著者
許 南浩 阪口 政清 片岡 健
出版者
岡山大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

REIC/Dkk-3発現アデノウイルスベクター(Ad-REIC)のスキルス胃癌への適用スキルス胃癌は進行が早く腹膜やリンパ節に転移しやすい難治性のがんの一つである。現在、本がん種を標的とした有効な治療法がない。本年度では、Ad-REICのスキルス胃癌への有効性を検討する目的で、胃がん腹膜播種動物モデルを新規に開発した。Ad-REICを服腔内に投与したところ、胃がん細胞株の腹膜播種の有為な抑制が観察された。これは、Ad-REICの直接効果(がん細胞特異的細胞死誘導)とAd-REICにより誤標的された正常細胞を介した間接効果(正常細胞がIL-7を産生してNK細胞の活性化を誘導)によることが明らかとなった(論文準備中)。Ad-REICの改良Ad-REICによるアポトーシス誘導作用を高めるために、強力な遺伝子発現システムを独自に開発した。結果、従来のプロモーター(CAGやCMV)を用いた遺伝子発現システムに比較して顕著な遺伝子発現増強効果(各種遺伝子で、100倍から1000倍)が達成された。このシステムをAd-REICに組み込むことにより、現存のAd-REICを上回る治療効果が期待できる(論文準備中)。分泌REIC/Dkk-3タンパク質の機能の解明分泌型REIC/Dkk-3も免疫系を介した間接的抗腫瘍効果を示す。REIC/Dkk-3の発現組織と分泌されたREIC/Dkk-3を積極的に取り込む細胞の同定を行ったところ、分泌されたREIC/Dkk-3は末梢血単球の樹上細胞様細胞への分化・増殖を制御している可能性が示唆された。REIC/Dkk-3ノックアウトマウスの作製癌抑制遺伝子REIC/Dkk-3の主要ドメインであるEXON 5、6を全身性にノックアウトしたマウスの作成を行っていたが、2009年10月に、ホモノックアウトマウスの作成に成功した。
著者
高橋 庸哉 佐藤 昇
出版者
北海道教育大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

1.「雪」に関するコンテンツの拡充セスナー機から撮影した流氷写真・ビデオ、クリオネや降雪粒子のビデオ、ヒグマなどに関するページを制作した。また、「降ってくる雪」中の「ルーペで見てみよう!」コーナーを視覚的なものに改良した。2006年度のトップページアクセス数は11万4千余件であった。2.学校教育現場での実践と内容の妥当性検討雪に関する関するコンテンツを利用した授業等を行い、その内容妥当性の検証を進めた。また、前年度に制作したLAN対応リアルタイム気象データモニタリングシステムを市内小学校4校に展開し、実地試験を進めた。2006年12月に札幌市内小学校の研究授業を行った。3.教育現場でのコンテンツ利用の促進方法の実施雪の学習に関する教員向けセミナーを実施し、全道各地から53名の参加があった。雪たんけん館を活用した模擬授業及び授業作りワークショップ、雪たんけん館やITをどう生かすかをテーマとした討論・講演などを行った。事後アンケートによると、セミナー内容に関する満足度は5段階評価で4.5、参加者の98%が教室ですぐに使える情報があったと答えた。また、天気情報と大気の実験に関する小学校教員ワークショップを企画・実施した。4.コンテンツ利用状況調査札幌市内小学校(209校)を対象としたアンケートを行い、次の結果が得られた:a)Webページ「北海道雪たんけん館」を使った実践を行った学校が12%あった,b)「雪」を教育素材として、どう思うかも問いに対して、70%は取り上げるべきと答えた。また、これまでに4回実施した雪の学習研究会参加者のうち小学校教員にコンテンツ利用状況に関するアンケートを実施した。31%が北海道雪たんけん館を授業で使ったことがある、あるいは同僚が使っているのを見たと答えた。実際に授業で活用し得るコンテンツであることが示された。
著者
松田 清 鳥井 祐美子 井口 靖 河崎 靖 クレインス フレデリック
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

