著者
北村 勝朗 生田 久美子
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

本研究が目指す理数科系領域の学習モデル構築に向け,(1)もの作りの体験を理数科系領域における学習の枠組みの中で再考し,理数科系領域の学習における教科の本質ともの作りとの関係構造を明確にする作業,及び(2)わざ職人を対象としたインタビュー調査によるもの作りの体験の描写,の2つの作業を実施した。まず,もの作りを再考する作業から得られた知見として次の2点があげられる。第1に,もの作りは,新たな発見に向けた工夫と反復が必要であり,そのために長い年月に渡る試行錯誤の体験が不可欠となる。第2に,そうした意味において,もの作りは理数科系教育の本質に大きく迫る探索活動と位置づけられる。次にインタビュー調査による体験の描写に関しては,厚生労働省による平成17年度現代の名工として表彰されたわざ職人から,次の基準により20名の対象者を選出した。(1)理数科系領域における卓越したわざを発揮している職人,(2)個人の持つ技能の卓越性がきわめて優れた技能として評価されている,(3)製造法等の開発の成果も高く評価されている,(4)現在,表彰を受けた技能に関わる職業に従事している,(5)後輩職人の育成も高く評価されている。また,職業能力開発局能力評価課による国際技能競技大会(国際技能オリンピック)日本代表者から,次の基準により12名の対象者を選出した。(1)平成17年度の国際技能オリンピックの日本代表選手として優れた成績をおさめている若手職人,(2)理数科系領域における技能オリンピックのわざ職人,(3)オリンピック大会においてわざを高く評価されている。以上の基準に基づいて選ばれた対象者に対し,インタビュー調査を実施した。分析作業の結果,わざ職人は,ものづくりを自身の体験として取り込み(意味の発見),徹底して追求し(探索的体験),自他が一体化される過程(知識の統合)によって構成されることが示唆された。
著者
芳賀 達也 市山 進 橋本 祐一
出版者
学習院大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

ムスカリン性アセチルコリン受容体M2サブタイプ変異体の結晶化・高次構造の解明を主目的とした。約8Aの回折点を示す結晶が再現的に得られる条件を見いだしたが、原子構造の解明には至らなかった。副次的課題として、ムスカリン受容体の細胞内第3ループがフレキシブルな構造を取ること、ムスカリンM4受容体の細胞内移行には2つ以上の機構が併存すること、ムスカリン受容体のリサイクリングに関わるモチーフの同定、などの結果を得た。
著者
宮崎 樹夫 伊藤 武廣 岩永 恭雄 両角 達男 小口 祐一 茅野 公穂
出版者
信州大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

I 教師・子供用ホームページの作成教師用ホームページで,教師がディジタルコンテンツを,3次元動的幾何ソフトを利用したカリキュラムに基づく授業用として閲覧できるとともに,単元「空間図形」の授業に応じダウンロードできる。また,子供用ページでは,3次元動的幾何ソフトのファイルと,ソフトの利用の仕方が示された動画が教師用のページとは別の構成で位置づけられている。これは,子供が授業や家庭などで空間図形を自ら学習することを支援するとともに,学校の授業では扱いきれない発展的な内容にふれる機会を提供し,空間図形に関する興味・関心を一層高めるためでもある。なお,ディジタルコンテンツは次の4種類である:単元『空間図形』(全14時間)の展開(HTMLファイル),3次元動的幾何ソフトを利用する授業(計6時間)の指導展開(HTMLファイル),授業で利用される3次元動的幾何ソフトのファイル,3次元動的幾何ソフトの利用の仕方が示されたフラッシュムービーホームページのアドレス:www.schoolmath3d.org/index.htmII 小・中学校・高等学校における"授業レシピ"の作成3次元動的幾何ソフトは,空間図形が関わる学習内容に広く利用できるものである。そこで,小・中学校及び高等学校において,このソフトをいかすことができる学習内容を特定し,その内容に関して,授業をどのように展開すればよいのか,また,その授業のなかで3次元動的幾何ソフトをどのようにいかしていけばよいのかを"授業レシピ"のホームページとして提供している。このページでは,授業のアイデアや具体的な進め方とともに,教師が利用するとよい3次元動的幾何ソフトのファイルや,そのファイルの使い方を示した動画なども配置されている。
著者
多賀 茂 中川 久定 中川 久定 多賀 茂
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
1999

