職種との連携や役割分担を図り,選手・チームに関わっていかなければならないと強く感じた.
著者
八木 崇行 冨田 昌夫
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.25, pp.160, 2009

【目的】<BR> 人の身体は,内骨格形構造をしており,安定のために働く深層筋と動作のために働く表層筋が機能的に分化して活動することで安定性と可動性,2つの矛盾した要求を満たす.今回,"脊柱の深層筋が活性化されれば,全身的な表在筋の余分な力が抜け,感受性が高まって姿勢制御の能力も改善する"という仮説を立てた.そして,アンバランスになった表在筋の緊張に対する頚部から脊柱を小さく揺する治療の効果について,重心動揺計を用い,従来の評価(面積,総軌跡長など)と非線系解析の一種である再帰性定量化分析:RQAから定量的に評価した.<BR>【方法】<BR> 健常成人を対象とし,(1)揺すり群5名,(2)対照群5名の2群に分けた.重心動揺計(メディキャプチャーズ社製Win Pod)上,立位にて15秒間動揺を計測した.計測は1:開眼立位,2:前方250cmの位置に置いた構造物を見る,3:構造物に貼った文章を読むの3種類とした.そして,従来の評価に加え,RQAにて分析し,介入前後で比較した.尚,本研究は当院倫理委員会の承認を受けて実施した.<BR>【結果】<BR> 揺すり群では,面積は計測2:140→105mm<SUP>2</SUP>,計測3:125→86mm<SUP>2</SUP>,総軌跡長は計測2:143→110mm,計測3:175→133mmと減少傾向が認められた.また,RQAでは,特に計測3左右方向において,系の安定性を示す再帰率(0.6→2%)や決定率(90→96%),系の複雑さを示すエントロピー(1.8→2.3)が上昇する傾向が認められた.一方,対照群の計測2では,面積189→187mm<SUP>2</SUP>,総軌跡長121→143mmと変化が少なく,RQAでも変化は少なかった.<BR>【考察】<BR> 揺すり群で軌跡長や面積が減少し,再帰率と決定率が増加する傾向がみられた.これは,揺すりにより立位姿勢が動揺の少ない安定した状態に変化し,環境から情報が得やすくなること,目的動作に適応しやすくなることを示すものと考える.さらに,エントロピーが増加していることから,単に安定するのではなく,複雑に動きながら安定していることも示唆された.今後,対象を増やしこの傾向を更に追求する.
著者
後藤 寛幸 足立 恵一 坪井 歩 甘井 努 大嶋 義之 齋藤 好道
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.25, pp.40, 2009

【はじめに】多発交通外傷後,まず車椅子ADL自立の後,装具処方と積極的な起立・歩行訓練により歩行自立となった症例を報告する.【症例】55歳男性【診断名】骨盤骨折(右寛骨臼骨折など),両下腿開放骨折(右脛腓骨二重骨折,左脛骨骨幹部骨折,左足関節内果骨折),左リスフラン関節脱臼骨折,神経因性膀胱,両坐骨神経損傷に伴う両膝関節から遠位の麻痺.【合併症】糖尿病【病歴】H19.7.20軽トラック運転中乗用車と正面衝突し受傷.心タンポナーデに対し心嚢ドレナージ.骨盤骨折に対し両内腸骨動脈塞栓術,両血気胸に対してトロッカー挿入し救命.8.3(左)脛骨髄内釘,足関節内果CCS,(右)脛骨近位CCS,遠位K-W骨接合.股関節臼蓋螺子にて骨接合.右脛骨偽関節形成の為,10.12プレート固定,骨移植施行後創感染.10.31右下腿前面皮膚11.19腓腹筋弁,分層植皮施行.H20.1.29当院初回入院.右下腿偽関節のため右下肢免荷.先ず上肢・体幹筋力強化を実施.4.22車椅子ADL自立で退院.10.28右部分荷重可能となり歩行訓練目的に再入院.【入院時評価】両下腿感覚重度鈍麻.MMT(右/左)大殿筋(1/1)大腿四頭筋(2/3)両前脛骨筋,下腿三頭筋収縮なし.両上肢4.右下腿前面骨癒合部の骨突出あり,皮膚面湿潤.脚長差3cm(左>右)【経過】起立,push up訓練実施.装具は右PTB免荷装具(モールドタイプ),左プラスチック短下肢装具を作成.PTB 免荷装具にインナーシェルを工夫し右腓骨骨折線への衝撃緩和,創傷保護実施.右全荷重開始後,両金属支柱付短下肢装具作成.MMT大殿筋(2/2)大腿四頭筋(4/4)両上肢5と筋力向上し歩行器装具歩行自立に至った.【考察】骨癒合の時期をみてPTB装具を処方し起立・歩行訓練を行うことで,両下肢近位筋と体幹筋力向上が図り,実用歩行の可能性が出た後に両短下肢装具を再作成し歩行自立に至った.
