著者
金保 安則 横関 健昭 船越 祐司 長谷川 潤 杉本 里香
出版者
筑波大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

低分子量G蛋白質Arf6を介するシグナル伝達機構とその生理機能、およびそのシグナル伝達の破綻に起因する疾患との関連の解明を目的として、分子・細胞・個体レベルで解析を行った。その結果、(1)Arf6はリン脂質キナーゼPIP5K・を活性化して神経スパインの退縮を制御していること、(2)Arf6は、肝臓の発生と腫瘍血管形成に重要であり、Arf6をターゲットとした抗ガン剤の開発が可能であること、(3)Arf6はJNK相互作用蛋白質を介して神経突起の伸長とブランチングを制御していることを明らかにした。
著者
佐藤 毅彦 児島 紘 高橋 庸哉 前田 健悟
出版者
熊本大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

本研究は、IT世紀の理科学習ツール「インターネット天文台・気象台」を開発・設置、教育実践に活用し効果を挙げてゆくことを目標としている。本年度は、熊本大学にインターネット天文台を設置、首都圏に既存の二基と合わせて教育利用を推進した。互いに近接した既存の二基と地理的に離れた後続天文台が渇望され、熊本大学インターネット天文台はまさにそれに応えるものとなった。また、北日本に天体ライブ映像を配信するためのサーバーを、北海道教育大学の札幌校に設置した。熊本大学教育学部附属中一年の理科で、インターネット天文台を利用した授業を行った(平成14年12月)。屋上で天体望遠鏡を使い実際に太陽面を観察した後、インターネット天文台を操作しての太陽面観察とした。インターネット経由の天体観察自体、子供連には初めての経験であり、それは印象的なものであった。黒点の移動を調べるための前日・前々日を含めインターネット天文台をフルに活用し、この実践例から、「各地のインターネット天文台を相互利用することで、天候条件に左右されがちな天体観察の授業を、計画通りに進めることができる」という利点があらためて確認された。星が月に隠れる「星食」現象を捉え、教育学部学生対象に観測会を実施、熊本と関東とで現象に30分もの時間差があることを体験してもらった(熊本と首都圏のインターネット天文台を併用)。教員志望学生のこうした体験は、将来の小中高における教育を豊かにしてゆく大切な要素である。インターネット気象台と、「定点2000」観測点(ライブカメラ含む)、アメダス観測点などインターネット上の気集情報を組み合わせた教材を用い授業実践を行った(平成15年1月、学部生卒業研究の一環)。「青森は雪だった」「高知の天気は予想と違った」など、子供達が主体的に取り組みながら各地の天気の違いを学ぶ様子が見られ、一定の成果を挙げることができた。特定領域内においては、複数の研究と連携が動き始めたところである。その強化は、今後の発展課題である。
著者
山本 和生
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

酵母CAN1遺伝子について突然変異を見ると,haploidの場合は1x10^<-6>の頻度で,diploid hetrozygousな場合は,1x10^<-4>の頻度となる。従って,diploidでは,DNA複製に依存した間違いによって突然変異が生じ,diploidの場合は,組み換えや染色体喪失などdynamicな染色体の再構成がその原因であることが分かった。次に,染色体喪失生成機構を知るために,DNA損傷性の突然変異は誘発しないが,発がん性を持つ化学物質を用いてその作用機構を調べた。用いたのは,o-phenylphenol(OPP)等の代謝物について,酵母でaneuploidyを強く誘発することが分かった。OPPの代謝物で酵母を処理した場合,1)塩基置換などの突然変異は誘発しない。2)aneuploidyの頻度は10^<-3>のオーダーとなる。3)酵母β-tublinと結合し解離作用を阻害する。4)FACS観察では,細胞周期をG_2/Mで止める。4)蛍光顕微鏡の観察では,M期後半で細胞周期を止める。OPPによる細胞分裂阻害をすり抜けた細胞は,ある確率で染色体喪失を生じる。CINは次の突然変異やCINを促すことで,更に次の変化を促し,発がんに至る。従来発がん機構の説明として,がん抑制遺伝子やprotooncogeneの突然変異が蓄積してがんが生じるという説(がん突然変異説)がある。現実のがんを見るとがん突然変異説で説明できない場合が大変多い。その一つとして.DNA損傷は作らない化学物資による発がんがある。本研究で,そのような化学物資の代表として,OPPを取り上げ,naeuploidyによって,その作用を及ぼすことを明らかにした。がんaneuploidy説の開幕である。
著者
若尾 政希
出版者
一橋大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