多賀-18世紀においてもフランスでは、いまだ自国の文学を固有の伝統を持つ一つの集合体として見る考え方は一般的ではなかった。いわば「フランス文学史」という観念はいまだ一般的には成立していなかったのであり、古代ギリシア・ローマの古典とそれに対するヨーロッパ近代の古典という図式のほうが支配的であった。ところが、史上初めて「フランス文学史」と名乗った文献は17世紀にまでさかのぼる。エリート的学問層の集団であり、批評術的歴史研究の中心であったベネディクト派修道会によって編纂が開始されたフランス文学史がそれである。ただしここには、文学史をさまざまな美的価値が連続的に現れては消える過程と見なす考え方はない。彼らにとって文学史とは、フランス語で書かれた文書のうち詩・小説・歴史・思想などの領域に属するものすべてが形成する集合体のことであった。中川-18世紀のフランス社会において、ギリシア・ラテンの古典はいったいどのような役割を果たしたであろうか。ディドロ・ダランペール編『百科全書』、パンクーク編『百科全書補遺』の初校目の分析を通して、次のようにこの問題の解明を行った。古代から18世紀にいたるヨーロッパにおいて生み出されたさまざまな著作のうち、「古典的」という修飾語を冠するに足りるものはどれであるかについての合意が成立したのは、18世紀半ばであった。他方、18世紀のフランス社会は、ギリシア・ラテンの古典を同時代的状況に適用する試みを多数生み出すことにも成功していた。たとえば、プラトンの『ソクラテスの弁明』は、ヴォルテール、ルソー、ディドロの3人によって、当時の状況に適応するような形で、独自の仕方で読み直され、解釈された。こうして、18世紀フランス社会は、古典を媒介とすることによって、ヨーロッパ文明の連続性を継承しつつ、しかも同時に自己革新をはかることに成功した特異な世紀であった。
著者
市川 正敏
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本研究は、細胞膜に代表される脂質二分子膜に於ける局所的な変形形状に働く力を、主に細胞サイズの小胞を実験系として用いて解明するのが目的である。脂質膜上に局所構造を作る一つの手段は相分離現象を利用する事である。相分離した膜面は条件によってはマイクロメーターサイズの凸凹を作る。相分離現象は一般に2成分以上の混合系で観察される。この膜面の相分離現象は生命現象に関わるラフトと関係が深いと言われており、基礎的な膜の物理を理解する事で生命現象の理解に貢献できると期待できる。本研究では、膜をレーザートラップによって直接的に力を測定する実験も実施し、直接的に測った力とベシクルの形態や局所構造の観察の両面から、局所構造が生む力を解明した。平成21年度は、前年度に構築した実験系を用いて行った混合脂質脂質ベシクルの伸張実験に続いて、相分離する混合脂質の伸張実験を行い両者を比較した。荷電混合脂質においては荷電密度が上昇すると共に表面張力係数が上昇し、曲げ剛性率はほとんど変化が無かった。一方で、相分離混合脂質系では、伸張時に相分離が誘起、進行させられる事が観察された。相分離が進行中に測定された力学プロファイルは荷電混合脂質でも得られた通常のプロファイルとは大きく異なり、相分離の進行や誘起を力学測定から検知する事が可能である事が明らかになった。これは、蛍光プローブ等を用いた観察的手法だけでなく、力計測からも相分離を測定できることを示すものである。この結果を論文として報告した。また、構築した装置を用いて脂質分子以外のソフトマテリアルの力学測定を行い、特徴的な力学的性質を明らかにした。
著者
板野 直樹
出版者
信州大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

