著者
麻生 武彦 岡野 章一 藤井 良一 前田 佐和子 野澤 悟徳 三好 勉信 佐藤 夏雄 江尻 全機 佐藤 薫 小川 忠彦
出版者
国立極地研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
1999

最終年度におけるそれぞれのサブテーマの実績概要は以下のとおりである1.EISCATレーダーによる極域電磁圏熱圏大気ダイナミックスに関しては2003年11月11日から19日における8日間のキャンペーンデータ等をもとに、流星レーダー等との比較、イオン温度からの中性温度の導出における定量的な誤差評価、中性温度における大気潮汐成分の解析検討、F層イオン温度の緯度分布と電離層等価電流の分布の比較による両者の密接な関連の解明等を行った さらに下部熱圏における大気ダイナミクスの理解のため、EISCATキャンペーン観測データ解析から準2日波、大気潮汐波、平均風の高度変動および緯度変動、イオンドラッグ加速度、コリオリ加速度、および全加速度の導出とそれらの比較を通してのイオンドラッグの重要性の吟味等を行った。またオーロラ粒子エネルギー導出のための4波長フォトメータ観測をトロムソにて実施し、電子密度高度分布をEISCAT観測データと比較した2.流星レーダーによる極域中間圏・下部熱圏大気ダイナミックス観測ではスバルバールでの4年余の連続観測により、極域大気潮汐波クライマトロジーの解明を行うとともに、トロムソ流星レーダー、EISCATレーダー、MFレーダーとの観測値の直接比較、NSMRレーダーとの比較による大気潮汐波モードの解明、高エコー率を利用しての大気重力波の水辺伝播方向解析と平均流とのかかわり、運動量輸送等について検討した3.HFレーダーによる極域電磁気圏・熱圏ダイナミックスの観測については、EISCATヒーティング装置を用いたSuperDARN CUTLASSレーダーとの共同実験により周期の異なる地磁気脈動の励起伝播について興味ある結果を得た4.オーロラ夜光スペクロトグラフによる極冠域オーロラ・夜光の観測では、酸素原子発光および酸素イオン輝線発光と、ESRによる電離層の電子温度・密度、イオン温度、イオン速度の同時観測データから、低エネルギー電子降下時に磁力線に沿った速度数100m/sのイオン上昇流が発生することを定量的に明らかにした。5.ALISによるオーロラ・大気光トモグラフィ観測では、ヒーティングとの同時観測、しし座流星群の光学観測などが試みられたほか、先端的逆問題手法のトモグラフィー解析への応用研究を始めた6.数値モデリングと総合解析においては中間圏・熱圏下部における半日潮汐波の日々変動について、大気大循環モデルによる数値シミュレーションにより調べた。特に、下層大気変動が、中間圏・熱圏下部の半日潮汐波に及ぼす影響および太陽放射量の日々変動(F10.7の日々変動)が熱圏の大気潮汐波に及ぼす影響を調べた。また流星レーダーで見出された12時間周期付近のスペクトル等についてもモデルによる検討を行った
著者
河野 俊行 小島 立 早川 吉尚 大杉 謙一 久保田 隆 松下 淳一 早川 眞一郎 佐野 寛 野村 美明 神前 禎 中野 俊一郎 多田 望 西谷 祐子
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

本領域は平成16年度に開始し平成21年度が最終年度であった。しかし全体の取り纏めのために本補助金を申請したところである。その取り纏め事項の主な事柄としては、全体の取り纏め的業績発表と、集積した判例データの今後の活用方策を明らかにすることの二点であった。前者については各班の代表者による分野別レポートを取り纏め、Japanese Yearbook of International Law 53巻に掲載されたところである。後者については、1001件の判例英文データを取りそろえたプロジェクトはこれまでになく、このデータの価値を維持するためには新判例を継続的に翻訳して加えてゆくことが必要となるところ、領域終了後補助金なしでそれを可能にするための方策が必要であった。そこでそのための方策として、民間企業にデータを移管し、営利ベースで継続することが最も持続性が高いと判断された。そこで複数の民間業者と協議を重ね、本報告書執筆時点では一社に絞られた。2008年の経済危機の影響でリーガルビジネスは多大な影響を受けた。この経済危機と日本政府が導入した破たん企業救済策がリーガルビジネスに与えた影響は大きく、それを踏まえた持続可能な営利ベースのモデルの協議に予想以上の時間が必要となった。ほぼ1年かけて試行錯誤してきたが、ようやく形が見えてきたところである。また最近、この企業のアメリカ本社の担当役員とテレカンファレンスを行い、さらに協議を進めえたところである。
著者
本間 さと
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

