著者
福田 敦夫
出版者
浜松医科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

1. KCC2蛋白機能抑制因子の検討-(2)(液性因子の検討):[福田]培養液中に17β-estradiol、progesteron、タウリンを加えて培養し、パッチクランプで異所性KCC2発現細胞のGABA逆転電位を測定し[Cl-]_i変化を検討した。タウリンのみ、GABA逆転電位を脱分極側にシフトさせたので、KCC2蛋白機能を抑制したと考えられた。2. 異所性KCC2蛋白の発達的機能変化とリン酸化/脱リン酸化の関与:[福田、古川]胎仔脳のスライスを作製して異所性KCC2を発現した細胞(EGFP発現)からパッチクランプ法により[Cl-]_iを測定した。脱リン酸化阻害剤vanadateは胎齢18日でも生後1週齢でも効果なく、リン酸化阻害剤staurosporineは異所性KCC2がまだ機能していない胎齢18日では効果なかったが、機能し始める生後1週では[Cl-]_iを低下させたので、KCC2蛋白の機能抑制にはリン酸化が関与している可能性が示唆された。インビボ胎仔皮質板細胞で一過性に豊富なタウリンが関与する可能性がある。3. 異所性KCC2蛋白の発達的機能変化とオリゴマー化の関係:[熊田、福田]強制発現させたKCC2のオリゴマー化の阻害が原因で機能発現しない可能性を検討するため、sulfhydry1還元剤を含まないdetergentを用いて異所性発現させたKCC2のWestern blottingを行った。異所性KCC2のバンドは抗Flag抗体(1:1000)を用いて同定し、タウリンの有無での異所性KCC2のモノマー/オリゴマー比を比較してオリゴマー化の差を解析したが、有意な差は認めなかった。以上から、細胞内タウリンの異所性KCC2蛋白機能抑制作用にはオリゴマー化の障害は関係していないと結論した。
著者
藤渕 航
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

パイロシーケンシングによる細胞内mRNA 絶対定量を可能にするためのプライマー配列(パイロプライマー)を開発するため、(1)「遺伝子」発現定量のための低冗長性を許したpolyA 近郊パイロプライマー、および(2)「スプライシングバリアント」を完全定量するエクソン境界近傍パイロプライマーを現実時間内で設計することを目的としそのための方法論とシステムを開発した。
著者
山本 和弘
出版者
大阪市立大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

平成20年度に引き続き、作成した単結晶ダイヤモンド検出器の性能評価を行った。検出器の構造は、4mm×4mm×0.5mmの単結晶CVDダイヤモンドチップの両面に金でメタライズを施して電極としたシンプルなもので、500Vのバイアス電圧をかけて信号を読み出した。ビームテストとして、京都大学化学研究所の電子線型加速器のビームラインにこの検出器を設置して100MeVの電子を照射し、その応答のデータを収集した。主なビームパラメーターは、エネルギー:100MeV、パルス幅:~60ns、強度:10^8~10^9個/パルス、ビーム径:~6mm、繰り返し周波数:15Hzであった。データ収集システムには、COPPERとMIDASを用い、FADCによりダイヤモンド検出器からの波形データを記録した。信号の波形を見ると100ns弱のパルス幅が得られ、照射した電子ビームのパルス幅とほぼ同程度であった。これはT2K実験のビームバンチ間隔580nsよりも十分小さく、この検出器によってバンチごとのビーム測定が十分可能であることが分かった。次に、電子ビーム強度をJ-PARCメインリング(MR)40GeV, 0.6MW相当までスキャンして信号を取得し、同時に取ったシリコン検出器の応答との比を取ってビーム強度に対する応答の線型性を測定した。結果は、ビーム強度の全領域においてほぼ線型性を保っことが確認され、直線フィットからのずれは1~2%以内に納まった。ただし、ビーム強度の上昇に伴ってずれが大きくなる様子も見えたので、この効果を取り入れるために2次曲線でフィットを行うと、そこからのずれは±0.2%に納まった。次に、電子ビームの強度をJ-PARC MR40GeV, 0.6MW相当に設定して40分間にわたり連続照射し、その間の信号の安定性を見た。その結果、大きな信号の変動は見られず、そのずれは1%以内に納まることが確認された。
著者
佐藤 理江
出版者
独立行政法人宇宙航空研究開発機構
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