近世人はいかに思想形成してきたのか。その契機として注目されるのは書物である。なぜなら17世紀は、この列島で初めて商業出版が成立・発展し、版本・写本が流通した時代、「書物の時代」の開幕を告げた時代であった。もちろん我々の思想形成を考えれば、それが書物知だけで行われるわけではないことは留意する必要はあるが、書物を抜きにはそれがあり得ないのも事実である。書物が思想形成・主体形成にどのような役割を担ったのかを解明することは意義があろう。くわえて近年の、書物を史料とした近世史研究の新動向が、この研究を行い得る環境を準備してくれたことも指摘しておく必要があろう。文書史料に加えて書物をも組み入れて歴史を叙述できるレベルにまで、近世史研究は到達している。本研究では、これをさらに一歩進め、書物の内容を分析し書物がもつ思想性・政治性を明らかにすることによって、書物が個々人の思想形成にどのような意義を有したのか、追究した。、具体的には、軍書、医薬・天文暦書を取りあげた。なぜならこれらは全国各地のどこの蔵書にも見ることができるものであり、さらに言えば民衆だけでなく領主層の蔵書にも見ることができる、最もありふれたものであるからである。いったい軍書や医薬・天文暦書とは、読者にとって何だったのか。こういった書物の読書は思想形成・主体形成といかに関わるのか。軍書と医薬・天文暦書を考察対象とすることによって、領主層から民衆までの広い層の教養形成・主体形成をも視野にいれることができるのである。結論的に言えば、私は、軍書である『太平記評判秘伝理尽鈔』の受容を通じて、その政治思想・理念が領主層から民衆までに共有されることによって近世社会の「政治常識」が形成されたという仮説を提起した。また、軍書に加えて、医薬書・天文暦書も、政治常識の形成に関与するとともに、近世人の思想形成に大きな役割を果たしたことを明らかにした。
著者
飛田 和男
出版者
埼玉大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

歪みのある混合スピンダイヤモンド鎖ハイゼンベルグモデルにおいて次の研究を行った。1.一様な歪みの場合A)基底状態でフラストレーション誘起フェリ磁性相とハルデン相の存在を数値対角化で示した。B)フラストレーション誘起部分フェリ磁性状態では、密度行列繰り込み群により磁化プロファイルを調べ、量子化フェリ磁性相・部分フェリ磁性相の存在を確認した。C)歪みのない場合に得られる厳密解に基づき部分フェリ磁性の低エネルギー有効理論を構成した。2.交互歪みの場合A)並進対称性が自発的に破れたハルデン相の秩序パラメータを定義し、密度行列繰り込み群を用いて、これらの相と一様なハルデン相の間の相転移のユニバーサリティクラスを明らかにした。B)歪みが弱い場合について低エネルギーの有効理論を構成した。3.交替歪みの場合A)歪みのない場合と同様厳密に基底状態を構成できることを示した。B)歪みの強いとき、並進対称性のやぶれを無限回くりかえす相転移を経て一様ハルデン相に至ることを、共形場理論やクラスター展開を用いて示した。
著者
石黒 慎一 神崎 亮
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

