著者
石原 保志 塚越 浩和 西川 俊 小畑 修一
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.25-37, 1989
被引用文献数
1

聴覚障害児の教育現場で字幕入りテレビ番組を利用する際に、字幕の文字量と呈示時間は内容理解に大きな影響を及ぼすと考えられる。本研究では、字幕読み取りと映像注視の時間を確保するための方法として、呈示時間を延長した場合の有効性を、字幕の文字量、番組の性質、視聴者の読書力との関連で検討した。対象は聾学校中学部、高等部生徒とし、呈示時間延長の方法としてスロー呈示、交互呈示の2方法を取り上げた。その結果、次のことが明らかになった。(1)ドラマのように人物の心情の推移が内容展開の中心となる番組では、文字量の確保が重要な意味をもつ。(2)ドキュメンタリーのように場面当たりの文字量にあまり差がない番組では、全体の文字量が多い場合、呈示時間延長の効果がある。(3)理科実験番組では、呈示時間を延長し字幕と映像を集中して見させることが内容理解を局める。
著者
吉井 涼
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.11-20, 2013 (Released:2015-02-18)
参考文献数
61

20世紀初頭のアメリカ合衆国において、精神薄弱ではないが学業・行動に逸脱を示す子どもに対し、臨床的対応を試みたL. ウィトマー(Lightner Witmer, 1867―1956)と彼の心理クリニックに焦点をあて、その来談児の実態と対応を検討した。継続的指導の対象児は正規学年への復帰可能性があり、その逸脱の主たる要因は環境的・身体的な問題であった。ウィトマーは、家庭や専門機関との協力を重視し、継続的な診断に基づいた個別的指導を実施した。また、公立学校の夏期休暇中に実験的な特殊学級を開設し、心理クリニックの来談児から選別された子どもに対して、より集中的な診断と指導を実施するとともに、集団的指導の方法論の構築を試みたウィトマーであったが、精神薄弱と学業不振の分類の難しさによって、正規学年へ復帰できる子どもに特化した実践には至らなかった。心理クリニックは、個別指導によって一応の成果を上げたが、集団に対する診断・指導方法の構築は困難であった。
著者
福永 博文 林 邦雄
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.1-15, 1976-12-15 (Released:2017-07-28)

本研究は、精神遅滞を伴う多動児に対してオペラント条件づけ法を適用し多動行動の減少と多動行動に伴う行動特徴の変容過程の分析を目的として試みられた。行動分析は、PEDO METERによる運動量の測定と観察される行動特徴の2つの側面からなされ、それはベースライン期間、条件づけ期間、フォローアップ期間を通して行なわれた。行動特徴は、4カテゴリー、20サブカテゴリー、77項目が観察された。治療は、第1ベースライン期、第1条件づけ期、第2ベースライン期、第2条件づけ期、フォーローアップ期からなっている。条件づけは、多動行動減少のために椅子に着席し4つの課題が与えられ、その課題への集中による静止時間の増大をはかる、という方法がとられた。着席による静止時間は、10秒から18分まで段階的目標をおき、その目標とする静止時間が2回連続して成功した時次の目標とする静止時間に移行された。強化因子は、目標とする静止時間が1回成功するごとに与えられ18分静止まで続けられた。第1ベースライン期間も含め第1条件づけ期間で18分の着席行動がとれるまでに54セッション、試行回数309回を要し、第2ベースライン期間を含め第2条件づけ期間では36セッション、試行回数85回を要した。そしてフォローアップ期間30セッション(約6週間)を含め120セッション、約7ヵ月を要した。条件づけの経過、PEDO METER測定、行動観察の結果から、およそ次のことが明らかとなった。1.本事例の場合には、多動行動に対しては遊戯療法よりオペラント条件づけ法が有効であった。2.対象児の示す多動行動は、多動という運動の量的側面のみならず行動異常の質的側面も含んでいる。しかし、質的側面は多動行動に関連したものが多く、多動行動の減少とともに大部分減少した。3.多動行動へのオペラント条件づけ法の適用は、運動量と行動異常の減少という症状の改善のみならず、治療者との関係、言語、コミュニケーション、遊具への関心、描画、環境認知、記憶の再生など全人格にかかわる好転的な変容の糸口をもたらした。4.本事例の場合、課題遂行を媒介として着席行動を段階的に条件づけていくことが有効であった、と考えられる。5.多動行動の治療は、対象児の行動変容の観察、測定と同時に、同一条件下での対象群児童との比較において進めることも、その治療をより厳密にするために必要ことと考えられる。
著者
仲野 真史 長崎 勤
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.183-192, 2009-09-30 (Released:2017-11-29)
被引用文献数
1 1

