著者
前島 洋 金村 尚彦 国分 貴徳 村田 健児 高柳 清美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48102020, 2013

【はじめに、目的】今日、中高齢者の健康促進、退行性疾患の予防を目的とする様々な取り組みが盛んに行われている。特に高齢期以降の転倒予防を意識し、バランス機能の向上を目的とする様々な運動は広くヘルスプロモーション事業において取り入れられている。一方、運動は、中枢神経系、特に記憶の中枢である海馬におけるbrain derived neurotrophic factor(BDNF)をはじめとする神経栄養因子の発現を増強し、アルツハイマー病を始めとする退行性疾患発症に対する抑制効果が期待されている。BDNFはその受容体のひとつであるTrkBに作用し、神経細胞の生存、保護、再生といった神経系の維持に関わるシグナルを惹起する。一方、別のBDNFの受容体であり、BDNFの前駆体であるproBDNFに対して高いリガンド結合性をもつp75 受容体への作用は、神経細胞死を誘導するシグナル活性を惹起する傾向を併せ持つ。そこで、本研究の目的は、中高齢者の運動介入において広く取り入れられる低負荷なバランス運動の継続が記憶・学習の中枢である海馬におけるBDNFとその受容体(TrkB,p75)の発現に与える影響について、実験動物を用いて検証することであった。【方法】実験動物として早期より海馬を含む辺縁系の退行と記憶・学習障害を特徴とする老化促進モデルマウス(SAMP10)を用いた。10 週齢の成体雄性SAM 14 匹を対照群と運動群の2 群(各群7 匹)に群分けした。運動介入のバランス運動として、マウスの協調性試験としても用いられるローターロッド運動(25rpm、15 分間)を週3 回の頻度で4 週間課した。運動介入終了後、採取した海馬を破砕してmRNAを精製し、reverse transcription-PCRのサンプルとしてcDNAを作成した。作成したcDNAを用いてリアルタイムPCR法を用いたターゲット遺伝子発現量の定量を行った。ターゲット遺伝子として、BDNFとその受容体であるTrkBおよびp75 の発現をβ-actinを内部標準遺伝子とする比較Ct法により定量した。統計解析として対応のあるt検定(p<0.05)を用いて、運動介入の効果を検証した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は埼玉県立大学実験動物委員会の承認のもとで行われ、同委員会の指針に基づき実験動物は取り扱われた。【結果】4 週間のバランス運動介入によるBDNFおよびその受容体TrkBの遺伝子発現に対する有意な介入効果は認められなかった。一方、p75 受容体の発現は運動介入により有意な減少が認められ、運動介入効果が確認された。【考察】BDNFはTrkBへの作用により神経細胞における「生」の方向へのシグナルを強化し、一方、p75 の作用により神経細胞における「死」の方向へのシグナルを増強する。このことから、2 つのBDNF受容体に対する陰陽の作用バランスが神経細胞の可塑性において重要と考えられている。本研究の結果からリガンドであるBDNFの発現およびTrkBへの運動介入効果は認められなかったが、細胞死へのカスケードを増強すると考えられるp75 の発現は運動介入により減少していた。P75 受容体の発現減少により神経細胞の「死」方向へのシグナルカスケードの軽減が期待されることから、本研究で用いた運動介入は海馬における退行に対して抑制効果を示唆する内容であった。以上の所見から、中高齢者の運動介入に広く取り入れられている有酸素的効果を一次的に意図しない低負荷なバランス運動が、海馬における神経系の退行抑制を通して、認知症の予防を始めとする記憶・学習機能の維持に対しても有効に作用する可能性が期待された。【理学療法学研究としての意義】本研究は、理学療法、とりわけ運動療法において重視されているバランス機能の向上を目的とする運動の継続(習慣)が認知機能の維持・向上に対して有効であることを示唆する基礎研究として意義を有している。
著者
林 寿恵 下村 貴文
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>平成28年4月16日に発生した熊本地震において演者の勤務地である阿蘇市は被災し,多くの住民が避難所での生活を余儀なくされた。自主避難所を含めた避難所は29箇所,想定避難者5,500人(H28. 4.22阿蘇市調べ)である。被害の大きさからも住民の避難所生活は長期化が予測され,環境変化に伴う,生活不活発予防,健康管理などの関与が重要であった。地震発災直後は昼夜を問わず避難所は満員であったが,経過とともに避難所スペースは空地,または非常時のみ利用する場所取りが出現した。しかし避難所スペースの変化はあるも,避難生活活動は変わらない住民の姿がみられた。避難所介入のひとつに生活不活発を防ぐ生活環境整備をあげ,避難所の環境コーディネートを行った。避難所の生活環境を住民や関係者と共に考え,住民主体の環境整備活動へと繋がった事例を経験した。避難所の環境コーディネートの重要性について学んだためここに報告する。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>避難所の空きスペースがみられた発災2週間後に避難所地域の区長,避難所に滞在している災害支援ナース,常駐している自治体職員等に避難所生活環境整備の必要性を説明し,協力を得た。環境整備をする目的は,生活しやすい環境づくりtと生活不活発を予防する,とした。整備内容は①移動の動線を明確にする②居住スペースと共有スペースを分ける③共有食事スペースを確保する④ベッド導入や間仕切り(パーソナルスペース)の検討⑤支援物資管理の透明化の以上5点を提案した。それに加え,区長からは要援護者配置場所の考慮,ベッド導入必要者検討,間仕切り非設置の提案,災害支援ナースからは住民主体の健康管理スペースや個別保健スペースの確保が挙がった。検討後,区長が避難者全世帯に環境整備の必要性を説明し,住民の理解と協力を得た</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>環境整備前は,自スペースでの食事摂取,トイレ,入浴や支援者の訪問時等のみ活動や移動がみられた。そのため周囲への注意を払うこともほとんどなく自スペースのみで一日を過ごしていた。しかし,区長の説明後,住民が主体となって避難所清掃,居住スペースと共有スペースを整備した。そのことで,食事は共有スペースでの摂取が習慣化され,他者と交流しながら食事をとることが可能となった。また,要援護者に対しても多くの方々の理解を得ることができ,みんなで見守り,声掛けを行うことができた。間仕切りや,ベッド導入等も演者は提案のみで,実施は住民が主体で実施した。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>避難所という集団生活を強いられる特殊環境において自らの生活を確保するのは難しい。今回,生活環境整備をコーディネートし,区長の理解と協力を得たことで,住民が主体で環境を整備した。そのことが,個人スペースでの引きこもりをなくし,共有スペースでの交流や寝食分離を図ることができた。生活環境を整備したことで活動性があがり,不活発を予防できたと考える。</p>
著者
国中 優治 高濱 照 壇 順司 中島 喜代彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.210, 2003

【目的】膝屈曲時に膝窩痛を訴える患者は腓腹筋内側頭(以下、内側頭)起始部に多くを認める。そこで今回、その部位が発痛部位となる理由について遺体解剖を通して調べたので考察を加えここに報告する。【対象】 熊本大学医学部解剖学第一講座の遺体8体12肢【方法】1)内側頭と腓腹筋外側頭(以下、外側頭)のそれぞれの起始付着部(以下、付着部)について精査と、膝裂隙から付着部までの距離を各々計測した。2)遺体で膝屈曲時に大腿骨顆部後方と脛骨上関節面後縁部で圧迫される組織を調べ、その組織が圧迫され始める時の膝屈曲角度を測定した。【結果】1)内側頭付着部は大腿骨内側上顆後方及び関節包であり、関節包との間には滑液包が認められた。外側頭付着部は関節包及び足底筋外下部であり、大腿骨外側上顆には付着していなかった。大腿骨外側上顆には足底筋が付着していた。また、膝裂隙から付着部までの距離は内側頭で42.6±0.6mm 、外側頭で29.3±0.6mm であった(p<0.01)。2)圧迫された組織は内側頭と足底筋であった。内側頭は鋭角に折り畳まれ圧迫を強いられていた。足底筋は折り畳まれるものの圧迫は軽微であった。その時の膝屈曲角度は内側頭側が103.9±4.9°であり、足底筋側が122.9±9.9°であった(p<0.01)。【考察】遺体での付着部の精査にて、内側頭と足底筋は関節裂隙を跨いで骨に付着するために膝屈曲時に両筋とも折り畳まれること、および膝屈曲時に内側コンパートメントの関節面の接点が外側コンパートメントのそれよりも前方に位置するために大腿骨内側顆部後方に楔状の間隙ができ、屈曲時この間隙に関節包および内側頭が嵌入する可能性があることが判明した。次に、膝屈曲角度において内側頭側と足底筋側の差は、内側頭のボリュームが足底筋のそれに比べ厚いことに起因しており、膝屈曲時には内側頭付着部がより強い圧迫を強いられることが示唆された。このことより内側頭付着部付近は正座やしゃがみ位など膝屈曲にてより損傷されやすい状況であるものと考えられた。しかし、生体の正常な膝関節では他動的屈曲時には関節包内圧の後方での高まり、同じく自動屈曲時には関節包内圧の後方での高まりと収縮している内側頭が付着部の一部である関節包を後方に引くことで関節包および内側頭の嵌入を防いでいると考えられ、内側頭付着部下の滑液包の存在を含めその部位への圧迫を軽減していると考えられる。加えて、変形性膝関節症などに伴う膝窩痛を有する高齢患者を想定した場合、加齢あるいは疾患による筋・関節包の柔軟性低下や短縮や滑液包の柔軟性低下などを背景とした膝屈曲における内側頭付着部付近の圧迫による筋・関節包・滑液包の微細損傷の発生およびその質的変化による筋滑走性の阻害などの可能性が考えられる。以上のことより、膝屈曲時の膝窩痛の発痛部位としては内側頭付着部が想定される。