江戸時代舶載蘭書目録の作成と関連資料の書誌的研究を第一の目的とする本研究は、前年度に引き続き内外各地で書誌調査を行い、とりわけ佐賀藩および小城藩関係資料の研究を重点的に進めた。また、鳥井裕美子は松田清と共に、総括班による武雄鍋島家「長崎方控」の校訂注釈作業に中心メンバーとして参加した。その成果として、松田は佐賀大学小城文庫所蔵の蘭文写本「人工体普録」がオズー製1857年型人体解剖模型「キュンストレーキ」の仏文解説書の蘭訳筆写本であることを突き止め、筆者を小藩の相良柳逸、訳者をマンスフェルトと推定した。また、幕末佐賀蘭学の根本資料である佐賀鍋島家「洋書目録」(文久2年まで洋書の出納簿を兼ねた)について、目録本文の翻刻、記載洋書の原書同定、長崎奉行所に提出された輸入蘭書「銘書帳」との照合結果、さらにオランダ王立兵学校用教科書目録との関連を盛り込んだ復元目録を編集刊行した。クレインスは江戸時代舶載蘭書の内、解剖・生理学書の書誌的、翻訳論的研究をまとめ、17〜18世紀のヨーロッパで主流となった機械論的身体観の受容が東洋の伝統的身体観の枠内で行われたことを指摘した。松田、クレインスは幕末萩藩旧蔵蘭書や蘭学の背景となった西洋本草医科学書を多数収蔵する杏雨書屋の洋書について数年来の詳細な書誌調査をまとめ、その成果を目録として刊行した。前年度までに刊行した『宮城県図書館伊達文庫蘭書目録』『佐賀藩旧蔵洋書目録』と合わせて、江戸時代舶載蘭書目録の基礎作業はほぼ達成できた。初年度(平成14年度)に着手したハルマ辞書訳語集成についてはハルマ蘭仏辞書の電子版作成にとどまった。
著者
寺岡 靖剛 永長 久寛
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

Sr_2AlNbO_6はペロブスカイト(ABO_3)型構造を持ち、Al^<3+>とNb^<5+>がBサイトを占有している。これら2種類の金属イオンは焼成温度の増加に従いBサイト内で規則配列し、結晶内に-Al^<3+>-O-Nb^<5+>-交互規則配列結合を形成する割合が高くなる。したがって、Sr_2AlNbO_6を用いることで化学組成や結晶系を変えることなく、金属イオン規則配列構造と触媒機能との相関を評価することが可能と考えられる。そこで、金属イオン規則配列構造に由来する協奏的触媒機能の発現に対する知見を得ることを目的とし、規則配列度の異なるSr_2AlNbO_6を合成し、結晶構造を評価した。さらに、結晶構造が吸収スペクトルや光触媒活性に与える影響を検討した。規則化度の異なる試料の吸収スペクトルからEg値を見積った結果いずれも4.1eVとなり、Eg値と規則化度との相関はみられなかった。一方、メタノール水溶液を用いた光触媒活性評価の結果、長時間焼成することでH_2生成活性は低下することがわかった。触媒の比表面積は約3~4m^2・g^<-1>と同程度であったことから、活性の差は比表面積では説明できないと考えられる。このような光触媒活性の低下はAg光還元反応にも同様に認められ、反応の種類に依存しなかった。以上の結果から、Sr_2AlNbO_6の光触媒活性は規則化度の向上により低下することが示唆された。このように協奏的触媒機能の発現には至らなかったが、バルクの金属イオン配列の規則化と触媒機能の関連を初めて明らかにした。またバルクの規則配列構造を反映した多金属協奏活性的構造表面の創製として、立方晶のBa_2CoWO_6と単斜晶のCa_2CoWO_6を比較した。その結果、Ca_2CoWO_6において(-201)面上の金属イオン規則配列構造を反映した表面構造が形成され、それが触媒活性向上に関連する可能性が示唆された。
著者
西村 博明
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

高速点火核融合プラズマを対象とし、爆縮コアプラズマの形成過程、密度半径積の計測、ならびに超短パルスレーザーによる追加熱過程の観測を目的として、超高速単色X線X線分光診断法の研究を実施した。爆縮コアプラズマの電子温度プロファイルを計測するため,塩素トレーサーガス封入ターゲットを開発し、爆縮実験に用いた。昨年開発した単色X線サンプリングストリークカメラで塩素の共鳴線であるHea線とLya線を単ショットベースで取得し、二次元電子温度の時間履歴が500~820eVの間で変化することなどが分かった。さらに,流体シミュレーションと比較した結果,爆縮過程の減速相でシェルと内部ガスの混合が発生し、その現象が電子温度を低下させていることを明らかにした。プラズマの初期密度を駆動レーザーに対する臨界密度より低い低密度ターゲットを使用すると、加熱膨張が起こるまでに速やかに一様加熱でき、固体平板と比べ一桁以上高いX線の変換効率を得ることを定量的に示した。爆縮コアプラズマの密度計測に最適なチタンのK殻X線(4.5-6.0keV)に着目し、チタンドープエアロジェル(密度3.2mg/cc,チタン含有量が3%原子数)をシリンダーに詰めたターゲットを用いて加熱波の観測実験を行った。実験結果と二次元放射流体シミュレーションとを比較し、シリンダー壁面からのプラズマ膨張がシリンダー軸上で衝突しプラズマ温度を上昇させていることが確認された。さらに,チタンの含有率を上げ、更なる変換効率の向上を目的に,新規ターゲット材料の二酸化チタンナノファイバーコットン(密度27mg/cc)を用いたX線発生実験を行い、従来のX線発生方式と比較して一桁以上高いX線変換効率の向上に成功した。
著者
海老澤 丕道 林 正彦
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