中枢時計SCNから行動リズム発振機構への出力経路を明らかにする目的で、時計遺伝子per1発現とPER2蛋白を発光にてレポートするper1-lucトランスジェニックマウスとPER2::LUCノックインマウスを用い、2以下の2実験を行い、所定の成果を得た。1.活動開始と終了を制御する振動体の局在:明暗(LD)12:12h下で繁殖飼育したマウスをLD18:6の長日条件、又はLD6:18の短日条件に3週間以上暴露した後、SCNの水平断切片をルシフェリン含有培地にて培養し、1時間露光の連続発光イメージを5日間撮像した。ピクセル毎の位相マップを作成した結果、SCN前外側に点灯前からper1発現が上昇する細胞群の存在が分かり、最前部の細胞群のリズムとは180度の位相差があった。一方、長日下のPER2リズムには、SCN前後でper1同様の傾向はあったが、位相差は数時間であり、前SCNに夜明けのピークをもつ細胞群は存在しなかった。同一細胞が内因性リズム発振と環境応答で2つの分子ループを使い分けている可能性が示唆された。2.遺伝子発現in vivo計測と行動リズムを駆動する振動体の検索:光ファイバーを用い、無麻酔・無拘束状態でSCNからの発光活性を連続計測し、時計遺伝子発現と行動リズムを同一個体で比較した。連続暗黒で飼育中のマウスに30分の光照射にてリズムをシフトさせ、時計遺伝子発現と行動のリズム変位の移行期を比較したところ、SCNにも行動リズムに一致した移行期をもつ細胞群の存在が明らかとなり、行動を駆動する中枢がSCN内部にも存在する可能性が示唆された。また、発光活性と自発活動は短時間の変動を示し、相互相関では自発活動がper1-lucを6-8分先行していることが分かった。per1発現からルシフェラーゼ蛋白合成までには数時間の時間を要するので、この変化は活動に伴う血流変化、特に、酸素、ATP、基質の変動などの影響を反映していると考えられる。
著者
西村 浩子
出版者
松山東雲女子大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

平成15年度は、愛媛県内の北宇和郡三間町毛利家および上浮穴郡久万高原町(旧美川村)土居家の調査、県外では、富山県立図書館・滋賀県野洲郡野洲町大篠原小澤家・岡山大学図書館において、大学・中庸・論語・孟子集註・詩経、三体詩など角筆文献発掘調査を行った。富山県立図書館蔵の「孟子」(1757年刊)には角筆の書入れよりも墨筆や朱筆で方言形が多く見られ、今後、詳細な調査が必要である。国外では大英図書館において敦煌文献調査を行った。今回は、吉沢康和氏による調査で角筆文字があるとされた「金剛般若波羅蜜多経宣演」(S.4052)の追調査(2枚目〜14枚目)を行った。以前報告された角筆の漢字は、1箇所を除き、確認が困難であった。その原因は、今回は角筆スコープの使用が許可されなかったことによると思われる。しかしながら、誤写を訂正する場合に漢字の上に角筆で斜線が引かれたり、朱点の下に小さなくぼみの点が見られる例を確認した。今後、角筆スコープを利用した調査でさらに発見できる可能性がある。平成16年度は、第6回「書物・出版と社会変容」研究会において、古文書や古書籍に見られる文字について発表した。これまでの調査の成果をもとに、これまでの角筆文献研究の流れとこれからの古文書調査においても角筆文字が発見される可能性があることを述べた。また、C/D班共催研究会において、正岡子規文庫の角筆文献を中心に明治期の角筆文献についての検討を報告した。口頭発表・論文は以下の通りである。(1)第6回「出版・書物と社会変容」研究会 4月10日 於 一橋大学「古文書・古書籍に見られる角筆文字と角筆文献研究-忘れられた書記活動が遺したもの-」(2)第3回角筆文献研究会 9月17日 於 鳴門教育大学「正岡子規と角筆文献」(3)「読書行為の痕跡として見た角筆文献 -法政大学図書館蔵正岡子規文庫の角筆文献を中心に-(特定領域研究成果論文)
著者
磯部 彰 金 文京 三浦 秀一 若尾 政希 大塚 秀高 新宮 学 磯部 祐子 鈴木 信昭 高山 節也 中嶋 隆藏 勝村 哲也 尾崎 康 藤本 幸夫 関場 武 栗林 均
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