著者
松本 光司 佐久間 雅久 島田 隆明
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.28, 2012

<b>【目的】 </b>我々は高校野球三重県大会においてメディカルサポートを実施しているが、その対象は一部の選手に限られる為、選手の状況を把握する為に、アンケート調査を実施し、選手の障害予防への介入方法の検討を行った。<br><b>【対象】 </b>三重県高校野球連盟に加盟の南勢地区を中心とする13校の硬式野球部の選手300名。<br><b>【方法】 </b>我々が各高校を訪問し、調査の目的、記入方法を説明し、現地にてアンケート用紙を回収した。アンケートは無記名の質問方式にて、(1)基本情報(学年、身長、体重、ポジション、野球歴、他スポーツ歴)、(2)理学療法士(以下:PT)の認知度、PTとの関わり、(3)障害(現在、過去の怪我・疼痛の有無、怪我をして受診する施設)、(4)生活習慣(練習時間、睡眠時間、ストレッチング(以下:STG)、食事・水分摂取)について調査した。また、怪我・疼痛とSTGの関係性について多変量解析(主成分分析)を用いて検討を試みた。<br><b>【結果】 </b>(1)基本情報 1)学年:1年生141名、2年生159名。2)ポジション:投手60名、捕手26名、内野手121名、外野手93名。3)野球歴:小学校から265名、中学校から35名。4)野球以外のスポーツ歴:ない138名、ある162名。<br>(2)PTの認知度およびPTとの関わり PTの知名度に関して、知る選手163名、知らない選手137名。PTと関わった事がある選手60名であった。また、PTの治療・指導に興味がある選手は182名であった。<br>(3)障害 怪我の既往歴がある選手は221名であり、野球肘83名、骨折72名、肉離れ50名、野球肩42名、腰痛19名、疲労骨折14名、腰椎分離症12名、捻挫10名、半月板損傷9名、腰椎ヘルニア9名、靱帯損傷8名、オスグッド4名、シンスプリント2名であった。<br> 現在怪我をしている選手は56名であり、野球肘15名、野球肩7名、腰椎ヘルニア・捻挫・腰椎分離症・膝痛が各4名、肉離れ3名、疲労骨折・腰痛が各2名であった。現在疼痛がある選手は165名、その内訳は腰痛61名、肘痛58名、肩痛51名、足部痛30名、手首痛16名他となった。そして、93名(56.4%)は痛みについて監督・コーチは把握していない結果となった。怪我・痛みに対して受診する施設は整骨院・整体師・鍼灸師が230名、病院が116名、PTによる治療が27名という結果であった。<br> 障害とSTGの関係について主成分分析の解析結果は、怪我によって、STGに関する認識や、実施時間が増える傾向であった。<br>(4)生活習慣 1)平均睡眠時間:5~6時間192名、7時間以上102名、3~4時間6名。2)部活動以外でのSTG実施状況:毎日実施115名、全くしない90名、週2・3日61名、週4日以上34名。3)STG実施時間:5~10分89名、10~15分57名、5分以内43名、15分以上21名。4)食事の摂取状況:主に朝食を食べない選手が多かった。5)水分摂取状況:練習中と試合中で違いがあり、試合中はスポーツドリンクを摂取している選手が多かったが、摂取量に気を付ける選手の割合は低かった。<br><b>【まとめ】 </b>今回、野球選手の障害状況と生活習慣の実態が明らかとなった。<br> 結果から、大会期間中だけでなく、三重県高校野球連盟と緻密な連携を図り、定期的なメディカルチェックやSTG講習会を実施し、選手個人の状態が把握できるような支援体制の構築が必要だと考える。
著者
河野 隆志 小林 敦郎 八木下 克博 漢人 潤一 廣野 文隆 甲賀 英敏 岡部 敏幸