プロトン性イオン液体(PIL)中には解離性のプロトンが過剰に含まれる.PILを電気化学デバイスへの組み込みや酸塩基反応媒体として応用する場合、溶存するプロトンの状態を知ることが不可欠である.本研究では、様々なPIL中における酸塩基性や酸塩基反応メカニズムについて、熱力学的手法をベースに明らかにすることを目標とした.【PIL中の酸塩基反応】EAN中におけるα-アラニンのカルボキシル基の酸解離定数を電位差滴定法によって調べると3.95であり、水溶液中(2.33)より大きかった.このことは、EAN中におけるH^+供与体がHNO_3であり、水溶液中(H_3O^+)より強酸であることを反映すると考えられる.すなわちEANは酸性溶媒に分類される.しかしながら、他にもいくつかの化合物の酸解離定数を決定したところ、そのシフト幅は一様ではなく、広い範囲の化合物の測定が必要である.【PIL中の溶媒和】PIL中では自己解離平衡が起こっており、自己解離定数pK_<IL>はPILの酸塩基性を示す指標となる.幅広い陽イオン・陰イオンの組み合わせからなるPILについてpK_<IL>を決定すると、水溶液中から見積もられた対応する物理量ΔpKaに対しpK_<IL>=ΔPKa-2に近い値であった.しかし、PIL中におけるこの反応のエンタルピー・エントロピー変化を調べると、水溶液中とは大きく異なっていた.酸塩基反応は化学種の電荷の増減をともなうため、PIL中と水溶液中では溶媒和状態が大きく異なるためだと考えられ、PILの酸塩基性を水溶液中の情報から予測することが困難であることが示された.
著者
川田 善正
出版者
静岡大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本研究では、アキシコンプリズムを用いた新しい表面プラズモンの励起法を提案するとともに、表面プラズモンを局在化させて、高いクウカン分解能をもつ表面プラズモン顕微鏡を実現し、局在プラズモンによる新しい結像理論を構築することを目的として研究を進めてきた。円錐形状のアキシコンプリズム側面で表面プラズモンを励起し、それらをプリズム先端まで伝搬させ、プリズム先端に大きな電場増強を実現することが目的である。特に提案手法の有効性を検証するために、フレネルの多層膜反射計算手法から最適なプリズム形状を設計し、実際に試作した。金属には金を仮定し、ガラス基板上にコートするクロムと金薄膜の最適膜厚、プリズムの頂角を設計した。試作したプリズムにレーザー光を入射し、プリズム側面で表面プラズモンが励起され、反射光が減少することを確認した。表面プラズモンはp偏光によってのみ励起されるので、入射光の偏光状態回転させることにより、反射高強度の減少する方向が変化することを確認した。また、蛍光薄膜を試料として用い、表面プラズモンにより、蛍光を励起することを試みた。本実験は、近赤外レーザー光を用いた2光子励起による蛍光発光である。さらに、全反射の際に生じるエパネッセント波を用いて、プリズム先端と試料との距離を制御するシステムを開発した。試料表面に局在化するエパネッセント波をプリズム先端で散乱させ、その強度を測定することにより、数ナノメートルの分解能で試料とプリズムの距離を制御した。
著者
野口 恵美子
出版者
筑波大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

小児アトピー性喘息患者942名vs成人コントロール2370名の55万SNPの全ゲノム関連解析を行った。55万SNPのうち、常染色体に存在し、かつminor allele frequencyが0.01以上のSNPは453,047個であった。さらに、コントロールにおけるHardy Weinberg平衡がP<0.0001である1,170SNPを除外し、最終的な解析データとした。一次解析におけるGenomic Inflation factorは1.053であった。アレル頻度の比較では、6番染色体短腕のHLA領域で強い関連が認められた(P=7.7×10-9)。そのほかにも2番染色領域、12番染色体領域にP<1×10-7が存在した。HLA領域のSNPと小児アトピー性喘息との関連については独立した症例対照サンプルおよび家系サンプルにおいても追認されている(P<0.05)さらに健康成人76名を対象としてHuman 610Quadを使用してタイピングを行い、別の研究成果として得られているCD4陽性T細胞およびCD14陽性モノサイトの網羅的遺伝子発現データ(イルミナHuman Ref8)と遺伝子型データを統合したデータベースの構築を情報支援班の支援を受けて作成しており、今後公開予定としている。
著者
箱嶋 敏雄
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

