著者
塩谷 雅人 西 憲敬 長谷部 文雄 山崎 孝治
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
1999

この研究課題では,熱帯域のオゾンと水蒸気の分布に注目し,大気微量成分の放射・光化学的な影響を評価する上で鍵となる成層圏と対流圏間の物質交換過程について,おもに全球および定点観測データや数値モデルをもちいた研究をおこなった.さらに,熱帯域における観測データの不足を補うために,オゾン・水蒸気ゾンデ観測を実施した.この観測キャンペーンは,過去4年間にわたり,熱帯の西部・中部・東部太平洋域の3地点でのべ18回(熱帯東部太平洋における船舶からの観測を1回含む)にのぼる.同時に,上部対流圏から下部成層圏における簡便な水蒸気観測をおこなうために,高精度で高感度な鏡面冷却方式露点/霜点温度計("Snow White")の開発改良を海外の研究者と共同でおこなってきた.これらの研究活動の主な成果は,以下のような論文として取りまとめられている.1)観測キャンペーンで得た水蒸気ゾンデデータにもとづき,これまで観測のなかった熱帯対流圏界面領域での水蒸気変動の季節性,地域性を明らかにした(Voemel et al.,2002).2)東太平洋域での水蒸気ゾンデデータから,圏界面付近のケルビン波が成層圏の水蒸気量を規定している可能性を示唆した(Fujiwara et al.,2001).3)全球データおよび大気大循環モデルを用い,熱帯対流圏界面の気温と鉛直流のENSOのシグナルを抽出しそのメカニズムについて考察した(Hatsushika and Yamazaki,2001).4)熱帯東太平洋で船舶から世界ではじめてのオゾンゾンデ観測をおこない,そこでの対流圏オゾン変動を明らかにした(Shiotani et al.,2002).5)鏡面冷却型水蒸気センサ'"Snow White"を既存のさまざまな水蒸気センサーと相互比較することによって,そのパフォーマンスを明らかにした(Fujiwara et al.,2003;Voemel et al.,2003).
著者
吉田 雪子
出版者
(財)東京都医学総合研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2009

ユビキチン・プロテアソーム系による選択的タンパク質分解は、様々な生体反応に於いて重要な役割を担っているが、この系において最も重要な分子は、分解を受けるべく標的タンパク質を見分けるユビキチンリガーゼである。その中で最も良く研究されているファミリーのひとつSCF型ユビキチンリガーゼの基質認識サブユニットF-boxタンパク質はヒトでは約70種類存在するがこれらの機能がわかっているものは少ない。本研究は機能未知のF-boxタンパク質の標的分子を同定しその機能を解明することを目的とするものである。昨年度確立した定量的質量分析(SILAC)法により標的分子を効率よくスクリーニングする系を用いることで、本年度は第三の糖蛋白質認識Fbxo27、Fbs1と相同性の高いFbxo44, Fbxo17の基質を同定し解析を進めた。Fbs1, Fbs2とは結合せず、Fbxo27と特異的に結合するトランスフェリンレセプターを用いた解析から、Fbxo27は小胞体関連分解以外の局面、すなわちエンドサイトーシスで取り込まれた糖蛋白質が未知の経路で細胞質に出てきたもと結合することが明らかとなった。さらに本解析を進めることによって、糖蛋白質が細胞外から細胞質へ現れる新たな系が明らかになることが期待される。一方Fbxo44に関してはDNAダメージに関わる複数の分子との相互作用が見られ、リン酸化修飾が結合に必須であることが明らかになったため研究を継続している。
著者
矢守 隆夫 旦 慎吾
出版者
(財)癌研究会
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

