著者
堀本 泰介
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

本研究では、リバース・ジェネティクス法により人為的に多段階の弱毒化を施し、さらに1つの粒子中に現在人で流行中の三種類のHA遺伝子(A/H1,A/H3, B)を同時に組み込んだHA重複組み換えウイルスワクチンの開発を最終目的とする。このワクチンは現在用いられている三種類のウイルスHAを混合した不活化ワクチンに比べ、接種量の制限が排除され、体内の抗原量を増すのみならず、粘膜免疫、細胞性免疫をも誘導できるため優れた免疫効果が期待される。さらに、間違いなく安全性、経済性にも優れる。この組み換えワクチンを作製する前提として、二種類以上のHA遺伝子があるいはキメラHA遺伝子がウイルス中に組み込まれる必要がある。そこでまずA型HIウイルスとB型ウイルスのキメラ遺伝子を構築し、その感染性ウイルス粒子への取込みを検討した。その結果、A型ウイルスHAのN末側シグナル領域より上流(3'非コード領域を含む)とC末側トランスメンブレン領域より下流(5'非コード領域を含む)をB型ウイルスHAに入れ換えたA/BキメラHA遺伝子が効率良く感染性ウイルス粒子中に取り込まれることを発見した。さらに、この組み換えウイルスは、B型野生株の攻撃に対して高い防御効果が認められた。これらの成績から、HA遺伝子のパッケージングおよびHA蛋白質の相互機能性についての情報が獲得でき、今後のHA組み換えウイルスの構築に大きく貢献する。現在、各種HA組み換え体の構築を進めている。
著者
溝口 理一郎 來村 徳信 笹島 宗彦 古崎 晃司 林 雄介
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

本研究では,Webコンテンツの中から製造業における技術ドキュメントに焦点を絞り,工業製品に関する工学知識の融合とオープンな相互運用を実現する実用的な枠組みを開発することを目的とした.製造業の現場において爆発的に生産されデータベースなどに格納される工業製品関連知識の,記述コンテキストや独自概念体系への暗黙的依存性を,人工物に関する基盤的なオントロジーを核とした融合とオープンな相互運用性によって解決することを目指した.特に,平成18年度においては,製品ライフサイクルにおける製造と使用のフェイズに注目し,製造プロセスモデル,機能発揮プロセスモデル,ユーザ使用プロセスなどの関連性をプロセス間関係として捉え,オントロジー工学的に考察することを行った.まず,人工物の製品機能発揮プロセスと製造プロセスについて,両者の関係を,機能発揮の主体である人工物製品が製造プロセスの客体としての役割を果たすという役割(ロール)の違いとして定式化した.一般的なプロセス間関係を捉え,その特殊化として定義した.さらに,情報学研究で扱ってきた不具合プロセスとの関係を同様に定式化し,さらに関係を一般化した.また,ユーザ操作プロセスモデルとの関係性を分析し,ロールモデルとしては分散化されることを明らかにした.これらをまとめて,人工物関連プロセスの統合的モデル枠組みを構築した.また,それを支える人工物プロセスオントロジーを概念的に構築した.プログラム実装については,アノテーション枠組みの基礎的検討に加え,3次元的な人工物プロセス統合モデルビューアのプロトタイプを開発した.また,機能に関する一般オントロジー(一般機能オントロジー)を既存の機能定義をマッピングするための「参照オントロジー」として用いて,他の概念体系との具体的なマッピングとモデル構造の変換について検討した。
著者
神奈木 玲児 卓 麗聖 田口 修 後藤 嘉子 田口 修 遊佐 亜希子
出版者
愛知県がんセンター(研究所)
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

細胞表層の糖鎖には接着分子としての機能を持つものがある。癌細胞ではシアリルルイスXやシアリルルイスaなどの糖鎖が発現し、これによって転移や浸潤が引き起こされる。癌細胞で糖鎖が変化する機構は、発癌早期においては、正常型糖鎖を合成する一連の遺伝子のエピジェネティック・サイレンシングが主原因の一つとなっていることを我々は明らかにした。一方、進行期の癌においては、癌細胞の低酸素抵抗性の獲得とともに機能亢進する転写因子hypoxia inducible factor(HIF)が、一連の糖鎖合成遺伝子の転写を誘導することが大きな要因となっていることを我々は明らかにした。
著者
粟野 宏
出版者
山形大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

東アジアは,木版印刷術のみならず,活版印刷術においても先駆的で輝かしい業績を誇っている.グーテンベルク革命にさきだつこと4世紀,西暦1040年ごろ,中国の畢昇は陶磁製の活字(膠泥活字)をつくり,人類史上初の活版印刷をはじめた.1314年,中国の王〓は,木活字をつくり印刷をした.朝鮮では早くも1234年に銅活版印刷がはじめられた記録があり,以後東アジアとしては例外的に活版印刷術がさかんにおこなわれた.活版印刷術は,16世紀末,2つのルートによって日本にもつたえられた.1つは,豊臣秀吉による朝鮮侵略のさいに,朝鮮から銅活字がもたらされ,徳川家康が17世紀はじめにかけて銅活字や木活字の利用に道をひらいた.もう1つは,16世紀後半に西欧の印刷術がイベリア半島からもたらされた.それは「きりしたん版」とよばれる.このように,西欧の活版印刷術にくらべて,東アジアに活版印刷術が登場したのは時期的に早かったが,東アジア中に普及したとはいえない.グーテンベルクの技術体系が,またたくまに西欧世界にひろまってそれを変革してしまったこととは,あまりに対照的である.そのおもな要因として,しばしば表意・象形文字としての漢字に代表される複雑な文字体系が指摘される.しかしここでは,それにとどまらない技術に内在する要因について考察した.東西の活版印刷術を比較したときに,もっとも大きなちがいは母型による活字の複製である.グーテンベルクの技術体系では,母型から低融点金属の鋳造により活字が大量生産されるのに対し,東アジアの活版印刷術ではそうではなかった.木活字では,一つずつ手で彫刻されるので,複製としてはきわめて低水準といわざるを得なかった.銅活字にあっても,融点が高いことに加えて,母型には砂型が用いられたので,作業性も鋳造精度も著しく劣る.こうした活字の複製のための母型の事実上の不在が,技術に内在する要因とみることができる.
著者
石塚 晴通 白井 純
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

研究計画に基づいて平成13〜16年度に以下の研究を実施した。1.シナ大陸の古印刷資料の原本調査を、大英図書館、フランス国立図書館、中国国家図書館、天津図書館、台湾故宮博物院、台湾国立中央図書館に於て実施した。2.朝鮮半島の古印刷資料の原本調査を、韓国誠庵古書博物館、同湖巖美術館、同延世大学校図書館、東洋文庫、京都国立博物館等に於て実施した。3.日本の百万塔陀羅尼及び古印刷資料の原本調査を、大英図書館、東洋文庫、京都国立博物館、高山寺、個人宅等に於て実施した。4.印刷資料及び関連する典籍をテーマとする「典籍の国際的交流・受容(訓読)」(平成14年度、於北海道大学)、「日本学・敦煌学・漢文訓読の新展開」国際学術会議(平成16年度、於北海道大学)の実行委員長として、国際会議を推進した。5.研究成果を国際会議及び国内学会に於て発表した。以上の如く、シナ大陸、朝鮮半島及び日本の古印刷資料の原本調査を実施して、東アジアに於ける正式印刷本の確認は9世紀後期まで下ること、日本の百万塔陀羅尼は「刷る」行程の無い集成印本であることを明らかにして、国際会議等の場に於て積極的に発表した。