本領域研究では、共同研究及び個別研究の両形態をとって研究を進めてきた。研究組織を円滑に運営するため、総括班を設け、目的達成への道標として数値的目標を掲げ、構成員が多角的方法をとりながらも、本研究領域の目標を具体的に達成し得るようにした。本研究では、東アジア出版文化を基軸とする新学問領域を確立することを目標とし、その骨格をなす要素を数値的目標に設定した。それは、(1)東アジア出版文化事典の編纂準備、(2)東アジア研究善本・底本の選定と提要作成、(3)東アジア研究資料の保存と複製化、(4)日本国内未整理の和漢書調査と目録作成、であり、更に、(5)東アジア出版文化研究の若手研究者の育成、(6)国際的研究ネットワークの構築などを加えた。初年度には、総括班体制を確立し、ニューズレターの発刊、ホームページの開設、運営事務体制の設定を行い、計画研究参画予定者を対象に事前の研究集会を実施した。平成13年度からは、計画・公募研究全員参加の研究集会と外国研究者招待による国際シンポジウムを毎年開き、国内の研究者相互の交流と国外研究ネットワークの構築を推進した。前半2年は、総括班の統轄のもとで、主として東アジア出版文化をめぐる個別研究に重点を置き、共同研究の基盤強化を図った。新資料の複製化も同時に進め、東アジア善本叢刊4冊、東アジア出版文化資料集2冊を刊行する一方、展覧会・フォーラムなどを開き、成果の社会的還元を行なった。研究面では、後半は共同研究を重視し、調整班各研究項目での共同研究、並びに領域メンバーや研究項目を越えて横断的に組織した特別プロジェクトを4ジャンル設定し、総括班の指導のもとに小研究域として定着させた。年度末ごとに報告書を編集する一方、前後の終了時に研究成果集を作成している。研究領域の数値的目標は約四分之三達成し、窮極の目的である新学問領域設定も、概然的ながら構想化が具体的になった。
著者
塚本 昌彦 義久 智樹
出版者
神戸大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

近年モバイルコンテンツが急激に増え、人々は携帯電話などを用いてアウトドアでメールやWebなどのコンテンツを利用するようになってきている。本研究では、このような状況を支援するため、アウトドアでウェアラブルな入出力デバイスを用いて大量の情報の操作を行うためのインタフェースを開発している。本年度は昨年度開発したシステムやテストの結果から得られた各システムに対するニーズや問題点などのフィードバックをもとに、今までのシステムを統合したルール処理エンジンを作成した。また、このルール処理エンジンを組み込んだマルチモード型デバイスの試作も行った。さらにマルチモードデバイスを用いた様々な状況依存型の入力方法について検討し、いくつかのシステムを構築した。両手に加速度センサをつけて角度でポインティングを行うXANGLEや、ボタンの押下時間を利用して少数のボタンに多数の機能を割り当てる方式、アナログジョイスティックと多層パイメニューを用いる方式、フットステップの動きを用いる方式など、さまざまな状況下で有効に活用できるような手法を実現し、検証を行っている。本研究に関して、本年度は論文1編と国際会議3編、国内研究会等6編の研究成果が出ている。現在さらに何編かの論文をまとめ、投稿中となっている。この分野は、今後、ユビキタス社会が進展するに伴い、ますます重要となる分野であるため、本研究で生み出された手法が実際に世の中で有効に活用されるようになる日は近いうちに必ず来るものと考えられる。
著者
阿部 宏之 横尾 正樹
出版者
山形大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

