著者
国分 貴徳 金村 尚彦
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.9-15, 2015 (Released:2015-01-09)
参考文献数
10

情報が溢れ,各個人が思うままに私見を発信することが容易となっている現代においては,発信された情報を精査し知識として取り入れていく能力が求められている。理学療法領域に目を向けても,講習会や書籍,文献等を通じて種々様々な情報が発信されており,理学療法士各個人にはその情報の中から,科学的で再現性の高い情報を取捨選択し,臨床に応用していく能力が求められている。その上で,Peer Reviewを経て学会誌および科学誌等に掲載された論文については,一定以上の科学性および再現性が担保されており,その応用価値は非常に高い。一方でそういった情報を応用する際には,科学的視点,すなわちある程度までの研究に関する知識が必要となるが,この点が現状の理学療法領域における課題となっていると感じている。理学療法の臨床はApplied Scienceであるという観点に立脚し,種々多様な情報を精査し応用していく必要がある。それが可能となる程度までの科学的視点を理学療法士各個人が持つことで,理学療法実践における科学性が担保されるとともに,臨床能力の向上につながると考えている。
著者
国分 貴徳
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.86-93, 2020 (Released:2020-07-31)
参考文献数
2

本稿はEditorialとして,本誌「理学療法−臨床・研究・教育」を例に,論文投稿から査読の流れおよび査読に対する返答までの流れについてまとめたものである。初めての論文投稿を検討されている方々へ,少しでも情報提供をと考えて筆をとった次第である。初めての論文投稿と聞くと,誰しもが高いハードルに感じ二の足を踏むことであろう。しかしながらまずは症例報告からであっても,自身の臨床思考過程を可能な限り科学的かつ客観的に文章にまとめ他人の批評を受けることは,自身の臨床における思考過程が整理され,明日のより良い臨床実践につながる。そればかりか,そのような積み重ねが理学療法の科学性,Evidenceの確立に確実に寄与しうる。そしてその延長線上に臨床研究の実践と,論文執筆が待っている。本項を通し,少しでも多くの理学療法士が論文投稿を身近に感じ,本誌への投稿がなお一層増えることを期待してやまない。
著者
谷本 道哉
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.3-9, 2020

<p>体幹トレーニングとして,体幹の剛体化を目的としたプランクが行われることが多い。体幹屈曲筋・伸展筋の筋力トレーニングとして活用されることもある。また,腹横筋の活動促通を目的としたドローインもよく行われる。しかし,プランクでは実際には体幹を剛体化させるBracingも腹圧の上昇もしていない。また,そもそも多くの競技動作では体幹は固定させるよりも,大きく動作して力学的仕事を行っており,これらから考えるとプランクの意義を見出しにくい。ただし,反証データもあるが,プランクの実施による競技パフォーマンスの向上を認める報告もある。そのメカニズムは明確ではないが,選手にとって効果を実感できるのであれば,プランクの実施はプラスとなるかもしれない。また,ドローインには腹横筋の筋活動の促通効果が腰痛患者において認められる。ただし,腹横筋の筋活動レベルは競技動作そのもののほうがドローインよりもはるかに高い。競技動作を十分に行える身体機能を有する競技選手においては,ドローインを行う意義は薄いかもしれない。プランクやドローインの意義には不明確な部分があるが,体幹の機能から考えて,体幹動作の強い筋力と大きな可動性を有することが重要であることはおよそ間違いないであろう。これらの機能改善には,体幹屈曲筋・伸展筋の筋力トレーニングと体幹の可動性獲得の動作トレーニングが有用となるだろう。</p>
著者
村田 健児 金村 尚彦 羽田 侑里子 飯島 弘貴 高栁 清美 森山 英樹
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.61-66, 2011 (Released:2011-03-30)
参考文献数
15