今年度は、前年に引き続き超伝導や電荷密度波における準粒子の新奇なダイナミクスと粒子-ホール対称性の破れについて、ミクロなレベルからのの研究を行った。(1)電荷密度波の時間に依存するギンツブルグ・ランダウ方程式(TDGL)に関する研究前年の成果を受けて以下の研究を進めた。・CDWのTDGLに関するミクロなレベルからの導出に関する研究非平衡状態を解析可能なKeldyshグリーン関数の方法を用いて、導出したTDGLの理論的正当性に関して検討した。(広島大・高根美武氏との共同研究)・CDWのダイナミクスのシミュレーション手法の開発前年に引き続きTDGLを用いたCDWダイナミクスのシミュレーション手法を開発した。特に、従来から用いられてきたTDGLと我々が新規に導出したものとの違いについて、数値的な観点から明らかにする方法を検討した。(2)グラフェンにおける粒子-ホール対称性と超伝導電流に関する研究前年度の研究で1層および2層のグラフェンにおける超伝導近接効果(超伝導-グラフェン-超伝導接合)の振る舞いについて解析し、2層系では接合を流れる臨界電流に、特異な温度および電極間距離に関する振動が現れることを示した。本年度は、特にグラフェンにAB副格子(sublattice)が存在する効果を定量的に明らかにすることを目指して研究を進めた。具体的には前年度議論したトンネル・ハミルトニアンの方法を、副格子を区別して定式化し、計算を行った。その結果、2層グラフェンの振動現象は、AB副格子で交互に起きており、それらを平均すると1層系と同様に振動のない単調な振る舞いを示すことが分かった。現在さらに、振動現象を物理的に観測する為の手段についても検討しており、一定の成果を得ている。
著者
藤 秀人 樋口 駿
出版者
長崎大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

当研究グループでは、抗癌剤アドリアマイシン(ADR)の副作用である心機能障害を抗癌剤ドセタキセル(DOX)の投薬タイミングを考慮することで顕著に軽減できることをこれまでに明らかにした。本年度は、この機序解明を行った。まず、プロテオーム解析にて、DOCを先行投薬することで、心組織中のglyceraldehydes-3-phosphate dehydrogenase(GAPKH)が、過剰発現することが明らかとなった。GAPDHは、フリーラジカルスキャベンジ作用を有する生体成分として知られている。ADRによる心機能障害として、ADRによるフリーラジカル産生が重要であることが知られていることから、DOCの先行投与によって過剰発現したGAPDHがフリーラジカルを抑制し、心磯能障害を軽減している可能性が考えられる。また、フリーラジカルの生成を抑制するセルロプラスミン(CP)も、DOCの先行投薬によって心組織中で増加することをこれまでの研究にて明らかにしている。しかし、これまで明らかにしてきた因子は、いずれも心臓組織から取り出された因子であり、臨床にてモニタリングすることは不可能であった。そこで、本年度は、CPの血液中測定方法を開発し、血液中濃度をモニタリングすることで、抗酸化活性が高まっている時期の推計が可能かどうか評価した。その結果、ADR投薬によって血液中CP濃度はcontrol群と比較して顕著に軽減することが明うかとなった。これは、ADRによるフリーラジカル産生をCPが抑制することによって減少したものであると考えられる。一方、DOCを先行投薬したところ、血中CP濃度はcontrolレベルで維持されることが明らかとなり、CP活性の増加がフリーラジカル軽減に寄与している可能性が考えられる。近年、CPの血液中濃度が臨床検査にて測定できるようになった。したがって、今後詳細な検討が必要であるが、ADRとDOC併用において両薬剤間の投薬時期を決定するための投薬マーカーとしてCPが活用できるのではないかと期待している。
著者
北條 純一
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