本研究では、電気化学的呼吸計測技術を応用した非侵襲的細胞間ネットワーク解析システム構築のための基盤技術開発を目的とした。酸素の還元電位を検出するマイクロ電極をプローブとする走査型電気化学顕微鏡(SECM)をベースに高精度の細胞呼吸計測システムを構築し、哺乳動物卵子を単一細胞のモデル系に活性が極めて低い単一細胞呼吸解析システムの開発を目指し、以下の研究成果が得られた。1. 高精度単一細胞呼吸計測システムの開発と性能評価 : 単一卵子の酸素消費量(呼吸)を安定して計測できるマイクロ電極を開発した。単一細胞呼吸計測のための専用計測液を作製し、高精度マイクロ電極を装備したSECMと測定液等の要素技術を統合した「高精度細胞呼吸計測システム」の開発に成功した。2. 呼吸計測の有効性検証 : 「高精度細胞呼吸計測システム」を用いて、マウス、ウシ、ブタ等の単一未成熟卵子の呼吸量計測に成功するとともに、卵子成熟過程における呼吸量変化の解析が可能となった。生物学的解析により、呼吸計測システムの有効性が示された。3. 細胞間ネットワーク解析システムの構築 : 卵子成熟過程において、卵丘膨化に伴う卵丘細胞-卵子間相互作用と呼吸活性との関係を解析した結果、卵丘膨化に伴い卵丘細胞と卵子の呼吸能が変化することが明らかになった。
著者
堂寺 知成
出版者
近畿大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

研究題目「多元高分子配列ナノ空間物質の構造設計と物性理論」の研究目的は、多元高分子による全く新しい配列ナノ空間構造を設計構築すること、およびその新規物性の理論研究を行うことであった。特にコロイド結晶では作成できない充填密度が低いダイヤモンド構造創製の成果を世界に発信し、物性発現として未来のデバイス、フォトニック結晶への応用可能性を研究することであった。平成21年度は、新しく発見した階層シャイロイド構造の構造解析を進め、実施計画に基づき研究成果の公表準備をした。また、フォトニックバンド計算の精度を高めるべくコンパクト差分法を導入したFDTD法の開発を進めた。この研究には数値計算の専門家に援助を受け、共同研究に発展しつつある。方法論としての有効性を検証しているところである。次に、高分子の作るシングルジャイロイド構造の螺旋軸に注目し、コレステリック液晶あるいは甲虫などに見られる左右螺旋偏光の反射率が異なるという現象が、多元高分子配列ナノ空間物質でも生ずるという仮説を立て、数値実験で確かめた。この研究は継続する予定である。まとめると当該研究期間で、多元高分子による全く新しい配列ナノ空間構造を設計し、自己組織化を用いて2つの新規な構造(巨大ジンクブレンド構造、階層ジャイロイド構造)を構築することに成功した。これらの研究は物質科学、物理および高分子化学の進展に貢献し、学術的にも意義の高いもので、結晶学、数学への関連も重要だと考えている。また理論的には多元高分子のフォトニック結晶への応用可能性を広げた点、これまで議論されなかった偏光実験を提案するなど新しい物性発現の予言を行った点で当初の目標を達成したと言える。
著者
畑 俊明 増田 好治 須見 尚文 松永 泰弘 紅林 秀治 江口 啓 碇 寛
出版者
静岡大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

(1)児童生徒自身でつくる「手作りセラミックス磁石」の創造的思考力に及ぼす効果児童は、石ころが磁化装置の中で簡単に磁化される状況に接すると、今までの磁力は絶対的なものであるという概念が一瞬にして崩壊し、磁力が付加できるものであるという概念が構築されると、磁力についての新しいイメージができあがり、磁石に異常に関心をもつようになる。本年度は、この実践を科学の祭典静岡大会、富士サイエンスプロジェクト、日本未来館での研究成果展示会などのイベントに参加し積極的に活動した。しかし、あくまでも、授業実践が主体であるので、静岡市の長田東小学校5年生を対象に、方位磁針を作成する授業を実践し手づくり方位磁針の製作を通して、子供達の独創性を刺激した。この創造的思考力が付く過程を脳科学的解析により解明すべく、他の脳科学者との交流も深めた。(2)児童生徒自身でつくる「手作りセラミックス磁石」利用での創造的思考力に及ぼす効果セラミックス磁石を応用したものづくり学習法は種々考えられるが大きくは2領域に限定する。それは、電気領域でのものづくり学習と、機械領域でのものづくり学習である。電気領域を担当するのは増田好治、江口啓で、増田・江口は、セラミックス磁石を用いたモータとそれを利用した発電機を教材化し、機械領域を担当する須見、松永は、磁気ライントレース型ロボットの教材化に取り組んだ。手づくりペットボトルモータの実践は、富士サイエンスプロジェクト、科学教育学会、静岡大学共通教育で実践し、子供たちの創造性を高めることに成功した。また、磁気ライントレース型ロボットでは、児童生徒が自分自身で「手作りセラミックス磁石」を作製しこれをレールとして利用し、その磁力を感知する新しいアイデアでのロボコン製作を行う教材を開発した。これらについて、紅林は教材としての価値について総合評価を行い優れていると判定している。
著者
高村 禅
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