GRBは宇宙最初期における大質量星が放つ最期の輝きと考えられている。爆発で放射される相対論ジェットは膨大なエネルギーをもち、高エネルギー宇宙線の加速原としても有力視されている。しかし、どのような星がいかなる機構で相対論ジェットを形成するのかは未だ謎である。本研究ではすざく衛星、Fermi衛星と連携することで、これまで不可能であった広帯域・高感度の観測を実現し、GRB放射機構の解明に迫る。2008年6月にFermi衛星は無事打ち上げられ、これまでに順調に科学データを取得している。Fermi衛星で狙うGRBサイエンス(GeVガンマ線起源の解明など)の成果もあがっており、科学論文も発表されている。この中で私は、Fermi衛星の運用が始まってから。日本チームの一員としてGRB発生の監視当番や、データ解析を行ってきた。昨年9月に発生したGRBにおいては、Swift衛星によるX線、Fermi衛星によるGeV領域のデータを合わせた解析を行っている。X線からGeVガンマ線領域にわたる同時解析は初めての試みである。一方で私は、すざく衛星のデータを用いたブレーザーの解析も進めており、TeVブレーザー「1ES1218+304」や「SwiftJ0746」では、時間発展、多波長スペクトルから磁場の強さなどブレーザー領域における物理量を導いた。さらには、すざく衛星を用いて観測された5つのブレーザー天体と、Fermi衛星による同時期のデータをあわせた解析を行い、その結果を投稿論文としてまとめているところである
著者
水野 恒史
出版者
広島大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

宇宙最大の爆発現象であるγ線バースト(GRB)の放射機構の解明には、FermiによるGRBのモニタ・解析体制(γ線領域)の立ち上げと、「すざく」衛星搭載WAM検出器(X線領域)および「かなた」望遠鏡(可視光領域)とをあわせた多波長同時観測の確立が鍵を握る。そこで[1]2008年6月のFermi衛星の打ち上げに合わせて米国スタンフォード線形加速器センターに長期滞在し、初期運用に貢献するとともに、データの解析方法についての情報収集を行い、[2]また日本国内でのFermi衛星の運用や、WAM検出器および「かなた」望遠鏡による同時観測・解析の立ち上げを国内の研究機関および広島大学のスタッフ・学生と協力して行った。これらの準備状況について、2008年11月の三鷹での研究会で報告をおこなった。2008年9月に起きたGRB080916Cは、1GeV以上での史上最高のイベント数を記録した歴史的なGRBであり、母銀河の赤方偏移も決まったため科学的価値が極めて高い。このGRBについてFermiチームがまとめた論文が受理された。GRB081024Bは、赤方偏移こそ決まらなかったものの、100MeV以上の放射がはじめてshort GRBで検出されたものであり、またWAM検出器でも同時に検出がなされた点でも貴重な事象である。このGRBについては、WAMとの同時解析も含め積極的に解析に参加しており、天文学会でその報告を行った。
著者
岡崎 健一 鳥本 司
出版者
名古屋大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