がんの増殖・生存に関わるPI3Kは、がん治療の有力な標的と考えられる。我々は、新規PI3K阻害剤ZSTK474を開発し、世界に先駆けPI3K標的がん治療の有効性を証明した。本研究では、PI3K阻害剤の臨床開発に向け以下の知見を得た。1) PI3K遺伝子変異の解析:クラスIPI3Kの触媒サブユニットp110には4種のアイソフォーム(α、β、δ、γ)があり、各々PIK3CA、-B,-Dおよび-G遺伝子によってコードされている。PIK3CA変異のみ注目されているが、他の3種の変異は報告がない。そこで39種類のがん細胞株(JFCR39)でPIK3CB、-D,-G遺伝子の全塩基配列を決定し、ミスセンス変異を初めて同定した(PIK3CBに5箇所、PIK3CDに3箇所、PIK3CGに8箇所)。これらが機能獲得型変異かどうかは興味深い。2) PI3K遺伝子変異を持つがんに対する効果:JFCR39におけるPI3K変異プロフィルとZSTK474に対する感受性に相関があるかどうかを細胞レベルならびに動物レベル(ゼノグラフト)で調べたが、有意な相関は認められなかった。よって、PI3K阻害剤の抗がん効果は、PI3K変異状態には無関係と考えられた。3) PI3Kスーパーファミリー(クラスI、II、III、PI4KおよびPI3K関連キナーゼ)への効果:ZSTK474はクラスIPI3Kへの特異性が高いことが判明した。4) 脳腫瘍への効果:脳腫瘍同所移植モデルにおいてZSTK474は経口投与で有効性を示したことから、脳腫瘍治療への応用が期待された。5) 他の薬剤との併用効果:ヌードマウス移植ヒトゼノグラフトに対しZSTK474は、mTOR阻害剤ラバマイシンとの併用で効果増強を示した。PI3K経路を2箇所で阻害する治療は有望と考えられた。
著者
岩田 修永
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

ネプリライシン(NEP)活性低下モデルマウス脳の神経病理を解析し、アルツハイマー病(AD)病理との類似点について検討した。NEP遺伝子を欠損したアミロイド前駆体蛋白質トランスジェニックマウス(NEP-KO×APPtg)脳ではAPPtgマウス脳に比較して加齢依存的に3pyroE型Aβの形成と蓄積が加速し、ヒトと類似するアミロイド病理を示した。NEP-KO×APP tgマウスにさらにアミノペプチダーゼ(AP)A-KOマウスを掛け合わせると、3pyroE型Aβの蓄積が30%抑制されることも明らかになった。また、NEP-KO×APP tg脳ではAPP tg脳に比較して、APNやDPP4の発現量が1.5~2倍近く上昇し、グルタミン酸の環化を触媒するグルタミニルシクラーゼ(QC)の発現量は4倍ほど増加し、上述のペプチダーゼの発現増加量を大きく上まわった。このように、3pyroE型Aβの産生はNEP依存的なAβの生理的分解経路が遮断された場合に促進し、AP/ジペプチジルペプチダーゼ(DPP)やQCが関与する副経路を介して生じると推察される。QCはアストロサイトに局在することから、炎症過程や細胞の保護・修復等に関わる酵素であると考えられるので、脳内にカイニン酸を注入して炎症反応を惹起させると、QCタンパク量は野生型マウスで10倍、NEP-KOマウスで18倍増加した。同様に、APP tgマウス脳ヘカイニン酸を注入すると3pyroE型Aβの形成が促進することも明らかとなった。これらの結果は、NEP活性の低下は炎症応答の亢進を介してQC発現を増強することを示唆する。このように、アミロイド蓄積によって惹起された炎症反応はQC発現を増強し、NEPの活性低下はアミロイドの蓄積および炎症反応の惹起を異なる作用点で増強し、結果的に3pyroE型Aβの形成と蓄積を進行させると考えられる。
著者
岡ノ谷 一夫 入來 篤史 時本 楠緒子 上北 朋子 沓掛 展之
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

社会性齧歯類デグーは豊富な音声レパートリーを有し,約20種類の音声を状況別に使い分けコミュニケーションをする。デグーの発声中枢PAGの電気刺激実験の結果から、状況依存的発声はより上位の領域において制御され,特定の文脈における適切な発声が可能になっていると考えられる。学習・記憶研究において,海馬は文脈認知の有力な候補であるが,発声と海馬の関与は未だ明らかでない。文脈依存的な発声行動における海馬の役割を明らかにするため,海馬損傷を施した個体の発声の変化を飼育場面と求愛場面において検討した。海馬損傷個体において歌頻度が減少し、求愛開始時に特徴的な導入行動が欠落するなどの歌の変化が見られたほか、機能の異なる音が求愛歌中に出現した。求愛行動に関しても、海馬損傷個体では雌の拒絶の発声にも関わらず、雌に対する接触行動が増加した。また、海馬損傷個体では、同性個体に対しても接触頻度が増加し、喧嘩頻度の増加がみられた。ただし、海馬損傷個体が喧嘩の開始をすることはなく、他個体の拒絶にも関わらず接近行動を繰り返すなど、対他個体への反応様式の変化が喧嘩を誘発する傾向があった。親和行動に関しては、グルーミング行動や他個体に寄り合って寝る行動の減少がみられた。物体に対する馴化や新奇物体の認知に関しては、海馬損傷個体に異常はなかった。これらの結果から、海馬が音声・非音声コミュニケーションにおける状況の認知に寄与していることが示唆された。
著者
木下 武志 三池 秀敏 一川 誠 長 篤志
出版者
山口大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