著者
高見 千由里 加藤 正樹 松田 佳恵 加藤 喜隆 山上 潤一 早川 美和子 才藤 栄一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】当院は急性期医療を担う大学病院であり,重症例やハイリスク症例にも早期からリハビリテーション(以下リハビリ)を介入し,療法士は適切で万全なリスク管理が求められている。当院リハビリ部ではリハビリ時における事故発生状況について定期調査をおこなっており,今回我々は2009年~2013年度の事故発生状況,中でも転倒事故に着目し,当院におけるリスクマネジメントへの取り組みも含めて検討したので報告する。【方法】2009年4月1日から2013年3月31日の5年間に当院療法士が提出した事故報告書を基にリハビリ中に発生した事故314件を比較検討した。年間単位数から1単位あたりの事故発生率を求め標準化した。調査項目は事故報告書から転倒事故について発生時の動作,介助レベル,場所を抽出し年毎に比較検討を行った。また当院リハビリ室には2012年から安全懸架(Safety Suspension,以下SS)と位置づけられた懸垂装置を導入している。SSは患者の体幹に装着したハーネスと天井のレールにつながる懸垂装置である。今回,SSについての意識調査アンケートを部内療法士対象に実施した。【結果】事故件数及び1単位あたりの発生率は2009年度78件(0.038%),2010年度75件(0.034%),2011年度58件(0.025%),2012年度44件(0.018%),2013年度59件(0.020%)であった。事故のうち転倒は2009年度27件(34.6%),2010年度21件(28.0%),2011年度25件(43.1%),2012年度12件(27.3%),2013年度8件(13.6%)と低下を認めた。転倒事故において5年間合計件数の多い順に動作別では1位:歩行(34.1%),2位:立位(14.8%),3位:車椅子座位(12.5%),介助レベル別では1位:近位監視(49.4%),2位:軽介助(21.7%),3位:遠位監視(12.1%),場所別では1位:PT室(32.5%),2位:OT室(21.7%),3位:廊下(15.7%)であった。年度毎の歩行中転倒件数は2009年度9件,2010年度6件,2011年度11件,2012年度1件,2013年度3件であった。近位監視中転倒件数は2009年度10件,2010年度10件,2011年度14件,2012年度5件,2013年度2件であり,それぞれ2012年度から件数の低下を認めた。SSについてのアンケートでは「転倒事故防止を目的に使用している」との答えが61%であり「歩行練習中の事故防止に効果的か?」という質問では「非常に効果的」,「やや効果的」との答えが94%であった。【考察】当院では部内リスクマネージャーと安全管理室が連携し新人研修や部内勉強会においてリスク管理に関する講義を実施している。事故発生時には管理職療法士,リスクマネージャーから担当療法士に対し改善点についての指導,他療法士への周知徹底が行われ再発予防に取り組んでいる。リハビリ部では2012年度PT室にSSを導入しており,必要に応じて転倒防止ベルトの使用も推奨してきた。そのため2012年度から転倒事故件数の減少が認められ立位,歩行練習時にSSを使用することは事故防止に効果的であることが考えられた。アンケート結果でも転倒事故防止を目的にSSを使用しているスタッフが過半数におよんでいた。またSSについて歩行練習中の事故防止に効果的であると答えたスタッフが94%におよび歩行時の転倒事故防止に対するスタッフの意識向上が認められた。しかしSSは使用場所が限られる為,今後病棟や屋外では持ち運び可能な転倒防止ベルトの使用を今まで以上に推奨し,状況に合わせた使い分けをすることで,より安全で適切かつ効果的なリハビリの提供が必要と考える。【理学療法学研究としての意義】本研究では医療安全に関する要因の検討,スタッフの認識が把握できた。リスク管理の教育におけるシステムの構築に非常に有用と考えられる。また当院と同様の急性期医療施設への情報提供となり,今後の積極的かつ安全なリハビリの普及にも有用と考えられる。
著者
三浦 拓也 山中 正紀 森井 康博 寒川 美奈 齊藤 展士 小林 巧 井野 拓実 遠山 晴一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】体幹に属する筋群はその解剖学的特性からグローバル筋群とローカル筋群の2つに大別される。近年,この体幹ローカル筋群に属する腹横筋や腰部多裂筋の機能に注目が集まり,様々な研究が世界的に行われている。腹横筋の主たる機能として,上下肢運動時における他の体幹筋群からの独立的,かつ先行的な活動や腹腔内圧の上昇,仙腸関節の安定化などが報告されている。また,腰部多裂筋に関しては腹横筋と協調して,また両側性に活動することで腰椎へ安定性を提供しているとの報告がある。これら体幹ローカル筋群は主に深層に位置しているため,その評価には従来,ワイヤー筋電計やMRIといった侵襲性が高く,また高コストな手法が用いられてきたが,近年はその利便性や非侵襲性から超音波画像診断装置による筋厚や筋断面積の評価が広く行われている。腹横筋と腰部多裂筋は協調的に活動するとの報告は散見されるが,両筋の筋厚の関連性について言及した研究は少ない。本研究の目的は腹横筋と腰部多裂筋を超音波画像診断装置にて計測し,その関連性を調査することとした。【方法】対象は,本学に在籍する健常男性10名(21.0±0.9歳,173.9±6.6 cm,64.3±9.5 kg)とした。筋厚および筋断面積の計測には超音波画像診断装置(esaote MyLab25,7.5-12 MHz,B-mode,リニアプローブ)を使用した。画像上における腹横筋筋厚の計測部位は腹横筋筋腱移行部から側方に約2 cmの位置で,その方向は画像に対し垂直方向とした。腰部多裂筋の筋断面積計測におけるプローブの位置は第5腰椎棘突起から側方2 cmの位置で,画像上における筋断面積は内側縁を棘突起,外側縁を脊柱起立筋,前縁を椎弓,後縁を皮下組織との境界として計測した。動作課題は異なる重量(0,5,10,15%Body Weight:BW)を直立姿勢にて挙上させる動作とし,各重量条件をランダム化しそれぞれ3回ずつ計測,その平均値を解析に使用した。統計解析にはSPSS(Ver. 12.0)を使用し,Pearsonの相関係数にて腹横筋筋厚と腰部多裂筋筋断面積の関連性を検討した。統計学的有意水準はα=0.05とした。【結果】統計学的解析から,0%BW(r=0.78,p<0.05),5%BW(r=0.72,p<0.05)条件において腹横筋の筋厚と腰部多裂筋の筋断面積との間に有意な正の相関が認められた。10%BW,および15%BW条件においては有意な相関関係は認められなかった。【考察】本研究は,機能的課題時における腹横筋と腰部多裂筋の形態学的関連性を検討した初めての研究であり,体幹に安定性を提供するとされている両筋がどのような関連性をもって機能しているのか,その一端を示した有用な所見である。本結果より,低重量条件においては腹横筋筋厚と腰部多裂筋筋断面積との間に有意な正の相関が認められたが,重量の増加に伴い相関関係は認められなかった。先行研究によると腹横筋や腰部多裂筋は機能的活動中に低レベルで持続的な活動が必要であるとされており,かつ両筋は低レベルな筋活動で充分に安定化機能を果たすと報告されている。また,両筋は他の体幹筋群と比較して筋サイズも小さいため,高負荷になるにつれて筋厚や筋断面積の値はプラトーに達していた可能性があり,さらに,高重量条件では重量の増加に伴う体幹への高負荷に抗するため,体幹グローバル筋群である腹斜筋群や脊柱起立筋群などの活動性が優位となっていたために筋厚や筋断面積の関連性が検知されなかったかもしれない。本所見は上記の点を反映したものであると推察される。腹横筋や腰部多裂筋は活動環境に応じて協調的に働くことで体幹に対して適切な安定性を提供しているとされてきたが,様々な活動レベルを考慮したデザインにおいてその関連性を検討した研究は無く,明確なエビデンスは存在していない。本研究はその一端を示すものであり,今後は筋活動との関係性や他の体幹筋群との関係性,さらには腹横筋や腰部多裂筋の機能障害があるとされている慢性腰痛症例においてより詳細な検討が必要であると思われる。【理学療法学研究としての意義】体幹ローカル筋群である腹横筋と腰部多裂筋に関して,低負荷条件において有意な正の相関関係が認められた。本所見は,体幹へ安定性を提供するとされている両筋の形態学的関連性を示唆した初めての研究であり,リハビリテーションにおける体幹機能の評価やその解釈に対して有用な知見となるだろう。
著者
有竹 洋平 林 悠太 吉松 竜貴
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A4P2090, 2010