金属ナノ粒子は、粒子サイズや形状・結晶構造に依存して物理化学特性が大きく変化する。そのため、これらを制御することは、高活性触媒、電極触媒など様々な応用を目指す上で極めて重要である。当研究グループではこれまでに、イオン液に対して金属をスパッタ蒸着することにより、安定化剤などを添加することなく、イオン液体中に均一に分散した金属ナノ粒子や合金ナノ粒子を作製することに成功してきた。今年度、本手法を用いて、インジウム、金-銅合金、金-パラジウム合金を作製し、コア-シェル構造・中空構造などの形状制御、加熱処理による結晶構造制御、および組成制御による高活性電極触媒への応用について、それぞれ検討を行った。120℃で減圧乾燥したイオン液体(BMIm-BF_4)に対して、2.0Paのアルゴン雰囲気下でインジウムをスパッタ蒸着したところ、金属インジウムをコアに、アモルファス酸化インジウムをシェルに持つ、In/In-2O_3コア-シェル構造ナノ粒子を作製することに成功した。この粒子はコアサイズ4.0nm、シェル厚2.0nmのナノ粒子であった。さらに空気中200℃以上で加熱処理することにより、インジウムと酸素の拡散速度の違いにより、粒子内部が中空化した中空In_2O_3ナノ粒子を作製することにも成功した。このように我々が開発したイオン液体へ金属をスパッタ蒸着するナノ粒子合成法は、金属ナノ粒子のみならず、半導体ナノ粒子や構造特異性を有するナノ粒子を作製可能であることを見出した。一方、例えばAuCu合金ナノ粒子を液相で合成した場合、原子が規則的に配列した規則合金化するためには450℃付近まで加熱する必要があったが、減圧アルゴン下で加熱したイオン液体ヘスパッタ蒸着することにより、AuCu規則合金ナノ粒子を150℃という低温で形成できることを見出した。
著者
海野 義信
出版者
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

「国際的研究開発プログラム」SLHCに向けたふたつの国際協力、シリコンマイクロストリップセンサー開発とプラナーピクセルセンサー開発に参加。6月およびll月に欧州原子核研究機構(CERN)での研究集会にて、ストリップセンサーセッションの座長を勤め、またセンサー開発状況・日本での放射線損傷試験・ハイブリッド開発について発表。プラナープラナーピクセルセンサーセッションではピクセルセンサーの日本での製造状況について発表。先端の研究状況を相互に理解するとともに開発の競争・協力関係を築いている。「p型シリコンマイクロストリップセンサーの放射線損傷と耐放射線性の高度化」ホットエレクトロン装置によりマイクロディスチャージ発生点を同定、TCADシミュレーションプログラムにより発生電圧の構造依存性を評価。結果として、p型シリコン基材を使用するn一ストリップ読み出しセンサーの10cm角の大型シリコンマイクロストリップセンサーにおいても、空乏化電圧1kVまでマイクロディスチャージを発生しないセンサーを開発した。1kVの空乏化電圧はSLHCで予想されるストリップセンサー領域で予想される空乏化電圧であり、この大型センサーの完成によりSLHCでのストリップセンサーに目処が立ったと言える。「シリコン半導体飛跡測定器の構造及び熱設計の手法の確立」ヒータやダミーシリコンを用いた熱評価モジュールを評価し、限要素法と良い一致結果を得ている。ダミーハイブリッドによるワイヤー本ディングの評価から、ASIC+4層ラミネートハイブリッド+カーボン材の裏打ち構造の強度評価・最小厚を決定。実機センサーと実機ハイブリッドを組合せた実機モジュールの強度評価・熱設計と有限要素法との一致度を評価中。最終評価を得るにはもうしばらく時間が必要。
著者
奥島 葉子 梅田 正明
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

