著者
田中 克己 チャットウィチェンチャイ ソムチャイ 田島 敬史 小山 聡 中村 聡史 手塚 太郎 ヤトフト アダム 大島 裕明
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

ウエブからの同位語等の概念知識の抽出,ウエブ検索クエリの意図推定・自動質問修正,ウエブ情報の信憑性分析,ユーザインタラクションやウエブ1.0情報とウエブ2.0情報の相互補完による検索精度改善に関する技術開発を行った.
著者
小川 正 熊田 孝〓
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

未知の問題に直面したとき、我々は試行錯誤をすることにより知識を獲得し適切に問題を解決することができる。しかしその過程における神経メカニズムについては十分に知られていない。この問題を調べるため、我々は試行錯誤を伴う視覚探索課題を開発し、前頭前野外側部(the lateral prefrontal cortex, LPFC)から単一神経細胞記録を行った。試行錯誤を伴う視覚探索課題において、サルは6つの異なる色刺激の中から1つの色刺激を選択しなければならない。選択された色刺激が、実験者が事前に決めた目標色であれば報酬(ジュース)が得られる。目標刺激の色は試行ブロックが変わるごとにランダムに変更されるが、サルには目標刺激の色、更新タイミングに関する情報が一切与えられない。このため、報酬のフィードバックにもとづいて試行錯誤により目標となる色刺激を探索する必要がある。サルは目標刺激の色が変更された後、通常、数試行にわたって目標以外の色刺激を選択するが、一度でも目標である色刺激を選択するとステップ状の正答率変化を示し、それ以後は90%程度の高い正答率を維持した。このようなステップ状の正答率変化は、知識ベースの学習であることを示唆する。学習が成立する前(試行錯誤期間)では異なる色刺激を次々に選択することが必要であるが、学習が成立した後(メンテナンス期間)では同一の色刺激を選択し続けることが必要となり、2つの期間で行動選択の方略が根本的に異なると考えられる。実際、試行錯誤期間とメンテナンス期間でLPFニューロンの神経活動を比較したところ、試行錯誤期間において特異的な活動を示し2つの期間を区別するニューロン群を見出した。このことから、LPFがオブザーバー的な役割を果たし、2つの期間で異なる方略を使い分けるための神経機構の形成に役立っている可能性が考えられた。
著者
森信 繁 宮本 和明 福田 浩
出版者
広島大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

1) 難治性うつ病の病態解明に関するBDNF遺伝子メチル化の解析対象は電気けいれん治療を受けた難治性うつ病群15例であり、治療前後での解析を行った。解析方法は、MassARRAYシステム(SEQUENOM)を用いた定量的メチル化解析法である。Exon 1のプロモーター領域にあるCpGアイランド内のメチル化の解析では、特に本治療によって特徴的に変化する部位は検出されなかった。Exon 4プロモーター及びexon 4内のCpGメチル化の解析でも、特に本治療によって特徴的に変化する部位は検出されなかった。Exon 1プロモーター領域のCpGアイランド内のメチル化の解析結果から、難治性うつ病群と未治療うつ病群を比較すると、難治群で低メチル化であるCpG32や難治群で高メチル化であるCpG4, 71などでのメチル化の程度の違いから、難治性うつ病群と未治療うつ病群は、異なったクラスターに分類される可能性が示唆された。2) 難治性うつ病の病態解明に関する拡散テンソル画像を用いた研究対象は難治性うつ患者8例・健康対照者6例であり、3テスラMRI装置(GE社製Signa Excite HD3.0T)を用い、頭部の拡散テンソル画像を撮像した。得られたデータからfractional anisotropy(以下FA)画像の作成を行った。患者群の前頭前野白質のFA値は健康対照群と比較して、AC-PC線20mm頭側の断面で、有意な減少が見られた。難治性うつ病群で前頭前野白質のFA低値がみられたことから、同部での微細脳構造の異常が示唆され、うつ病症状との関連が考えられる。今回の研究結果は、うつ病の難治化にBDNF遺伝子のメチル化の変化や前頭前野の白質構造の変化が関与していることを示唆していると思われる。
著者
宮内 敏雄 三宅 裕 店橋 護 梶島 岳夫 笠木 伸英 宮内 敏雄
出版者
東京工業大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