骨髄や腫瘍におけるストローマはニッチとして造血幹細胞の支持や動員に働く"場"を提供しているとされる。そこで、本研究では、Hasヒアルロン酸合成酵素の遺伝子改変マウスを駆使して、ストローマの形成するヒアルロン酸細胞外マトリックスが、ケモカインと連携して造血幹細胞の動員に働く分子機序について検討し、以下の結果を得た。1) ヒアルロン酸産生腫瘍における造血幹細胞の動員増加ヒアルロン酸合成酵素2(Has2)のコンディショナルトランスジェニックマウス(Has2 cTg)の解析から、乳がんにおけるヒアルロン酸の増加が、造血幹細胞と考えられるKSL(c-Kit^+Sca-1^+Lin^-)の乳がん組織への動員を増加することを明らかにした。2) ストローマヒアルロン酸の欠損による造血幹細胞動員の抑制Has2のコンディショナルノックアウトマウス(Has2 cKO)からヒアルロン酸欠損線維芽細胞を樹立して、乳がん細胞との共移植実験を施行し、ストローマヒアルロン酸の欠損により、KSL細胞のポピュレーションが移植がんにおいて有意に減少することを明らかにした。3) ヒアルロン酸欠損によるケモカイン産生の抑制線維芽細胞におけるヒアルロン酸合成の欠損がケモカイン産生に与える影響を抗体アレイにより検討し、ピアルロン酸合成の欠損により線維芽細胞のCXCL12産生が減少することを明らかにした。以上の結果は、間質ヒアルロン酸がケモカインの産生を増加して、腫瘍内への造血幹細胞の動員にニッチとして働くことを示唆している。
著者
今堀 博
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

一般に、側壁への共有結合による化学修飾は、パイ共役性を破壊し、単層カーボンナノチューブ(SWNT)の電子状態を大きく変化させることが知られている。一方で、我々はこれまでに、SWNT側壁へのエノラートアニオンの環化付加反応、いわゆるビンゲル反応による修飾は、SWNTの電子状態にほとんど変化を起こさないことを実験的に見出した。本研究では、密度汎関数(DFT)法を用いて、ビンゲル反応修飾により得られるSWNTの構造や電子状態を理論的に考察した。ここで、チューブ軸に対して付加した3員環面が垂直あるいは垂直により近いものをType 1、平行あるいはより平行に近いものをType 2として表記する。Type 1およびType 2の(8,8)SWNTに対して構造最適化を行ったところ、Type 2では反応した側壁上の2つの炭素間の距離が1.57Aであるのに対し、Type 1では2.23Aとなり、結合の切断が示唆された。また、(10,5)SWNTを用いた場合にも、同様にType 1の場合に結合の開裂を伴うことが示唆された。さらに、無修飾およびType 1、Type 2のSWNTモデルに対して電子構造の考察を行ったところ、(8,8)および(10,5)SWNTのいずれにおいても、Type 1では、軌道のエネルギーが無修飾の場合と比べてほとんど変化せず、チューブ全体に電子が非局在化していた。一方Type 2では、付加基付近への電子の局在化が見られ、軌道のエネルギーが無修飾と比べて大きく変化していることがわかった。以上の結果とビンゲル反応修飾後に電子状態が保持されるという実験結果を考え合わせると、実験ではType 1の立体配置での付加反応が優先的に進行したと考えられる。今回、理論的結果とあわせて考察することで、SWNTの側壁化学修飾における結合様式の推定を行うことができた。
著者
寺本 吉輝 中野 英一
出版者
大阪市立大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