昨年度までに得た結果から、栄養源などに応答した根の伸長を制御する根端分裂組織での細胞増殖に、オーキシンによるCDKB2タンパク質の安定性制御が関与する可能性が示唆された。そこでレポーターラインを用いて根におけるCDKB2の領域特異的な発現様式を解析したところ、CDKB2タンパク質は分裂領域でのみ発現して伸長領域では全く発現しないのに対し、CDKB2遺伝子は分裂領域だけでなくそれより基部側の伸長領域の一部でも発現していることを見出した。これらの結果から、CDKB2タンパク質が伸長領域よりも基部側では蓄積しないよう特異的に制御する機構が存在し、さらにこの機構が分裂サイクルからエンドサイクルへの移行の誘導に関与する可能性が考えられる。さらに、MG132処理によっても伸長領域でのCDKB2タンパク質の蓄積が確認できなかったことから、CDKB2の蓄積はユビキチン-プロテアソーム系による分解制御のみではなく、別のタンパク質レベルの制御機構によっても制御を受けている可能性が考えられた。その制御機構の一つとしてタンパク質の安定化が考えられるが、CDKB2タンパク質はSUMO E3リガーゼであるHIGH PLOIDY2(HPY2)によってSUMO化されることで安定化制御を受ける可能性が示唆されている。そこで、HPY2を伸長領域で異所的に発現させる形質転換植物体を作出した。今後、この形質転換体におけるCDKB2の発現様式および根の発達に及ぼす影響を詳しく観察していく予定である。
著者
河野 昌仙
出版者
独立行政法人物質・材料研究機構
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

1次元の厳密解と鎖間結合が弱い極限からの近似法とを組み合わせた方法によつて、異方的2次元フラストレート系の磁場中で現れる準粒子について調べた。その結果、今回得られた準粒子は、通常の磁性体の準粒子として知られているマグノンや1次元系の準粒子とは異なる様々な特異な性質を示すことが明らかになった。特徴的は振る舞いとして、磁化に強く依存した波数におけるスピン密度波型の非整合秩序、複数の準粒子による磁場中のクロスオーバー、高エネルギー領域に現れる強いスペクトル強度をもつモードなどを挙げることができる。これらの振る舞いは、通常の線形スピン波理論では説明することができず、また、発現メカニズム、動的構造因子の形状、秩序化の有無、次元性、統計性などにおいて1次元系の準粒子とは異なる。これらの特徴的振る舞いは、その発現メカニズムに起因している。つまり、通常のスピン波理論では、マグノンは自発的対称性の破れによって安定化するのに対し、今回の準粒子は1次元準粒子の鎖間ホッピングによつて形成される結合状態とみなすことができる。したがつて、発現メカニズムはマグノンよりもむしろフェルミ液体で現れる集団励起のものに似ており、基底状態の対称性の破れに依らず、個別励起間の多粒子プロセスによつて生じる。この意味で、今回得られた準粒子は、異方的2次元のスピン液体または、1次元準粒子であるプサイノン、反プサイノン、2-ストリングの準粒子の液体とみなすことができると考えられる。また、今回得られた準粒子描像によって、異方的三角格子反強磁性体Cs_2CuCl_4の磁場中で観測されていた様々な異常な振る舞いを統一的かつ定量的に説明することに成功した。
著者
萩原 弘一
出版者
埼玉医科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本研究では、(1)薬剤性肺障害に関与する遺伝子が「」common disease-common variant-common origin仮説」に従い日本人に広がった。(2)特発性肺線維症急性増悪に関与する遺伝因子も「common disease-common variant-common origin仮説」に従い日本人に広がった、という作業仮説のもと、両者が同一である可能性、異なる可能性を共に考慮に入れながら、ホモ接合ハプロタイプを用いた全ゲノム関連解析」を始めとする各種解析手法により両者の遺伝子を特定する。両者の遺伝子が同一か否か、比較対照しながら平行して研究する。本年度は、検体収集を開始した。各協力施設から送られてくる加ヘパリン末梢血サンプルより有核細胞を分離し、EBウィルスとともに培養してリンパ芽球細胞株とし、常にDNAを継続採取出来るように準備するとともに末梢血より直接DNAを採取した。各検体に対して同様の処理を行った。薬剤性肺障害、特発性肺線維症急性増悪ともに80例程度の症例を収集することができた。また、アルゴリズムの開発も継続し、HH-GWAS法(投稿中)、HMonHH法(投稿準備中)を開発することができた。HMonHH法は、わずか2名の個人から疾患遺伝子の存在場所を推定する手法である。また一部全ゲノムSNP解析もAffymetrix社SNPアレイ6.0を使用し開始している。
著者
柳井 毅
出版者
分子科学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