本研究は,ベーシックデザイン教育(基礎デザイン教育)の分野横断的内容と参加型表現(造形)学習であることに着目した.理数系科目と連係させた実習課題を児童生徒に制作することによって理科や算数(数学)に関する興味・関心を高めることの可能性について,課題の考案や学習効果の定量的に評価することを目的とした.具体的な研究内容としては,同研究テーマの平成14年度からの研究成果を継続し,次の事項を行なった.1)つの実習課題を考案.2)小学生対象の実験授業の実施,及びインタビュー調査とその結果の統計分析による学習効果の明確化.3)画像処理計測による課題作品の定量的評価方法の検討.4)授業支援用Webサイトの制作.5)課題考案のための海外調査.6)研究成果の国内での発表,学術論文の投稿.研究成果として,a)実習課題については幾何学的形態の作図を行ない,それを実際に手でちぎって自由に2分割した形態をさまざまに組み合わせながら構成を考えさせた.その組み合わせをアイデアスケッチとして12個作図させ,その中から2個の形態を選択し,彩色する課題内容を考案した.また,ピクセルで描かれたキャラクターを四分木により符号化し,その符号から元のキャラクターを描く課題を考案した.b)考案課題の学習効果を調べるために小学生(山口県美東町立綾木小学校と同町立鳳鳴小学校の4年生〜6年生の12名)を対象としたに実験授業を4日間実施した.c)視覚心理に関係する講義の授業を1回実施した.d)インタビュー結果の統計分析は途中段階であるが,理数系科目への目的意識の変容と発想力,作画的造形力と興味と理数系科目への興味・関心との関連性が示された.e)評価項目の各色画に対する面積,明度,色相の「ばらつき」,構成エレメント間の「まとまり」,視覚的重心位置について課題作品を画像計測し,教育者の評価と相関関係の高い結果が得られた.f)実験授業の内容を小学校で実践することを目的とした教諭対象の授業支援用Webサイトの制作とユーザビリティテストを行なった.g)ベーシックデザインの教育者であったパウル・クレーに関する調査を行なった(スイス,ベルン).
著者
橋本 隆
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

γチューブリン環状複合体gTuRCは酵母、動物から植物まで保存されており、γチューブリン2分子とGRIPモチーフをもつGamma-tubulin Complex Protein 2(GCP2)とGCP3それぞれ1分子ずつから成るキャップサブユニット小複合体とさらにGCP4,GCP5,GCP6,GCP-WD(NEDD1)が追加された環状複合体が存在する。我々はアラビドプシスのGCP2とGCP3に蛍光タンパク質を融合させてゲノム制御領域を用いてmCherry-TUB6微小管標識アラビドプシス植物体で発現させ、微小管重合開始点をin vivoイメージングした。大部分のgTuRCは表層微小管上に出現する。そのうち約半分のgTuRCは短時間(5秒以内)に消えるが、残りの約半分は微小管上に出現してから5秒以内に新たな微小管を形成する。新生微小管の6-7割は約40度の角度で伸長するが、それ以外は既存の微小管に沿って伸長し、束化が起こる。カタニン変異株ではgTuRCは重合開始点に留まり、新生微小管が既存の微小管から切り離されることはなかった。従って、カタニンがgTuRCと新生微小管のマイナス端の間付近の構造を認識して、表層微小管の重合開始点からの切り離しを行っていると推測される。アラビドプシスにはEB1a,EB1b,EB1cの3種類のEB1があるが、EB1a,bは主に間期の微小管に局在し、EB1cは核内に局在し分裂期の微小管の機能を制御している。eblc変異株では紡錘体微小管とフラグモプラストの配向が乱れており、微小管薬剤に対して高感受性を示す。EB1cの分裂期微小管制御機能にはその特徴的なC末端が必須であり、EB1a,bでは代替できなかった。
著者
岩里 琢治
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