(1)セラミックス技術の公開いままでの調査を基礎として、それぞれの技術革新の歴史的展開を分析し、その技術展開の必然性をまとめ、将来の技術発展に貢献する知識基盤の集大成として国際セラミックス総合展2009に参加し、セラミックスアーカイブズについて出展した。関連分野の研究者から活発な質問を受け、本研究が高く評価されている事を実感でき、今後の研究の進め方について大いに役立つものであった。また、第5回シンポジウムでセラミックスアーカイブスとして最後のまとめについて講演を行った。(2)インターネット博物館セラミックスに関するバーチャルな博物館を設立するため、これらの成果を日本セラミックス協会の「セラミックス博物館」として公開した。http://www.ceramic.or.jp/museum/(3)研究成果の出版アーカイブズ出版小委員会を2月に開催、出版方針について検討し、英語版として出版することとした。
著者
藏中 しのぶ
出版者
大東文化大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

『和漢朗詠集』絵入版本2種、貞享元年「絵入」と元禄2年「図解」における詩題と挿絵の画題を比較検討し、以下の結論をえた。(1)「絵入」は『和漢朗詠集』の部立の詩句本文に具体的に詩語として詠みこまれた表現素材を散りばめて、一幅の絵を構成していた。すなわち、「絵入」は、ひとつ以上の部立の漢詩句と和歌の詩語にもとづいて、直接的に絵画化のための素材を選択していた。(2)「絵入」は数少ない挿絵を有効に活用するために、一幅の絵のなかに複数の漢詩句・和歌の意味をこめていた。「絵入」の絵が同時に複数の部立の十数首にもおよぶ詩句本文の挿絵として機能できたのは、この絵が部立のなかの複数の表現素材を統合していたためである。「絵入」の絵は一幅の絵として完成されており、なおかつ、そのなかに複数の部立の代表的な詩語を配している。(3)「絵入」の五年後に刊行された「図解」の絵は、「絵入」に学びつつも、「絵入」の絵を解体する。統合された「絵入」の絵から、一、二の素材をぬきだして、ひとつの小さな絵を構成するのが、「図解」の挿絵の手法である。(4)「絵入」の絵は、漢詩句・和歌のひとつひとつに対するのではなく、部立全体をひとまとまりとみて、総合的な一幅の絵を構成しようとしている。つまり、「絵入」の絵は、『和漢朗詠集』の漢詩句一句・和歌一首の断片的な理解によって構成されているのではない。むしろ、部立の連続性をよく踏まえて、ひとつの絵を構成するのが「絵入」の方法であった。最初の絵入り版本「絵入」の絵には、複数の詩句本文の詩語、さらにはこれらを含みこむ複数の部立の意味が統合性と連続性をたもちつつ、一幅の絵の中に凝縮されていたのである。
著者
藤縄 明彦 伴 雅雄
出版者
茨城大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

平成18年度は,データ収集に関しては蔵王火山1895年噴火堆積物の調査を中心に行った.これと昨年までに行った安達太良1900年噴火および磐梯1888年噴火堆積物のデータとを比較することにより,10^<11>ないし10^<15>J規模の水蒸気爆発に伴う低温火砕サージ堆積物の特徴が判明してきた.3噴火間の共通性や各種パラメータの相関,ならびにセントヘレンズ1980年噴火堆積物と,発生した火砕サージ現象との比較から,低温火砕サージの実体が明らかになってきた.研究期間を通しての成果規模の異なる水蒸気爆発由来の低温火砕サージ堆積物を対象に,現地調査,層相解析,流度特性分析を行い,その地質学的特徴を記載し,データの定量化を図った.一方で,噴火現象を記述した資料の解読や,類似の噴火現象-堆積物対比研究例を参考に,従来行われてこなかった,個々の堆積物層と噴火事象との高解像度対比を試みた.安達太良に関するその成果は藤縄・他(2006)にまとめられた.さらに,蔵王1895年噴火データを味することで,低温火砕サージの,一般則につながる系統性が判明してきた.検討3噴火に見いだされた共通性は,以下のようなものである.1)低温火砕サージは持続性の低い,希薄な火砕物流である.2)低温火砕サージを生じた爆発では,まず側方にベースサージ的高速希薄サージが拡がり,その後,噴煙柱(崩壊)由来の,より高密度なサージ(火砕物重力流)が続く.3)水蒸気爆発由来のサージは,湿度が高く,雰囲気中にはしばしば凝結した水滴が含まれている.この成果はAGU2006 Fall Meetingで発表され,世界の専門家にも興味を持たれ,有意義なコメントもいただいた.これをもとに成果を執筆中である.
著者
川島 博人
出版者
静岡県立大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本申請課題ではヘパラン硫酸の細胞外環境シグナル調節分子としての機能に着目し、その血管内皮細胞における機能解明を目的として研究を行った。具体的には、ヘパラン硫酸伸長酵素遺伝子(EXT1)がloxPサイトで挟まれたEXT1-floxマウスと、Creリコンビナーゼを血管内皮細胞特異的に発現するTie2-Creトランスジェニックマウスを掛け合わせ、血管内皮細胞特異的にヘパラン硫酸を欠損する変異マウスを作製し解析を行った。その結果、この変異マウスは胎生11.5日目以降に致死となることを見いだした。さらに、血管内皮細胞マーカーである抗CD31抗体を用いた胎児のwhole mount免疫染色および、および胎児組織の免疫染色により検討を行ったところ、血管内皮細胞特異的にヘパラン硫酸を欠損する胎児においては血管密度および血管枝分かれ数の顕著な減少が起こることが明らかとなった。また、一部の変異マウスにおいて、出血および浮腫をきたす傾向も認められた。血管新生および血管枝分かれ構造の形成にはヘパラン硫酸結合性を持つことの知られているVEGFやbFGFなどの血管増殖因子のシグナルが必須であることから、以上の結果は、胎児血管内皮細胞に発現するヘパラン硫酸がこれらの細胞外環境シグナル分子の機能調節分子として働く可能性を示唆している。また我々は、マウスの肺組織よりCD31に対する抗体を用いてMACS (magnetic activated cell sorter)により、効率よく血管内皮細胞を精製する方法を確立した。今後はこの方法を用いて変異マウスの胎児より血管内皮細胞を精製し、in vitroにおけるVEGF、bFGFなどの増殖因子に対する増殖反応および血管網形成アッセイにおいてに変化が認められるか否かを検討し、ヘパラン硫酸の細胞外環境シグナル調節分子としての機能をさらに解明したい。
著者
柚崎 通介 松田 信爾 飯島 崇利
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