高スケーラブルな新規電子相関計算法の基礎理論として、電子相関計算のボトルネックとなる積分変換計算を効率化するような「局所ハミルトニアン法」を提唱し、その基礎理論を確立した。本提案手法では、この変換計算に対して、局在化分子軌道を変換基底として利用し、基底空間を区分けし、各区分けで小さな積分変換を行う。そして区分同士の相互作用も低次まで考慮する積分変換を行う。局所ハミルトニアン法の基礎理論を計算機上に実装し、その性能を評価した。(LiH)n鎖をテスト分子として、局所ハミルトニアン法による積分変換計算の計算コスト(総flop数)を見積もった。見積もりでは、ハミルトニアン分割での打ち切りを判定する敷居として、分割領域の二組(IJ)の空間的距離が15bohr以内の組み合わせのみを考慮し、さらにScwarzの公式を用いたprescreeningを施した。長鎖の(LiH)nに対して、総flops数は、鎖長に対して良好な低次スケーリングを示し、ほぼlinear scalingな計算コストであった。従来のo(N^5)の計算コストである計算法と比較して、局所ハミルトニアン法の計算は、n=15~20程度ですでに効率よい計算であることを示した。上の開発で得られた、局在化分子軌道ベースの打ち切り近似ハミルトニアンを利用することで、Pulay、Wernerらの局所電子相関法LMP2法を実装することができる。PulayやWernerらによる実装は、積分変換が難所であったが、本研究では「局所ハミルトニアン」をその強力な処方箋として大規模計算に活用できると期待される。DNA Base-Pairをテスト分子として、Base Pairの相互作用エネルギーをLMP2により求めた。局所ハミルトニアンの分割として2種類の分割様式を試したが、分割様式によらず二種類の計算は誤差が少なく良い一致を示した。分割ではBase Pairの水素結合を切っているが、従来型のMP2計算の結果と比較しても遜色ない精度を算出することを確認した。以上の結果から、本手法の基礎的なアルゴリズムは大まかに形成されたと言える。
著者
石川 浩 物集 照夫 永瀬 成範 河島 整 杉本 喜正 池田 直樹 秋本 良一 牛頭 信一郎 挾間 壽文 鍬塚 治彦 秋田 一路 GUAN Lim Cheng 小笠原 剛
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

InGaAs/AlAsSb 系の超薄膜量子井戸のサブバンド間遷移を用いた超高速光ゲートスイッチの低エネルギー動作化を目指して、デバイス設計に必要な基礎物性パラメータの評価、高品質結晶の作成技術の研究開発を行い、160Gb/s領域で、2pJの低エネルギーで動作する全光変調位相変調効果を用いたサブバンド間遷移素子の基盤技術を確立した。また、周期構造を集積化することで位相変調効率を上げる構造を提案設計して、その製作技術を確立した。
著者
堀内 嵩 小林 武彦 定塚 勝樹 篠原 彰 日高 真純
出版者
基礎生物学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