出来事を意味づける手段として、また読解力や自己理解および他者理解の発達的基盤として、ナラティブへの注目が高まっている。ナラティブは幼児期、学齢期を通して高次化していくが、この発達過程には大人からの社会的な働きかけ、一般的・社会的認知の発達、ふり遊びなどの行為水準での物語的活動が関与する。また、障害児のナラティブでは、それぞれの障害特性がナラティブの発達を制約する。日本ではナラティブの発達を支援する実践は古くから行われているものの、発達を体系的にとらえる観点やアセスメント方法の構築は進んでこなかった。本稿では、先行研究の概観を踏まえ、日本の子どものデータを積み上げること、これまでの知見を結びつけ、諸要因が影響し合うプロセスを解明すること、形式的側面だけでなく、ナラティブがどのような文脈でどのように使用されたのかといった側面を分析することなどの今後の課題が提起された。
著者
青木 真純 勝二 博亮
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.193-200, 2008-09-30 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
1 1

通常の学級に在籍する聴覚優位で書字運動に困難がみられた小学校3年生男児に対して漢字書字支援を実施した。はじめに学習漢字を対象児の既知文字に構成要素として分解させた後、音声言語リハーサルと部分再生による支援を実施した。音声言語リハーサルでは分解した構成要素を音声言語で復唱させた。部分再生では音声言語リハーサルに加え1〜2画程度の部分的な書字による補完を求めた。その結果、いずれの支援でも半数以上の漢字を書字できるようになった。しかし、書字エラーをみると、音声言語リハーサルでは構成要素自体の書字に誤りが多かったのに対し、部分再生では、構成要素の書字は可能であったが、それらの配置や結合部でのエラーが多かった。したがって、対象児に負担がかからない程度の補完的な書字活動を取り入れることで、音声言語リハーサルでは改善されなかった漢字細部の誤表記を修正できることが示唆された。
著者
林 恵津子
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.425-433, 2011 (Released:2013-09-14)
参考文献数
54

障害のある子どもは、眠れない、睡眠覚醒リズムが乱れる、睡眠時の異常運動があるといったさまざまな睡眠関連病態を高い割合で呈する。子どもの睡眠関連病態は、子どもの昼間の行動や気分に影響するばかりでなく、後の心身の発達にも影響する。また、家族の心身の健康にも影響するので、看過できない問題である。本稿では、障害種別ごとに、併存する睡眠関連病態を整理した。障害種別により、併存しやすい睡眠関連病態があることから、障害の背景にある神経機構と睡眠関連病態の背景にある神経機構に関連があることが示唆された。さらに、家庭での睡眠関連病態への対処法を整理し、その効果を示した。生活の最大の基盤である睡眠が確保できないと、親は子どもの将来を冷静かつ建設的に考えることが難しい。睡眠関連病態への迅速で丁寧な支援が期待される。
著者
藤原 洋樹 村中 智彦
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.193-204, 2012