1) ERMタンパク質とMT1-MMPとの相互作用昨年度に決定したMT1-MMPの細胞内領域とFERMドメインとの複合体構造に基づいて,ビオチン化したペプチドを用いた結合領域の限定や厳密で定量的な結合実験を,BIAcoreを用い手検討して論文作成の準備を進めた.2) Tiam1/Tiam2の結晶構造Tiam1/Tiam2のPHCCExドメインの結晶構造に基づいて,結合タンパク質であるCD44、Par3,JIP2,あるいはephrin B1,2,3やNMDA受容体との相互作用部位の特定の結合実験を行った.その結果,酸性残基に富む2つの配列モチーフを発見した.また,PHCCExドメイン表面の塩基性残基の一連の変異実験をして,CD44などの標的タンパク質の結合部位を同定した.更に,培養細胞を用いたin vivoでの実験で,相互作用の重要性を確認した.これらの成果をまとめて論文を作成して出版した.3) Tiam1/Tiam2-CD44、-Par3,-JlP2複合体の結晶化と構造解析上記の結晶構造研究に用いたTiam1やTiam2のPHCCExドメインと,標的タンパク質であるCD44、Par3,JIP2,あるいはephrin B1,2,3との複合体の結晶化を試みた.タンパク質比,タンパク質濃度,温度等も変化させながら,現有ロボット(HYDRA-II)を使って大規模なスクリーニングを試みたが,構造解析に用いられる結晶は得られなかった.
著者
横山 泰 生方 俊
出版者
横浜国立大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

フォトクロミズムに伴って生成する二つの安定な状態が、可視部に吸収を持たないような熱不可逆ステルスフォトクロミックシステムを、短段階の合成経路で合成した。さらに、100%のジアステレオ選択性で光環化するジアリールエテン、非常に高い量子収率で光環化するビスチアゾリルインデノン誘導体の合成を行った。また、スピロオキサジンの光着色体から無色体への熱戻り反応を架橋ポリシロキサンにペンダントして行うと、溶液中同様の速い速度で戻ることを示した。
著者
高木 博史 大津 厳生
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

大腸菌にはシステイン(Cys)をO-acetylserine sulfhydrylase A(OASS-A)によりO-acetylserine(OAS)とSO_4^<2->から合成する経路1と、OASS-BによりOASとS_2O_3^<2->から生成するsulfocysteineを介して合成する経路2が存在する。これまでに経路1の制御機構の解除を中心としたCys生産菌の育種が続けられてきたが、経路1だけでは合成系の強化にも限界がある。一方、経路2はsulfocysteineからCysへの還元に関わる酵素やその制御機構が未解明であるが、経路1と比べ硫黄同化経路でのエネルギー消費が少ないため、その知見を発酵生産へ応用することで、Cys生産性の向上が期待できる。まず、経路1のOASS-A遺伝子(cysK)と経路2のOASS-B遺伝子(cysM)を破壊した二重欠損株を作製したところ、予想通りCys要求性を示したことから、大腸菌のCys生合成経路には1と2しか存在せず、二重欠損株ライブラリーを用いた解析が可能であることが判明した。現在、Keio collectionとcysK破壊株を接合させた二重欠損株ライブラリーを用いて、Cys要求を示す菌株を単離し、新規経路に関与する遺伝子の探索を行なっている。また、すでに高等動物において、glutaredoxin(Grx)がsulfocysteineをCysに還元する反応を触媒することが報告されている。そこで、大腸菌に存在する酸化還元酵素がsulfocysteineからCysへの還元活性を示すかどうかについて評価した。9種類の酸化還元酵素にHisタグを融合した組換え酵素を精製し、酵素活性を測定した。その結果、Grx1,2,3はsulfbcysteineのCysへの還元を触媒することが明らかになった。さらに、in vivoでの効果を確認するために、これら酸化還元酵素をそれぞれ過剰発現させたCys生産菌を構築し、S_2O_3^<2->を硫黄源としたCys生産実験を行った。その結果、Grx1及びGrxと相同性の高い還元酵素NrdHの過剰発現株では、Cys生産量が有意に増加(20-40%)しており、これらの還元酵素の過剰発現がCys発酵生産に有効であることが示された。
著者
中野 実
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