加齢により関節軟骨は退行性変化を呈し,主要構成要素であるプロテオグリカン含量やⅡ型コラーゲンの減少が認められる。この関節軟骨の退行性変化は運動がもたらす関節への機械的刺激によって抑制および修復させることが報告されている。本研究では老齢ラットモデルの距腿関節軟骨を組織学的に分析し,走行運動およびバランス運動が距腿関節軟骨にあたえる影響を検討した。結果,老齢ラット群の関節軟骨は若齢ラット群と比較してⅡ型コラーゲン及び関節軟骨厚が減少し,関節軟骨表層部に亀裂が認められた。一方で,老齢ラット通常飼育群に比較してバランス運動群の軟骨厚が増加していた。このことから加齢によって距腿関節軟骨退行性変化を呈するが,関節運動を伴う機械的刺激によって関節軟骨変性を抑制,改善に作用する可能性があることが示唆された。
著者
宮原 拓也 平林 弦大 原 和彦
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.44-47, 2006 (Released:2006-06-14)
参考文献数
7

フォワードランジとは,スポーツ活動中に多用される動作であり,下肢筋力強化や協調性トレーニングとして用いられる。この動作中,さまざまなスポーツ障害の原因となりうるknee inを示す場合があり,その原因としては内側広筋をはじめとした大腿四頭筋の明らかな筋力低下が挙げられる。しかし,knee in時の筋活動に関する報告は少ない。そこで,今回の研究目的はknee in時の下肢伸展筋活動を明らかにすることとした。対象は健常男性10名,下肢伸展筋活動の測定は筋電計を用い被検筋である大腿直筋・内側広筋・外側広筋・大殿筋・腓腹筋の%iEMGを算出した。結果は,内側広筋・大殿筋の%iEMGが有意に減少し,腓腹筋の%iEMGが有意に増加した。内側広筋の活動減少は,膝内側支持に働く軟部組織伸張による静的支持と,knee in時に膝外反することで,大腿四頭筋力の外側ベクトルが増加したことに起因したと推察された。
著者
新井 龍一
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.59-62, 2019 (Released:2019-05-24)
参考文献数
14

脊柱の変形を伴う右変形性股関節症患者を担当する機会を得た。股関節に対する理学療法を3週間行ったが,歩行時の疼痛がNumerical Rating Scale(以下NRS)4と残存し難渋した。治療内容を再考してシュロス法の治療概念を用いた脊柱に対する理学療法を行い,歩行時の体幹動揺を制御させた結果,12週目で腰椎のコブ角が4°改善した。歩行時の動揺も減少し,14週にはNRS 0へ減少した。脊柱の変形を伴う股関節症患者において,脊柱のアライメントを修正することが股関節の負担軽減に繋がり,さらなる疼痛軽減に効果があることが示唆された。
著者
荒木 智子* 清宮 清美 渡邊 雅恵 井上 和久 須永 康代 石渡 睦子 柳田 千絵 河合 麻美 須藤 京子 伯耆田 聡子 吉岡 明美
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.15-21, 2011

埼玉県理学療法士会全会員を対象に職場環境に関する調査を実施した。960名より回答があり,平均年齢は30.5歳,97.5%が従事しており,病院・診療所が最も多かった。全体の38.8%が既婚者で子どもがいるのは66.3%であった。有給休暇取得率は50.9%であった。産前・産後休暇は女性の73.6%が取得した一方,子どもがいない群に制度の有無や利用の可否が「わからない」が高率にみられた。育児休暇は男性の5.0%,女性の60.5%が取得していた。国民平均値に比して埼玉県内の理学療法士は産前・産後休暇の取得率が全国より高く,育児休暇の取得率は低く示された。産前・産後休暇,育児休暇の制度の違いや復職後の不安により,取得状況が異なる背景が示唆された。今後妊娠・出産を迎える会員が増加することを考慮すると,就労継続を前提とした制度の周知,職場環境の整備,利用の促進が必要と考えられた。<br>
著者
米澤 隆介 河井 剛 中野 克己 廣島 拓也 前原 邦彦 宮原 拓也 山際 正博 横山 聖一 阿部 裕一 江川 俊介 山畑 史織 實 結樹 久保田 めぐみ 常名 勇気 桒原 慶太
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.80-85, 2016 (Released:2016-03-17)
参考文献数
2