広い範囲に降ってくる宇宙線を観測するための宇宙線観測ネットワークを構築した,観測装置は4台のシンチレーション検出器がら構成されるものを学校や科学館の屋上に置き,そこで検出された宇宙線空気シャワーをパソコンに取り込み,インターネットで大阪市立大学のサーバーに送って,そこから各サイトに観測データを配送するシステムを作った,これを連続的に稼動させて長期連続観測を始めた,いままで高校のネットワークはファイヤーウォールにさえぎられ,高校からデータを発信することが出来なかったが,大学にハイパーテキストトランスポートプロトコル(HTTP)のサーバーを置いてこれに対して高校側から交信することにより,高校からデータ発信が出来るようになった.宇宙線がこの装置で検出される頻度は各サイトあたり1分間に3現象程度であるので,全部のサイトを合わすと1年間に1000万現象ほどになる.現在までに取ったデータを解析した結果,ネットワークを通してデータ収集してもバイアスなくデータが取れていることが確認された.また2つのサイトで同時にくる現象を調べたところ,現在の統計精度では明確な現象の過剰は見られない.3つのサイトで同時にくる現象については,姫路高校と大手前高校と科学館に来た宇宙線現象のなかに1ミリ秒以内に来たものがあり,これはランダムに宇宙線が来ると仮定した場合よりも統計的に有意に多い,今後観測をつづけて統計的有意性をさらに高めたい.高校生の理科への興味を高めるための活動としては,高校への訪問・講義,高校の文化祭への出展,などを行った,高校での主な活動は科学クラブによるものである,また総合教育のテーマにも取り上げていただく予定をしている.また,高校の科学クラブが活動の一環として,大学と共同で宇宙線観測を行っていること自体が高校生にとって励みになると考えられる.現在の装置は値段が高いので,将来に向けて値段の安い装置を作る開発をはじめた.特にシンチレージョン検出器は高いので,これにかわる高抵抗板検出器を試作して,これが実用的に使えるかテストしている.この開発での最大の問題はガス封入型高抵抗板検出器の寿命である.現在までのところ1年程度は問題なく使えている.
著者
野田 政樹 江面 陽一 早田 匡芳
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

癌の進展においては細胞の接着、及びインテグリンからのシグナルによる細胞の生存、増殖さらには活性化した細胞からのサイトカインの発現により骨の場合には局所のマクロファージや前駆細胞の活性化からはじまる破骨細胞の分化とその活動性の亢進がおこる。このような一連の骨に転移させる活性の高い細胞における転移のメカニズムの解明を目的とし、悪性黒色腫のマウスB16細胞についての検討を行なった。マウスB16細胞の細胞接着とその形態を観察する目的で、まず、細胞における接着反分子の解析について検討した。その結果、細胞接着反のAdhesion Complexの分子群を構成するCIZの発現がB16細胞において確認された。この発現は細胞質にあるとともにまた細胞接着反においても認められた。この分子の接着とのかかわりが推察された。悪性黒色腫の中でも特に転移活性の高いB16F10の細胞とその親株であるB16における細胞の転移活性と接着との相関を検討するとCIZのレベルがB16F10細胞において親株のB16との大きな相違が認められ、この相関が細胞転移活性に関与することが示唆された。更に、癌細胞の骨への転移によって生じる、骨の破壊に関わる破骨細胞の制御について検討を行った。この結果、破骨細胞においてはDicerの特異的なカテプシンKcreに基づくノックアウトより骨量が増加すること、海綿骨の厚さの増加がみられることが明らかになった。この転移のおける破骨破壊をもたらず破骨細胞の分化のレベルの低下は細胞において内因性であり、コンディショナルノックアウトマウスの骨髄細胞の破骨細胞への分化も抑制が観察された。以上の研究成果は悪性黒色腫の骨への転移とその骨における腫瘍に基づく骨破壊の主たる細胞である破骨細胞のメカニズムを明らかにしたものであり、今後これらの分子を抑止する薬剤の探索など癌の転移に対する対策の基盤となる起点が確立された。
著者
梶浦 晋
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