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.27, pp.49, 2011

【目的】静岡県メディカルサポート(以下MS)は、静岡県高校野球連盟(以下静岡県高野連)の要請を受け平成14年より活動を実施している。主たる活動内容として、全国高校野球選手権静岡大会(以下静岡大会)での試合前・中・後における選手へのテーピング等の応急処置、試合後の投手へのクーリングダウン、選手や審判員に対しての熱中症予防を目的としたドリンク作製や啓発活動等を実施している。また、一昨年度より、投手の障害予防を目的とした投手検診をクーリングダウンと併用し実施している。そこで本研究の目的は、投手検診より、静岡県における投手の現状を把握し、今後意義のあるクーリングダウンの質的向上へとつなげていくことである。特に今回は、障害発生に関与するとされている投球数や投球後における肩関節内旋角度(2nd)、問診による既往歴の有無等を調査し、投手における現状を検討したので報告する。【方法】対象は、静岡大会において初登板し、終了後または途中交代の投手で投手検診を行なった97名(3年生74名、2年生20名、1年生3名)とした。投手検診実施にあたり、静岡県高野連に加盟している全118校に対し、第92回静岡大会責任教師・監督会議においてMS代表より投手検診の趣旨を説明、その後静岡大会での各試合前のトスの際にも再度MSスタッフより趣旨を説明し、同意が得られたチームの投手に限り投手検診を実施した。投手検診の内容は、肩関節内外旋角度(2nd)の測定、問診にて一日の平均投球数(以下平均投球数)や一週間での投球日数(以下投球日数)、クーリングダウン実施の有無、疼痛や故障による既往歴や医療機関への受診歴等の調査を実施した。投球数に関しては、公式記録を参照し記録した。肩関節内外旋角度の測定方法は、15分程度の投球側肘・肩関節へのアイシング終了後、仰臥位にて投球側、非投球側の順に実施した。測定機器はレベルゴニオメーターを使用し、各可動域とも90°を最大値と設定し、5°毎での測定を行なうよう統一した。検討項目として、各項目での測定結果や問診結果の集計、投球後における投球側と非投球側との角度差(以下角度差)を抽出し、各々と既往歴の有無での関係性を検討した。統計学的処理として、投球数と肩関節内旋角度、角度差にはt検定、平均投球数(50球未満、50~80球未満、80~100球未満、100~150球未満、150球以上の5群に分類)と投球日数(3日未満、3~4日、5~6日、7日の4群に分類)、クーリングダウンの有無には、マン・ホイットニの検定を実施し、それぞれの有意水準は危険率5%未満とした。【結果】投球数は98±34球であり、肩関節内旋角度は52.3±14.2°、角度差は8.5±12.1°であった。既往歴に関しては有りが60名(61.9%)無しが37名(38.1%)であった。既往歴有りの投手の部位別では、肩関節(46.7%)、肘関節(43.3%)、腰部(20%)の順に多かった。投球数、肩関節内旋角度、角度差、投球日数、クーリングダウンの有無と既往歴の有無に関しては有意差が認められなかった。しかし、既往歴と平均投球数において、既往歴有りと無しの投手間で有意差が認められた。【考察】静岡大会における投手の現状として、61.9%の投手に既往歴や最近の故障等が認められた。そのなかでの投手の特徴として、一日における投球数が既往歴無しの投手と比べ有意に多いことが判明した。その反面、障害発生に関与するとされている肩関節内旋角度や角度差等において有意差は認められなかった。このような結果となった要因として、学童、少年野球時より受傷し、障害や疼痛が残存したまま現在に至る投手が多いことが予測される。また、部位別では肩、肘関節に次いで腰部の既往の訴えもみられており、投球動作における一連の流れや障害部位による代償等の影響も一要因として考えられる。