著者
岩井 一宏
出版者
大阪市立大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

von Hippel-Lindau(VHL)病の原因遺伝子として同定されたVHLは80%以上の腎細胞癌においても欠損しているがん抑制性遺伝子である。その産物であるpVHLはelongin B、elongin C(VBC複合体)との結合を介してCul2と結合し、pVHLリガーゼ複合体を形成しており、pVHLはその基質認識サブユニットとして機能する。また、Cul2のユビキチン様蛋白質NEDD8による修飾がpVHLリガーゼの活性制御に必須である。pVHLリガーゼの活性中心であるRINGフィンガー蛋白質:Rbxlは、Cul2のNEDD8化、基質のユビキチン化活性を制御しているが、その機能メカニズムには不明な点が多い。そこで本年度はRbx1の変異体を作成することにより、Rbx1のCul2のNEDD8化、基質のユビキチン化制御メカニズムについて検討を加えた。その結果、基質のユビキチン化のみを選択的に抑制する、あるいはCul2のNEDD8化を選択的に抑制する変異体を見いだしたことから、RbxlはNEDD8とユビキチンのE2両者と結合してそれらモディファイヤーによる修飾を触媒すること、それらE2とRbxlの異なった部位で結合していることが明らかとなった。本研究のもう1つのテーマである鉄代謝の制御因子IRP2の鉄依存性ユビキチン化に関してはIRP2のヘム依存性分解メカニズムに関して解析を進め、IRP2特異的なIDD (iron-dependent degradation)ドメインに存在するheme-regulatory motif (HRM)がヘム結合部位であり、その周囲のアミノ酸残基を酸化することによりHOIL-1ユビキチンリガーゼで識別されユビキチン化されることを明らかにした。(投稿中)
著者
赤木 和夫 後藤 博正 朴 光哲
出版者
筑波大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

キラルネマチック液晶を溶媒とする不斉反応場でのヘリカルポリアセチレンの合成を展開するとともに、らせん状モルホロジーの制御を目指した。(1)軸不斉キラルビナフティル誘導体をキラルドーパントしてネマティック液晶に添加して、キラルネマティック液晶を調製した。これに所定量のチグラー・ナッタ触媒を加えた後、5テスラーの磁場を印加して、キラルネマティック液晶が一方向に配向したモノドメイン構造を構築した。配向した不斉反応場でアセチレンの重合を行い、磁場方向に平行にかつ巨視的に配向したヘリカルポリアセチレン薄膜を合成することに成功した。従来の通説では、キラルネマティック液晶に磁場を印加すると、らせん構造が消失しネマティック液晶になるといわれていたが、本研究により、少なくとも5テスラーの磁場強度を印加する限りでは、液晶のらせん構造は壊れることなくキラルネマティック相が維持されたまま配向することがわかった。(2)ヘリカルポリアセチレンのねじれ方向をより一層厳密に制御すべく、ネマティック液晶に加えるキラルドーパントを分子設計し、種々の軸不斉ビナフチル誘導体を合成した。その中で、ビナフチル環の2、2'位をメチレン鎖で連結した架橋型バイナフチル誘導体は、非架橋型と同じ旋光性(R体ないしS体)であっても、ネマティック液晶に加えた段階で逆のらせん構造を形成し、結果的にヘリカルポリアセチレンのねじれも逆転することを見出した。すなわち、ビフェニル環同士の相対的ねじれ方向は同じであっても、ねじれの度合いが架橋型と非架橋型で異なるため、母液晶のネマティック分子のねじれ方向をも変えうる作用が働いていると理解された。すなわち、ヘリカルポリアセチレンのねじれ方向を制御するには、同じキラル化合物でR体とS体という二種類の旋光性を使い分けるアプローチの他に、同じR体ないしS体のビナフチル誘導体でも架橋型と非架橋型に分子修飾することで制御可能であることが明らかとなった。
著者
高梨 弘毅 大谷 義近 大野 裕三 小野 輝男 田中 雅明 前川 禎通
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