堀内らは、この研究領域の開始前までに、(1)大腸菌の複製フォーク阻害部位(Ter)において相同組換えの活性化が起こり、ホットスポット(Hot)となること、(2)出芽酵母のリボソームRNA遺伝子(rDNA)リピート内にある複製フォーク阻害部位(RFB)における阻害が、rDNA領域内の組換え、さらにコピーの増減に必須であることを見出していた。その後本研究により(1)大腸菌のTer近傍に見出した組換えのHotにおいても、遺伝子増幅が起こり、酵母とは異なりローリングサークル型複製により、菌集団の約10%の細胞でHot領域が約400倍に増幅することを見出した。(2)一方、以前から酵母のサイレンシングタンパクの一つSir2がrDNAリピート内発現の抑制(サイレンシング)と組換えの抑制に必須なことは知られていたが、機構は不明であった。我々はsir2欠損下では35SrDNA間に存在する両方向のRNAポリメラーゼIIプロモーターの発現の抑制(サイレンス)が解除され、転写が起こる結果、その領域に結合していたコヘーシンが外れ、その領域の姉妹染色体間の結合がゆるむ結果、非対称的組換えが活性化(コピー数変動)されることを見出した。(3)fob1欠損下ではrDNAのコピー数は凍結するが、高いコピー数は維持される。この未知の維持機構を明らかにしようと、fob1欠損下でコピー数維持不能変異株を多数分離し解析したところ、6株のコンデンシンの変異株を分離した。コンデンシンタンパクの局在化の解析から、コンデンシンはS期にrDNAのRFBにFob1依存的に特異的に結合することを見出し、rDNAのコピー数の維持に必須であることを明らかにした。一方篠原らは、減数分裂期に起こる相同組換えの分子機構を解析し、特にこの時期に働くことが知られているRecAホモログDmc1と共同して働く因子を探索することで、二つの新しい因子Mei5とSae3を見出し、3者の染色体への結合が相互依存的であることから、3者は複合体として働くと結論した。
著者
佐藤 信一郎
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

溶液中における光励起分子の振動緩和過程の研究は、光化学反応制御や溶液構造・ダイナミクスとの関連において非常に重要な研究課題である。溶液中の多原子分子の振動緩和過程では、分子内振動再分配(IVR)と分子間振動エネルギー移動(VET)とが時間的に重なり、両者が競合する領域を持った複雑な過程である。我々はこれまで、ペリレン等の多環芳香族分子のVERについて研究をおこなってきた。多環芳香族分子は溶液中においても,吸収・発光スペクトルが比較的シャープであり,振動プログレッションが明瞭であることに着目し,時間分解発光スペクトルをフランクコンドン(FC)解析することで溶液中多原子分子系の実験としては報告例が非常に少ないstate-to-stateのポピュレーション解析に成功している。近年、溶液中での振動緩和過程の研究において、IVRにはサブピコ秒のタイムスケールで起こるfast IVRと、ピコ秒領域のslow IVRの2つが存在することが見出されている。このslow IVRはVETとタイムスケールが接近しており、溶質-溶媒間の弾性的な相互作用により影響を受けるsolvent-assisted IVR(SA-IVR)であると考えられている1,2。本研究では、このSA-IVRについて、溶媒のどのような性質が影響を与えているか詳細を明らかにするため、ペリレンのフェムト秒からピコ秒領域における余剰振動エネルギー緩和過程に対する溶媒効果について蛍光アップコンバージョン法により調べた。
著者
藤井 勲
出版者
岩手医科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

A. oryzae RIB40株のゲノム解析から見出されたタイプI型PKS遺伝子について、芳香族型Ao11〜113の13種、還元型Ao21〜212の12種、ペプチド合成酵素とのハイブリッド型(PKS/NRPS)Ao31〜33の3種について順次、発現用宿主であるA. oryzae M-2-3株に形質転換・導入しているが、今年度は新たにAo15、17、18 PKSについてその生産化合物を同定した。その結果、Ao18 PKSは、ナフトピロンYWA1の合成酵素であること、Ao15 PKSはオルセリン酸合成酵素であることが判明した。また、Ao17形質転換体は、2つの主生成物を与えたが、これらはいずれもヘプタケタイドであるcitreoisocoumarinとalternariolであると同定した。両者は、炭素鎖長は同じであるものの閉環様式が全く異なっている。また、後者は、Alternaria属糸状菌の生産するマイコトキンとして報告されている化合物であり、A. oryzaeがその生産能を潜在的に有することが確認された。RIB40株には全長PKS/NRPSをコードするAo31〜33に加え、一部欠失のあるPKS/NRPS遺伝子が存在しているが、その周辺遺伝子情報の検討から、本来はシクロピアゾン酸(CPA)の生合成に関わっていたことが推定された。そこで、RIB40株の配列をもとにCPR生産菌A. flavusのゲノムデータベースを検索し、CPA生合成に関わると思われる遺伝子クラスターを見出した。これを確認するため、A. flavasの対応するPKS/NRPS遺伝子を上記Ao PKSの発現と同様にして、A. oryzaeで発現したところ、CPA生合成前駆体の生産を確認した。現在、A. oryzae以外の菌株のポリケタイド生合成遺伝子についても解析を進めている。
著者
上田 佳宏
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