中学校において、オープン教室「朝教室」を始業前に設置し、学習困難を示す生徒への学習指導を試みた。教師が実行しやすい教室の設置方法や生徒の通室を促し、課題遂行を高める指導方法について検討した。指導期間は11か月で、指導対象は学習困難を示す生徒を含む通室中のすべての生徒であった。教師10名と支援員4名が指導を行った。介入期では、生徒の通室を促すため、学年の生徒全員と保護者に教室の案内を行い、困難生徒には個別の声がけを行った。教室で生徒が取り組む課題は、数学と社会科のプリント課題であった。プリント課題では、生徒が学習の達成感を繰り返し得られるように1枚当たりの問題数を減らした。生徒が課題に取り組む手続きでは、生徒自らがプリント課題の選択を行い、採点するセルフ方式を取り入れた。介入の結果、一般生徒の通室が増加すること、教師のマンツーマンによる指導が困難生徒の課題遂行を高めること、三者面談や友人関係を生かした個別の声がけが困難生徒の通室を促すこと、教師の指導に要する負担の軽減が教室の継続を支えることが示唆された。
著者
安川 直史 小林 重雄
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.123-132, 2004-07-30
被引用文献数
1

本研究では、情緒障害通級指導学級において、小学校6年生の自閉性障害児に個別教育計画による余暇指導を行った。そのなかで、小学校段階における余暇指導のあり方について検討した。5年生までの段階で獲得した移動スキル(片道10分程度の目的地までの移動)、自己管理スキル(3時間程度のタイムマネージメント)、電話スキル(公衆電話を用いた定時連絡)を一人で余暇をすごすための基礎条件とした。これらのスキルが今回獲得した公共プール利用スキル、バス乗車スキルと連鎖することで「一人で水泳に行く」ことが可能となった。小学校段階での余暇指導としては、応用行動分析による学習方法の定着、生活に機能するための基礎条件の確立、中学校進学後や将来のライフスタイルを想定した目標設定が必要であることが示された。さらに余暇スキルの獲得を優先課題として位置づけ、基礎条件スキルとの関連性を明確にし、日常生活への般化までを見通した個別教育計画の必要性について論じた。
著者
干川 隆
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.19-27, 1993
被引用文献数
2 5

本研究は、脳性まひ児の方向概念の発達に及ぼす行為(姿勢の保持や移動)の影響を検討するものである。被験者は脳性まひ児55名(4〜22歳)であった。課題は坐位で自分にとっての上下左右前後の方向指示(自体課題)と、対面・同方向に立っている人形での方向指示(人形課題)、臥位での自体課題と、臥位にある人形での人形課題であった。数量化I類による分析では、年齢、動作レベル、知能レベルの項目が方向指示に大きく寄与することが示された。年齢では、A1(4〜6歳)群がA3(10〜12歳)、A4(13〜15歳)、A6(19〜22歳)群より臥位・坐位にかかわらず得点が低いこと、動作レベルでは自体坐位・人形立位で寝たきり群が立位・歩行群より低いこと、知能レベルでは臥位・坐位に関わらず低群が普通群よりも低いことが示された。本研究の結果から、方向概念の形成が、空間の中に自分のからだを位置づけたり、移動したりする行為によって促進されることが示唆された。
著者
本間 貴子 米田 宏樹
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.25-38, 2014

本稿では、1910年代半ばから1930年代の社会適応を重視した時期におけるニューヨーク市公立学校固定式精神遅滞(欠陥)学級のカリキュラムの実態を明らかにした。当学級は、1910年代半ばから1930年代にかけて地域生活を教育目標とするカリキュラムを形成していった。当学級を出た後、地域で生活するために必要不可欠と考えられたのは適切な行動習慣であり、就労する力があることも望ましいとされた。教育実践や卒業後生活調査の中で精神薄弱児の行動が改善し、就労が可能な者がいることも明らかにされた。対象児は、従来より知能指数が高い行動問題のある怠惰児と社会適応が見込まれるIQ 50未満の精神遅滞児に拡大され、知能指数・精神年齢に行動問題を加味した学級編成がなされた。カリキュラムでは職業訓練の強化、性格教育の実施、地域資源を活用した「興味の中心」学習、道具教科としての読みが実施された。1910年代半ば以前からの運動機能訓練等は継続され、社会適応に傾注する中でも個々のニーズに応えるという理念を維持していた。
著者
三沢 義一
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.27-34, 1971
被引用文献数
1