本特定領域では、スピン流の生成と消滅、そしてそれらを通して生じる物理的信号の変換制御に関わる学理を確立し、新規なデバイス応用への可能性を探索することを目的としている。総括班は、本領域全体のコーディネータ的役割を果たし、同時に内部評価を行う。本年度は、本特定領域の最終成果報告会として国際ワークショップ「5th International Workshop on Spin Currents」を2011年7月25日(月)~28日(木)の日程で仙台国際センターにおいて開催した。最近のスピン流研究において注目される議題として、(1)スピンホール効果やスピンゼーベック効果に代表される純粋スピン流現象、(2)スピン注入磁化反転や自励発振、電流誘起磁壁駆動などのスピントランスファー現象、(3)非磁性体、特に半導体へのスピン注入、(4)磁化の電気的あるいは光学的制御、(5)スピン流の創出と制御のための材料探索・プロセス・評価の5項目について、それぞれの分野において世界最先端の成果を上げている研究者を組織委員会で選出し、口頭発表をお願いした。それ以外にも、特定領域研究で得られた成果が、ポスター講演において数多く報告され、4日間にわたって活発な議論が展開された。また、各計画研究代表者および公募研究代表者から、領域設定期間中の成果に関するデータを収集した。そのデータを元にして、原著論文、解説、著書、国際会議発表、国内会議発表、報道(新聞、TV等)、受賞、特許、その他(若手育成など)、の9項目について成果のとりまとめを行った。
著者
寺内 正己 津田 健治 小形 曜一郎 佐藤 庸平 津田 健治 小形 曜一郎 佐藤 庸平
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

電子顕微鏡法を用いて構造・組成評価を行った良質な試料領域から構造・電子状態の研究を行い、ボロンナノベルト、ゼオライトカーボン、ポリマー重合C_<60>、LiドープαボロンおよびMgB_4の特徴的な電子状態の存在を明らかにした。また、分光CBED法による価電子分布の異方性検出、EELSによるナノ粒子の近赤外応答の解析、異方的SXES計測による価電子分布の異方性の検出などの解析手法の高精度化を実現した。
著者
萩行 正憲
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

テラヘルツ帯においても、可視域同様表面プラズモンポラリトンやそれに伴う電場の局在は様々な現象を引き起こす。本研究では、2次元の金属カットワイヤー配列に着目し、精度の高い試料を作製し、テラヘルツ時間領域分光測定による評価を行い、透過スペクトルと電場集中の詳細を明らかにするとともに、電場増強に伴う2次高調波の発生実験を行うことが研究内容である。まず、2次元のワイヤー配列、並びに、ワイヤーに切れ目を導入した試料(カットワイヤー配列)を市販のプリンタとメタルカラーインクを用いて作製し、テラヘルツ透過特性を測定した。得られた振幅透過率と位相スペクトルから有効複素誘電率と有効複素電気伝導度を導出した結果、ワイヤー配列はドルーデモデルに従う金属的な振る舞いを示すのに対し、カットワイヤー配列は低周波数で絶縁体的な振る舞いを示すことがわかった。FDTD法を用いて電場強度のシミュレーションを行った結果、低周波数ではテラヘルツ波は切れ目の部分を主として透過し、その結果として局所的な電場増強が起こっていることが判明した。次に、より高精度の試料を作製するためスーパーインクジェットプリンタを用いて、半導体(Si、GaAs)基板上にシングルミクロンオーダーの金属ワイヤー配列の作製を試みた。その結果、印加電圧、描画速度、ベーキング温度を最適化することにより、数ミクロンの精度で試料が作製可能であることがわかり、この手法で2次高調波発生実験用の試料作製を得ることができた。
著者
西坂 崇之 政池 知子 矢島 潤一郎 矢島潤 一郎 足立 健吾 須河 光弘 堀部 恵子 龍口 文子
出版者
学習院大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

新しい光学顕微鏡技術を用い、膜超分子モーター(主にFoF1-ATPase)の作動原理について、分子のレベルにおける解明を試みた。タンパク質の部分的な領域が機能する瞬間のダイナミクスが可視化され、化学反応と対応づけることもできた。さらにキネシン-微小管系におけるコークスクリュー運動の直接可視化にも成功した。これらの技術や成果は「1分子構造生物学」という新しい学問領域に発展する可能性がある。
著者
小林 猛 大塚 隆信 河合 憲康
出版者
中部大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