高等動物の高度な行動の基盤となるのは,精緻に構築された神経回路である。神経回路の精緻化には,発達期の限られた期間における神経活動が重要な役割を果たすことが知られているが,その機構はほとんどわかっていない。本研究課題では,神経回路の活動依存的発達のモデルとして,バレル形成を中心としたげっ歯類体性感覚(バレル)野発達の分子機構の研究を行った。特に注目した分子は,1型カルシウム依存的アデニル酸シクラーゼ(AC1)とNMDA型グルタミン酸受容体(NMDA受容体)であり,領域としては,特に視床,脳幹における役割を解明することを目的とした。われわれは前年度までの研究において,視床特異的Creマウスの開発に成功しているが,その時空的組換え特性を,レポーターマウスを用いて,さらに詳細に解析した。視床特異的AC1ノックアウトマウスのバレル形成の解析も前年度から行っているが,今年度も引き続きさらに詳細に解析した。今年度はさらに,視床特異的CreマウスをNR1 floxマウスと交配することにより,視床特異的NR1ノックアウトマウスを作製した。脳幹の解析に関しては,共同研究として海外のグループから,領域特異性の異なる2種類の脳幹特異的Creマウスの譲渡を受け,輸入を行った。これらのマウスは体外受精によるクリーニングを経て,国立遺伝学研究所に無事導入された。現在,レポーターマウスを用いて,Cre組換えの特異性を確認しているところである。同時にAC1 floxマウス,NR1 floxマウスとの交配も行っている。脳幹特異的AC1,NR1ノックアウトマウスが手に入れば,それらの大脳皮質体性感覚野第4層におけるバレル,視床VB核におけるバレロイド,脳幹三叉神経核におけるバレレットの組織学的解析を行う予定である。
著者
稲垣 知宏 中村 純 隅谷 孝洋 長登 康 佐々井 祐二 深澤 謙次
出版者
広島大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

最先端の研究で利用される数値シミュレーションを通じて自然科学を学習していくための新しい教育について企画し、必要な電子教材の作成支援システムを開発することを目的に,計算機シミュレーションをテーマにした教育コースを作成すると共に電子教材開発を進め,これを利用した教育を実践した。教育の現場と研究の現場の連携とこれを支援するシステム,学問の新たなパラダイムに根ざした新しい教育の中で先端科学に対する社会的関心を引き出す可能性,教育に必要な電子教材開発について明らかにした。(稲垣、中村、隅谷、長登、佐々井、深澤)計算機シミュレーションを利用しようとする場合,必要に応じて電子教材を開発するところから出発することになる。扱いやすい教材開発環境が整ってきたことで,現在いろいろな形で教材開発が進められているが,今回の開発ではFlash(Macromedia社)上のActionScriptを利用して電子教材開発を進めた。数名の大学院生に対する90分程度の講習会から出発して教材開発者を育成し,約1年間の開発期間で70以上の教材を作成することができた。このような開発は大学院生の教育にも効果を上げている。(稲垣、中村、佐々井、深澤)電子教材開発コラボレーションの基盤環境としてWikiを利用したサイトを構築しその役割と可能性について調べた。容易にサイト構築が可能で,情報の掲載,修正方法を簡単にするツールは他にもあるが,Wikiは,普及状況,無料利用可能な事からも,教育現場に導入し易いツールである。Wikiサイト上では,気軽に情報を掲載できることから,従来までとは異なり開発途上にある動的な情報を蓄積することが可能になった。今後,コラボレーション全体の輪を広げることで,継続的な教材開発の道が開けると考えている。(稲垣、隅谷、長登)なお、これら研究成果については、国内の研究会等で報告している。
著者
崎村 建司
出版者
新潟大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、脳の特定な部位や細胞に限定した標的遺伝子の欠損が出来るCreリコンビネース発現マウスを系統的に作出し、脳機能を分子レベルで解明するリソースを開発することである。このために、我々は本年度新たな方法を開発した。第1に迅速遺伝子改変ベクター作成法である。構築の迅速化を図るために、ES細胞での相同組換えに必要な薬剤耐性カセットやネガティブ選択に用いるジフテリア毒素遺伝子カセットなどをあらかじめ組み込んだ汎用ベクターを用いて、BACクローンでのRED/ET組み換え法、さらにラムダファージの組み換え系を利用して多種類のDNA断片を一時に結合して相同組換えベクターを作成する。この方法の特徴は、これまでベクター作成時に問題になっていたDNAライゲーションのステップを用いないので、特別な訓練を受けていない学生や技官にも出来るところにある。第2に、ES細胞での相同組換え効率を高めるために薬剤耐性カセットを改良した。UPA-trap型ターゲティングベクターを用いることで、薬剤耐性コロニーの中に占める相同組換え体の割合を上げることができた。これらの技術改良は、遺伝子改変マウスを迅速かつ安価に作成する上できわめて重要なものである。また、本研究では各種細胞選択的にCreリコンビナーゼ発現するマウスを作製した。海馬CA3錐体細胞で特異性高く組替えが惹起できるGRg1Creの他、海馬CA1錐体細胞選択的なCP14、小脳プルキンエ細胞のD2CRE、小脳顆粒細胞に選択性の高いGRe3iCre、ほぼ全ての顆粒細胞にCreを発現するTiam1Creである。これらCre発現マウスは特定研究「統合脳」の班員のみならず広く脳研究をおこなう研究者に提供する予定である。
著者
松野 健治
出版者
東京理科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