脂質ナノディスクの構造とダイナミクス脂質ナノディスクはリン脂質とアポリポタンパク質A-Iとの複合体であり、生体内で見られる新生HDLと同じ構造をもち、薬物のキャリアとしての応用も検討されているナノ粒子である。dimyristoylphosphatidylcholine(DMPC)を構成脂質とするナノディスクについて中性子小角散乱及び栄光法によって構造評価を行ったところ、ナノディスク中のDMPCはベシクル中に比べ、密に充填されていることが明らかになった。脂質のナノディスク間移動速度をTR-SANSによって評価したところ、ベシクル間移動よりも約40倍も促進されており、しかもエントロピーの増加を伴うことが判明した。すなわち、脂質の高密度の充填が、膜のエントロピーの低下をもたらし、脂質の膜解離プロセスを有利にすることが明らかとなった。脂質ナノディスクの構造変化Palmitoyloleoylphosphatidylcholine(POPC)のような不飽和リン脂質でナノディスクを調製すると、脂質/タンパク質比に応じて大きさの異なる3種類の粒子(流体力学的直径9.5-9.6nm、8.8-9.0nm、7.8-7.9nm)が得られることが判明した。小さい2種類のナノティスクはDMPCなの飽和リン脂質膜や、コレステロールを高濃度含む膜からは生成しなかった。Dipyrenyl-PCのエキシマー蛍光とdansyl-PEの蛍光寿命から、小さい粒子では大きい粒子に比べ、アシル鎖領域の側方圧の減小と脂質頭部付近のパッキングの上昇が生じていることが判明した。これらの結果より、大きい(9.5nm)ナノディスクの脂質二重層は平面構造をとるのに対し、小さいナノディスクでは鞍状曲面を形成することが明らかとなった。
著者
星野 聖
出版者
筑波大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

舞踊や手話動作に見られるような,ヒトの比較的複雑な随意運動や順序運動の多くは「見まね」により獲得される.上肢動作の見まね学習においては,第一に,網膜に映った他者3次元上肢運動の2次元写像映像から3次元運動を復元する過程第二に,自己上肢の各筋肉のどれを,どのような時間的タイミングで,どのような強度で収縮させるかのパターンに変換する過程,の少なくとも2過程が必要である.また特に手指動作の見まね学習では,第三に,サイズが小さいにも関わらず形状が複雑で自己遮蔽が多く,しかも大きな空間を動く手指3次元動作の2次元映像から,高速かつ高精度に形状推定を行う過程も必要となる.このような制御上の不良設定問題を持つ問題や,生理学レベルでの情報処理機構が不明な対象に対しては,生理学的に等価な工学システムを設計し,それを操作して入出力関係を検討することにより,脳の情報処理の一端を伺い知ることが可能となる.本課題では,(1)エアシリンダを使ったヒト型ロボットアームの設計,(2)ヒト型ロボットハンドの設計,(3)単眼CCDカメラによる上肢3次元動作の推定システム設計,(4)非接触的方法による手指形状の実時間推定システムの設計,(5)データグローブによるロボットハンド制御,などを行った.(1)と(2)により実証研究のためのハードウエア的基盤を作り,(3)と(4)により上肢や手指の3次元運動推定,(5)により手指制御を実験的に検討して,動作の見まね学習機構の理解に迫った.開発したヒト型ロボットハンド1号機は大きさと重さがヒト手指と同程度で,しかも拇指以外の4指間の開閉ができるため,手話や舞踊動作といった「情報発信」が可能である.同ハンドを使って,ダイナミクスや自由度数が異なるデータグローブでの遠隔操作に成功し,前提となった自由度低減や自由度合成の知識を,次課題の「見まね」(非接触的方法)での動作再現に活用した.
著者
明石 孝也
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