本年度得られた成果を列挙する。1. RNA抽出条件の精査と品質の確認これまでの研究で開発した変性剤を用いたトラップ抽出法でも、PCR可能なことが確認されたが、本年度はさらに品質を上げるため、変性剤を用いない方法の開発を試みた。その結果、一旦70℃以上にサンプルを過熱し、一旦熱変性させ、その後常温で速やかにトラップすることで、十分なトラップが可能な条件が見つかった。本法は、変性剤を用いないため、後処理に対する影響が少なく、より適しているとがえれる。2. 単一細胞よりRNAを瞬間抽出し、解析部に確実に渡すためのチップ開発本年度は、特定の検出方法に特化した、チップの設計・最適化を行う。現在、パフォーマンス上のボトルネックとして、単一細胞をチップ内に導入する工程である。したがってここを改善するため、複数の細胞をが含まれている液より、単一細胞を自動的にピックアップし、それぞれの解析流路に一つずつ導入する、微小流体デバイスを開発した。これは、本法以外にも、単一細胞の解析、特に再生医療等での利用が期待されている。3. RNA解析方法の開発3-1 チップ内集積化可能な簡易解析方法の開発昨年度開発したチップ上にミネラルオイルを保持する方法をさらに発展させ、ミネラルオイルを用いない方法の開発に取り組む。具体的には、チップ内部の、水上気圧を制御し、かつガスを投下しにくい膜をチップ内にコーティングする手法を検討する。ミネラルオイルを用いずとも、蒸発が抑えられることを確認した。3-2 チップ外の装置を組み合わせたより高度な解析法の開発チップ内で抽出したRNAをゲル内に保持し、外へ取り出す手法により、定量的な評価を行った。
著者
東郷 秀雄
出版者
千葉大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

研究の目的は、イミダゾール型及びアンモニウム型イオン液体反応場の中で、中性の活性種である炭素ラジカルを発生させ、イオン液体という高極性・高粘性反応場の中での中性炭素ラジカルの化学的挙動を精査し、一般的な有機溶剤との反応性の相違を比較するとともに、その特性を合成化学的に反映させることにあります。そこで、金属亜鉛を用いた1,3-ジハロプロパン類のシクロプロパン環への変換反応を種々のイオン液体反応場で検討した結果、イミダゾリウムNTf_2塩、イミダゾリウムPF_6塩、及びイミダゾリウムOT_S塩では殆ど反応しないが、イミダゾリウムCI塩及びイミダゾリウムBr塩のイオン液体を用いると、シクロプロパン化反応が1,3-ジヨード、1,3-ジブロモ、及び1,3-ジクロロプロパン何れの基質においても効率的に進行することが分かった。つまり、イオン液体を用いることにより、金属亜鉛から1,3-ジハロプロパンへの電子移動が促進され、不活性な1,3-ジクロロプロパンでも効率的に反応することが分かった。これらの知見をもとに種々の2,2-ジ置換及び2-モノ置換1,3-ジハロプロパン類のジ置換及びモノ置換シクロプロパンへの効率的3-exo-tet環化反応を確立した。また、イオン液体固定型ヨードベンゼンを触媒とし、イオン液体中でケトンのmCPBAによるα-トシロキシケトンへの変換反応、及び続くチアオミドとの反応によるチアゾールへの直接変換反応を確立した。イオン液体固定型ヨードベンゼンを含むイオン液体反応場は再生再利用が可能である。
著者
平塚 和之 川崎 努 進士 秀明 川崎 努 平塚 和之
出版者
横浜国立大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