外部形態が左右相称な動物においても、その内臓器官は、左右非対称性を示すことが多い。本研究では、ショウジョウバエの消化管にみられる明瞭な左右非対称性に注目した。我々は、内臓器官の左右非対称な三次元構造の形成を制御する遺伝的経路を理解することを目的とし、遺伝学的解析手段が駆使できるショウジョウバエを用いた遺伝的スクリーンによって、消化管の左右性に関与する遺伝子を網羅的に同定することにした。消化管の左右性に異常を示す突然変異体のスクリーンを行った。3000系統のトランスポゾン挿入突然変異体を対象としたスクリーンによって、消化管の左右性に異常を示すいくつかの突然変異体の同定に成功した。同定した突然変異体のなかでも、消化管組織の分化には影響がみられず、高頻度で逆位が観察されるものに注目した。このうち、特に有望なものが、souther(中・後腸が同調して80%の頻度で逆位)、hidarikiki(中・後腸が同調して50%の頻度で逆位)、single-minded(前・中・後腸が非同調的に30%の頻度で逆位)、puckered(前胃のみ50%の頻度で逆位)、foregut inversus-1、-2、-3(それぞれ、前腸が30%の頻度で逆位)である。これらのなかでも、souther突然変異のホモ接合体胚では、胚の中・後腸の形態が野生型の鏡像になった(80%の頻度で逆位)。このとき、消化管組織のマーカー遺伝子の発現を調べると、組織分化は正常に起こっていた。southerは、ホモ接合体で生存可能であり、ホモ接合体成虫の外部形態や生存能力には顕著な異常がみられないが、消化管や精巣の左右性が逆転していた(100%の頻度)。southerは、胚発生期の消化管と、変態過程で再構築される成虫の内臓器官の左右性に不可欠であることから、左右非対称性の制御に中心的な機能をはたす遺伝子であると予測している。
著者
奥乃 博 中臺 一博 駒谷 和範
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

ヒューマノイドと人間との柔軟なコミュニケーションのために,混合音を聞き分け理解する機能を設計することを目的としている.平成15年度は,前年度開発をした方向情報や話者情報などの複数のレベルで視覚と聴覚を統合したアクティブ方向通過型フィルタ(ADPF)の高性能化,及び,ADPFを使用した音源分離システムと音声認識システムのインタフェース化を行い,簡単な3話者同時発話認識を,複数のロボット上に実現した.また,日本ロボット学会に「ロボット聴覚」研究専門委員会を設立した.(1)アクティブ方向通過型フィルタ(ADPF)の散乱理論による高性能化:画像と音から得られる話者の方向情報を基に,特定の方向からの音を分離するADPFでは,2本のマイクロフォンで得られる入力音から求めた両耳間位相差と両耳間強度差を用いて方向情報を得ていた.聴覚エピポーラ幾何に加えて散乱理論により頭部音響伝達関数の近似精度を向上させた結果,30度以上の周辺領域で音源定位と音源分離性能を大幅に向上させることができた.さらに,2種類のヒューマノイドロボット,SIG2とReplieに実装し,本手法の一般性を確認した.(2)3話者同時発話認識(聖徳太子ロボットの予備実験):昨年5月に放映された「鉄腕アトムを作る」(NHK)では方向と話者に依存した音響モデルを使用し3話者同時発話認識を行っていた.ADFPで得られる分離音は,周波数成分での特徴量が欠け,時間成分でのデータも喪失しているので,単一の音響モデルで済ませるために,ミッシングフィーチャ理論に基づいた音声認識システムを開発し,演繹ミッシングマスクにより,分離音の認識精度が大幅に向上することを確認した.(3)音一般の認識と対話システムへの展開:音声を用いた柔軟な対話システム構築のために,音声認識誤りに確信度を導入し,不要な問い合わせを解消する方法を開発した.また,非音声認識のために,楽器音認識と擬音語認識にも取り組み,単音について認識技法を確立した.
著者
中村 春作 市來 津由彦 田尻 祐一郎 前田 勉
出版者
広島大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

