- 著者
-
佐藤 信一郎
- 出版者
- 北海道大学
- 雑誌
- 特定領域研究
- 巻号頁・発行日
- 2007
溶液中における光励起分子の振動緩和過程の研究は、光化学反応制御や溶液構造・ダイナミクスとの関連において非常に重要な研究課題である。溶液中の多原子分子の振動緩和過程では、分子内振動再分配(IVR)と分子間振動エネルギー移動(VET)とが時間的に重なり、両者が競合する領域を持った複雑な過程である。我々はこれまで、ペリレン等の多環芳香族分子のVERについて研究をおこなってきた。多環芳香族分子は溶液中においても,吸収・発光スペクトルが比較的シャープであり,振動プログレッションが明瞭であることに着目し,時間分解発光スペクトルをフランクコンドン(FC)解析することで溶液中多原子分子系の実験としては報告例が非常に少ないstate-to-stateのポピュレーション解析に成功している。近年、溶液中での振動緩和過程の研究において、IVRにはサブピコ秒のタイムスケールで起こるfast IVRと、ピコ秒領域のslow IVRの2つが存在することが見出されている。このslow IVRはVETとタイムスケールが接近しており、溶質-溶媒間の弾性的な相互作用により影響を受けるsolvent-assisted IVR(SA-IVR)であると考えられている1,2。本研究では、このSA-IVRについて、溶媒のどのような性質が影響を与えているか詳細を明らかにするため、ペリレンのフェムト秒からピコ秒領域における余剰振動エネルギー緩和過程に対する溶媒効果について蛍光アップコンバージョン法により調べた。