【目的】<BR> 意欲低下、自発性低下もリハビリテーションを行う上で、最大の阻害因子の一つであるという報告がある(大友.1986)。また、脳血管障害患者を対象とした在宅での日常生活動作(以下ADL)と生活意欲の関連報告や回復期病棟での1ヶ月間のADL変化と意欲の関連性を検討した先行研究もあり、リハビリテーションにおける意欲の重要性が伺える。そこで本研究では、東武練馬中央病院回復期病棟に入院する高齢患者を対象に、入院時の生活意欲と退院時までのADLの改善度の関連性について比較検討した。<BR>【方法】<BR> 対象はH20年11月からH21年10月までに当院回復期病棟に入院中であった65歳以上の高齢患者62名(男性19例、女性43例、年齢82.0±6.5歳、脳血管障害18例、整形外科疾患32例、脊椎脊髄疾患8例、廃用症候群4例)とした。入院中に急性増悪での転院や死亡退院した者は対象外とした。<BR>評価項目は、入院時と退院時の機能的自立度評価表(以下FIM)と入院時から退院時までのFIMの改善度であるFIM利得、入院時の生活意欲とした。生活意欲に関しては、認知症患者でも回答の有効性が高いとされているVitality Indexを用いた。Vitality Indexは鳥羽らによって開発された指標で、日常生活での行動を起床・意志疎通・食事・排泄・活動の5項目で評価し、高齢者のリハビリテーションや介護場面での意欲を客観的に測定するものである。各項目はそれぞれ0~2点まで配点された3つの選択肢からなり、満点は10点となる。カットオフ値とされる7点をもとに、8点以上を高得点群(以下High群)、7点以下を低得点群(以下Low群)の2群に分けた。<BR> 統計学的処理は、Stat view ver.5.0を使用し、入院時FIMと入院時Vitality Indexに対してはSpearmanの順位相関係数を求めた。また、FIM利得はMann-WhitneyのU検定、年齢・在院日数はt検定、性別はχ<SUP>2</SUP>検定を用いて群間の差を検討した。有意水準は5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR> 数値の公表に関して、統計量を用いるなど個人の特定がなされないよう配慮することで、対象より了承を得た。<BR>【結果】<BR> High群は39例(男11例、女28例、81.2±6.3歳)、Low群は23例(男8例、女15例、83.5±6.7歳)であり、全体のVitality Indexは8.0±2.5点、High群は9.6±0.7点、Low群は5.2±1.7点であった。入院時FIMと入院時Vitality Indexは0.759と高い相関を認めた。FIM利得、年齢、性別は群間で有意差を認めなかった。在院日数はHigh群ではLow群に比べ有意に高かった(p<0.05)。<BR>【考察】<BR> 本研究では回復期病棟に入院する高齢患者に対し入院時の生活意欲と退院時までのADLの改善度との関連性について検討した。その結果、入院時FIMと入院時Vitality Indexに関しては高い相関が認められた。入院時のVitality Indexが低下している者はADL能力も低下していることが考えられる。また、入院時Vitality IndexとFIM利得との間に関連性は認められなかった。入院時の生活意欲と退院時までのADL改善度に対して関連性が低いと考えられる。以上より、入院時Vitality Indexが低い患者であっても、退院時までにADLが改善する可能性が示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 今回の結果から、回復期病棟へ入院してきた高齢患者は一様に意欲的であるとは言えず、意欲低下が認められる患者もいることは明らかである。意欲低下、自発性低下もリハビリテーションを行う上で、最大の阻害因子の一つであるという報告があるため、入院時に意欲低下が認められている患者はその後のADL改善を阻害する可能性も考えられる。そこで、本研究で回復期病棟に入院する高齢患者の入院時の生活意欲が退院時までのADLの改善度に与える影響について関連性を検討したことは、理学療法研究として意義があると考える。<BR>本研究の結果から、入院時Vitality Indexの得点で退院時までのADL改善度を予測することは困難であり、入院時の生活意欲低下が一様にADL改善度に対して阻害因子とはならないことが示唆された。よって、ADLの改善度に対しては疾病の器質的問題や障害重症度、個人因子など多角的な検討が必要だと考える。
著者
高村 元章
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.EbPI1446, 2011

【目的】<BR> これまで元気に生活していた高齢者が肺炎や転倒、基礎疾患の悪化をきっかけに入院し、その後不幸にも入院期間中に寝たきり状態になり、そのままの状況で退院せざるを得ないケースに遭遇する。その一方で再び良好な回復を示し、在宅に戻って以前と変わらぬ生活を取り戻した高齢者も存在する。これらの転帰の相違は、確かに疾患や損傷の重症度や適切な治療の介入、家族の支えや介護などの影響が大きいのかも知れない。しかし、それと並行して、本人自身に芽生えた再び生きることへの原動力、すなわち生活意欲をかきたてる「動機」に通じる何からかの要因の存在があったからではないかと考えている。<BR> そこで、本研究では、かつて寝たきりの状態を経験し、現在はそれらの状況から回復の方向へ転じた高齢者を対象として、その背景因子や相互の関連性を模索することを目的に、半構造的インタビューによる聞き取り調査を実施した。そしてそれらのデータをもとに寝たきり状態となった高齢者の生活意欲向上にかかわる要因について検討を行ったので以下に報告する。<BR>【方法】<BR> 対象者の選定は、これまでに寝たきりの状態を6ヶ月以上経過し、現在その状態が改善されたか、または改善過程にあり、本研究の趣旨に同意が得られた2名の高齢者を対象とした。事例1および事例2ともに、70歳代の男性で、在宅での生活を営んでいる。事例1は、アルコール依存による精神障害や重度の肝機能障害、糖尿病など11種類の病名を持ち、病院から特別養護老人ホームを経て、退所後3年6ヶ月が経過していた。旧厚生省官房老人保健福祉部長通知(老健第102-2号)による障害高齢者の日常生活自立度判定基準(以下、寝たきり度)では、ランクB2からJ1へ、要介護度は4から 要支援1へと変化し、現在はシルバー人材センターからの依頼業務等もこなせる状況にまで回復している。事例2は、結核で入院中に脳出血を発症し、回復期の病院を退院後5年5か月が経過していた。寝たきり度はランクC2からB2へ、要介護 5から4へと軽快し、現在週2回のデイサービスを利用して歩行練習に励み、他の利用者とともにカラオケを楽しんでいる。<BR> 聞き取り調査の分析は、まずICレコーダーに録音した音声データより逐語録を作成し、それらのデータをもとにコード化、カテゴリー分類等の質的研究の手順に準じて、その要因を分析した。今回、分析の基本として、グランデッド・セオリー(Grounded Theory Approach)の考え方を受けたロング・インタビュー法(The Long Interview)を採用した。<BR>【説明と同意】<BR> 本研究に関する調査協力の依頼に当たっては、倫理上の手続きとして個人情報の保護に関する法律(法律第57号)と「疫学研究に関する倫理指針」(文部科学省・厚生労働省)に基づく同意書を作成し、十分な趣旨の理解と同意を得て実施した。また、インタビュー中の会話の録音についても、事前に確認をとり録音の了解を得た上でインタビュー調査を実施した。<BR>【結果】<BR> 一連の分析手順を踏んだ結果、最終的に事例1では7つのカテゴリーと27個の註釈が得られ、事例2では7つのカテゴリーと25個の註釈が得られた。それらのうち2つの事例に共通するカテゴリーとしては、「楽しみ(やりたいこと)」、「人との交流(役割としての意味合いも含む)」、「役割」、「医療や福祉環境への懐疑と不満(主に家族から)」の4つのカテゴリーに集約された。<BR>【考察】<BR> 2つの事例に共通するカテゴリーより寝たきり状態となった高齢者の生活意欲向上にかかわる要因として特に注目すべき項目は、「楽しみをもつこと」、「役割をもつこと」、「人との交流をもつこと」の3項目であると考えた。これらは、我々の日常生活において極普通に散在する要因で、「その人となり(自分らしさ)」を表すものと解釈されるが、寝たきりの状態や虚弱に陥った多くの高齢者はそれらの要因を一瞬のうちに無くし、生きる道筋を失った状態とも捉えられる。このような状態の反映を生活意欲の低下と表現するならば、この生活意欲を向上させるための要因やきっかけにいち早く気づくことこそ、「寝たきり」の状態となった高齢者を本当の意味で「起こす」のためのストラテジー(strategy)へと通じるものではないかと考えた。それはすなわち、「人としての尊厳」の回復を目指すものともいえる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 寝たきり状態となった高齢者を回復の方向へ導く視点には、生活意欲の向上につながる要因の追究ということが重要であった。それは、単に機能や能力の維持・改善ばかりに目を奪われることなく、対象者が何気なく発信している普段の会話の中から「その人となり(自分らしさ)」をいち早くキャッチする着眼点の重要性が示唆された。
著者