1. MCLとサーモトロンRF-8を用いた温熱療法における免疫誘導効果(小林)MCLとサーモトロンRF-8を用いた温熱療法をマウスのメラノーマモデルで実施し、Heat Shock Proteinが関与する癌細胞特有の免疫誘導があることを確認した。2. MCLとサーモトロンRF-8を用いた温熱療法の臨床研究(小林)前年度に実施したMCLの安全性試験の結果を基にして、中部大学にてGMP基準に準拠した患者用MCLの調製を行った。倫理委員会の審査体制が整った戸畑共立病院がん治療センターにおいて、MCLとサーモトロンRF-8を用いた温熱療法の臨床研究を開始した。喉頭部に直径7cmもの腫瘍がある患者に、最初は通常のサーモトロンRF-8による温熱治療を行い、腫瘍部位の温度は42.1℃までしか加温されないことを確認した。6日後にMCLを腫瘍部位に投与してからサーモトロンRF-8による温熱治療を行った所、44.3℃まで腫瘍部位が加温されることを認めた。さらに、in vitroの細胞実験で、42.1℃と44.3℃の加温を30分間行い、癌細胞の死滅率は44.3℃の方が10,000倍も高いことを確認した。現在、この患者の経過観察中である。3. MCLを使用した温熱療法のための倫理委員会への提出書類の整備(大塚および河合)名古屋市立大学において、大塚は整形外科領域の骨肉腫などに対するMCLの投与方法や投与量の設定根拠などを定めた。同様に、河合は前立腺がんなどを対象とした場合のMCLの投与方法や投与量の設定根拠などを定めた。
著者
馬場 章
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

本研究では、わが国科学技術黎明期たる江戸時代の計量統制に関する従来の研究の問題点に鑑み、彫金・大判・分銅という三家業を営んだ後藤家の分銅に関わる文献・器物資料を対象に調査・整理・分析・考察を行った。また、後藤家の分銅関係の文献資料に構造分析を加え、分銅の製造・流通過程と検定の全貌を解明した。さらに、後藤家伝来の器物資料である各種分銅の精密計測を行い、文献資料と器物資料の相関を解明した。後藤家伝来の分銅のうち、特に「正本分銅」は、後藤家が製造した分銅の基準になったと推測されるので、精緻な重量の測定を行った。平成17年度は以下の3点の研究を行った。1、史料翻刻昨年度に引続き、分銅関係資料の解読作業を行い、未翻刻の一次資料である「分銅御用諸書留」の解読作業を完了した。「分銅御用諸書留」により、近世後期から明治初年にかけての分銅の検定にかかわるプロセスや流通する分銅の公定価格の推移を知ることができ、これまで未解明であった分銅の製造・流通過程と検定の全貌を明らかにした。2、分銅調査未整理の分銅関係の器物資料のうち、千枚分銅模型・「正本分銅」・市中分銅・極小分銅など各種分銅及び分銅製作道具を調査・整理し、1点毎のデータを採取した上で目録を作成し、写真撮影を行った。分銅の重量・寸法に関しては、デジタル機材を活用して精緻な値を求めた。特に、「正本分銅」については、国立科学技術博物館の協力を得て、精緻な重量の測定を実施した。3、報告書の作成上記1、2の調査・作業で得られた成果を掲載した報告書を作成した。ここには分銅・諸道具一式の目録、「正本分銅」の各種データ、分銅関係資料の解読文が掲載される。これらの成果を踏まえ、本研究の目的である後藤家伝来の分銅に関わる文献資料および器物資料の構造化と両者の相関関係を考察し、その結果を論考として掲載した。
著者
関口 章
出版者
筑波大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