補体Clqの球状ドメイン(gClq)を磯能ドメインとして持つClq/TNFスーパーファミリーが、シグナル分子や細胞外マトリックス分子として細胞外環境において非常に多彩な生理機能に関与することが近年注目を集めている。一方、Clq/TNFスーパーファミリーの中には脳内に主に発現するCblnファミリーとClq1ファミリーが存在するが、これらの分子の生理機能についてはほとんど分かっていない。私たちはこれまでにCblnファミリーのうちCbln1分子が、小脳顆粒細胞-プルキンエ細胞シナプスにおいて、シナプスの接着性と可塑性を制御することを発見した。Cbln1は海馬歯状回に線維を送る嗅内皮質にも発現し、他のメンバー分子Cbln2やCbln4も海馬や脳内の各部位に発現していることから、他の脳部位においてもCblnファミリーがシナプス形態調節分子として機能している可能性がある(Eur J Neurosci,in press)。今年度はClq1ファミリー分子群(Clql1-Clql4)の解析を進めた。Clql1は小脳登上線維の起始核である下オリーブ核に特異的に発現し、Clql2とClql3分子は海馬歯状回の顆粒細胞に発達期および成熟後も共発現する。これらの分子は何れもCblnファミリーと同様に同種・異種分子間にて多量体を形成して分泌されることを見いだした(Eur J Neurosci,2010)。これらのことからClqlファミリーもCblnファミリーと同様に、発達時や成熟後の脳においてシナプス機能に関与している可能性が示唆された。
著者
鈴木 広光
出版者
奈良女子大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

平成17年度研究実績は以下の通りである。1.平成16年度に高精密デジタル画像化した嵯峨本『伊勢物語』(慶長13年初刊本)の印字と版面に写り込んだインテル・クワタの痕跡から以下の事柄が判明した。該書の印刷に使用された木活字は縦12・6mm、横14.2mmを全角とし、縦寸法2〜4倍に規格化されたものである。(2)組版はベタ組みである。(3)インテルの幅は2.6mmである。これらのデータをもとに、2DビジュアルCGによる組版想定図を作成した。2.該書の印字悉皆調査をコンピュータ上で行い、印字の精細な異同識別によって、使用された木活字が2130種にのぼることが判明した。この印字悉皆調査の結果を「印字標本集」として、本研究課題の研究成果報告書に公開した。3.研究協力者高木浩明を中心に、嵯峨本『伊勢物語』初刊11伝本の全丁調査を行い、部分異植字という組版上の特色とその具体的異同状況を明らかにした。この成果も研究成果報告書に公開している。4.上記の研究成果を、「嵯峨本『伊勢物語』の活字と組版」と題して、日本近世文学会平成17年度秋季大会(於奈良女子大学、2005年11月5日)で口頭発表した。この発表にもとづく論文を学会誌『近世文芸』に投稿した。5.コンピュータを用いた書誌学、印刷史研究の方法の開発について、開発協力者津田光弘(研究協力者)と連名で、「嵯峨本『伊勢物語』の木活字及び組版分析モデルに関する報告」と題して、第11回公開シンポジウム・人文科学とデータベース(2005年12月3日,於大阪樟蔭女子大学)で口頭発表した(発表者はプログラム開発者の津田)。
著者
郭 伸
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