耐病性シグナル伝達経路の解明を目的として、病害応答情報伝達系の主要因子の一つとしてイネの過敏感細胞死の制御に関与するGタンパク質の役割を初めて明らかにし、それらの性状に関する重要な知見を得た。さらに、形質転換植物・細胞による発光レポーター遺伝子を指標とした病害応答遺伝子発現モニタリングシステムを確立し、抵抗性誘導剤の評価スクリーニングや、病害応答変異体選抜等に応用可能な実験系を構築した。また、病害抵抗性と密接に関連すると想定されるDNA傷害応答性発現遺伝子の発現制御について詳しく解析し、誘導抵抗性遺伝子発現との関連を明らかにした。興味深い結果としては、銅イオンによるこれら3種類の病害応答性プロモーターの応答性に基づき、環境調和型農薬としての銅剤の作用機作に関する有意義な知見が得られた。さらに、耐病性遺伝子発現の主要転写制御因子であるNPR1の作用機作や、耐病性遺伝子発現と関連する組織特異性を制御する新規GRASタンパク質が転写制御因子として機能することを初めて明らかにした。一方、エリシター応答性プロモーターと関連転写制御因子に関する研究を重点的に実施し、転写制御因子であるタバコのNtWRKY1,2,4がERF3遺伝子プロモーターのW-box配列と相互作用することを示し、一過的発現解析によりNtWRKY1,2,4がW-boxを介して転写活性化因子として機能することを明らかにした。NtWRKY4遺伝子は、低レベルで恒常的に発現しており、傷害によって発現が変化しないが、NtWRKY1と2は傷害処理によって迅速な発現誘導を示した。また、ERF3遺伝子の発現はERF3によって抑制されることも示唆された。高等植物の遺伝子発現制御系として関連因子群が詳細に明らかにされている例は希で、これらは耐病性シグナル伝達の末端として重要な転写制御に関する知見として最も詳細な研究として高い評価が得られている。
著者
太田 裕道
出版者
名古屋大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本公募研究の目的は、(1)誘電体人工超格子やヘテロ酸化物界面近傍に誘起される二次元電子ガスの電子状態と量子サイズ効果の相関を明らかにすること、(2)誘電体中の二次元電子ガスを積極的に活用した機能材料設計指針を提案することである。二次元電子ガス近傍の原子・電子状態を高いエネルギー分解能で捉えることにより、巨大Seebeck係数のオリジンを解き明かし、誘電体中の二次元電子ガスを積極的に活用した材料設計指針を提案することが可能と考えている。SrTiO_3/SrTi_<0.8>Nb_<0.2>O_3人工超格子やTiO_2/SrTiO_3などの誘電体ヘテロ界面のSrTiO_31単位格子層(0.3905nm)に局在化した高濃度の電子ガスは、バルクの5倍に相当する巨大熱起電力(Seebeck係数)を示すことから、未だ実現していない酸化物熱電変換材料のひとつの開発指針として注目されている。Seebeck係数の大きさは、フェルミエネルギーにおける伝導帯状態密度(DOS(E))のエネルギー微分(∂DOS(E)/∂E)に依存するため、量子サイズ効果によるDOS(E)の増大が巨大熱起電力の起源と考えられている。また、Seebeck係数は伝導電子濃度の関数であるため、伝導電子濃度を連続的に変化させながらSeebeck係数を計測することでDOS(E)の情報を得ることができる。平成21年度は、誘電体ヘテロ界面の電子濃度を連続的に変化させるため誘電体をチャネルとした電界効果トランジスタを作製し、絶縁体/SrTiO_3および絶縁体/KTaO_3ヘテロ界面のSeebeck係数の電界変調に成功した。
著者
北田 栄
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

微生物由来の細胞毒素パラスポリン-2(PS2)が、特定の培養がん細胞やヒト摘出がんに対してがん細胞特異的に作用し細胞破壊を引き起こす。本年度、PS2の受容体に関する基礎研究と担がんマウスへの腫瘍効果や動態を評価した。昨年度、PS2に特異的に結合する細胞因子としてHep27タンパク質(Hep27p)を同定したが、Hep27p発現のノックダウンでのPS2感受性の低下は観察されなかった。またHep27pのPS2低感受性細胞への発現ではPS2の結合や細胞毒性は見られなかった。しかし、Hep27p発現低下がん細胞では細胞増殖が著しく低下しており、がん抑制遺伝子として機能している可能性を見出した。一方、PS2の立体構造情報を精査し、4箇所に各々蛍光標識反応を行った。このうち1種類の蛍光標識PS2分子が効率的に細胞に結合するものの毒性が低下することがわかった。そこで、がん可視化や標的運搬体としての生体分子としての作用を明らかにするため、蛍光標識PS2をマウス尾静脈より投与し、24時間後の蛍光シグナルを観察した。この結果、蛍光はがん部に優位なシグナルが観察されたが、他の主要器官にはほとんど観察されなかった。よって今回、がん識別能力のあるPS2プローブを得ることができた。一方、昨年度の研究結果の再現性を得るため、腫瘍モデルマウスに対するがん局部へのパラスポリン-2の注射投与を行った。KLN205、Colon-26ともに約24時間以内で劇的な腫瘍の縮小が観察された。対照投与群との比較では、パラスポリン投与群マウスで腫瘍抑制がみられた。
著者
森川 良忠 白井 光雲 濱田 幾太郎 柳澤 将
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