乱流要素渦を理解し,それらを工学的に応用することを目的として,宮内は,種々の乱流場の直接数値計算結果から,要素渦の特性が乱流場の種類やレイノルズ数に依存しないこと,高レイノルズ数乱流中ではクラスターを形成することを明らかにした.また,要素渦による微細スケールでのスカラー輸送機構とフラクタル特性を明らかにした.三宅・辻本は,壁乱流の大規模な直接数値計算により,壁近傍場が遠方場とは独立に普遍的性質を持つこと,遠方場は大規模なストリーク構造で特徴づけられることを明らかにするとともに,スパン方向に狭隘な領域の数値実験では横渦しか存在し得ないことを示した.笠木は,壁乱流フィードバック制御システムの実現に向けて,DNSを用いて研究開発を行った.乱流制御のレイノルズ数効果の評価し,実際のアプリケーションにおいても制御効果がほとんど劣化せず,また,円管内乱流でも既存の制御アルゴリズムが有効であることを示し,現在の測定技術でも壁乱流制御が可能である制御アルゴリズムを開発した.また,せん断応力センサ群,壁面変形アクチュエータ群からなる制御システムのプロトタイプを試作・評価を行った.梶島・太田は添加物または壁面操作,圧力勾配などによって変調を受けた乱流場の渦構造を直接数値計算によって調べ,固体粒子群の分布や回転,壁面植毛の効果,空間発展乱流場(拡大・縮小流路)の影響を要素渦の視点から明らかにした.店橋は,高レイノルズ数一様等方性乱流の直接数値計算結果から乱流要素渦の階層構造及びスケール間のエネルギー輸送機構を明らかにするとともに,SGSモデルの評価を行った.
著者
垣見 和宏 森安 史典
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

肝がんに対するRFA治療を受けた患者に対して免疫細胞治療を実施するために、in vitroにおける樹状細胞(DC)培養条件の最適化を検討し、肝がん患者に対する臨床試験の開始を計画した。腫瘍特異的な免疫応答を誘導するためにDCには、1.RFA治療により熱変性した腫瘍細胞をuptakeする能力、2.免疫応答を誘導するために必要なCD80, CD86などの共刺激分子の発現、3.リンパ節へのホーミングに必要なケモカイン受容体CCR7の発現、が必要である。そこで我々は、1.immature DCをOK432で刺激して2-6時間後のDC(maturating DC)は、OK432刺激を除いても、それ以降mature DCへの成熟過程が進行し、16時間後にはCD80, CD86, CCR7などの分子を発現すること。2.肝癌細胞Huh7 cellをRFA治療と同様の加熱条件(85℃で10分間)で熱変性させた後、さまざまな成熟段階のDCとover nightで共培養すると、maturating DCは、熱変性した腫瘍細胞を効率よく取り込むこと。3.さらにmaturating DCは腫瘍の取り込みによって成熟過程を妨げられることなくmature DCへと変化することを明らかにした。これらの結果に基づいて、肝がんRFA治療後に腫瘍局所内へ投与するDCは、GM-CSFとIL-4によって誘導した末梢血単球由来のimmature DCを、OK432を用いて2時間刺激したmaturating DCの状態で用いることに決定した。東京医科大学病院において、肝がんの治療を受けた患者を対象に臨床試験を実施するためにプロトコールを作成した。倫理委員会での承認を受け臨床試験を開始し、肝がん患者の登録を開始した。
著者
青木 淳賢
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