アセチレンのsp炭素をケイ素原子に置き換えたケイ素-ケイ素三重結合化合物「ジシリン」を世界に先駆けて安定に合成することに成功し、その分子構造を決定している。炭素-炭素三重結合化合物アセチレンが直線構造を持つのとは対照的にジシリンはトランス折れ曲がり構造を持ち、三重結合を形成する二つのπ結合は非等価であり、そのπ軌道準位はアセチレンのそれと比較すると著しく高いなどの特徴を有する。今回、ジシリンの物性、及び反応性を明らかにすると共にそれらに対する置換基の電子的、立体的効果を評価した。特に、今回、ジシリンと炭素-窒素三重結合を有するニトリル類との反応性を検討したところ、炭素パイ電子系と全く異なる反応性を示すことを明らかにした。1. 三重結合ケイ素化合物ジシリンに対して過剰量のトリメチルシリルシアニドを無溶媒条件下、室温で加えると、溶液の色は赤褐色へと変化した。ベンゼン中から再結晶することでジシリンービス(シリルイソシアニド)錯体の紫色結晶が得られた。一方、ジシリンのヘキサン溶液に対して2当量のトリメチルシリルシアニドを加えた場合、微量のビス(シリルイソシアニド)錯体とともに1, 4-ジアザ-2, 3-ジシラベンゼン類縁体が主生成物として得られた。2. ポリアセチレンの化学ドーピングによるソリトンやポーラロンの発生などの諸物性との関連から、ケイ素-ケイ素三重結合化合物、ジシリンのアルカリ金属による-電子還元反応を検討した。その結果、カリウムグラファイト、^tBuLiとの反応で容易に電子移動を起こし、安定なジシリンアニオンラジカルを生成することを明らかにした。これらのアニオンラジカルの分子構造や電子状態をX線構造解析、ESR測定、理論計算などを用いてアニオンラジカルの諸物性を明らかにすることができた。最終目標のポリジシリンの合成には至っていないが、新しいπ電子化合物三重結合ケイ素化合物ジシリンの興味ある反応性を明らかにすることができた。
著者
高橋 秀依 南目 利江
出版者
帝京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

本研究では、新規な糖の連結法の開発を行い、それによって新たな機能を有する糖関連生物活性物質を創出することを目的としている。まず、血糖効果作用を有するエーテル結合糖であるcoyolosaの構造を基本とし、その類縁体合成を行った。coyolosaはメキシコのヤシの木の根から得られた天然物で、ピラノースが6位同士でエーテル結合した極めて珍しい構造を有している。このようなエーテル結合糖の安定供給をめざし、還元的エーテル化を用いて化学合成を行った。また、生物活性の検討によってエーテル結合糖に血糖効果作用があることを確認した。続いて糖のその他の部位(2〜4位)にエーテル結合を形成すべく、オキシランの開環反応を利用したエーテル結合形成を試みている。オキシランの開環にあたっては位置選択性が重要であるが、糖の環状に形成されたオキシランの場合は糖の水酸基の立体化学及び反応条件(塩基性もしくは酸性)が影響し、適切な基質及び反応条件を用いることで所望する位置選択性がもたらされることを明らかにした。また、この研究の過程で新しいグリコシド結合形成反応を見出し、エーテル結合とグリコシド結合を併せ持つハイブリッド型の糖の連結を行った。さらに、ピラノースの1位にメチル基を導入した1C-メチル糖のグリコシル化及びカルバメートによる糖の連結を行い、様々な連結様式による糖鎖構造の創出を行った。これらの検討によって得られた糖類の生物活性を他機関において検討していただいている。
著者
赤堀 雅幸 黒木 英充
出版者
上智大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

ユーフラテス川中流域ビシュリ山系で展開されている領域研究全体の調査と連携しつつ、人類学、歴史学による従来の部族研究を再評価し、通時代的、通分野的に適用可能な概念的洗練を行うべく、下記のような活動を展開した。1. 現地調査 : ビシュリ由系における第7次調査の一環として研究協力者である高尾賢一郎(同志社大学大学院神学研究科博士後期課程)が10月、第8次調査の一環として、赤堀、黒木および研究協力者、森山央朗(日本学術振興会特別研究員(PD))が3月に現地調査を実施した。黒木、高尾、森由はあわせてシリアでの文献調査に従事した。2. 比較対照調査 : 理論面での成果発表と比較対照調査を兼ねて、9月に赤堀がモンゴルで学会発表と騎馬遊牧民の調査を実施し、また連携研究者である錦田愛子(東京外国語大学・アジア・アフリカ言語文化研究所・非常勤研究員)がレバノンで政治的な離散状況下での父系紐帯のありように関する調査を実施した。3. 文献資料の探索、収集、読込 : それらのうち厳選して購入した26冊については、設備備品として上智大学アジア文化研究所図書室他に所蔵することとした。なお、討画調書上には研究補助業務等に謝金を充てる予定であったが、上記研究協力者他大学院学生らの自発的な協力により支払いが生じなかったため、この分を別費目に充てることで、調査等を充実させることができたのは幸いだった。当該年度中にすでに複数の研究発表を実施しているが、平成21年4月には領域研究の合同研究会で赤堀、黒木、高尾が成果発表を行っており、11月開催予定の国際シンポジウムでも赤堀が発表するのに加え、その他複数の成果物刊行が決定しているなど、領域研究全体の最終年度である平成21年度においても、貢献を継続する予定である。
著者
桜井 武 山本 三幸
出版者
金沢大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