我々は、グルタミン酸受容体サブタイプであるAMPA受容体のサブユニットGluR2 mRNAのQ/R部位RNA editingがALS患者の脊髄運動ニューロンで選択的に低下していることを明らかにした。GluR2 mRNAのQ/R部位RNA editingはRNA編集酵素であるadenosine deaminase acting on RNA type 2(ADAR2)により特異的に触媒されるので、この分子変化は、ADAR2の活性低下によると考えられる。ADAR2の活性を規定する因子のひとつに総mRNA量、ADAR2 mRNA対GluR2 mRNA比が明らかにされているが、ADAR2のmRNAには多くのsplicing variantが存在することが知られており、翻訳タンパクの活性が異なることが報告されているため、variantの発現量により活性への影響が異なり、ひとつの調節機構として働いていることが考えられる。今回、RT-PCR、ノーザンブロッティングによるADAR2 mRNAの分析により、新しいsplicing variant 2種を見出し、他のvariantと共に発生段階、脳部位による発現パターンの違いの有無を検討した。新たに見出されたvariantの1つはADAR2に存在する二個の二重鎖RNA結合部位をコードするexon2のexon skippingであり、frameshiftにより下流のexonに新たなストップコドンを生じていることから、活性型タンパクに翻訳されるとは考えにくいsplicing variantである。第2のsplicing siteはexon 9に位置し、long C terminusをコードするストップコドンの83塩基下流に位置する。このsplicing variantは従来のlong C端を持つisoformに翻訳され、活性型ADAR2をコードする。この2種のvariantを加え、理論的には48種のRNA splicing variantが存在すると考えられる。とくにC端には4種のvariantがあり、long C terminus 2種のみが活性型ADAR2に翻訳され、ADAR2活性制御に主要な役割を持つと考えられる。ヒト小脳の核分画抽出物によるウェスタンブロッティングでは、long C terminusを持つメジャーバンド2種が確認できた。このことは、ADAR2は多数のmRNA splicing variantを持ちながら活性型タンパクに翻訳されるものはそのごく一部であり、splicingを通じで活性調節を行っている可能性を示している。ALSの神経細胞で、この調節機構がどのような変化を受けているかを解明することは病因の解明につながると考えられる。
著者
堀之内 武 渡辺 知恵美 塩谷 雅人 石渡 正樹 小高 正嗣 西澤 誠也
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