これまでのノックアウトマウスを用いた解析により、オートタキシンは発生段階の血管形成過程に重要な役割を有することが明らかになっている。しかしながらその詳細な作用機構は明らかでなかった。この問いに答えるために我々はゼブラフィッシュに着目した。ゼブラフィッシュは分子レベルでも哺乳類と血管形成過程が類似していることが示されている。我々は、オートタキシンが、ゼブラフィッシュにも高度に保存されていること、および、in vitroで発現させたとき、リゾホスファチジン酸産生活性(リゾホスホリパーゼD活性)を示すことを確認した。さらにオートタキシンに対するアンチセンスオリゴ(MO)を投与することでオートタキシンの機能抑制を行ったところ、ゼブラフィッシュにおいても顕著な血管形成異常が観察された。今後は各LPA受容体、並びにオートタキシンの基質産生酵素候補遺伝子に関して、血管形成異常を指標として機能的関連性を明らかにし、オートタキシンの血管形成過程における役割を分子レベルで明らかにされることが期待される。
著者
永井 健治
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本研究は、光照射によって、蛍光活性化する生理機能センサータンパク質を開発することで、生きた細胞内や個体内の、ナノからマクロに及ぶ、様々な空間スケールにおける生理機能を高感度に観察する手法を構築することを目的とした。昨年度に作製したPA-GFPとDsRedをFRETのドナー・アクセプターとして利用した光活性化型Ca^<2+>指示薬PA-cameleonは光活性化前の状態でもDsRedによる青色励起光の吸収により蛍光が観察されたため、光活性化の利点の1つである高いコントラストを実現することができなかった。その一方で、405nmのレーザーを照射し、PA-GFPを活性化すると、緑色の蛍光が現れ、リガンド刺激に伴う細胞内Ca^<2+>濃度の変化を捉えることができた。本年度はDsRed以外の赤色蛍光タンパク質や緑色光を吸収するが蛍光性の無い色素タンパク質を用いる事で光活性化によるコントラストのさらなる増加が実現できないかを検討した。その結果、試験管内、細胞内のいずれにおいても405nmの刺激光照射によって不可逆的に無蛍光状態から蛍光性を獲得することが確認され、刺激光の照射範囲をガルバノミラーなどで制御することで、培養ディッシュ上の特定の細胞にPA-cameleonを出現させ、その細胞内のCa^<2+>動態を高いコントラストで可視化することに成功した。さらに、ゼブラフィッシュ幼魚における特定の筋細胞の自発的収縮とCa^<2+>濃度の変化を同時に観察することにも成功した。本方法はCa^<2+>指示薬以外のFRET指示薬にも原理的には応用可能であるため、光活性化指示薬開発のための汎用的指針として、その利用が期待される。
著者
泉田 啓 飯間 信 平井 規央
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

蝶の羽ばたき飛翔は,生成される流場を環境とする,移動知の一例である.本研究では特に,羽ばたきにより創成される渦列流場という環境が安定化とマヌーバに与える影響という観点から,飛翔における蝶の適応的行動能力を発現するメカニズムを解析し,他の移動知にも共通する移動知発現の力学的共通原理の解明に貢献することを目指す.具体的には,(1)生体の蝶の感覚器(センサ)入力および身体の応答動作との関係,(2)蝶の安定飛行と状態間遷移飛行を実現する制御機構に環境(流れ場)がどのように影響するか,という2点を研究期間にわたり調査した.A. 生物学的アプローチアサギマダラ蝶を経常的に供給できるようにした.実験装置を構築して観測実験を行い,蝶の運動と空気力を計測した.可能な能動的動作を知るために,マイクロCTを用いて解剖学的理解を進めた.B. 工学的アプローチ飛翔安定化およびマヌーバビリティ(状態遷移能力)を探るために2次元数値モデルを構築し,大摂動に対する回復過程と、飛翔の数理構造の解析に基づいた遷移制御の研究を行っている.3次元数値モデルを構築し,実験観測データと比較して,数値モデルの妥当性や精度を検討した.また,羽ばたき飛翔の周期解の探索,渦列流場と翅の柔軟性が安定性に及ぼす影響について検討した.その結果,渦列流場と柔軟性が移動知の共通原理の陰的制御と捉えることができることが明らかになった.
著者
細谷 裕 波場 直之 尾田 欣也
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

標準理論を超える物理がLHCの実験で見えるか。ヒッグス粒子、フレーバー混合、ブラックホール生成の物理を鍵に、余剰次元の存在を検証できるか。これが本研究課題で追求する中心テーマであり、ゲージ・ヒッグス統合理論、フレーバー混合、ブラックホール生成を、主に余剰次元の観点からLHC実験への帰結に焦点をあて研究する。ヒッグス場の起源については、細谷機構により電弱ゲージ対称性をダイナミカルに破るゲージ・ヒッグス統合理論を中心に調べ、暗黒物質の正体に関わる宇宙論的帰結もあきらかにした。細谷達はRandall-Sundrum時空上で、現実的なクォーク・レプトンを含むSO(5)xU(1)モデルで、W,Zボゾン、ヒッグスボゾン,クォーク・レプトンの波動関数を決定し、電弱相互作用のゲージ結合の大きさ、湯川結合の大きさを決定した。前年度に、すでに、Aharonov-Bohm位相の値が量子効果により、90度となることが示された。このことを使い、ヒッグス場との3点結合は、厳密に零になることが明らかにされた。このことより、ヒッグスボゾンが安定になるという驚くべき描像が帰結される。さらに、その結果として、現在の宇宙の暗黒物質は実はヒッグスボゾンであるという可能性が生じ、WMAPのデータから決められた宇宙の暗黒物質の質量密度から、ヒッグスボゾンの質量が約70GeVと決定される。これらは、画期的な結果であり、今後、暗黒物質探索、加速器実験で更なる検証がなされるであろう。また、波場、尾田達は、5次元オービフォルド上で、ヒッグス場がある場合、ブレーン相互作用のために湯川結合が大きくずれることを示した。
著者
武藤 巧 丸山 敏毅 巽 敏隆
出版者
千葉工業大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