【目的】公益社団法人埼玉県理学療法士会(県士会)南部ブロック県央エリアの認知度と,地域で働く理学療法士(PT)の県士会活動へのニーズを把握する目的でアンケートを実施した。【方法】アンケートは県央エリアの全てのPTを対象とした。アンケートは県央エリアの認知度,研修会や研修会への参加,および県士会活動に関する情報収集に関する計7問とし,郵送にて送付と回収を行った。【結果】アンケートの回答数は274通であった。77名が県央エリアを知らないと答え,186名が県央エリアの研修会や交流会に参加経験がないと答えた。一方,218名が研修会や交流会に参加したいと答えたが,83名が県士会活動について情報収集しておらず,研修会や交流会の開催情報を知らなかったという意見が多かった。【結論】県央エリアの認知度を高めるとともに,研修会や交流会の情報を地域の隅々まで広報することで,PTの県士会活動への潜在的なニーズに応えていく必要がある。
著者
金村 尚彦
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.72-77, 2019 (Released:2019-05-24)
参考文献数
6

理学療法研究は,2014年12月に告示された人を対象とする医学系研究に関する倫理指針に基づき研究を行うが,時代とともに変化する社会情勢に対応するため,この倫理指針も個人情報保護法の改定に伴い,2017年2月に一部改正されている。侵襲と介入や,個人認識符号や要配慮個人情報等の用語の定義,インフォームド・コンセント等の手続きの見直し,利益相反などを考慮し,倫理審査のプロセスを確認し,研究計画を立案することが重要である。
著者
矢作 賢史 圷 誠斗 矢作 翔平 吉野 恭平 久高 正嗣 福田 佳男 藤井 基晴
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.102-105, 2017 (Released:2017-04-27)
参考文献数
6

【はじめに】手指屈曲時において浅指・深指屈筋腱の逆転現象を呈した弾発指症例を経験した。本症例に対し運動療法を実施し,弾発現象の改善を得た。弾発現象の発生機序と治療方法についてその要点を運動学的視点から検討する。【方法】弾発現象の改善を目的として浅指屈筋腱の滑走性改善を主体とした運動療法を実施した。PIP関節の他動運動により浅指屈筋腱の滑走に必要な関節可動域を獲得し,DIP関節伸展位でのPIP関節自動屈曲運動である指腹つまみを反復することで浅指屈筋腱の滑走を促した。【結果】理学療法開始後1年の時点で屈筋腱の逆転は観察されなくなり,弾発現象と手指関節可動域も改善した。【考察】屈筋腱の逆転による弾発現象は運動療法により改善可能な病態であると考える。浅指屈筋腱の滑走性改善が必要であり,DIP関節伸展位でのPIP関節自動屈曲運動である指腹つまみが屈筋腱逆転を防止する重要な手指屈曲様式になると考える。
著者
佐々木 洋平 近藤 静香 市橋 駿也 藤本 秀子
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.47-51, 2016 (Released:2016-03-17)
参考文献数
12

【目的】フレイルの評価は多数あるが未だに統一されていない。そこで今回は学術的に最も受け入れられているCardiovascular Health Study(以下,CHS)とその有用性が多く報告されているStudy of Osteoporotic Fracture(以下,SOF)という2種類のフレイルの評価を実施し,両者の関連性および特性について確認した。【方法】当院通所リハビリテーションの利用者(24名)に対し,CHSおよびSOFをそれぞれ実施した。結果についてはJSTAT for Windowsを使用し,Spearmanの順位相関係数を算出した。【結果】CHSとSOFの結果について,両者の間に有意な相関関係を認めた(r=0.669,p<0.01)。【結論】フレイルの評価は病院や施設など設備が充実した環境ばかりではなく,自宅や地域活動の場などさまざまな物理的制約が存在する環境でも実施される。したがってフレイルの評価を行う際は,さまざまな条件を鑑みたうえで,CHSとSOFそれぞれの特性を考慮し,妥当な評価方法を選択することが重要であると考える。
著者
千明 譲 古田 晴朗 島貫 かおる 近藤 千愛 笹 哲彰 鈴木 秀彦
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.41-45, 2009 (Released:2009-03-12)
参考文献数
5