本研究では, 地球流体科学における数値データのネットワーク利用を促進し, 同分野での情報爆発問題の解決に資するための共通基盤ソフトウェアGfdnaviを開発している. 平成20年度は以下を実施した.数値データと知見情報の融合的なデータベース化 : 昨年度開発した, データ解析で得られた可視化結果等をもとに科学的な知見を文書化しアーカイブし研究や情報公開に役立てる機能を, 強化した. 数値データおよび解析履歴と密接に結びついたブログ/Wikiによる共同研究という, 新しいスタイルでの共同研究をサポートするための提案と基礎開発を行った.Gfdnaviの相互検索・横断利用 : 昨年度より, Gfdnaviのオーバレイネットワークを構築し, 横断的にデータや知見を検索・利用するための手法を研究している. 本年度は, プロトタイプ実装を行った.次年度実装に向けた基礎研究 : 筑波大で開発された, httpベースのファイルアクセスライブラリにおいて地球流体データを扱う際のボトルネックを検討した. その結果今後の改良により, 特別なサーバソフトなしに, Web上に置かれただけの地球流体データをGfdnaviで扱えるようにできる見通しを得た. また, これまで用いていたSOAPによるWebサービスから, リソース志向のRESTfulなWebサービスに切り替えるための検討を行い開発に着手した(今後に継続).実利用の拡充と応用開発 : 2009年に打ち上げが予定されている環境観測衛星SMILESのデータ公開および科学チーム検証サーバにGfdnaviが採用されることになり, 人工衛星データむけの対応を行った(継続).
著者
礒村 宜和
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本研究計画では、ラットの運動皮質と線条体における運動情報と報酬情報の統合の過程を細胞型レベルで調べることを目指した。これまでに独自開発したレバー押しの運動課題の自動訓練装置(特許出願中)を活用し、脳定位固定状態の覚醒ラットに報酬交替性の前肢自発運動課題を約2週間で効率よく学習させた。そして、前肢の自発運動を発現中に、一次運動野が投射する線条体背外側部の単一神経細胞の発火活動を傍細胞記録法で観察するとともに、一次あるいは二次運動野に16チャンネルのシリコンプローブを挿入して多数の神経細胞の発火活動もマルチユニット記録法により計測した。傍細胞記録した線条体細胞は、ドーパミンD1受容体のmRNAの発現をin situハイブリダイゼーション法により検出するとともに、オピオイドμ受容体に対する免疫組織染色により線条体のパッチ・マトリックス構造への帰属を判定した。現在までに、60頭を超えるラットに運動訓練を施し、運動および報酬予測・獲得に関連する発火活動を示す多数の線条体細胞を記録し同定することに成功しており、そのなかには大脳基底核の直接路として黒質網様部などへ投射すると考えられるD1陽性の中型有棘細胞や、間接路として淡蒼球へ投射すると考えられるD1陰性の中型有棘細胞や、高頻度で発火するアセチルコリン作動性と考えられる介在細胞などが含まれていた。また、記録した細胞のほとんどがマトリックスに分布していた。さらに、マルチユニット活動データを含めた詳細な解析を加え、運動情報と報酬情報を統合する大脳皮質一基底核連関の仕組みを明らかにした。
著者
中嶋 敦
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本研究では、芳香族有機分子ナノ集合体について、内部温度を制御した有機結晶や薄膜の電子物性を微視的に理解するための構造相転移現象を解明することを目的として研究を推進した。平成21年度は、孤立分子とバルクの橋渡しを実現する観点から分子の有限多体系に着目し、特に温度を規定した環境下で、その構造の秩序性を解明するための実験研究に取り組んだ。特に、有機金属クラスターをプローブとすることによって、表面上に形成される2次元自己組織化単分子膜(SAM)の2次元融解に関する成果を得た。アルカンチオールSAMにおいて注目されることは、2次元炭化水素鎖が表面上で「相」に対応する秩序状態をもつかという点である。この自己組織化したSAMの秩序性の挙動を明らかにするために、鎖長の異なる様々なアルカンチオールSAM基板を調製し、その表面上にバナジウム(V)-ベンゼン(Bz)1:2組成サンドイッチクラスター正イオンV(Bz)_2^+を10-20eV程度の入射エネルギーで打ち込み、蒸着されたサンドイッチクラスターの熱力学的安定性や配向特性を評価した。昇温脱離スペクトルの測定からSAMの炭素鎖長がC4からC22まで長くなるにつれて、脱離しきい温度が高温側にシフトし、ナノクラスターの脱離の活性化エネルギーは、C4-,C8-SAMで約60.0kJ/molであったが、C22-SAMでは、化学吸着熱に匹敵する~150kJ/molへと著しく増大していることがわかった。また、反射型赤外スペクトル測定から、C22-SAMのように鎖長が長い場合には、V(Bz)_2クラスターは蒸着時にSAM内に進入することによって捕捉されることがわかった。そして、室温以上まで固体基板上に固定される原理は、アルキル分子鎖の自己組織化に基づく秩序化によっていることを明らかにした。これらの成果を含めて、第四回公開シンポジウム(5/30-31、東京)、および、国際シンポジウム(1/7-9、京都)においてポスター発表を行ない、さらに、成果報告会(3/7-8、東京)において研究成果について講演を行った。
著者
永田 知里 清水 弘之 服部 淳彦
出版者
岐阜大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本研究は、各種アミノ酸やDNAメチル化に関与するメチオニン、葉酸、ビタミンB6、B12の食事からの摂取推定を可能とし、がん罹患との関連性を一般住民における前向き研究のデザインで評価することを目的としている。前年度では、岐阜県のがん登録および高山市医師会の飛騨がん登録より、高山市に1992年に開始されたコホート(高山コホート)内におけるがん罹患データを得たが、コホート内における死亡者、転居者の情報が把握出来ず、本年度、高山市での住民票閲覧、除票情報の提供、法務局への戸籍閲覧などを依頼した。未だ一部の情報が入手できておらず、また国の食品成分委員会による各食品中アミノ酸含有量改訂発表が遅れているが、まず、葉酸、ビタミンB6、B12摂取と大腸がんと乳がん罹患についての関連性を評価した。対象者は1992年9月前向き研究開始時にがん既往があると回答した者あるいはがん登録情報からこの時点でがんに罹患していたことが判明した者を除き、男性14,185名、女性16,560名であった。2005年末までの期間に新しく大腸がんと診断された者は男性277名、女性233名、乳がん罹患(女性のみ)は134名であった。年齢、喫煙歴、BMI、アルコール摂取量で補正後、男性におけるビタミンB12の上位1/3の高摂取群は下位1/3の低摂取群に比べ大腸がんハザード比が1.39と統計的に有意に高く(p=0.03)、またビタミンB6摂取も高摂取群はハザード比が1.37 (p=0.056)と高かった。しかし、これらの関連性は肉・肉加工品類摂取の補正により低下した。大腸がんリスクと葉酸摂取との関連性は認められなかった。女性では大腸がん、乳がんともこれらの栄養因子との関連は有意でなかった。多重共線性の問題に配慮しつつ、アミノ酸を含み、各栄養素、食品群の交絡の影響もさらに考慮する必要があると考えられる
著者
柴田 哲男
出版者
名古屋工業大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