ROSAT、「あすか」、HEAO1、チャンドラ、XMM-Newtonで得られた軟X線選択および硬X線選択サンプルに対して、昨年度に開発した解析手法を用い、同時解析を行なった。その結果、1型と2型を含む全活動銀河核の光度関数を、赤方偏移5までの範囲で過去最高の精度で制限することに成功した。この結果はプラハで行なわれた国際天文連合総会にて口頭発表した。また、すばるXMMディープサーベイのX線カタログと電波カタログを比較し、遠方宇宙での非常に強い吸収をうけた活動銀河核の存在量について制限をつけた。この結果は、マンスリーノーティスオブロイヤルアストロノミカルソサイエティ誌に論文として発表した。また、「あすか」で発見された2型AGNの母銀河の研究を行なった。活動銀河核の母銀河の研究は従来、ほとんど1型活動銀河核を用いて行われてきた。しかし、1型では中心核が極めて明るいため母銀河の研究は困難を極めていた。2型のサンプルを用いればこの問題は回避でき、母銀河の構造を詳細に探ることが可能となる。この解析の結果、赤方偏移が1以下の範囲では母銀河のスフェロイド光度とその中心に存在するブラックホール質量の関係(マゴリアン関係)が、現在の宇宙にみられるそれと同じであることを見出した。つまり、赤方偏移1以下の最近の宇宙ではブラックホールと銀河は共進化してきたと考えて矛盾しない。この結果はアストロフィジカル・ジャーナル誌に論文として発表した。
著者
浜地 格 三原 久和 杉本 直己 養王田 正文 金原 数
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

細胞機能を制御する生体機能シグナルは、物理シグナルだけでなく分子が担う化学シグナルが重要な位置を占める。具体的には、局所的な電位や温度、pHから金属イオン、アニオン種、有機小分子、糖類や核酸、脂質、ペプチド、タンパク質などが色々な局面で生体機能のデジタル情報を担っている。細胞内外の機能情報を網羅的に解析するために、このような非常に多様で複雑かつ微量な分析対象それぞれをハイスループットに検出・分析できるセンサーやプローブ、種々の材料を、人工小分子から核酸、ペプチド、タンパク質、ナノ構造体を基盤として開発することに成功した。
著者
石井 浩二郎
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本研究では、これまで未解明であったセントロメア新生反応機構について、分裂酵母の卓越した遺伝学を用いた新たに分子的な解剖を試み、セントロメア生来の必須機能の分子的な本質の理解を行ってきた。セントロメア機能傷害の発生に際して、染色体上の別座位に新たにセントロメア機能(ネオセントロメア)が獲得される現象は既に高等細胞で見出されているが、その出現を偏りなく人為的に誘導する実験系はこれまで報告がない。私たちは、高等生物と同等の分子構造を示す分裂酵母セントロメアに人為操作を加え、細胞内で条件的にセントロメアを染色体から切除するシステムを構築し、セントロメア欠失という致死的な傷害を既定の細胞集団に誘発する系を確立した。ネオセントロメアの新生をこの致死的細胞集団からの復帰生存株の出現という細胞応答として検出し、その反応素過程を分子生物学的に解析した。昨年までの解析により、分裂酵母第一染色体および第二染色体からのセントロメア欠失はネオセントロメア獲得細胞を再現性よく生成し、そのネオセントロメア形成領域として染色体両端のテロメア近傍が集中して選ばれていることが判明していた。テロメアの重要性を探るため、本年度はまずテロメア末端を欠失した染色体でのセントロメア欠失を行った。その結果、テロメアを欠く細胞ではいかなる復帰生存株も生まれないことを見出した。テロメア構造は染色体再編成に必須なことが示唆された。また、ネオセントロメア形成後の遺伝子発現の変動を人為的発現誘導によって解析し、セントロメアの転写に対する柔軟性がさらに明確に示された。
著者
中山 恒義 兼下 英司
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2010