山本 光 谷口 圭佑 滝澤 恵美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>要支援・要介護者の健康管理や在宅運動の習慣といった「自助」の促進は重要な課題である。ある行動の獲得や習慣化に際して自己効力感(self-efficacy:SE)が重要視されており,SEに関する報告は散見されるが,集団体操を通じたSEの変化に関する報告は少ない。そこで本研究は,「自助」の促進を目的とした集団体操が,健康管理に対するSE(健康SE)と在宅運動SEへの影響を検討することを目的とした。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>通所リハビリテーション利用者10名(男性5名,女性5名,年齢79.9±7.4歳)を対象とした。主疾患は中枢神経疾患2名,整形外科疾患7名,心疾患1名であった。Mental Status Questionnaire 8点未満の者は調査から除外した。集団体操は,1)遂行行動の達成(目標に対する達成度を対象者自身で記録),2)代理的体験(他者が称賛される様子を対象者同士が観察できるよう配置),3)言語的説得(称賛や励ましの声掛け),4)生理的・情動的状態(体操前後に血圧・脈拍を対象者自身で測定・記録)のSEを高める4つの情報源(石毛,2010)に対応させて実施した。集団体操は1回40分,週1~2回,3か月間実施した。なお,集団体操で実施した内容を自主トレーニングとして行うように指導した。介入前後で対象者の身体機能テスト5項目(握力,膝伸展筋力,5m最大歩行時間,Timed Up and Go test(TUG),Functional Reach(FR)),およびSE2項目(健康管理に対するSE尺度(横川,1999),在宅運動SE尺度(有田,2014))を調査した。統計学的解析はWilcoxonの符号付順位和検定を用い,統計学的な有意水準は5%とした。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>介入前後の結果を以下に示す(介入前/介入後,p値)。握力(kg)(22.0±5.4/22.1±5.4,p=0.95),膝伸展筋力(kg/体重)(0.37±0.12/0.38±0.11,p=0.41),5m最大歩行時間(秒)(5.2±0.9/5.2±1.1,p=0.51),TUG(秒)(12.1±2.1/11.8±2.4,p=0.38),FR(cm)(22.7±6.6/23.9±6.5,p=0.72)であり身体機能の有意な変化は認められなかった。一方,健康SE(42±4.9/45.5±4.5,p=0.02)では有意に上昇した。なお,在宅運動SE(18.2±4.8/22.3±3.9,p=0.05)は有意な変化を認めなかったが,介入前より介入後に上昇した。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>本プログラムによって身体機能に有意な変化は認めなかったが,健康SEの上昇の効果を認めた。セラピストと対象者,また対象者同士の関わりを工夫することで,対象者自身が健康を管理する動機付けを促進させると推察された。これより,集団体操はSEの変化に正の効果をもたらすと考えられた。健康SEを向上させた活動として,自己または他者のトレーニングの成功体験や代理的体験,さらに血圧・脈拍の自己管理の導入が考えられた。在宅運動SEは上昇傾向にあることから,今後,自宅での活動に変化が現れれば身体機能の維持・改善も期待される。今後はSEの上昇に伴う実際の行動変容を確かめる必要がある。</p>
著者
永瀬 外希子 伊橋 光二 井上 京子 神先 秀人 三和 真人 真壁 寿 高橋 俊章 鈴木 克彦 南澤 忠儀 赤塚 清矢
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.G3P1572, 2009

【はじめに】我々は第43回日本理学療法学術大会において、地域住民による模擬患者(Simulated Patient以下SPと略)を導入した医療面接の演習授業の紹介を行った.今回、授業後に行った記述式アンケートを通して、SP参加型授業による教育効果を検討したので報告する.<BR>【対象】対象は本学理学療法学科3学年21名で、本研究の趣旨と目的を説明し、研究への参加に対する同意を得た.<BR>【方法】医療面接の演習目的はコミュニケーションスキルの習得とした.演習方法は2症例のシナリオを作成し、2名のSPに依頼した.学生には1週間前に面接の目的と進め方、症例の疾患名を提示した.さらに面接30分前に症例の詳しい情報を提示した.グループを4つに分け、面接方略の討論後、各グループの代表者1名がSPと面接を行い、それ以外の学生は観察した.1回の面接時間は10分以内とし、面接後、学生間のグループ討議、SPならびに教員によるフィードバックを行った.演習終了後、授業に参加した学生を対象に、授業を通して学んだことや感じたことについて自由記載による記述式アンケート調査を行った.得られた記述内容を単文化してデータとし、内容分析を行った.得られた127枚のカードから3名の教官が学生の学びに関するカードを抽出し、同じ内容を示すカードを整理しサブカテゴリー化した.その後さらに関連のあるカードを整理してカテゴリー化し、それぞれの関係性について検討した.<BR>【結果と考察】「学び」に関与すると判断されたカードは40枚であった.それらを分析した結果、「SPと自分との乖離」、「自分自身の振り返り」、「基本的態度の獲得」、「対応技術の習得」の4カテゴリーが抽出された.「SPと自分との乖離」は、「表出されない相手の思い」、「思いを知ることの難しさ」のサブカテゴリーで構成されていた.また「自分自身の振り返り」は「基本的なコミュニケーションスキルの知識不足」、「疾患についての知識不足」、「話を発展させる技術不足」、「質問攻めの一方的なコミュニケーション」、「基本的態度の獲得」は「傾聴的な態度」、「共感的態度」、「相手を分かりたいという思い」、「対応技術の習得」は「患者をみる視点・観点」、「目をみて話すことの大切さ」、「相手に合わせた関わり方」のサブカテゴリーから構成された.これらの結果より、SPからのフィードバックを通して、SPと自分の感じ方や捉え方の違いや、言葉では表出されない思いがあることに気付き、それらを理解することの難しさを実感するとともに、学生自身の不足している点を認識したことがわかった.そして、相手と信頼関係を築くためには、相手を思い、傾聴し、共感するなどの基本的態度の大切さに加え、目をみて話すことや相手に合わせた関わり方などの対応技法の習得も必要であることを学んでいた.
著者
岸本 泰樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E2Se2073, 2010

【目的】現在我々理学療法士は、医療報酬・介護報酬の枠組みの中で運営する病院や老健などの施設で働いている場合が多い。平成21年現在、一般の保育園、幼稚園で働く理学療法士は皆無といってよい。しかしながら、昨今全国的に展開される様々な分野の公的機関民営化の流れに伴ない、これまで医療・介護に関わってきた医療法人が保育園を運営する例も珍しくなくなってきている。一般の保育・教育の現場でも、障害を有さない健常な子供たちとの生活の中で、我々理学療法士に対する期待の声も高まっており、こうしたことは多職種協働を目標に掲げる我々が、なすべき役割を発揮するひとつのチャレンジなのかもしれない。今回、岐阜市内における保育園との1年を通じた関わりを経験したのでここに報告する。<BR><BR>【経緯】岐阜市内のA保育園はこれまで岐阜市が運営を担っていたが、市が推進する平成20年度の民営化改革より、これまで同市内において病院や老健を運営してきた当医療法人が管理・運営することとなった。同園は5歳児(年長)・4歳児(年中)・3歳児(年少)それぞれ1クラスと3歳未満児クラスを有する保育園であり、障害児の受け入れも積極的に進めている。また同園ではこれまで、いわゆる「体操教室」のような運動に特化する時間を設けておらず、園児の運動発達や身体能力に注目することが少なかった。そこで今回の民営化を機に園児への健やかな運動発達を誘導する一方法として理学療法士が派遣されることとなった。<BR><BR>【方法】同園内で隔週1回を基本とし身体を動かす楽しさと大切さを伝える「理学療法士による体操教室」を開催した。また通常の教室とは別に正常な運動発達をチェックする観点から、園児たち全員に対する運動機能評価(スポーツテスト)を行ない、子どもたちの運動能力の現状を確認した。得られた結果は保育士と共に分析を行ない、園全体で共有できるよう努めた。また同時に、日常の遊びや生活動作の中での運動発達状況を記録するシステムを構築した。さらに現在運動発達障害を有し病院などで治療を続けている子どもたちにおいては、担当の理学療法士との情報交換をしながら実際に保育園に来ていただき、園での日常生活における保育士の対応について指導もいただいた。<BR><BR>【説明と同意】今回の取り組みに関しては保育園側への十分な説明を行なうとともに、園児と保護者に対する理解と同意を得て計画的に実践にあたった。<BR><BR>【結果】スポーツテストの結果では全体的に当園の子どもたちの運動能力が低下傾向であることが確認された。中でもテニスボール投げや両足連続飛び越えのような全身の協応性を求められる項目でスコアが伸びなかったのは、これまで運動を指導されたことがない園児たちが今持ち合わせている基本的な運動能力を、発展的かつ巧に利用することが不得手であることをうかがわせた。また日々の発達を年間を通じて記録することは、客観的な変化を担当保育士が理解・共有することにつながり保育業務の一助となった。障害児への対応では、保護者との面談や通院先の担当理学療法士への訪問活動、担当理学療法士に日常生活での指導をいただくため園に招く活動などを通じ、これまで希薄であった保護者・保育士・担当理学療法士のつながりを強化する働きかけとなった。<BR><BR>【考察】少子化が進む現在、子どもたちの能力を伸ばすための働きに注力する保育園・幼稚園が増えてきている。医療法人がこうした運営を担うケースは今後増えてくると予想され、我々理学療法士に広がる新しい業界として展開される可能性が十分にある。そこでは、運動発達学的な視点をもとにした適切な運動能力評価、障害児を受け入れている園の担当保育士への指導、また該当児の治療を担当する理学療法士と保育士とを有機的につなげるパイプ役、など様々な役割が求められ、これまで障害に対するアプローチのみが主な生業であった我々が今後構築すべき新たな地平といえるのかもしれない。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】「多職種との協働」や「理学療法士としての職域の広がり」の観点から、今回のような新しい切り口での取り組みは、今後研究されるべき課題の投げかけという意味でも意義深いものであると考える。
著者
櫻田 弘治 浦川 宰 小澤 亜紀子 佐藤 真治 澤 貴広 牧田 茂 間嶋 満 許 俊鋭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.434, 2003