超高齢化社会を迎え,何らかの内科的基礎疾患を有しながら変形性膝関節症に罹患した患者が増加している。高齢者にとって膝関節痛は日常生活に制限をもたらす耐え難い要因の一つである。今回,我々は変形性膝関節症患者に対して施行した最小侵襲手技による人工膝関節単顆置換術(MIS-UKA)の術後経過を調査し,リハビリテーションにおけるその有用性に関して検討した。MIS-UKAの術後,関節可動域,下肢筋力の回復が早かったため,ADL動作及び歩行能が早期に改善された。MIS-UKAの低侵襲性は術後のリハビリテーション期においても有用であり,身体や基礎疾患に与える影響が少ないため,高齢者や基礎疾患を伴う患者に対しても有効であると推察された。
著者
深田 和浩 網本 和 藤野 雄次
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.11-16, 2021 (Released:2021-04-09)
参考文献数
22

ヒトはあらゆる環境下において身体を垂直に保つことが可能であるが,脳卒中を発症すると安定した床面であっても姿勢を垂直に維持することが難しい症例も存在する。特に脳卒中重症例では,垂直性の問題により,基本動作練習や歩行練習が思うように進まないことを経験する。この垂直性障害については不明な点も多いが,近年では垂直性に関する報告も増えつつある。本項では,垂直性障害のレビューや評価と治療について概説したい。
著者
若梅 一樹 米澤 隆介 目黒 智康 海老澤 玲 田沼 志保 桒原 慶太 塗山 正宏 占部 憲
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.58-62, 2015 (Released:2015-01-09)
参考文献数
16

【目的】大腿骨近位部骨折において骨折型の違いによる術後の機能回復および自宅退院率を比較検討した。【方法】大腿骨近位部骨折患者26例を対象として,骨折型によって頚部骨折群15例と転子部骨折群11例の2群に分類し,術後1週と退院時において術側股関節の関節可動域,術側と非術側の下肢筋力,および歩行能力を測定した。また,自宅退院率を調査した。【結果】術後1週において,頚部骨折群は転子部骨折群と比べて下肢筋力のうち術側の股関節外転筋力が有意に強く,病棟での歩行自立度も有意に高かった。退院時において,頚部骨折群は転子部骨折群と比べて受傷前と同様の歩行能力まで回復した割合が有意に高く,自宅退院率も有意に高かった。【結論】大腿骨近位部骨折において,頚部骨折は転子部骨折よりも術後の筋力や歩行能力の回復が早く,自宅退院率も高いことが示された。
著者
奥村 崇幸 新田 真之介 隈元 庸夫
出版者
Saitama Physical Therapy Association
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.11-16, 2022 (Released:2022-06-04)
参考文献数
26

【目的】体幹屈曲・伸展時の腰背部における腰部脊柱起立筋(以下, LES)と多裂筋(以下, MF)の筋活動と循環動態を検討し,体幹屈曲・伸展運動による効果の筋生理学的根拠を得ること。【対象と方法】対象は健常成人男性9名,運動課題は体幹屈曲伸展の多段階角度保持とし, LESとMFの課題動作中の筋活動と循環動態の経時的変化を記録した。【結果】LES,MFともに安静立位と比較して体幹屈曲で有意に筋活動増加,体幹伸展で筋活動が有意に減少した。総ヘモグロビン(以下,total-Hb)の変化はLES,MFともに屈曲時に減少,伸展時に増加の傾向がみられ,LESのtotal-Hbは屈曲時に有意に減少した。MFは安静立位,屈曲時と比較して伸展時に脱酸素化ヘモグロビン(deOxy-Hb)の増加傾向がみられた。【結論】健常者が対象であっても,立位での体幹屈曲運動とその後の立位での体幹伸展運動にて筋活動と循環動態に変化がみられることがわかった。
著者
西田 和正
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.69-72, 2014 (Released:2014-02-05)
参考文献数
6