東アジアにおける仏典開版の歴史や流布の研究のため、国内外で調査をおこなった。日本においては、京都大学人文科学研究所、京都国立博物館、大谷大学図書館、東京大学東洋文化研究所、国立国会図書館、静嘉堂文庫、大東急記念文庫、お茶の水図書館成簣堂文庫、根津美術館、建仁寺、北京の中国国家図書館、北京大学図書館、台北の国家図書館、故宮博物院文献館等収蔵の宋元版等の調査をおこなった。日本における金版大蔵経の収蔵情況および流通についてあきらかにした。お茶の水図書館所蔵の高麗刊『大般若波羅蜜多経』巻第巻第第二十一第二百七十六は、元官版大蔵経と密接な関係があり、漢訳大蔵経刊行史上重要な遺品であることを確認し報告した。京都大学人文科学研究所所蔵の宋・金・元版仏書は、調査を完了し、目録および主要な典籍の解題の作製中である。中国国家図書館、国家図書館、故宮博物院文献館等では、『妙法蓮華経』『金剛般若経』など、主として単刻の仏典を調査おこない、日本伝存の宋元刊本との相異点などについて研究を進めた。上記調査を行った機関の所蔵本や各種目録を参考にして、内外の図書館や研究機関あるいは寺院所蔵の、中国および朝鮮半島開版の古版仏典所在リストの作成し、本科研の報告書に「日本現存宋金元版仏典リスト(暫定版)」として収録した。
著者
前川 禎通 森 道康 家田 淳一 安立 裕人 高橋 三郎 大江 純一郎
出版者
独立行政法人日本原子力研究開発機構
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は、磁化運動に伴う電圧生成の新原理「スピン起電力」に関する量子論的基礎を確立し、現象の解明と新機能を有する磁気デバイスの開発を目的とする。主な成果として、スピン起電力の数値計算アルゴリズム開発を行い、強磁性体中の局在磁化ダイナミクスとスピン起電力の関係を明らかにした。特に、磁気渦運動によるスピン起電力の解明、非一様磁性細線中の磁壁移動を用いた外部磁場印加不要なスピン起電力の解明、強磁性共鳴を用いたスピン起電力の連続発信、スピン起電力を用いた磁気ヘッドの発明などを行った。
著者
乾 健太郎
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

商品やサービスなど, 指定されたトピックに関連する個人の経験の記述をWeb文書集合から収集し, 述語項構造に基づく表現形式に構造化するとともに, 事態タイプ(ポジティブ/ネガティブな出来事・状態, 入手・利用等の行為など)や事実性情報(当該事態の時間情報とそれに対する話者態度)といった意味情報を解析する経験マイニングを開発した. 20年度の具体的成果は次の4点である.(1)評価極性知識獲得の大規模実験 : 事態タイプのうち, とくに「遅刻する, 炎症が治まる, 錆が出る」など, 評価極性を持つ出来事に関する知識の獲得に注力し, 大規模なWeb文書コーパスからこれを獲得する実験を行った. その結果, コーパスのサイズを大きくすると, 獲得できる知識の精度, カバレッジともに劇的に向上に, 最終的に1.6億文のコーパスから75以上のカバレッジを85以上の精度で獲得できることが確かめられた.(2)事実性解析モデルの洗練 : 事実性解析については, 2007年度の成果をベースに, 事実性タグ体系の見直しと訓練データの拡張を行った. また, 文中で隣接する事態表現の事実性の間に依存関係があることに着目し, これをFactorial CRFでモデル化することによって解析精度を向上させることができた.(3)公開デモサイト「みんなの経験」の開発 : 以上の成果を利用し, 文書集合から実際に経験情報を抽出し, データペース化するシステムを開発するとともに, これを最近1年半分のプログ記事(約1億5千万記事)に適用し, 約5千万件の経験情報からなる経験データベースを構築した. このデータベースは, 今年度新たに開発した公開デモサイト「みんなの経験」で検索できるようになっている. 同サイトは, プログデータの利用契約の締結に時間を要したが, 2008年12月上旬に無制限一般公開できる運びになっている.(4)民間への技術移転 : 大手Webポータルサイト「@nifty」を運営するニフティ株式会社と連携し, 同社のサービス業務に経験マイニングの技術を導入する準備を進めた.
著者
池上 高志 嶋田 正和
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