絵画選択法により普通児を含む可視的な身体的異常もしくは障害児の絵を、小学生(9〜12才)、大学生(19〜23才)、肢体不自由児(9〜18才)合計569名について個別に好きな順に選択させたところ、わが国の被検者は、アメリカに比して健全な子どもを選択する率が高く、しかも各障害の順位はアメリカおよびイスラエルと較べてかなり異っていた。特は著明な傾向として、アメリカで顔面醜形や肥満の子どもが最も嫌われているの反して、わが国ではそれが普通児に次いで好かれ、機能障害の一種である上肢欠損の子が最も嫌われていた。予想に反して、機能障害の最も重い車椅子の子がそれほど嫌われなかったが、これは理解の不徹底によるところが大であると思われる。Richardsonらのいう身体障害児への文化的一様性の仮説は大体において支持してよいと思われ、文化や国民相互間で態度に差があるのは結局その社会に流れる価値的尺度の特性を示しているであろう。このような点から考察すると、身体障害者への態度は極めて根深いものがあり安易にその本質を論ずることはできないが、少なくとも偏見や観念的な判断から一般人を少しでも解放するためには、障害者という者を現実に人間として理解させる機会を健常者に与えることを考慮すべきである。
著者
窪田 隆徳 藤野 博
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.71-81, 2002-05-31 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
2 1

音声言語表出面に著しい障害をもつ言語発達障害の1事例に対し、voice output communication aids(以下、VOCAと略す)を使用した喫茶店での注文場面の指導と、家庭へのVOCAの貸し出しを行い、コミュニケーション行動および音声言語表出行動における変化を観察した。その結果、対象児のコミュニケーションスキルが拡大するとともに、非音声型のコミュニケーションモード(指さし・サイン・シンボル)から音声型のコミュニケーションモードへと変換がなされ、音声言語表出が可能となった。それまで、学校や施設などで先行・並行して行われていたコミュニケーション指導に加えて、VOCAを使用した伝達場面設定型の指導によって、コミュニケーション行動の拡大と音声言語表出が獲得されたことから、本研究での対象児のような事例に対しては、VOCAを使用した実用的なコミュニケーション指導が有効であることが示唆された。
著者
鶴見 尚子 五味 洋一 野呂 文行
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.129-139, 2012 (Released:2013-09-18)
参考文献数
18
被引用文献数
1 3

小学校3年生の通常学級の給食準備場面において、準備の遂行に困難のある児童2名を含む学級全体の準備行動、および相互作用の促進のために、相互依存型集団随伴性が導入された。研究の第一の目的は、集団随伴性に先行して対象児童に提供された個別的支援が、負の副次的効果を予防したかどうかを検討することであった。第二の目的は、学級全体と班のそれぞれに対する集団随伴性が、児童間の相互作用に与える効果の違いを明らかにすることであった。対象児童への個別的介入、学級全体への集団随伴性、班に対する集団随伴性の付加的導入を順次実施した結果、学級全体の準備行動が促進され、負の副次的効果は低い水準に抑えられた。また、最後の条件において適切な相互作用の生起頻度が増加した。この結果から、個別的支援と組み合わせること、強化を随伴する単位を小さくすることにより、相互依存型集団随伴性のもとで適切な相互作用を促進できることが示唆された。
著者
神山 努 上野 茜 野呂 文行
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.361-375, 2011 (Released:2013-09-14)
参考文献数
90
被引用文献数
1 1

本研究は、発達障害である自閉症スペクトラム障害、注意欠如・多動性障害、学習障害を対象とした育児方法に対する保護者支援の先行研究において、保護者の負担がどの程度考慮されたかを検討することを目的とした。方法に関しては、2005年から2011年までの保護者支援の実践研究64本について、対象者の生活年齢および障害種別の標的行動、実施されたアセスメント、保護者の負担に関する記述の有無について分析した。その結果、保護者の負担に関する記述はいずれも半数以下にとどまり、保護者に関してや、標的行動・介入手続きの選定に関するアセスメントの実施も少なかった。今後の課題として、保護者の負担を考慮する必要があり、介入手続きの学習や実施維持において保護者にかかる負担を軽減するために、保護者の特性や、標的行動介入手続きの選定に関するアセスメントを検討する必要を指摘した。
著者
藤野 博
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.173-182, 2009-09-30 (Released:2017-11-29)
被引用文献数
1