3種の新規神経ペプチドについて、扁桃体機能と情動の制御におけるそれぞれの役割を解明すべく研究を遂行した。ニューロペプチドBおよびWに関してはそれらの受容体NPBWR1の欠損マウスとヒトにおける多型の解析から、社会行動やストレス応答に関与していることが明らかになり、オレキシンは情動にともなう自律神経系の応答に強く関わっていることが明らかになった。QRFPに関しては、遺伝子欠損マウスを作成した。
著者
山本 興太朗 綿引 雅昭 田中 歩
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

植物の茎の伸長や屈曲を引き起こすオーキシンの分子機構をシロイヌナズナで研究した。その結果、オーキシンによって発現するMSG2 遺伝子が、伸長や屈曲が起こりすぎないように抑制的に働くことを明らかにした。一方、屈曲に働く新規遺伝子LAZY1を単離した。屈曲では屈曲に特異的に働くオーキシン輸送体が存在することが知られているが、LAZY1 はそれらとは別経路で屈曲を調節していることを明らかにした。
著者
関場 武 高橋 智 佐々木 孝浩 住吉 朋彦 川上 新一郎
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

本研究では、中近世期の東アジアに広く行われた辞書および類書につき、その社会的影響の基盤となった出版情況を明らかにすべく、和書班と漢籍班の二班に分かれて、関連する文献の書誌調査と研究を行った。和書班は、関場・川上新一郎(前半2年のみ・斯道文庫・教授)・佐々木の3名、漢籍班は高橋・住吉の2名によって組織した。関場は、『節用集』類の総合的伝本研究を行い、慶應義塾図書館主催の「辞書の世界-江戸・明治期版本を中心に」展を企画・立案し、解題図録を作成した他、特に「早引節用」類の書誌調査を行い論文を執筆した。川上は、版行された近世期歌枕書類の調査研究を行い、辞書的構造を持つ歌枕書とその他の文献との関係を整理し、解題書目「近世版行歌枕書一覧(稿)」を作成した。佐々木は、類書的な性格を有する『新類題和歌集』と『歌合部類』を取り上げ、伝本研究を行って、歌書をめぐる商業出版と社会的需要の関係を考察し、論文を執筆した。高橋は、中国明清時代に於ける音韻学書の書誌的調査を行い、特に慶應義塾大学言語文化研究所所蔵永島文庫と台湾師範大学所蔵趙蔭棠旧蔵書を集中的に調査し、各々の書目や解題を作成した。住吉は、中国元代成立の類書『韻府群玉』の東アジアに於ける普及を主題として研究を進め、東アジアとアメリカでの総合的な伝本研究を行い、その改編・版刻の経過を追跡し、その成果を書目や論文などの形で発表した。以上の成果の一部は、平成13・14年度の単独の研究成果報告書、及び平成15・16年度調整班(B)出版物の研究の成果報告書に発表している。
著者
石井 慶造 松山 成男 山崎 浩道
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

本研究では、超微量元素分析法であるPIXE法を教材にした理科教育、および「裁判形式」を通した理科教育を検討した。IT理科教育を目指して、これらの研究成果に基づいたホームページを作成し、公開した。中・高校生に対して以下の教育効果が得られた。平成14年7月30日、31日に開催された「東北大学工学部オープンキャンパス」に参加した中・高生および一般人を対象に、PIXE公開実験を行なった(参加者総数は39名)。実験後アンケートを採り、放射線の利用については約50%は不安を感じていたが、PIXE分析公開実験に参加した後は、70%が「放射線は役立つのでその利用をもっと進めるべきだ」の意見に変わった。PIXE法は一般に良く受け入れられる放射線理解のための教材であることが示された。放射線科学を大学生による演劇を通して、その理解を試みた。演劇の中では、放射線を被告人にしたてあげ、裁判を行い、検事と弁護士および被告人とのやり取りから、放射線を理解する方法を考えた。演劇授業は、平成14年7月〜平成15年1月の間に計4回(総人数309名)行い、それぞれ、終了後にアンケート調査し、その効果を調べた。アンケート調査結果は、参加者の94%が「楽しかった」、92%がPIXEに興味を持った、78%がこの劇を通して放射線についての理解が得られた、98%が放射線に興味を持った、と回答した。このように、裁判形式の演劇授業による放射線理科教育の有効性が見られた。また、どの中学校も、大学生とのふれあう機会が欲しいとの要望が90%以上あり、今後は、下記のIT理科教育とともに、この学生の要望を視点にした出前演劇授業による理科教育も行うことにした。上記、催しの収録をもとにホームページを作成した。講義内容は、「ピクシー先生による理科教育」と題し、「放射線裁判」の劇を通して、放射線およびPIXE法について理解するとともに、実際にPIXE実験に参加も受け付けるものである。(http://pixe.qse.tohoku.ac.jp/pixe-geki/index)
著者
飯高 哲也 定藤 規弘
出版者
名古屋大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