ロボットの制作/シミュレーションとハエの自律運動の解析を通じて、人工と自然のシステムにおける自律性の意味を考えるのが、このプロジェクトの目的であり、2009年は、生物システムと工学システムの双方に重要な「ロバストネス」に注目し、LEGO Mindstormを使った実験と、自走する油滴システムを用いた化学実験を行った。1) ロボットに関しては、グリッドに仕切ったアリーナの各点から始めて、目標にたどりつけるかを調べた。その結果、光に頼るのが一番ロバストで、音と光の両方を使うことでむしろロバストネスは減少した。音にノイズを加えたときには、光も信号として使うことで音だけよりもロバストとなった。2) 油滴の実験はサイズ依存性を調べた。油滴はあるサイズ付近で形が変形しはじめ、より前進運動を好む馬蹄形に変形することが観測された。またさらにサイズを増すことで、複雑な振動モードを示すことも分かった。
著者
阿形 清和 中村 輝
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

本研究では、全能性・多能性をもつ幹細胞や生殖細胞の制御にRNAがどのように関わっているのかを明らかにすることを目標としている。特に、幹細胞や生殖細胞の細胞質に、なぜ巨大なRNA-タンパク質複合体があるのか、その必然性と生物学的な意味について明らかにすることを目標とした。近年の研究は、それらの巨大RNA-タンパク質複合体が翻訳制御に関与している可能性と、核内のクロマチン構造を制御している可能性の2つを示唆している。共同研究者である中村らは、ショウジョウバエを使って生殖細胞における翻訳制御の重要性を遺伝学的・生化学的に示すことに成功した。一方、プラナリアにおいては、幹細胞で発現しているRNA結合タンパク質について網羅的に調べたところ、細胞質に存在するものと核内に分布するものの両方があり、それらをRNAi法で機能解析したところ、他の遺伝子の発現に影響を与えるものや、幹細胞そのものが消失するものが得られた。これらの結果は、幹細胞の制御にRNAが多岐にわたってダイナミックに関わっていることを示唆しており、今後は生化学的なアプローチを組み入れて解析していくことが必要であることが明らかとなった。
著者
萩谷 昌己 横山 茂之 陶山 明 浅沼 浩之 藤井 輝夫 ROSE John 村田 智 岩崎 裕 吉信 達夫
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

形態変化するDNA分子の設計方法:萩谷は、連続ヘアピンからなる分子マシンに関して、ヘアピンの配列を変化させたときに、3連続ヘアピンから成る分子マシンの挙動がどのように変化するかを調べた。分子マシンの光制御を目指した光機能性超分子の構築:浅沼は、これまでとは逆に「cis-体で二重鎖形成、trans-体で解離」というスイッチングが可能な光応答性DNAの設計と実現に成功した。ヘアピンとバルジによる並行計算:萩谷は、Whiplash PCRの熱力学的な解析と、状態遷移の効率化(Displacement WPCR)を行った。レトロウィルスによる並行計算:陶山は、二つの正帰還と一つの負帰還反応から構成されたオシレータをRTRACの基本反応を用いて構築した。シミュレーションにより発振可能な条件が存在することを確かめた後、実装を進めた。翻訳系による並行計算:横山は、翻訳システムを利用した「オートマトン」を動物細胞(培養細胞)内でも構築することを目標に、非天然型アミノ酸が細胞に与えられた場合にのみ活性化され、サプレッサーtRNAにアミノ酸を結合するような酵素(アミノアシルtRNA合成酵素)を用いることにより、サプレションを制御する機構を構築した。DNA Walker:萩谷は、DNA Walkerの構築に向けて、温度、pH、光の三種類の入力によって駆動する分子マシンに関する予備実験を行った。特に、これらの三種類の入力の独立性について調べた。マイクロチップのための微量液体制御機構の開発:藤井は、液滴操作に必要な周辺技術等の整備を進め、オンデマンド式で液滴の生成・合一の操作が可能にした。また、本技術を用いてDNAとPNAのハイブリダイゼーション反応と電気泳動による反応産物の分離操作をデバイス上で実現した
著者
半田 直史 小林 一三
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