LaCoO_3系材料は、固体酸化物燃料電池の電極やNO_x分解触媒などに応用される。これらの用途のためには、大きい表面積を持つことが望ましく、ゾル-ゲル法や溶液噴霧法などの様々な方法で、数十〜数百nmの気孔を持つメソポーラス材料が合成されている。しかし、メソポーラス材料では表面エネルギーを駆動力とした粒成長が起こりやすく、高温で長時間安定に存在することが難しい。そこで、本研究ではメソポーラス複合酸化物中にナノ単酸化物粒子を分散させることにより、高い粒成長抑制効果と優れた電極特性を同時に発現させるために、CoOナノ粒子を分散したメソポーラス(La, Sr)CoO_3膜の粒成長機構を解明し、粒成長抑制のための指針を設計した。ゾル-ゲル法を用いて、CoOナノ粒子を分散したメソポーラスLa_<0.6>Sr_<0.4>CoO_<3-δ>膜をGd_2O_3ドープCeO_2焼結体基板上に作製し、La_<0.6>Sr_<0.4>CoO_<3-δ>膜の1273Kにおける粒成長速度を評価した。粒成長速度の酸素分圧依存性と粒成長の式による解析により、約50nmの初期粒径を持つLa_<0.6>Sr_<0.4>CoO_<3-δ>膜の粒成長は、拡散律速ではなく、界面反応律速で進行していることを明らにした。ナノ〜サブミクロンサイズの粒径をもつ(La, Sr)CoO_<3-δ>膜の粒成長抑制には、粒界の偏析層を制御し、空間電荷層を横切る陽イオンの移動を抑制することが重要であるという設計指針を確立した。
著者
前田 良知
出版者
独立行政法人宇宙航空研究開発機構
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

最近の研究から、Low metalicityな環境で生まれたWolf-Rayet星がガンマ線バーストの前駆星の最有力候補として注目されている。ガンマ線バーストは超新星の爆発エネルギーが爆発前に撒き散らされたWoif-Rayet windに追いつくことで外部衝撃波を立て、残光としてX線等が放射されている可能性が考えられる。またそのスペクトルはその周りを囲うWolf-Rayef windによる吸収を受ける。したがって、ガンマ線バーストの前駆星の星風の解明が、ガンマ線バーストの理解を推し進める重要な因子になっている。我々は、はえ座θ型星のWC型の星風のアパンダンスを測定し、C/N(炭素/窒素)比が太陽組成を桁で超えることを見つけた。WC星を親星とするガンマ線バーストが発生した時には、この炭素と酸素の吸収を受けることが予想される。したがって、ガンマ線バーストの吸収構造を調べることで、その前駆星の起源が検証できることを観測的に立証した重要な観測結果であると考えている。また、この連星は周期19日の連星と思われていたが、我々の特性X線を用いたドップラー解析で周期130年以上の3番目の伴星が存在することがわかった。一例であるが、Wolf-Rayet星の連星率が高い可能性を支持する結果であり、我々が推進しているX線の分光観測がWolf-Rayet星の連星率の導出にも有効であることを示唆している。
著者
本多 利雄
出版者
星薬科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

生体機能分子の探索・創製においては、その誘導体合成をも容易にするような簡便かつ効率的な合成法の確立が強く望まれる。古来より、イソキノリン類やインドール類を始めとするアルカロイド、さらには多くのテルペン類には興味ある種々の生理活性を示す化合物が知られている。しかしながら、それらの合成においては多段階を要したり、また複雑な試薬や反応条件等を必要とするものが多い。今年度の研究においては、我々の開発したヨウ化サマリウムによる位置選択的炭素-窒素結合開裂反応を鍵反応として用いることにより、α、α-二置換アミノ酸であるデオキシダイシベタインのキラル合成および強力な鎮痛活性を有するアファノルフィンのキラル合成に成功した。アファノルフィン誘導体の簡易合成法の確立は、今後オピオイド受容体選択的鎮痛薬の探索に有用な手段を提供するものと考えられる。また、コバルトカルボニルを反応剤とするエンイン環化を鍵反応として、潜在的鎮痛薬として期待されるインカルビリンの立体選択的合成も達成することが出来た。本合成はオピオイドとは異なったメカニズムを有する新たな鎮痛薬の開発に繋がる可能性を秘めている。上記合成は用いた試薬の特性を有効に活用したものである。一方、海洋産物の一種として単離されたウピアールはビシクロ[3.3.1]ノナン骨格を有する特異なテルペンである。本化合物の合成においては、アリルシランの分子内カルボニルーエン反応を基盤とすることにより、15工程、総収率10%以上で目的を達成することが出来た。この反応はパラトルエンスルホン酸を用いるという極めて温和かつ効率的なものであり、今後の更なる発展が期待できるものである。
著者
荒川 泰彦 三浦 登 濱口 智尋 三浦 登 冷水 佐尋 難波 進 池上 徹彦 荒川 泰彦 森 伸也
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
1999

