著者
新保 健次 清水 啓史
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.C0563, 2008

【目的】上腕骨近位端骨折の保存療法はその自動運動が行われるまでほぼ8週を要し、その点で日常生活活動(以下ADL)の改善について大きな負担になっていると考えられる。しかし、上腕骨近位端骨折の保存療法例に関するADL獲得時期についての詳細な報告は少ない。そこで、今回受傷後2、3ヶ月のADLについて調査したので報告する。<BR>【方法】可能な限り詳細にそのADLを調査するために40項目(身辺動作6、更衣7、入浴4、整容6、トイレ動作1、支持4、挙上2、筋力2、生活関連動作8)を独自に作成し、各項目を「できる」、「少しできる」、「できにくい」、「全くできない」の4段階で評価した(以下、「できる」、「少しできる」をできる群とする)。動作時痛をVisual Analog Scale(以下VAS)で評価した。上腕骨近位端骨折の保存療法例6例に直接アンケート記入を依頼し、受傷後2、3ヶ月の計2回実施した。対象は全例女性で、受傷時年齢は60.8歳(43歳~79歳)であった。Neer分類による骨折型はminimal displacement骨折が3例、2part外科頚骨折が2例、3part外科頚、大結節骨折が1例であった。<BR>【結果】受傷後3ヶ月で、できる群の項目数は全例で増加した。1例が30項目(75%)であり、他5例は35~40項目(87.5%~100%)であった。VASは平均48.8mmから14.3mmであり全例で改善した。受傷後3ヶ月で全例が改善した動作は、「更衣動作」、「反対側の脇、肩を洗う」、「ズボンの後ろポケットに手をいれる」、「起きる際に患肢を支えにする」、「目の高さより上の物をとる」、「前の物に手を伸ばす」、「重い物を下げる」であった。改善が低かった動作は「ブラジャーを後ろで留める」、「エプロンのひもを後ろで結ぶ」、「背中を洗う」、「結髪動作」、「ネックレスを後ろで留める」、「患側を下にして寝る」、「手枕をする」、「重い物を目の高さまで挙げる」、「洗濯物を干す」、「自転車に乗る」であった。<BR>【考察】受傷後3ヶ月で、できる群の項目数が増加したこと、VASが改善したことから、ADL拡大に動作時痛の軽減は一つの要素になっていると考えた。他より改善が低かった1例は3part骨折で、75歳以上の高齢者であった。ADLで改善された群から、肩関節部に大きな力が加わると考えられる「目の高さより上の物をとる」、「重い物を下げる」など問題はなかった。しかし、上腕骨に回旋の加わる動作は改善が低い傾向があった。固定期間中に制限される動作に改善が低い傾向があると考えられた。上腕骨近位端骨折の保存療法に影響を及ぼす因子については骨折型、年齢が影響するとの報告がある。後療法では各症例のゴールを踏まえ、機能改善だけでなく骨折型や骨癒合の状態を確認する、できない動作に代償動作の指導を行うなどの必要があると考えられた。<BR>【まとめ】上腕骨近位端骨折の保存療法例6例に受傷後2、3ケ月のADLに関するアンケート調査を行った。全例で受傷後2~3ヶ月でADLの改善が見られた。
著者
高橋 温子 山路 雄彦 渡邊 秀臣
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C4P1166, 2010

【目的】<BR> 義足には感覚が存在しないことから,切断者は断端部およびそれより近位からの体性感覚情報を活用していると考えられる.大腿切断者のADLにとって,断端の体性感覚情報は重要な役割を果たしていると考えられるが、断端に感覚検査を行っている報告は少ない.そこで大腿切断者の断端部の体性感覚情報と義足制御の関係を明らかにするために,感覚検査と感覚刺激に対する反応時間を調べ,その関係について検討することとした.