微生物ゲノムに修復されないDNA二本鎖切断が残されると細胞死を起こす。そのため大腸菌から高等生物まで、DNAの二本鎖切断に対して相同組換え機構などの手段を備えている。大腸菌がゲノムにコードするDNA切断酵素としてI型の制限酵素があるが、この酵素は特定のDNA塩基配列を認識してもそこでDNAを切断しないでDNAをたぐり、別の酵素分子に邂逅した所でDNAを切断する。私たちは、この不思議な現象が正常なDNA複製をモニターし、異常があれば複製フォークを切断して、ゲノム、あるいは細胞の生死をコントロールする事を示唆する実験結果を得た(Nucleic Acids Res印刷中)。II型制限酵素が、その遺伝子を失った細菌のゲノムを切断して殺す「分離後宿主殺し」に関して、その細胞死への抵抗手段として、細菌から高等生物まで広く保存されている相同組換え経路(RecF経路)が重要であることを示した(Microbiology印刷中)。さらに、多くのタンパク質が同時に働くことが遺伝学的な解析から知られていた、この大腸菌のRecF経路による二本鎖DNA切断を修復を試験管内再構成実験で初めて成功した(Genes Dev印刷中)。また、RecBCD酵素によってプロセスされたDNAを引き継ぐRecAタンパク質については、RecAタンパク質と蛍光タンパク質(GFP)との融合タンパク質を精製し、その生化学的特徴を詳細に解析した。実は野生型のRecAタンパク質にGFPを融合させると酵素機能は消失する。そこで私は、これまで研究から活性が向上していることが知られている変異RecAタンパク質にGFPを融合することで、活性を維持したまま蛍光RecAタンパク質を得ることに成功し、これを1分子解析系に導入して、これまでに報告されている野生型RecAタンパク質の挙動と比較することができた(論文投稿中)。
著者
柚崎 通介 松田 恵子 飯島 崇利
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

成熟した個体の脳におけるシナプスの生成・消滅を支える分子機構については未だに不明な点が多い。その原因の一つは、成熟脳におけるシナプス形成や消滅は、数が少なく、かつ時間的に揃っていないことである。私たちはこれまでにδ2グルタミン酸受容体とCbln1分子が、発達時のみでなく成熟脳においてもシナプスの機能的可塑性と新規形成を制御することを見いだし、δ2受容体とCbln1シグナル経路を特異的に活性化ないし不活化する分子ツールの確立に成功した。これらの独自の分子ツールを活用することにより小脳と海馬をモデルとして、成熟脳におけるシナプスの機能的・形態的可塑性の分子機構を明らかにするとともに、これらの過程を外的に制御することを目指している。最近、δ2受容体のN末端部分をδ2受容体欠損動物の小脳に強制的に発現させると、わずか24時間以内に新たなシナプスが形成され、成熟後においても運動失調症状が劇的に改善することを見いだした(J Neurosci,2009)。また、組換えCbln1を小脳に注入すると、プルキンエ細胞樹状突起上の棘突起に特異的に結合すること(Eur J Neurosci,2009)、小脳における運動学習の成立過程を制御できること(投稿準備中)、も分かってきた。面白いことに、いったん成立した運動記憶については、平行線維-プルキンエ細胞シナプスが存在しなくとも、正常に想起でき、かっ消去できた。このように、記憶の各相における可塑性シナプスの移動機構の解明の糸口もつかみつつある。
著者
加藤 忠史 垣内 千尋 林 朗子 笠原 和起 窪田 美恵 福家 聡 岩本 和也 高田 篤 石渡 みずほ 宮内 妙子 亀谷 瑞枝 磯野 蕗子 小森 敦子
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