肩関節内旋角度や角度差に関しては、MS活動における投手へのクーリングダウン時の肩甲骨周囲筋への必須ストレッチとしての実施やセルフエクササイズでの肩関節内外旋筋に対する個別指導による投手への認識が関与しているのではないかと考えられる。本研究より、静岡県における高校野球投手の現状として、肩・肘関節に留まるのではなく体幹や股関節等全身に着目しての実施が必要となるとともに、幼少期からのメディカルチェックも重要となることが示唆される。【まとめ】MSの主たる活動目的として、選手の障害予防や自己管理能力の向上を図ること、教育場面の一環等が挙げられる。今年度より、県内3校を対象とした巡回事業も実施しており、投手検診等のメディカルチェックを実践し、その結果を分析し問題点に対し対策を講じることで、選手が怪我や故障なく高校野球を継続できる環境づくりや障害予防に対する認識の啓発活動を行なっていきたい。
著者
南端 翔多 直江 祐樹 山口 和輝 谷 有紀子 岡嶋 正幸 野首 清矢 坂本 妙子 松原 孝夫(MD) 須藤 啓広(MD)
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.28, 2012

<b>【目的】 </b>高位脱臼股では脚短縮がみられ、人工股関節全置換術(THA)施行時、原臼蓋にカップが設置され、その結果脚長が延長される。脚延長により、中殿筋等の股関節周囲筋が伸張され、術後筋力の回復、可動域の改善が遅れ、歩行機能の低下を呈するため、理学療法に難渋する症例を経験することがある。今回、高位脱臼股に対して4㎝の脚延長を行なった右THAの1症例に対して、術前、術後の外転筋力、歩行機能を調査したため、若干の考察と共に報告する。<br><b>【症例】 </b>症例は高位脱臼股に対して後方アプローチによる右THAを施行した60歳代の女性である。術後は当院THAクリニカルパスに沿って理学療法を施行した。右THA施行により約4㎝脚長が延長された。右THA後は松葉杖歩行獲得し、22日目に転院となった。5カ月後にT字杖歩行獲得、独歩可能となった。症例には発表の主旨を説明し同意を得た。<br><b>【方法】 </b>右THAの術前、術後1, 4, 7, 14日目、退院時(21日目)、術後5カ月の股関節外転筋力、歩行様式を調査した。股関節外転筋力は、microFET2(HOGGAN社製)を使用し等尺性筋力を測定した。測定は3回行い、その平均値を測定値とし、回復率(術後測定値/術前測定値×100)を算出した。また筋力測定時の疼痛をvisual analogue scale(VAS)を用いて測定した。<br><b>【結果】 </b>右THA後の外転筋力回復率は、1日目12%、4日目36%、7日目36%、14日目99%、21日目117%、5カ月198%であった。VASは術前5㎜、術後1日目36㎜、4日目48㎜、7日目22㎜、14日目15㎜、退院時(21日目)8㎜、術後5カ月0㎜であった。歩行様式は、術前屋内は独歩、屋外長距離はT字杖使用、術後1, 4, 7, 14日目は歩行器、退院時(21日目)は松葉杖、術後5カ月はT字杖、独歩も100m程度可能であった。<br><b>【考察】 </b>当院MIS-THA後の股関節外転筋力回復率は7日目で114.3%、退院時(22.6日)には156.8%と第38回日本股関節学会にて報告した。本症例では当院の先行研究と比較すると筋力の回復が遅れる結果となった。三戸らは21㎜以上脚延長した群は、低い回復率を示したと報告しており本症例も、同様にTHA後の平均より低い回復率となった。術後股関節周囲筋が、伸張されたことにより疼痛が出現し、術後早期は筋力の発揮が不十分となったこと、また術前高位脱臼により股関節外転筋群が短縮位となり、筋萎縮を呈していたことが考えられる。