本特定領域研究プロジェクトは、日英の優れた材料開発、特徴ある測定手段、理論グループの支援を総合的に融合して、ナノ構造デバイスに関する物理的基礎研究の飛躍的進展を図り、これを背景に次世代の光・電子デバイスの可能性を提示することを目的として、1999年から5年計画で日英の相互交流、共同研究を主眼として遂行された。わが国と英国のこの分野における第一線の研究者が重要な知見を挙げ、プロジェクトとしての成果を十分達成した。本年度は、5年間の研究の総括を行うために、ナノ物理およびナノエレクトロニクスに関する日英国際シンポジウムをわが国で開催することを活動の主眼とした。総括班メンバーは、領域代表者および計画研究代表者からなる。なお、三浦、濱口は、プロジェクト実施期間中にそれぞれ東京大学と大阪大学を定年になったため、荒川および冷水に交代している。具体的には、これまでの研究活動の総括として、ナノ物理・ナノエレクトロニクスに関する日英国際シンポジウムを、【日英ナノテクノロジーシンポジウム-物理から情報素子およびバイオまで-】として、平成17年3月16日(水)に東京虎ノ門パストラルで開催した。この会議では、英国のこの分野における主要メンバーを招聘するとともに、わが国の第一線の研究者である特定領域メンバーが中心となりプログラムを構成した。講演者は、L.Eaves教授(University of Nottingham)、安藤恒也教授(東京工業大学)、D.A.Williams博士(Hitachi Cambridge Laboratory)、M.Skolnick教授(University of Sheffield)、荒川泰彦教授(東京大学)、J.M.Chamberlain教授(University of Durham)、原田慶恵室長(東京都臨床医学総合研究所)であった。また若手研究者によるポスター発表も行われた。有意義な情報交換を行うとともに、日英研究協力の将来の発展に向けて討論が行われた。
著者
岡ノ谷 一夫
出版者
千葉大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

鳥類のうち、鳴禽に属する種は、種間コミュニケーションに使う音声を2段階の学習によって獲得する。まず、成鳥の歌を聴き、聴覚的記憶を形成する時期があり、それに続いて、自分で発声しながら、発声パターンと聴覚記憶とを照合させる過程である。こうした過程を経て学習された歌はある程度定型的だが、鳴禽類の一種、ジュウシマツにおいてはある種の文法規則で表現できる可塑性を持っている。ジュウシマツは東南アジアの野鳥コシジロキンパラを家禽化した種である。コシジロキンパラの歌は、ジュウシマツとは異なり線形で定型的である。2種を使って親を入れ替える実験を行った結果、この2亜種間の歌の違いは、学習のちがいのみならず、生得的な学習可能性の違いであることが、私たちの研究でわかってきた。さらに、ジュウシマツの歌制御神経系の一部(NIf)を破壊することで、複雑な歌が単純化することから、この部位が文法生成に関連していると予測される。ジュウシマツとコシジロキンパラのNIfは、光学顕微鏡のレベルでは違いが見られず、容量にも差がない。このことから、分子レベルで違いを検出する必要がある。NIfの遺伝子発現の違いが、文法のありなしを決めているとの仮説を立て、マイクロアレイを使ったスクリーニングを行うことにした。初年度は、ジュウシマツとコシジロキンパラの成鳥オスの脳を薄切し、それぞれの切片から5つの歌制御神経核を切り出し、cDNAライブラリーを作成した。
著者
佐藤 啓文
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