複数のK^-中間子が原子核内に束縛された状態(Multi-Antikaonic Nuclei,MKN)の性質を,相対論的平均場理論にカイラル対称性を具現するK中間子ダイナミクスを取り入れた理論的枠組に基づいて検討した。特に,前年度の結果を発展させ,媒質中のK中間子の性質に重要な寄与を与えると考えられる,A(1405)(A^*)の効果,及び陽子(p),中性子(n)小さな斥力をもたらすrange term (Second-Order Effect,SOE)をK^-N散乱実験と矛盾しないように取り入れ,A^*がMKNの構造に与える効果を明らかにした。結果は,A^*-poleの存在によってK^-p間の引力が大きくなり,SOEによってMKNの中心付近に局在するK^-中間子に陽子がより強く引きつけられる。一方,中性子はrange termからの斥力効果のために,陽子よりも外側に分布が広がる。このため,束縛されるK^-中間子の個数が十分に大きい場合,核子及びK^-中間子の密度が最大で3,5ρ0(ρ0は対称核物質の飽和密度)に達する高密度物質が得られ,また,外側の領域では中性子スキン構造が現れることによって陽子数と中性子数が異なる非対称核物質の性質に関する情報が得られることを示した。結果は国内外の学会を通じて口頭発表を行った。また,学術雑誌に発表,または執筆中である。課題として,MKNの存在と上記の性質を実験的に検証するための具体的な方法を確立すること,MKNのエネルギー,崩壊幅に影響を及ぼすと考えられるK^^-+N→π+A,π+Σ等の非弾性過程との結合効果,ハイペロンがMKN中に混在することによって,K^-中間子,核子,ハイペロンから構成される,更に深い束縛状態が得られる可能性を,相対論的平均場理論を拡張することによって検討することが挙げられる。
著者
梅澤 一夫 池田 洋子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

1)NF-κB阻害剤DHMEQの抗癌活性と接着因子発現阻害NF-κBの阻害剤は抗炎症剤、抗癌剤として期待され、私達はepoxyquinomicinの構造をもとにNF-κB阻害剤DHMEQをデザイン・合成した。前年度DHMEQがNF-κB活性化シグナルを核移行阻害という比較的下流で阻害していることがわかったので、今年度、恒常的にNF-κBが活性化しているヒト膀胱癌由来KU-19-19細胞を用いてEMSAを行ったところ、DHMEQは処理後2-6時間で阻害作用を示し、さらに今年度KU-19-19細胞でもNF-κBの核移行を阻害していることがわかった。さらにDHMEQはNF-κBが恒常的に活性化しているヒト前立腺癌JCA-1細胞においてもNF-κBを阻害することがわかった。またJCA-1腫瘍の増殖をヌードマウスで腹腔内投与により顕著に抑制することがわかった(Cancer Res.63,107-110,2003)。一方、NF-κBは血管内皮細胞の機能にも動脈硬化や転移の原因として作用している。DHMEQをヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)に作用させると、NF-κBの活性化を阻害し、ICAM-1,VCAM-1,E-selectinなどの接着因子発現を阻害した。さらにDHMEQはHUVECと初代培養ヒト白血球およびHUVECと固形癌細胞や白血病細胞の接着をshear stress(流れ)条件下でも阻害した。以上のことからDHMEQは動物実験で抗癌硬化を示し、さらに動脈硬化や転移への抑制効果が期待される。2)放線菌由来アポトーシス誘導物質IC101の生合成経路二次代謝産物生合成の研究は、遺伝子レベルの研究への発展や、新しい生理活性物質の発見に有用である。アポトーシス誘導物質IC101は異常アミノ酸を含む環状ヘキサデプシペプチド構造を有し、生産菌からどのようにIC101がつくられるのか興味深い。そこで13Cラベルアミノ酸等を用い、IC101の生合成経路の解析を行った。面白いことにC5 side chainはイソプレンの形をしているがLeuが取り込まれ、前駆体になっていることがわかった(J.Nat.Prod.65,1953-1955,2002)。
著者
片平 正人
出版者
横浜市立大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