第一原理分子動力学法プログラムSTATE (Simulation Tool for Atom TEchnology)およびOsaka-2K を開発・拡張し、それらを用いて、半導体テクノロジーやエネルギー、環境問題等で重要となる表面・界面や触媒、半導体不純物、ナノクラスター等の構造や物性を調べ、その物理的背景を明らかにするとともに、新たな物質を設計する指針を与えるための研究を行った。
著者
藤 秀樹
出版者
神戸大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本研究は, 新規エキゾチック超伝導体や新しい層状およびカゴ状構造を有する物質系において発現する低温量子状態を核磁気共鳴を用いて解明を目的とした。本年度は籠状クラスレート化合物であるBa_8Ga_<16>Sn_<30>の研究を中心に、ラットリングに関して微視的観点からの機構解明を行った。加えて、新しい2元系の鉄系層状化合物FeSeについても研究を開始した。これまでの研究から以下のような結果を得た。1. Ba_8Ga_<16>Sn_<30>は2種類の籠状構造をとる1型(β相)と1種類の籠状構造をとる8型(α相)が知られており、籠形状の違いにより内包原子の大振幅原子振動(ラットリング)が異なることが指摘されている。本研究では主としてGa-NMR研究を行い、Type Iでは30K付近にラットリングによるスピン格子緩和率の増大を見いだした(2008年9月日本物理学会・分科会)。一方Type VIIIでは、Type Iとは異なりコリンハの関係式に従い、低温で緩和率に異常が見られないことを明らかにした。2. 新しい鉄系超伝導体FeSeについてSe-NMRを行い、低温の超伝導状態においてNMR緩和率の測定から、BCS超伝導体特有のコヒーレンスピークが見えないこと、緩和率の温度依存性がT3に従っていることを明らかにし、異方的超伝導の可能性を指摘した。また、類似化合物である反強磁性体SrBa_2As_2について圧力下電気抵抗実験を研究協力者の小手川等とともに行い、3.7GPa程度の圧力下での反強磁性が消失し、34K級の超伝導相が出現することを示した。平成20年11月12日をもって, 当初予定していた研究は遂行した。
著者
中辻 憲夫 小倉 淳郎 佐々木 裕之 塩田 邦郎 仲野 徹 松居 靖久
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

当該特定領域研究は、発生生物学、実験動物学、遺伝学、分子生物学など多分野にまたがる学際的研究グループを形成しており、多様なバックグラウンドをもつ研究者による研究課題を推進してきた。平成19年度までに、極めて多くの研究成果が得られて優れた学術論文として発表されている。それと同時に、多様な組み合わせで各研究者の得意分野によるシナジーを生み出しながら、多くの共同研究が行われ成功してきた。平成20年度は、本総括班の活動の総仕上げとして、これら特定領域研究によって過去5年間に生み出されて研究成果のとりまとめを行うと同時に、研究成果報告書を作成した。なお、研究成果報告書の体裁に従って研究成果発表の詳細なリストなど報告資料として作成した報告書に加えて、研究成果を広く研究者コミュニティーに対する広報活動として周知させることを目的として、研究成果を読みやすい体裁で取りまとめた報告書も並行して作成し配布した。[連携研究者]独立行政法人理化学研究所・バイオリソースセンター 小倉淳郎 領域事務担当者としての連絡調整国立遺伝学研究所・総合遺伝研究系 佐々木裕之 ゲノム刷り込み研究の企画調整東京大学・農学生命科学研究科 塩田邦郎 エピジェネティクス研究の企画調整大阪大学・大学院生命機能研究科 仲野徹 生殖細胞特性研究の企画調整東北大学・加齢医学研究所 松居靖久 生殖細胞発生研究の企画調整
著者
菊池 洋 梅影 創
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