PECS(絵カード交換式コミュニケーション・システム)に焦点を当て、AACとしての有効性と音声言語表出の促進に与える効果について諸研究の知見を概観し考察した。PECSの指導が絵カードによる自発的なコミュニケーション行動の獲得に有効であることに関しては、これまでの研究から十分なエビデンスが蓄積されていると考えられた。PECSの音声言語表出促進効果については肯定的な結果が報告されている一方、否定的な結果もあり、一様に効果があるとはいえなかった。そして、PECSで音声言語表出が増加したケースでは指導前からエコラリアや音声模倣などがみられる傾向があり、その観点からの検討の必要性が示唆された。また、使用に伴って音声言語表出の促進が報告されている身振りサインやVOCAなどの他のAACシステムに比較してのPECSの効果については、十分な検討がなされておらず、今後の課題になると考えられた。
著者
水町 俊郎
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.21-26, 1983-07-01 (Released:2017-07-28)

吃音児に対する聞き手のイメージが、吃音児の音声や映像に接した時にどのように変容するかを明らかにするために、3つの被験者群(すべて大学生)を用いて実験を行なった。まず各群とも80対のSD項目からなる質問紙に対して吃音児を評定させた。次に、audio群(43名)では、小学校5年男子の重度な吃音児が音読している場面を録画したもののうち音声のみを聞かせた直後に、再び吃音児を評定させた。なお、音読に要した時間は3分15秒であった。同じようにvisual群(32名)では、吃音児が音読しているビデオを、音声を消して視覚的にのみ提示した後、また、audiovisual群(49名)では、ビデオを音声を含めて再生した後に再び吃音児を評定させた。その結果、実験条件の導入によって聞き手の吃音児に対する態度が最も変化したのはaudiovisual群で、その内容をみるとポジティブな方向への変化を示した項目が多かった。
著者
野田 裕子 田中 道治
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.37-43, 1993-11-30 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
1

本研究の目的は、統合保育場面での介入者による場面設定、健常幼児をtutor精神遅滞幼児をtuteeとして関わらせる意図的介入が両者の相互作用にどのような影響を与えるか。又、その結果からどのような働きかけが望ましいかを検討するものである。被験児は、統合保育を行っている保育所に在籍する精神遅滞幼児と健常幼児のペア8組であり、前自由場面、設定場面、介入場面、後自由場面の4場面で実験を行った。以下の結果が得られた。(1)場面を設定し、意図的介入を行うと相互作用の総数は増加する。(2)相互作用の長さは場面設定、意図的介入によっても変化はみられない。(3)意図的介入により、両者の関係が対等に近づいた。(4)場面設定、意図的介入によって相互作用の内容は否定的なものから肯定的なものへ変化した。結果より、健常幼児をtutor精神遅滞幼児をtuteeとして関わらせる意図的介入は効果的であると示唆された。
著者
菅野 千晶 羽鳥 裕子 井上 雅彦 小林 重雄
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.33-38, 1995
被引用文献数
3 1

自閉症生徒1名を対象に買物指導を行い、日常生活におけるスキルの般化と維持に関して検討を行った。シミュレーション訓練により、対象生徒は買物に必要な行動レパートリーを獲得することができたが、現実の店舗では、行動連鎖中、部分的に誤反応が生じることがあった。しかし、ほとんどの誤反応は支払い時に生じたため、レジの店員の援助によって買物を遂行することが可能であった。また、日常生活においては、母親が対象生徒に買物をさせる機会を積極的に提供することで、買物行動が維持されていることが明らかになった。本研究の結果、対象生徒の買物スキルが日常生活で般化・維持した背景には、店員や母親などの対象生徒をとりまく人々からの援助といった環境要因が影響を与えていたことが示唆された。