Musashiタンパク質のタンデムな2つのRNA結合ドメインと標的RNAの複合体に関して、構造解析を行った。まずRNAとの結合状態にあるMusashiの2つのドメインの構造を、NOE等に基づいて決定できた。次に2つのドメインの相対配向を、残余双極子結合に基づいてイ決定した。さらに長さを変えた様々なRNAを利用する事でMusashiとRNAの間の分子間NOEの同定に成功し、それに基づいた複合体の構造決定を進行させた。常磁性緩和効果による惣ングレンジの構造情報の取得も試みた。テロメア配列のDNA/RNA結合タンパク質hnRNPA1のタンデムな2つの核酸結合ドメインが、テロメアDNA及びテロメレースRNAとどのような様式で相互作用するのかを明らかにした。これにより同タンパク質によるテロメレースのテロメアDNAへのリクルート機構に関する構造学的な基盤が得られた。またRNAi法を用いてhnRNPA1タンパク質及びhnRNPDタンパク質をノックダウンした細胞におけるテロメア長を測定する事で、両タンパク質の機能に直接迫った。ヒトのテロメアDNAが生理的なイオン条件下(カリウムイオンに富んだイオン条件下)において形成する特異な4重鎖構造の決定に成功した。これまで考えられていたものとは異なる新規構造が見出され、分子内の構造体でありながら、3本の鎖が平行に配置され、残り1本のみが反平行に配置されていた。
著者
郭 伸
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

孤発性筋萎縮性側索硬化症(ALS)脊髄運動ニューロンに見出された疾患特異的分子異常を再現する動物モデルであるコンディショナルADAR2ノックアウトマウスを用いて、運動ニューロンの脳神経核におけるADAR2ノックアウトによるCa^<2+>透過性AMPA受容体の発現と神経細胞死との関連を調べた。コリン作動性ニューロンが局在する脳神経核では、対照群では100%に保たれていたGluR2 Q/R部位のRNA編集率が90%以下に低下していた。細胞数算定により統計的に有意な神経細胞脱落が明らかになったが、外眼筋神経核では細胞脱落、グリオーシスが見られなかったことから、運動ニューロンはADAR2鉄損により細胞死に陥るが、外眼筋神経核の運動ニューロンはこのメカニズムによる細胞死に抵抗性であることが明らかになった。ADAR2のノックアウトによる運動ニューロン死は、未編集型GluR2をサブユニットに含むCa^<2+>透過性AMPA受容体の増加による細胞内Ca^<2+>濃度の上昇によると考えられる。外眼筋運動ニューロンではCa^<2+>結合蛋白であるParvalbuminの発現量が多く、Ca^<2+>流入によるCa^<2+>濃度の上昇が抑制されることが細胞死に抵抗性である一因であると考えられた。ADAR2ノックアウトマウスの脊髄のWestern blotting解析により、運動ニューロン死には、アポトーシス、それもミトコンドリア障害を介するintrinsic apoptosis経路よりextrinsic apoptosis経路の活性化、オートファジー経路の活性化の関与もあると考えられる。ADAR2ノックアウトマウスは、孤発性ALS様の神経細胞死を呈するので、細胞死カスケードを更に詳しく調べることでALSの病因解析のためのツールになると考えられる。
著者
木下 俊則
出版者
名古屋大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2009