フルオロメチル基の特異的性質が医薬品の薬理効果発現や増強など好ましい結果をもたらすという事実からフルオロメチル基、特にトリフルオロメチル基含有化合物の合成研究に注目が集まっている。その主流となる方法は、今から四半世紀前に開発された求核的トリフルオロメチル化剤(Me3SiCF3、Rupert試薬)あるいは求電子的トリフルオロメチル化剤(梅本試薬)を用い、触媒存在下でトリフルオロメチルを導入する二つのタイプに大別することが出来る。今年になっても新しい触媒を用いたトリフルオロメチル化法が続々と発表されているが、実用的トリフルオロメチル化法にはほど遠い。特にトリフルオロメチルカチオン(^+CF_3)等価体を用いる求電子的トリフルオロメチル化反応は、求核的な方法に比べ、検討された形跡は格段に少ない。その原因は、トリフルオロメチルアニオンの場合以上に、利用可能な試薬に制限があることである。これまで報告されている求電子的トリフルオロメチル化試薬として、S-(トリフルオロメチル)ジベンゾチオフェニウム塩、ペルフルオロアルキル化剤としてRf-I(C_6H_5)OSO_2CF_3(FITS反応剤)が挙げられる。近年では、Togniらによって超原子価ヨウ素を用いた求電子的試薬や梅本らによるオキソニウム塩も報告されている。しかしながら、これら試薬のうち、一部は市販もされてはいるものの、求核種に対する反応性は乏しい。そこで我々はスルホキシイミン型新試薬を開発した。この試薬は、取り扱い容易で安定な結晶であるにも関わらず、特に炭素求核種に対して高い反応性を示す良好な試薬である。硫黄及び窒素を最高原子価状態にすることで安定性を付与し、求核剤存在下では低原子価に戻る性質を反応起爆要因とした。
著者
川上 紳一 小井土 由光 小嶋 智
出版者
岐阜大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

本研究の究極の目的は,初等中等教育現場で使われる教科書に添ったデジタル学習教材を開発し,実際の授業で活用して評価し,より洗練された教材として完成させることである.今年度の主な成果は次のようである。(1)天文分野については,岐阜市立伊奈波中学校、岐阜県加茂高等学校と連携して,天体望遠鏡(スピカ)の製作を取り入れた授業実践を行った.今年は月面の継続観察をテーマにし、まとめの授業ではクレーター形成実験を行った。また、人工衛星の観察を取り入れた星座学習に関連したコンテンツ開発として,国際宇宙ステーションから見た地球の3Dシミュレーションに衛星雲画像を表示できるようにした.(2)気象分野については,平成17年度に岐阜大学構内に設置されたインターネット百葉箱を活用し,天気の移り変わりに関する教材を開発した.(3)地質分やでは,すでに開発している「デジタル偏光顕微鏡」で表示できる岩石や鉱物の種類を大幅に増やした.(4)チョウの食草を植えた花壇を整備し,さまざまなチョウの生態や幼虫の成長のようすを教材化した.とりわけ、昆虫図鑑の充実をはかり、1500種類の昆虫の生態図鑑を作成した。(5)沖縄珊瑚礁の生物の画像を収集し,無せきつい動物の生態に関するコンテンツを開発した.掲載した動物種は100種類に達した。(4)地質分野では、伊豆大島、ハワイ諸島の火山地形や地質を取材し、火山学習用web教材を作成した。歯科印象剤とココナツパウダーを用いた火山噴火モデルを作成し、岐阜市立長良中学校で授業実践を行い、地学現象の空間スケールや時間スケールを理解することができる教材の有効性を実証した。