<B>【はじめに】</B>現在、心臓外科術後症例に対する心臓リハビリテーションの有効性は明らかなものである。心臓外科術後早期の短期間での効果も、我々の研究結果において明らかにされている。しかし、この中には改善のみられなかった症例も存在することは事実である。今回、心臓外科術後早期の短期入院での運動療法によって、運動耐容能に改善のみられなかった症例について、その要因を検討した。<B>【対象】</B>2001年9月から2002年9月に当院心臓血管外科にて胸部正中切開による手術後、リハビリテーションを施行した患者のうち、早期離床を目的とした病棟内理学療法施行後、リハビリテーション科での短期入院による運動療法を施行した症例28例(男性:25名・女性:3名、平均年齢63.1±11歳)を対象とした。リハビリテーション科での運動療法は心肺運動負荷試験(CPX)の結果より嫌気性代謝閾値(AT)を決定し、その結果をもとに自転車こぎをおこなった。開始時期は、術後平均病日11.7±4.3、運動療法期間は10.9±4日であった。手術様式別は冠動脈バイパス術14例、弁置換・弁形成術9例、冠動脈バイパス+弁置換術5例であった。尚、術後運動器疾患を合併症した症例は除外した。<B>【方法】</B>運動療法実施後のPeak VOH<SUB>2</SUB>が改善した群(22例)、しなかった群(8例)の2群間において、術前左室駆出率(LVEF)・手術侵襲(手術時間)・術後臥床期間を対応なしのt検定を用いて検討した。<B>【結果】</B>改善した群・しなかった群でのPeak V(dot)O<SUB>2</SUB>は、それぞれ運動療法前:12.3±2.6・12.2/2.2ml/kg/min、運動療法後15.2±3.2・11.5±2.5 ml/kg/minであった。改善した群・しなかった群での、術前左室駆出率(LVEF)は各々、57.4±13.9・63.3±14%、術後臥床期間は2.5±0.7・3.0±0.6日で有意な差はみられなかった。しかし、手術時間は改善した群で263.5±83min、改善しなかった群で344.7±66.9minと有意差が認められた。<B>【考察】</B>心臓血管外科手術は血行動態や心筋虚血の改善、運動能力の向上を目的として行われるが、全症例が同様に改善するわけではない。今回、心臓外科術後約11病日より自転車エルゴメータによる、約10日間の運動療法施行症例中で、運動耐容能が改善しなかった群では、手術時間が長かったことによる、心筋自体の回復、および全身状態安定の遅延が運動耐容能が改善しなかった大きな要因であると考える。<B>【結語】</B>心臓外科術後早期、約11病日より開始した、約10日間の運動療法を施行しても、改善がみられなかった症例の原因としては、手術時間が長いことであった。
著者
長門 五城 藤田 聡香 渡部 一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Eb0648, 2012

【はじめに、目的】 病院や老健施設等で、移動・座位保持を目的として車いすが使用されるが、シーティングアプローチが不十分で、姿勢が崩れた状態で車椅子を使用している場合が数多く見受けられ、仙骨座りやずり落ち等の問題が発生している。また、不良姿勢の持続は呼吸状態や循環動態、摂食・嚥下、消化機能にも影響し、脊柱の後弯・側弯、頸部後傾、関節拘縮などの障害をもたらすことが報告されている。シーティングアプローチにおける体幹支持の方法には、腰椎支持、骨盤支持、胸郭下支持(第10~12肋骨付近における支持)などがある。特に胸郭下支持については、継続的姿勢保持機能が高いと言われているが、その身体への効果・影響については明らかになっていない。本研究では、車いす座位における胸郭下支持の有無が経時的な姿勢変化や呼吸機能に与える影響について比較検討した。また、介入前後に車いす座位保持における疲労感を評価し、比較検討を行った。【方法】 対象者は実験の同意が得られた健常者20名(男性10名:平均年齢20.7±0.9歳、女性10名:20.8±0.8歳)。実験は実験室入室後、室内馴化のため30分安静背臥位となったあと40分間車椅子に乗車してもらい胸郭下支持なし、ありの2日間に分け実施した。実験室環境は平均室温27.7±1.9℃、平均湿度51.3±6.0%であった。実験前後において体圧分布測定システム(Tekscan社製)を用いた座圧、レーザー距離計(Leica社製)による下位頚椎から上位胸椎の形状の測定、呼吸機能検査装置(NIHON KOHDEN社製)を用いた呼吸機能検査、疲労に関するアンケート、フリッカー測定器(オージー技研株式会社製)を用いた疲労測定を実施した。データは男性群、女性群に分けて処理を行った。統計ソフトはIBM SPSS Statistics 19を使用してt検定を行い、危険率は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 実験は青森県立保健大学倫理委員会の倫理審査を受けた上で実施し、対象者にはあらかじめ実験内容、手順を説明し書面にて同意を得た。【結果】 姿勢変化について座圧分布では仙骨部での荷重パターンを行っていた5名が胸郭下支持を入れることで坐骨部での荷重パターンへと変化する傾向がみられた。また有意差はみられなかったが支持なしの場合、最大荷重点の仙骨部への偏移がみられた。下位頚椎から上位胸椎にかけての形状は始点(Th3)を揃え、終点(C4)における分散をみた結果、男性では有意差は認められなかったが、女性では支持ありの場合、実験後のC4における位置の偏移が有意に大きいという結果となり、形状に多様性がみられていた。呼吸機能は支持なしの場合、男性ではTVは有意に増加、VCは有意に減少していた。女性では有意差はみられなかった。支持ありの場合では、男女ともに実験前後のTV、VCに有意差はみられなかった。疲労度については男女ともにアンケートによる評価では疲労度、フリッカー値が支持なし、ありとも有意に増加した。アンケートでの疲労増加率は支持なしの方が高かった。【考察】 胸郭下支持ありの場合、支持部より上部体幹を抗重力支持することで腰椎への重力負担を軽減したのではないかと考える。そのため、最大荷重点の仙骨部への偏移が減少する傾向を示したと推察する。また支持ありの場合、胸郭と支持部より上部の背もたれ面に空間的余裕ができ胸郭運動が行いやすくなり、動きの自由度を引き出せたのではないかと考える。また上部体幹動作に余裕が生まれたことから第4頸椎の位置に多様性がみられたと考える。呼吸機能では男性において支持なしの場合、有意に一回換気量の増加、肺活量の低下がみられていたが、支持ありの場合には有意差はみられなかった。これは支持により胸郭を含む上部体幹を胸郭直下付近において抗重力支持することで体幹部の筋活動を拘束しなくなり、呼吸筋の疲労も減少したためと考える。疲労度に関しては支持ありの場合、仙骨部での荷重偏移が減少したことや、下位頸椎から上位胸椎にかけての形状に多様性がみられたことから個々に安楽な姿勢をとりやすくなったと考えられ、さらに呼吸機能についても呼吸筋群の動作自由度に与える影響が少ないことから疲労増加度が低くなったと考える。【理学療法学研究としての意義】 今回の実験で、健常者において胸郭下支持を入れることは仙骨座り、呼吸機能、疲労増加度に対し良い影響を与えることがわかった。胸郭下支持を明確にしたシーティングアプローチを行うことは、不良姿勢や呼吸機能の改善、さらに継続的姿勢保持機能を向上させるだけでなく上肢機能をより引き出したり、ADL拡大の効果等も期待できると考える。
著者
前野 里恵 石田 由佳 金子 俊之 森川 由季 井出 篤嗣 高橋 素彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【目的】疥癬に罹患している患者が入院治療と理学療法介入に伴い,医療従事者へ感染伝播した事例を通して,感染管理室とリハビリテーション部の感染対策について報告する。【方法】高齢女性 平成26年1月上旬 自宅で転倒受傷して入院 診断;恥骨骨折 既往歴;疥癬の診断なし 入院時,全身に掻痒性皮疹 他院で処方されたリンデロンを外用したが,皮疹が拡大した。ADL;食事以外全介助 入院前生活:自宅内杖歩行自立 屋外車いす利用 要介護2 入院5日目 リハビリテーション科併診 理学療法開始 入院4週1日目 皮膚科併診 腋窩の小膿疱より疥癬虫ヒゼンダニ1匹を検出し,通常疥癬と診断 オイラックス外用薬とストロメクトール内服治療開始 主治医,看護師長と感染管理室へ連絡 接触した医療従事者の感染対策開始 入院2.5ヶ月目 患者転院 病棟の最終発症者治癒 担当理学療法士の両上肢と腹部に発疹と掻痒感出現 入院3ヶ月目 近医皮膚科受診し,外用薬処方で経過観察 入院4ヶ月目 理学療法士の皮膚症状増強し,当院皮膚科受診 疥癬虫未検出 入院5ヶ月目 疥癬虫検出診断 治療開始 入院6ヶ月目 治癒 治療終了【結果】1.感染管理室の指導・対応 ①患者基本情報の収集:入院前後の皮膚の状況,生活状況 ②接触者調査:関係部署に情報提供し,患者の同室者,接触した職員に自己申告依頼 接触者は,同室の患者5名と担当理学療法士1名を含めた医療従事者56名で,同室者の発症はなかった。患者の診断日から17日間に手部~腋窩に発疹や掻痒などの皮膚症状があった発症者は看護師9名。③初期対応の指導:患者個室隔離,標準予防策の徹底,手袋と1患者1手洗い,肘以遠の手洗いとエプロンかガウン着用を強化,同室者患者と接触職員の症状の観察強化,症状発生時の速やかな感染管理室報告と皮膚科受診 ④職業感染;受診費用病院負担 労働災害申請 ⑤有症状者の発生対応;発症者の把握 就業制限の対象者と期間決定 予防投与検討 勤務は,確定診断までと内服翌日から勤務許可とし,確定診断後の投与後24時間までは休職。予防投与は担当理学療法士1名を含めた47名。2.