情動写真や表情に反応する扁桃体の活動が、遺伝子多型や文化的背景により影響を受けるかどうかを調べた。日本人、日系アメリカ人、白人系アメリカ人の3群を被験者としてfMRI実験を行った。同時に遺伝子解析のための血液採取と、性格傾向質問紙(NEO)調査も行った。NEOによる神経症傾向は、白人系アメリカ人と比較して日本人で有意に値が高かった。扁桃体の活動は、日本人で日系アメリカ人及び白人系アメリカ人と比較して有意に高い活動を示した。現在はセロトニントランスポーター(5-HTTLPR)多型を米国において調べており、その多型に基づいて結果を再解析している。社会感情神経科学研究会と題した講演会を主催し、その中で本研究結果が発表された。情動の生成に関わる扁桃体と前頭前野の関係を、顔と声を用いた嫌悪条件づけ課題とfMRIを用いて研究した。24名の日本人被験者のデータを解析した結果、扁桃体の活動は開始早期に一過性に上昇するが前頭前野は実験を通して賦活されていた。米国の共同研究先で5-HTTLPR多型を調べ、その多型に基づいてfMRIデータを再解析した。ストレスに脆弱性があるとされるs/s型被験者では、条件づけに伴う前頭葉の活性が有意に低下していることを示した。社会性に関わる認知機能として、自分が成育した環境と類似した風景に対する学習・記憶の実験を行った。ここでは日本と米国(国籍)、都市と田舎(場所)という2要因を含んだ風景写真のfMRI記憶実験を行った。米国のNortbwestern大学では白人被験者を対象とした実験が終了しており、当方では16人の日本人被験者を対象としたデータ収集を行った。同時に被験者から得られた血液サンプルからDNAを抽出し、BDNF多型を調べている。白人被験者のデータ解析では、海馬および海馬傍回の活動が認められている。今後は国籍やBDNF多型の脳活動に与える影響を検討する予定である!
著者
仲嶋 一範
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

大脳皮質層形成において必須の役割を有することが遺伝子変異マウスの解析等によって明らかであるにも関わらず、その生物学的機能が長年不明であるリーリンの移動神経細胞に対する機能を明らかにすることを目指した。これまでに、発生期大脳皮質に異所的にリーリンを強制発現することによって細胞凝集が誘導されることを見いだしたので、その詳細な解析を引き続き進めた。まず、受容体に結合できないリーリンを点突然変異で作成し、そのin vivoでの異所的強制発現を行ったところ、凝集塊は形成されないことを確認した。すなわち、細胞凝集は確かにリーリンとその受容体の結合を介した現象であることがわかった。次に、異所的凝集塊内において、遅生まれ細胞が早生まれ細胞を乗り越えて凝集塊の中心近くに配置される現象の特異性を検証するため、リーリン及びGFP発現ベクターを胎生14日で導入し、その後胎生16日にRFP発現ベクターとともにDab1のshRNA発現ベクターを導入した。その結果、Dab1がノックダウンされた赤色細胞(遅生まれ細胞)は緑色細胞(早生まれ細胞)による凝集塊の周辺に留まり、中心近くに向かって進入することはできないことがわかった。そこでさらに2種の既知のリーリン受容体(ApoER2及びVLDLR)についても同様の実験を行ったところ、やはり受容体がノックダウンされた遅生まれ細胞は凝集塊の周辺に留まった。以上より、リーリンは特異的なシグナル経路を使って移動神経細胞の凝集及び"inside-out様式"の細胞の配置を引き起こすことがわかった。
著者
仲野 徹 木村 透
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