本研究で私たちは、東アジアにおける社会統治・統合と自己修養を語る普遍的な「言葉」として大きな力を有した儒学言説が、中国宋代、日本江戸前期において、どのようなプロセスで社会的意味を持つに至り、人間理解の基盤を形成したかを、個々の言説形成の型を対照比較することを通して、明らかにしようとした。以上の課題に即して、儒学テキストが、実際いかに「読まれ」血肉化したかという点から「訓読」論という新たな問題領域を開発し、他方、経書の一つ『中庸』を取り上げ、その多様な解釈の姿を明らかにした。
著者
永田 和宏 細川 暢子
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

小胞体関連分解の分子機構について、多くの新しい知見を得た。まずEDEMという新規因子を発見し、これがカルネキシンの下流にあって、ミスフォールドしたタンパク質の糖鎖を認識して分解へまわす機構を提唱した。EDEMは小胞体ストレスで発現誘導され、IRE1-XBP1経路で誘導される初めての因子であることも明らかになった。EDEMの分子機構をさらに研究する過程で、 EDEM結合因子として新規小胞体還元因子をも同定し、研究はさらに発展することになった。サイトゾルにおけるポリグルタミン(polyQ)タンパク質の凝集は神経変性疾患などにおいて重要な関わりを持つが、その凝集阻止にサイトゾルシャペロニンCCTが関与していることを示した。CCTはβシートを持つタンパク質のフォールディングを助けるが、その認識部位を明らかにし、さらにβシートに富むpolyQタンパク質の凝集を直接結合することによって阻害できることを示した。特に、FCSなどの比較的新しい方法を用いて、CCTがpolyQタンパク質のオリゴマー形成を阻止しているらしいことも明らかにし、凝集阻止機構を考える上で大切な知見となった。永田らが発見したコラーゲン特異的分子シャペロンHsp47についても、ノックアウト細胞を用いた解析から、Hsp47がコラーゲンの三本らせん構造形成に必須であることを明らかにしたほか、分泌されたコラーゲンが線維形成をできないことを示し、繊維化疾患の治療ターゲットとしてHsp47が有望であるという確証を得た。
著者
松田 厚範
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

今年度は、高温相を持たない硫酸水素カリウム(KHSO_4)とリンタングステン酸(WPA)の複合体をミリング処理により作製し、得られた複合体の構造および導電率をCsHSO_<4->WPA系複合体と比較し、ヘテロポリ酸-硫酸水素塩系複合体の構造とプロトン伝導性について検討を行った。χKHSO_<4->(100-χ)WPA複合体の無加湿条件における導電率の導電率は、KHSO_4含量によって大きく変化した。WPA(χ=0)およびKHSO_4(χ=100)の無加湿条件下における伝導性は低く、100℃での導電率はそれぞれ、1×10^<-7>S/cmおよび5×10^<-6>S/cmの値であった。しかしながら、KHSO_4含量が80mol%以上になると、導電率が上昇し、χ=90および95の複合体では、160〜50℃の範囲で1×10^<-2>〜1×10^<-3>S/cmの非常に高い導電率を維持することがわかった。伝導の活性化エネルギーは23kJ/molと見積もられ、先に報告した90CsHSO_<4->10WPA複合体よりも低いことも明らかとなった。超プロトン伝導相を持たないKHSO_4とWPAの複合体が、高温超プロトン伝導相を持つCsHSO_<4->WPA系複合体と同様に、室温から160℃程度の広い温度範囲で高いプロトン伝導性を維持したことから、WPAのケギンアニオンPW_<12>O_<40>^<3->とKHSO_4あるいはCsHSO_4のHSO_4^-アニオンがブレンステッド酸-塩基対の形で水素結合を形成することが導電率の向上に関係していると考えられる。以上の結果より、中温無加湿条件下で高いプロトン伝導性を示す材料を合成するには、オキソ酸とヘテロポリ酸の間に形成される、水素結合ネットワークを設計することが、本質的に重要であり、必ずしも超プロトン相が関与する必要はないことが実証された。
著者
足立 幸男 竹下 賢 坪郷 實 松下 和夫 山谷 清志 長峯 純一 大山 耕輔 宇佐美 誠 佐野 亘 高津 融男 窪田 好男 青山 公三 小松崎 俊作 飯尾 潤 飯尾 潤 立岡 浩 焦 従勉
出版者
関西大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