その結果、股関節外転筋力が術前値より改善しても歩行時に骨盤を安定させることができず、松葉杖使用が必要な状態となった。術後5カ月には股関節外転筋力は、回復率が198%となり歩行時骨盤が安定し、独歩が可能となったが、股関節外転筋力が回復し骨盤が安定するには時間を要する結果となった。<br><b>【まとめ】 </b>高位脱臼股に対して脚延長を行ったTHAでは、股関節外転筋力、歩行機能の回復が遅れる傾向がみられた。外転筋力、歩行機能改善には、長期的な理学療法の介入が必要であるということが示唆された。
著者
法山 徹 勝木 道夫 後藤 伸介 中村 立一
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.28, 2012

<b>【目的】 </b>超音波治療(US)は、局所へ理学療法(PT)の一手段として用いられ、その生理学的効果としては、コラーゲン組織の伸張性増大や疼痛の軽減等が報告されている。しかし、臨床においては関節可動域(ROM)制限に遭遇する頻度は比較的多いものの、USがその改善に寄与したとする報告は少ない。そこで、本研究では腱板断裂術後患者に対するUSがROM改善に及ぼす効果を検証することを目的とした。<br><b>【方法】 </b>症例は50歳代の男性であり、広範囲腱板断裂に対し、関節鏡視下腱板修復術(大腿筋膜を用いたパッチ法)を施行された症例であった。術後3ヶ月にて、大工への職業復帰を目標に当院に紹介され、初回評価時の日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準(JOA score)は66.5点、肩関節自動屈曲ROMは95°であった。研究デザインはABAとし、期間Aは通常の運動療法のみを行い、期間Bは運動療法とUSの双方を行い、AとBを2週間ずつ其々週3回の介入で交互に実施した。期間BにおけるUSは、Ultrasonic Apparatus Model ES-1(OG技研社製)を使用し、周波数は1MHZ、出力は1.2W/㎝2、施行部位は肩甲骨内側縁(肩甲棘~下角間)、照射時間は10分間とし移動法にて実施した。また、運動療法については肩甲上腕関節及び肩甲胸郭関節のROM運動、胸椎モビリゼーション、肩甲骨周囲筋のリラクゼーション及び自主運動指導を期間A, Bとも同様に行った。評価は、PT前の肩関節自動屈曲ROMとし、初回Aの前(以下preA)、Bの前(以下preB)、2回目Aの前(以下preA&rsquo;)、2回目A終了翌日(以下post A&rsquo;)に行い、2回測定した低値のものを採用した。結果の処理は、PT前の肩関節自動屈曲ROMについて各セッションの前後での変化率(%)を算出した。<br><b>【説明と同意】 </b>患者には、本研究の趣旨を説明し同意を得て行った。<br><b>【結果】 </b>preA, preB, preA&rsquo;、post A&rsquo;における肩関節自動屈曲ROM(°)は、各々120, 125, 145, 135であった。ROM改善率は、期間Aで104.1%、期間Bで116.0%、期間A&rsquo;で96.4%であり、運動療法にUSを併用した期間で改善する傾向を示した。また、期間A&rsquo;より大工への職業復帰となった。<br><b>【考察】 </b>本研究により、腱板断裂術後患者に対して運動療法にUSを併用することはROM改善に有効であることが示唆された。今回の症例ではUSを肩甲骨内側縁に施行していたが、これは同部に生活上での倦怠感を訴えていたことや圧痛が出現していたことから挙上の阻害因子と考えたため行った。USの併用によりROMが改善したことについては、僧帽筋や菱形筋等の肩甲骨内側組織の伸張性が改善したことにより肩甲骨上方回旋が促通されたためと考えた。