ランダム配列のRNA集団の中から生体分子に特異的に結合できるRNA分子を選択増幅し、得ることができ、この分子を丁度抗体のように利用できる。この分子をRNAアプタマーという。RNAアプタマーを開発するためには、SELEX(Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment)法を中心とする人工進化系が採用されるのが一般的である。本手法は、一度の操作で複数のRNAアプタマーを取得しようとするものである。これまでに、ヒト前立腺癌細胞の可溶性タンパク質を標的としたSELEX法を実施した結果、昨年度問題となった非特異的RNA結合タンパク質の存在によるSELEXの進行阻害の問題が本年度はある程度解決され、(1)SELEXのターゲットが複数存在しても人工進化させることが可能であること、(2)特異的な結合能を有するRNAアプタマーの選択が可能であることが示された。このような、網羅的なアプタマー創製に関する報告はこれまでなされておらず、当研究室オリジナルの手法であると自負している。特許出願を念頭に実験系の改良を行っているところである。また、本年度、網羅的に得られるRNAアプタマーのターゲットタンパク質を網羅的に同定するために、網羅的ノースウエスタン法を考案した。この手法は、網羅的なタンパク質ターゲットサンプルをメンブレン状に固定化し、蛍光ラベルした網羅的RNAアプタマーを結合させ、イメージアナライザーによって検出しようとするものである。この手法は予備的な段階であるので、まだ改良の余地が残されているが、特異的なアプタマーの結合が観察されており、メンブレンからRNAアプタマーを回収し、RT-PCRによって増幅可能であることも確認している。
著者
村田 靖次郎
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

フラーレンC70の内部に1個または2個の水素分子が内包された場合、フラーレンπ共役系がどのような影響を受けるかに興味がもたれる。そこで、最近当研究室で合成された水素内包C70の外側への付加反応を検討した。(H2)2@C70、H2@C70、C70の混合物(モル比,2:70:28)と0.44当量の9, 10-dimethylanthracene(DMA)をo-dichlorobenzene-d4(ODCB-d4)に溶解させ、30、40、50℃における平衡混合物の1H-NMRスペクトルを測定した。その結果、DMAの付加により生成した(H2)2@1およびH2@1の内包水素がδ21.80およびδ22.22に観測され、いずれも未反応の(H2)2@C70(δ23.80)およびH2@C70(δ23.97)のものより低磁場にシグナルを与えることがわかった(化合物1は、C70とDMAの付加体)。これらの内包水素のシグナル比ならびに1H-NMRより見積もった未反応DMAの濃度から、各温度の平衡定数K1およびK2を算出し、ファントホッフの式よりΔG1およびΔG2をそれぞれ計算した(Table1)。その結果、K2はK1より約15〜19%小さいことがわかった。すなわち、内包水素分子の個数により反応の原系と生成系のエネルギー差が影響を受けることが明らかとなった。
著者
本間 さと 池田 真行
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

視床下部視交叉上核(SCN)に存在するほ乳類の中枢時計は、網膜からの光情報を受容し、内因性の周期を24時間の明暗サイクルに同調すると共に、SCN外脳内組織や末梢臓器の末梢時計を調節し、全身の時間的統合を行っている。しかし、そのメカニズムは不明である。夜行性齧歯類における行動リズムの季節変動は、これまで、夕日および朝日に同調し、活動の開始と終了を調節するEvening(E)とMorning(M)の二振動体によると考えられてきた。そこで、発光レポータートランスジェニックマウスを用い、SCN細胞のPerl発現リズム位相をSCN内で部位別に測定し、日長と行動リズム位相との相関を解析し、生体が行動や内分泌機能に季節変動を生じる機構について検討した。24時間明暗周期の明期を6〜18時間と変動させたところ、すべての明暗比において、吻側SCNのPerl発現リズムピークは夕方の活動開始位相にphase-lockしており、E振動体の局在が示された。一方、尾側SCNのPerl発現ピークは、測定したすべての明暗比で、朝の活動終了位相にPhase-lockしておりM振動体の局在が示された。尾側SCNのPerlピークのphase-lockingは、明期20および22時間という極端な長日周期でも確認された。明期18時間では吻側SCNのPerl発現が二峰性となり、さらに明期を延長すると吻側、尾側ともに二峰性ピークが観察された。発光イメージングによる細胞リズム解析の結果、すべてのSCN細胞の発光リズムは約24時間であり、二峰性リズムは、ほぼ180度位相が異なり、かつ、左右SCNにほぼ均等に混在する、2種の細胞群によることが分かった。以上の結果、日長によりSCN内で部位時的に遺伝子発現リズム位相を変位させるSCN細胞のダイナミズムが、行動リズムの季節変動を調節していることが分かった。