フォトトロピンに制御される葉の横伸展と気孔開口へのFTの関与これまでの研究により、phot1 phot2二重変異体の葉の横伸展と気孔開度の復帰突然変異体であり、早咲きの表現型を示すscs 1-1変異体の原因遺伝子はELF3(EARLY FLOWERING 3)であること、さらに、この変異体では、花芽形成においてELF3の下流因子として機能することが知られているフロリゲンFTが孔辺細胞を含め植物体全体で顕著に高まっていることがわかり、FTが、葉の横伸展や気孔開口においても機能していることが示唆された。そこで、本研究では、FTを過剰発現(CaMV35S::FT)、表皮組織特異的(pCER6::FT)、または、主に孔辺細胞(pKAT2::FT)に発現させたphot1 phot2二重変異体の形質転換埴物を作製し、表現型の解析を行った。その結果、これらFT形質転換植物は、早咲きで、気孔が顕著に開口しており、気孔開口は細胞膜H^+-ATPaseの阻害剤により抑制された。さらに、孔辺細胞でのFTの発現を確認するためにpCER6::FT-GFPを作製した結果、孔辺細胞にFT-GFPが発現すると気孔が顕著に開口した。一方、FT機能欠損変異をもつft-1-GFPを発現させた場合は、気孔開口が誘導されなかった。また、葉の伸展では、表皮組織特異的にFTを発現させると葉は伸展するが(pCER6::FT)、主に孔辺細胞に発現させても葉は伸展しなかった(pKAT2::FT)。よって、表皮細胞でFTを発現させることが葉の横伸展に必要であることが明らかとなった。
著者
森田 公一 城野 洋一郎
出版者
長崎大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

本研究は現在アメリカなどで増加傾向にあるWest Nileウイルス(以下、西ナイルウイルス)感染症の効果的な予防法確立の基盤を確立するため、ヒト用ワクチンとしての組織培養ウイルスを用いた不活化ワクチンと動物用ワクチンとしてのリコンビナントワクチンを試験的に作製しその効果を検証することを目的としている。ウイルス材料として米国のニューヨークで分離された西ナイルウイルス株(NY99-35262-11)を日本脳炎組織培養ワクチン製造に用いられるVero細胞プラットフォームを用いて大量培養を行った結果、10^9PFU/ml以上という高いウイルス価が得られた。このウイルス原液を日本脳炎ウイルスワクチン製造方法と同様の精製、ホルマリンによる不活化方法により、ヒト用の日本脳炎ウイルスと同程度の純度(1Dose当たり1ng以下の宿主DNAの混入など)をもった試作ワクチンを試作した。マウスを用いた免疫試験をにおいてはワクチン未接種群は全て脳炎を発症して死亡したが、ワクチン接種群は全てが生残し、本ワクチンの有効性が証明された。また動物用のリコンビナントウイルス作製については同じくNY99-35262-11株のPrM-E遺伝子領域をクローン化し、現在日本脳炎動物用ワクチン株ML17株とキメラcDNAを構築が完了した。今後、不活化ワクチンについてはヒトでの安全性試験と有効性確認試験が必要であり、動物用ワクチンについてはキメラウイルスの回収が必要となる。
著者
近山 隆 湯淺 太一 上田 和紀 田浦 健次朗 遠藤 敏夫 横山 大作 田浦 健次朗 遠藤 敏夫 横山 大作 馬谷 誠二
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

爆発的に増加する大量の情報を効率的に扱うソフトウェアの構成には、広域に分散配置した高度な並列性を持つ情報システムを柔軟に記述できるソフトウェアの枠組が基本技術として必要となる。このためのプログラミング言語やミドルウェアのシステムと、複雑なソフトウェアの正当性を検証するためのシステムを対象に研究を進め、具体的なシステムを提案、設計、実装し、その性能を検証した。代表的成果ソフトウェアは公開している。
著者
井上 創造 久住 憲嗣
出版者
九州工業大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2009

本研究では,行動センシング,つまり各種センサ機器を用いて現実世界における人間の行動を理解する技術において,1.人間の行動を高精度に判別し,有用な客観的知識を得ること,および2.要求される程度に応じて対象者の個人情報を保護すること,を両立するための基盤技術を研究する.今年度は,グローバル行動情報収集システム「ALKAN」を開発し、実際に運用して大量のデータを集めた.ALKANは,スマートフォン上のソフトウェアおよび、サーバソフトウェアからなり,参加者はスマートフォンを用いて行動を行い加速度センサ情報を蓄積し、ネットワークにつながった時点で行動情報収集サーバに送信します。サーバは、行動情報を蓄積するとともに、参加者の履歴と、被験者全体におけるランキングを作成し参加者に提示する.参加者は、スマートフォンからこれらの情報を閲覧することができ、一日の行動履歴やカロリー消費といった付加機能をサーバ側で追加することもできる。このため、参加者への様々なフィードバックを動的に追加することができ、参加の意欲も高めることができる。我々はALKANをおよそ一年間運用し、約200人から3万件を越す行動データを得ることができた。このデータを用いて行動認識など種々のデータマイニングを行った。既存の行動認識の研究は被験者が多くても数十人程度というのが多いが、人数が増えると既存の手法では精度が悪くなる現象も見られており、行動認識における新たな研究チャレンジをALKANによって開拓できつつある.ALKANシステムを応用し、振り付けやお辞儀の採点システムや、看護士の行動識別、在宅見まもり、農作業自動記録と言った応用分野への適用も始めており、「行動」をキーワードとした幅広い応用が期待できる。さらに、動画との連携機能を付加した、ALKAN2も開発しており、動画と行動情報を同時に共有する新たなWebサービスも開始する予定である。
著者
加藤 和人
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