本研究はオフセンター内包イオン間の長距離相互作用が誘起するカゴ状クラスレートのTHz振動数領域での特異な物性について研究するものである.内包ゲストイオンの対称性が破れた系は、ガラス的な熱伝導を示し、熱電変換指数ZTが1を越えることが実験的に示され特に最近注目されるようになった.また極低温での熱電物質クラスレートに関するTHZ振動数領域での実験結果は結晶のものとは全く違う比熱や熱伝導性を示す.これらが構造ガラスと同じ振る舞いを示すことが重要である.本年度は10K領域で観測されるプラトー熱伝導についてオフセンターにゲストイオンを含む一般的系に対して成立する理論式を立て興味ある結果を得た.それらを要約すると、1.プラトーは対称性が破れたゲストイオンの回転モードと籠ネットワークがつくる音響フォノンとの結合状態を反映したものである.2.これによりフォノン分散関係が平坦化することで熱伝導が強く制限されることが明らかになった.3.フォノン分散関係を計算することでこれを明らかにし、音響フォノンンと回転モードとの結合定数がそのランダム性を反映しブロードになることが分かった.4.これがガラスで普遍的に観測されるボソンピークの起源であることが分かった.これらの結果から、効率の良い熱電変換物質の設計指針を与えることができることになった.ガラスで普遍的に観測されるボソン・ピークの起源に関する研究は純粋にアカデミックなものであったが、高効率の熱電変換物質の設計に役立つことが分かったのは大きな成果である.
著者
高橋 淑子
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

血管ネットワークは成体の隅々にまで張り巡らされ、酸素や栄養補給など重要な生理機能を発揮する。これらの血管ネットワークはどのようにして形成されるのであろうか?この問いに答えるために、初期胚における血管形成のしくみを研究した。個体発生の過程において、血管組織は一定のルールに従って作られる。そこでは動脈・静脈などのサブタイプに加えて、血管が作られるべき場所が厳密に規定される。血管形成の場所やタイミングがどのように制御されるのかについて、ケモカインSDF1とその受容体CXCR4の役割に注目した解析を行った。これまでに、SDF1/CXCR4シグナルは、背側大動脈から分岐する肋間血管の形成に重要な役割をもつことを見出している。興味深いことに、CXCR4は、形成されつつある細い血管において発現される一方で、それらの血管形成が終了し周囲を壁細胞で覆われる頃になると、CXCR4の発現が消失する。これらのことから、CXCR4は細胞移動の制御のみならず、血管内皮細胞の分化・成熟にも関わる可能性が見えてきた。これらの制御機構をさらに詳細に理解するために、CXCR4の下流で働く分子群の同定を試みた。候補分子の機能解析にあたり、トリ胚を用いた血管特異的な遺伝子導入法を開発した。解析の結果、さまざまな細胞接着関連分子群や、低分子量GTPase RhoファミリーがCXCR4と協調的に働く可能性が高まった。血管形成におけるケモカインシグナルの下流の分子メカニズムはこれまでほとんど知られておらず、本研究による成果は、血管パターンの形成機構を理解する上で、新たな知見を提供するものである。