担当理学療法士とリハビリテーション部の対応 ①発症原因の確定;疥癬を伝播するリスクと症状発生時期の一致 ②接触者の調査;理学療法士と接触した入院と退院患者を対象に,時系列に接触頻度や期間,皮膚症状について調査選定 ③接触者へ説明:入院患者は直接,本人や家族に説明,退院患者は説明書を郵送 担当した患者は117名で,発症の疑いのある患者は観察やカルテ所見調査から43名に絞られた。その内,問い合わせと受診対応があったのは,入院患者2/13名中,退院後患者1/30名中であり,最終的に疥癬は否定。④症状発生者の受診や投薬の費用に関する調整:連絡対応は感染管理室,受診対応は皮膚科 受診費用病院負担 ⑤リハビリ部の対応:疥癬の知識習得と場所を病棟に替え,標準予防策 手袋と長袖の勤務服着用,治療の過程での直接接触を避けた治療方法の立案,順番は最後。移乗介助などに必要な濃厚接触をする場合は標準予防策とガウン着用。職場の混乱を避け,過剰な感染対策の防止 心理的支援など。他の患者のリハビリ治療は,直接皮膚接触禁止,濃厚接触を必要とする患者,易感染者や小児の担当を中止。理学療法士自身も常に身体の位置や症状を意識しながら行ない,疑わしい場合は速やかに感染管理室へ報告する体制にした。【考察】感染管理マニュアルでは,入院時から感染疾患の疑わしい患者は,感染症と診断がつく前から拡大する可能性があるので,入院時から感染予防対策が必要である。その対策は臨床症状で,疑いの時点から「伝播を防止する」ことを目的として,1例の発生で感染管理室への報告を義務付けている。しかし,その疑いの目は正しい知識の下で成り立つものであり,疥癬の特徴,感染伝播のリスクについての職員教育は重要である。今回,入院時から皮膚症状が確認されていたにも関わらず,感染管理室へ報告及び皮膚科の受診に1ヶ月も時間がかかり集団発生へ発展した。また,一般的に直接接触以外は,標準予防策で対応可能とあるが,担当理学療法士は標準予防策を講じ,さらに予防投与後も発症したことから,予防着も必要である。原因として手袋と勤務服との境目の皮膚露出,介助時の密着や衣服へのダニの付着などが推察された。しかし,最善は治療開始時から皮膚の状態の観察,報告,対策をして自分自身も注意を払うことが確実である。【理学療法学研究としての意義】理学療法分野における感染症関連の報告は乏しく,この報告が感染対策の一助に成り得る。
著者
久保下 亮 赤坂 美奈
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101358, 2013

【はじめに】障害者スポーツにおいて,スポーツ医学的技術論に関する情報より選手の健康管理の側面からの議論が多くなされている。近年,障害者スポーツではパラリンピックを代表として競技スポーツとしての位置付けが大きくなってきている。すなわち競技力を高める指導や練習方法が必要となっている。今回は,数多くある障害者スポーツの中からスプリント系の車椅子走行速度に着目した。以前より,車椅子走行速度に大きく関わる筋として上腕三頭筋や三角筋が挙げられている。また,バスケ用車椅子でのスタートダッシュ時,リアキャスターが床に接触することでタイムロスを起こしているとの発表もある。この大きな原因の一つに,スタート時の体幹コントロールの不良が挙げられている。そこで体幹のコントロールだけでなく,体幹筋力も車椅子走行速度に影響を与えているのではないかと思い検討した。【方法】対象は,研究内容を説明し同意を得た健常男子大学生15名,平均年齢21.4±0.3歳,平均身長174.6±5.3cm,平均体重69.0±8.4kgである。まず,対象者にバスケ用車椅子(松永製作所 B-MAX TK)に慣れてもらうため室内にて30分程度の自由乗車時間を設定した。その後,休息を挟み10m,20mの直線直進の全力走行とスタート地点から10m離れたところに目印としてコーンを置き,この目印をターンしてスタート地点まで戻ってくる10mターン走行をしてもらった。次に,1週間の間を取り体幹の屈曲・伸展筋ピークトルクの測定とその他身体測定(身長,体重,上肢長,握力)を行った。体幹の屈曲・伸展筋ピークトルクの測定にはBIODEX SYSTEM3を用いて行った。角速度は30°/secで反復回数を5回とした。 統計学的分析は10m走,20m走,10mターン走,体幹の屈曲・伸展筋力ピークトルクのそれぞれの関連性についてSpearman順位相関係数を用いて比較検討した。有意水準は5%未満とした。【説明と同意】 被験者にはヘルシンキ宣言に則り,研究の目的や手順を口頭と紙面にて説明し署名による同意を得た。なお,本研究は国際医療福祉大学倫理審査委員会の承認を得て実施した。【結果】身体測定の平均は,伸長174.6±5.3cm,体重69.0±8.4kg,右上肢長58.1±2.4cm,左上肢長58.0±2.1cm,右握力47.5±7.1kg,左握力44.7±6.3kgであった。走行速度の平均は,10m走が4.7±0.4秒,20m走が7.8±0.8秒,10mターン走10.8±1.0秒であった。体幹の屈曲・伸展筋力ピークトルクは体幹屈曲309.0±71.1Nm/kg,体幹伸展419.5±103.0Nm/kgであった。体幹筋力と車椅子走行速度との相関関係は,体幹屈曲力に対しての10m走(ρ=0.65),20m走(ρ=0.45),10mターン走(ρ=0.33)は共に正の相関を認めた。体幹伸展力に対しての10m走(ρ=0.62),20m走(ρ=0.58),10mターン走(ρ=0.43)は共に正の相関を認めた。【考察】車椅子走行時のスタートダッシュには体幹筋力が必要不可欠と考えていた。理由として,車椅子駆動開始時には体幹を大きく屈曲させ,この時に生み出される前方への回転モーメントを車椅子の推進力の一つに利用している。よって,より大きな推進力を得るためには体幹の強い屈曲力が必要であると思われる。今回の研究結果からは,走行速度と体幹筋力との相関関係が認められた。このことは,車椅子走行時のスタートダッシュには体幹筋力が少なからず必要であることを意味している。先行研究では,走行速度を上げるためには実質駆動時間を長くすることと,駆動角速度を速くする必要があると示している。また,車椅子バスケや車椅子テニス,車椅子の短距離走のように初動の影響を大きく受けてしまうようなスプリント系の障害者スポーツでは,スタートダッシュ時に体幹筋力だけでなく体幹のコントロール性も要求される。更に10mターンにおいては,ターン時に急激なブレーキと旋回能力,そして瞬発的な加速力といった複合的なチェアワークが必要である。よって,今後,障害者スポーツでのパフォーマンス向上のためには,筋力や体幹のコントロール性,チェアワークといった複合的な要素についても調べて行く必要がある。【理学療法学研究としての意義】今後,車椅子を使用した障害者スポーツにおいて車椅子の操作性を高めるためのトレーニングに一考として活用できるものと考える。
著者
今井 一郎 原 久美子 有馬 和美 福室 智美 田中 博 菅谷 睦
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.E1676, 2008

【はじめに】<BR> 臨床現場において脳卒中患者から標準型2輪自転車(以下自転車)に乗りたいという希望をよく聞く.2年前に実施したアンケート調査から,脳卒中発症後自転車を利用しなくなった人の約7割が自転車に乗りたいと回答し,自転車乗車のアプローチの必要性を認識できた.今回は健常者と脳卒中患者に自転車動作の観察と体力テストを行い自転車動作の機能を検討した.<BR>【対象】<BR> 普段自転車に乗車している健常成人23名(男性7名,女性16名,平均年齢44.9歳)と,脳卒中の既往があり屋外歩行自立の 3名(症例A:74歳男性,右小脳梗塞,Br.stage左右上肢手指下肢全て6,症例B:81歳女性,多発性脳梗塞,Br.stage左上肢手指下肢全て5,症例C:74歳男性,右脳梗塞,Br.stage左上下肢3手指5)とした.対象者には本研究について説明し同意を得た.<BR>【方法】<BR> 自転車動作は,走る(ふらつきを観察)・止まる(目標物の手前で止まる,笛の合図で止まる)・曲がる(ふくらみを観察),体力テストは握力・上体起こし・長座体前屈・開眼片足立ち(最高120秒)・10m障害物歩行・6分間歩行を実施した.症例BとCは自転車乗車前に前提動作として,スタンドをしてペダルを回す・片足での床面支持・外乱に対してブレーキ維持を実施した.<BR>【結果】<BR> 前提動作で症例Cは全て不可能であったため体力テストのみ実施した.自転車動作の観察では,健常者12名と症例Aで走行時ふらつきがみられた.症例Bは走行時ふらつきの観察まではペダルに両足を乗せることができなかったが,以降の止まるからはペダルを回すことが可能となった.止まるは健常者・症例共,目標物手前で止まることができ,笛の合図では健常者・症例共,同様の停止距離であった.曲がるは症例A・Bにふくらみがみられた.体力テストでは,症例全員が6分間歩行,症例B,Cは上体起こし,Cは10m障害物歩行が困難であった.実施できた項目も健常者と比べ低下していた.健常者の自転車動作と体力テストの関係では,開眼片足立ち120秒可能者の割合が,走行時ふらつきのあった群で41.7%,ふらつきのなかった群で100%となった.<BR>【考察】<BR>関根らは高齢者に10日間1日2回片足立位訓練を行い片足立位時間の延長と自転車運転動作の向上を報告し,自転車動作についてのバランス感覚の重要性を指摘している.今回は片足立位時間と自転車走行時のふらつきに関係がみられた.これらのことから片足立位バランスと自転車動作に関係があると考えられる.症例Cは重度の左上下肢の随意性低下と感覚障害があり,それが前提動作を困難にしたと推察され,自転車動作には四肢の分離運動機能や協調運動機能が重要と考えられる.小村はBr.stage上下肢4の脳卒中患者が3輪自転車のペダルを改良し乗車していると報告しており,症例Cも同様の方法による乗車の検討が考えられる.また症例Bは途中から走行が可能となったことから,練習での乗車能力の改善が示唆された.