ゲノム研究と関連の応用技術について市民やその他の非専門家が理解を深めるための活動、およびゲノム研究者と市民・非専門家との双方向のコミュニケーションのための活動を効果的に実施するための留意点を、「ゲノムひろば」などの実践活動を通して明らかにした。高度な科学研究をテーマにするためには科学とイベント開催の両方についての知識と経験を持つ専門的人材の配置が必要であること、倫理的・社会的課題については別途議論の場をデザインする必要があることが示された。
著者
林 真理
出版者
工学院大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

ゲノム研究に関する科学コミュニケーション活動への適用を視野に入れながら、scientific citizenshipの考え方に基づく新しい科学コミュニケーションのあり方を理論的に考察することを行った。scientific citizenship(科学的市民権)の考え方は、受け身であり、科学技術の受容者になるという、これまでの市民像に代わって、本来のあり方として科学技術を支援あるいは制御しうる(すべき)主体としての市民という新たな市民の見方を提供するものである。とりわけ、本年度はこういった見方の問題点についても検討して、多面的な理解を得た。また、こういった理論的考察に加えて、現在のゲノム研究に関係する科学コミュニケーションが置かれいる状況を把握するための実証的な研究を行った。それは、現在の「ゲノム概念」(遺伝子、DNA等の遺伝学上の概念をこのように呼ぶ。以下同様)の社会的な広がりを知るために、様々な社会的な場面におけるゲノム言説(遺伝子、DNA等の遺伝学上の言説をこのように呼ぶ。以下同様)を収集し分析する研究という形をとる新聞記事とインターネット上のブログを対象として収集を行い、その分析からゲノム言説の傾向を明らかにした。さらに、これらの研究ガゲノム研究をめぐる科学コミュニケーションに示唆することをまとめた。
著者
松原 望 北村 喜宣 繁枡 算男 小宮山 宏 細野 豊樹 佐藤 仁 石 弘之
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
1998

(松原)最終年度のとりまとめを行った。アジア・太平洋地域の環境問題は、開発と高い経済成長にともなう環境破壊、資源開発と相関する環境破壊、「環境保護」の名のもとの環境破壊、所得格差と不平等増大の進行、などの各論的問題が次第に総論化し、政策の統合と協調が政治経済学的に「集合行為」(オルソン問題)としての課題となっている。その中でアメリカの環境政策での立場が、ブッシュ政権のもとで従来との一貫性を欠く等の局面が現出していることに焦点をあてた総括を行った.(小宮山)中国を含む東アジアおよび東南アジア諸国における資源とエネルギーについて20世紀後半50年間分のデータを収集し、農業生産量、エネルギー資源等の天然資源の生産量、工業生産量の経年変化から現状を分析した。(繁桝)構造方程式モデル(SEM)のパラメータを推定するためのベイズ的な解析方法を理論的に精緻化し、ギブスサンプリングを用いて実用化した。SEMは,リスク認知における因果関係を検証するために有用な方法である。(佐藤)今年度は、日本における資源概念の形成にかかわる文献を集中的に収集し、とくに南洋地域における資源確保の政策背景について研究した。タイでは関連する現地調査も行った。(北村)環境保護のためにきわめて厳格な法執行制度を整備している米国環境法を概観し、日本環境法の導入可能性をさぐった。非刑事的制裁の有効性などが示唆されたが、日本の行政システムのなかで機能させるには、組織文化的な課題があることがわかった。(細野)アメリカ合衆国2000年大統領選挙で明らかになった投票集計機材の誤差問題に対応すべく策定された、2002年10月の連邦政府の対策法がなぜ不十分なものに終わったかを、自治体の新技術への対応能力の格差にからめて、キングダンの政策モデルで分析。