1.分子内の構造揺らぎを扱うためには、相互作用点モデルに基づく記述が便利である。しかしながら、このモデルは距離空間(Distance Geometry)内での表現であるために、現実の三次元空間との対応が必ずしも容易ではない。このために相互作用点モデルを用いると直感的な理解がしばしば困難になる。典型的な例は溶媒和構造を表す動径分布関数である。これは一次元方向への射影であるために、実際に「どんな水和構造か」という視覚的な理解と常に単純に結び付けられる訳ではない。そこで、我々は相互作用点モデルによる結果(動径分布関数の組)を、通常の三次元空間内の分布関数へ変換する新しい方法を提案した。この方程式では、溶質分子を構成する各原子を中心とした球面調和関数等の角度依存する基底関数系で分布関数を展開する。その結果、単純な線型方程式を解けばよく、従来の類似法で必須となる繰り返し計算等を避けて、簡便に三次元分布関数を決定できる特長がある。また、液体の積分方程式理論はもちろんのこと、分子シミュレーションや散乱実験の解析にも利用できる可能性がある。2.典型的な量子化学的立場では、分子間相互作用は、波動関数・電子分布に基づいて議論される。一方、分子シミュレーションなどの古典的描像では、分子を構成する原子間の相互作用として捉えるほうが一般的であり、直感にも直接訴える。そこで、量子化学的な多体相互作用をMulliken近似に基づいて分解することで、量子化学的な分子間相互作用を原子を単位とした新しい表式を導いた。この方法は、今後構造揺らぎを扱う積分方程式理論を構築していく上で、重要な礎になると考えている。3.キサンチンオキシダーゼによる酸化反応について、量子化学計算や、周辺残基の効果を取り入れたQM/MM型の計算を行い、反応機構を解明した。その結果、従来理論計算によって提案されている機構は、計算手法や実験事実との整合性に問題があることが明らかとなった。
著者
新宮 学
出版者
山形大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

これまでの国内での文献調査に加えて、北京の国家図書館や台湾の国家図書館で行った文献調査により得られた新たな知見をもとに、研究成果の一部を論文「陳建の『皇明資治通紀』の禁書とその続編出版(一)」としてを公表した。論文では、第1に、皇明通紀の成り立ちと原刻本、および陳建の経歴と執筆意図について明らかにした。第2に、明朝における禁書指定の経緯について考察した。第3に、これまでの文献調査をもとに皇明通紀に関係する続編の全体像についてその概要を紹介するとともに、皇明通紀とその続編が盛んに出版される明末の社会背景やその読者層についても考察を加えた。皇明通紀は、元末至正十一年(1351)以来、王朝創設期の洪武40年間のことを記した「皇明啓運録」と、永楽から正徳年間にいたる8代124年間のことを記した続編とを併せて「通紀」の名を冠して合刻したものである。嘉靖三十四年(1555)に家刻本として刊行された。代々、科挙の郷試合格者(挙人)を輩出する家に育ったとはいえ、地方官の官歴しかない広東の陳建が本書を著したのは、祖宗の如き「盛世」に引き戻すべく社会秩序の再建を目指そうとする経世の志に基づくものであった。本書が禁書に指定されたのは、隆慶五年(1571)のことであり、この時期木版印刷による出版が空前の規模で拡大傾向を示す中で、王朝側が自らのプライオリティとしての「国史」編纂と出版に対して危機感を抱いたからであると考えられる。これまで嘉靖原刻本の存在は十分に知られていなかったが、台湾の国家図書館に収蔵する42巻本、12冊が、嘉靖原刻本の完本であることを現地での文献調査により確認した。ただ目録『国家図書館善本書志初編』では、『新刊校正皇明資治通紀』と著録されているが、本書のどこにも「新刊校正」と題する記載は見えず、かえって「皇明歴朝資治通紀」の題簽5件の存在を確認しえたので、『皇明歴朝資治通紀』前編八巻後編三十四巻と著録すべきである。またその残欠本(存13巻、5冊)が、東京大学東洋文化研究所の大木文庫に所蔵されていることを新たに発見した。