環境ガバナンスを支える民主主義の理念と制度について検討をおこない、その結果、以下の点が明らかとなった。第一に、適切な環境ガバナンスを実現するには、将来世代の利害に配慮した民主主義の理念や制度のあり方を生み出す必要がある。第二に、政治的境界と生態系の境界はしばしば一致しないため、そうした状況のもとでも適切な環境ガバナンスが実現されるような制度的工夫(いわゆるガバナンス的なもの)が必要となるとともに、民主主義の理解そのものを変えていく必要があること。第三に、民主主義における専門家の役割を適切に位置づけるためにこそ、討議や熟議の要素を民主主義に取り込む必要があるとともに、そうした方向に向けた、民主主義の理念の再構築が必要であること。第四に、民主主義を通じた意識向上こそが、長い目でみれば、環境ガバナンスを成功させる決定的に重要な要因であること、また同時に、それを支える教育も必要であること。以上が本プロジェクトの研究成果の概要である。
著者
樋口 岳雄
出版者
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本研究の最終目標は、B_s中間子のJ/ψ中間子とΦ中間子とへの崩壊を利用し、時間に依存した解析手法によってΔГs/ГsやCP非対称パラメータを決定することである。データサンプルが高統計になった場合の検出器の応答のモデル化が非常な難題であることが判明し、研究計画期間内に最終目標に至ることはできなかったが、研究過程で検出器の応答の精密なモデル化に成功した。時間に依存した解析手法の研究では、B中間子の崩壊点の決定結果とその誤差をどう解釈するかが精密測定の要である。これは検出器の応答が正規分布を示さないため、誤差自体も信頼性の低い値となるからである。本研究において、崩壊点の決定結果に付随するX^2パラメータを修正した物理量の考案と導入によって、B_d中間子の崩壊モードによらずに崩壊点の決定誤差を訂正できるモデルを発見した。これは分岐比の小さい崩壊モードの検出器応答を、任意の崩壊モードを用いて決定できるメリットを意味する。このほか、B_d中間子の二次崩壊粒子のうち有限の寿命をもつ粒子が与える崩壊点決定への影響の新しい評価方法の提案や、ΔzからΔtを求める場合の運動学的により正しい計算方法の発見など、種々の新しい成功をおさめた。そのうえで、ここれらのモデル化と改良によって、Belle実験が収集した全Y(4S)共鳴のデータを用い、CP非対称パラメータをS=+0.668±0.023士0.013、A=+0.007±0.016±0.013とこれまでの最高精度で決定することに成功した(本結果は現在出版準備中である)。本研究のここまでの成果を基に、引き続き研究を続行する。
著者
前島 正義 中西 洋一
出版者
名古屋大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