【目的】本症例は右視床出血により主に体幹筋群の筋活動低下を生じていたため,食事時に座位アライメントが崩れ,食事動作に一部介助を要していた。理学療法では座位能力向上を目標とし,担当チーム(Ns,PT,OT,ST)では食事動作向上を目標に挙げ,関わった。その結果,座位アライメントが改善し,食事動作の改善に繋がったので報告する。【方法】座位でのリーチングと長下肢装具を使用した立位保持練習を行い,体幹筋群・股関節周囲筋群へアプローチした。担当チームが食事時に関わり,その場で情報共有と発信を行った。【結果】内外腹斜筋の機能が向上し,座位で正中位を保持することができるようになった。食事では,良肢位で座位を保つことができ,食べこぼしが少なく自力摂取できるようになった。【結論】理学療法アプローチによって体幹・股関節周囲筋群の筋活動が向上し,それを担当チームで密に情報交換しながら関わったことで,向上した能力を実際の食事場面へ活かすことができたと考えられる。
著者
猪股 美沙紀 桑原 亜海 石崎 裕佳 齊藤 展士 平田 恵介
出版者
Saitama Physical Therapy Association
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.21-24, 2022 (Released:2022-06-04)
参考文献数
11

【はじめに】片脚着地動作における非接触型前十字靭帯損傷では膝関節外反の他に体幹側屈が危険因子と言われている。膝関節外反が生じやすい着地環境には傾斜面が想定される。本研究は,傾斜面環境での片脚着地動作において,衝撃吸収時の対応戦略を明らかにすることを目的に動作解析を行った。【方法】成人男女9名にて,傾斜面,および平坦面への片脚着地動作における膝関節と体幹関節角度の違いを比較した。【結果】膝関節外反最大角度は平坦面に比べ,傾斜面で有意に大きかった。着地により骨盤の着地脚側への傾斜,体幹の非着地脚側への側屈角度変化が生じたが,傾斜面の方が有意に小さかった。【考察】傾斜環境では膝関節外反が増大した一方,体幹の動揺を抑える対応が平坦面よりも行われていた。これは,姿勢の平衡維持や視線の安定を図る前庭と視覚の制御により体幹と頭頸部の固定性を高める課題依存的な戦略が傾斜環境で行われた可能性がある。
著者
那須 高志 小林 渓紳 宮崎 涼太 大堀 正明
出版者
Saitama Physical Therapy Association
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.25-27, 2022 (Released:2022-06-04)
参考文献数
11

【はじめに】大腿骨近位部骨折を呈し,人工骨頭置換術または骨接合術を施行後,早期に術後7日目の荷重時痛を予測する因子を検討した。【方法】当院にて手術を施行された大腿骨近位部骨折26名,人工骨頭置換術12名と骨接合術14名であった。調査項目は基本情報の年齢・手術時の出血量,血液生化学検査のCRP・CK・Hbの術後3日以内のピーク値とした。荷重時痛は術後7日目の最大荷重時の痛みをNRSを用いて評価した。【結果】人工骨頭置換術群は骨接合術群よりも有意に出血量が多かった。疼痛と各因子の関係性は,人工骨頭置換術群は出血量に強い正の相関が,骨接合術群はHbに中等度の負の相関がみられた。【考察】人工骨頭置換術は展開が大きいため創外出血を反映する出血量が,展開の小さな骨接合術は創内出血を反映したであろうHbが荷重時痛と相関を認めたと考えた。
著者
諸沢 和真 荒川 航平 国分 貴徳
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.62-68, 2021 (Released:2021-04-09)
参考文献数
12

【目的】メカニカルストレスは変形性膝関節症(膝 osteoarthritis:膝OA)の発症・進行において主要因の一つとされている。本研究では膝OA動物モデルであるdestabilization of medial meniscus(DMM)モデルで生じる半月板機能不全に着目し,関節不安定性を抑制する関節制動モデルを用いることで,関節不安定性の違いが関節軟骨,半月板に与える影響を明らかにすることを目的とした。【方法】対象をDMM群,DMM群に対して関節制動を施したDMM制動群,INTACT群に分類した。制動モデルの妥当性を検証した後,関節軟骨変性と半月板変性について組織学的解析を行った。【結果】DMM制動群では関節不安定性が抑制された。関節軟骨変性では,DMM制動群で関節軟骨変性が抑制されていた。一方,半月板変性に関しては, DMM・DMM制動群の両群で半月板変性が確認された。【結論】本研究から,DMMモデルで生じる関節軟骨変性は関節不安定性に起因することを示唆した。