PGC7/Stellaは、初期胚、始原生殖細胞、卵細胞で特異的に発現し、受精後に細胞内局在が細胞質から核へと変化する。また、遺伝子改変マウスを用いた解析から、PGC7/Stellaは、卵子に存在する初期発生に必要な「母性因子」であることが明らかにされている。我々は、PGC7/Stellaの機能を解析するために、結合因子の探索を行い、タンパク質の核内輸送に関与するRanBP5(Rallbinding protein 5)を同定した。培養細胞を用いた実験から、RanBP5はPGC7/Stellaの核移行を促進することが明らかになった。次に、RanBPSとエストロゲン受容体のリガンド結合ドメインを融合させることにより、核に移行することができない細胞質局在型RanBP5を作製した。細胞質局在型RanBPSを受精卵に発現させると、PGC7/Stellaの核移行を阻害しただけではなく、PGC7/Stellaを欠損する卵子とほぼ同様の発生異常を示した。この発生異常は、核局在型PGC7/Stellaを同時に発現させることにより正常化することができた。PGC7/Stellaが受精直後の核内で機能することから、受精卵おけるゲノムのメチル化状態を検討した。その結果、PGC7/Stella欠損の受精卵において、DNA複製が開始される前に雌性ゲノムの脱メチル化が生じていることが明らかとなった。また、PGC7/Stella欠損の受精卵において、いくつかのインプリント遺伝子のメチル化が低下していた。以上のことから、PGC7/Stellaは受精卵におけるエピジェネティック不均等性の成立および初期発生におけるインプリントの維持という、ゲノムの不均等性維持に重要な機能を有することが明らかとなった。
著者
西山 智明
出版者
金沢大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

ヒメツリガネゴケ、イヌカタヒバの全ゲノムショットガンシークエンスリード断片配列データから相同遺伝子の配列を探索、構造を予測し、データベースから探索した相同遺伝子の配列ととも遺伝子系統樹を再構築するシステムを作成した。系統解析については、基礎生物学研究所生物進化研究室と共同で進め、被子植物で発生に関わる遺伝子を含む460遺伝子ファミリーについて系統解析を行った。結果として、シロイヌナズの発生に関わる遺伝子の約80%についてヒメツリガネゴケでもオーソログ候補が見つかり陸上植物進化の初期から保存されていることがわかった。さらに、遺伝子ファミリーを構成する遺伝伝子が、系統の分岐後に系統毎に遺伝子数を増加させている例が転写因子などに多数見つかった。また、ほとんどの系統で数が少数に維持されている遺伝子群は、細胞周期、細胞骨格、クロマチン修飾、光シグナル伝達に関わる因子に多かった。こうした遺伝子は、植物の生命活動維持に本質的に関わる物であって、ヒメツリガネゴケでは少数しかないが、被子植物の系統では多数に増えているような遺伝子が2倍体の多細胞体制の進化、特に2倍体の複雑化に関与していると予想される。上記系統解析で浮かび上がって来た植物ホルモン、ジベレリン信号伝達系について、ヒメツリガネゴケでは、被子植物と同様のジベレリン信号伝達系は働いていない事を明らかにした。5'SAGEに加え、計画班「下等植物の進化・多様性に関するゲノム研究」と共同で2倍体1ライブラリー1倍体4ライブラリーについて454システムを用いた3'末端配列決定を行い、各ライブラリーについて約40万個のmRNAの3'末端配列を決定した。このデータと、国際コンソーシアムとJGIと共同で進めたヒメツリガネゴケ概要ゲノム上の遺伝子を対応づけることで2倍体特異的に発現している遺伝子の同定を進めつつある。
著者
寺井 隆幸 鈴木 晶大 田中 照也 星野 毅 久保 俊晴 志村 憲一郎
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

核融合炉ブランケットでの使用が検討されている各種トリチウム増殖材料候補中でのトリチウム挙動及びブランケット配管におけるトリチウム漏洩防止についての研究を実施し、液体リチウム及び流動下液体リチウム鉛中水素同位体の配管を通しての漏洩速度及び移行メカニズム、さまざまな酸化還元状態の溶融塩候補材料中のトリチウム化学形変化、固体酸化物候補材からの蒸発挙動を明らかにするとともに、トリチウム透過防止コーティング中のトリチウム移行メカニズム解明とコーティング作成手法の最適化を行った。