本研究は,新規プロトンポンプとしての液胞型H^+-ピロホスファターゼ(H^+-PPase)に焦点をあて,その分子構造と酵素機能の作動機構を解明し,分子構築と反応機能に関する明確なモデルを提案すること,ならびにH^+-PPaseの細胞生物学的機能解明を目的とした。この目的のために種々の先端的解析手法を用いた。一次構造上の特定アミノ酸残基の機能上の役割を明らかにするために、分子生物学的手法により特定部位に変異を導入し,基質加水分解,活性発現におけるK^+要求性,基質分解とH^+輸送との共役反応に対する影響を検討し,精密な膜内配向構造を明らかにし,かつ基質分解に関与するアミノ酸残基を特定した。これらの結果は,膜トポロジーモデルとして論文発表し,多様な生物のH^+-PPaseを理解する基本構造として認知された。本研究ではH^+-PPaseの高次構造を直接観察する結晶解析を推進してきた。現時点では,まだ十分なサイズの結晶を得ることに成功していない。しかし,結晶形成に最適な,活性型酵素のみを認識する抗体断片の調製に成功し,これを用いて,高純度の活性型^+-PPaseを大量精製するステップまで到達した。現在,これを試料として結晶形成の条件検討を進めている。さらに,H^+-PPaseのプロトン輸送能を直接測定するため,酵母へのH^+-PPase遺伝子導入,酵母巨大化,巨大液胞を用いたH^+-PPase機能のパッチクランプによる測定,という実験システムを確立した。また,H^+-PPase遺伝子の欠失株を取得し,詳細に分析をしたところ,変異株は小さいのみならず,液胞膜H^+-ATPaseが活性化されていることも見出した。これはH^+-PPase欠失を補完する植物のしなやかな応答であると推定される。
著者
木南 英紀 横沢 英良 鈴木 紘一 田中 啓二 中西 重忠 水野 義邦
出版者
順天堂大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

特定領域研究「蛋白質分解-新しいモディファイアー蛋白質による制御-」(平成12年度〜平成16年度)が終了したので、その成果をとりまとめ、研究成果報告書を文部科学省に提出した。本研究のテーマとした細胞内の主要な蛋白分解システムであるユビキチン・プロテアソームシステム研究とオートファゴソーム・リソソームシステム研究は、研究期間の5年間に大きな進展が見られた。ユビキチン・プロテアソームシステム研究では、このシステムが広く生物・生命現象に関わることが定説となった時点で、一昨年ユビキチンの基質蛋白質への結合反応の発見についてノーベル化学賞が贈られた。本特定領域研究で得られた成果は、その後のこの領域の生物医学的研究の発展に、極めて大きな貢献をした。また、日本発信の研究であるオートファジー研究では、本特定領域研究チームの研究成果は世界最先端を行っており、平成17年度においても世界に注目される成果が出されている。研究成果報告書の提出に加えて、この特定領域研究で得られた研究成果を社会の方々に広く知っていただき、より理解を深めていただくという趣旨で公開講座を平成17年12月24日に順天堂大学有山記念講堂で行った。「いきいきとした細胞、そして健康を保ために」というタイトルで、副題を「タンパク質分解の重要性」とし、5人の演者から世界トップレベルの研究内容をわかりやすく、面白く話していただいた。最後に5人の演者が登壇し、パネルディスカッションを行ったが、150人ぐらいの出席者の中から、次々と質問が出され、討論時間の30分はあっという間に終わった。細胞の中で蛋白質がつくられた後なぜ壊されなければならないか、蛋白質の分解が健康維持や病気の原因・進行にどう関与しているのかという疑問に対する科学的な説明は、かなり理解していただいたように思えた。蛋白質分解の研究領域が益々発展することを祈念する。
著者
金藤 敬一 高嶋 授
出版者
九州工業大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
1999

導電性高分子ポリピロール(PPy)は、電解重合成膜時の支持電解質調整により、全く相反する二つの伸縮特性、即ち陰極膨張性及び陽極膨張性を示すフィルムを作成可能なことが明らかとなった。これは、ドーピングに寄与するイオンの極性が反転したためとして説明付けられる。これらの相反的な変形を示すフィルムを各レイヤーとして二層構造に配置することにより、両層ともに伸縮活性なバイモルフ型アクチュエータが作成可能であることを見いだした。これは、PPy自立フィルムの両面における正負両イオンがシンクロ的に脱注入することが駆動源と見なされることから、従来型の単層・単イオン駆動型バイモルフアクチュエータと識別する意味で"バイアイオニックアクチュエータ(BIA)"と称される構造体である。従来、バイモルフアクチュエータは伸縮不活性な支持層と伸縮活性な伸縮層との間での自然長変化による共有接合界面での大きな変形ストレスが駆動因子である。ここに提案するBIAは、(1)両層とも伸縮活性であり、同一ポリマーをホストとした断続的な電解重合法により二層構造を形成させるために(2)シームレスな界面を形成するといった特徴を有しており、剥離性問題が無い強靭な接合界面はまた、駆動寿命を飛躍的に増大させる可能性を有している。従って、BIAは、バイモルフ型ソフトアクチュエーターとしてより理想的な駆動機構を有する構造体であり、導電性高分子の有するフィルム変形の機能性を十分に生かした構造体として、今後高い応用性が期待される。