XBP1を持たない神経細胞では、BDNFによるGABA神経細胞マーカーの発現増加が減弱していた。また、XBP1の標的遺伝子であるWFS1のノックアウトマウスは、情動関連行動の異常を示し、変異Polg1トランスジェニック(Tg)マウスと掛けあわせると、Tgマウスの表現型を悪化させた。Polg1マウス脳内で、局所的に変異mtDNAが蓄積している部位を同定した。
著者
中畑 則道 守屋 孝洋 小原 祐太郎 斎藤 将樹
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

脂質ラフトはスフィンゴ脂質、コレステロールやスフィンゴ糖脂質などに富む細胞膜マイクロドメインであるが、受容体を介するシグナル伝達が効率的に行われる場としても重要であることが近年示唆されている。P2Y_2受容体はG_<q/11>と共役することが知られているが、本研究ではNG108-15細胞を用いて、P2Y_2受容体を介するシグナル伝達と細胞の遊走反応における脂質ラフトの役割について検討を加えた。NG108-15細胞を蔗糖密度勾配遠心法を用いてトリトンX-100に不溶性の画分を分離すると、そこの画分には脂質ラフトマーカーであるコレステロールやフロティリン-1、ガングリオシドが局在した。G_<q/11>およびP2Y_2受容体は部分的にこの画分に存在した。さらに、メチル-β-シクロデキストリン(CD)処理は、脂質ラフトマーカーのみでなく、G_<q/11>およびP2Y_2受容体もその画分から消失させるとともに、P2Y_2受容体を介するホスファチジルイノシトール水解反応や細胞内Ca^<2+>濃度上昇作用のシグナル伝達、さらにP2Y_2受容体を介する細胞遊走反応も抑制した。これらのP2Y_2受容体を介する反応は、G_<q/11>特異的阻害薬のYM254890によっても強く抑制された。一方、CDあるいはYM254890処理は、P2Y_2受容体を介するRhoの活性化を強く抑制した。Rhoの下流と考えられるストレスファイバーの形成やコフィリンのリン酸化反応もCDあるいはYM254890処理によって強く抑制された。しかし、G_<12/13>のドミナントネガティブを発現させてもP2Y_2受容体を介するRhoの活性化シグナルは抑制されず、本細胞においてはP2Y_2受容体刺激によってG_<q/11>を介してRhoの活性化が引き起こされ、それは脂質ラフトにおいて起こっている事象であると考えられた。すなわち、脂質ラフトはP2Y_2受容体を介するシグナル伝達において重要な役割を有することが本研究によって明らかになった。
著者
佐々木 岳彦
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

今年度は以下の項目に取り組んだ。<架橋型ビスイミダゾリウム金属塩の合成>C3アルキル基で架橋されたビスイミダゾリウム、フェニル基で架橋されたビスイミダゾリウムについても、Co, Cu, Ni, Znの四臭化物アニオンを対イオンとする塩として合成し、構造解析、物性測定を行った。金属イオンの周囲の局所対称性と融点の相関に関しては、Bmim塩の場合と同様の結果が得られた。<固定化イオン液体層の誘電率測定システム>固定化イオン液体層の固定化されていない対アニオンの運動性を測定することを目的として、誘電率測定システムの作成と、比較としてのイオン液体試料の温度依存性、周波数依存性測定を行った。その結果、緩和周波数の温度依存性に関して、再現性のある結果が得られた。また、固定化イオン液体に関しては、可動性の対アニオンが塩化物イオンの際には、イオン伝導度をほとんど示さないが、水を加える場合には、水の量に比例してイオン伝導度のリニアな上昇が観測された。この結果から、固定化イオン液体層のイオン伝導度が湿度センサとして使用できる可能性が示された。<ナノ粒子の形状制御>コバルト酸化物、水酸化物のナノ粒子の成長に関して、界面活性剤による環境の変化に関する影響を調べた。イオン液体の利用に関しては、顕著な効果を見いだすことができなかったが、Co304のナノ粒子の成長に関して、イオン性界面活性剤では、ナノキューブ、中性の界面活性剤では、ナノスフェア、極性溶媒分子では、菱形12面体の成長が見いだされた。