<BR><BR>【方法】<BR> 対象は切断から2年以上経過し,神経疾患の既往の無い男性大腿切断者11名(年齢30.2±17.6歳,身長170.8±4.9cm,体重62.6±8.6kg,断端長11.1±3.4cm)と,健常男子大学生15名(年齢21.7±2.6歳,身長169.9±6.3cm,体重62.1±7.8kg)とした.感覚検査は振動覚,二点識別覚,関節位置覚とし,臥位で行った.振動覚は上前腸骨棘,坐骨結節に音叉を当て,振動感知時間を各3回測定し,検者との比率(%)を算出し平均値を求めた.二点識別覚は,坐骨結節,坐骨結節から6cm末梢の大腿後面(以下,大腿後面),坐骨結節から6cm末梢の大腿前面(以下,大腿前面)の3ヶ所で,二点を識別できる距離を各1回測定した.関節位置覚は,股関節屈曲角度を30度と60度に設定し,模倣試験を各角度で3回行い,設定角度からのずれ(以下,誤認角度)を測定し,平均値を求めた.感覚刺激の入力から筋収縮までの潜時(以下,反応時間)の計測には,筋電計(日本光電工業株式会社製WEB-9500)を用い,大腿直筋,内側ハムストリングス,外側ハムストリングス,大殿筋の4ヶ所に電極を装着した.また筋電図上に波形が出現するようにした感覚刺激スイッチ(OMRON社製)で,坐骨結節,大腿後面,大腿前面の3ヶ所に一定の強さで触れた後,坐骨結節,大腿後面への刺激では股関節伸展,大腿前面への刺激では股関節屈曲を各3回行わせ,波形の立ち上がりを最大振幅の20%とし平均値を求めた.測定時は耳栓を装着し,閉眼にて外部からの刺激を極力無くした.統計学的分析では,切断者の健側と患側の感覚検査,反応時間の比較にWilcoxonの符号付き順位検定を用い,健常者の左右の感覚検査,反応時間の比較には対応のあるt検定を用いた.なお有意水準はともに5%未満とした.<BR><BR>【説明と同意】<BR> 対象者全員に研究の趣旨および方法を説明後,同意を書面にて得た上で,検査,計測を行った.<BR><BR>【結果】<BR> 感覚検査では,すべての測定項目において健常者では有意な左右差は認められなかった.切断者では,坐骨結節の振動感知時間は,健側59.5±10.5%,患側67.6±17.0%であり,患側の坐骨結節の振動覚閾値が有意に低いことが認められた(p<0.05).大腿後面の二点識別覚では,健側2.0±0.9 cm,患側1.3cm±0.6cmと,患側大腿後面の二点識別覚閾値が有意に低いことが認められた(p<0.05).振動覚,二点識別覚のその他の部位,関節位置覚の誤認角度では,健側,患側間に有意な差は認められなかった.感覚刺激に対する反応時間では,すべての測定項目において健常者で有意な左右差は認められなかった.切断者では,大腿後面に感覚刺激を与え股関節伸展した際の大殿筋の反応時間が,健側0.22±1.1 sec,患側0.16±0.06 secと,患側大殿筋の反応時間が有意に速いことが認められた(p<0.05).その他の運動方向,筋では有意な差は認められなかった.<BR><BR>【考察】<BR> 深部感覚はソケットを介した義足の位置の認知,義足のコントロールに欠くことはできず,また,表在感覚はソケット装着時の皮膚表面の痛みや圧迫の度合いを知ることに必要であり,そのため深部感覚,表在感覚は義足の制御において重要な役割を果たしていると考えられる.今回,切断者の坐骨結節での振動覚閾値,大腿後面の二点識別覚閾値が患側で有意に低く,さらに大殿筋の反応時間が患側で有意に速かった.このことは大腿切断者では,立脚相の制御において,坐骨結節で義足に対する荷重量を感知し,大腿後面で膝折れに関する情報を検出するとともに,さらに速い大殿筋の働きにより膝折れを防止することを示唆していると考えられる.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 大腿切断者は,立脚初期において坐骨結節への荷重量,大腿後面のソケット内圧の変化を感知するとともに,大殿筋の速い収縮によって,膝折れを制御していることが示唆された.そのため,切断術後の理学療法において,断端への感覚入力を促すなど,感覚へアプローチすることでより安定した義足歩行の獲得が可能であると考えられる.