著者
蒲原 元 中井 一人 伊藤 藍 三浦 由美 大原 弘樹 安藤 祐一 丹羽 貴之 新村 友夏 江﨑 雅彰
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【目的】我々は平成17年より通院患者を対象に腰痛教室を定期的に開催し,平成24年度からは地域の方々を対象に豊橋市生涯学習講座の一環として当法人近隣の地区市民館で教室を開催してきた。第29回東海北陸理学療法学術大会において,我々の教室が参加者に分かり易い内容で腰痛予防の情報を提供できているか,アンケート調査の結果報告を行った。その際の結果は,教室内容に対して分かり易いが97.4%であった。そこで26年度は教室内容に対して参加者がどれくらい理解出来ているかを把握する為,教室直後に復習テストを行い調査する事とした。【方法】教室の基本方針は"生活の中で楽に腰椎の生理的前弯位を保持する"とし,内容は基礎知識,日常生活指導,運動指導の3パートで構成している。復習テストは教室で講義した内容を問う全5問とし,腰の負担が少ない姿勢について文章から正しいものを選択する問題,写真から選択する問題を各1題,日常生活での注意点についての記述問題,日常生活上で骨盤中間位を保つ為の工夫についての記述問題,どのような症状の際は病院を受診すべきかを選択する問題をそれぞれ1題とした。【結果と考察】5つの地区市民館で教室を開催し,合計参加者数301名,回収率94.0%,全体正解率89.1%。各設問の正解率は,腰の負担が少ない姿勢の文章問題94.7%,写真問題97.9%,日常生活の注意点について85.5%,日常生活の工夫について84.1%,受診すべき症状について83.4%であった。全体正解率は89.1%であり,参加者が教室内容を概ね理解していると考えられた。参加者に対し分かり易く,内容を理解してもらえる教室が行えていると思われる為,今後は教室を行う事で得られる効果を客観的に評価していきたい。そして,復習テストの点数と客観的評価の結果から,正解率の適正水準や,どの項目が効果と関係するか等を検証していき,より効果的な教室作りにつなげていければと考えている。
著者
紙谷 司 上村 一貴 山田 実 青山 朋樹 岡田 剛
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.EbPI2415, 2011

【目的】<BR> 高齢者の活動範囲を拡大し、活動量を増やすことは運動機能、認知機能の維持・向上に寄与する。このため、自宅退院後の疾患患者や地域在住高齢者の活動範囲を可能な限り確保することは重要な課題と言える。活動範囲の拡大には、屋内に比べ圧倒的に外的要因の増える屋外環境を転倒や事故を起こさないよう安全に移動する自立歩行能力が必要不可欠となる。そのような活動内容の一つとして道路横断行為が挙げられる。この活動を安全に行うためには道路を転倒することなく安定して歩行できる能力を備えているだけでは十分とは言えない。自己で車の往来を視覚的に確認し、安全に横断可能なタイミングを瞬時に判断する能力が必要となる。本研究では、地域在住の高齢者を対象に歩行シミュレーターによる道路横断疑似体験を実施し、高齢者の道路横断行為について分析を行った。本研究の目的は道路横断中の安全確認行為という要素に着目し、非事故回避者の特徴を明らかにすることで、屋外自立歩行者に要求される能力的要素を検証することである。<BR>【方法】<BR> 対象は京都府警察が実施した交通安全教室にて歩行シミュレーターを体験した地域在住高齢者525名(平均年齢74.3±6.0歳)とした。使用したのはAPI株式会社製のシミュレーターで、三面鏡様に組み立てたスクリーン上に片側一車線の道路及び通行車両が映し出される。体験者はスクリーン前のトレッドミル上を歩行することで歩道から奥車線を通過するまでの道路横断を疑似体験することができる。体験者の頭頂部には6自由度電磁センサーLiverty (Polhemus社製)を装着し、水平面上の頭部の運動学的データから左右の安全確認回数、時間を測定した。なお、安全確認とは30°以上の頭部回旋を1回の確認と定義し、この動作を行った延べ時間を安全確認時間とした。解析対象は奥車線到達までの歩道及び手前車線での右・左各方向への安全確認行為をとした。対象者は事故回避の可否と事故遭遇地点から事故回避群、手前(車線)事故群(右側から向かってくる車と接触)、奥(車線)事故群(左側から向かってくる車と接触)に分類した。統計処理にはMann-WhitneyのU検定を用い、事故回避群と手前事故群、奥事故群の各安全確認回数、時間の比較を行った(有意水準5%)。<BR>【説明と同意】<BR> 参加者には紙面および口頭にて研究の目的および方法などに関して十分な説明を行い同意を得た。<BR>【結果】<BR> はじめに確認行為が0回にも関わらず事故を回避している偶発的な事故回避の疑いがある者を除外した496名のデータを統計解析に採用した。496名のうち事故回避群は461名(平均年齢74.5±6.0歳)、手前事故群は20名(平均年齢73.6±6.7歳)、奥事故群は15名(平均年齢71.6±4.7歳)であった。各群の年齢に有意差は認めなかった。事故回避群の歩道での右確認回数、時間はそれぞれ9.1±5.4回、44.2±21.4secであり、手前事故群の6.3±6.8回、29.1±18.5secに対し有意に高値を示した(p<0.01)。また、事故回避群の左確認回数は歩道7.9±5.6回、手前道路2.4±2.3回、確認時間は27.9±20.0secであり、奥事故群の確認回数(歩道8.9±6.3回、手前道路2.7±2.2回)、確認時間29.6±21.6secと有意差を認めなかった(確認回数 歩道p=0.53、手前道路p=0.46、時間p=0.95)。<BR>【考察】<BR> 手前車線での事故に関しては、手前事故群は事故回避群に比べ歩道での右確認行為が回数、時間ともに有意に少なかった。したがって右方向を十分に見たという行為が事故回避に繋がったと考えられる。しかし、奥車線での事故に関しては手前車線まででの左確認回数、時間ともに事故回避結果に影響を及ぼさなかった。つまり左方向を十分に見ていたにも関わらず事故を回避できなかったことになる。これは奥車線の安全確認は手前車線を歩行しながら行わなければならないという運動条件の付加による影響が考えられる。つまり、奥事故群においては、歩行という運動課題に注意配分が奪われることで、視覚での確認行為、または情報処理の過程に影響が及び、誤った状況判断に繋がった可能性が考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 今回は道路横断という屋外活動での一場面について検証したに過ぎないが、運動課題中の視覚認知、状況判断能力が屋外を安全に移動するために重要な要素である可能性が示唆された。したがって、通常の歩行訓練にこのような要素を付加することがより実践的であると考えられる。高齢者の活動範囲の拡大に向けて、理学療法学領域において運動時の視覚について更なる検討を行う意義は大きい。
著者
鈴木 里砂 宮下 正好 内田 成男
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【目的】理学療法教育において,臨床実習成績評定は施設間格差や妥当性について問題となることがある。また,実習中は学内と環境が変化し,学内の様子だけでは予想がつかなかった困難にあたることもある。我々は,学生の実習不安についての研究を実施してきたが,実習中の学生が持つ不安の原因に個々の学生のパーソナリティや自己教育能力に関連がある可能性を指摘してきた。今回,実習成績と,指導者による印象評定,学内成績,学生の自己教育能力との関連について検討し,臨床実習成績と学内成績との関連性を明らかにし,臨床実習での成績不良の危険因子を探ることで,学内において早期に学生の学外教育時の問題を明確化し対策を行うため,調査を実施したので報告する。【方法】対象は3年制理学療法学科2学年の学生54名であり,臨床評価実習(4週間実施)終了後,初登校時にアンケート調査を実施した。アンケート調査は,自己教育能力尺度として自己教育力調査票(Questionnaire Concerning Self-educational Ability)を利用し,成長・発達への志向,自己の対象化と統制,学習の技能と基盤,自信プライド安定性の4つのカテゴリー得点を算出した。学内成績に関しては,2学年の総合成績としてGPA(Grade Point Average)4.00を満点とした場合の割合で80%以上のものをA,70%以上のものをB,60%以上のものをC,それ以下をFとして分類し数量化した。また,当該校では臨床実習成績として情意面10項目,基本技能5項目,検査測定技能9項目,思考過程4項目,認知領域4項目,記録4項目の36項目についてそれぞれ4段階(A,B,C,F)で評定されたものを4,3,2,0点で数値化した合計点とし,最終的に80%の得点率のものをA,70%以上のものをB,60%以上のものをC,それ以下をFと規定しており,これを臨床実習評定として利用した。また,臨床実習指導者の主観により学生の全般的な印象を適正や将来性も含めをA,B,C,Fの4段階で評定しており,これを印象評定として数値化し利用した。分析は,統計ソフトMulcelを使用し,外的基準は対象者の臨床実習4週終了後の実習成績,印象評定とした。群判別するために多変量解析の数量化II類を用いて臨床実習成績に影響を与える因子の重さを求めた。