また、期間A&rsquo;においては、ROMが低下する傾向を示していたが、職業復帰により急激に上肢の運動量が増し、仕事後の疼痛増強もみられていたため職業復帰による過用が原因と考えた。<br> 今後は、USの実施方法(筋収縮の併用や施行筋の肢位、プラセボ化等)について、より効果的な方法を検討していくことが必要と考えた。<br><b>【まとめ】 </b>腱板断裂術後患者に対してUSの有効性を検証した。運動療法にUSを併用することは、ROM改善に有効であることが示唆された。
著者
大田 英登 柏木 克友 磯村 隆倫 大川 裕行
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.28, 2012

<b>【はじめに】 </b>くも膜下出血発症直後から、急性期、回復期とリハビリテーション(以下リハ)を受けたが、ADL全般に介助を要する発症後19ヶ月の左片麻痺者を老人保健施設(以下老健)で担当した。本症例に対して、起立、歩行訓練を中心に積極的に理学療法を行った結果、ADLの介助量が軽減され自宅復帰となった。本症例を通じて、老健における重度片麻痺者に対する理学療法の重要性を再確認したので報告する。<br> なお、本報告にあたり、本症例には趣旨を説明し同意を得た。<br><b>【老健利用までの経緯】 </b>平成20年10月15日、脳出血を伴うくも膜下出血を発症、A病院で加療された。平成21年3月10日、リハ目的でB病院転院となった。同年7月14日C病院へ転院、9月14日退院し当老健入所となった。平成22年4月4日に車いすから立ち上がろうとして転倒、左大腿骨転子下骨折でC病院再入院、同月9日にCHS施行。8月6日当老健再入所後、担当を開始した。<br><b>【理学療法評価(平成22年8月7日)】 </b>症例は42歳男性。Brunnstrom recovery stage(以下Br-Stage)は左上肢、手指、下肢ともにII、非麻痺側筋力は上下肢共に4、感覚は表在、深部ともに鈍麻であった。軽度の半側空間無視、注意障害を認めた。<br> 基本動作は、起き上がりの際に体幹を起こすための介助を要した。移乗及びトイレ動作は、立ち上がり、衣服の上げ下げ、方向転換に介助を要した。歩行は、四点杖、KAFOを使用し、麻痺側下肢の振り出し、立位保持、重心移動に介助を要した。施設内での移動は車椅子駆動可能であったが、生活全般に人的介助を要していた。FIMのスコアは88/126点であった。<br><b>【理学療法プログラムおよび経過】 </b>理学療法は、起立-着座訓練、下肢装具を用いた歩行訓練を中心とした運動療法を1日40分程度、週4日実施した。<br> 訓練開始1ヶ月後にBr-StageはⅢとなった。同時期にKAFOはAFOに変更可能となった。<br> 退所時(平成23年2月28日)には、四点杖とAFOを使用し軽度介助での歩行が可能となった。移乗及びトイレ動作は、立ち上がり、方向転換が手すりを使用し可能となった。FIMは94点に向上した。最終的な施設内の移動手段は車椅子であったが、移乗、トイレ動作の介助量が軽減したため自宅復帰となった。<br><b>【まとめ】 </b>急性期、回復期リハを受けたが、ADL全般に介助を要する慢性期重症片麻痺患者に対して積極的な起立・歩行訓練を約6ヶ月間実施したところ、介助量が軽減し自宅復帰が可能となった。起立訓練は非麻痺側・麻痺側への刺激、全身の筋力強化、バランス能力向上に有効であり、下肢装具を利用した歩行訓練は、起立や移乗動作等、ADL能力の向上に有効な治療手段である。今回、慢性期重症片麻痺患者でもその効果が確認された。維持期に位置付けられる老健の利用者にも機能回復の可能性があることに留意し、積極的な起立・歩行訓練を実施する必要がある。