【結果】数量化II類にて 外的基準を臨床実習成績とした結果は,相関比は0.9621(第1軸),レンジが広い順に,学内成績(偏相関係数,レンジ:0.9752,6.851),自信プライド・安定性(偏相関係数,レンジ:0.9181,4.027),成長・発達への志向(0.9451,3.325),自己の対象化と統制(0.9419,2.90),学習の技能と基盤(0.9124,1.831)の順であった。また,外的基準を印象評定とした場合は,相関比は0.7702(第1軸),レンジが広いアイテム順に,自信プライド・安定性(偏相関係数,レンジ:0.8237,5.009),成長・発達への志向(0.7434,4.770),自己の対象化と統制(0.7932,2.4859),学習の技能と基盤(0.7238,1.822),学内成績(偏相関係数,レンジ:0.4659,1.652)の順であった。【考察】当該校では,指導の種類・頻度によって基準を明確化し32項目での評定を行うように依頼している。この成績評定方法は学内成績との関連が高いことが明らかとなった。学内成績と臨床実習成績の乖離を防止するためには,臨床実習指導者会議にて細項目の成績判定基準を明確化し,各施設での評定の均一化を実施していくことが有効であると示唆された。また,指導者の印象評定との関連は,学内成績よりも,自信プライド・安定性,成長・発達への志向の方が強いと考えられた。自信プライド・安定性は,理学療法士として職務に取り組むための適正を示す指標と考えられる。また,単独で臨床実習施設で取り組むことが多い臨床実習の形態では,やる気を示すことが重要で指導者はこれらを主に評定基準として重要視している可能性が認められた。学内教育においては,成績評価を筆記試験のみでなく,実習授業での行動観察を加味し,学生の志向を適正に反映することで,早期に臨床上での学生の問題点を明るみにすることが可能であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】臨床実習の成績評定は,基準を明確化することで学内教育との解離を防ぐことができることが示唆された。また,臨床での適正を教育するには学外教育に移行するまでに早期に学生の成長志向を育むことが重要であることが示唆された。
著者
大杉 紘徳 横山 茂樹 甲斐 義浩 窓場 勝之 村田 伸
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】現在,わが国のみならず世界中で実習施設の確保が教育運営上の課題となっており,新たな臨床実習形態の検討がなされている。その一つとして,一施設に対して二人の学生を配置する実習形態(複数型)がある。従来では,一施設に対して一名の臨床実習学生を配置し,一名の臨床実習指導者の指導を受ける(単独型)が,複数型では,一施設に対して二名の臨床実習学生を配置し,一施設内で二名がそれぞれに臨床実習指導者の指導を受ける。我々は先行研究において,単独型と複数型で,実習前後の気分・感情尺度の変化を比較した。その結果,単独型と比べて,複数型では実習中の精神的ストレスが高いことが明らかとなったが,その要因の検討までには至らなかった。そこで本研究では,単独型と複数型の臨床実習形態の違いが,臨床実習前後の学生の気分・感情状態に影響を与えた要因について,実習後に行った学生へのアンケート結果から検討した。【方法】対象は,検査・測定実習(3月上旬実施,実習期間10日間)を実施した理学療法学科2年次生45名(平均年齢19.3±0.5歳,男性23名,女性22名)とした。実習施設配置は,臨床実習施設として登録されている施設に対して複数型臨床実習の実施を依頼し,承諾の得られた11施設(22名)を複数型実施施設とし,その他23施設(23名)を単独型実施施設とした。測定項目は,気分・感情状態の評価指標であるProfile of Mood States短縮版(POMS-SF)と,筆者らが作成した臨床実習についてのアンケートとした。POMS-SFの回答から緊張,抑うつ,怒り,活気,疲労,混乱の下位尺度得点を算出し,さらに下位尺度得点を用いて全体的気分を算出した。POMS-SFの測定は,臨床実習開始1週間前(pre)と,終了翌週の初登校日(post)に,「過去1週間の気分」について回答させた。臨床実習についてのアンケートは,先行研究を参考に作成し,15の質問項目に対して,5件法にて回答させた。アンケート得点は負の感情ほど低得点となるように設定した。アンケートはPOMS-SFのpost測定と同日に行った。統計学的解析は全て有意水準を5%とした。POMS-SFの下位尺度得点ごとに,preとpostおよび単独型と複数型について,二元配置分散分析とLSD法による事後検定で比較した。また,アンケートの各質問項目およびアンケート合計点について,単独型と複数型でMann-WhitneyのU検定を行った。【結果】二元配置分散分析の結果,緊張(F(1,42)=31.0,<i>p</i><0.01),疲労(F(1,42)=4.4,<i>p</i><0.05),混乱(F(1,42)=6.9,<i>p</i><0.05),全体的気分(F(1,42)=6.2,<i>p</i><0.05)に交互作用を認め,事後検定の結果,全てにおいて,複数型のpostの値が単独型のpostの値よりも有意に高値を示した(全て<i>p</i><0.05)。アンケート結果の比較では,「施設スタッフとの関係」およびアンケートの合計点で,複数群が単独群よりも有意に低値を示した(ともに<i>p</i><0.05)。【考察】一施設に一名を配置する単独型と,一施設に二名を配置する複数型で,実習前と実習中の気分・感情状態の変化を比較するとともに,実習に関するアンケートの差異について検討した。結果,複数型の方が単独型よりも実習によって緊張,疲労,混乱の気分・感情が高まるとともに,施設スタッフとの関係が良くなかったと回答する学生が多かった。我々は,臨床実習を複数型で行う利点として同級生とともに実習を行うことによる安心感や精神的ストレスの軽減を見込んでいたが,本研究の結果はこの仮説を支持しなかった。単独型の実習では,同級生がいないため,情報収集や相談の相手が必然的に実習施設のスタッフとなる。一方,複数型の実習では,同級生とともに過ごす時間が長くなることにより,実習施設のスタッフとのコミュニケーションの時間が減ったと推察される。そのため,単独型と複数型では実習施設のスタッフとのコミュニケーションに差があったことにより,信頼関係の構築に差が示されたと考えられる。臨床実習におけるストレスの原因として対人関係の問題が最も影響を与えると報告されていることから,施設スタッフと良好な関係を築けなかった複数型の実習では,実習中の学生の緊張や疲労といった負の感情が高まったと考えられる。【理学療法学研究としての意義】臨床実習は理学療法士養成課程における重要なカリキュラムである。臨床実習中に受ける学生のストレスは非常に強く,その対応についてはこれまでに数多く検討されてきた。本研究結果は,今後の理学療法養成課程における臨床実習形態について検証した有意義なものと考える。
著者
藤田 誠記 大浪 徳明 宮本 弘太郎 鬼塚 由大 池田 さやか
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに】質の高い保健医療福祉サービスを確保し,将来に渡って安定した介護保険制度を確立することを目的として,2014年4月の診療報酬改訂と同時に地域包括ケアシステムが施行された。地域包括病棟または病床では,入院期間を60日とし,リハビリテーション(以下,リハ)を,1人一日平均2単位以上提供すること,在宅復帰率70%以上が必須とされている。当院でも,平成28年10月地域包括病床を開設した。運営の中で,問題点も浮き彫りになってきた。開設準備から現在を振り返り課題も見えてきたのでここに報告する。</p><p></p><p>【当院の現状】当院では,循環器医師を兼任のリハ科Drとし,理学療法士3名・作業療法士2名・言語聴覚士1名で地域包括病床を含め199床の入院患者のリハを実施している。平成28年7月から地域包括病床の施行期間に入り,同年10月男女4人部屋を一部屋ずつの計8床で開設した。リハ科では,専従理学療法士を1名配置した。</p><p></p><p>【施行期間から現在を振り返って】看護部 医事科 リハ科スタッフの代表者が集まり,運営会議を開催した。対象患者の選定,院内の医局や他部門への周知,地域包括病床へ転棟してくる場合や転棟するタイミング,対象となる患者への説明の仕方,準備書類など9月から週1回のペースで話し合ってきた。医局からの出席はなく地域包括病床対象患者の選定が上手く進まなかった。</p><p></p><p>【リハ科の算定実績とその周辺】地域包括病床への入院患者については,7月6名,総単位数161単位・入院日数61日,院内全体の看護必要度28.9%。8月7名,総単位数260単位・入院日数90日,院内全体の看護必要度24.1%。9月8名,総単位数279単位・入院日数138日。地域包括病床からの転帰については,7月から9月末日までで,自宅退院者36例,自宅扱い病院・施設3例と,在宅復帰率100%であった。</p><p></p><p>【今後の課題】施設基準を満たし,10月から開設となったが,地域包括病床の対象となる患者を運営会議で選定する際,看護必要度を維持するための患者選定になっている。そのため,リハの必要性は問わず,看護必要度の低い患者が優先されている状況である。また,地域包括病床の患者は,状態が急変したり,リハ拒否が続いたりしても地域包括病床から退室しない限りは,1人一日平均2単位の影響を受け,地域包括病床のリハ対象者の単位数を常に気にかけていなければならないし,他の病棟の患者へのリハ提供の不均衡が生じている。他部門への上記の理解が急務だと考える。</p>